●リプレイ本文
●銀河重工本社ビル内〜多目的ホール
2009年5月某日。極東ロシアにおける大規模作戦勝利を祝うと共に、同社製KV・XA−08B「阿修羅」改良に関する意見交換パーティーに招待された傭兵達が受付を済ませ、次々とホールへ姿を現わし始めていた。
「いらっしゃ〜い♪」
阿修羅をイメージした「青いケモノ娘」のコスプレで出迎えるのはUPC軍曹のチェラル・ウィリン(gz0027)。一応立場は正規軍からのオブザーバー‥‥のはずなのだが、どうやら銀河側スタッフに頼まれたらしく、殆どキャンペーンガールのノリである。
「フハハハハ‥‥やっと阿修羅の強化が来た。長かったなあ‥‥全LHのアシュラーには強化の二文字が輝いて見える!」
阿修羅ユーザーの心情を代弁するように高笑いするのはミア・エルミナール(
ga0741)。今回の初期機体化を以て阿修羅はショップ販売から姿を消し、以後は新人傭兵への支給機体、あるいはR−01との交換でのみ入手可能という形になるわけだが、併せてバージョンアップも行われるとあり、現役の阿修羅乗り達にとっても無関心ではいられない。
「新生阿修羅‥‥か‥‥悪くないな‥‥」
西島 百白(
ga2123)が無表情のままボソっと呟く。
当初バージョンアップ後の「阿修羅改」については「生命」「装備」「知覚」をアップする方針で試作機まで製造されたのだが、特殊性能「サンダーホーン」をどう扱うかで開発スタッフ内でも意見が割れ、今回傭兵達を招き意見を聞こうという運びになったのだ。
「さて、面倒だが‥‥始めるか‥‥阿修羅のために‥‥」
「アタシの可愛い相棒の今後が決まる大事な機会だ、色々意見言ってこうかね」
とV・V(
ga4450)。
「しかし、阿修羅を『走る棺桶』呼ばわりたぁ酷ぇ言い草だよなぁ」
「まあ初期生産ロットの不具合でリコール(欠陥製品回収)があったり、色々ありましたからねえ‥‥その辺りは弊社の責任でもあるわけですが」
銀河技術者の1人が、やや気まずそうに答える。
「然るべき扱いをしなきゃ棺桶にしか使えねぇのは阿修羅に限った話じゃねぇんだがな? ま、機体の性能に頼りっきりのエース気取り共にとっちゃそうなんだろうかね」
男勝りの口調でいうと、V・Vは肩をすくめた。
「‥‥ところで、会場は喫煙OKかい?」
「ええ。あちらの方に喫煙コーナーをご用意しておりますので、ご自由にお使い下さい」
「ありがと。近頃、やたら禁煙スペースが増えたもんでこちとら肩身が狭いよ」
「阿修羅もようやくバージョンアップですね。まさか初期支給機体になるとは思ってもいませんでしたが」
KV好きが高じて整備士資格まで取得した井出 一真(
ga6977)が感慨深げにいえば、
「‥‥ずいぶん、長くかかっちゃったけど‥‥やっと、阿修羅も、強化してもらえそう‥‥だね‥‥」
リオン=ヴァルツァー(
ga8388)も頷く。自ら搭乗する阿修羅に己の名にちなみ「Leo」と名付けるだけあり、同機への愛着もひとしおだ。また彼は小型陸戦KV専用の機動小隊『修羅の風』隊長でもある。
「今回の、改造で‥‥もっと、乗り手が‥‥増えてくれれば、いいな‥‥」
「阿修羅に乗り換えて半年も経っていないですが、よろしくお願いしますね」
そんなリオンに、小隊メンバーの柊 理(
ga8731)が声をかけた。
理にとって阿修羅は初めてまとまった資金で搭乗権を購入したKVでもある。
「ボク等の意見で阿修羅が強くなるなんて‥‥頑張りましょ!」
むろん参加者の傭兵は阿修羅乗りばかりとは限らない。
「阿修羅、前から少し気になる機体だったし、それに‥‥凛にとって、忘れられない思い出もあるから」
