タイトル:【DR】送り狼マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/05/07 21:56

●オープニング本文


 極東ロシア地域を舞台に展開した大規模作戦「ダイアモンド・リング」は、ラインホールド撃破、及びバグア軍大規模輸送施設『ゲート』機能停止を以て人類側の勝利に終わった。
 しかし全ての戦いが終わったわけではない。ウダーチヌイ周辺に残存し、今や総崩れの状態でロシア・アジアの各方面へと撤退しつつあるバグア軍を徹底的に追撃し、極東ロシアを改めて人類側勢力圏として安定させねばならぬ。
 それはまた、同地域に眠る膨大な地下資源を再開発することで、今後も続くであろう対バグア戦争における大きな力ともなろう。

●ヤクーツク〜UPC空軍基地
 基地内のサイレンが鳴り渡り、待機所で古めかしい石炭式ストーブにあたっていた傭兵達は乾いた寒風の吹きすさぶ滑走路へと走り出た。
 上空を哨戒していた正規軍・岩龍改より、ウダーチヌイ方面からウランバートルを目指し撤退するバグア軍部隊を発見の報が入ったのだ。
 輸送艦「ビッグフィッシュ」1隻――大物である。しかも機関部を損傷しているらしくスピードも遅く、護衛も若干の小型HWのみ。
 あるいは艦内に負傷したバグア兵や強化人間達が乗っているかもしれないが、情けをかけている余裕などない。奴らをみすみすウランバートルへ帰せば、いつの日か再び人類の敵として牙を剥いてくるのは間違いないからだ。

「頑張れよー!」
「やっつけちまえ! 俺達の獲物まで残さなくったっていいからな!」
 既に勝利の祝杯とばかりウォッカを呷るロシア兵達が酒瓶を振り上げ、口々に声援を送る。
 言ってるそばから上官に見つかり、次々とどつき倒されていくが。
 そんな酔っぱらいどもには脇目も振らず、能力者達はハンガーから引き出されたKVへと相次いで乗り込んでいくのだった。

●参加者一覧

九条・命(ga0148
22歳・♂・PN
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
須佐 武流(ga1461
20歳・♂・PN
聖・真琴(ga1622
19歳・♀・GP
オルランド・イブラヒム(ga2438
34歳・♂・JG
夕凪 春花(ga3152
14歳・♀・ER
霧島 亜夜(ga3511
19歳・♂・FC
雑賀 幸輔(ga6073
27歳・♂・JG
フォル=アヴィン(ga6258
31歳・♂・AA
赤宮 リア(ga9958
22歳・♀・JG

●リプレイ本文

●追撃者たち
「えへへ♪ お任せ☆」
 酒瓶を振り上げ声援を送るロシア兵達に向けて、聖・真琴(ga1622)は親指を立て笑顔でウィンクした。
 だが愛機ディアブロの操縦席に飛び乗るや、その表情は一変して険しい戦士の顔に変わる。
「さぁ‥‥『悪夢』の始りだ。逃がしゃしねぇ‥‥絶望を‥‥たっぷり味わいな」
「手負いの鯨にHW‥‥大規模作戦も俺たちが勝ったってのが実感できる戦いだな」
 寒風の中、須佐 武流(ga1461)のハヤブサ改も滑走路を蹴って離陸する。
「だが‥‥まだ終わっちゃあいねぇんだよ。やった事の後始末は‥‥きちんとつけてもらわないとな? のし付けてしっかり返してやるよ!」
「さて、出来る時に少しでも多く敵に損害を与えておきましょう」
 と、雷電搭乗のフォル=アヴィン(ga6258)。
「この戦いの勝利を確かなものにする為に、最後まで気を抜かずに頑張っていこうぜ!」
 朱塗りのウーフー「緋閃」の機上より、霧島 亜夜(ga3511)が仲間達に通信を送る。
 バグア軍の主力は既にモスクワ及びウランバートル方面へ撤退したが、未だにウダーチヌイからヤクーツク周辺地域には孤立した敵の残党がウロウロしている。逃走を図るバグア残存部隊を確実に殲滅し、極東ロシアでの戦闘をすっきりと終わらせたい。
 しかし残敵掃討戦とはいえ油断は禁物だ。
(「普段とは立場が逆だからな‥‥ひとつ奴らの逃走術を参考にさせてもらうか」)
「相手は手負い‥‥油断は出来ませんね」
「奴らも少しでも戦力を残すため、捨て身でかかってくるだろうからな‥‥油断は禁物だ」
 共にシュテルンを駆る夕凪 春花(ga3152)、雑賀 幸輔(ga6073)も改めて気を引き締める。
 ヤクーツク基地上空に舞い上がった傭兵達のKV10機は、レナ川流域に沿う形で南西方向に飛び続けた。

