タイトル:【ODNK】偵察HW迎撃マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/12/30 14:34

●オープニング本文


●九州・UPC軍佐賀補給所(旧陸自・目達原駐屯地)
 この秋バグア占領下から解放された佐賀県内でも春日バグア基地にもっとも近く、いわば九州北西部の「最前線基地」ともいうべき補給所の司令部ビルに、UPC軍旗、日本国旗と並びタロットカード大アルカナの「塔」をモチーフにした異様な旗が翻っていた。
 UPC軍(正規軍、ULT傭兵部隊)と共に同補給所にKV部隊を常駐させている民間傭兵派遣企業「SIVA」の社旗である。
 九州方面隊が命運を賭けて発令した「烈1号作戦」による激戦の末に辛うじて奪還した佐賀補給所であるが、油断をしていればいつまた春日方面からバグア軍の再侵攻を受けるやも判らない。とはいえ、大規模作戦などがあれば世界各地の戦場へ遠征しなければならない正規軍とULT傭兵だけでは戦力不足とみたUPCは結局SIVAと長期契約を結び、同社の私設兵団をここ佐賀補給所に駐屯させることを要請した。
 一方、SIVAは「烈1号」の戦闘で大損害を被った佐賀・大川・柳川各市の復興を請け負う銀河重工から護衛の契約も取り付け、九州北部に拠点があれば大いに助かる。
 UPC・銀河重工・SIVA3者の利害が一致した形で、同補給所は2つの軍隊が同居する形となっていた。

 その司令部ビル内で、黒い軍服に身を包んだ、まだ高校生のような少女が緊張した面持ちで自動ドアの横のボタンを押していた。
『入れ』
 インターホンから流れる男の声と共にドアがスライドする。
 広い指揮官オフィスの奥で、デスクの上に広げたチェス盤をじっと見つめていたSIVA指揮官・ラザロ(gz0183)がゆっくり顔を上げ、灰色の目で少女の顔を見やった。
「オレは‥‥い、いえ私は、この度L・Hから、こちらには、配属されました‥‥」
「言葉遣いは普段どおりで構わんよ? 俺達は正規の軍人じゃない」
「へ? あ、はい‥‥」
「中島・茜だな? 新規配属の件は本社から聞いてる。‥‥そういや、例の『分校』出身だってねぇ?」
「‥‥!」
 茜は思わず身を固くし、初対面となる「上官」を警戒するように睨み付けた。
「まぁそう堅くなるな。能力者の傭兵に必要なのはあくまで実戦の戦闘能力だ。俺はおまえさんの過去の経歴なんか一切気にせんから、その点は安心していい」
 ラザロの口許の両端がつり上がり、ニィっとV字型を形作る。
 ただしその灰色の目は全く笑っていなかったが。
(「うわっ、何か危ねーオッサン‥‥ホントに大丈夫かよぉ?」)
 一瞬、言いしれぬ不安を覚える茜。
「あのぉ‥‥それで、オレ、最初は何すればいいんですか?」
「あいにくうちの主力は、いま久留米方面の親バグア軍掃討戦に出払っててね。まあ先輩連中が帰還するまで適当に過ごしてろ」
「適当に‥‥っていわれても‥‥」
「おまえさん、チェスは指せるかい?」
「えーと、将棋ならちょっとだけ‥‥」
「何だ」
 失望したようにラザロは顔を伏せ、再び1人チェスを再開した。
「‥‥ハンガーの方に専用のディアブロ改を1機用意してある。詳しいことは、正規軍の整備兵でも捕まえて聞くんだな」
(「やたっ! バーチャルシミュレーターじゃない、モノホンのKVに乗れるっ!」)
 内心でガッツポーズを取る茜であったが、ふと思い出し、慌てて軍服のポケットを探った。
「えーと、これ‥‥ULT傭兵のお兄さんから、ラザロ隊長に渡してくれって‥‥」
 それは彼女がまだ訓練生だった頃、「分校」仲間だったキム・ウォンジンの墓参りの際、同行した能力者の1人から預かった「紹介状」であった。
「うん?」
 再び顔を上げたラザロは封筒を受け取り、中身を一瞥する。
 間もなく、その灰色の瞳がやや興奮したように輝いた。
「ほう‥‥これは、これは‥‥」
 うって変わった上機嫌となり、手紙をデスクの引き出しにしまい込んだ。
「ちょっとした知り合いからの手紙でね。なかなか面白い情報と一緒に、あんたのこともよろしくと書いてある」
「あ‥‥そ、そうですか?」
 そういわれても、茜には何が何だかさっぱりだが。
「まあ、世の中持ちつ持たれつってことだよ‥‥ちょっと待ってろ」
 ラザロは卓上の電話機を取り上げた。
「ああ、SIVAのラザロだ。実はうちの新人で、ちょっと面倒を見てやって欲しいのが1人いてね‥‥ふむ‥‥1時間後に傭兵のKV小隊が出発? 丁度いい。そっちに押し込んでやってくれ」
 受話器を置くと。
「ハンガーでKVの点検が済んだら3番滑走路に移動しろ。ULTの傭兵KV部隊が春日方面に出撃するから、それにくっついて色々教えてもらえ」
「春日? ってことは‥‥いきなりバグア基地の攻撃かよ!?」
「ああ、安心しろ。春日バグア軍基地の手前にある山岳地帯の哨戒飛行さ。何もなければ、2時間ばかり飛び回って帰って来るだけ。KVの慣し運転としちゃ丁度いいだろ?」
「哨戒飛行‥‥かよ?」
 確かに「何もなければ」単なる訓練飛行と変わらない。しかし敵味方の基地を挟んだ競合空域を飛ぶだけに、バグア軍HWと遭遇・交戦となる可能性は大いにある。
 事実上、初の「実戦任務」に、茜は身の引き締まる思いを感じた。
「『習うより慣れろ』さ。要は早いところ、実戦のカンを体で覚えろってことだ」
 そういうと、ラザロはまた口の両端を上げ、ニタリと笑った。

