タイトル:奮戦!新米オペレーターマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/05 00:03

●オープニング本文


●ラスト・ホープ〜UPC本部
「わぁ〜、皆さん忙しそうなんですね〜」
 若い女性の先輩オペレーターに案内され、ULT斡旋所のオフィス内に入室したヒマリア・ジュピトル(gz0029)は驚きに目を丸くした。
 なぜ彼女がこんな所にいるかというと、極東ロシアにおける大規模作戦から帰還したあと、かねて勉強していたULT職員採用試験に合格し、晴れてオペレーターの資格を取得したからである。
 もっとも身分はまだ「研修生」。しばらくは先輩オペレーターの指導の元で実地に仕事を覚える、いわゆるOJT期間が続くことになるが。

「ヒマリアちゃんならすぐに慣れるわよ。そうそう、この用紙に体のサイズを記入してね? 後で制服を頼んでおくから」
「はーい」
 とりあえず初日は私服のまま、指定された自分のデスクへちょこんと座る。
(「今までは傭兵だったけど、今度はオペレーターになって傭兵さん達をサポートする立場かぁ‥‥んー、やるぞぉ!」)
 折しも季節は四月。気分はまさに新卒入社のフレッシュマンである。
 支給されたヘッドセットマイクを頭に付け、
「これで傭兵さん達を助けて、バグアをやっつけるお手伝いをするんですね? あたし、頑張ります!」
「ウフフ、最初からそんなに力まなくたっていいのよ。私達の仕事って案外地味でねえ、通報っていっても、大抵は日常のトラブルとか、その手の他愛ない――」
 デスクの電話が鳴った。
「――ハイ! ULTでーす☆」
『たた、助けてくれっ!!』
 目一杯朗らかな声で応対したヒマリアの耳に、恐怖にうわずった中年男性の声が飛び込んだ。
『ま、町にバグアの円盤が!! そ、それとでっかいキメラも――』
「‥‥あのぉ、先輩‥‥」
 口の端を引きつらせて振り返ると、何故か先輩オペレーターも顔面蒼白でガタガタ震えている。
「どど、どうしよう‥‥まさか本当にバグアだなんて‥‥」
「え? え?」
「ごめんなさいヒマリアちゃん! じ、実は私も最近オペレーター採用されたばかりの新米で、本物のバグア事件なんて、ま、まだ対応した事ないのぉ〜!」
(「でえええぇ〜〜っ!?」)
 指導してくれるはずの先輩が半ベソをかいて動転し、もはや使い物にならない。
 とはいえ、このまま放置しておくわけにもいかず。
(「お、落ち着くのよあたし‥‥考えて見れば、キメラやワームなんてついこないだまで自分で戦ってた相手じゃない?」)
「もしもし? 直ちに救援を送りますので、ご安心ください。まずそちらの住所から――」
 やむなくヒマリアは独りで通報者から情報を聞き出し、傭兵募集の依頼を出す準備にかかるのだった。

●参加者一覧

大曽根櫻(ga0005
16歳・♀・AA
スコール・ライオネル(ga0026
25歳・♂・FT
御坂 美緒(ga0466
17歳・♀・ER
クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
ステラ・レインウォータ(ga6643
19歳・♀・SF
御崎 緋音(ga8646
21歳・♀・JG
鷲羽・栗花落(gb4249
21歳・♀・PN
秋津玲司(gb5395
19歳・♂・HD

