タイトル:【KM】決戦の島Aマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2010/01/28 05:49

●オープニング本文


 2009年12月。L・Hの各所では大規模作戦「己丑北伐」の戦勝祝いとクリスマス、2重の祝いを兼ねたイベントに湧いていた。
 そんなお祭り気分の一方で、UPC本部ビルの1室には東アジア軍幹部に加えインドネシア、マレーシア、フィリピン、プリネア王国の各国代表、さらには民間傭兵派遣企業「SIVA」の役員らが集まり、第2次カメル南征――すなわちカメル共和国に対する本格的武力制裁の発動について最終的な合意に至ろうとしていた。
 同国領内に建造された超遠距離プロトン砲「グレプカ」の破壊に成功したとはいえ、アジア圏最大の親バグア国家・カメルの脅威は未だに厳然として存在している。これまで表向きは「中立」を唱えていたが、既に正式な宣戦布告が為された以上、カメルとUPC加盟各国との戦争はまだ継続しているのだ。
 カリマンタン島解放戦、アジア決戦、そして先の己丑北伐と、相次ぐ戦乱で兵力を消耗した東アジア軍内にはこの時期の大規模派兵に慎重論を唱える声もあった。しかしカメル駐留バグア軍から直接の脅威を受けるインドネシア代表の強い意向もあり、最終的に同国のグナワン・ムハマド中将を総司令官とするカメル派遣軍の編制が決議される。

 明けて2010年1月。ジャワ島スラバヤ港、スラウェシ島ボネ湾の2箇所に集結した人類軍の空母機動部隊は陸軍輸送艦隊を伴いフロレス海に向けて出撃した。上陸目標はソロール諸島最大のフロレス島。先に退却を余儀なくされた同島を奪回し、本格的な空軍基地や補給基地を建設すれば、続いて実施されるカメル本土侵攻の前線基地となろう。
 かくしてカメル解放戦――作戦名「ガルーダ」はその幕を上げることとなった。

●フロレス海〜フロレス島西方沖合
「間違いないのじゃな? ゾディアック『蟹座』のエリーゼ・ギルマン(gz0229)がカメル・バグア軍の新司令に就任したというのは」
「はっ。正規軍の情報部が、ウランバートルからカメルへ『蟹座』の紋章を掲げたバグア軍ビッグフィッシュによる空中艦隊の移動を確認しております」
 空母「サラスワティ」艦橋内で、艦長ラクスミ・ファラーム(gz0031)の問いかけに副長シンハ中佐が答えた。
「嫌な報せじゃのう‥‥いくら本艦でも、海上であのFRの奇襲を受けたらひとたまりもないぞ」
「いえ。ステアーならいざ知らず、交戦可能時間の限られるFRをギルマンが艦隊攻撃に使うとは思えませんな。むしろ警戒すべきは、先の大規模作戦からバグアが投入してきたた新型ワームのタロスかと」
 バグアがゴーレムに代る量産兵器として繰り出してきた「タロス」。基本的には陸戦用の人型ワームだが、同時に飛行能力も持ち、HW同様の高速空戦すらこなすという、いわば「バグア版KV」ともいうべき新たな脅威だ。
「タロスか‥‥いずれにせよ、バグアどももすんなりフロレス島へ行かしてくれそうにはないのう」
 ラクスミは艦橋の窓から、同行する友軍艦隊を見渡した。
 UPC正規空母2隻、軽空母(サラスワティ)1隻を主力に多数の護衛艦、陸軍輸送艦を伴い、水中用も含めおよそ200機のKVを擁する大艦隊である。
 だがこの艦隊はフロレス島攻略部隊の1部に過ぎない。バグア側航空戦力、及び水中ワームによる迎撃を警戒するUPC側は艦隊を2つに分け、ムハマド中将が指揮する主力艦隊は今頃スラウェシ島を出発し北からフロレス島に上陸作戦を仕掛ける計画だ。
「さて、敵はどちらに食いついてくるやら‥‥いずれにせよ、ここでむざむざ全滅するわけにはいかんな。フロレス島攻略はこれから始まる戦いの‥‥第1段階に過ぎんのじゃから」
 提督服の少女は作戦卓の海図に視線を落し、険しい表情で呟いた。


