タイトル:宴の後の宴マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/02 14:51

●オープニング本文


「ナタリア君、ちょっとこの書類をドローム社まで届けに行ってくれんかね?」
「はい、畏まりました」
 ラスト・ホープ、未来科学研究所の医療セクション。
 ナタリア・アルテミエフ(gz0012)は上司の蜂ノ瀬教授に頼まれ、同じ島内にあるドローム支社へと出向いた。

 所用を済ませた帰路、ちょうど帰り道にあたるULT直営ショップの前を通ると、つい先日まで『バレンタインセール!!』と銘打ちド派手なポップとともに大売り出しされていた各種チョコレートもすっかり片付けられ、既に店は平常営業へと戻っていた。
(「そういえば、先週まではお祭り騒ぎでしたわね‥‥」)
 傭兵達の間に「バレンタイン中止のお知らせ」とかいうタイトルのスパムメールやらチラシが出回り、それを発端にバレンタインチョコの是非を巡る大論争にまで発展したのだ。
 ナタリア自身はその直前に結婚という人生の一大転機を迎え、その後も新居への引越しやら何やらプライベートな面で慌ただしい日々を送っていたため、何だかよく判らないうちに終わってしまった騒動であったが。

 そのまま通り過ぎようとすると、ショップの店先にいくつかのダンボール箱が積まれ、店員を務めるULT職員が数名、困ったような顔で額を寄せ集めている姿が目に入った。
「どうかなさったんですか?」
「いや、バレンタインチョコの売れ残りなんですがねえ‥‥」
 いわれてみれば、箱の中には綺麗にラッピングされたハート型チョコやらファンシーなアクセサリー付きチョコやら、いかにも「バレンタイン!」といわんばかりのギフト用チョコがぎっしり詰まっている。
 逆に言えば、Vデーが過ぎてしまえば全く売り物にならないデッドストックだ。
「中身のチョコ自体は、まだ充分賞味期限があるんですが‥‥こりゃ全部返品するしかないなぁ」
「援助物資として戦災地に送るわけにはいかないんですか?」
「まあ普通の板チョコなんかならそれでもいいんですが‥‥こういう、いかにも『イベントの売れ残り』って品物は嫌われるんですよ。『俺達をバカにしてるのか!?』なんて現地の住民からクレームがついたりして」
「はあ‥‥難しいものですわねえ」
「いっそ半額セールで特売に‥‥いやいや、さすがに買い手がつかないか‥‥」
 ナタリアの細い眉が、片方だけピクっと動いた。
「いま‥‥『半額』‥‥と仰いましたわよね?」
「ええ。どうせ返品確実の品ですから」

「‥‥はっ!?」
 我に返ったとき、ナタリアは特大レジ袋一杯にチョコを詰め込み、両手に吊った己の姿に気づいていた。
「ふ、不覚ですわ‥‥つい『半額』の言葉につられて‥‥」
 特に深い考えはない。ただスーパーで肉や野菜の特売セールを見つけたのと同じ感覚で、ごっそり買いこんでしまったのだ。
 チョコレート自体は日持ちのする食品だし、職場に寄付して3時のおやつにしてもいいのだが――それにしても量が多すぎる。
(「困りましたわ‥‥」)
 しかし、研究所に帰り着く間際に名案が閃いた。
「そうそう、まだ新居のお披露目がまだでしたわ!」
 次の日曜にでも、誰か招いてホームパーティーを開こう。
 ‥‥つい買いすぎたチョコの在庫一掃処分も兼ねて。

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
御坂 美緒(ga0466
17歳・♀・ER
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
ヒカル・マーブル(ga4625
20歳・♀・BM
風間由姫(ga4628
17歳・♀・BM
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
アーク・ウイング(gb4432
10歳・♀・ER

