●リプレイ本文
●UPC東アジア軍演習場・上空
(「軽い‥‥」)
模擬戦に先立ちXF−09A「真ミカガミ(仮称)」への試乗を申し出、初めて同機で飛行した終夜・無月(
ga3084)の第1印象はそれだった。
先頃奉天から発売された新型偵察機「骸龍」には及ばないものの、従来のミカガミに比べて回避性能は明らかに向上している。つまり、ブーストや機体スキルを除いて比較した場合、現行の戦闘用KVの中ではあのフェニックスすら上回る運動性を有するということだ。
それでいて銀河製KVの欠点としてしばしば挙げられる、よくいえば「玄人好み」、悪くいえば「新人能力者には扱いにくい不安定感」を覚えないのは、複雑な機体内蔵「雪村」を思い切って取り除いた分、余裕の出た内部リソースを操縦者のためのインターフェイス向上に回しているからだろう。
「‥‥こんなものでしょうか」
自らが愛用するミカガミB型「白皇」との差違を確認。新型機を一通り「乗りこなした」と実感した無月は高度を下げ、未来研のナタリア・アルテミエフ(gz0012)や銀河側開発スタッフ、そして今回の運用評価試験を兼ねた模擬戦に参加する他の傭兵達が待つ演習場の滑走路へと降り立った。
●第1回戦〜空戦
「うーん。やっぱり新型機に触れるのは興奮しますね」
1回戦で試作機パイロットの1人を務める井出 一真(
ga6977)はKV好きの血が騒ぐのか、ワクワクしたような口調でいってから、
「とはいえやるべきことはきちんとやらないと」
と気を引き締めた。
「中々に面白い性能だな、これ。空戦屋として興味深い逸品だよ」
もう1人のテストパイロット、鹿島 綾(
gb4549)もコクピットの計器類をチェックしながら呟く。かつて銀河の主催で開かれた意見交換会の席上、彼女自身が提唱した知覚・生命の向上も施されているという。装備も大幅に増えているが、それでも阿修羅改と同レベルだというので、綾は人工筋肉γを装着することで装備力を高めていた。
2機の試作機をサポートするのは緑川 安則(
ga0157)の雷電と春風霧亥(
ga3077)のアンジェリカ。
「新型機のテストと聞いては興味が尽きませんね。是非目の前で見たく、参加させていただきました」
風防越しに飛ぶXF−09Aの姿を興味深そうに見やる霧亥に対し、
「真ミカガミ。以前、私の提案したマニューバ改修案に友人提案の高機動零距離突撃案が採用とは面白い機体だ」
やや感慨深げにいう安則。
「システム的には物理のソードウィング系と非物理の錬翼で二重ダメージが与えられるし、ハヤブサ、ミカガミに続くエース専用機になりそうかな?」
搭乗前に読んだ試作機のカタログスペックを思い出しつつ感想を述べているうち、蒼空の一角から4つの小さな黒点が姿を現わし、見る間に大きくなっていった。
本日の「仮想敵」。
正規軍パイロットが操縦するディアブロ改、ロビン、アンジェリカ、ワイバーンからなるアグレッサー部隊だ。発売時期は異なるものの、いずれも現在中価格帯で購入でき、配備数からいっても傭兵KV部隊の基幹をなす中堅KV。すなわち「NMV計画」のコンペにエントリーした各新型機にとっては最大のライバルといえる。
「基本的には真ミカガミ乗りのみんなの活躍に期待するよ。私は支援に徹する」
通信を送るなり、安則は初っ端から超伝導アクチュエータを起動しK−01ミサイルを連続発射した。
ベテランらしくすかさず回避行動に移るアグレッサー部隊。だが無改造の機体にスキル併用のK−01をよけ切るは難しく、緒戦から全機が被弾を被ることになった。
続いて霧亥がSESエンハンサーを起動、足の速いワイバーンを狙いG放電装置を発射。
「これで流れを引き寄せたいですね」
僚機の援護射撃を受ける形で、いよいよ一真、綾搭乗の試作機が敵編隊へ突入した。
「どこまで振り回せるか‥‥行ってみますか!」
挌闘戦機である真ミカガミは、ともかく目標に近づかなければ意味がない。
高出力ブースターで大幅に回避を上げた一真は、機体感覚をつかむため暫く回避行動を取っていたが、
「よし‥‥このくらいか」
敵前衛のディアブロ改に対しUK−10AAEMで惜しみなく攻撃を加えつつ急接近。
レーザーバルカンの牽制でディアブロの動きを抑えたところでソードウィングで斬りつけた。この突撃でディアブロは(データ上)6割近いダメージを受ける。
一方、綾機は敵のアンジェリカに攻撃を絞っていた。
中距離から対空機関砲ツングースカを立て続けに放った所で、ワイバーンが邪魔に入る。モニターに「Hミサイル被弾」のメッセージが表示されるも損傷は軽微だ。