『残念ながら、我々はギルマン閣下からあまり信頼されてないようだな』
 無線機を通し、後方の中型HWから指揮を執るハリ・アジフ(gz0304)の声が響く。
『敵の主力は規模からみても北から来る艦隊だ。私のNDFに陽動部隊の相手をしろとは‥‥面白くないが、これも命令だ』
 人類側の動きは、既に軌道上の偵察衛星からバグアに筒抜けだった。
 しかし司令官のエリーゼはフロレス島守備隊長として腹心のガーランドを据え、ウランバートルから率いてきた子飼いの部隊を配備し人類軍を迎え撃つ体制でいる。
 彼女の目から見れば前司令のシモン(gz0121)が「単なる道楽で作った様な」NDFは厄介者と映ったらしく、創設者の1人であるアジフに指揮を押しつけ「スラバヤ方面から来る敵艦隊を適当に叩いておけ」と素っ気ない命令が下されていた。
「いいじゃねぇか、ドクター。陽動だろうが何だろうが、残らず沈めちまえば済む話なんだから」
 青くカラーリングされたエース機タロスの操縦席で、マグダレーナはあっけらかんと答えた。
「そういや敵艦隊の中にいる『サラスワティ』って空母‥‥人類どもの間でも有名なフネなんだって?」
『うむ。1年前に我が軍がカメルを占領した時も現れて、当時は別の体をヨリシロにしていたギルマンの部隊を破っているな。何でも、艦長はどこぞの国の王女とか聞いたが』
「そりゃー面白い」
 くっくっく‥‥マグダレーナは喉を鳴らして笑った。
「連中の艦隊を全滅させて、ついでにその小生意気な姫サンの首でも土産に持って帰りゃ、司令官殿の目もちったぁ変わるんじゃねーか?」
『その言葉通りの働きを期待してるぞ。正直、カメルなぞどうなっても構わんが――NDF計画だけは、何としても存続させねばならん』
 アジフの言葉に返信する前に、先頭を飛ぶマグダレーナ機の重力波センサーが1機のKVらしい機影を捉えた。
「‥‥フフン。さっそく見つかったわね」
 指揮官のアジフには交戦に入ることだけ手短かに伝え、マグダレーナは翼を並べる2機のタロスに指示を下した。
「マティア、ヨハネ、行くよ――アタシらは例のサラスワティって空母を殺る。他のフネはHWどもに任せときな!」


「‥‥来た!」
 時を同じくして、サラスワティから飛び立った偵察型KV斉天大聖のパイロット、李・海狼(リー・ハイラン)はレーダーと特殊電波長装置βのモニター画面を見つめ、まだ幼い顔を強ばらせた。
「カメル方面より敵編隊発見! タロス3、小型HW多数! 友軍艦隊に向けて加速してます!」

「‥‥敵機襲来よ」
 サラスワティのパイロット待機所で艦内電話を受けたプリネア軍少尉マリア・クールマ(gz0092)が、背後に控える傭兵達に告げた。
「敵の主力はタロスが3機。本艦を目指して接近中‥‥他のHWやCWは正規軍KVに任せて、私たちはタロスを迎撃するわ」

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
時任 絃也(ga0983
27歳・♂・FC
叢雲(ga2494
25歳・♂・JG
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
百瀬 香澄(ga4089
20歳・♀・PN
イレーネ・V・ノイエ(ga4317
23歳・♀・JG
須磨井 礼二(gb2034
25歳・♂・HD

●リプレイ本文

『カメル方面より敵機襲来! 総員戦闘配置に付けっ!』
 艦隊上空を警戒する電子戦機や早期警戒機から。陸軍輸送艦艇を守る護衛艦のCICから。矢継ぎ早に警戒警報が発せられ、大型空母のスチームカタパルトから次々と迎撃用のKVが発進する。
 海底では早くも護衛の水中用KV部隊と水中ワーム・キメラの戦闘が始まったらしく、海面のあちこちで爆発の水柱が上がった。