という勇姫 凛(
ga5063)の様な者もいれば、元R−01、現役雷電ユーザーとして発言したいと思い参加したリュイン・カミーユ(
ga3871)もいた。
「随分と世話になったR−01が初期機体として消えるのは、何やら淋しいものだな」
そのR−01は、既に阿修羅との無償交換が開始されている。
「最新のマーケット・リサーチによりますと、阿修羅搭乗権所有の傭兵諸氏は既に百名近くに達しているとのこと。これは初期機体化前に比べおよそ2倍の増加であります」
主催者である銀河重工重役の1人が、開宴の挨拶も兼ねて誇らしげにスピーチした。
「弊社と致しましては、今回のバージョンアップによりさらにユーザー数を増やし、ゆくゆくは『対バグア戦争を勝利に導いた名機』として阿修羅の名を後世に残したい。そう願うしだいであります」
●新生・阿修羅の方向性
パーティーに先立ち、銀河側が実施したアンケート内容は以下の通り。
A案:知覚&装備&生命をアップ
B案:装備&生命をアップ+サンダーホーン改良
C案:知覚&生命をアップ+サンダーホーン改良
D案:知覚&装備をアップ+サンダーホーン改良
上記4案から1つを選択し、改良の方針を定めようというものだ。
「ふうむ‥‥この結果をみると、B案が圧倒的に支持されていますね」
回収したアンケート用紙の集計を終え、銀河社員が告げた。
今回来場した傭兵達はほぼ満場一致で「B案」を支持。つまり第一段階での改良方針はすんなり決まったわけだ。
「阿修羅の売りはあの攻撃の高さだと思うっす、それなら中途半端に知覚を上げるよりも装備と生命を上げたほうが良いと思うっすから」
とは、根っからの阿修羅好きである虎牙 こうき(
ga8763)の意見。
「今さら阿修羅の低い知覚を多少強化しても、戦力として見込める程にはならないだろう」
榊兵衛(
ga0388)が己の所見を述べる。
「それならば、今まで通り知覚は切り捨て、物理攻撃の高さを生かすように強化すべきである。強力な武器は概して重いから装備を高める事は重要であろう。また、機体生命そのものを高めておく事は継戦能力向上の為に重要といえるからな」
「元々攻撃型の機体だ。知覚兵器自体、使い勝手のよいものはなかなか入手が難しいし、生存性を上げるなら、生命アップは必須だな」
とリュイン。
「また、店売りの兵装は意外と重い。軽量兵装の入手は難しいところがあるので、装備アップも必要かと思う。防御・抵抗が上げられない分を、アクセサリでカバーするとか、だな」
「凛も攻撃と回避がドーンと上がったらいいな、って思ってたんだけど、確かにそれだと新人さんには扱いにくいもんね」
「新米傭兵達に配布される初期機体として考えるのなら多くは望めないし‥‥なら、最大の長所の攻撃力を活かす形で、防御・装備力の改修。あと錬力消費なしで使用できるサンダーホーンは断然強化して欲しいな!」
響 愛華(
ga4681)が力説する。
「生命は勿論、薄い薄いという防御ですがアクセサリである程度補えます。むしろアクセサリを充実させる為の装備力は是非とも欲しいです。装備力が10違うだけで装備の幅もガラッと変わりますし」
理は装備力の重要性を強調した。
「ハッキリ言うぜ、阿修羅に知覚は『全く』不要だ。現状から半端に増やした処で意味なんざ無ぇよ」
ずばっと言い切るV・V。
「そんな無駄なコトするより、折角サンダーホーンっつぅ立派な逸物があんだからよ、そいつをより活かせるようにすべきだろ」
「‥‥物理攻撃が、効きにくい敵には‥‥サンダーホーンを‥‥使えば、いいから‥‥」
