●リプレイ本文
●撮影前〜TV局控え室にて
「そういえば、オペレーターさんたちっていつも顔合わせてるけど、どんな仕事をしてるのか詳しくは知らないものだよね」
出演者として集まった傭兵達の1人、クリア・サーレク(
ga4864)がふといった。
24時間365日、とにかく電話をかければ誰かが応対してくれるオペレーター。その年中無休っぷりに、「実はULTが極秘開発したアンドロイドではないか?」と半ば本気で疑っていた彼女である。
「そういった意味でも、今回のオペレーターのお仕事の演技は楽しみなんだよー」
「本当に色々と情報を貰ったりサポートして貰ったり、一番身近で頭の上がらない人達かも知れん。昔ナタリアさんをオペレーターだと思っていた‥‥」
ちょっと遠い目で呟く寿 源次(
ga3427)。
ちなみにナタリア・アルテミエフ(gz0012)は未来研のサイエンティストである。まあ人手不足の折、傭兵のサポートにも度々駆り出されるのでそう思われて仕方のない所もあるが。
「お仕事紹介番組での芝居の世界とはいえ、オペレーターの立場になるのは初めてです。これを通じて彼女達の世界を理解するのにいい機会です」
ナオミ・セルフィス(
ga5325)は事前に渡された番組台本に目を通し、ちょっと緊張した面持ちだ。
一方、傭兵とアイドルを兼業し、TV出演にも慣れた大和・美月姫(
ga8994)はすっかりリラックス。
「今回の依頼はなかなか楽しくなりそうです。現役アイドルとしても燃えますよ‥‥【IMP】所属としても、思いっ切りに売り込んでみましょう」
としっかり営業魂(?)を燃やしている。
さて、「能力者に一般人の職業を体験してもらう」というのがウリのこの番組だが、今回はテーマが「ULTオペレーター」という事もあり、依頼の受理から傭兵達へのサポート、そして事件解決までを再現ドラマ風に描こうという趣向である。
ただし傭兵役の傭兵(ややこしいが)は台本のうち依頼内容に関わる部分を知らされず、オペレーター役のサポート及び自力で解決に導いて貰おうというアドリブ的な要素も盛り込まれていた。
「お疲れ様で〜す☆ 皆さん、もうすぐ本番始まりますよー!」
裏方役として参加のヒマリア・ジュピトル(gz0029)が控え室にひょこっと顔を出し、出演者一同に声をかける。
「よ、お久しぶり。結構活躍してるようで何よりだ」
後輩傭兵の頭をポムポム叩く源次。
「ひどーい。寿さん、もう子供扱いはしないっていったのにぃ」
「ははは、すまん。失礼だとは思うが高さ的に丁度良いんだ」
「ヒマリアさんは番組に出ないのですか?」
やはり裏方役で参加の御坂 美緒(
ga0466)が尋ねた。
「えっと、解説コーナーでちょっとだけ‥‥」
「なら着替えが必要ですね♪」
すかさず飛びつき、ヒマリアの衣装替えを手伝い始める美緒。
むろん目的はふにふにである。
「み、御坂さぁん‥‥こ、こんなトコで‥‥♪」
「喜んでくれて嬉しいのです♪」
近頃はもはや抵抗するのも諦めたヒマリアにぴったり密着し、衣装を着せ替えながらやりたい放題の美緒。
念入りに胸をふにふにしつつ、
「これからは私のことを『お姉様』と呼ぶですよ?」
などと何やら妖しいフラグを立てたりする。
‥‥とまあ、そんな2人の百合色事情はさておき。
かくして前代未聞、傭兵の傭兵による傭兵のための「オペレーター紹介番組」撮影は始まった――。
●アバンタイトル
UPC本部のオペレーター室を再現したスタジオ内。
美月姫と同じく現役アイドルとしても活躍中の勇姫 凛(
ga5063)がマイクを持って現れると、観客席から拍手と共に「ヒメーッ!!」と黄色い歓声が上がった。
