タイトル:【ODNK】大川解放戦マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/09/11 12:34

●オープニング本文


●北熊本〜UPC九州方面隊司令部
「天勝少佐が? それは間違いないのか?」
 参謀の1人が、情報担当の士官に鋭く問い質した。
「はっ。佐賀方面から脱出してきた友軍兵士達の証言で‥‥EAIS(東アジア軍情報部)の分析でも、ほぼ確実な情報と。佐賀でバグア軍指揮をとっているのはあの男‥‥天勝であります」
 天勝清秀(あまかつ・きよひで)。対バグア戦争で高級将校の大量死という事情があったといえ、若干24歳で少佐に昇進し、佐賀補給所守備隊の副隊長を拝命していた男。
 もっとも本来は九州方面隊の所属ではなく、あと1年も実戦経験を積んだ後にはUPC総本部作戦課へと栄転する予定であった。
「くそっ、何が総本部お墨付きのエリートだ! よりによって上官を射殺してバグアに寝返るとは!!」
 憤怒の形相で怒鳴り、作戦卓に天勝の顔写真を叩きつける参謀。
「‥‥この件はしばらく内密にしておけ。現場の士気に響く」
「了解しました」

●佐賀〜バグア軍拠点
「重ねてお願いします! 小型HWとCWの増援を!」
 UPC将校服に身を包んだ若い男が、重力波通信機に向い必死に懇願していた。
 元UPC軍少佐、現在は佐賀バグア軍指揮官を務める強化人間の天勝である。
 彼は追い込まれていた。
 人類側KVをおびき寄せ一気に壊滅させるはずだった計画が裏目に出て、逆に配下の小型HW、CWの殆どを喪失するという事態を招いてしまったのだ。
 手持ちの兵力としてはまだ多数の陸戦ワーム、鹵獲KV、そして切り札の本星型HW数機が残っているといえ、鹵獲KVや通常兵器を主力にした洗脳兵部隊は久留米方面で正規軍部隊により足止めを食い、今や大川市街、及びこの佐賀拠点(元UPC軍佐賀補給所)を防衛するのが精一杯という有様だ。
『‥‥ならぬ。いま戦闘が行われているのはそちらだけではないのだ』
 通信機の向こうから、重々しい男の声が答えた。
 バグア軍春日基地司令、ダム・ダル(gz0119)。もっとも声だけなので、本人がいま何処にいるかまでは不明だが。
「しかし‥‥!」
『天勝よ。保身のため自らの種族を裏切るような輩は、立場が悪くなれば我らバグアをも裏切るだろう‥‥にもかかわらず、おまえを我が軍に迎え入れたのは、その若さで将校にまで昇進した指揮官としての才能を見込んだからだ』
 ダム・ダルの言葉は続く。
『もし現有の兵力で佐賀を守り切る才覚さえないとすれば‥‥もはやおまえが帰る場所など、何処にもないと心得よ』
 それだけいうと、通信は一方的に切られた。
「‥‥くそっ!」
 口汚く罵りつつ、天勝は背後に控える参謀達――己と共に人類を裏切った元UPC軍士官達に向き直った。
「こうなれば暫減作戦だ‥‥現有兵力の1/3を大川に集中させる。こいつらは全滅しても構わん。その代り、出来る限りUPC軍の戦力を消耗させろ!」
 卓上の地図を見下ろしながら、ふと思いついたように命じる。
「‥‥ワームどものAIプログラムを変更しろ。優先攻撃目標をKVから一般人兵士に切替える」
「よろしいのですか? それでは‥‥」
「もともと正規軍のKVはそれほど数も多くない。だからこそULTやSIVAの傭兵どもに頼るのだろうが‥‥傭兵は依頼された任務が終わればさっさと引揚げる。占領地の維持には、どうしても一定数の正規軍兵士が必要というわけだ。判るな? この理屈が」
 天勝の顔が、冥い笑いで歪んだ。

