タイトル:【Woi】朱に染まる大地マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/08 22:26

●オープニング本文


「我々は勝利した。あのシェイドを唯一無二の高みから引きずり下ろしたのだ!」

●ブラジル北部・国境付近上空
「ふっ。ものはいいようだな‥‥」
 シモン(gz0121)は口許を嘲笑に歪め、無線で傍受した人類側ラジオによるUPC軍高官のコメントを終いまで聞かず切った。
「『シェイド討伐』などとご大層な大義名分を掲げてシェイドを墜とせなかったのだ。どう言いつくろっても、おまえたちの負けだろうが?」
 が、間もなくシモンの顔から笑いは消え、眉間に皺を寄せてじっと考え込む。
「とはいえ‥‥あのエミタ・スチムソン(gz0163)が操縦するシェイドを中破に追い込むとはな。奴らも、それだけ力をつけてきたということか‥‥」
 シェイド中破。ステアー大破。そしてFR1機撃墜――バグア側の被害も小さなものではない。
 今回、専らロサンゼルス沖合でUPC海軍艦艇を狩っていた彼のステアーは殆ど無傷で済んだが、同じ戦域で戦っていたバグア遊撃隊・ドリス(gz0267)の本星型HWが水中で撃沈されている。
 他のバグア軍エース機も程度の差はあれ損傷し、仮にシェイドを撃墜されていればバグア側の惨敗、そして人類軍の士気をどれほど高めてしまったことか想像もできない。
「彼女は『人類に絶望を与えることで、より価値のある存在へと進歩させる』といっていたが‥‥果たして、そんな呑気に構えていてよいのか?」
 シモン自身はかつて失脚した「急進派」の様に今すぐ地球全土の制圧を目指すほど焦っていないものの、かといって現在主流を占める「漸進派」ほど楽観的に戦況を見ているわけでもない。
 あの「能力者」達が出現して僅か3年足らずで、ここまで両者の軍事技術の差は縮まってしまった。

 ――速すぎる。

 彼の中で漠然とわだかまっていた不安が明確な形を取ったのは、極東ロシア戦でバークレーの戦死を知った時。司令官としては欠点も多い男だったが、少なくとも戦闘能力にかけてはバグアでも有数の実力者だったことは、シモンも認めざるを得ない。
 そのバークレーすら能力者達の果敢な攻撃の前に敗れ去ったのだ。
(「エミタたち『漸進派』の論理には致命的な欠陥がある。いま進化しなければならないのは地球人だけではない――我々バグア自身もまた、新たな進化の階梯を昇らなければならないのだ。単なる軍事技術や肉体的な戦闘能力以外の面で」)
「ハリ・アジフに任せた『NDF計画』‥‥一刻も早く進める必要があるな」
 なるべく早く、己の本拠地であるカメル共和国に帰還したいのが本音だ。しかし他のバグア軍エース達が大損害を被ったことで、そうもいかなくなってしまった。
 北米バグア軍から、南米のバグア占領地域に陽動作戦として侵攻したUPC軍掃討戦への参加を要請されてしまったのだ。
「‥‥まあ仕方あるまい。ろくに戦いもせず帰ったと思われるのもしゃくに障るしな」
 そのとき、ステアーの重力波センサーが地上を移動する大型物体を捉えた。
 陸戦形態のKV4機。M−1戦車を主力としたおよそ1個大隊のUPC陸軍機械化部隊。
 おそらくブラジル本土の人類側領域目指して撤退中なのだろう。
「悪く思うなよ。これも任務だ」
 シモンは護衛の小型HWに指令を送り、ステアーを急降下させた。

 護衛についていたバイパー改4機が、瞬く間に炎に包まれ残骸と化した。
 撤退途中だった機械化部隊は陣形を整える余裕もなく、死にものぐるいになって個別の戦車砲や自走砲で反撃を加えてくる。
 むろん、その程度の火力では地上に舞い降りた陸戦形態のステアーにかすり傷ひとつ与えることも出来なかったが。
(「こいつらを全滅させるのは容易いが‥‥」)
 ふとシモンの顔に冷酷な薄笑いが浮かび、共に降下してきた小型HWによりUPC軍を包囲する体制を整える。
 あえて電子ジャミングは使わなかった。
 おそらく取り残されたUPC軍は、今頃彼らの司令部に援助要請の通信を送っていることだろう。
 駆けつけてくるのは、おそらく能力者の傭兵達。
「獲物は少しでも多い方が良いからな。ふふふ‥‥」