 露払いのごとくUPC艦隊の先頭を航行していた空母「サラスワティ」甲板上でも、待機していた傭兵達のKVがプリネア軍クルーの指示に従い、慌ただしく発艦準備に入っていた。
 敵航空戦力の大半は従来型の小型HWや飛行キメラだが、中には爆撃仕様と思しき中型HWの機影もある。そして最も警戒を要するのが、このところ各地の戦場に姿を現わし始めたバグア軍新型ワーム「タロス」3機だった。
 最初に敵機発見を報せてきた李・海狼の斉天大聖は、現在そのタロスの追撃を受けている最中だという。
「絶対に墜とさせるもんか‥‥、絶対に‥‥」
 イビルアイズの機上で決意したように呟き、明星 那由他(ga4081)が飛行甲板から飛び立つ。
「1年ぶりですね、今回もお任せを♪」
 艦尾方向の甲板からは、須磨井 礼二(gb2034)のシュテルンがスラスターの噴射を真下に吹き付け浮上していく。緊急事態だけに、VTOL機能を有する機体は順番を待つまでもなくその場で垂直発艦していった。
「ガルーダの仏教での呼び名は『迦楼羅』――俺にとっては特別な名だ」
 偶然とはいえ、カメル解放戦に付けられた作戦名との符合に思いを馳せつつ、煉条トヲイ(ga0236)の雷電改がスキージャンプ甲板を蹴って南洋の空へと舞い上がる。
「マリアは最後に発艦してください」
 リヒト・グラオベン(ga2826)は、搭乗機のアンジェリカへ向かおうとするマリア・クールマ(gz0092)を呼び止めた。
 すでに垂直離陸で発艦した李・海花の斉天大聖と合流し、サラスワティの直衛を務めるよう、リヒトはマリアに要請した。
「‥‥わかったわ」
 そう答える少女はいつも通り人形のように無表情だが、その顔色がやや青ざめているのに傭兵達は気づいていた。
 海狼からの第1報によれば、敵ワーム編隊の中には青いタロスも混じっているという。おそらく先の大規模作戦にも現れたNDFだろう。
 NDF計画の元型ともいうべきカメル軍のDF計画で強制的にエミタを移植された彼女にとっては、己の分身と戦うようなものだ。
(「いざとなって、取り乱すようなことがなければいいがな‥‥」)
 マリアの傍らを通り過ぎてR−01改へと向かいながら、時任 絃也(ga0983)は微かな危惧を憶える。
 その時は、無線で怒鳴りつけてでも戦場から離脱させるつもりだったが。
 やはりマリアの不安を感じ取ったイレーネ・V・ノイエ(ga4317)は、サイファー「Samiel」へ乗り組む前に彼女を安心させるべく、軽く肩を抱いてやった。
「海狼のことなら心配するな‥‥それより母艦の直衛は任せたぞ」
「‥‥うん」
 子供のように、マリアはこくんと頷いた。

「レイブン」と名付けた漆黒のシュテルンで垂直発艦した叢雲(ga2494)が空母とのデータリンクを張ると、レーダースクリーンに早速数知れぬ光点が浮き上がった。
 だが数十機に及ぶHW群は傭兵達のKVを迂回し、サラスワティなど眼中にないかのごとく後方へと抜けていく。奴らの目標はあくまでUPC軍の大型空母、そしてフロレス島攻略部隊を乗せた陸軍輸送艦艇なのだ。
 UPC空母から発艦した計百機近いKVがこれを迎え撃ち、たちまちフロレス海上空の青空はレーザーと実体弾、プロトン光線とフェザー光線が飛び交う戦場と化した。
 そんな中、3機のデルタ編隊を組みサラスワティ目指して直進してくる機影――3機の青いタロス。広げた主翼の下に巨人がぶら下がったような飛行形態だが、それでも通常のKVを上回る速度で海狼の斉天大聖を追撃している。
「‥‥NDF――シモンの落とし子達、か」
 トヲイの口から思わず声が洩れる。
「エースタロス三機‥‥大層な出迎えだな」
 百瀬 香澄(ga4089)もロビンの機内で呟いた。
 やがて接近するにつれ、タロスの機体に左から04、13、05と刻印された番号が視認できた。
「NDF‥‥ですか。新しいナンバーは初見ですが‥‥」
 カメル関連の依頼には縁の深い叢雲だが、この中で実際に戦ったのはNDF−04のマティアだけだ。
「まぁ、ロクなもんじゃないのは確かですかね」
 だが、3機編隊の先頭を飛ぶ機体は――。
「NDF−13‥‥まさか、あの青い機体が『マグダレーナ』!?」
 トヲイが叫んだ。
 フロレス島からUPC軍を撤退に追い込んだ3名のNDF。そのナンバーと名前はカメル国営放送が誇らしげに公表したことから、既に人類側にも知れている。
 ことに1人でエース級の傭兵3名と互角に渡りあった蒼髪の少女、13番という不吉なナンバーを割り当てられたマグダレーナの名は。
 見ればタロスと斉天大聖の距離はますます詰まり、撃墜されるのは時間の問題だ。
 傭兵達のKVはブーストをかけ一気に加速した。
「海狼君、聞こえますか?」
 礼二が斉天大聖に通信を送る。
「は‥‥はいっ」
「奴らをサラスワティに近づけちゃいけない。煙幕を張ってブースト全開、そちらから見て空母から2時から3時の方角に逃げるんだ。できるかな?」
「わかりました‥‥やってみます」
 煙幕装置を作動させた海狼機の機首が僅かに左へ旋回、3機のタロスもその後を追う。