●リプレイ本文

「本日はご招待ありがとうございます、ナタリアさん。あら、シロガネ夫人とお呼びした方が良いかしら?」
「な、何だか照れくさいですわ‥‥今まで通り『ナタリア』と呼んでくださいまし」
 招待客の1人、クラリッサ・メディスン(ga0853)から挨拶され、迎えに出たナタリア・アルテミエフ(gz0012)は赤面し慌てて眼鏡の位置を直した。
 そんな彼女の夫・白鐘剣一郎(ga0184)は気さくに両手を広げると、
「皆、よく来てくれたな。さぁあがってくれ」
 同じ兵舎とはいえ家族用4LDKの広々とした新居に一同を招き入れる。
「本日はお招きありがとう。新婚生活にお邪魔して良かったのかな?」
 名店の菓子折を手土産に差し出しつつ入室するホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)がリビングを見やると、テーブルの上にナタリアがつい買いこんでしまった大量のチョコが山積みとなっていた。
(「新居でチョコパーティー‥‥変わった趣向だな」)
「チョコレートパーティーですね♪ とても美味しそうなのです♪」
 朗らかに笑う御坂 美緒(ga0466)は、後輩のヒマリア・ジュピトル(gz0029)、さらにヒマリアの弟テミスト、テミストのGF・ミーティナまで連れている。
「では、よろしくお願いします」
 傭兵と共にメイドアイドルとしても活躍中のヒカル・マーブル(ga4625)が、トレードマークともいうべき【OR】クラシカルメイド服姿でペコリと頭を下げた。
 風間由姫(ga4628)は初の訪問となる新婚家庭を、ちょっと緊張した面持ちで見回したりしている。
 ナタリアとは初対面となるアーク・ウイング(gb4432)は、丁寧に挨拶したあと持参の各種チョコレートに加え、実家から送ってきた地元名物の吉備団子を差し出した。
 前夜、「うちの実家って、ヨーロッパだったよね?」とアーク自身首を傾げながら袋に詰めたお土産である。実はいずれ生まれるだろう赤ん坊向けに玩具も持参した方がいいか悩んだのだが、「さすがにまだ早い」と思いこちらは止めている。
「チョコレートとも合うと思いますわよ」
 クラリッサの手土産は年代物のウィスキー。
「まあ皆さん、どうもありがとうございます」
 にっこり微笑み、ナタリアは来客一同からの土産物を受け取った。
「何だかチョコの量が一段と増えましたね‥‥」
「では、何かチョコを作ったお料理でも作りましょうか?」
 由姫とヒカリがそんな事を話し合っていると、チャイムが鳴り、少し遅れて到着した勇姫 凛(ga5063)とチェラル・ウィリン(gz0027)が玄関先に姿を見せた。
「こんにちは、剣一郎、ナタリアお招きありがとう」
「こんちは〜。凜君からチョコ食べ放題って聞いて、遊びに来ちゃった♪」
 そういう2人の格好は、なぜかお揃いでリスのヘアバンドとリスのベルトを身につけていた。
 実は傭兵同士で「白鐘家主催チョコパーティー」について電話連絡を回しているうち、凜はどこでどう間違ったか「獣耳仮装パーティ」と聞かされ、チェラルにもそう伝えていたのだ。いわゆる伝言ゲーム状態である。
「凛、ちゃんと耳付けてきたから」
 微笑とともに告げてから数秒後――。
 勘違いに気づいて耳まで赤くなった。
「凛、好きで付けて来たわけじゃないんだからなっ」
 チェラルの方は大して気に留めてないのか、早速リス耳と尻尾をフリフリさせて一同に愛嬌を振りまいていたが。
「いえ、あの‥‥それも面白いですわね。折角のパーティーですし」
「そうだな。ちょうど、引越し荷物の中にいいものがあった」
 ナタリアの言葉を受けた剣一郎が、別室からダンボールを1つ抱えて戻ってきた。
 中には「ねこみみふーど」「ねこみみぐろーぶ」を始め、なぜか仮装用グッズ一式が梱包されていた。以前にULTから何かの記念品として支給されたものらしいが。
「では、チェラルさんとヒマリアさんにはバニースーツに牛耳を付けて牛娘になって貰うです。今年の干支なので縁起が良いのですよ♪」
 早くも目を輝かせ、牛のヘアバンドとバニースーツを取り出す美緒。
 もちろん2人を着替えさせる間、さりげなくふにふにして成長具合をチェックするのも忘れない。
「こーゆーのも『カウガール』っていうのかなぁ? アハッ」
 全然気づかず笑ってるチェラルとは対照的に、
「あぁン☆ み、御坂さんってば、そんなトコぉ‥‥♪」
 顔を上気させ、体を捩りつつも美緒の愛撫に身を任せるヒマリア。
「ヒマリアさんがふにふにを受け入れてくれて嬉しいです♪」
 受け入れたというかさせられたというか、はたまた目覚めたというべきか。
 さらに本腰を入れた美緒は彼女の耳に「フッ」と息を吹きかけたり、甘噛みしたりと大サービス。
「今度、ネコミミタイツ姿になってくれますか? 了承するまで止めないのです♪」
「な、なりますぅ‥‥あっ、止めちゃイヤン♪」
 白昼堂々、他人の新居で何をやっているのだ君らは。
 百合色空間に入った姉達を見て見ぬフリをしつつ、テミストとミーティナはお互いネズミのペアルックになって遊んでいる。
「に、似合うでしょうか‥‥?」
 ナタリアはねこみみふーどとぐろーぶを身につけ、剣一郎に披露した。
「ええ? 何でこれを着なくちゃ‥‥わぁっ!」
 と、その場のノリで白のバニースーツを着せられてしまう由姫。
「はう〜〜〜。もうこうなったらやけです‥‥えいっ!」
 ビーストマンである彼女は覚醒し、頭に自前のうさ耳を生やす。
 いわば「半分生バニー」である。
 その傍らでは、持参したバニーガール服に着替えたアークが
「10歳の少女がバニーガールの衣装を着るという妖しい魅力」
 と呪文のごとく呟きつつ、楽しげにクルクル回っている。
「私も着てみようかしら?」
 面白がってクラリッサもバニー服を身につけた。
 成熟した彼女のバニー姿は、これはこれで妖艶な魅力に溢れている。
 チェラルとヒマリアを加えて、そのまま「バニー戦隊」が結成できそうだ。

