タイトル:【Cc】エリーゼの行方マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/04/24 16:52

●オープニング本文


●中国〜山西省(2009年3月下旬)
 ウダーチヌイへラインホールドの移動が確認され、極東ロシア地域における大規模作戦の発令が刻々と迫るその頃、ここ中国北部においても人類・バグア両軍の戦闘が続いていた。
 目下UPC最大の戦略目的はウダーチナヤパイプ内の『ゲート』破壊にあるが、その一方で依然として北京を包囲、西安を占拠し、さらに中国方面への南進を続けるバグア軍勢力を放置するわけにもいかない。
 その最前線のひとつ山西省の寒村が「中小型キメラの群に襲われた」との通報を受け、正規軍の1部隊が出動。現場にいたキメラ数匹を撃退し、逆襲に備えて引き続き同村へ駐屯を続けていた。

 臨時指揮所として借用した木造農家の屋内で、軍用歩兵外套に身を包んだ男女がランタンの炎を挟んで向かい合っていた。
「アグリッパ破壊作戦を妨害するため、バグア側は『ゾディアック』を投入した様ですね‥‥その中には『蟹座』のFRもいたとか」
「遠回しな言い方はよせ。ハワード・ギルマン(gz0118)‥‥父の体を盗んだあのバケモノがまた現れた、と言いたいのだろう?」
 サングラスをかけた男の言葉に対し、ブロンドの髪を背中まで降ろした美貌の女性士官が怒った様に答える。
 UPC特殊作戦軍所属、エリーゼ・ギルマン少尉。正規軍の能力者士官であると同時に、ゾディアック「蟹座」ギルマンの娘でもある彼女は、現在に至るもUPC内務監察部の「監視下」に置かれていた。
「今度の大規模作戦は、事実上この戦争の勝敗を決するほど重要なものと聞いている‥‥そんな時に、私はここでのんびりキメラ狩りか?」
「もう少しの辛抱ですよ。マールデウ復興支援活動における貴女の働きは上層部でも高く評価されています。近々、監視も解除され総本部への復帰も――」
「そんな事はどうでもいい!」
 エリーゼは同じ能力者である監察官を睨み付け、吐き捨てるように怒鳴った。
「軍が私の忠誠を疑うなら、今すぐKVに乗せて極東ロシアの最前線に送ればいいだろう!? そうすれば、この手であの『蟹座』を――」
「勝てるとお考えですか? エース級の傭兵部隊が束になって撃退された相手ですよ?」
「‥‥」
「とはいえ、ギルマンのFRも大破したそうですから‥‥当分出撃は不可能でしょう。バグア高性能機は修復に時間を要する欠点があるようですし」
「しかし、機体を換えて出てくる可能性は?」
「その時は‥‥傭兵達に任せましょう。むしろそれで『蟹座』が墜とされてくれれば、貴女の身も早く自由になるでしょうから」

「ホントにそうかしら?」

 屋内に寒風が吹き込み、ランタンの炎が揺れた。
 エリーゼと監察官が驚いて玄関口を見やると、そこにウシャンカを被り黒いコートをまとった東洋人の幼い少女が立っていた。
(「村の子供‥‥?」)
 一瞬身構えたエリーゼだが、ふっと表情を和らげる。
「お嬢ちゃん、ここは危険だよ? お父さんとお母さんは? 早く大人の人達と避難を――」
「この村の人間は既に避難済みです!」
 監察官が慌てて叫んだ。
「それに監視の歩哨は? ここに子供なんか入れるはずがない!」
 とっさに覚醒し、エリーゼは手元のアサルトライフルを構え、監察官は懐の拳銃を抜く。
 だが、何か赤い帯状のものが視界を過ぎった瞬間――二人の能力者は手にした武器を叩き落とされ、後頭部に激しい打撃を受けてその場に倒れた。
 いつしか少女の頭からウシャンカが外れ、長く伸びたリボンの先が蛇のごとく空中で揺らめいている。
「ヘェ〜、あんたがギルマンの娘? っていっても、あいつの素顔見たことないからよくわかんないけどさ」
 気絶した監察官には目もくれず、黒衣の少女――結麻・メイ(gz0120)は妖しい笑みを浮かべながらエリーゼの傍らに歩み寄ってきた。
「‥‥貴様っ! バグアの――」
 その場で舌を噛もうとしたエリーゼの顎を、一瞬早く少女の手が捕らえる。
 子供とは思えぬ怪力で、能力者の口を強引にこじ開けた。
「うぐっ‥‥」
「あたしはねえ、別にギルマンには義理もない。娘のあんたにも、なーんの興味もないの。でも、悪く思わないでね? これがシモン(gz0121)様のご意志だから‥‥」
 メイはしゃがみ込むと、エリーゼに顔を寄せ、ゆっくり唇を重ねてきた。
(「‥‥!?」)
 女少尉の口の中で少女の舌が蠢き、口移しにカプセル状の「何か」を無理やり呑み込ませる。
 喉の奥で苦い味が広がったと思う間もなく――エリーゼの意識は急速に薄れていった。


