タイトル:出現! 幻のキメラマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/02/17 18:09

●オープニング本文


●ラスト・ホープ〜UPC本部
 本部施設の一角にあるここULT(未知生物対策組織)のコールセンターには、今日もバグアの魔手に脅かされた一般市民からのSOSが、世界各地からひっきりなしに送られてくる。

『助けてくれ! 街外れの工場跡にキメラが出たっ!』
「はい。では現場の詳しい住所をお願いします」
 配属されてはや3ヶ月。そろそろ仕事にも慣れてきた若い女性オペレーターは、マニュアルに従い通報者からの情報を素早く端末に入力した。
「出現したキメラはどんなタイプですか? 判る範囲で結構ですからお願いします」
 電話の向こうの通報者が、なぜか一瞬押し黙った。
『どんなって‥‥キメラはキメラだぞ?』
「いえ、ですからどんなキメラか、その特徴を‥‥」
『だからキメラだって言ってるだろ! あんた、ふざけてんのかよ!?』
「え? え? あの‥‥」
 いきなりキレた相手に怒鳴りつけられ、新人オペレーターは半泣きでうろたえる。
「ちょっと、大丈夫? 私が代るわ」
 見かねた先輩オペレーターが、慌てて電話口に出た。
「どうも、誠に失礼を致しまして‥‥ええ、ハイ。ハイ。まったくもって申し訳ございません。今後はいっそう新人教育にも力を入れるべく――」
 ULTへ転職前は某メガコーポのサポートセンターに務めていたというベテランオペレーターは、さすがに慣れた口調で興奮する通報者をなだめ、改めて相手からキメラの詳しい特徴を聞き出していった。
「大きさは2mくらい‥‥四つ足のライオンみたいな格好で‥‥尻尾が蛇? ははあ、それは確かに『キメラ』でございますわねえ」

 やがて電話を終えた先輩は、デスク上の資料から「世界の神話・伝説大辞典」なる分厚い書物を取り上げ、まだ状況の飲み込めない後輩に見せた。
「あなた、もっと勉強なさい。あの人が報せてきた『キメラ』は、たぶんこいつよ」
 開かれた頁には、ライオンのような胴体の脇からもう1つ山羊のような頭を生やし、尻尾の先が蛇の頭となっている異様な怪物のイラストが描かれていた。
 ――すなわち、ギリシア神話に登場する「キメラ(キマイラ)」そのものである。
「ええっ? キメラって‥‥バグアの生物兵器全般の名称じゃなかったんですか?」
「今はそういうことになってるけどね。でも、大元の語源はこの怪物からよ」
「でも、なぜでしょう? 神話の怪物なんて、他にいくらでもいるのに‥‥」
「一般的なイラストじゃこうなってるけどね。実はキメラの姿には色々な説があって、『3つの生き物が合体した様な怪物』という以外はっきりした事が判らないのよ。だから20世紀には遺伝子工学で作り出された合成生物の俗称としても使われて‥‥そのあたりから転じて、バグア生物兵器の象徴になったんでしょうね」
 似たような例としては日本に「鵺」という妖怪がいる。こちらもはっきりした姿形がよく判らないことから「実体が曖昧なモノ」の代名詞として使われているほどだ。

「えーっ、『キメラ』のキメラが出たんですかぁ〜?」
「ホントかよ? 俺ここに来て1年だけど、初めて聞いたなあ」
 2人の会話を聞きつけた同僚のオペレーター達が、興味深そうにわらわらと集まってくる。
「でも‥‥妙な話ですよね。『キメラ』って名前はこんなに広まってるのに、肝心の『キメラのキメラ』が滅多に現れないなんて」
「ほら、よくあるじゃん? 漫画や小説なんかでも、タイトルロールの主人公よりサブキャラの方が妙に人気が出て‥‥長く続いてると、いつの間にか主役が交代してたりな」
「あるある! 全巻読み終えてから改めて1巻の表紙見て、『こいつ誰?』なんて」
「タイトルそのものが変わったり‥‥」
「ヒロインは『萌え〜ッ!』なのに主人公は顔さえ出てこなかったり‥‥」
「おまえ、それギャルゲーのやり過ぎ」
「やっぱりキャラ立ちって大切ですよね。設定上は主人公でも、キャラが地味だとあっという間に単なる解説役に‥‥」
「いや。いっそ解説役に徹した方が、登場枠があるだけマシじゃね?」
 何やら、話がどんどん斜め上の方向にズレていく。
「地味っていえば‥‥あたし達オペレーターもそうですよね。ULTの広報誌で紹介されたり、イベントの時イメージキャラクターに使って貰える様な人達は別にして‥‥」
「‥‥」
「‥‥」
 いきなりどよ〜んと重い沈黙が一同を包み込んだ。
「――ちょっとあんた達! 何ボヤっとしてんの? 仕事に戻んなさい!」
 ハッと我に返った先輩オペレーターが、パンパン手を叩いて怒鳴る。
 ちなみにこの人の名前は――
 ‥‥知らねえ。