●リプレイ本文

 町の南側に広がる海方向から襲来した小型HW編隊と飛行キメラ群。それらの敵を背後から追う様な形で、傭兵達のKVは海上を飛び続けていた。
「ヒマリアさんも着任早々災難だ‥‥とはいえきっちり仕事してもらわないと」
 鮮やかなブルーに染め上げたロングボウ「アジュール」の操縦桿を握りつつ、鷲羽・栗花落(gb4249)は本部に通信を送った。
『ハーイ、頑張ります☆』
 傭兵から転職ほやほやの新米オペレーター、ヒマリア・ジュピトル(gz0029)の応答が返る。
「指示のほうは宜しく、行くよアジュール、大空へ!」
 そんな通信のやりとりを聞きつつ、
「あれって確か‥‥最初の依頼のときのお姉さん‥‥? オペレーターになってたんだ」
 岩龍改の機上で、明星 那由他(ga4081)は自らの初依頼で出会った能力者の少女を思い浮かべる。あの当時はまだ傭兵候補の訓練生だったが。
「前線はなにがあるか‥‥分からないし、弟さんもきっと安心してるんだろうな」
「ヒマリア、オペレーターになったって聞いて、吃驚しちゃったよ‥‥やっぱり、あの時の番組の影響? 凛、応援してるから」
 ロールアウト間もない新鋭KV・ロビンを駆りつつ、勇姫 凛(ga5063)がにこっと笑う。以前の別依頼で、凜とヒマリアはULTオペレーターを紹介するTV番組制作に参加していた。
『ウン、それもあるかナ? 他にも臨時で代理オペレーターやったり、色々あったけど‥‥あ、いま軍からデータが来た!』
 僅かな間を置き、凜を含むKV全機にバグア軍に関する最新情報が伝えられた。
『えーと敵戦力は小型HWが5機、対KVクラスの飛行キメラが5匹‥‥HWは全機量産型の無人タイプだそーです』
「ありがとう。ヒマリア、お互いがんばろ‥‥凛だって、ロビンに乗っての初出撃なんだからっ!」
「ヒマリアさんのオペレーター初仕事なのですね。頑張りますよ♪」
「彼女のオペレーターとしての初陣を完全なる勝利で祝って差し上げる為にも、ここは頑張らないといけませんわね」
「ヒマリアちゃんのオペレーターデビュー戦かぁ。完全勝利でスタートを切らせてあげたいよね♪」
 傭兵時代からヒマリアを知る御坂 美緒(ga0466)、クラリッサ・メディスン(ga0853)、御崎緋音(ga8646)らも我が事の様に張り切っている。
「初陣」といえば、大曽根櫻(ga0005)もそうだった。
 傭兵としては既に豊富な実戦経験を持つ彼女だが、これまで専ら生身戦闘の依頼が多く、KVに搭乗しての依頼参加は今回が初めてなのだ。
「少々不安なところもありますが、皆さんよろしくお願いします」
『心配ありませんよー。大曽根さんほどのベテランなら、エミタAIのサポートでKV操縦にもすぐ慣れますから♪』
「ヒマリアさんも情報提供の方、よろしくお願いしますよ? 私も若干パニックになってしまうかもしれませんが、その時ヒマリアさんがしっかりしてくださらないと、大変な事になるでしょうからね」
 ウーフーを操縦しつつ、櫻は無線機の向こうの新米オペレーターに微笑んだ。

 通報のあった現場の近くまで来ると、既にHWとキメラの群は町上空へ到達していた。
「ふむ、町への襲撃か‥‥バグアお得意の無差別攻撃、許すわけには行かないな」
 覚醒の証として右目を赤く染め、秋津玲司(gb5395)が淡々と呟く。
 競合地帯から遠く離れ、特に重要施設があるわけでもない平和な街。それでもゲリラ的にワームやキメラを送り込み、「破壊のための破壊」としか思えない無差別攻撃を繰り返すのはバグアの常套手段だ。
「まずは、町の上にいる敵を海のほうに誘き出したいですね。町への被害がでるとまずいですし‥‥」
 ステラ・レインウォータ(ga6643)の言葉通り、たとえHWやキメラを撃墜しても町に被害が出ては意味がない。特にHWは墜落後に自爆する可能性が高いのでなおさらだ。
 そこで傭兵達は対HW班・対キメラ班の二手に別れて編隊を組み直した。