●参加者一覧

時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
新条 拓那(ga1294
27歳・♂・PN
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
藤村 瑠亥(ga3862
22歳・♂・PN
ティーダ(ga7172
22歳・♀・PN
飯島 修司(ga7951
36歳・♂・PN
緑川 めぐみ(ga8223
15歳・♀・ER
ヴァレス・デュノフガリオ(ga8280
17歳・♂・PN
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
ノーマ・ビブリオ(gb4948
11歳・♀・PN

●リプレイ本文

●ブラジル北部国境地帯
 現場上空に到達したとき、低空で輪を描きゆっくり旋回する小型HW5機、そしてその真ん中に歩行形態で大地に立つステアーの姿を目視した時、傭兵達の不安は現実となった。
 ――罠。
「包囲された友軍は撒き餌でしょうな‥‥さりとて、見捨てる訳にも参りますまいて」
 一同の心境を代弁するかの様に、ディアブロ改の機上で飯島 修司(ga7951)がため息をもらした。
 ステアーの機体にくっきり描かれた「射手座」の紋章を目にした新条 拓那(ga1294)の脳裏に、時にカメルの地で、時に大規模作戦の戦場で相見えた「あの男」の顔が蘇る。
 むろん個人的な因縁に拘り独走するつもりはない。依頼目的はあくまで友軍救出であり、ステアーはその間に足止めできれば充分なのだ。
「軍隊全部帰して、ついでに俺らも無事に戻る。それができれば、こっちの勝ちさ。やられるばかりじゃないってのを思い知らせてやろうぜ」
 相方から贈られた御守を握り締め、仲間達のKVへ通信を送る。
「ステアー‥‥、直接戦うのは初めてですね」
 いつも通り冷静な口調でティーダ(ga7172)が呟く。
「乗っているのはあのシモン(gz0121)ですね。出来れば墜としたいですが。戦略目標は友軍救出‥‥悔しいですけどステアー撃破はあきらめるべきですね」
 緑川 めぐみ(ga8223)は冷静に状況を分析した。
 撃破はおろか、単なる足止めだけでも命がけの相手なのだ。