 同年4月上旬。G4弾頭輸送作戦の妨害を図ったギルマン搭乗の本星型HW、護衛のKV部隊に撃墜される。

 時を同じくして、部隊ごと消息を絶ったエリーゼ・ギルマン少尉、及び監察官フィリップ・ガーランド少尉の行方を捜索していたUPCは、やはりキメラの襲撃を受けた中国北部の農村において「エリーゼ少尉らしき人物を目撃した」との情報を入手。改めて傭兵達に捜索依頼を出した。

●参加者一覧

鋼 蒼志(ga0165
27歳・♂・GD
御坂 美緒(ga0466
17歳・♀・ER
ミア・エルミナール(ga0741
20歳・♀・FT
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
風間・夕姫(ga8525
25歳・♀・DF
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

「あの村で、キメラと一緒にエリーゼさんらしき人物が目撃されたのですね。ふむむ‥‥不思議事件なのです」
 遠方に見えてきた目的地の村を前に、御坂 美緒(ga0466)が首を捻った。
「エリーゼさんらしき女性‥‥か」
 鋼 蒼志(ga0165)の口から小さな声が洩れる。
「十中八九、目的は私たちだろうな‥‥」
 風間・夕姫(ga8525)がポツリと呟いた。
 今回の調査に先立ち、彼女はUPCから提供されたエリーゼ・ギルマン少尉、及びフィリップ・ガーランド少尉の顔写真を手がかりに避難所の村人達へ聞き込みを行った。

「バグア達の指揮を執ってたのはもしかしてこの女か?」
「こ、こいつだっ! この女が、キメラどもを引き連れていきなり現れやがった!」
 フィリップの写真には「知らない」と首を振る村人達が、エリーゼの写真を見るなり騒然となったものだ。

 2人の少尉が音信を断った最初の村では、正規軍の一般人兵士が皆殺しにされていた。次に襲われたあの村で、バグア軍は村人を殺さずただ脅迫して追い払うに留めている。
 これは明らかな罠――そう夕姫は睨んでいた。
「気になるのは、やはり現場に居たという『赤いリボンの女の子』だな。どう考えてもバグア側の人間。となると‥‥」
 漸 王零(ga2930)が腕組みして思案する。
「おそらくは結麻・メイ(gz0120)‥‥『ゾディアック』のシモン(gz0121)子飼いの部下か」
 そして失踪したエリーゼは同じゾディアック・メンバー、ハワード・ギルマン(gz0118)の娘。
「UPCの公式発表でギルマンは死亡とされているが‥‥まだ遺体は確認されていない。この一件に、奴が関わっている可能性は否定できんな」
 とはいえ今回の任務はあくまで「エリーゼ、フィリップ両名の捜索」である。
「情報集めって、どーも柄じゃない気もするけど‥‥まあいいや」
 ミア・エルミナール(ga0741)はつい口に出してから、同じ小隊仲間の聖・真琴(ga1622)を気遣うように見やった。
「今度はエリーゼさんにまで、手ぇ出すのかよ‥‥ざけンじゃねぇよ」
 心底からこみ上げる怒りを抑え込もうとするかのごとく、真琴は微かに身を震わせていた。
 その思いは、同じ「ガムビエル」破壊作戦に参加したブレイズ・カーディナル(ga1851)も同じだった。
「くっ‥‥何をやってるんだ、俺は。彼女のことを応援するって、そう決めてたんじゃないのか? なのにっ‥‥!」
 あの戦闘のさなか、傭兵達との通信を切っ掛けにギルマンは己の(正確にはヨリシロにしたハワードの)娘・エリーゼの存在を「思い出した」。
 今回の事件がそれと直接関係しているかは未だ判らない。
 しかし――。
「‥‥駄目だ、今は冷静にならないと。まだ可能性がないと決まったわけじゃない、今からそれを確かめに行くんだ」
 迷いを払うように頭を振るブレイズ。
「ギルマンさんの、娘さん‥‥助けられるなら、助けて、あげたいです。勿論、監察官さんも、です」
 小さな体に似合わぬアンチマテリアルライフルを担いだルノア・アラバスター(gb5133)が、たどたどしい口調で呟く。
 彼女の場合、特にギルマンとの因縁も、エリーゼとの面識もない。それはただ「さらわれた2人を救出したい」という純粋な思いから出た言葉であった。
「必ず、見つけて、みせます」