●敗走の巨鯨
 やがてチタ州・ヤブロノイ山脈上空に到達した頃、まずウーフーのレーダーに、やがて目視で空中を滑る様に飛ぶ巨大な機影が確認できた。
 バグア輸送艦ビッグフィッシュ(BF)。全長約2百m、同タイプの輸送ワームの中では小型の部類に入るが、それでも人類側兵器でいえば20世紀の戦艦に匹敵する巨体だ。
 ウダーチヌイ方面の戦闘で機関部を損傷したか、レシプロ輸送機並みの低速でノロノロと飛び続けている。向かう先はおそらくバグア・ウランバートル基地。
「目標確認。BF1隻、護衛の小型HW7機‥‥」
 オルランド・イブラヒム(ga2438)の淡々とした声がウーフーの無線を介して伝えられる。同じく亜夜の「緋閃」も情報管制にあたり、KV各機が追撃戦のフォーメーションを取るよう調整した。

・HW対応班
 九条・命(ga0148)&フォル
 赤宮 リア(ga9958)&幸輔
 春花&オルランド

・突破班1
 真琴&武流

・突破班2
 霞澄 セラフィエル(ga0495)&亜夜

 基本は2機1組のロッテ。前方に位置するHW対応班6機がバグア軍護衛機を引きつけている間、突破班4機がBF本艦を攻撃。損傷機とはいえ、あれだけの巨艦を撃破するには並大抵でない火力が必要となるが、それについては傭兵達にも秘策があった。
 バグア側もヤクーツクからの「送り狼」に気づいたか、BFの殿を務める形で随伴していた小型HW7機が慣性制御で180°反転、速度を上げてKV部隊へと向かってくる。
 オルランドはHW間の通信量から敵エース機、もしくは管制機の存在を探ろうとしたが、どうやら彼らは母艦であるBFからの指令に基づき行動しているようだった。
「予定通り奴らの出鼻を挫く‥‥交戦まであと60秒‥‥」
「無事に帰るまでが遠足とはよくいったもの‥‥とはいえ次の遠足を楽しみにされても困るがな」
 早くもHW群から放たれてくる淡紅色のプロトン光線を避けつつ、命がディアブロを前進させる。
「ロシアで散々暴れてくれたバグア軍、このまま大人しく逃がす訳には参りません」
 リアもまた、接近するHWをぎりぎりまで引きつけつつロックオン。
「目標を射程内に捕捉‥‥攻撃を開始する!」
 幸輔のシュテルンが有効射程に入ったHWに対しUK−10AAMを発射。
 それに習い、他の対HW班5機も一斉にミサイル等の遠距離兵器を使用した。