 10機のKVは素早く編隊を組み直した。
 すなわち2機編隊(ロッテ)×2から成るステアー対応班。そして3機編隊(ケッテ)×2から成るHW対応班。
 あえて少数精鋭でステアーを抑え、その間に他の6機でHW5機を速やかに殲滅する。
 危険な賭となるが、この戦力で地上のUPC軍を安全地域まで後退させるには、これが最善の策と思われた。
「あれが射手座のステアー、叔父さまを墜とした相手ですのね‥‥」
 フェイルノートの操縦席から、ノーマ・ビブリオ(gb4948)は眼下のステアーをキッと睨み付けた。
 北米の戦いでシモンに撃墜された叔父に代わって一矢報いてやりたいところだが、遠距離攻撃に特化し防御の薄い彼女の機体では対ステアー戦に不向きな事は判っている。そして今回の任務がステアー撃墜ではないことも。
「‥‥いつかきっと」
 唇を噛みしめステアーから目を逸らし、上空を飛ぶHW編隊に目を向けた。
 ノーマの受け持ちはHW対応。ケッテを組むのはリヒト・グラオベン(ga2826)と時任 絃也(ga0983)だ。
 そのリヒトが駆るディアブロ改を狙い、地上のステアーがスナイパーライフルを打ち上げてきた。狙いは逸れたが、砲弾がそばを掠めた衝撃波だけでビリビリと機体が揺れる。
「‥‥随分と過激なご招待ですね。全く嫌になります」
「ステアーにとっては俺たちは鴨葱なのだろうが、そのふざけた思惑に乗ってやるつもりはない」
 シモンの挑発は無視し、絃也はリヒト、ノーマと共にHW編隊へ機首を向けた。
 まず敵機を射程に捉えたのはノーマ。HW5機全てにロックオン。フェイルノートの特殊性能ツインブースト・MAを発動、射程距離を伸ばしたK−02ミサイルを立て続けに全弾発射。
 2回合わせて計5百発の小型ミサイル群が、蒼空に10本の軌道を描いてHWに襲いかかる。壮麗な花火のごとく爆炎が狂い咲き、上空から地上までを硝煙が覆い隠した。
 ノーマが先制で放ったミサイルの硝煙に紛れるようにして、対ステアー班4機も急速に高度を下げ、人型変形で緊急着陸した。
 煙が邪魔なのか、それともあえて地上でケリをつけるつもりなのか、ステアーはまだ撃ってこない。
「行くぞディアブロ。いつものように叩いて潰す」
 対ステアー班としてティーダとロッテを組む時枝・悠(ga8810)は、愛機F−108改に言い聞かせた。
 いつだって敵は強い。いつだって負けられない。いつもの事だ。
 精神論でどうにかなるとは思っちゃいないけど――。
「負ける気で臨むなんて冗談じゃない」
「大規模戦の度に出張だろ、いつもご苦労なこったなシモン。とっとと墜ちれば療養名目でゆっくり出来るぜ? どーだい!」
 修司とロッテを組み、シュテルンで垂直着陸した拓那がオープン回線でシモンを挑発した。
『‥‥その声は新条か』
 通信機から響く、聞き覚えのある声。
『そういえば私の留守中、カメルに性悪のネズミが何匹か潜り込んだそうだが‥‥ひょっとして貴様もその1匹かな? ふふふ』
「さーてね? そんなに大事なおうちなら、引きこもって自宅警備員でもやってろ!」
 拓那がシモンとの会話を引き延ばしてる間、悠はUPC軍指揮官に暗号通信を送った。
 足の遅い戦車や損傷した車両はその場に棄て、速やかに戦場から離脱すること。もしステアーが飛び去った後に自分達が撃墜されていた場合の救護要請。
 傭兵側の指示は直ちに実行され、装輪装甲車や高機動車に乗り換えた将兵達が慌ただしく南方を目指して撤退していく。
『おっと。何処へ行くつもりだ?』
 自らの足元から逃げだそうとした陸軍部隊の鼻先に、ステアーから発射されたプロトン砲の光条が撃ち込まれた。
『ルールを決めておこう。貴様らが私と戦っている間は、彼らに手出しはしない。ただし途中で逃げ出すようなら――彼らの処分を私に任せたものとみなす』
 どうあっても、KV全機を撃墜しなければ気が済まぬ様だ。
 もはや交戦は避けられないと覚悟したKV4機は、ステアーを半包囲する形で攻撃態勢に入った。

 ノーマ機の放ったK−02ミサイルの硝煙を突き抜け、5機のHWが飛び出してきた。
 通常の小型HWならそれだけで大破確実の攻撃であったが、シモン直衛機だけに機体もそれなりに強化されているのだろう。
 続いてヴァレス・デュノフガリオ(ga8280)のシュテルンがマルチロックオン、やはりK−02ミサイルを連続して叩き込んだ。
「先手必勝です。墜ちなさい!」
「まだ先が控えてるのでな‥‥悪いが早々に退場してもらうぞ!」
 ヴァレスとケッテを組むめぐみのディアブロ改がPフォース併用で試作型G放電装置を、藤村 瑠亥(ga3862)のシュテルンがミサイルポッドCを発射。
 G放電の青白い稲妻に包まれたHWにミサイルの炸裂でばらまかれた無数のベアリング弾が命中し、まず1機が墜落して彼方の密林地帯で自爆する。
 残りHW4機のうち1機に絃也のR−01改が至近距離からAファング併用のD−502ラスターマシンガンの弾幕を浴びせ、リヒト機の剣翼突撃がとどめを刺した。
 2機目の撃墜を確認したところで、残存のHWはリヒト・絃也・ノーマのケッテに任せ、ヴァレス・めぐみ・瑠亥の3機は対ステアー班を援護すべく地上に舞い降りた。

