●リプレイ本文
●背徳のエース達
UPC宇宙連合艦隊は大混乱に陥っていた。
「ハァーッハッハッハ、見つけたぜUPC軍さんよォ!」
人型変形させたKVが全長40mに及ぶ巨大鎚「魔王」を振るうや、遙かに大きな宇宙戦艦が一撃で脆くもへし折れた。
「ら、雷電!? バカな‥‥なぜ友軍のKVが!?」
「いや待て! 奴が持っているのは、以前軍施設から持ち去られた――」
全てを言い終えぬうち艦橋ごと叩き潰され、また1隻の戦艦が轟沈!
「さぁ‥‥戦争を始めようぜェ!!」
雷電の操縦席で雄叫びを上げるのはブレイズ・S・イーグル(
ga7498)。
元はUPC軍でも名の知れた凄腕の傭兵だが、その残忍かつ好戦的な性格から度々軍上層部と衝突。ついには試験中の大型戦略兵器「魔王」を奪いバグアへと亡命した男である。
「ええい、敵はたかがKV1機――撃て撃てぇ!」
「ダメです! 目標が小さすぎて、拡散インドラ砲の照準が‥‥」
「ならばこちらもKVだ! 後方の空母部隊から迎撃機を発進させろ!」
だがその空母もまた、虚空から放たれたスナイパーライフルの砲弾にブチ抜かれ艦載KVもろとも次々と爆沈していく!
「将官兵卒の区別無く、我が魔弾は撃ち貫く」
黒と蒼にカラーリングされたロジーナの機内で、隻眼の美女が悽愴な笑みを浮かべた。
バグア強化人間、イレーネ・V・ノイエ(
ga4317)――彼女もまた、かつてUPC軍エースでありながら、己の所属部隊を壊滅させバグア陣営に走った裏切り者だ!
「‥‥弱さとは、悪徳にも増して美徳に反する」
詩でも口ずさむかの様に呟きつつイレーネがSライフルのトリガーを引く度、新たな空母が鉄の棺と化して宇宙に散った。
『おまえ達、露払いはそれくらいでよい。後はこのラインホールド(LH)が片付けよう』
バグア艦隊司令官・シモン(gz0121)からの通信を受け、ブレイズとイレーネは素早く宙域から離脱。
奇襲の混乱から立ち直る暇も与えず、UPC艦隊に向けて幾百条ともしれぬプロトン砲の光線、そしてミサイルの嵐が襲いかかった。
●サラスワティ、反撃せよ!
「まさか、主力艦隊が10分と保たず壊滅するなんて‥‥」
遅れて到着した宇宙空母「サラスワティ」の艦橋で、日頃は冷静沈着なマリア・クールマ(gz0092)も動揺を隠せなかった。
「艦長、戦場で迷ったら負けなのです!」
元同艦オペレーター、現在はパイロットに転属した御坂 美緒(
ga0466)が声を上げて励ました。
「あらゆる困難を乗り越えたこのサラスワティなら、絶対に大丈夫なのです♪」
「‥‥そうね。ありがとう、美緒」
前大戦を共に戦った部下の言葉に、微笑んで頷くマリア。
「全速前進。これより本艦がバグア軍を迎撃するわ」
「よーぉ、遅れてすまなかったな嬢ちゃん」
司令室のドアがスライドし、パイロットスーツ姿の青年が軽く手を振りながら現れた。
「拓那‥‥?」
新条 拓那(
ga1294)。超エース級の実力を持ちながら、その自由奔放な性格ゆえ気に入った仕事しか引き受けず、戦場から戦場を渡り歩く流れの傭兵だ。
「どうしたの? 今回の戦闘は『割に合わねえ』と断ったって聞くけど」
「ちょいと気が変わってね。今からでも祭りに参加はできるかい? 報酬2割引働き2割増でサービスすんぜ?」
お気軽な調子で笑う拓那だが、ふと真顔に戻り。
「敵の司令官‥‥シモンとはちょいとワケ有りの間柄でね。飛び入りで悪いが、俺も一口乗らせてもらうぜ? この戦い」
「そう‥‥もちろん歓迎するわ」
心強い助っ人の参戦に、にわかに活気づくサラスワティ司令室。
「さぁ行こう、地球に住む全ての人々の平和への願いが、俺達に力を貸してくれる‥‥!」
パイロットの一人、夏目 リョウ(
gb2267)が改めて仲間達に呼びかけた。
「SES機関出力上昇、サラスワティ発進!」
「ま、まけないぞーがんばるぞー! 私たちで地球を守るんです!」
軍学校カンパネラを卒業後、初の実戦として乗り組み緊張していた新米パイロット・卯月 桂(
gb5303)も拳を振り上げ叫ぶ。
そんな中――。
「‥‥嫌な予感がします。古い知人と再会するような‥‥」