 道中、キメラの襲撃に警戒しつつ村の手前まで接近した傭兵達は、そこで部隊を3つに分けた。すなわち村の正面と側面、そして背後の3方向から侵入する作戦である。

 正面から村へ踏み込むのは蒼志、美緒、ルノア、夕姫の4名。
 十軒ばかりの農家が集まっただけの小さな村だ。もし「敵」が待ち伏せていたとしても、見つけ出すのはさほど難しい事ではないだろう。逆に言えば、近づくこちらの姿も相手から丸見えと覚悟した方が良さそうだが。
 案の定――村へ近づくにつれ、木造の民家の間をうろつく大柄な人影が目に入った。
 身の丈2m余り。古代ギリシア戦士の銅像がそのまま動き出したような人型キメラ「タロス」だ。数は不明だが、少なくとも3匹以上はいる。
 覚醒した蒼志はドリルスピアを構えると、班の先頭に立って慎重に接近した。
 村の入り口、数十m手前で2人の気配に気づいたか、3匹のタロスは威嚇するように片手に持つ剣を振りかざしたが、それ以上近寄ろうとはしない。
「襲って来ない‥‥?」
 外見は人型といっても、キメラのタロスにそれほど高い知性はないはずだ。
「やはり‥‥『指揮官』がいるということか。村の中に」
 蒼志がドリルスピアの穂先を向けると、タロス達は円盾をかざし、そのまま後退を始めた。
「何か、変です‥‥注意を」
 わざと呼び込むようなキメラの動きに、ルノアが警告を発する。
「‥‥虎穴にいらずんば虎子を得ずだ、ここは奴らの誘いに乗ってやろう」
 夕姫は頷き、仲間達に呼びかけた。

 同じ頃、蒼志達とは正反対の背後から村へ接近した真琴とブレイズの前にも、2匹のタロスが出現していた。
 正面班と違うのは、キメラ達の後ろに軍用外套を羽織った若い男が立っていることだった。
「フィリップ少尉‥‥?」
 ブレイズが思わず声に出す。サングラスで目許を隠してはいるが、それは彼も面識のあるUPC監察官、フィリップ・ガーランド少尉に間違いなかった。
「ふふん。ギルマン隊長の仰った通りだな」
「ギルマン!? やっぱり生きてるのか‥‥!」
 一瞬息を呑むブレイズと真琴。
「能力者の傭兵といっても、所詮は素人の集まりか。ノコノコ罠にかかりに来るとは」
 嘲るようにいうフィリップの手には、形こそ拳銃に似ているが、滑らかな流線型のフォルムを持つ人類軍とは異質な「武器」が握られている。
「‥‥言ってくれンじゃねぇか」
 その瞬間、真琴の中で目前の男は「救出対象」から「敵」へと切替えられた。
「この場で始末しても構わんが‥‥とりあえず来い」
 フィリップが空いた方の手で村の方角を指さす。
「おまえ達の捜している相手は、あそこにいる」
「‥‥」
 真琴達もその場での交戦は避け、ひとまずフィリップとキメラの後についていく。
 単なる洗脳か。それとも、既に強化人間やヨリシロにされているのか――ここで判断ひとつ誤れば、取り返しのつかぬ結果を招きかねないからだ。