●UPC本部〜斡旋所
『キメラのキメラを退治してください』
 本部内のモニターに表示された依頼内容を見上げて、ヒマリア・ジュピトル(gz0029)は不思議そうに小首を傾げた。
「‥‥なに、コレ?」

●参加者一覧

スコール・ライオネル(ga0026
25歳・♂・FT
翠の肥満(ga2348
31歳・♂・JG
ラルス・フェルセン(ga5133
30歳・♂・PN
ヴァシュカ(ga7064
20歳・♀・EL
イーリス(ga8252
17歳・♀・DF
御神・夕姫(gb3754
20歳・♀・GP
月島 瑠奈(gb3994
18歳・♀・DF
シルヴァ・E・ルイス(gb4503
22歳・♀・PN

●リプレイ本文

「今回はよろしくお願いしま〜す☆」
「あり? どうしてあなたがここに――あ。もしかして今回の依頼、始めから同行してくださる予定、だった?」
 一足先に廃工場の入り口前で待っていたヒマリア・ジュピトル(gz0029)の姿を目にして、翠の肥満(ga2348)は少し驚いたように声をかけた。
「し、失礼、てっきりオペレーターの方かと思っていて、まさかご同業だったとは‥‥」
「実はあたしが最初の参加者だったもんで、オペレーターさんから代役を頼まれちゃったんですよー」
 依頼とは直接関係ないが、いまL・Hは例の『バレンタイン中止のお知らせ』に端を発した論争が全島を挙げたバカ騒ぎ‥‥もとい傭兵同士の模擬戦イベントにまで発展し、ULTの一般職員もそちらの対応で大忙しらしい。
 ただし御神・夕姫(gb3754)の様に、初対面だがヒマリアの事を知っている者もいた。
「ヒマリアちゃん、あなたのことは親戚から聞いてるわ。私はまだ経験も少ないけどよろしくね」
 同じ能力者である「親戚」の名を聞いたヒマリアはポンと手を打った。
「あ〜、あの方ですね? いつもお世話になってます♪」
 嬉しそうにいいながら手にしたコンビニ袋をごそごそ取り出し、
「今年は何だかみょーなVデーになっちゃいましたけど‥‥あ、コレ、よかったら仕事の後にでも召し上がってくださいね〜☆」
 と、参加メンバー一同に板チョコを配るヒマリア。