すかさず目標変更、カウンターのレーザー砲で反撃した。放たれた光条が抵抗の低いワイバーンからみるみる生命を削り取る。
その間、バックを取ったアンジェリカがSESエンハンサー起動でレーザー砲を浴びせてくる。
迷わずブーストオンした綾は運動性を活かし最小半径で旋回、再びアンジェリカを正面に捕捉した。なおもレーザーを乱射する相手の攻撃を機体を捻りながらのバレル・ロールでよけつつ肉迫、そこで初めて接近戦マニューバ&練翼「水鏡」を起動させた。
真ミカガミの主翼付け根から噴出する練力エネルギーがそのまま凶暴な剣翼と貸し、敵機上面を切り裂くように交差攻撃。この時点で正規軍側のアンジェリカ、損傷率7割超。
さらに旋回して同機への背後をとった綾は、レーザー砲の2連射でアンジェリカから撃墜判定を勝ち取った。
「ご機嫌だね、コイツは。良いレスポンスだ‥‥!」
ほぼ時を同じくして、一真も手負いのディアブロに対し練翼攻撃を試みていた。
「SESフルドライブ。練翼展開、『水鏡』アクティブ!」
持ち込みのソードウィングの威力も加わった知覚+物理の同時攻撃により、一撃のもとに撃墜判定。
「いい切れ味だ。物理と非物理の二重ダメージはそう防げんはずだ」
雷電の機上で、安則が満足げに頷いた。
時間にして3分足らずの模擬空戦が終了したとき、アグレッサー部隊は2機が撃墜され、生き残りのワイバーンも大破。専ら傭兵側の雷電、アンジェリカに動きを封じられていたロビンもまた損耗率6割を超えていた。
真ミカガミ2機は一真機がほぼ無傷、綾機は損傷2割弱という結果に終わったが、これは一真機に高出力ブースター2基が積まれ、大幅に回避を上げていた影響が大きいだろう。
KVの補給や整備点検、装備の交換などのため一時間ほどのインターバルを置き、陸戦形態による第2戦が始まった。
●第2回戦〜陸戦
アグレッサー部隊は1回戦で撃墜の屈辱を味わったディアブロ、また活躍の場がなかったロビンを前衛に、アンジェリカ・ワイバーンが後衛から各々レーザー砲、スナイパーライフルで援護する体制を取り、演習用のダミー市街地で待ち受けていた。
対する傭兵側はメンバーを変え、無月とスコール・ライオネル(
ga0026)が試作機に搭乗、鐘依 透(
ga6282)のミカガミB、賢木 幸介(
gb5011)のS−01がサポート。
当然、前衛は真ミカガミ2機となる。
「無月さんの背中は僕が守ります。存分に戦ってくださいね」
「よろしくお願いします‥‥」
愛機「代鏡」から送られる透の通信に対し、微笑混じりの返信が答える。
「俺だけ旧式かよ‥‥まっ、その分はコッチでなんとかしねえとな」
スコール機の援護につく幸介は苦笑いしたが、今回が初依頼となる彼にしてみれば、将来己の命を預けるかもしれないKVを選出する重要なコンペだ。この後、同じNMV計画にエントリーした別機体の評価試験にも参加を決めていたりする。
「先手必勝! おらぁーーー!!」
真っ先に突撃したのはスコールだった。狙うは相手チームで最新鋭機体となるロビン。
高知覚をフルに活かすつもりか、そのアームにはBCアクスが装備されている。
ロビンを援護しようとする他のKVに対しては、幸介が重機関砲、及びツングースカで牽制砲撃を加えた。
「やるだけはやるぜ。かっちょいいとこ見せてくれよ?」
「恩に着るぜ!」
機盾レグルスを構え、ロビンの放つレーザー砲を回避しつつ一気に間合いを詰めたスコールは、機刀「玄双羽」「白双羽」の2刀を持って敵の脚部へ斬り込んだ。
思ったとおりMブースターを起動し慌てて回避するロビン。
「おいおい、折角のラヴコールを断るってのはナンセンスだろ!」
さらに踏み込んで積極的に仕掛けるスコール。
ロビンの側も正規軍のプライドか、逃げ回るのを止めおもむろにBCアクスを振り下ろしてきた。強力な知覚の斬撃を浴びる真ミカガミだが、こちらも抵抗を上げてあるだけにそう容易くは墜ちない。
「肉を切らせて骨を断つ。こう言うのを日本じゃこう言うんだろ?」
再び肉迫したスコールは近接戦マニューバを起動、機刀による連撃を浴びせた。
「おらよっ! もうちっと俺の相手でもしといてくれよっ!」
幸介もまたブースト&スキル併用で援護射撃を加える。
無月の目標は後衛からレーザー砲撃を加えるアンジェリカ。
「透‥‥バックアップをお願いします」
ブーストをかけ敵陣に突入。リヒトシュベルトで斬りつけるディアブロの攻撃は余裕で回避し、そのまま建物の陰に潜む白いKV目がけて疾走する。
同じくブースト突入した透機がディアブロを牽制している間、急接近する無月の機体はアンジェリカの砲撃を尽く避けきっていた。