●大川市街地
 激しい砲爆撃で大地が揺れ、濛々と立ちこめる粉塵の中をプロトン砲やフェザー砲、高分子レーザーの光条が飛び交う。
 正規軍のKV部隊と共に市街地へ突入した「睦中隊」は、両軍が入り乱れた市街戦の中で、いつしかKV部隊と離ればなれになり乱戦の中で孤立していた。
「おい、どうなってんだよ? ここはどの辺なんだ!?」
「知らないわよ! たぶん大川市のどこかなんでしょ!?」
 爆発の震動に揺れる95式戦車の中で、操縦手の高橋美香は車長の円藤賢二に怒鳴り返した。
 一方、同じ車内で砲手の岡崎優作が140mmライフル砲の照準を左側面から迫る大型キメラに合わせる。
「てぇーーっ!!」
 高初速で発射された砲弾がキメラの土手っ腹に命中して炸裂。FFの防御限界を超えたらしく、キメラはその場にくずおれた。
 ノイズ混じりの音声で、中隊長の須賀大尉より通信が入った。
 柳川近辺で待機しているULTの傭兵部隊に救援要請を送ったこと、そしてそれまでの間、部隊が散り散りになることなくこの場で持ち堪えるように――それが中隊長の指示だった。
「持ち堪えるたって、この有様じゃ‥‥」
 戦車内からペリスコープ(潜望鏡)で改めて周囲の状況を確認する賢二。
 そのとき、後方の路面がパックリと割れ、一両の装甲車が中に乗ったした隊員もろともあっという間に呑み込まれた。
「地底ワーム‥‥EQ!?」
 さらにその直後、先頭に位置していた友軍の95式戦車が淡紅色の光線を浴びてドロリと溶けた鉄塊に変わる。
「な‥‥何だよ、あれ‥‥!?」
 前方に現れた敵は、賢二達が初めて眼にするワームだった。
 本体の形状は極東ロシア戦以降出現した本星型HWに似ている。だがそのボディから4本のアームが伸び、あたかも蜘蛛のごとく地上を歩いているのだ。
 中隊の戦車部隊、対キメラ歩兵部隊が一斉に戦車砲や迫撃砲、無反動砲などで攻撃するが、全てFFにより防御され効果がない。キメラなどとは格が違う敵なのだ。
「イヤァーーっ! 死にたくない!!」
 パニックに陥りかけた美香を、賢二はやむをえず頬への平手打ちで黙らせた。
「落ち着けよ! すぐ援軍が来る――それまで、何としても僕らは生き延びるんだ!」

●参加者一覧

里見・さやか(ga0153
19歳・♀・ST
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
ブレイズ・カーディナル(ga1851
21歳・♂・AA
流 星之丞(ga1928
17歳・♂・GP
漸 王零(ga2930
20歳・♂・AA
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
櫻小路・あやめ(ga8899
16歳・♀・EP
天小路桜子(gb1928
15歳・♀・DG
ルノア・アラバスター(gb5133
14歳・♀・JG

●リプレイ本文

 UPC軍とバグア軍、双方が各所で激戦を繰り広げる大川市上空に達した時、10機のKVに搭乗する傭兵達はある種の違和感を覚えた。
「妙だな‥‥いつもなら、この辺で対空砲火がドンパチ上がってくるもんだが」
 雷電の機上で、ブレイズ・カーディナル(ga1851)が訝しげに呟いた。
 先日柳川〜大川上空で行われた航空戦で小型HWを多数喪失したためか、迎撃に上がってくるHWの機影すら見かけない。
 迎撃機が来ないのに越したことはない。だが本部からの情報によれば現場には複数のEQ、さらに陸戦仕様と思しき本星型HWの存在が確認されているので、警戒すべきはむしろ地上に降下した後だろう。
「ち‥‥まさかこんなとこに本星型やEQが出るとは‥‥なんとしても食い止めねば‥‥いくぞ闇天雷」
 漸 王零(ga2930)は舌打ちし、自らの愛機・漆黒の雷電「闇天雷」に呼びかける。
 彼らの任務は、市内の戦闘で正規軍のKV部隊と分断・孤立してしまった「睦中隊」の救援。95式戦車を主力にした機械化部隊といっても、その隊員は全員一般人――しかも殆どが熊本士官学校から訓練半ばに動員されてきた十代の若者達である。
 あの有明橋確保の戦闘以降、依頼で彼らに面識のある傭兵も少なくない。
「睦中隊‥‥先日お会いしたばかりの方たち、か‥‥何かご縁でも、あるのかもしれませんね‥‥」
 ワイバーンを駆る朧 幸乃(ga3078)の脳裏を、柳川市で救助したあの少女兵の面影が過ぎる。
「‥‥なんて、無駄口を叩いている余裕もない状況、か‥‥急ぎましょう‥‥」
「今僕達が行きます‥‥睦中隊のみんな、無事持ちこたえていてください」
 やはり過去の依頼で同中隊とは縁のある流 星之丞(ga1928)も、本部から転送された睦中隊の現在地を目指すと共に、骸龍の高感度カメラで周辺状況を確認する。
 敵戦力の薄い場所を選び、早めに中隊の撤退ルートを決めておく必要があるからだ。
「睦中隊、あの、方達が‥‥今は、助ける、事を、考え、ましょう。しかし、妙です、ね? 一般人の、部隊に、EQは、兎も角、本星型を、出す、なんて」
 ルノア・アラバスター(gb5133)はバグア側の意図を疑う。あるいは先の空戦に大敗を喫したことで、敵側も戦術を変えてきたのかもしれない。
 上空に敵のCWが存在しないこと、友軍にウーフー、骸龍という異なるジャミング中和装置を搭載するKVが混在しているため無線・レーダー共に感度は良好だった。
 現場へと急行する一方で、天小路桜子(gb1928)はウーフーにより戦場を飛び交う敵味方の通信を傍受、そのうち有益そうなものは地上の友軍部隊へと転送した。
(「今回は従姉のあやめ姉様とご一緒‥‥後れを取らない様に頑張らないと」)
 その従姉、櫻小路・あやめ(ga8899)は雷電の操縦席でじっと対EQ戦をイメージしていた。
(「地中から不意を突き襲いかかる敵だけに、こちらの手として計測器のデータを頼りに慎重かつ迅速な対処が必要ですね‥‥」)