 顔合わせの挨拶を済ませた一同は、早速キメラのキメラ‥‥厳密には「キメラ型キメラ」が目撃された廃工場の敷地内へと踏み込んだ。
 工場の周囲は一応フェンスで囲まれ「立ち入り禁止」の看板もあるのだが、閉鎖以来十年以上も経つとあって、金網の所々が大きく破け看板もサビだらけだ。
「キメラのキメラ‥‥あー、確かに今まで聞いたこと、ありませんね〜。貴重な体験と言うのはー、避難されてる方に申し訳ありませんがー、珍しいものは珍しい訳で〜」
 ラルス・フェルセン(ga5133)がおっとりした声でいえば、
「王道ゆえに外されたのか、ビジュアル的に微妙だったから敬遠されていたのか‥‥寧ろ今まで確認されていなかった事の方が驚きでした」
 イーリス(ga8252)もやや意外そうに首を捻る。
「メジャーだからこそ逆に影が薄くなってるのかしらね。能力的にはかなり厄介な事に変わりないけれど‥‥」
 ストレートの金髪を膝まで伸ばした月島 瑠奈(gb3994)が、あまり感情を表に出さぬ淡々とした口調でいう。
「ややこしいからキメラのキマイラで良いじゃねぇか‥‥」
 スコール・ライオネル(ga0026)は面倒そうにぼやいた。
 もっともシルヴァ・E・ルイス(gb4503)のごとく、敵が何者であれ「いつも通りの仕事をこなすだけ」とクールに割り切る者もいたが。
「‥‥ですが、流石元祖とでも申しましょうか、色々と厄介な相手のようです。心して掛かる事にしましょう」
 ラルスは改めて仲間達に警戒を促した。
「原点たるキメラですか。さてさてっ。どう戦いましょうかね〜っ?」
 紫外線防止用のサングラスをちょっとずらし、ヴァシュカ(ga7064)が工場の建物を見上げる。
 通報内容を信じる限り、敵のキメラはライオンの体にもう1つ山羊の頭を持ち、しかも尻尾が蛇になっているという。神話の「キメラ」そのままに3身1体の合体生物だが、これは「3方からの攻撃に同時対処できる難敵」と考えて間違いないだろう。
 ヴァシュカは本部から提供された工場の見取り図を広げ、他の傭兵達も覗き込んだ。
 工場の大きさは日本の小中学校の体育館くらい。
 出入り口は何カ所かあるが、中型キメラほど大きな生物が出入りできるとすれば、北側の一角にある資材の搬出口と思われる。
 元は精密機械の組立工場だったという構内の図面にはベルトコンベアーによる生産ラインを中心に各種機械の配置なども細かく書き込まれていたが、現在どうなっているかは、やはり中に入って見なければ判らないだろう。
「折角の珍キメラだし‥‥映像に撮っとこ」
 一通り武器装備のチェックを終えた翠は、最後にヘルメット側面に装着した【OR】装着式小型ビデオカメラのスイッチをONにした。