近接戦に備えBCアクスを構えるアンジェリカに対し、先手を取って近接戦マニューバ併用のライトディフェンダーを叩き込む。
ペイント弾で相手のサブアイカメラを塞ぐ奇策も考えていた無月だったが、彼我の機動力に大差があると悟った時点で一気に勝負を決めることにした。
練翼「水鏡」起動。ソードウィングと併せての知覚・物理同時攻撃――瞬時に相手KVのマークに「大破」を示す赤い文字が浮かぶ。返す刀の翼刃攻撃により、アンジェリカは呆気なく沈んだ。
●演習場〜パイロット待機所
模擬戦を終了した傭兵・正規軍双方のパイロットは互いの健闘を称え合い、用意されたドリンクで乾杯してくつろいだ。
結果的には2回戦とも傭兵側の勝利となったが、この勝ち負けはさほど重要ではない。今回の目的は、あくまでXF−09Aの運用評価にあるからだ。
「確かにこの機体の回避性能は素晴らしいものですが‥‥ノーマルのワイバーンやアリスシステム起動中のロビンには何発か攻撃を当てられていますね」
早速プリントアウトされた交戦記録に目を通しながら霧亥が指摘する。
「その点は私も気になりました」
とナタリア。
「『骸龍』を別にすれば、現時点で最高レベルの回避性能を持つ機体ですが‥‥それでも対ワーム戦を想定した場合、全ての攻撃をよけきるのは難しいかもしれませんわ」
たとえば無月の様なトップクラスのエース、あるいは一真の様に高出力ブースターを装備すれば真ミカガミの機体特性は充分に活かされるだろう。だがそれでは「古参傭兵と若手傭兵の溝を埋める」というNMV計画の主旨から鑑みてどうであろうか。
「あと‥‥アグレッサー部隊の4機中、ロビンにはかなり苦戦したようですね」
「ええ。やはり同じ知覚重視KVとしては、ノーマルで比較した場合ロビンに一歩譲ってしまうようですわね。アリスシステムとMブースターの機能も侮れないものがありますし‥‥」
霧亥とナタリアがさらに問題点を挙げた。
「我が社の軽戦闘機重視路線も、そろそろ限界に来た、ということですかなあ‥‥」
銀河側技術者の1人が、やや遠い目で呟く。
「現在、より攻撃力を特化した新型KVのプランも出ているのですが‥‥今回コンペの結果いかんでは、そちらの方も色々と見直す必要があるかもしれませんね」
とはいえ、ミカガミ愛用者の傭兵達にとっては同機の「発展型」ともいうべきXF−09Aはぜひ採用されて欲しいところだ。
「言われてた通りミカガミよりも使い易い、ただマニューバの消費錬力が多くなったのが気になるがな」
実際に搭乗しての率直な感想を述べるスコール。
「陸戦にも対応させ、効果も高めたためどうしても消費練力は増えますな。そのため、機体燃料タンクを拡張してはフェニックス並に増やしはしましたが」
「可能であればミカガミ乗り支援としてミカガミ下取り価格アップを提案したいですね」
「現有のXF−08Bの機体強化の引き継ぎ措置‥‥可能であれば発売当初の期間限定、乗換時に差額又は全額支払いの条件つきで構いませんので、ぜひ実現して欲しいものです」
安則、無月がそれぞれ提案する。ことに愛機ミカガミB「白皇」を高レベルに強化し、もはや別機体といってよいほどに育て上げた無月にしてみれば切実な願いだろう。
「うーん。NMV計画の主旨からいって少々難しいですが‥‥首尾良く発売にこぎつければ、一応上に提案してみましょう」
「ワイバーンや骸龍並に移動力を増やせないでしょうか? あと練翼『水鏡』も、威力を落とさず消費練力を抑えられれば‥‥」
と透。さらに彼は推奨兵装として「ショップ売りで入手できるソードウィング系兵装」の発売も希望した。
ちなみに現在の「真ミカガミ」はあくまで仮称であるため、制式採用された場合の新たな愛称もその場で募集された。
・ヤタガラス
・ムラクモ
・シキョウ(四鏡)
・クサナギ
・ムラサメ
・イクタチ
・ツクヨミ
上記が傭兵側から提案された愛称。また「近接仕様マニューバ改」も長すぎて呼びにくいという理由から、無月より「鏡花水月」の名が提案された。
運用試験の最後、無月からの希望により、練翼「水鏡」の試し切りが行われた。
銀河側が予め用意した建材用メトロニウム合金の巨大な鉄板がクレーンで引き起こされ、人型形態のXF−09Aに搭乗した無月が操縦席で静かに呼吸を整える。
近接戦マニューバ起動、練翼実体化――。
「――はっ!」
秋水一閃。強度でいえば「無改造岩龍」に相当するという特殊合金の板は、ソードウィングの効果も相まって真っ二つに断ち切られ、大地に倒れた。
形を変え、名を変えた「ミカガミ」は3度飛翔するのか――コンペの結果に思いを馳せつつ、傭兵達は演習場を後にするのであった。
<了>