●リプレイ本文
●UPC空母艦上
「‥‥北アメリカ解放‥‥一次解放作戦からこっち、長かったな‥‥今度こそ‥‥きっと‥‥」
太平洋上を北米へと向かう空母の飛行甲板上。自らの故郷であり、現在はバグア占領下にあるメトロポリタンXの様々な思い出が蘇り、懐かしい様な悲しい様な表情で水平線を見つめていたクリア・サーレク(
ga4864)の感傷を、敵機襲来のアラート音が破った。
同じ頃、艦内ハンガーで正規軍の整備班長と談笑していた勇姫 凛(
ga5063)も警報を告げるスピーカーの方へ思わず顔を上げた。
パイロット待機所、その他艦内各所にいた傭兵達は直ちにハンガーへと集合、UPC軍の松本・権座(gz0088)少佐から状況説明を受ける。そこには正規軍KVの空戦・水中戦それぞれの指揮官も顔を見せていた。
「たった今、艦隊上空を警戒する早期警戒機、及び対潜哨戒ヘリから連絡があった。前方10時の方向から空中と海中から接近する所属不明機を探知。CWらしきジャミングがひどくて詳しい情報は判らんが、どちらも相当の数らしい」
パイロット達の間から小さくざわめきが上がる。
周囲には島ひとつない太平洋のど真ん中。つまり敵機はバグア側水中空母――ビッグフィッシュ(BF)から発進した可能性が高い。接近する敵はおそらくマンタ・ワーム(MW)。性能的にはHWに近いが、水中と空中を自在に往来できる厄介な相手だ。
「直ちに迎撃態勢を取るが、空母を空にした所を別働隊に襲われちゃかなわねぇ。そこでまずは傭兵部隊10機、及び正規軍部隊の一部に出て貰いたい」
「敵母艦の位置は? それと敵のMWにエース機はいますか?」
葵 宙華(
ga4067)が尋ねる。
「母艦の位置は不明だが、この近海にいるのは間違いないな。といっても、4、50kmは先だろうが。それと敵ワームの動きだが――」
松本少佐は壁際のモニターに表示された艦隊周辺海域のCG画像を指し示し、
「無人機だけにしちゃあやけに統制が取れてやがる。有人のエース機か、それとも母艦からコントロールを受ける中継機かは知らねぇが、指揮管制を務める『親機』がいるのは、まず間違いない」
「その親MWを墜とせば、他のMWも撤退するってことね?」
とラウラ・ブレイク(
gb1395)。
「まあ、その可能性は高いな」
問題は、海と空の両面から襲ってくるMW部隊のどちらに『親機』がいるかということになるが。
「敵の母艦はどうします?」
「向こうから接近してこない限り『無視して構わん』と、艦隊司令からのお達しだ。とにかく、俺達の役目は一刻も早く北米に援軍を送り届けることだからな」
柚井 ソラ(
ga0187)の質問に少佐が答える。
傭兵達は取り急ぎ正規軍側指揮官とも協議し、部隊を3班編制に分けバグア軍を迎え撃つこととした。
・海戦班(マリンハンター/MH):水中での戦闘を担当。
ソラ(KF−14改)
ラウラ(フェニックス/水中キット改装備)
ティーダ(
ga7172)(アンジェリカ/水中キット改装備)
正規軍(W−01改×10)
・CW殲滅班(キュービックブレーカー/CB):空戦にてCW殲滅を担当。
犬神 狛(
gb6790)(S−01H)
アリステア・ラムゼイ(
gb6304)(翔幻改)
クレア・アディ(
gb6122)(ナイチンゲール改)
正規軍(S−01改×4)
・爆雷空戦班(シルバーブリッツ/SB):空戦担当。親MWが海中に潜航していた場合、空対潜「爆雷」で炙り出す。
クリア(フェニックス)
ソーニャ(
gb5824)(翔幻改)
凜(ロビン)
宙華(ワイバーン)
正規軍(S−01改×6、ウーフー×1)
編制が決まると共に、傭兵達は各々の搭乗機へ駆け寄った。うちMH班に所属する者達は、エレベーターで艦底側にある水中用KV専用ハンガーへと急いだ。
「行こう、ハク」