「さて、ではチョコレートを如何に料理するかだが」
 ひとしきりコスプレで盛り上がった後、剣一郎の案内で傭兵達はリビングに隣接したカウンター式キッチンへと案内された。
 剣一郎自身は事前に予定していたチョコレートムース入りシュークリームに挑戦。
 シューはオーブンで焼いてサクサクとさせる。
「ケーキとかお菓子関係‥‥それとチョコレートをソースにした肉料理でも作りましょうか?」
 ヒカルは由姫とペアを組んで料理にかかった。
 メインは焼いた鶏肉を、あまり甘くないチョコレートを使ったソースと一緒に煮込む、いわゆる鶏もも肉のチョコレート煮である。
「偶然だな。俺も同じ料理を作るつもりだったんだ」
 ホアキンも加わり、早速下拵えから始める。

 1)鶏肉に塩、胡椒を振る。
 2)フライパンにバターを熱して鶏肉を炒め、タマネギ、マッシュルームを加えて更に炒める。
 3)赤ワインと顆粒コンソメを加えて煮立て、5分くらい弱火で蒸し煮する。
 4)デミグラスソースを加え、煮立ったらチョコを加え、溶けたら塩と胡椒で味を調える。

「‥‥ワインに合うんだ、これが」
「まあ‥‥チョコってデザートだけでなく、メインディッシュにもなりますのね」
「自分流にアレンジしてみるのも面白いよ」
 珍しそうに覗き込むナタリアに、ホアキンはレシピをメモ書きで伝授してやった。