「今日は凛達が、みんなの代りにオペレーターさんの仕事を体験してくるよ‥‥じゃあ、今週も合い言葉は――」
『体験! お仕事してみ隊!』(チャララ〜ン♪)
(画面下テロップ)
「これは過去のバグア事件を参考に脚色した再現ドラマ風フィクションです。実在の人物・事件とは一切関係ございません」
●シーン1:UPC本部
ご近所のトラブルからバグアの地球侵略まで、世界各地から寄せられるあらゆるSOSに応えて日夜戦う能力者の傭兵達。そんな彼らを、影ながら支えるのがULT所属のオペレーターである。
「だからね、お爺ちゃん、入れ歯と老眼鏡は電話してきても分からないから、お家の人にね‥‥うんうん、お名前はもう聞いたから」
ヘッドセットのマイク越しに訴える老人の声にワタワタしながら受け答え、ついでに日頃のグチまで聞いてやること小一時間。とりあえず家族へ連絡の手配を済ませ、オペレーター服姿の凜は大きくため息をついた。
「凛、これだけでもうヘトヘト‥‥」
そのすぐ隣では、やはりオペレーター制服のナオミがヘッドセットマイクで依頼者と会話しつつ、生真面目な表情で目の前のPCにデータを入力している。
どうやら内容は「迷子になった愛犬捜し」の様だ。キメラ災害やワームの襲撃に比べれば他愛ない事件とはいえ、どんな依頼に対しても気を抜かず堅実に向き合う姿勢がいかにも彼女らしい。
「‥‥凜も負けてられないな」
コーヒーでも淹れてひと息――と思う間もなく、次の通報が来た。
『私の大事なモーちゃんが居なくなってしまいましたの。探して頂けませんか?』
よくよく話を聞いてみると、「モーちゃん」とはぬいぐるみの名前らしい。
そんな事で――といってしまえばそれまでだが、通報してきた女性・ウレキサイト(
gb4866)の声にはただならぬものがあった。
「本部から承認‥‥凛、傭兵の募集をかけるから、クリア、詳しい情報の分析宜しく!」
「了解」
情報分析担当のクリアが、直ちに端末から本部メインコンピュータへとアクセスする。マシンの様にクールな美少女オペレーターが覚醒するや、髪と瞳が紫ががった金属質の光沢を持つ銀色に代わり、通報内容に関連する各種データを神速のキータッチでサーチしていった。
時を同じくして、迷子の愛犬について相談に乗っていたナオミもこれを依頼として正式に受理。
間もなく、本部内「斡旋所」のモニターに2つの依頼が表示される事になった。
だが、そのとき誰が気づいたであろう? 一見無関係に思える2つの依頼が、後々恐るべき大事件として結びつこうとは――!
●シーン2:傭兵、ただいま出動!
「ただいま♪ ただいま♪ ただいま〜マイクのテスト中ー! あんたら♪ あんたら♪ あんたら〜演技のテスト中〜♪ ‥‥え? もう出番?」
スタッフから名を呼ばれた火茄神・渉(
ga8569)は、慌てて装備やダミーの武器を身につけ、本来の「傭兵役」を演じるため調査シーン撮影用のスタジオへと走った。
「モーちゃんは、あたしとお揃いのベレー帽に丸眼鏡を付けた、ホルスタインのぬいぐるみですの‥‥」
応接間のソファに座り、ハンカチで目頭を押さえつつ、依頼者のウレキサイトが「ぬいぐるみ失踪」の状況を切々と語る。
「朝起きたら、一緒に寝ていたはずのモーちゃんが居なくなっていましたの。部屋の窓の鍵が開いていたから、窓から何者かが入り込んだと思うのですけれど‥‥」
資料として「モーちゃんの写真」を預かった渉は依頼者の自宅から街頭(撮影用セット)へと出た。
「これって、どう考えても単なる窃盗だよ? お巡りさんに任せた方がいいんじゃない?」
『そんなこといわないで。持ち主さんの想いや、ぬいぐるみ達の為にも、宜しく頼んだからっ』