ソラは自らのKVに呼びかけた。大規模作戦を別にすれば、水中戦はまだ3度目。しかも「ハク」と名付けたKF−14改はこれが初陣だ。
とはいえ傭兵側で純粋な水中用KVは彼の1機のみなので、その責任は重い。
「緊張するけど‥‥頑張っていこう」
大事な友に贈られた蒼穹の腕輪に触れ、ソラは自らを奮い立たせた。
「さて、水中戦は不慣れですが、出来る限りのことをやりましょう」
アンジェリカの操縦席に乗り込み、ティーダは水中発進口へと移動させる。
彼女とラウラの機体は通常KVであるため、水中キット装備による出撃だ。水深50mまでの潜航と水中戦闘が可能とはいえ、人型形態でしか行動できず、また移動力にも大きな制約を受けるがこれはやむを得ない。
「五大湖解放の大事な戦力、一隻‥‥いえ、一人でも多く届けましょう。私も故郷と呼べる国を取り戻しに行かないとね」
目的の地である北米大陸へと思いを馳せつつ、ラウラもまたフェニックスで海中へと滑り出した。
「こちら『狛犬』、CDC(空母の管制センター)、発艦の許可を願いたい‥‥」
一方、飛行甲板上ではTACネーム「狛犬」こと狛が「飛龍」と名付けたS−01Hの操縦席で発艦の時を待っていた。
「わしにとって初のKV戦闘‥‥戦友である宙華殿や柚井殿や他の者に迷惑を掛けんようにしないとな」
そう腹を括った直後、ガクンという衝撃と共にスチーム・カタパルトが作動。狛の機体を弾丸のごとく大空へと射出する。
「大丈夫じゃ、初めての空でも、じゃから飛龍よ、往こう誰も咎めぬ空へと‥‥」
震える手で操縦桿を握り締め、狛は愛機に、そして己に言い聞かせた。
「最近KV戦の密度濃いなぁ‥‥ま、大規模前の演習と思えば苦にもならないや」
アリステアはぼやく様に呟いてからAU−KVのヘルメットを装着。風防越しに空母のカタパルト・オフィサーへOKの合図を出す。
「じゃ、今日も頼むよ。でかい相棒も小さい相棒もね」
でかい相棒とはすなわち翔幻。小さい方はAU−KVリンドヴルム。ドラグーンであるアリステアは2重のメカに身を包んで太平洋の蒼空へと舞い上がった。
「ほんとだ、爆雷装備にして貰ってて正解だね、流石チーフ‥‥大丈夫、積む為に装甲取っ払っちゃった分は、凛の勘でカバーするから」
艦上で見送る整備班長ににこっと笑って手を振り、凜のロビンが飛び立つ。
「行こうロビン、この空と海とみんなの平和を守る為に!」
「整備は完璧か‥‥さすがだな。クレア機、出るぞ!」
UPC軍空母の飛行甲板に備えられた4基のカタパルト、そして4つの水中発進口から傭兵達と正規軍のKV部隊が相次いで発艦。
かくして計30機余りのKVは海と空に分かれ、迫り来るバグアMW部隊を迎え撃つべく移動を開始した。
●洋上上空
いち早く敵と接触したのは、先行して出撃したCB班だった。
ナイチンゲール改の風防越しに、クレアは前方上空で編隊を組んだ敵ワームの集団を目視確認。
一見小型HWにも似ているが、やや平べったくエイを思わせる独特のフォルムはやはりマンタ・ワーム。その後方には半透明のサイコロを思わせる小型の飛行物体――CWの群れが陽光を受けキラキラと光りながら回転している。
ただし、見たところ親MWと思しき機体は見あたらない。あるいは海中に潜んでいるのかもしれないが。
いずれにせよ、彼女達CB班は自らの任務を果たすまでだ。
「‥‥CW発見、これより攻撃に移る」
早速プロトン砲を放ってきたMWに対しUK−10AAEMを発射。その後はレーザーバルカンで牽制しつつ他のCB班僚機と共に敵の前衛を擦り抜けるようにして突破。
CWの発する怪音波の頭痛に顔をしかめつつも、敵電子ワームに向けて127mmロケット弾を発射する。
ワームとしては耐久の低いCWは、3発ほどの命中弾を受けて脆くも海上へと墜落していった。
「話には聞いてたけど‥‥わらわらと鬱陶しい‥‥っ!」
アリステアもまた突撃ガトリングとスナイパーライフルRをメインにひたすらCW掃討に専念する。