●参加者一覧

ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
Anbar(ga9009
17歳・♂・EP
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
YU・RI・NE(gb8890
32歳・♀・EP
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF

●リプレイ本文

●北九州〜UPC軍佐賀補給所
 春日バグア軍基地との競合空域にあたる筑紫山地上空の哨戒飛行のため集合した8名の能力者達が、9人目のメンバー追加を知らされたのは、既にKVの整備を済ませ機体を滑走路に移動させた後のことであった。
「えーと、今回の任務に参加するSIVAの中島・茜です‥‥よろしく」
 同じ傭兵とはいえ所属の異なるULTのパイロット達を前に緊張気味だった少女は、一同の中に顔見知りのゲック・W・カーン(ga0078)やリヒト・グラオベン(ga2826)を見つけ、ややホッとした表情に変わった。
「今回のミッションは哨戒です。仮に敵戦力と遭遇しても大した規模とは思われないので、KV戦に慣れていない方も実戦訓練と思い安心してついてきて下さい。いざというときは、俺達でサポートしますから」
(「それにしても、SIVAから茜が増員ですか‥‥。恐らく、彼が手を回したのでしょうね。少々手荒ですが彼らしいです」)
 茜に対して任務の概要を説明しながら、リヒトはSIVA指揮官・ラザロ(gz0183)の顔を思い浮かべていた。
 一方ゲックはといえば、
「さてと‥‥こっちの嬢ちゃんは、今後どう転んでくれるかね?」
 やや離れた場所から、じっと茜の様子を見守っている。彼女とは所謂「山の分校」以来の付き合いとなるが、今回直接のサポート役はリヒトに任せるつもりだった。
 むろん、必要があれば自分もフォローに入る。ただし特別扱いはせず、厳しく指導することになるだろうが。
(「今回は年代近い人が多いな‥‥、SIVAから来た新人さんも十代らしいし」)
 茜も含め、今回の依頼に参加する顔ぶれを見渡し、明星 那由他(ga4081)は思った。
(「初対面の人が苦手なのは誰でも同じだけど、歳が近い人のほうがちょっと気が楽‥‥。でも僕みたいだと傭兵のイメージが崩れてがっかりさせちゃいそうだし‥‥」)
 色々考えた末、茜とは少し距離をおくことに決める那由他。
 ただし年齢はともかく、KV戦の経験でいえば彼は今回参加メンバーの中でも充分ベテランといえる立場なのだが。
 対照的に、夢守 ルキア(gb9436)は自ら進んで茜に声をかけた。
「はじめまして。ルキアだよ、傭兵になったばかりなんだ。よろしくね、君に負けないように頑張らなくちゃ」
「あ‥‥こちらこそ」
 挨拶代りに、ルキアは手品で一輪の薔薇を取り出す。
「プレゼント、綺麗な女性には綺麗な花を、ね?」
「ええー? オレが綺麗だなんて‥‥そんなこと、ないない」
 照れ笑いを浮かべて両手を振る茜。それでもルキアから渡された薔薇は嬉しそうに受け取った。
「ディアブロ、いい機体だね、よく調整されてる」
 茜が滑走路へ出してきたKVを眺め、ソーニャ(gb5824)がいった。
「ああ、正規軍の整備兵さんに教わって、見よう見まねで――」
 そこで茜はちょっと口ごもった。外見上、自分よりかなり年下のソーニャに対し、どういう態度で接していいのか一瞬戸惑ったようだ。