「思いの外早く釣れたのね。ま、そっちも覚悟の上なんだろうけど」
 タロスに誘導される形で村内に入った蒼志達を、井戸のある中央の広場でメイが待ち受けていた。
「あら? あんた、確かあのケーキ屋で‥‥」
「お久しぶりです。御坂 美緒なのです♪」
 蒼志は「とりあえず戦う意志はない」とアピールする様にドリルスピアを地面に突き立てた。むろん万一の際は即座に装備できる位置にであるが。
 メイとの会話は美緒に任せ、他の3人は近くに伏兵やエリーゼ本人がいないか、それをさりげなくチェックする。
 広場にいるタロスは計4体。他にもいるかも知れないが。
「メイさんにお聞きしたいことがあるです!」
「何よ?」
「バレンタインのチョコ、無事に渡せましたか?」
「‥‥」
 心なしかメイの体がカクっと傾く。
 まあそこで隙を見せる様なタマでもないが。
「え、ええ‥‥おかげでシモン様もお喜びだったわ。‥‥さすがにバレンタインの意味まではご存じなかった様だけど」
「それは残念なのです‥‥」
「まあバグアだしね」
「ところで、エリーゼさんとフィリップさんを誘拐したのはメイさんですか?」
「いよいよ本題ね。お察しの通りよ?」
「目的は何なのです? やっぱり、ギルマンさんが関係してるですか?」
「うーん‥‥何から説明したらいいのかしらねえ」
 もったいぶるように腕組みするメイ。
「今回は、ちょっとややこしいのよ‥‥ギルマンの奴、最後の出撃前シモン様に頼みこんだらしいのよねー。『ハワードの娘を捜してくれ』って」
「前置きはいい!」
 もどかしくなった蒼志が口を挟んだ。
「エリーゼさんは無事なのか? 今どこにいる?」
「直に聞けばぁ? 本人から」
 メイは意地の悪い笑みを浮かべると、指をパチンと鳴らした。
 それを合図の様に1軒の農家の扉が開くと、UPC軍装姿の若い女性士官がツカツカと歩み出た。
「エリーゼ・ギルマン‥‥そんなところで何をしている――?」
「見ての通りだ。バグア指揮官として地域制圧作戦の指揮を執っているが?」
 にべもない返答である。
「まったく久しぶりの再会がまさかこんなシチュエーションとはな‥‥笑えないぞエリーゼ」
 夕姫が苦々しくいい、蒼志はさらに語気を荒げる。
「いいか、もう一度言おう。俺が聞きたいのは、お前がこんな所で何をしているかという事だ――それを、自分の意思で、自分の言葉で答えてほしいものだが」
「自分の意思? 笑止だな。そういうおまえは、自分がそのエミタAIに『操られている』と疑った事はないのか?」
「お前が何の為に今まで戦ってきたか‥‥俺がそれを問う権利は無い。ならば、それを問う権利は誰にある――お前じゃないのか?」
 語りかけながら、蒼志はエリーゼの反応を懸命に探っていた。
 本人の意思か。洗脳か。それとも――。
 夕姫もまたエリーゼの挙動を注意深く観察していた。単純な洗脳というには、その反応はあまりに自然だ。
(「ちっ、悪い予感というのは当たる物だな‥‥全然嬉しくないが」)
 少し後ろに下がったルノアは、より広い視点からキメラの動き、その他伏兵の存在を警戒する。
「お前が何を思ってその場所にいるか‥‥あぁ、何も思っていないのかもしれんが」
「まあ待て。他にも『お客』が来たようだ」
 エリーゼの視線の先に、側面からの侵入を図った王零とミアの姿があった。
「あーあ。見つかっちゃたね、王兄」
「やぁ、二人とも久しく。メイは山の分校以来か? エリーゼは無事そうで何よりだ‥‥」
「そーいや、そっちのデカいお兄さん見覚えがあるわね」
 エリーゼは無言のままだ。
「こちらとしては‥‥まぁ‥‥争う気はないよ。ただ‥‥少し教えてもらいたい事があるだけさ」
 王零は「国士無双」を降ろし、なるたけ穏やかな口調で問いかけた。
「エリ―ゼがそちらにいるのは彼女の意志によるものか?」
「どうかしらねぇ? そっちの傭兵さん達とある程度話したから、もう判ったんじゃない?」
 蒼志達の方を見やり、メイがクスクス笑う。
「彼女の体に手を加えるとか何かしたかい?」
「あたし、知ーらない♪」
「あっさり捕まった馬鹿な男は死んでるかい?」
「『馬鹿な男』とはご挨拶だな」
 第3の声に振り返ると、そこに新たなタロス2匹を従えたフィリップの姿がある。
 真琴とブレイズも一緒だった。
「‥‥役者が揃ったようだな」
 再びエリーゼが口を開き、唇に薄い笑いを湛えた。