 ホアキンが鶏もも肉を炒めている間、由姫はヒカルと共に悪戦苦闘しつつもデザートのチョコチップクッキーにガトー・オ・ショコラ等を作り始めていた。
「甘い物ばかりですので、口の中がくどくなりますからね‥‥しょっぱい味の物や、口の中がさっぱりとする物も数点用意しておきましょう」
 気を利かせたヒカルは普通の料理も何品か調理。さすが「メイドの達人」の称号は伊達ではない。
 さて、チョコ料理の王道ともいうべきメニューの1つに「チョコフォンデュ」がある。
「生クリームを暖めて、その中に刻んだチョコを入れて溶かす‥‥だけですよね?」
 パッケージから取り出したハート型チョコを包丁で刻みながら、由姫が首を傾げた。
「いや、お酒を垂らすともっと味わいが出るぞ」
「チョコ入り鍋を湯煎で溶かして、具代わりに果物を入れれば完成ですよ♪ 甘くて美味しいです♪」
 ホアキンや美緒も集まり、ワイワイと支度を始める。
「本当はチョコレートファウンテンのようなああいう機械を使うと一番なんですが、さすがに無理ですからねえ‥‥」
 今回は由姫の提案により、市販のティーライトキャンドルで温めつつ食べることに。
 また隠し味としてごく少量のブランデーを垂らしてみた。
 凜のレパートリーはチョコレートパフェ。
「みんな、食べてみてよ。この間バラエティの収録で教えて貰った、街の巨匠のビッグパフェ〜ヒメスペシャル〜だから」
 獣耳と尻尾を揺らしながらニコっと笑い、持参のアイスボックスからアイスや生クリームを取り出す。「ビッグパフェ」というだけあり容器は金魚鉢とバケツである。
「こう見えても、料理とか得意なんですから、何でも手伝える事があったら言って下さいね」
 一同の料理をあれこれ手伝う傍ら、クラリッサは暇を見てナタリアの新居を興味深く見て回った。
 ふと、ナタリアが挙式を上げた同じ日に、チャペルの下で将来を誓い合った「婚約者」の姿が胸に浮かぶ。
(「‥‥いずれあの人とわたしも愛の巣を築くのでしょうね」)
 そんな事を思いつつ、インテリアや内装などを参考にチェックするのだった。

「なかなか壮観だな。これだけチョコレート料理が並ぶと」
 リビングのテーブルに並べられた各種チョコ、その他の料理を眺め、剣一郎が微笑した。
 さらに食卓を囲むネコにウサギに牛娘と来ると、さながら某有名童話のマッド・ティーパーティーの如し。一応、気を利かせた剣一郎は紅茶以外にも口直しのためコーヒー、緑茶、ミネラルウォーター等各種ノンシュガードリンクを取りそろえていたが。
 かくして料理が出そろった所で、新居のお披露目を兼ねたホームパーティーが始まった。
「そういえば、一年前は実家で家族と一緒にチョコレートを食べていたね」
 しみじみした口調で呟くアークだったが、ふと自分の持ってきた吉備団子を見やり、
「ヨーロッパだよね、アーちゃんの実家は。なんか自信がなくなってきたな‥‥」
 何やら遠い目をして呟いている。
 白鐘家で準備したフルーツやマシュマロを串に刺し、チョコフォンデュの温めた鍋に浸した美緒が幸せそうに頬張った。
「チョコレートでコーティングされて、いっそう甘くて美味しいのです♪」
 同じチョコフォンデュでも、ホアキンは独自に焼芋、キムチなど変わり種の具を持参していた。
「一度、試してみたくてね‥‥チョコは意外と塩分と相性が良いんだ」
 料理を終えたヒカルはプロの(?)メイドらしくせっせと給仕係に精を出す。
「都合が合うなら冴木や相楽も一緒に呼ぶところだが‥‥」
「うーん。最近、お姐ぇ達も別の任務で忙しいみたいだからなぁ」
 剣一郎の言葉に、凜と一緒にジャンボパフェを食べていたチェラルが首を傾げた。
「ブルーファントム」の3人といえども常に行動を共にしているわけではない。
 むしろ軍から非常招集がかかった時などを別にすれば、近頃は各々が別の任務で動くことが多いという。
 かくいうチェラルも、つい先日は九州沖でバグア艦隊と戦ってきたばかりだ。
「美味しいね‥‥でも、凛、チェラルに貰ったあのチョコが一番だから」
 同じ海戦に参加していた凜が、頬を染めて微笑しつつチェラルにいう。
「食べている時、チェラルが側にいてくれるみたいで、ほんとに美味しかったよ」
「ホント? わぁ、よかった。ホラ、ボクも男の子に本命チョコ贈るなんて初めてだったからサ。去年はシャレでカレーチョコだったけど‥‥」
「まあみんな、今日は難しい話は忘れて飲もう」
 クラリッサの土産のウィスキーボトルを開け、ホアキンが勧めてくる。
「‥‥家庭を持つと、男もどこか変わるものかな?」
「いってくれるな。ホアキンだっていずれはこういう時が来るんじゃないか?」
 からかい気味に差し出された酒杯を受け、剣一郎は苦笑混じりに戦友と酒を酌み交わした。