「ん? ボク? ここにはボクより小さいこはいっぱいいるよ。見た目どおりとは限らないけどね」
「へえ、そーなんだ?」
「わけありのこも多いよ。あ、でもボクにはなんにもないよ。そう、なんにも」
「‥‥」
「ここにいれば空が飛べる、生き延びれば次も飛べる。ごはんもたべられる。ただそれだけ」
「‥‥だよなぁ。遊びじゃねーんだし」
 改めて「傭兵」となった己の立場を自覚したのか、複雑な表情で顔を逸らしたところで、Anbar(ga9009)と目があった。
 ソーニャと比べてもさらに年下の、少女と見まがうような美少年である。
「アンタも、傭兵?」
「生憎と俺はガキだが、これでも修羅場はくぐってきているんでね」
「いや、別にそんなつもりじゃ‥‥」
「哨戒途中に敵からの奇襲で落とされる危険性については充分に弁えている。勇気と蛮勇を取り違えない程度の分別はあるつもりだぜ」
「わ、判ったよ‥‥とにかく、よろしく」
 すっかり毒気を抜かれたような顔つきで搭乗機に向かう茜の肩を、ゲックが叩いた。
「よう、出撃前からしょぼくれてるな。いつもの元気はどうした?」
「そーいうわけじゃねーけどさ‥‥」
「分校」時代は生徒達のリーダー格といって良い茜だったが、この場ではすっかり立場が逆転し、自分が一番の「格下」ということを自ずと察したようだ。
 そんな少女に、ゲックは真顔で忠告した。
「気負う必要はない。だが油断もするなよ。一度上にあがればもう戦場だ。こっちが新兵だろうがベテランのエースだろうが、敵は一々区別なんぞつけんからな」

 やがて先の哨戒飛行を終えて友軍機部隊が無事帰還した。
 今の所、春日基地方面に大きな動きは見られないという。もっとも山ひとつ挟んだ九州バグア軍の根拠地だけに、いつ偵察や攻撃のHWが飛来するか、24時間油断できない状況に違いはないが。

「‥‥哨戒任務か。敵と遭遇しないと良いんだが。このメンバーで後れを取る事はないとは思うが、何もなく終了するのに越した事はないからな」
 管制塔から次の哨戒班出撃の命令が下り、Anbarが駐機させたシラヌイへと走る。
「まずシミュレータと実戦の違いを感じろ。まずはそこからだ」
 月影・透夜(ga1806)は茜に一言アドバイスを送ると、やはり愛機ディアブロへと向かった。

●筑紫山地上空
 上空へあがった傭兵達のKV部隊は、春日方面から侵入するHWや飛行キメラ警戒のため編隊を3つに分けた。

α班(高空担当):那由他、ソーニャ、YU・RI・NE(gb8890
β班(中空担当):ゲック、リヒト、茜
γ班(低空担当):透夜、Anbar、ルキア

「‥‥敵を探す状況は初めてね」
 傭兵の搭乗機としては数少ないシラヌイS型の風防から福岡方向を睨み、YU・RI・NEが呟いた。
 瀋陽とマドリード。先の戦場では、雲霞のごとく空を覆うバグア航空戦力の光景が当たり前だっただけに、一見何もない晴天を飛ぶことに、却って妙な緊張を覚える。
 それでも彼女は、見晴らしがよい高空から広域に注意を払った。
 ルキアの骸龍から電子支援が受けられるといえ、レーダーだけでなく目視警戒も怠りなく行う。
 イビルアイズを駆る那由他も、低空からだと見えにくい位置の山陰などを警戒した。
「まだ、ひよっこだけど、空ばかり飛んでいるよ」
 オープン回線の無線がソーニャの声を伝えた。
 独り言のようだが、これは初心者の茜に対するメッセージでもある。
「僚機との位置関係に注意。まずは墜とされないこと。自分が墜ちれば、それだけ僚機が危険になるってことだからね」

