タイトル:【DR】偵察陽動〜ゴビマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/26 22:16

●オープニング本文


●魔女の婆さんの鍋の中
 廊下に響く靴音。一歩一歩進む毎に、ロングコートの裾がなびく。
 上層部において決した作戦の概要を思い出し、ミハイル中佐は思わず顎鬚に手をやった。諜報部が真面目に仕事をしている、という事なら歓迎すべき自体だ。だが、これまで思うような成果のあがらなかった情報戦で、突然優位に立ったとは考え辛い。
 ――とはいえ。
「考えても詮無い事だな」
 その裏に何らかの意図があろうと、無かろうと、そんな事はどうでも良い。
 彼自身、軍人は政治に口を差し挟むべきではないと考えている。それに、この偵察作戦そのものが、この情報の真偽を確かめる為のものだ。要は、作戦を成功させればそれで良い。権限以上の事に思いを馳せるべきではない。
(余計な事は忘れろ。まずは、この作戦に集中しなければ‥‥)
 ドアを開く。
「総員起立!」
 副官の鋭い言葉が飛んだ。
「敬礼!」
「構わん、楽にしてくれ」
「ハ‥‥着席!」
 作戦に集まった傭兵達を前にして、ミハイルは小さく敬礼を返した。
 彼等は、この偵察作戦を成功させる為にかき集められた。その数、数十名にも及ぶ。
「志願戴き、感謝する。それでは、さっそく作戦の概要を説明させてもらう」
 彼がそう切り出すと、副官が部屋の明かりを落とし、映写機の電源を入れた。
 画面に映し出されたのはシベリア、サハ共和国首都ヤクーツクを中心とした地図。北部からヤクーツクまではレナ川が流れており、南東にはオホーツク海が広がっている。南西のバイカル湖はバグアの勢力圏内に、南方のハバロフスクから北東のコリマ鉱山周辺は人類の勢力圏だ。
 そして、ヤクーツク北西、ウダーチヌイが地図上に表示された。
「作戦目標、ウダーチヌイ」
 ミハイルの言葉に、作戦室が静まり返る。
 ウダーチヌイにはウダーチナヤ・パイプと呼ばれる、直径1km、深さ600mにも及ぶ露天掘り鉱山があり、この鉱山施設を中心に複合軍事施設の建設が進んでいる――諜報部の得た情報を元とし、上層部が出したこの予測が正しければ、バグアは、このシベリアを中心に侵攻作戦を企てている事となる。
 問題は、その情報が果たして正しいのかどうかだ。
 これがもしブラフで、人類が大戦力を投じた結果何も無かった等と言うお粗末な結果に終わった場合、戦力が引き抜かれて手薄になった戦線に対し、バグアは嬉々として攻撃を開始するだろう。
「確証が必要なのだ。でなければ、貴重な戦力を振り向ける事はできない」
 事実であれば、敵の迎撃は苛烈を極めるであろう。
 まさしく、魔女の婆さんの鍋の中へ自ら飛び込む事になる。副官が作戦計画書を取り出し、ミハイルへと手渡す。
「では、各種作戦の説明に移る。まずは――」

●モンゴル高原〜ゴビ砂漠
 黄河流域、包頭から北におよそ50km。UPC軍が密かに機材を輸送し建設したゴビ砂漠航空基地(GDAB)。
 滑走路などの一部を除いた主要施設の大半を地下に隠した砂漠の秘密基地に、ウダーチヌイ偵察作戦と呼応するかの様に傭兵達のKV部隊が招集されていた。
「――とまあ、大体の状況は今説明した通りだ」
 会議室のスクリーンに映し出されたユーラシア大陸の大地図を指揮棒で指し示し、UPC軍少佐、松本・権座(gz0088)は居並ぶ傭兵達に向き直った。
「間もなくヤクーツクの基地からそのバカでかい大穴を偵察するためのKV部隊が発進する。もちろんこちらの目的を敵の目から逸らす陽動部隊や事前攻撃部隊も一緒にな。もっとも貴様達の目標は‥‥ここ」
 指揮棒の先がやや下に降り、モンゴル領内にある赤い点を指した。
 バグア・ウランバートル基地――中央アジアから東アジアにかけての広大な地域を攻撃範囲に収め、かつての名古屋防衛戦では200機に及ぶHW部隊を日本にまで遠征させた、敵の一大拠点。
「イルクーツクから友軍の大部隊が出撃したとなりゃ、当然ここから妨害が入る怖れがある。そこで正反対の方向にあたるこの基地からもウランバートルを叩き、少しでも敵さんの気を散らそうって算段だ。ま、いわば陽動の陽動だな」
(「全く念のいった話だぜ‥‥」)
 説明している松本少佐自身、唐突に始まったこの大がかりな偵察作戦の全貌と真意を図りかねている。何しろ、つい数日前まで佐世保基地で北九州攻防戦の指揮を執っていた矢先、上層部からの緊急指令によりいきなりゴビ砂漠のど真ん中、このGDABまで飛ばされて来たのだから。
「少佐殿、よろしいですか?」
 傭兵の1人が、おずおず手を挙げて質問した。
「偵察目的にしては随分と大規模な作戦の様ですが、そのウダー‥‥ええっと」
「ウダーチナヤ・パイプか?」
「あ、はい。その鉱山跡には、いったい何があるのですか?」
「知らねえよ。だから覗きに行くんじゃねえか」
 にべもなくいってから、少佐はニヤっと歯を見せて笑った。
「だがよ。上層部のこの慌てっぷり‥‥タダ事じゃねえ。偵察結果によっちゃあ、どえらい花火が上がることになるぜ? 今まで敵も味方もほったらかしてた、あのシベリアでな」