 対ステアー班の傭兵達はロッテを組む者同士互いにフォローし合い、防御と回避を重視した機動戦でステアーに挑んだが、如何せん彼我の性能差が大きすぎた。
 銃器やレーザー砲による中距離攻撃は避けるのも面倒とばかり全て弾き飛ばし、凶悪な20連装プロトン砲を薙ぎ払うように撃ち返してくる。
 ステアー班を担当するだけあり、傭兵側もそれなりに機体を強化しているのだが、1発食らうごとに確実に機体生命を削られていく。
 そんな中、多少なりともステアーに脅威を与えたのが、機体からエネルギー燐光が溢れる出る程に知覚特化したティーダのアンジェリカ「Frau」の撃ち込むプラズマライフルであった。
 それまで専らプロトン砲を使用していたシモンが突然武装をSライフルに切替え、ティーダ機を集中的に狙い初めたからだ。
(「目を付けられたようですね‥‥」)
 ティーダは直感的に悟った。
「これは耐えられます?」
 続いてティーダが放ったM−12粒子砲の光条を、初めてシモンは形振り構わず回避した。
 そのまま宙を滑り、距離を詰めてくる。
「時枝さん、援護をお願いします!」
 前衛を担当していた悠と交替、ティーダは一撃に賭けることにした。
 切り札ともいうべき練剣「雪村」を実体化。
「この烈光で燃え尽きなさい!」
 ブーストオンで自ら吶喊し、ステアーの右足目がけ最大火力の知覚攻撃を叩き込んだ。
 目映い光の切っ先がステアーの装甲に食い込んでいく。
 一瞬、世界が静止した。
『くっ‥‥くふふ‥‥』
 静寂の中、ティーダの耳に若い男の含み笑いが届いた。
『ふははっ、見事だ‥‥よもや、単機でこのステアーに手傷を負わせるKVがいたとはな!』
「シェイドもステアーも、もはや無敵ではありません。いつかは私達に乗り越えられる運命なのです」
『だが今はまだその時ではない』
 ステアーから伸びた十数本の触手がFrauを絡め取り、零距離から突きつけられたSライフルから忌まわしい砲声が轟く。
「そう。私達は負けるために戦ってるわけじゃない」
 くずおれるアンジェリカと入れ替わるように接近した悠が、ティーダの練剣が穿ったステアーの右足めがけBCアクスを振り下ろした。
 その刹那、悠の目が捕らえたもの――ステアーの破損孔から噴き出す赤い液体。
(「血‥‥?」)
 確認する暇もなく、機盾を貫くプロトン光線のシャワーがディアブロ改を灼き、悠の意識は暗転した。
「くそっ。HW班が来るまで何とか持ち堪えないと!」
 拓那はヒートディフェンダーを構えステアーへの接近を試みるが、プロトン砲の知覚攻撃はディフェンダーの防御を貫き、容赦なくシュテルンのダメージを蓄積させていく。
 修司のハイ・ディフェンダーにはまだ知覚兵器のダメージを軽減させる効果があった。ディアブロ改のサブカメラが、ステアーの傷痕から噴出し大地を染める赤い液体を映し出している。
「オイル? ‥‥違いますね。しかし、生体機械に関係する何かの液体なら――」
 ティーダ、そして悠が与えた攻撃は、単に外装甲を傷つけただけでなくステアーのかなり奥までダメージを与えたことになる。
 ようやく機槍の間合いに入った修司は、あえてステアーの上半身を狙いロンゴミニアトの4連撃を繰り出した。上半身を左右に振って攻撃をかわすステアー。
 だがこの連撃は見せ札。回避行動を終え動きを止めた瞬間を狙い、ブースト&Pフォース併用で機体の重心を下げつつステアーの左足を狙う。
『甘い!』
 それすらも軽々とかわすシモン。だが修司にさらなる奥の手があった。
 残り行動力を活かし右上方へ跳躍しつつ、損傷したステアーの右足へ機槍による最後の一撃を決めたのだ。兵装強化により極限近くまで行動を上げた修司機ならではの離れ業である。
『くっ‥‥貴様、本当に地球人かぁ!?』
 ステアーの触手1本から光の刃が伸び、バグア式レーザーブレードがディアブロ改の機体を胴斬りにした。
 ステアーが残る拓那機に攻撃をかけようとした時、ちょうど降下・変形を済ませたKV3機の増援が間に合った。