 扉が開け放たれた搬出口から屋内に侵入すると、電力供給は完全に停まっているものの、あちこちに穴の開いた天井から差し込む陽光のため、構内はとりあえず行動に不自由しない程度の明るさだった。
「鉄と機械油‥‥懐かしい匂いだな、悪くない‥‥」
「ライオネルさん、こういう場所詳しいんですか?」
 ヒマリアの質問に対し、
「能力者になる前は自分の食い扶持を稼ぐ為に色々やってたからな、一時はこう言う工場で働いてた事もあるぜ」
「そうなんですか〜」
 とはいえ閉鎖から長い歳月を過ぎた工場内部は見る影もなく荒れ果て、一部の機械類や資材、燃料など金目になりそうな物はすっかり何者かに持ち去られている。
 通報した市民も、案外盗みを目的に敷地内に踏み込んだ所で偶然キメラを目撃してしまったのかもしれない。本人は名前を名乗らず電話を切ってしまったそうなので、もはや確かめようもないが。
 だが、一見ガランとした薄暗い廃墟の中に、口では言い表せない異様な緊張が漲っている。姿こそ見せないものの、ここには確かに危険な「何か」がいる――それは能力者だからこそ感じ取れる独特の「気配」だった。
「どこか見晴らしのいいポイントはないかな?」
 スナイパーとしての本能から周囲を見回した翠は、やがて高さ2mほどの大型作業機械に目を付けた。メンテナンス用の梯子で天井に登れば、ちょうど構内全体を見渡せる位置と高さである。
 翠が梯子を上りスナイプ・ポジションに着く一方で、他の傭兵達も各々武器を構え、工場内の捜索を開始した。
 ヴァシュカ、イーリス、瑠奈、ラルスは右回りで。スコール、夕姫、シルヴァ、ヒマリアは左回りで。後方や上方、物陰、死角などに注意しつつ、2つのグループは互いに無線で連絡を取り合いながら索敵を続ける。
「思ったより物陰が多いわ。向こうに入り込んだことが知られているとして行動した方がいいわ」
 と夕姫。
「微妙な大きさというのが、探し難さに拍車をかけてますねぇ」
 覚醒変化で口調の変化したラルスが苦笑する。
 中型キメラともなればだいたい大型猛獣に匹敵する大きさとなるが、一般の野生動物がそうであるように、自分の体が潜り込めるスペースさえあれば予想以上に巧みに動き回れるため、屋内戦闘では特に厄介な相手といえる。
「‥‥んに。どこにいるかな〜? がぉ〜っとか吼えてくれたら楽に見つかるのに‥‥」
 ボソっと呟くヴァシュカだが、夕姫のいうとおり「敵」も侵入者を警戒しているのか、そうそう簡単に現れてはくれないようだ。
「それにしても本当に邪魔ね。これが無いだけでもどれだけ楽なことか‥‥」
 左手に壁のごとくそびえる廃機械の1つを横目に、瑠奈がこぼしたとき。
 音もなく、どす黒い霧のような波動が機械を擦り抜け、彼女を襲った。
「――!」
 あたかも魂を抜かれるかのような悪寒を覚え、とっさにその場を飛び退いた瑠奈はイアリスと天剣「ラジエル」の二刀流で身構えた。
 闇波動。詳しい原理は不明だが、人間や機械から活動の「エネルギー」そのものを奪うといわれる、キメラの知覚攻撃の一種だ。
 異変に気づいた翠がライフルの銃口を向けると、機械の反対側に何か大きな黒い影が蠢いている。
 立て続けにトリガーを引くと、それは素早く身を屈めて機械の陰に潜り込んでしまった。
「チェッ! こうゴチャゴチャした工場の中でっ‥‥狙いづらいったら、撮りづらいったら!」
 舌打ちしつつ、翠は狙点変更のため梯子を降りる。
 その間、やはり瑠奈の通報で集まってきた傭兵達は、闇波動の奇襲を避けるため素早く機械の両側から後ろへと回り込んだ。
 ――いた!
「ホントまんま『キメラ』ね」
 依頼参加時、本部から見せられた予想画そのままの怪物を目の当たりにして、夕姫の口から呆れたような言葉がもれる。
 姿を発見されたキメラはもはや逃げ隠れを止め、本来の闘争本能を露わにして傭兵達へと襲いかかってきた。
 屋外に誘き出す手もあったが、討ちもらして人家のある方向に暴れこまれても困るし、逆に北側に広がる競合地帯へ逃げ込まれても後々厄介だ。
 この場で勝負を着けることに決め、傭兵達はキメラの包囲・殲滅の態勢に入った。
 スコールと夕姫が敵の獅子頭を、ヴァシュカとラルス、イーリスと瑠奈が山羊の頭を。
「ヒマリアちゃんは蛇担当をお願いね」
「はーい」
 夕姫から指示を受け、スパークマシンαを構えたヒマリアが翠、シルヴァと共にキメラの後方で別の生物のごとくうねくる蛇頭の尻尾へと向かう。
 まずは小銃などの長射程兵器を装備した者が3つ存在する敵の「頭」を無力化、続いて近接攻撃を得意とする者達が突入してとどめを刺す、という作戦だ。
 ラルスとヴァシュカのエネルギーガンが互いにタイミングを1テンポずらして攻撃すると、キメラの山羊頭は苦しげな咆吼を上げ、前方約90°をカバーする闇波動で反撃してきた。
「くっ、さすがに多少は効きますすね」
 ラルスは虚闇黒衣で抵抗を上げ、さらにレイ・エンチャントで知覚を増幅したエネルギー照射で山羊頭の目を狙う。
「‥‥その厄介そうな山羊さんを先に黙らさせてもらいますねっ」
 やはり虚闇黒衣を発動させたヴァシュカが影撃ちを併用。
 敵が闇波動を放つ間隙を縫い、イーリスはサベージクローの爪を振るって果敢に斬り込んだ。
「郵便事故の恨み、思い知りなさい!」
 特に深い理由はない。相手が山羊だけに単なる八つ当たりである。
 その間、翠のライフルから放たれた銃弾が蛇の尻尾周辺に突き刺さる。
 もちろん頭部に装着したビデオカメラは、ド迫力の戦闘シーンを絶賛録画中‥‥のはずだ。
 夕姫は小銃S−01で獅子頭を銃撃。怪物があぎとを開いて噛み付いてきたタイミングを狙い口内にも銃弾をお見舞いした。
 荒れ狂うキメラを、より広い資材置き場へと誘導しながらの十字砲火。
 やがて激しく抵抗していた山羊頭の闇波動が徐々に衰え、毒牙を剥いて傭兵達を威嚇していた蛇頭も不意にぐったりと垂れ下がった。
「蛇と山羊は沈黙したわ、後はその獅子だけ。‥‥終わりね」
 夕姫の言葉を合図に、傭兵達の攻撃もいよいよ第2段階へと移行した。
「Come on baby! Les’t rock!」
 搬出口を背に、つまり敵の退路を塞ぐ角度から接近したスコールは正面の獅子頭と相対し、イアリスと山茶花の二刀流を振るうと豪破斬撃&豪力発現のスキルを交えつつ機動戦で攪乱。ただし狙いはあくまで短期決戦だ。
「こいつ‥‥まさか日本の国民的RPGに出てくるモンスターみたく水属性のブレスとか吐いてこねぇよな?」
 相手の姿が姿だけに、戦闘中もつい余計な不安が頭を過ぎってしまう。
 フェンサーのシルヴァは鋭い爪の攻撃をバックラーで防ぎつつ、円閃、スマッシュのスキルを発動させ蛍火の刃でキメラの生命を削っていく。
「あなたの魂に慈悲と絶望を‥‥」
 肉弾攻撃はイアリスで、闇波動はラジエルで防ぎつつ戦っていた瑠奈も、キメラの動きが衰えてきたチャンスを見逃さず、イアリスの両断剣、ラジエルの流し斬りとフィニッシュに向けて積極攻勢に切替えた。
「そろそろ倒れて頂きましょうか」
 兵装をエネルギーガンから接近戦用の蛍火に持ち替えたラルスは、ファング・バックルで練力を注ぎ込んだ刃を煌めかせ、仲間達の射撃や斬撃の隙間を埋める形で攻撃を繰り返す。
 傭兵達の波状攻撃に耐えかねたか、キメラは最後に生き残った獅子頭から悲鳴にも似た叫びを上げ、しゃにむになって包囲網の突破を図る。
 その脇腹めがけ、忍刀「颯颯」をの柄を握り締めた構えた夕姫が、一気に間合いを詰めて勝負をかけた。
「受けなさい、『抜刀牙』の一閃を!」
 疾風脚から瞬即撃による高速抜刀術――薄暗い廃工場の空間に銀色の光が一閃した瞬間、ついに「キメラのキメラ」は床の上にどうっと横倒しになり、暫く痙攣していた四肢もやがてその動きを止めた。