 そしておよそ30分後。黄砂に霞む砂漠の飛行場より、イルクーツク部隊より僅かに先行する形でKV各機は次々と滑走路を離れていった――。

●参加者一覧

皇 千糸(ga0843
20歳・♀・JG
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634
28歳・♂・GD
ゼラス(ga2924
24歳・♂・AA
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
緋沼 京夜(ga6138
33歳・♂・AA
井出 一真(ga6977
22歳・♂・AA
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
瑞姫・イェーガー(ga9347
23歳・♀・AA
ラウラ・ブレイク(gb1395
20歳・♀・DF

●リプレイ本文

 目的地であるバグア・ウランバートル基地へたどり着く遙か手前で、早速迎撃のHWらしい機影がレーダーに反応した。眼下は遮るものとてないモンゴル高原。やはり敵重力波センサーに発見されてしまったらしい。
 だが彼らの任務は陽動攻撃――ウランバートルの敵航空戦力を1機でも多く南方に誘き出す事だと思えば、これは最初から織り込み済みの展開といえた。

「へー、陽動の陽動ときたもんだ。また随分と大掛かりな作戦ね」
 S−01改の操縦席で皇 千糸(ga0843)が感心したようにいう。
 彼女の言葉どおり、今回の作戦にあたっては本命のウダーチヌイ偵察部隊の他、複数のKV部隊がヤクーツクやGDAB(ゴビ砂漠航空基地)から出撃、それぞれ敵の陽動・牽制にあたる。
 偵察の障害と思われる敵のウランバートル基地に対しても、千糸達の部隊と呼応して別働隊が奇襲攻撃を敢行しているはずだ。
「また随分と大掛かりな作戦ね。いや、大規模な作戦の準備段階ってとこかしら?」
「ロシアの閉ざされた鉱山に‥‥、何があるかは分からないけど、何かがある‥‥? 少し変だな、色々」
 イビルアイズの機上で明星 那由他(ga4081)は思案した。
 偵察部隊の目的地は露天掘りダイヤ鉱山の巨大な縦穴、別名「ウダーチナヤパイプ」の奥底だが、そこでいったい「何」が建造されているかとなると、GDABから指揮を執るUPC軍の松本・権座(gz0088)少佐ですら「知らない」という。
 しかし鉱山ひとつ偵察するのにこれだけの大部隊を動かす以上、噂される極東ロシア地域の大規模作戦発令はもはや時間の問題だろう。
「随分と派手な前哨戦だな‥‥こりゃ、シベリアの花火は只事じゃねぇぞ」
 この依頼に参加時、本部斡旋所で掲示されていた多数の関連依頼を思い起こし、ゼラス(ga2924)が思わず武者震いする。
「が、まだまだ隊を後任に譲る気はないんでな。死なない程度に頑張るかね」
「久しぶりの大きな作戦ですね。存分に暴れさせてもらいましょう」
 ティーダ(ga7172)の心は早くもこの先に控える「本番」へと飛んでいるかのようだ。
 とはいえ、当面の敵は北方から接近してくる迎撃のHW群。
 今の所正常に作動しているレーダーで確認する限り、中型HWらしき機影1、小型10。さらにその後方でチラチラしている影はCWだろうか。
「こっちにどれだけ食いついてくれるかだよね」
 と柿原ミズキ(ga9347)。皮肉な話、この場合敵の数が多ければ多いほど囮作戦としては「成功」といえる。
「陽動とはいえ、後々の事を考えれば敵戦力を削る機会でもありますしね。可能な限り墜としておきたいところですね」
「蜂の巣を突くのは良い気分じゃないわね。それにこの黄砂、帰ったらレストアしないと故障しそう」
 井出 一真(ga6977)の通信を受け、愛機に合わせ特注した【OR】G Suit for Angelica に身を包むラウラ・ブレイク(gb1395)がぼやく。
 そこでふと思い出したように、編隊の後方を飛ぶ正規軍ウーフーに通信で尋ねた。
「あなたは何て呼べばいいのかしら?」
「TACネーム『クロライナ』とお呼び下さい」
 アンチジャミングを担当する電子戦機から、まだ若いパイロットの声が答える。
 19世紀末に中央アジアで発見された遺跡の街「楼蘭」の現地名にちなんだ名前だろう。もっとも、例のダイヤモンド鉱山跡に隠されているバグア施設は決して「古代遺跡」などというロマンチックなものではないだろうが。