リオンも同意見だ。
「知覚の強化はあまり意味が無い、知覚武器を使いたいならばナイチンゲールを使えばいいだけの話だ」
堺・清四郎(
gb3564)は同じく初期機体化される英国王立兵器工廠製の高知覚KVを引き合いに出して説いた。
「それよりも生命力だな、初心者用なのだから生存率をもっとあげないと‥‥」
「知覚なんて減らしたっていいくらいでしょ?」
雪村 風華(
ga4900)はさらに突っ込む。
普段はアイドルとしても活動する彼女だが、今日は傭兵としての仕事なので遠慮はなしだ。
また風華の場合、必ずしもB案に満足しているわけではなかった。
「生命は必要だけど、装備はこのままでも何とかなるから、代わりに攻撃を増やせないかな? 超攻撃的なスタイルこそが阿修羅の持ち味だと思うんだよね」
既存機体を改良する場合「短所となる部分を改善するか」「現在の長所をさらに伸ばすか」で方向性が分かれるものだが、彼女はどちらかといえば後者に重点を置きたい様子だった。
「これは、新しく傭兵になる人でも阿修羅を選ぶ以上は同じことを期待してるんじゃないかな? 安定を選ぶならバイパーに行くと思うし」
「まあ、そういう形で棲み分けが出来れば理想なんですけどねえ」
銀河社員の1人がいう。今回同じ初期機体に並ぶといえ、かつては高級機の代名詞でもあったバイパーは阿修羅改にとって強力なライバルだ。
「後は防御と抵抗を増やせればいいんだけど‥‥、何度落されたかな?? サンダーホーンの代わりでもいいから何とかならない?」
「装甲を厚くするとどうしても回避が落ちますし‥‥抵抗に関しては、仮に上げるとすれば予算上またどこかを削る必要が出てくるんですよ」
「現状使ってる連中は知覚兵装使う事なんて滅多に無いし、新しく入ってくる子達も受領の際に『阿修羅は知覚向きじゃない』って解って受領するんだから。完全に切り捨てても良いと思うんだよね〜」
MAKOTO(
ga4693)も知覚削減論を唱える1人。
「英国のロビンだって思い切りの良い事してるし、阿修羅には知覚はいらんよ。極端な話、知覚を更に削って、その分だけ抵抗か命中に回して欲しいくらい」
「物理特化のアヌビスに追従する訳ではありませんが、知覚を下げて他能力地に分配は可能でしょうか?」
「いっそ知覚は完全に捨てちゃってもいいんじゃない?」
理や愛華も口添えする。
このように知覚を犠牲にしても他の性能アップを希望する声は多かった。
「防御はともかく抵抗面においては初期値がかなり低めになってますね? 同じく初期値の低い生命を考えると依頼・大規模において敵機に狙われやすい事から一撃で落とされる可能性はかなり高いし、実際にそういう経験のある乗り手もいるんです」
と麻宮 光(
ga9696)。
能力的に見れば「陸戦強襲用」といっても過言でない阿修羅だが、実戦においてその様な場面にでくわす事は少なく、9割方戦闘は敵との正面で発生する――というのが実体験に基づく光の意見だ。
「ついては改造プランで上昇する数値の何割かでも、防御抵抗強化という形で盛り込めませんか? 初期機体とする新人、現在乗り手である傭兵の為にもこの点はできれば改善したい所です」
また中には、
「装甲を‥‥削って‥‥回避性能を‥‥生命を‥‥削って‥‥攻撃性能を‥‥上げるのは‥‥だめ‥‥か‥‥?」
「個人的には『攻撃』と『命中』を上げて欲しかったところかな。ついでに言うと、『移動』もちょっと視野に入れておきたいね」
百白やミアの様に、現在の阿修羅の機体特性をさらに尖らせる方向での「進化」を求める独自案もあった。