前大戦以来のサラスワティ搭乗員である斑鳩・八雲(
ga8672)は、独り奇妙な胸騒ぎに眉をひそめていた。
「艦長、本艦で突撃をしかけよう。第2バグア帝星を打ち砕けるのは、この艦のインドラ砲しかない」
「でもその前に敵の前衛艦隊‥‥特にあのLHを排除する必要があるわ」
「‥‥大丈夫、そこに至る道は俺達が切り開く!」
マリアに向かい、胸を張って頷くリョウ。
言うが早いか、白き強化服ミカエルに身を包み、飛行甲板へ繋がる移動チューブへと身を投じる!
「来い『漆黒』‥‥大武装変!」
射出された漆黒のアヌビスに白き鎧が吸い込まれると、人型形態に緊急変形した。
リョウに習い、他のパイロット達も次々と出撃していく。
電子戦機ウーフーに乗り込んだ美緒は、操縦席で前大戦の戦勝祝賀会で知り合った某国皇太子の写真を見つめた。
「クリシュナ様‥‥私、この戦いが終わったら告白するのです♪」
サラスワティから発艦、バグア帝星に接近する遙か手前で、まずLHを護衛する大小各種のHW、そして量産型FRが雲霞のごとく行く手を遮った。
「サラスワティには指一本触れさせないのです!」
美緒はウーフーのハイパー重力波ジャミングによりバグア機のセンサーを狂わせ、怯んだところをレーザー砲撃、さらに近づくHWはKV小太刀で仕留めた。
艦首付近に仁王立ちになったリョウの「漆黒」が、迫り来るワーム群にヒートホーク2刀を構えた両手を向けた。
「砕け、切り裂け‥‥ブレードナックール!」
熱剣を握ったまま両腕から発射された有線式の拳が眼前の大型HWを打ち砕き、左右に大きく振り回すことで、炎の刃が触れた全てを切り裂き、発生した衝撃波が周囲の雑魚どもを薙ぎ払う!
「みんなの帰る艦を堕とさせはしないんだから!」
桂の翔幻もランスを振るって近づく敵機は串刺し、遠方の目標はバルカンで撃墜と獅子奮迅の活躍だ。
「あはは、ぬるいぬrキャッ!?」
しかし光学迷彩で忍び寄ったFRの1機から、バグア式グレイヴの一撃を貰ってしまう。
「痛いなぁ、このー!?」
怒ってランスで反撃する桂。八雲のディアブロも駆けつけ、ヤドカリみたいな赤いワームにとどめを刺した。
「ルーキーは、とりあえず僕の後ろを飛んでください。何、体のいい弾除けと――」
そう言いかけた八雲の言葉が止まる。無人の量産ワームとは明らかに違う、何者かの鋭い視線を感じ取ったからである。
●それぞれの決着
壊滅したUPC艦隊の残存艦を掃討していたブレイズとイレーネが、突撃するサラスワティ部隊を発見するのにそう時間はかからなかった。
「ハッ、斑鳩か! また墜とされにでも来たか!」
八雲の機体に目を留めたブレイズが対艦用の「魔王」を捨て身軽になった雷電で動き出せば、
「心の躍る大戦争はこれからだ。だが、その前に‥‥自分はあの艦を‥‥」
イレーネもまた、意味ありげな言葉と共にロジーナのブースターを吹かしてサラスワティを目指す。
同じ頃、立ちふさがる敵機をシュテルンで蹴散らしつつLH近くまで迫った拓那の目に、前方から迫る2つの機影が映った。
射手座の紋章を掲げたゾディアック・ステアー。なぜか後方にKVの阿修羅を従えている。
「見つけたぜ、シモン‥‥!」
「む? あのKVは‥‥」
ほぼ同時に、シモンの方も拓那の機影に気づいていた。
「私は少し遊んでいく。ID−01、貴様は作戦通り例の宇宙空母へ向かえ」
「‥‥了解シマシタ」
「久しぶりだなぁ、斑鳩!」
「やはり、貴方ですか。ブレイズ‥‥!」
八雲はかつての同僚であり、その暴走を止められなかった故に自らも正規軍を離れる切欠となった因縁のライバルと相見えていた。
もはや両者に「戦い」以外の対話などあり得ない。
当初は雷電の重装甲と大馬力にものをいわせて戦闘を有利に進めていたブレイズだが、大質量兵器「魔王」使用による影響か、ふいに各所間接部が軋み始めた。
「チッ、機体が動ごかねぇだと‥‥!?」
形勢逆転かと見えたが――。
「‥‥なぁんてな、V.E.R.T.E.K.S!!」
かけ声と共に雷電に偽装した外部装甲がパージ。真の機体であるシュテルンが出現!