・対HW班
 凛
 クラリッサ
 スコール・ライオネル(ga0026
 緋音
 栗花落

・対キメラ班
 那由他
 玲司
 櫻
 ステラ
 美緒

 まずは対HW班が先行して敵戦力を海上に誘き出し、そのうえで海上に待機した対キメラ班と共に包囲・殲滅に持ち込もうという作戦である。
 玲司のロングボウ以外はウーフー・岩龍改等の電子戦機を主体にした対キメラ班5機は半径20kmのジャミング中和圏に町を収められるポイントで待機。逆に対HW班5機は各々ブーストをかけ一斉に町の上空を目指した。
「加速装置スイッチオンだ‥‥一気に駆け抜ける!」
 凜のロビンを始め、5機のKVが超音速の矢と化してデルタ編隊を組んだ小型HW群を中央から追い抜いていく。その際スコールのミカガミB型、緋音の雷電、栗花落の「アジュール」は、追い越し様手近のHWにソードウィングで斬りつけた。
 いったん敵編隊の前方に出て頭を抑えたところで、5機は別々の方角に旋回。HWのプロトン光線を回避しつつ交戦を開始した。といっても目的はまず海への誘引。また町への被害を極力避けるため、攻撃手段もバルカン砲や知覚兵器がメインとなるが。
「Hey! どうしたどうしたー! そんなんじゃ全然ゾクゾクしねぇな!!」
 R−P1マシンガンで牽制しつつスコールは再びHWに翼刃の斬撃を浴びせる。敵もフェザー砲で反撃してくるが、多少の被弾は覚悟の上だ。
 クラリッサは機体右翼を全て漆黒に塗装したシュテルン「アズリエル」のPRMシステムで回避を上げつつ、やはりR−P1マシンガンでHWを牽制した。
「ほらほら、逃げないと堕としちゃうよ〜?」
 敵編隊に向け20mmバルカンの弾をばらまきながら、緋音が挑発。
 凜はロビンの特殊性能、アリスシステムを起動させた。
 KVとエミタ、2つのAIがリンクすることで練力の流れを変え、一定期間知覚を下げる分運動性を向上させる画期的システムだ。
「みんなの住む街を、これ以上お前達の好きにはさせないんだからなっ!」
 敵の攻撃を回避しつつ、レーザーバルカンの掃射を浴びせる。
 バグア側もこの「餌」に釣られた。
 HW、飛行キメラは共に背後から出現したKV部隊を「優先目標」とみなして攻撃を始めたのだ。
「あら、意外‥‥。でも‥‥。ふふっ、鬼さんこちら、手のなる方へ〜♪」
「こんなんじゃ俺の牙は折れねぇぞ! もっと根性見せて見やがれ!!」
 内心でほくそ笑みつつ、緋音とスコールがソードウィングの斬撃を置き土産に海方向へと抜ける。他のKVも反転して海へと後退すると、まずHWが、続いて飛行キメラの群が一団となり追撃してきた。
「‥‥来た!」
 海側で上空待機していた那由他は、岩龍改のレーダーと目視で敵戦力を確認するや、HWとキメラに分けそれぞれマーキング・ナンバリングして僚機にもそのデータを転送。
 そのまま海岸線を越えた対HW班は、対キメラ班の待機ポイントまで誘き出した所で――。
「‥‥いい加減ストレスが溜まりましたわね。では、羊の皮はそろそろ脱ぎ捨てることにしましょうか」
 クラリッサはおもむろに機体を旋回させると、それまで封印していた短距離高速型AAMをHWの1機に叩き込んだ。
「告死天使の名が伊達ではないことをその身に刻んで差し上げますわ」
 不意の反撃を受け戸惑うように回避行動を取るHWを追い込むように距離を詰めるや、8式螺旋弾、続いてスラスターライフルの猛射を浴びせたちまち1機を爆散させる。
「さて‥‥もう遠慮はいらないよね。やっちゃおっか♪」
 緋音の雷電「ヘルヴォル」も、その凶暴な性能を剥きだしにすると高分子レーザー、ソードウィングによる近接戦で思う存分HWの機体を切り刻む。
 誘導中は専らガトリング砲メインで戦っていた栗花落の「アジュール」は、ロングボウ本来の攻撃性能をフルに発揮し始めた。
 狙いを定めたHW1機をガトリング砲で掃射、ある程度敵の回避方向を絞った所でKA−01エネルギー集積砲と多目的誘導弾を立て続けに発射。ダメージを受けながらなおもHWが回避を図る間にブーストオンで急上昇、敵の頭上から一気に急降下しつつDR−2粒子砲を撃ち込み、さらにソードウィングの斬撃でとどめを刺した。
「ふふん、アジュールの大きな剣翼は一味違うでしょ♪」

 一方、待機していた対キメラ班も、やや遅れて到着した飛行キメラに攻撃を開始していた。
「ここまで誘導できれば墜としても問題ない」
 蝙蝠の様な翼を羽ばたかせつつ炎ブレスを吐き付ける翼竜型キメラに対し、玲司のロングボウは敵射程外まで距離を取り、町に対して流れ弾の行かない角度から新型複合式ミサイル誘導システム併用でH−044短距離用AAMを連射。HWに比べると運動性・耐久力ともに低い空の怪物を確実に仕留める。
「こんなものでしょうか‥‥?」
 櫻は目視でキメラの動きを読みつつ、Hミサイル、高分子レーザーを駆使してKV初戦闘とは思えぬ腕前で敵の生命を削り取っていった。
 生身戦闘で磨いた経験と勘はそのままエミタAIに蓄積されるので、KV戦においても充分役に立つようだ。
「翼竜型キメラ‥‥強そうですけど、恋する乙女は負けませんよ♪」
 ラージフレアを機体の周囲に展開した美緒は、臆することなく距離を詰めると敵の巨体にHミサイル、レーザーをお見舞いする。
「恋の力を思い知るが良いのです♪」
 待機中は敵味方の動向をモニタリング、ヒマリアと情報交換を続けていたステラも、乱戦が始まるとキメラの1匹を目指してウーフーの速度を上げた。
 敵の動きから炎ブレスを警戒しつつ、127mmロケット弾、続いてUK−10AAMを叩き込む。被弾の傷口から血をまき散らし、翼を広げた巨獣は苦しげに空中でもんどりうった。
「岩龍でも‥‥キメラ相手ならなんとかなる‥‥かな‥‥」
 当初は電子管制に努めていた那由他も、敵味方の戦力がちょうど1:1であることからノーマークのキメラを狙い戦闘に加わった。
 アウトレンジからHミサイルを発射、キメラが体勢を崩したところで後方に回り込む。ブレスを吐こうと振り向いた敵の鼻先をSライフルRで狙撃して機先を制し、さらにブーストをかけレーザーを浴びせ続ける。
 在来型戦闘機なら10機がかりで墜とせるかどうか――といわれる飛行キメラも、やがて呆気なくバランスを崩し、錐もみ状態で海上へと墜落していった。
「ジャミングさえなければ‥‥、KVって元々小型HWくらいの力はあるのかも‥‥」
 海上でもがきながら水没していくキメラの最期を眺めながら、那由他は何となくそう思った。