「左様ですか‥‥とりあえず、ご意見の方は上に提案してみましょう」
傭兵達のコメントをメモに取りつつ、銀河の社員が頷いた。
●尻尾の使い途
さて、次なる課題は機体特殊機能「サンダーホーン」強化である。
【現行の性能】
命中50 射程3 相手の防御力を無視し、生命力を15減少させる(陸戦形態時のみ使用可)
「まずは威力の底上げが良いですね。こいつの特色である『防御無視』は、使い方によっては敵エース級への切り札にだってなり得ます。威力が上がれば尚更でしょう。その上で、命中や射程なども強化できれば『阿修羅部隊のサンダーホーン集中攻撃でシェイド撃破』なんて光景も拝めるかもしれません」
と、早くも大きく夢を広げる一真。
「サンダーホーン、当たりさえすれば確実にダメージに結びつくのは強みです。相手の防御や抵抗が1000あったとしてもそれを無視できる訳ですし。欲を言えば威力がも少し高ければなぁ」
「攻撃力2倍にならないかな? 防御無視でダメージを与えられるのが最大の売りなわけだから、その部分を伸ばしてあげれば知覚に頼る部分もなくなるしね」
「う〜ん、知覚強化の予算を回すとしても‥‥2倍はさすがに苦しいですねえ」
理やミアの要望に対し、技術者の1人が頭の中でざっと試算しつつ回答する。
「サンダーホーンは威力を増やすのも一つの手だけど、高い命中も魅力の一つなんだよね。ここをもっと上げると、敵の新鋭機にも安定して使える兵器になるかもね」
風華は命中の向上を推した。
「練力無使用でこの性能には文句がありません。‥‥が、敵エース等相手にするにあたり練力を消費し出力を向上、ダメージの追加ができる様な形での能力向上ができれば好ましいですね」
と光。
「無難に威力なり射程なりを強化するのも悪かねぇが、折角改良すんだ、新しい機能の一つでも付けてぇトコだな」
V・Vは少し思案し、
「例えば『電圧増幅装置(仮)』。サンダーホーン使用時に使用を宣言、任意の練力を消費する事でその威力を練力消費量に応じて上昇させる、ってな装置だ」
「シュテルンのPRMシステムやロビンのアリスシステムほど複雑な機能は難しいですが‥‥練力消費タイプにすれば、その分能力上昇も期待できるでしょうね」
「おっと。どう強化するにせよ『練力消費必須』にするのは断固拒否だぜ?」
練力消費タイプにすればそれだけ威力が上がる反面、「練力を消費せず何度でも使える」という現行のメリットを捨てることになる。
この点については傭兵達の間でも意見の割れる所となった。
「射程と威力がアップすれば上出来だな。威力アップの為に、多少の練力消費も良いのでは?」
というリュイン。
一方、愛華は
「サンダーホーンは便利だから、今より使いにくくなるのは良くないと思うんだよ〜」
と練力消費には反対する。ただし彼女も、『基本練力消費なし、追加ダメージを与えるため任意で練力消費』という折衷案には賛成であるが。
「この件も宿題としておきましょう‥‥機体構造を大幅に変えない範囲で、従来型の練力無消費タイプと練力消費タイプの併用が可能かどうか、社内で検討してみます」
「サンダーホーン‥‥『角(ホーン)』ではなく‥‥『尻尾(テイル)』‥‥では?」
百白がまたボソっといった。
「ああ、いわれてみればそうですね」
銀河社員が開発当時の記録をパラパラ見返し、
「どうやら‥‥設計段階では、頭部から角状の機槍が突き出して目標に突撃する案もあったようですなあ。結果的にはコクピットの安全性を考慮し、尻尾を使う案が採用されましたけど‥‥多分その時の名残でしょう」