●窮鼠の反攻
「悪いけどウランバートルへは帰しませんよ!」
 フォルは突撃してくるHW中、5機をマルチロックオン。雷電のランチャーからK−02小型ミサイル250発の猛射が吐き出される。
 リアのアンジェリカから発射された試作G放電装置が青白い稲妻を発し、HWの機体を投網のごとく包み込む。
「WIZARD1、エンゲージ」
 オルランドも試作G放電、次いでH−044短距離用AAMを発射。
 この一斉攻撃で、既に損傷していたらしいHW2機が早くも墜ちた。
 残る5機も機体表面に所々被弾孔が穿たれ少なからぬダメージを負っているが、無人機たる彼らは怯む様子もなくそのまま突っ込んでくる。
 対HW班6機はバグア円盤とのドッグファイトに突入した。
 母艦を逃すため、1分でも時間を稼ぐつもりなのだろう。プロトン砲、フェザー砲はもちろん、本来防御用のFFを一時強化しての体当たりさえ仕掛けてくる。
 なりふり構わぬ、もはや特攻機も同然の攻撃だ。本星型HWが装備する強化FFほどの効果はないにせよ、KVとほぼ同等の質量を思えばその直撃は侮れない。
「食いついてくるというなら、後はそのまま食い破るのみ」
 命はペアを組むフォルと連携しつつ、互いの死角を補う形で交戦を続けた。
 体当たりしてきたHWにカウンターでAAMを放つや、ぐっと機首を下げてやり過ごす。
「‥‥さすがに食らったらただではすまんからな」
 フォルも超伝導アクチュエータを起動、機体を捻ってのバレルロールで敵のフォースチャージ・アタックを回避。
 だがそこへ別のHWが吶喊してきた。
「避けれないっ、ならば!」
 激しいショックが機体を揺さぶる。だが雷電の重装甲も伊達ではない。フォルはあえて弾き飛ばされた反動を利用し機首を転換、FF強化の切れたHWにKA−01エネルギー集積砲で反撃した。
「体当たりの直後は隙だらけだな!」
 相方の命が機首を上げ、下方向からAAMでとどめを刺す。
 春花は後方上空に位置するオルランド機から情報管制を受けつつ、近接した敵はレーザーカノンとMSIバルカンRで、遠距離の敵はUK−10AAMで応戦した。
「チェック。これで終わりですっ」
 ダメージを与えた敵機にDR−2荷電粒子砲で引導を渡す。
 僚機のリアを狙い吶喊するHWに対し、幸輔はすかさず上方から割り込み8式螺旋弾を撃ち込んだ。
「捨て身の攻撃ほど‥‥傍から見れば読みやすいもんだ!」
 危ういところを救われたリアはSESエンハンサーを起動、ドリル型ミサイルを被弾し機首部分のランプを苦しげに点滅させるHWにDR−2荷電粒子砲を放つ。
「天を衝く光矢! ヘブンズ・アロー!!」
 文字通り光の矢に貫かれたHWがまた1機、ロシアの大地に残骸をまき散らした。
 手負いの獣と化したHW編隊の抵抗も凄まじいものがあったが、慣性制御に費やす練力をフォースチャージアタックに回したためかその動きは直線的で、火力に勝る傭兵側は巧みなロッテ戦術で1機、また1機とバグア機を撃墜していく。
 敵HWの数が残り2機まで減った時、後方で待機していた突破班4機がおもむろにブーストをかけ、BF目指して動き出した。