 海側への誘導作戦が計画通り成功した頃、凜機のアリスシステムも効果が切れた。
 運動性は元に戻ったものの、ここからが高知覚KV・ロビン本来の戦いである。
「ヒマリアの新しい出発をお祝いする為にも、凛、絶対負けないんだからなっ!」
 旋回してHWへと接近すると、2連装のレーザー砲を全力掃射で攻撃開始。
 敵のプロトン砲としばし撃ち合いになるが、やがてHW側が先に力尽き墜落していった。
 海上に出たところで追撃してきたHWに対し、スコールは温存していたUK−10AAMを惜しみなく叩き込み、充分弱らせたところでソードウィングによるとどめの一撃を加えた。
「陸戦が主体のミカガミでも装備次第ではドッグファイトも十分やれるな」
 機体生命・練力共に余裕があるので苦戦している僚機の援護に入ろうと周囲を見渡したが、その必要もなさそうだった。
 その頃には、小型HW5機、飛行キメラ5匹は全て撃墜され海の藻屑と化していたのだ。
「全機撃墜、これで依頼は終了か‥‥町の方は大丈夫かな」
 やや心配そうに、玲司が海岸線の方を見やる。
『皆さん、お疲れ様ぁ☆ UPCは避難命令を解除しました。町への損害はゼロだそーです♪』
 ヒマリアの明るい声がKV全機の無線に伝えられた。
「ヒマリアさん、初仕事本当にお疲れ様。アジュールもお疲れ様、帰ったら整備頼んであげるからね♪」
 戦いを共にした愛機に労りの言葉をかける栗花落。
「パニック状態にならなくてよかったです。私もヒマリアさんも‥‥」
「帰ったら、クリシュナ様に報告の手紙を書くです。小さいけど勝利のお知らせなら、きっと喜んでくれるのです♪」
 櫻や美緒も任務達成の喜びに浸りつつ、KVの機首をL・Hへと向けた。


 L・Hへの帰還後。本部へ報告のついでに傭兵達はオペレーター室にいるヒマリアの元を訪れた。
「おめでとう、ヒマリアさん。これからは頼りにさせて頂きますわね」
「ありがとうございます。でも、今回はこれでいっぱいいっぱいだったんですよ〜」
 クラリッサから祝福の言葉を贈られ、照れくさそうに舌を出すヒマリア。
「しっかしオペレーターに転職したって聞いた時は驚いたな」
 自販機で買ったコーラを片手に、気さくな口調でスコールがいう。
「ええ、まあ‥‥あたしなりに、バグアと戦うみんなを支える方法があるんじゃないかなー? なんて考えちゃったりして‥‥」
「何か思うところがあったんだろ? だったらそれで良いんじゃねぇか?」
 グイっと一口コーラを飲み、
「俺としてはリネーアみたく現場の実情やキメラやワームに関して実際に目で見て知った奴がオペレートしてくれると言うのは心強いしな」
「うわっ! ‥‥あんな大先輩に追いつくなんて、何年かかるか判りませんけどぉ。でもでも頑張ります☆」
「これから、宜しくお願いしますね」
 初対面になるステラも、にっこり笑う。
「オペレーターさんがいるから、私たちが迅速に動けるんですから」
「今度は制服姿を拝める事を期待しとくよ、頑張れよ新人オペレーター」
 そう言い残すと、スコールは手をひらひら振りながら去っていった。
「ヒマリアさん、ナイスなお仕事でしたよ♪ 今度ご褒美をしてあげるです♪」
「ええっ!? 何かご馳走してくれるんですかぁ?」
 美緒の言葉に目をキラキラさせるヒマリア。
(「当然、記念にオペレーター服姿のヒマリアさんをふにふにしてあげるですね♪ こっそりホックも外しておくのです♪」)
 朗らかに笑いつつも、既にその時の段取りまで決めておく美緒なのであった。

<了>