あるいは改良後の名称は、実情に即して「サンダーテイル」に改められるかもしれないとのことだった。
その他にも、特殊性能については傭兵達から様々な強化案が寄せられた。
「えっと、サンダーホーンっすけど、あれは相手の機体に直接電撃を送るんすよね? その時に軽く相手の機体の動きを乱すパルスを送って、能力を下げる、とか無理でしょうか? もしくは、刺さった場所から他にも何かを送るとかっすけど」
通常ダメージに状態異常を付加するこうきの案。同様のアイデアはリオンからも出された。
リオンはそれに加え、新たな特殊武器として「噛み付き」も提案する。
効果としてはサンダーホーンの射程と命中を削って威力を高める、もしくは物理攻撃依存のダメージを加えるというものだ。
「せっかくの獣型だし‥‥戦い方も、既存の人型KVにないような‥‥戦い方が、できれば‥‥な」
一真や凜からは「空中戦でもサンダーホーンを使用可能にできないか?」という要望も出された。可能となればソードウィング並みの浪漫兵器であるが、このプランには安全上何かと問題も多い。
「空戦時に敵とワイヤで繋がったら、大惨事でしょうしねえ」
といって一真本人も苦笑した。
こうして出された数々のアイデアの中には技術的・予算的な問題から実現可能か定かでないものもあったが、とりあえず銀河側スタッフがリポートにまとめ、後日社内で改めて検討される事になる。
●後に続く者達のために
「阿修羅改」に関するブレーンストーミングはひとまず終了し、残る時間は立食パーティーを楽しみつつ、銀河技術陣との意見交換会となった。
テーマは『新人傭兵に相応しいKVとは?』。
高性能・高価格KVの開発競争はシュテルンの登場を以て一段落し、現在各メガコーポの注目は各機種の「個性」を前面に押し出した中価格帯KV市場へと向けられている。
また将来的に新たな能力者傭兵の増加が見込まれる中、次に注目を浴びるのはそうした新人傭兵でも「初期機体とは別に気軽に購入できる廉価帯KV」と見る向きもある。
銀河重工としても、この機会に現役傭兵達から意見を聞き、将来の新兵向けKV開発の参考としたいのだろう。
「新人にとって大切なのは生き残る事。その為には扱いやすさと共に機体そのものが丈夫であるべきと考える。その為にも防御と抵抗は高めである事が望ましい」
日本酒のグラスを片手に、兵衛が語る。
「また、KV戦闘そのものに慣れる為にも尖った機体より汎用性が高い機体の方が良く、拡張性が高ければ申し分ないだろう。自分で後からアクセサリなどを追加して強化していけばよいのだから」
たとえばドローム社のバイパー。発売から既に1年以上経つが、その汎用性と拡張性の高さゆえ、未だに愛用するベテランパイロットは多い。
「傭兵の戦い方は千差万別、自分に相応しい機体を見つけるまでは試行錯誤の繰り返し、装備が高ければそれだけ色々な可能性が確かめられるというのも大きいと思う」
「防御・抵抗・生命を、充実させた‥‥生存性の高さを、求めた機体‥‥」
リオンもまた兵衛と同意見である。
「何より‥‥『生きて帰ってくる』ことが‥‥最優先、だから」
「とにかく、生き残る事、扱いやすい事、この2点だな。ハヤブサやミカガミのようなクセのあるピーキーな機体は新人には向かないからな」
酒をちびちびやりつつ、清四郎がいう。
「とりあえず生命は高めのほうがいいが、全ての能力などをバランスよさ、それに加えて『扱いやすい』と思わせる着目点を作ればいいと思う、雷電の超伝導アクチュエータのように扱いやすい特殊機能なんかが特にな」
「新人パイロットに相応しいKV? それだったら簡単。装甲が厚めでバランスの取れた機体ね」