「はいはい。頑張りま〜す」
担当オペレータの凜から優しく励まされ、再びやる気を出す渉。
一方、「迷子の愛犬捜し」依頼を受けた美月姫は飼い主の源次‥‥もといTさん(仮名)と面会していた。
「名前はジョー。牡の柴犬3歳‥‥5日前に出かけたきり戻ってこないんだ。近頃この辺りにもキメラが出没するから心配で、心配で‥‥」
顔をモザイク画像で隠し、音声も変えたTさん(仮名)が不安そうに証言する。
「他に何か心当たりはありませんか? どんな小さな事でも結構ですから」
「そういえば‥‥消える前の晩に山の方へ散歩で足を伸ばしたら、聞き慣れない機械音みたいな音が‥‥あの辺には工場なんかないはずだけどなあ」
「怪しい機械音‥‥気になりますね」
舞台は再びUPC本部。美月姫から無線で報告を受けた担当のナオミがじっと考え込む。
「あれ? その依頼、いま凜が担当してるぬいぐるみ失踪事件と同じ町だ‥‥これって偶然?」
不審を覚えた凜が、クリアに詳細分析を依頼。
「‥‥当該地域でのキメラ目撃情報38件、外見報告より内20件が同一体もしくは同種の物と推測されます‥‥」
カタカタと端末のキーを操作しつつ、メカニックの様な少女が淡々と報告する。
「過去のバグア関係事件データよりシミュレートする限り、98.27%の確率で‥‥この2つの事件には関係があるものと断定します」
●シーン3:打ち破れ! バグアの陰謀
舞台は代り、なぜか2つの事件現場にほど近い児童公園(ここからは屋外ロケ)。
黒のレオタードに網タイツ&ハイヒールブーツ。しかも目許はおどろおどろしい隈取りでメイクした若い女(ウレキサイト/依頼者と2役)が、盗んできたモーちゃん、そしてさらってきた柴犬を並べ、腕組みして思案していた。
「う〜ん‥‥このぬいぐるみと犬と‥‥どうにかキメラに出来ないかな?」
彼女こそSの女王様――じゃなくて町内征服を目論むバグアのヨリシロ、悪の女幹部・X1号であった!
ここで画面は切り替わり、突如「児童番組の人形劇風」なセットに。
「『教えて! お仕事はかせ』のコーナーだよ♪」
白衣姿に鼻眼鏡のヒマリア博士&猫の着ぐるみに入った生徒の美緒ちゃん登場。
美緒「はかせ、『ヨリシロ』ってなーに?」
博士「うむ。バグアはずる賢い宇宙人だけど、本体のまま地球上を動き回るのは何かと都合が悪い。そこで地球人の体を乗っ取り意のままに操るのじゃな。これを俗にヨリシロという」
美緒「こわーい! いちどヨリシロにされたら、元には戻せないの?」
博士「残念ながら、それは無理じゃ。ヨリシロにされた時点で本人はもう死んでしまっておるからな。ただし生前の知識や特技は全部残ってるから、なお始末に負えん。他に『強化人間』というのもおるが、どっちも強敵だから注意が必要じゃぞ」
凜とナオミが傭兵達から収拾した情報をクリアがさらに分析。その結果、「町の裏山にバグアがキメラ製造プラントを建設中」との衝撃的な事実が判明した!
オペレーター達の指示により、別々に活動していた渉と美月姫が合流、直ちに裏山に向かおうとした2人の前に、配下のキメラを引き連れたX1号が現れた!
キメラを演じるは依頼者Tさん(仮名)と2役の源次である。
真ん丸おめめに眼鏡、ベレー帽を被った犬の着ぐるみを頭に被り、胴体はホルスタイン、手には犬型の手袋。
牛のぬいぐるみと犬を合成したキメラ「ゲンジー」。その姿はキメラの名に相応しく異様‥‥というか単なる不審者みたいだがツッコミはなしだ!
‥‥ちなみに戦場はさっきと同じ公園。
端の方では、ロケ現場の○○町ゲートボール同好会の皆さん(平均年齢67歳)も駆けつけ「がんばれー!」と声援を送っているぞ!