●全機、突撃せよ!
「対極に位置する2つの翼‥‥『天使』と『悪魔』の舞を見せてやるか♪」
「損傷しているとはいえ油断できない相手です。確実に撃墜できるよう頑張りましょう」
 同じ突破班に属する真琴と霞澄が通信を交わし、彼方を泳ぐBFを目指して超音速の突撃に移った。
 みるみるうちに、巨大輸送ワームの機体が眼前に広がる。
 BFの射出口が開き、内部から新手の小型HW3機が飛び出した。
「邪魔だ! お呼びじゃないんだよ!」
 突破支援を担当する武流のハヤブサがUK−10AAMで牽制、ダメージを与えた所へ急接近しすれ違い様にソードウィングで切り裂く。
「このくらいの攻撃、数々の死線を潜り抜けてきた『死線の朱(デッドレッド)』には大した事はないぜ!」
 同じく亜夜の「緋閃」もロケットランチャーでHWを牽制しつつ距離を詰めてレーザーで攻撃。その一方で、ウーフーのカメラを使いBFの外部構造に関する情報を僚機に送り始めた。
「悪いな。情けなんてかけねぇよ」
 妨害するHWを試作型スラスターライフルとソードウィングで蹴散らしつつ、真琴は風防越しにBFを睨み付けた。だがその視線は傷ついたバグア輸送艦の、さらにその先を見据えている。
「アタシは『アイツらにとっての悪魔になる』‥‥そぉ決めたンだ」
 とはいえ、今の目標は目の前のBFだ。さらに接近すると、船でいえば舳先にあたる部分、そして両舷から対空プロトン砲が盛んに打ち上げられてきた。
「ちっ。まずはアレから潰さないと‥‥」
 対空砲火をかわしつつ、ロケット弾で敵艦の砲門を狙う。
「思い切り良く行った方が案外当たらないものです」
 エルロンやバレルロールなど通常の空戦機動に加え、空戦スタビライザーも駆使しつつHWの迎撃をかわして飛んできた霞澄が、長射程レーザーライフル「アハト・アハト」でBFの対空砲を1門潰した。
 その頃になると護衛のHW部隊を全機撃墜した対HW班6機もブーストで追いつき、AAMの残弾やロケットランチャーでBF本体への攻撃を開始していた。
 BFからの対空砲火が沈黙したタイミングを見計らい、真琴は艦体各所から黒煙をたなびかせる輸送艦に速度を合わせ、風防越しに敵艦の艦橋を見やった。
 ヨリシロか強化人間かは知らないが、呆然とこちらを見つめるバグア軍の兵士達と一瞬だけ目が合う。
「『真紅の悪魔』の姿を目に焼き付けとけよ。‥‥ま。二度と見れねぇだろぉがな」
 親指を下に向けニヤっと笑い、行き掛けの駄賃とばかり剣翼で艦橋を切り裂き急速離脱。
 そのまま急上昇、シザースローリングで敵艦の背後についた。
 再び速度を落とし、フレア弾のセーフティーを解除。通常なら地上の建造物や地下シェルター破壊に使用する投下式爆弾だが、戦艦並みのサイズを持つBFならば対艦爆撃の要領で攻撃可能と踏んで搭載してきたのだ。
 大きく機首を下げ急降下。亜夜機からの情報を元に、機関部と思しき箇所が照準に入った瞬間――。
「地獄の業火で焼かれて逝けや!」
 最大限の憎悪を込めて爆撃ボタンを押す。
 狙いは僅かに逸れた。しかし巨大な火球が膨れ上がり、上甲板に大穴を穿たれたBFの速度がさらに鈍る。
「追い込む。タイミングを合わせるぞ」
 あくまで淡々としたオルランドの管制。
 瀕死の巨鯨を狩るシャチの群のごとく、KV部隊は空中のBFにまとわりつき容赦ない攻撃を続行した。
「このノロマがぁ!」
 炎と黒煙に包まれた艦橋目がけ、武流が8式螺旋弾を叩き込む。
「残りの弾全部差し上げますっ」
 手持ちのAAMを全弾撃ち尽くした春花は、ダメ押しとばかりシュテルンのPRMシステムを起動。知覚を増幅した上で帰還分を除く全練力を注ぎ、温存していたDR−2粒子砲を2発撃ち込んだ。
 炎に包まれた艦橋付近にリアがロックオン。再度SESエンハンサー起動。
「少し可哀想ですが‥‥ここまですっ‥‥!」
 粒子砲の光矢が走り、艦橋構造物を半ば吹き飛ばした。
 それでもなおBFは墜ちない。
 しぶとく飛び続ける艦底の一部がスライドし、脱出艇らしき小型ワームが数機慌ただしく降下する。
「残念ですが、ここで眠って頂きましょう」
 フォルが2度目のK−02ミサイルを斉射、脱出用ワームをまとめて撃墜した。
 霞澄のアンジェリカが天高く舞い上がり、天使のごとく機体を翻して敵艦後方から爆撃態勢に入った。
 狙うは、先に真琴機の爆撃が穿った甲板上の大穴。
「あそこに落とせば‥‥これで鯨の背骨を折ります!」
 減速、急降下――2発目のフレア弾は見事破孔に命中した。
 大爆発と共に200mの艦体が真っ二つに千切れ飛ぶ。炎の隕石と化した2つの残骸はそれぞれ別方向へと墜落し、やがて眼下の山腹に爆炎の華を咲かせた。
「目標の沈黙を確認‥‥これで極寒の地にも春が訪れるといいな」
 山脈を茜に染める炎を見下ろし、幸輔が僚機に通信を送る。
(「逃げる相手にあそこまでしなくても良かったかも知れないですね‥‥」)
 アンジェリカのコクピット内でリアはそっと胸に手を当てた。
 こうしなければ、いつの日かまた人類の脅威になっていた事は充分承知している。それでもなお、彼女は目前で喪われていく命に対し心の痛みを感じずにいられなかった。


 ヤクーツク基地に帰還した傭兵達を、ロシア兵達の歓声とウォッカの祝杯が待ち受けていた。
 コスプレ衣装に着替えた亜夜は「緋閃」の機体カメラで撮影したBF撃墜画像を基地内で再生。成人傭兵はウォッカで、未成年の者はホットミルクを片手に飲んだくれの兵士達と乾杯する。
 まだ周辺地域のバグア軍が全て掃討されたわけではない。しかし、酷寒のシベリアで過去最大規模といわれる地獄の戦闘を生き延びた彼らと、しばし勝利の喜びを分かち合うのも悪くない――傭兵達はそう思った。

●バイカル湖北岸
 UPC軍服に身を包んだ若い女が、双眼鏡を片手に遙か北東の山脈で燃え続ける炎を見つめていた。
「‥‥哀れなものだな。無能な司令官に従った連中の末路だ」
 薄い唇が僅かにつり上がり、冷笑を形作る。
 やがて女は興味を無くしたように振り返ると、すぐ背後に直立不動で佇むダークスーツ姿の男に目を向けた。
「行くぞ、ガーランド。我々の『戦争』はこれから始まるのだからな」
「Yes,sir!」
 2人が歩み去る先に巨体を並べそびえ立つ、2機のゴーレム。
 その胸にはくっきりと「蟹座」のエンブレムが描かれていた。

<了>