 なぜか敵の対空砲火が少ないといえ、着陸の瞬間を狙い不意打ちがないとは限らない。
 明星 那由他(ga4081)は念のためイビルアイズのBRキャンセラーを作動させ、仲間の着陸を援護。
 大川中央公園付近に着陸した里見・さやか(ga0153)は、まず手持ちの地殻変化計測器を地上に設置した。
 公園のグラウンドにも各種のキメラが徘徊し、さやかのウーフー目がけて群がって来るが、人型形態の左胸付近に装備した20mmバルカン砲、及び【OR】ステンガンが火を噴くとバタバタなぎ倒されていった。
 その間にも僚機のKVが相次いで着陸し、各自の計測器を設置していく。全ての計測器は予めさやかの機体に波長を合わせて調整してあるため、戦域におけるEQの索敵は彼女のウーフーが担うことになる。
 那由他も着陸・変形するなり多連装機関砲で周辺のキメラを駆逐した後、計測器の設置を済ませた。
「向こうが‥‥対人キメラなら‥‥、こっちは対キメラ武装だ」
 グラウンドに据え付けられた複数の計測器が作動し、さやかの機体に観測データが送信されてくる。モニター上に表示された画像は、地底を潜水艦のごとく移動する2つの影を捉えていた。
 2体のEQが蠢いているのは近くを通る国道208号線上、すなわち「睦中隊」がいるとされる地点とほぼ一致する。
 さやかは急ぎデータを僚機へ転送した。
「各機、至急現場へ急行してください! EQの狙いは私達ではなく睦中隊です!」
 傭兵達もだいたいの状況を把握した。制空権を奪われ窮地に立たされた佐賀バグア軍は、UPC軍の大川占領を妨害するため、ワーム部隊の優先目標を一般人兵士に切替えてきたのだ。
「前途ある少年少女をむざむざ殺させる訳にはいかぬからな。一刻も早く救援に赴くことにしよう」
 榊兵衛(ga0388)が愛機の雷電「忠勝」で再び飛び立ち、208号線方面へと向かう。他の傭兵KVもその後に続いた。
 敵ワームは3機。だがその1機は極東ロシア戦以来度々出現し、従来のHWにない強化FFを有する本星型HWだ。一定レベル以上の攻撃エネルギーを物理・非物理問わず無効化してしまうこの特殊性能は、一説にはFR級以上のバグア高性能機のスピンアウト技術ともいわれるが真相は定かでない。
 そのため、傭兵達も本星型HWを最大の脅威とみなし班編制を組んでいた。