「KV戦は自機の特性を把握するといい。ディアブロは攻撃面は高いが防御面は低い。1撃必殺やヒット&アウェイを心掛けるといいぞ」
 γ班の前衛を担当する透夜は、低空の山間などを警戒する一方で、茜にディアブロ使用についての注意点を教えていた。これは機体改造で徹底的に防御を高めた透夜自身の戦法とは必ずしも一致しないが、あくまで初心者パイロットを念頭に置いた指導だ。
「その後、自分の得意分野を組み合わせ戦術を立てるんだ」
「は、はいっ」
 無線機からやや緊張気味に少女の声が答える。
 初期訓練で一通りの操縦はマスターしているといえ、やはりシミュレータと現実に空を飛ぶ感覚のギャップに戸惑いを隠せないようだ。

 最初に敵影を発見したのは、ルキアが操縦する骸龍だった。逆探知装置が感知したジャミング発生源は前方11時の方向、小型HWと思しき機影が5機でデルタ編隊を組み、山肌を縫うような低空飛行で佐賀方面へと向かっている。
「はーい、お知らせ機能発動。敵感知したよー」
 ルキアはバグア機の数と方向、陣形などのデータを僚機に転送。自らも愛機に呼びかけ臨戦態勢に入る。
「じゃ、イクシオン、行こうか‥‥反逆の始まりさ!」
 本格侵攻にしては少ない戦力から見て、敵の目的はある程度の攻撃で人類側の防衛体制を探る威力偵察というところか。
「敵編隊を発見、攻撃に移る」
 透夜のディアブロが骸龍を守るようにして前進し、HWの注意を引きつける。
 戦闘のHWを狙いKA−01エネルギー集積砲、次いで8式螺旋弾を発射。圧倒的な攻撃力の前に、この段階で1機目のHWが爆散した。
「前衛でなるべく多くを引きつける。援護を頼む」
 残り4機を逃がさぬよう、透夜はさらに機体をブーストオンで肉迫、そのままドッグファイトに持ち込んだ。
 Anbarは超伝導アクチュエータを起動し試作型G放電を浴びせ敵の機先を制するや、畳みかけるようにUK10AAMを発射。
 HWが反撃で撃ってきたプロトン光線を試作型AEC展開で凌ぎ、距離を詰めたところでスラスターライフルが火を吐き近接攻撃に入る。
 その間、ルキアは戦況データを上空のα、β両班に転送する一方、後方からHミサイルで僚機を援護した。
 γ班の猛攻で2機目のHWが墜落。慣性制御の急上昇により上空に逃れようとした残り3機のHWをめがけ、α班3機が高々度から一気にダイブしての攻撃を敢行した。
 那由他はゲック機と連携しタイミングをずらしながらBRキャンセラーによる重力波ジャミングでHWの攪乱を図る。
「敵の目的が威力偵察なら‥‥、強引に突破してくるかも‥‥基地を攻撃しなきゃ意味がないから」
「火力を集中させて。連携攻撃をかけるよ」
 ソーニャのロビンがアリスシステム、マイクロブーストを起動。G放電の先制からUK10−AAEMの攻撃へと繋ぎ、その軌道を追うようにしてレーザー砲照射。
 ダメージを受け減速したHWの側面へYU・RI・NEのシラヌイSがブーストオンで回り込み、近距離からレーザーカノンで攻撃。
 佐賀方面へ迂回突破を図る敵機には、那由他のイビルアイズが立ちふさがりハンドマシンガンで果敢に迎え撃った。
「一機の突出した機体より、各機が堅実に役割をこなすチームの方がはるかに効果的で強いんだから」
 茜機にも聞こえるように、ソーニャはオープン回線で語りかける。
 さらに1機のHWが炎と黒煙を吐きながら墜ち、山肌に激突して爆発。
 一方、β班3機は敵の退路を断つべく春日方面へ回り込んでいた。
 それまでBRキャンセラーによる電子支援に務めていたゲック、茜機のサポートと後方支援にあたっていたリヒトも戦列に加わった。
 リヒトの合図と共に、茜のディアブロがG−01ミサイルを発射。噴煙の尾を長く曳き、ミサイルの弾頭がHWの1機に炸裂した。
「当った‥‥!」
 茜の口から興奮したような声が洩れる。覚醒変化による戦意の高揚が当初の戸惑いを克服したらしい。
 総弾数の少ないミサイルはたちまち撃ち尽くされた。
「そろそろ大丈夫でしょう。前衛に出て、レーザー砲主体でHWを攻撃してください」
 リヒトは茜機を前に出すと、自らはD−013ロングレンジライフルで後方から援護する。
 KV9機の集中砲火の中、4機目のHWが蒼空に炎の華と化して消えた。
 ボロボロになった最後のHWが、慣性制御で方向転換するや高加速で春日方面へと逃走を開始。
「逃がすかっ!」
 機体を急旋回させ追撃しようとした茜機の鼻先を押さえるように、YU・RI・NE機とゲック機が立ちふさがった。
「ここまでよ」
「深追いは禁物だ! 春日から敵の増援を呼び寄せる気か!?」
 驚いた表情でディアブロに制動をかける茜。
 その間、
「逃がさんと言っている」
 ブーストで追いすがった透夜機が長射程のエネルギー集積砲で狙撃、最後のHWも筑紫山上空に散華した。