 HW編隊が有視界に入ってわずかの後、レーダースクリーンが乱れ激しい頭痛が能力者達を見舞った。どうやらCWのジャミング圏に捕らわれたらしい。
 慣性制御独特のジグザグ型の動きで接近してくるHW群の中心にいるのは、機首付近に威嚇するようなシャークマウスをペイントした中型HW。バグアにしては妙に人間臭いセンスだが、おそらく元空軍パイロットのヨリシロか強化人間の搭乗するエース機だろう。
 その後方から、半透明のサイコロを思わせるCWが10機、各々数百mの間隔をおき戦域を半包囲する形で展開する。奴らも最近は学習したのか、無闇に密集させロケットランチャーなどで一掃されるのを警戒しているようだ。
 傭兵側も直ちに応戦の態勢を取った。
 接近してくる敵機の編隊目がけ、須佐 武流(ga1461)のハヤブサから先制の127mmロケット弾が放たれる。
「特に狙いは定めず、どれかに当たればいい。それだけで打撃になる」
「さぁ、派手にいきましょうか。本命の偵察部隊の為にもね」
 千糸がS−01改の機体を大きく傾け、ゼラス、一真、ミズキの各機と共にCW狩りへと向かった。
 何をおいても、まずあの電子戦ワームを駆逐しない限りこちらはまともな空戦にならないのだ。
 有効射程に入った所で千糸はブレス・ノウ併用で短距離高速型AAMを発射。ジャミング下にも拘わらず、機体改造とスキル、そして彼女自身の技量も相まって命中率を大幅に上げたミサイルは吸い込まれるように全弾命中、早くもCWの1機を撃破した。
「頭痛の種には早々にご退場願いましょうか」
 CWの側も素早く散開し、雲の中や黄砂の濃い空域へと姿を隠す。
 ゼラスはシュテルンのバーニアを吹かし獲物の姿を探し求めた。
 ワームとしての運動性は低いといえ、単純にレーダーや熱源探査で見つけ出すのは至難の業。
「逆に考えるんだ。怪しいのは、頭痛の濃い方角!」
 敵の怪音波を逆手に取り、頭痛のひどくなる方向へ機首を向けると、雲の中をフワフワ移動するCW1機を発見。
「この頭痛キューブめ‥‥面ごとぶち抜いてやる」
 有効射程からSライフルG−03で狙撃、距離が詰まったところでヘビーガトリングの弾幕へ切替える。
 当初はなかなか当たらなかったが、命中弾が増すにつれ、ついに耐えきれずサイコロ型ワームは砕け散るように爆発した。
 小型HW数機が追いすがり、シャワーのごとく淡紅色のプロトン光線を浴びせてくる。
「お呼びじゃねぇ! 相手は俺じゃねぇよ!」
 ラージフレアを展開して被弾率を下げると、小型HWへの対応は専門班に任せ、ゼラスは次なるCWを求めてシュテルンを旋回させた。
「こいつらは、早めに潰さないと頭痛が酷くなる‥‥」
 やはりシュテルン搭乗のミズキはゼラスのやり方を見習い、頭痛の重さを指標にしてCWを追い求めた。時折妨害の小型HWから放たれるプロトン砲を受け機体が揺れるが、CWを駆逐するまで多少の被弾は覚悟の上だ。
 黄砂に紛れていた1機を見つけ出しレーザーガトリングを浴びせるが、怪音波により知覚攻撃が思ったほどの効果を上げられず、即座にSライフルD−02に切替える。
 3発目の命中弾で、ようやくCW1機を撃墜した。
「ソードウィング、アクティブ! その怪音、止めて貰うぞ!」
 僚機が小型HWと交戦するタイミングを狙い、一真は阿修羅にブーストをかけ手近のCWへと肉迫した。見かけによらずKV並の速度で逃走を図るCWをブーストオンで追尾。MSIバルカンRで牽制しつつ、翼刃で追い越し様に切り裂く。
 剣翼突撃の特性を活かし、ダメージを与えた敵ワームへのとどめは友軍機に任せ、足を止めずに次の目標へと向かった。