「当てやすいのはいいんだけど‥‥こう数が多いと‥‥」
距離を詰めてしまえば標的機も同然のCWだが、やはりこの頭痛だけは何とかして欲しいと思う。
やはりガトリング砲でCWを攻撃している正規軍のKVがMWに狙われていることに気づき、急ぎノイズ混じりの通信で警告を送る。
「幻霧展開します。紛れて散開してください!」
「‥‥無事か? クレア機‥‥これより援護攻撃に入る!」
すんでの所でS−01はMWの追撃から逃れ、代わってクレアがAAMを放つ。
ミサイル被弾にもめげず、MWは慣性制御でジグザグに動きつつクレア機へプロトン砲で反撃してきた。
「速い‥‥だが機体の性能を最大限に引き出せば‥‥ハイマニューバ!」
機体スキルの疑似ブーストにより回避を上げ、いったんやりすごしたMWの背後からレーザーバルカンの猛射を浴びせる。MWは黒煙を吹き上げ海面に激突、直後爆発の水柱を高々と上げた。
同じ空域では狛の「飛龍」がスキル併用のHミサイルとロケット弾でMWを牽制しつつ、SライフルRとMSIバルカンで1機、また1機とCWを葬っていく。
既に愛機と一心同体となった彼の心から、出撃前の不安は消え去っていた。
「こちら狛犬戦果確認、次の目標に移る」
●海中の敵影
「この歓迎ぶりは待ち伏せしてましたって感じね。私達が乗ってたのはこの為とはいえ、ここまで熱烈だとぞっとしないわ」
時折乱れがちな水中センサーのモニター画像に移る小型MWの群れを眺め、ラウラはため息をもらした。敵の数もさることながら、それ以上に面白くないのはMWの間に漂う小型の物体だ。立方型でなければ、それはまるで大きなクラゲにも見える。
「驚きですね。CWが、水中でも行動可能だったとは‥‥」
ティーダは半ば呆れつつも、友軍のウーフーや護衛艦からのソナー情報とリンクし、MH班における情報管制を務めた。
彼女達の機体は水中での移動力が下がるため、必然的にソラの「ハク」が正規軍のW−01部隊を指揮する形となった。
「宜しくお願いしますね」
正規軍側の水中指揮官に挨拶した後、W−01は必ず2機1組で行動する事、また水中でもCWを最優先に攻撃して貰う様に要請。
ソラとW−01部隊は適度な間隔を置いて前進し、有効射程に入ったところでガウスガンによる一斉射撃を開始した。
海中で泡のごとく弾け飛ぶCW。だがMWからもプロトン砲の反撃が撃ち返され、ダメージを負った友軍のW−01が1機、また1機と母艦に後退していく。
「親MWは護衛を付けている可能性が高いわ、固まって動く少数の群れが無いか注意して」
対潜ミサイルR−03で後方から援護しつつ、ラウラはソラに通信を送った。
MH班の目的は水中ワームの迎撃と共に、何処かに潜んでいるはずの親MW発見にあるのだ。
ティーダもガウスガンによりCW、MWを狙撃しながら親MW捜索を続ける。
「毎度、この頭痛は気が滅入るわね。それが索敵代わりになるのも皮肉だけど」
親MWが中々発見できないのは周囲をCWで固めてるからに違いない――そう踏んだラウラは、あえて頭痛がひどくなる方角へ機体を向け、前衛のソラにもその位置を連絡した。
その頃には既にMWとの近接戦に入っていたソラは、KVを人型に変形させるやレーザークローを実体化させ敵ワームの装甲を切り裂いていた。
「邪魔です‥‥沈んで下さい」
正規軍W−01もそれに習うように人型変形、レーザークローでMWを攻撃する。スピードこそ速いもののメガロワームに比べ回避の鈍いマンタワームは、白兵戦で徐々に人類軍に押され初めていた。
「‥‥親玉。どこにいるんでしょう?」
ラウラのアドバイスに従い頭痛のひどくなる方へ潜航形態で進んだソラは、やがて薄暗い海中に他のMWに比べ一回り大きな中型MWの影をぼんやり目視した。
「ようやく見つけましたね」
ティーダが上空のウーフーを介し、SB班へと親MWの位置情報を送った。
●雷撃指令!