 ・「睦中隊」護衛班:星之丞、幸乃
 ・対EQ班:兵衛、ブレイズ、あやめ、那由他
 ・対HW班:さやか、王零、ルノア、桜子

 国道に到着した時、足元のEQに狙われ身動きも取れず、さらにHWから撃ち込まれるプロトン砲でなぶり殺し同然に撃破されていく睦中隊の姿が視認できた。
「みなさん、お待たせしました。後は我々に任せて直ちに後退してください」
 幸乃は無線を通し、務めて穏やかな声で中隊に呼びかけた。
『‥‥その声は、もしかしてこの間の‥‥?』
 僅かな間を置き、聞き覚えのある少女の声がおずおずと返信する。
「戦車兵の高橋美香さんですね? ご無事で何よりです」
 全滅一歩手前という極限状況には似合わぬ、淡々とした挨拶。
 だが幸乃としては、まず中隊の特務兵達に平常心を取り戻してもらいたかった。
 一番危険なのは、「これで助かった」という希望が却ってパニックや思わぬ油断を招いてしまう事なのだから。
「みんな、助けに来ました!」
 VTOL機能でいち早く着陸した星之丞の骸龍を目にし、恐怖に怯えきっていた少年少女兵達が大きく手を振って歓声を上げる。
「僭越ながら、皆さんと共に戦えて光栄です」
 中隊の頭上を飛び越し様、さやか機も通信でエールを送った。
 ワイバーンで着陸した幸乃は、四足型形態の利点を活かし素早く中隊の退路を確保する位置へ回り込み、さやか機から転送されるEQ情報をチェック。同時に邪魔なキメラ群をヘビーガトリングの弾幕でまとめて薙ぎ払った。

「虎の子を出してきた‥‥、追い詰めてきてるのかな?」
 国道上に降り立った那由他は、まだ大規模以外の戦場では珍しい本星型HWを見やり呟いた。
「それにしてもアームと脚の付いた‥‥本星型‥‥、‥‥、‥‥えび?」
 確かにフレキシブル・パイプの様な歩行脚、長細い鋏状のアームを突き出したその姿は、エビや蟹を思わせる。
 もっとも那由他の相手は足元に潜む2体のEQだ。
 位置は判っても、今の所人類側に直接地中を攻撃可能な兵器はフレア弾くらいなので、向こうから頭を出してくれるのを待つより他ない。
 他の対EQ班3機も、敵が狙う睦中隊の周囲を護る形で路面を警戒した。

 その頃、王零を始めとする対HW班4機も、ルノアが発射した煙幕装置の煙に紛れて敵前降下し本星型と対峙していた。
「あの姿まさに蜘蛛だな」
 ブーストで素早く接近し、鍛え抜いたハイ・ディフェンダーを振りかざす。
「まずはその足叩き斬る!!」
 挌闘用アームと本体の継ぎ目付近を狙い斬りつけた。
 一際強い赤光が輝き、HWの本体が僅かに揺れた。
 強化FF。機体・兵装共に大幅な強化を施した「闇天雷」の攻撃でさえ、その半分以上を無効化されてしまう。
「ち‥‥相変わらず厄介な能力だな」
 ブーストでいったん距離を取り、反撃に撃ち返されるプロトン光線を凌ぎつつぼやく王零。
 続いてさやかが小型帯電粒子砲を放つ。今度は強化FFは発動せず、ビームの光条はHWの機体を直撃し、僅かな焦げ目を作った。
「私の粒子砲では使うまでないと? 失礼ですね!」
「構いませんわ。少しずつでも削って行けば、いずれは倒せます!」
「本星型、相手に、不足、なし、です」
 王零がHWの足止めを図る間、桜子はレーザー砲、ルノアはSライフルD−02で後方から援護射撃を繰り返す。

 HWへの攻撃を担当する一方、さやかにはEQ索敵という重要な任務もあった。
 測定器のモニターから視線を逸らさず、敵EQが地表目指して「浮上」する兆候を見せ次第、すかさず対EQ班各機へと警告を送った。
「Ground warning red weapons free」
 ほぼ同時に転送された出現予測位置のアスファルト路面がぐっと盛り上がり、表面にひび割れが走る。
 睦中隊、そして担当のKV4機はすかさず後退し、次の瞬間舗装を破って飛び出してきたEQの頭部目がけて一斉に攻撃を開始した。
「一番槍、榊兵衛参る!」
 兵衛の「忠勝」が超伝導アクチュエータを起動。「蜻蛉切」と名付けたロンゴミニアトの刺突を繰り出す。
 機槍の一閃が深々と頭部を穿ち、地中に逃げ込めなくなったEQ目がけ、傭兵達の攻撃が殺到した。
「牙でも特殊合金ブレードでも、これで‥‥喰い破る」
 那由他のブレイクドリルが唸りを上げて高速回転し、同じドリル状になったEQの牙を一本へし折った。
「多少の危険は承知の上、ここで一気に畳み掛けます!!」
 好機と見たあやめも、戦闘前のイメージトレーニングどおり雷電の機体得能&ブーストで突撃し、ハイ・ディフェンダーでEQに大ダメージを与える。
「‥‥ま、俺達は戦争してるんだしな、一般人の兵士を狙うのが悪いとは言わない」
 長大な胴体を路上に踊らせ、なお苦し紛れの抵抗を続けるEQに対し、ブレイズがスレッジ・ハンマーを振り上げた。
「だが‥‥気に食わねぇんだ、そういうの!」
 推進ブースター付きの巨大ハンマーが鈍い音と共に大型ワームの頭部を叩き潰す。
 かつての欧州戦では対EQの「鉄槌作戦」に参加したブレイズだが、今回は文字通り怒りの鉄槌攻撃だ。
 EQはその長大な胴体をビクビク痙攣させたが、やがて動きを止め自爆した。