 CW対応班3機が電子戦ワームを狩っている間、ティーダ、ラウラ、那由他、ジュエル・ヴァレンタイン(ga1634)は小型HWへの応戦にあたっていた。
 といってもCWが数多く残っているうちはミサイルやレーザーを撃っても殆ど無駄撃ちなので、ある程度レーダーが回復するまでは主に防戦が主体となる。
「北から敵の増援が来るかもしれない。警戒しといてくれよ?」
 ノイズ混じりの無線で正規軍のウーフーにひと声かけた後、ジュエルの雷電は先陣切って突入してきた小型HWの1機に向かった。
 自動攻撃バルカン「ファランクス・アテナイ」とヘビーガトリングの猛射で牽制を加えつつ、一気に距離を詰めてソードウィングで斬撃を加える。
 敵HWの慣性制御に対抗するため常に一箇所に留まらず、目を付けた1機に張り付いて集中攻撃を加えるのが基本戦法だ。
 このまま戦闘が長引けば、いずれウランバートル基地から敵の増援が飛来するのは間違いない。
「それまでに、何としても撤退ルートだけは確保しつつ敵を減らしたいところだぜ」
 那由他もまたCW殲滅までの時間を稼ぐため、Sライフルとロケットランチャーを使い分けつつ、僚機の支援と退路を確保するための位置取りに留意した。
 ラウラは試みに主兵装の高分子レーザーを撃ってみたが、やはりCWのジャミング下で効果は今ひとつだ。
「‥‥相変わらず納得のいかない怪音波ね」
 後方のウーフーを狙いKV部隊の前衛突破を図る小型HWに対し、すかさず突撃ガトリングの弾幕を張って妨害する。
「悪いけど、その子には手を出さないでね」
 出鼻を挫かれ立ち往生したHWの耐久をさらにガトリングで削り、僚機と協力して撃墜に追いやった。

 シャークマウスのエース機はすぐには戦闘に加わらず、しばらくの間配下の無人HWの戦闘を見守っていた。やがて人類側の戦力を把握したのか、主に新鋭KVのシュテルンを狙って攻撃を開始する。
 だがそんな中型HW目がけて加速する2つの機影があった。
 武流のハヤブサ、そして緋沼 京夜(ga6138)のディアブロ。
(「ロシアの空か‥‥」)
 先の依頼で重傷を負った京夜は一命こそとりとめたものの、左目と右手を失い、体は絶えず鈍痛に疼いている。
 だが失った目と手の代わりに手に入れたものがある。
 自分の持つ狂気の意味――そして、心からの願い。
「さて‥‥仕事をこなそうか」
 勝利のみが望みを叶える。
 ――今はただ、それだけのために。
 ロッテ編隊を組んで接近する2機に気づいたか、中型HWも慣性制御で機首を変えた。
「さぁて、俺と戦ってもらおうか‥‥お前の相手は俺だよ!」
 先に仕掛けてきた敵エースのプロトン光線をかわし、武流はMSIバルカンRで牽制射撃を加えつつソードウィングですれ違い様の斬撃。
 だが敵も紙一重の機動でこれをかわし、すかさず近距離用の拡散フェザー砲で反撃してくる。
 京夜はその動きをじっと目で追っていた。
 眼前の敵を分析するのは右目。失った左目が見つめるのは過去。
 2つのデータを元に未来を紡ぎ出し、スコープを第3の目として敵を捉える。
 過去十数回に渡る対有人機戦データと照らし合わせ、敵エースの動きを予測した。
 おそらくバグア軍エースはヨリシロではなく、元一般人パイロットの強化人間だろう。異星人の機体を操りながら、その挙動にはどこか在来型機のクセが残っている。
「よぉ、兄弟。よろしくな」
『‥‥』
 返答はない。京夜も別に返事など期待してはいないが。
「つれないねぇ‥‥ま、挨拶くらいはもらってくれ」
 世間話のごとく話しかけつつ、Aフォース起動でSライフルD−02発射。
 再び慣性制御で避けようとしたHWの装甲が一部抉りとられ、FFの赤光が閃く。
『‥‥!?』
 顔も知らぬ敵エースの驚愕が目に浮かぶ様なのが何となく可笑しく、京夜は思わず口許を緩めた。