同時に機体から発するレーザー粒子やブーストの軌跡も赤く変わる。パイロットへの負荷と引き替えに機動性を一気に高める決戦システムだ。
「やっぱ戦争ってのは白兵戦じゃねぇとなァ!!」
ヒートディフェンダーと雪村の2刀を構え斬りかかってくる。
「やれやれ。最早、形振りなど構ってはいられませんか‥‥A.X.D.I.A.!」
八雲もまた、ディアブロに組み込まれた高機動システムを起動。
互いの切り札を出した2人のエースは、再び正面から激突した。
『人類は腐った林檎だ。正義や平和を標榜しながら容易く人を殺し嫉み憎み戦争を起こし、血塗れた歴史を繰り返す!! マリア‥‥そのような人類を護ってどうする?』
イレーネの声がサラスワティ艦内の通信機から響き渡った。
「‥‥違う‥‥」
『来い、共にバグアに来るんだ。自分はマリアがそうなるのを見たくない!!』
「あなたは間違ってる、イレーネ‥‥確かに人類は完全じゃない。時に過ちや戦争も繰り返すわ――でも完全じゃないからこそ自らの過ちを認め、それを克服する勇気と愛を持ってるの‥‥だから私は、そんな人類の未来を護るため戦う!」
『うくっ‥‥!』
説得を拒否され動揺したイレーネの隙を突き、サラスワティの対空砲火が、そして美緒とリョウ、桂の攻撃がロジーナに痛撃を与えた。
『うわぁーーっ!?』
機体の制御を失い、地球と月の引力に囚われたロジーナはそのままラグランジュ点へと落ち込んでいく。
「ごめんなさい‥‥‥‥姉さん」
俯いた少女艦長の目に光るものがあった。
『フハハハ! また性懲りもなく追いかけて来たか、新条!?』
「ごちゃごちゃうっせぇぞシモン! お前のせいでフイになった機体は幾つになるやら‥‥修理費の恨みは怖いぜぇ!」
拓那のシュテルンはシモンのステアーと壮絶なドッグファイトを繰り広げていた。
『ならば貴様自身も残骸に変えるまで!』
「舐めるなーっ!!」
シュテルンを人型変形させ乾坤一擲、ヒートディフェンダーで斬り込んでいく拓那。
同じく人型に変形、レーザーブレードを振り下ろしてくるシモンの攻撃をかいくぐり、差し違え覚悟で機関部付近に刃を突き立てる!
『ぐわぁッ!? ふ、不覚! 地球人ごときに――』
大爆発と共に四散するステアー。その爆煙に紛れてLHに肉迫した拓那機は、機動要塞から撃ち出される対空砲火をかわしつつ、置き土産とばかりにその長大な主砲の1本を破壊した。
イレーネ機を退けたサラスワティの前に、何処か見覚えのある阿修羅が迫ってきた。
その操縦席では、虚ろな目をした地球人の若者が黙々と機体を操作している。
「あのエンブレムは‥‥!?」
『ID−01、目標ロックオン‥‥突入シマス』
「井出さん! 正気に戻ってください!」
叫びながら、美緒がコクピットを外してレーザーで狙撃。
大きくバランスを崩した阿修羅機内のID−01――いや井出 一真(
ga6977)の目に、艦橋の窓越しに見つめるマリアの顔がスローモーションのごとく映った。
(「艦‥‥長?」)
愛ゆえの奇跡か!?