「あのエキストラさん達‥‥お姉様が呼んだんですか?」
「はいです♪ ご当地ヒーローみたいな地域密着の雰囲気で、好感度もアップなのです♪」
目を丸くするヒマリアの質問に、朗らかな笑顔で答える美緒。
「いけっ! ゲンジーっ!!」
X1号の指令を受けるや、恭しくお座りしていたゲンジーはゆらりと立ち上がり、牙を剥いて傭兵達に襲いかかった。
かくして美月姫自ら作詞・作曲の『戦え能力者〜愛ゆえに〜』をBGMに始まる壮絶なバトル!
渉の犬剣「ビッグボーン」が唸る!
美月姫の直刀「洒涙雨」が悪を断つ!
戦闘のさなか、傭兵達の無線に本部のクリアから連絡が入った。
『敵FFの解析行います‥‥解析結果、出ました! データ転送しますっ』
「ワォーーン!」
FFの脆弱な箇所に集中攻撃を受けたゲンジーが、断末魔の咆吼と共に口から怪光線を吐いて大爆発。
煙が晴れた後‥‥おお! そこには元に戻った柴犬のジョーとぬいぐるみのモーちゃんが!(注:このシーンは後で画像編集)
「クッ! 次は覚えておけっ!」
お約束の捨て台詞を残し、女幹部・X1号は何処かへと逃走した――正確には公園の脇に停めたTV局のワゴン車の中へ。
「あ〜んモーちゃん、無事だったのね〜良かったわ〜♪」
(ワゴン車の中で着替えた)ウレキサイトが我が手に戻ったヌイグルミを抱き締めハラハラ落涙する。
同じく着替え済みの源‥‥いやTさん(仮名)も愛犬ジョーをひしと抱きかかえ、
「助かったぜ傭兵さん!」
ナレーション「その後通報を受けたUPC軍KV部隊の攻撃により、裏山に建造中だったキメラ製造プラントは跡形もなく破壊されたのだった」
●エンディング
場面は再びUPC本部(スタジオ)。
「無事に解決してよかった‥‥それにキメラ製造プラント破壊で、多くの命を救うことができたわ」
両手を胸に当て、安堵したように呟くナオミ。
「でも油断はできないよ。バグアの侵略が続く限り、凜達の戦いもまだまだ続くんだ」
「九州地区のUPC軍より緊急依頼。コンビナートがHW編隊の襲撃を受けている模様」
正規軍の回線からデータ通信を受けたクリアが、早くも次の事件を告げる。
ここでナレーション。
「オペレーター達に休息の時はない。
この様に迅速・細やかな情報伝達で仕事を円滑に進めるのだ。
時にはオペレーター間での連携も大切だ。
だがオペレーターの戦いは続くのだ! 負けるな! 僕らのオペレーター!」
「大変だったけど、凄くやりがいあったよ。オペレーターさん、いつもありがとう」
凜の微笑にスタジオ内から大きな拍手、そして番組のEDテーマが被さった。
「どーも、お疲れ様でしたー!」
撮影終了後。
制作スタッフから報酬とは別に謝礼の粗品を受け取り、TV局を後にした傭兵達は美月姫の呼びかけで帰路のファミレスに寄り、ささやかな打ち上げを行った。
「本放送見たいような、見たくないような‥‥」
そういいつつ、源次が乾杯の後に生ビールのジョッキをぐいっと傾ける。
「オペレーターだから出来る戦い‥‥みんなに伝えられればいいですね」
今から放送日が待ち遠しそうなナオミ。
美緒は美緒で、
「折角なので、完成した番組の録画をクリシュナ様に送るのです♪」
早くも夢見るような面持ちで呟いている。
そんな中、ヒマリアは資料用に渡されたパンフレット「ULTオペレーターのしおり」を読みふけり、
「オペレーターかあ‥‥やり甲斐あるかも‥‥」
と、何事かじっと考え込むのだった。
<了>