「少尉‥‥すまない。謝らずには居れないよ。こんな事態を招いたのも、俺たちの迂闊な行動のせいだ。だから‥‥この言葉が『君』に届いているかは知らないが‥‥すまない」
 エリーゼの顔を見るなり、ブレイズは詫びた。
「とんでもない。『私』は感謝しているよ? UPCに残った所で、裏切り者の娘として一生飼い殺しの運命だったからな」
「貴女のお父さんの身体を利用してたアイツは‥‥墜とされたよ」
 女少尉の視線が真琴に向けられた。
「アイツ? ああ、ハワードの事か」
「これで少しは‥‥気持ちも楽になるよね? だから‥‥帰ろ? 一緒に‥‥」
「くどいわね! それだけ喋らせてやりゃもー充分でしょ!?」
 突然メイが大声を上げ、強引に会話を打ち切った。
「お前ぇにゃ言ってねぇ‥‥すっこンで――!?」
 真琴の言葉が終わらぬうち、6匹のタロスが一斉に動き出していた。
 エリーゼとフィリップがバグア製らしき「拳銃」の銃口を真琴、ブレイズに向ける。
 その瞬間を蒼志は見逃さなかった。
 片手でドリルスピアを引き抜き、すかさずエリーゼの側に駆け寄るや素手の拳を叩き込む。
「いい加減目を覚ましやがれ! この馬鹿が!!」
 赤光が閃く。コンクリート壁を殴りつけた様な感触。
(「FF‥‥!?」)
 片手のドリルスピアをエリーゼが蹴り飛ばす。驚く蒼志の顔面に銃口が据えられた。
 王零がショットガンを投げ捨て、仲間達に「手放せ!」と叫んだ。
 同時にエリーゼ目がけ、照明銃を発射。
「甘い!」
 鞭の様に伸びたメイのリボンが初速の遅い照明弾をはたき落とす。
 しかし、それこそが王零の狙いだった。
 密かに安全ピンを抜いた閃光手榴弾をメイ達に投げつける。「手放せ!」は仲間への合図だ。
 照明弾など比較にならぬ光の炸裂に、さしもの強化人間も両手で顔を覆った。
 真琴の両足が大地を蹴る。本来はエリーゼを確保するため考えていた作戦だが、今救うべきは丸腰で捕らえられた蒼志だ。
 キアルクローでエリーゼを牽制、仲間の体を抱え瞬天速で離脱。
 メイの小柄な体が傍らの井戸の中へと躍り込む。エリーゼとフィリップもその後に続いた。
「抜け道――!?」
 後を追おうとした傭兵達の前に、円盾と剣をかざしたタロスの群が立ちはだかった。
「盾で、防いだ、からって!!」
 ルノアの対物ライフルが火を噴き、タロスの太腿を撃ち抜く。
「頑丈さなら負けぬ!」
 豪力発現で筋力を増したミアがタバールを振い、キメラの盾をFFもろとも断ち割った。
 タロスの剛力と防御力には侮れぬものがあったが、その反面動きが鈍い。
 王零、ミア、蒼志、夕姫が正面から力で対抗、美緒が超機械で足止め。
 真琴が側面からの突入で攪乱し、傷ついた敵にはルノアが狙撃でとどめを刺す。
 傭兵達は徐々にキメラを圧倒していった。


 最後のタロスが倒れた直後、地響きと共に井戸から爆煙が噴き上がった。メイ達は地下の横穴から逃れた後、仕掛けた爆弾を作動させたらしい。
「ちっ、悔しいが今回は奴らが一枚上手だったか」
 舌打ちする夕姫。
「しかしまあ‥‥連中も何を考えているのやら。あたしにはさーっぱり分かんないけど‥‥まあ、可愛げがないのは間違いないよね」
 ミアが肩をすくめて頭を振る。
 美緒の錬成治療で応急手当を受けた後、傭兵達は人気のなくなった村内を改めて捜索した。
 何か証拠になる物はないか? 他にもキメラが潜んでいないか?
 そして――何軒目かの民家の屋内で、彼らは「それ」を発見した。
 木製の椅子に座った野戦服の男。
 戦争の古傷らしき顔の大火傷。膝の上には、真琴や王零が幾たびもコクピット越しに目撃した、あの金属製の仮面――。

 その男、ハワード・ギルマンは既に息絶えていた。

「ホントに死んだのなら‥‥私は‥‥越えるしかないのか‥‥アイツを‥‥」
 ギルマンの死体を前に、呆然として呻く真琴。
「‥‥もう、本当にどうしようもないのなら‥‥その時は覚悟を決める。だが、もしわずかでも可能性があるのなら、俺は諦めたくない!」
 ブレイズが叫び、その拳で激しく床を打った。

<了>