 その間、幸乃は須賀大尉と連絡を取り、星之丞と共に中隊の撤退援護・誘導にあたっていた。
 彼女の目的は最優先で1人でも多くの兵士達を救う事だった。それでも両脇のビル街への警戒は怠らず、危険な大型キメラを発見次第、惜しみなくマイクロブースト&ブースト併用で一気に接近し殲滅していく。
「もう、誰一人傷つけさせはしません‥‥必ずみんなで無事に帰ります!」
 星之丞もまた、中隊の盾となる覚悟で突撃ガトリングを乱射、立ちふさがる中小型キメラどもを掃討していった。

 王零の猛攻撃に耐え続けていたHWの強化FFが不意に途絶え、ハイ・ディフェンダーの斬撃が挌闘アームの1本を切断した。
 本星型としては小型の部類だけに、ついに特殊能力を発動する練力が切れたらしい。
「Check、mate、此処で、落とし、ます!!」
 メタルレッドのS−01H。ルノアの「Rot Sturm」がHWの背後に回り込み、重機関砲の猛射を浴びせる。
「これで終り、だな」
「闇天雷」が再び敵の懐に飛び込むや、デアボリング・コリダーの鉄拳が通常FFを突き破り敵のボディにめり込む。さらに機杭エグツ・タルディを続けざまに打ち込んだ。
「Grenze−Transzendenz!! 我が闇天雷から逃げられると思うなよ‥‥我にあった事を悔やみ!! ‥‥我を呪い!! ‥‥ただ聖闇の中で朽ち果てろ!!」
 機刀セトナクト――超音波震動の刃が狼の遠吠えのごとく吠え、HWのグロテスクな機体を叩き斬る。
 石榴のような裂け目がぱっくり口を開き、さしもの本星型HWも力なく路上にくずおれた。

 最後の1体となったEQを地上で待ち伏せ、再び那由他のブレイクドリルが頭部を貫く。
「貴様にお似合いの餌だ。よく味わえ!」
 大きく開かれたEQの口内に兵衛がG−44グレネードランチャーを撃ち込み、体内からダメージを与える。
 一瞬動きを止めたEQにブレイズのスレッジ・ハンマーが振り下ろされると、そのままズブズブとワームの巨体が地中に沈んだ直後、地面の穴から自爆の爆煙が火山のごとく吹き上がった。

 敵ワーム群を全滅させた傭兵KV部隊は、その後も睦中隊の前後左右を護衛しつつ、無事後方の安全地帯へと誘導した。
 しかし全滅は免れたといえ、睦中隊の被害も少なくない。同部隊の3割に相当する40名余りが戦死。破壊された戦車や装甲車は後でいくらでも補充が利くが、失われた命はそうはいかない。
「お疲れ様です、よく持ちこたえられました。ご無事で何よりです」
 あやめは初めて彼らと戦った後と同じく、KVを降りて励ましの言葉をかけて回った。
「どうも有り難うございましたっ!」
 戦車から降りた円藤賢二、岡崎優作らがぎこちなくも緊張した面持ちで敬礼を返した。
 この2人だけではない。
 有明橋での戦闘に続き自分達の危機を救ってくれたL・Hの能力者達を、年端もいかぬ特務兵達が尊敬と憧れの入り交じった眼差しで見つめている。
「‥‥大丈夫ですか?」
「はいっ」
 心配そうに声をかけた幸乃に対し、美香は微かに震えつつも、気丈に返答した。
「柳川で一度助けて頂いた命‥‥決して粗末にはしませんから」

 およそ数日に渡り続いた戦闘で、UPC軍は大きな損害を出しつつも、ついに大川市内のワーム・キメラを殲滅。
「烈1号作戦」最後の攻略目標である佐賀は、目前を流れる筑後川の向こう、すぐそこまで迫っていた。

<了>