 CWがその数を減らすにつれ、徐々に頭痛が治まり、またKVの電子機器も回復していく。
「こちら井出。CW殲滅、確認しました。そちらの支援に回ります」
 再びクリアとなった一真からの通信を切欠に、防戦と牽制に徹していたHW対応班も反攻に転じた。
「さぁ、待ちに待った反撃開始ね!」
 怪音波のため知覚攻撃を抑制されていたラウラが、アンジェリカの本領発揮とばかりSESエンハンサー起動で小型HWめがけ高分子レーザーを叩き込む。
「お礼はこれで十分かしら?」
 同じくティーダもSESエンハンサー起動でレーザーを連射。
「私のレーザーを何発耐えられますか?」
 知覚メインに強化を施した彼女のアンジェリカから放たれるレーザー光線は並の粒子砲よりも凶暴な光の槍と化し、CWの支援を失った小型HW1機をわずか数発で空の塵へと変えた。
「正直、無人の小型HW程度ならこれだけで充分ですね‥‥」
「今度は、こっちが目を塞がせて‥‥もらいます」
 那由他はここぞとばかりRキャンセラーを発動。先刻とは逆に重力波ジャミングを浴びて戸惑う小型HW群に、
「ここまでとっといた虎の子だ、しっかり味わってくれよ!」
 ジュエルの雷電からK−02ミサイル250発が嵐のごとく襲いかかる。
「さぁさぁさぁ、ドンドン来なさい!」
 HW対応班に合流した千糸が距離に応じてSライフル「稲妻」とレーザー砲を使い分け、ダメージを追った小型HWにとどめを刺していく。
 数分足らずの戦闘で、小型HWはみるみるその数を減らしていった。

 武流のソードウィングが中型HWの装甲を切り裂き、京夜のSライフルがプロトン砲の砲身を打ち砕く。
 満身創痍となった敵エース機の撃墜も間近と思われたが、相手もそうそう無能ではなかった。
 実力的に太刀打ちできない――そう悟った瞬間戦闘を放棄し、最後の武器である慣性制御をフルに活かして「逃げ」に徹し始めたのだ。
 いや、正確に言えば時間稼ぎか。
「ウランバートル方面より敵の増援! 小型HW20機以上、CW多数を確認!」
 KV全機の無線に「クロライナ」から警告の通信が飛び込んだ。
 おそらく交戦中、既に増援を要請していたのだろう。
 自分の仕事は済んだ――とばかり、中型HWは周囲に煙幕を展開、生き残りの小型HW3機と共に高加速でウランバートル方面へと逃走した。
 入れ替わりの様に、北の空から黒点のような敵影の群が姿を現わす。
「帰って一服と行こうか。そろそろ限界だ」
 京夜がぼそっと呟いた。
「残念だけどこっちは陽動‥‥それじゃ、逃げるが勝ちってね」
「このへんが潮時か‥‥ちっ! しまらねえけどな!」
 ミズキとゼラスも僚機に連絡、ジュエルの雷電が殿を務める形で、KV部隊はGDABへ向けて撤退を開始した。

 バグア軍も人類側の意図を図りかねたのか、深追いはしてこなかった。
「小型HW7機を撃墜。中型HWのエース機を大破・撃退――まずまずの戦果ですね。それにあれだけの戦力を釘付けしたのですから、ウダーチヌイ偵察部隊への支援としても充分でしょう」
 正規軍ウーフー「クロライナ」から、傭兵KV部隊の健闘を称える通信が入った。
 敵エース機は討ちもらしたといえ、陽動攻撃そのものは成功といえよう。
 だが、問題はこれからだ。
 今回の偵察が首尾良く成功し、ウダーチナヤパイプの底で建設中という軍事施設の正体が明らかになれば――その時から本当の大規模作戦が始まる。
 またウランバートル基地全体の規模を思えば、今日の戦闘で叩いた戦力はごく一部に過ぎない。
「この陽動が虎の尾を踏む結果にならないと良いけど‥‥」
 既に敵HWも姿を消した黄砂に煙る空を振り返り、ラウラは改めて口許を引き締めた。

<了>