●佐賀補給所〜ハンガー内
「バカ野郎! てめぇ1人が先走って、仲間のKVまで危険に晒した例は今までにいくらでもあるんだっ!」
「‥‥」
 帰還するなりゲックから頭ごなしに怒鳴りつけられた茜は、無言のまま目に涙を浮かべて俯いた。
 そんな彼女に、ゲックは今回のレポートと共に反省文の提出を命じ、踵を返してその場から立ち去った。
 歯を食いしばったまま手の甲でしきりに涙を拭う少女の背中に、
「味方に頼れ、誰だって1人でできることはしれているんだからな」
「生きて帰って大切な人の顔を見るまでが仕事。違う?」
「ガキの俺にとやかく言われるのがイヤなら、次に会った時には俺をあっと言わせる位になっていてくれよな。期待しているからよ」
 透夜、YU・RI・NE、Anbarらが慰めるように声をかけ、各々パイロット待機所へと引き揚げていった。
「KVで空戦って私も始めてなんだよね、練習は別として。ま、私のイクシオンは偵察機だから、戦闘中にあまり無理できないけど」
 最後に残ったルキアが、茜にハンカチを貸してやりながら打ち明けた。
「決して無理せず、自分の出来る範囲を‥‥そういうのが、一番生き延び易い方法だからね」

●司令部ビル〜SIVA指揮官室
 数時間後――。
 茜の戦闘レポートを携え部屋を訪れたリヒトは、ラザロに面会し彼女の件で礼を述べると共に、レポートを手渡した。
「どれどれ‥‥フム、まあ初仕事としちゃこんなものだろ――おや?」
 レポートに添付された反省文を見つけ、SIVA指揮官は苦笑した。
「こんなものまで書かせたのかい? 面倒見がいいねぇ、ULTは」
「少々血気に逸る嫌いはありますが‥‥筋は悪くありません。地道に実戦経験を積んでいけば、茜はいい傭兵になることでしょう」
 リヒトは彼女のため、自分が所有するKV装備の提供を申し出たが、これはラザロにやんわり断られた。
「すまんがうちは傭兵といっても、いわば『社員』だからね。装備の方は本人の経験や技量に合わせて会社が支給することになってるんだ」
 ラザロは再び茜のレポートに視線を落し、
「しかし‥‥俺が言うのも何だが、世の中変わったもんだねぇ。娘みたいな年頃の嬢ちゃんが傭兵とは」
「娘? ラザロにも娘さんがいるのですか?」
「ああ。といっても、もう十年以上も会ってない。いま生きてるかどうかも判らんがね」
 まるでひと事のような言い方である。
 見かけ30前後にしか見えないこの男の、本当の年齢は幾つなのか――?
 リヒトは訝しみつつ、ラザロの顔を見つめるのだった。

<了>