とミア。
「慣れない内は被弾も当然多いだろうから装甲は厚く。そいで自分に向いた適正を見極めるためにも、どの方面でも戦えるオーソドックスな機体がベストだと思うな。慣れたら向いてる方面に乗り換えればいいんだしさ」
百白は重装甲に加え、「武器内蔵型機体」を推奨。新人傭兵は手持ち資金が少ないため、機体(搭乗権)は買えても兵装まではなかなか手が回らない、という理由からである。
「‥‥これぐらい‥‥だな‥‥俺としては‥‥」
その後は好物の魚介類――寿司や刺身を始めとした宴会料理に舌鼓を打った。
「さすが‥‥銀河重工‥‥だな‥‥」
「新人パイロットにとってより相応しいKV‥‥か」
辛口のカクテル片手に、リュインは少し考える。
「やはり生存性が高い機体、かな。各自戦闘スタイルがあるだろうから、『これ』と言うのは難しくもあるのだが」
と苦笑しながら、
「KV戦に慣れないうちは、無理に攻撃や回避に重点を置かず、敵の攻撃を受けても耐えられる性能が欲しい。後は‥‥特殊能力は、ブーストの効果と被らないものが良いな。選択肢はあった方が良い」
ひとしきり述べてから、傍らでガツガツ料理を詰め込むUPC軍曹の方を、やや呆れた様に見やる。
「チェラル‥‥何と言うか、凄まじい食いっぷりだな」
「ムグッ。ふぉーばは?(そーかな?)」
「‥‥まあ、食欲旺盛なのは結構な事だが」
リュインは自らの取り皿に盛った料理に持参のMyタバスコをダバッ! と振りかけた。激辛嗜好の彼女はこれがないと物足りないのだ。
目を丸くする周囲の傭兵や銀河社員を見渡し、
「何か問題でも?」
「何つっても生命と抵抗が最優先。まずは死なねぇコトが一番だろ」
喫煙コーナーで美味そうに煙草をふかしつつ、V・Vが技術者に指摘する。
「防御も優先すべきだが装備品で補えるし抵抗よりは後で良い。次に回避。新人は避けきれねぇコトも多いだろうが、全く避けれねぇのも的になるだけだ」
「なるほど。装備力についてはどうお考えです?」
「拡張性は低くても良いだろ。新人にゃ大した装備は揃えられねぇし、揃えられる奴なら遠からずもっと良い機体に乗り換える」
愛華はともかく食欲優先。持ち前の食い気を発揮し、誰にも負けない勢いで料理を食べにかかる。その食事風景はまさに肉食獣が獲物を貪るかの如し。
時折銀河社員に意見を求められると、慌ててドリンクのコップを取り口内の食べ物を飲み下した。
「んぐっ、んぐっ♪ ぷはぁ‥‥わふぅ〜美味しいんだよ〜♪」
その姿を横目で見つつ、密かに危機感を募らせるMAKOTO。
(「能力者らしく人類の限界を超えた健啖家が居るからね〜何人か‥‥油断したら全滅だ!」)
議題の件については、
「生存性、汎用性、拡張性の高い癖の無い機体ってのが理想。自分のスタイルが確立していない人が試行錯誤するのには特化型よりバランス型が良いだろうね。少々の無茶やっても生き残れる位に頑丈で安価なら尚の事‥‥そういう意味ではS−01は非常に良い機体だったね」
長らく傭兵達に親しまれたS−01は初期機体から姿を消すものの、払い下げられた大量の機体は発展途上国の競合地域などに配備され、今後も対バグア戦争を陰ながら支えて行くことだろう。
「では現存のKVで、新人傭兵にお勧めしたい機体はありますか?」
「個人的にはバイパーかな? 硬くて色々乗っけれて、今なら容易く手に入る。本命への繋ぎとしてもそのまま使い込むにしても良いと思うよ。次点でロジーナ、あのタフネスとアバウトさは良い感じ。値段も安いし」
意見を述べ終わるや、飲み食いの戦場へGO!