「‥‥戦線に復帰します」
再び人類側の戦士に戻った一真は一言だけ通信を送ると、阿修羅の機首を翻しラインホールドへと突撃。
整備士としての知識と洗脳期間の微かな記憶を元に、機動制御中枢と思しき部位へと接近した所で4足形態に変形!
「これでシステムダウンだ!」
サンダーホーンの一撃で制御不能に陥れた後急上昇――。
「SESオーバードライブ! ソードウイング、アクティブ!!」
反転急降下によりLHの頭部をかき切った。
「バカな、この俺がァァァァァァ!!」
八雲のソードウィングで機体の両腕を切断されたブレイズが、血を吐くような叫びを残し宇宙の塵に還る。
ここでもまた1つ、男達の戦いに幕が下ろされた。
●最後の決戦
LHの喪失をものともせず、地球へと進撃を続ける小惑星型要塞――第2バグア帝星!
その前に敢然と立ちはだかり、残る敵ワーム群をリョウのブレードナックルがまとめて消滅させた。
「艦長、今だっ!」
サラスワティ艦底よりせり出したインドラ砲より光の奔流が走り、小惑星の中心部分に突き刺さる。
惑星表面に亀裂が生じ、バグア帝星はそのまま崩壊するかに見えたが――。
『アーッハハハハハハ!!』
見よ! 繭から蝶が羽化するかのごとく、その内部から全高十kmにも及ぶ人型ロボットが立ち上がった!
バグア兵器のくせに、なぜか南国の王女の様な民族衣装をまとった女性型。ただしやたらずんぐりした3頭身で、いかにも子供が喜びそうなデザインである。
「ふふふ‥‥驚いたか、地球人ども! 巨大ラクスミロボの前にひれ伏すがよいわ!」
頭部にあたる司令室で、大バグア皇帝ラクスミ・ファラーム(gz0031)、いやラクスミ・バグアームが笑う。
「あのう、陛下? やはり当初の計画通りギガ・シェイドの方が良かったのでは‥‥」
「無礼者っ!」
見栄えはともかく、その巨体から乱射されるプロトン砲とミサイルの威力はLHをも遙かに凌ぐ!
一条のプロトン光線を避け損ねた美緒機が翼をもがれて大破。
「かすっただけでこの威力‥‥?」
「そ、そんな‥‥あんな巨大なロボットだなんて‥‥もう、駄目なんでしょうか」
「諦めないで。いまインドラ砲第2射のエネルギーを充填中よ」
「そ、そうですよね、諦めなければきっと‥‥」
マリアからの通信を受け、気を取り直した桂は僚機と共に敵の攻撃でボロボロになったサラスワティを必死で援護する。
地球を、愛する者を護るため。みんなの心が1つに集まった時――。
「インドラ砲、発射!」
再び放たれた光の奔流が、巨大ロボットの胸部に命中!
「ぎょわわわ〜!?」
胴体部分が大爆発し、その衝撃でラクスミの乗る頭部ユニットは遙か宇宙の彼方へと吹き飛ばされていった。
「ふふ、柄でもなく頑張りすぎました‥‥。潮時、ですかねぇ‥‥」
ブレイズとの決着を付け、自らも大破したディアブロの機内で八雲が呟く。
だが付近を漂流する美緒機からのSOSをキャッチし、
「おっと。まだ仕事が残っているようで‥‥」
苦笑しつつ、予備ブースターに点火した。
拓那が。リョウが。桂が。そして八雲と美緒が。
相次いで艦に帰投し、互いの生還を喜び合うパイロット達の中に一真の姿を見つけ、駆け寄ったマリアはその胸に飛び込んだ。
「おかえりなさい‥‥」
時に20XX年。再び地球に平和が訪れた――。
<了>