「‥‥撮ったはいいけど、どうしよ、これ。本部か研究所あたりに売れるのかな?」
 殲滅後、後々の資料にしようとキメラの死骸を様々なアングルから撮影した翠が、ビデオカメラからメモリーを取り出した。
 他の傭兵達は念のため、工場内に他のキメラが潜んでないか再び捜索を行ったが、幸い構内に棲み着いていたのはこの1匹だけのようだ。
「競合地帯の方にはー、キメラのキメラが、もっと居るのでしょうか〜?」
 覚醒を解き、元のおっとりした口調に戻ったラルスが屋外に出て北の方角を眺めやる。
 キメラの種類は現在、ULTのデータベースに登録されているだけでも多種多様にわたり、一見似たような外観でも異なる特性・能力を備えたものも少なくない。今後も同様の「複合生物」型キメラが出現する可能性なら充分あるだろう。
 もっともそれがまた「キメラのキメラ」と呼ばれるかどうかは定かでないが。
「終わり、か‥‥ところでこの搬出口、何とか塞げないか? また工場がキメラの巣窟になっても困るし」
 シルヴァは提案したが、必要な資材や工具がないので今すぐは無理そうだ。無線で本部に問い合わせたところ、
『後日UPCが調査隊を送り、工場も改めて厳重に閉鎖する』
 との回答だった。
「ん〜お疲れ様。少しお腹がすいたかも‥‥」
 夕姫はクスリと笑い、
「甘いものでも食べに行かない?」
 その一言を切欠に「任務完了」と判断した傭兵達は、再び静けさを取り戻した廃工場を後にするのだった。


 なお、翠が撮影した画像を帰りの移動艇内で再生してみた所――。
 戦闘中のシーンはブレがひどくてキメラの本体はチラっとしか映らず、戦闘後の死骸は殆どズタズタで原型も留めぬ有様。
「オカルトサイトによくある『謎の生物の死体漂着写真』みたいだったよ〜(ヒマリア・談)」
 ‥‥とのことである。

<了>