「体を維持するのに必要な分は頂きます! 余分になりそうな分は後で動くから問題無し!」
そんなMAKOTOを遠目に見やり、
「お酒、飲んでみたいんだけどなぁ‥‥。すっぱ抜かれると怖いから、我慢‥‥、我慢‥‥」
未成年の風華はぐっと堪え、ソフトドリンクと料理で我慢していた。アイドルゆえの辛さである。
新人向けKVについてのコメントは、
「やっぱり最初は扱いやすくて、平均的な機体がいいと思うかな? S−01とかバイパーってその典型だよね。逆にハヤブサとか最悪だったんじゃない? まともな武器もつめないって噂だしさ」
銀河の製品と知りつつも歯に衣を着せない。
確かに挌闘性能に重きを置く余り他の性能(特に防御・装備関連)がおざなりになるのは銀河製KVの良くいえば伝統、悪くいえば悪習ともいえる。これは対バグア戦争初期、慣性制御を有するHWに対し在来型ジェット戦闘機が全く歯が立たない中、同社の開発したエミタ対応の軽戦闘機ハヤブサ(現ハヤブサとは別機体)が大きな戦果を挙げた事に由来するともいわれるが、実際の所は定かでない。
「今はナイチンゲール。あれもきっと人を選ぶよね‥‥」
ちょっと遠い目で風華は呟いた。
「R−01は阿修羅の前に乗ってたけど、使いづらいって事は無かったかな? 癖はあるけど動かしやすいし、特殊能力も結構強かったし‥‥」
「新人向けKV‥‥それなりに高い水準で、バランスの取れた機体じゃないかな?」
風華と同じく未成年で現役アイドルの凜も、ソフトドリンクを飲みながら答えた。
「凛もそうだったけど、初めのうちはこんな風にやりたいというイメージが漠然としてるから、色々試せる方が嬉しいかなって‥‥段々方向性が見えてくると、何か突出してる方が使いやすくなってくるけど。凛の乗ってるロビンやディアブロみたいに」
それからグラスと料理の皿を持ち、チェラルの方へと移動した。
阿修羅には凜にとって忘れられない思い出がある。かつて欧州攻防戦の際、エミタの不調を押して初期ロットの欠陥阿修羅で出撃したチェラルは機体大破で重傷を負った。その場に居合わせた傭兵の1人が凜だったのだ。
(「倒れたのをほんとに心配して心配して、そして、彼女の支えになれる男になりたい、目指したいって気付いた‥‥少しづつは理想に近づけてるのかな?」)
「あ! 凜クーン、こっちこっち♪」
彼の姿に気づいたチェラルが、コスプレ衣装のままパタパタ手を振る。
凜もにっこり笑って歩み寄り、2人はしばし食事を楽しみながら先の大規模作戦の事などを語り合った。
ふと3月のホワイトデー・パーティーで彼女をギュっと抱き締めた事を思い出し、知らず知らずのうちに頬を染める凜。
「チェラル‥‥凛、チェラルの温もり思いだして、ロシアでも戦えたから」
「‥‥!」
チェラルもにわかに赤面し、慌てて手にしたジュースを飲み干した。
「ボクだって‥‥中国で女神型ワームを迎撃した時、凜君が側にいてくれて心強かったよ。いくら正規軍のエースだ何だっていわれたって、独りきりで戦えるわけじゃないからね」
普段はボーイッシュな彼女も、この時ばかりは年相応の少女の顔になって微笑む。
「ね。L・Hに帰ったあと時間が空いてるようなら‥‥こないだ凜君が教えてくれたミルフィーユの美味しいお店、案内してくれないかな?」
やがて時は過ぎ、パーティーも閉宴の時刻が近づいた。
「よかったらこれ、今後の改良に役立ててください」
一真は持参してきた自らの機体の戦闘・整備データを銀河側スタッフに提供。
「あぁ、楽しみだなぁ!」
理はワクワクしながら、改良後の阿修羅についてリオンとあれこれ語り合う。
銀河社員一同に見送られ、傭兵達もL・Hへ帰還する高速艇が待つ屋上ヘリポートへ向かうため、三々五々とエレベーターホールへと移動し始めた。
「ロシアでもなんとか勝利を収めた‥‥このまま日本も解放できればいいな‥‥」
最後に空けた酒のグラスをトンとテーブルに置き、清四郎も会場を後にするのだった。
<了>