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、山の様に積まれたチョコレートをほぼ平らげた能力者達は、最後に剣一郎の呼びかけで記念撮影を行い本日の締めくくりとした。
 料理の中には一部残ったものもあるが、これはナタリアがラッピングして今夜にでも近所へお裾分けする予定だ。
 またクラリッサはテミストとミーティナへのお土産として、ひと手間加えたチョコ菓子を手渡してやった。
「では、最後に後始末して失礼するかな」
 そう思ったホアキンが食卓に目をやると、何と卓上はいつの間にか綺麗に片付けられていた。
 専ら裏方で手伝っていたヒカルが、給仕の合間を縫って掃除も済ませていたのだ。


「幸せな新婚生活か。バグアとの戦争はまだ終わりは見えないけど、こんな幸せを守るのがアーちゃんたちの役目かな‥‥なんてね」
 帰り道、ふと頭上に浮かぶ赤いバグア遊星を見上げ、アークが呟く。
「ナタリアさんと白鐘さん、末永くお幸せになのです♪」
 一方、美緒はなぜか両手を胸に当て、瞳を「はぁと」にして遙か南の方角をみやっていた。
「私もいつかクリシュナ様に告白されてこうなるのですね‥‥♪ その日が来るのが楽しみです♪」


 来客が帰り、再び静けさの戻ったリビングで剣一郎とナタリアはゆっくりお茶を飲んでいた。
「お疲れ様。しかし家が賑やかなのは良いな。程度にもよるが」
「ええ。もし機会があれば、また皆様をお招きしたいですわ」
「ときに、ナタリアは子供は欲しいか?」
 唐突な剣一郎の質問に、驚いたように顔を上げるナタリア。
「両親を早くに亡くしたせいか、俺は親子が普通に過ごす『家族』の姿に強く憧れる。行く行くは俺とナタリアと、そして子供たちの居る暖かい家庭を作っていきたい」
「‥‥」
 急には答えかねるのか、頬を染めてナタリアは俯く。
 だが、その表情はまんざらでもないようだ。
「そういえば、これ‥‥すっかり遅くなってしまいましたけど」
 そういって彼女が差し出したのは、料理の傍ら作っていた手製のバレンタインチョコだった。ハート型のチョコ生地の上に、生クリームで『世界で一番愛しいあなたへ』とメッセージが添えられている。
「愛しているよ、ナタリア」
 剣一郎は立ち上がると、微笑と共に改めて新妻を抱き締めるのだった。

<了>