MH班より『親MW発見』の報せを受けた時、上空のCB班、SB班は空中のCWをほぼ片付け、専ら小型MWとのドッグファイトを繰り広げていた。
「さあ行こうRipple。全力で舞うよ!」
クリアが機首を翻し親MWが潜む上空へと急行する。宙華、凜、ソーニャも後に続いた。
小型MWの妨害を防ぐため、アリステアは機体スキルで支援に入る。
「ポイントを囲むように幻霧を展開します。ターゲット代わりにでも使ってください」
水中の友軍KVが安全圏へ後退したのを確認後――。
「投下地点確認、深度設定OK。タイミングあわせよろし。3,2,1、投下」
ソーニャの合図と共に3機のKVは空対潜「爆雷」を次々と海面へ投下。
巨大な水柱が3本、立て続けに上がって数秒後――海面を割り、直径20mほどの中型MWが飛び上がった。
爆雷のダメージは効いているはずだが、敵も指揮管制機だけに機体を強化しているらしい。
宙華はブースト&Mブースターを起動。敵の光線をかわしつつ一気に距離を詰め、すれ違い様に中型MWの装甲を切り刻んだ。
「ふっ。無駄なモノを斬り捨ててしまったわ」
同じくMブースターで回避を上げた凜が、アクロバティックな空戦機動で親MWに迫る。
「お前達に、絶対艦隊はやらせないんだからなっ!」
高知覚KVから放たれたレーザーの光条が、ワームの機体に黒い穴を穿つ。
「一点突破! いきます」
AAMを発射後、ミサイルの軌道に沿う形で突入したソーニャ機が突撃ガトリングの一連射を浴びせて離脱。
それでもなおプロトン砲を乱射し包囲網の突破を図る親MWにオーバーブーストで肉迫したクリアは、そこで空中変形スタビライザーを起動。赤い力場の中でフェニックスはその形態を人型に変えた。
「吼えろ、スルト!!」
SES200エンジンの通称を叫ぶや、練剣「白雪」2連撃を叩き込む。
再び飛行形態に戻ったクリア機が離脱した直後、親MWは黒煙を上げ海中へと落下。海底火山の噴火にも似た水中爆発が湧き上がった。
親HWが撃破された後、残存のMWは泡を食ったように戦域から離脱、次々と海中へ逃走していく。
その後正規軍の対潜ヘリが周辺海域を哨戒したが、BFも撤退したらしく敵の母艦はその影さえ見つからなかった。
「お願いした戦闘の映像データは記録して頂けましたか?」
「おう。ウーフー装備のカメラで撮影しておいた」
帰投した宙華の言葉に松本少佐が頷く。
「ただし解析の方は暫く時間がかかると思うぞ?」
「それでも‥‥明日への希望としてより多くの情報が欲しいんです。バグアとの戦いは今日で終わるモノでないから」
「少佐も年中飛び回って大変ですけど、今度帰ったら家族サービスしなきゃダメですよ? 女の子はすぐ大人になるんですから」
KVから降りたラウラが、笑いながら松本に釘を刺す。
「いや、判っちゃいるんだがなぁ‥‥」
軍帽を脱ぎ、思わず頭を掻く松本少佐であった。
<了>