 小隊仲間でもあるティーダ、修司のKVが撃破されたのを目にし、彼らの実力を知る瑠亥は愕然とする。だがその驚きは、即座に怒りへと変わった。
 めぐみは機盾シャーウッドを掲げ前衛に立つが、残念ながらステアーの知覚攻撃は機盾を貫きめぐみ機の本体を直撃する。
「これなら兄様の乗っている雷電のほうがよかったのでしょうか?」
 悔しげに歯を食いしばるめぐみ。
「シモン‥‥リリアンとの違い、見せてもらおう」
 ヴァレスは後方からレーザーライフル「アハト・アハト」でステアーを狙撃するが、残念ながらシモン機にさしたる損害を与えられなかった。
 逆に反撃のSライフルを浴び、瞬時に機体生命の半分以上を持って行かれてしまう。
 このまま撃ち合ってもまず勝ち目はない。
「分の悪い賭けだが、やってやるか!」
 じりじりと前進してくるステアーに対し後退すると見せかけ、ヴァレスは逆にブーストジャンプで敵の懐に飛び込むや機杭エグツ・タルディを叩き込む。
 この動きを呼んだシモンは機体を右にスライドさせ回避。そこに、やはりブースト&Pフォース併用で突っ込んだめぐみ機の機杭ヴィカーラが追い打ちをかける。
『効かぬわ!』
 ステアーが機体を捻り、レーザーブレードでディアブロを切り裂く。だがそれこそがめぐみの狙いだった。なぜなら、シモンは破損した右足をがら空きにしてしまったのだ。
「まだだ!」
「ここらで仕掛けるか‥‥ならばこちらもいくか」
 再びヴァレスがブースト&機杭で、瑠亥はロンゴミニアトでステアーの右足を集中的に狙う。
 プロトン光線のシャワーが2機のシュテルン薙ぎ払う。ヴァレス機は力尽きて動きを止め、瑠亥機もまた大ダメージを被った。
「まだ動けるだろうシュテルン――! ならば、次だけでも叩きこめ!」
 最後の力を振り絞り、ロンゴミニアトの一撃に賭ける瑠亥。ステアーの光剣がカウンターで機槍を構えたシュテルンの腕を、返す刀で片脚を断ち切った。
 だが続いてシモンの耳に入ったのは、ステアー右足への損傷を告げるアラート音。
『なにぃ!?』
 ヴァレス、瑠亥への攻撃に意識を向けたシモンの死角を衝き、拓那の練剣「羅真人」がステアーの右足に食い込んでいた。
「俺も、皆も、色々乗り越えて強くなってんだ! 前と同じじゃないんだ!」
 シモンがレーザーブレードを振り上げ、シュテルンの肩から袈裟懸けに斬りつける。
『させるかぁーっ!』
「――それなら、翼の一枚、足の一本でも取れなきゃ嘘だろう!」
 2本の練剣が互いの機体に食い込んでいく。
 火花が散り、KVのオイル、ステアーから噴き出す謎の液体が大地を黒と赤に染める。
 ステアーの右足が半ばから切断されるのと、拓那のシュテルンが斜めに両断されるのはほぼ同時だった。
『いかん!』
 シモンは慌てて触手を伸ばし、大地に落ちた右足、すなわち右主翼の一部を回収した。
 改めて周囲を見回して、新たに3機のKVがこちらを包囲しているのに気づいた。
 上空のHWを全滅させたリヒト、絃也、ノーマである。
 シモンは計器盤を見やった。戦おうと思えばまだまだやれる。
 しかし――。
(「まずいな。乱戦に紛れてステアーのパーツを奪われるような事になっては‥‥」)
 そんなシモンの迷いを読んだようなタイミングで、リヒトからの通信が入った。
「シモン‥‥この戦いでステアーにダメージを負い過ぎるのは貴方の本意ではないでしょう。俺達の目的は友軍の撤退だけです。ここはお互い、痛み分けで済ます気はありませんか?」
『‥‥いいだろう。北米の連中のためにこれ以上やる義理もないしな』
 それだけいうと、すかさず切断された片翼を抱えたまま南米の方角へ飛び去った。
 10機中7機が撃破。紙一重の激戦ではあったが、傭兵達は辛くもUPC軍を守り抜いた。
 その兵士達が、今度は大地に倒れたKVに駆け寄り負傷者の救出と応急手当を始める。

 この戦いで受けた損傷によりシモンのカメル帰還は大幅に遅れ、ステアーもまた当面の間使用不能となった。

<了>