「人間どもめ‥‥見え見えの策だな」
 遙か後方、2機のNDFタロスに守られた中型HWの中でバグア軍の指揮を執るハリ・アジフ(gz0304)がせせら笑った。
「騙されるな。あの偵察機は母艦からおまえ達を引き離すつもりだ」
「何だって? ちっ」
 アジフの通信を受け、タロスの操縦席でマグダレーナが舌打ちする。
「マティア、あんたはあの偵察機を始末しな。ヨハネはアタシと来い。空母を叩く!」


 だが空母に向けて進路を変えようとしたマグダレーナ機に、トヲイ、叢雲、リヒト、イレーネのα班4機が攻撃を開始した。
 那由他、香澄のβ1班は左翼のマティア機を追い、絃也と礼二のβ2班は右翼のヨハネ機を抑えに回る。
 トヲイが先制で放った8式螺旋弾、イレーネが牽制に撃ち込む重機関砲、叢雲のK−02ミサイルさえかわしきったタロス13の機体から、
「邪魔なんだよっ!」
 白煙と共に多目標ミサイルが発射される。
「――!」
 マルチロックオンされた4機のKVに襲いかかる超小型ミサイルの嵐。
 傭兵達は各々の方法で回避や迎撃を図った。
 トヲイ、叢雲はそれぞれK−02ミサイルの弾幕を張り、リヒトはディアブロ改「グリトリル」をブーストオンさせて回避機動を取る。
 だがそれらの対抗手段を嘲るかのように、4条に分かれたミサイル群は各々の機体に命中、被弾の衝撃がKVを揺さぶる。
「くっ。仲間達から話は聞いていたが‥‥流石に強い」
「NDF‥‥確かに強敵ですが臆すわけにはいきません」
 トヲイ、リヒトらは機体を立て直し反撃に入った。
 リヒトは煙幕装置を使用、煙に隠れる形で機体に急減速をかける。
 ギリギリまで速度が落ちた所でグリトリルを空中で人型変形。バーニアで姿勢を保持しつつPフォースを起動させブリューナクの照準を合わせるが――。
 やはり人型形態のディアブロを空中で静止させるのは無理があった。
 トリガーを引く前に大きくバランスを崩し、そのまま自由落下状態に陥る。
「‥‥!」
 その瞬間を見逃すはずもなく、慣性制御で突撃してきたタロス13から立て続けにプロトン砲が撃ち込まれた。
 だがリヒト機にとどめを刺そうとしたタロスの側面に、叢雲のアハト、イレーネのリニア砲が突き刺さる。
 海面へ激突寸前に辛うじて飛行形態に復帰したリヒトは、フルスロットルで急上昇し再びタロスへと向かう。
「マグダレーナ‥‥貴女達は戦いに何を求めるのです?」
「はぁ?」
 一瞬の間を置き、オープン回線を通しけたたましい哄笑が響いた。
「あんた、ひょっとして今怖かった? 危うく死にかけて」
「死を怖れるのは、人間として当然の感情でしょう」
「そう。まともな人間ならね」
 叢雲とトヲイがタイミングを合わせて放った計500発のK−02ミサイルを容易くかわしながら、少女の声は続ける。
「でもアタシには解らない。だから知りたいのよ――死の恐怖ってのがどれほどのモノか」
「?」
 同じ言葉を誰かから聞いた憶えがある。
 あれは確か――。
「でも自分が死んじまったらそれまでだしね。なら――他の連中を殺るしかないでしょ!?」
 トヲイのスラスターライフルが機体をかすめ、通信を打ち切ったタロス13は機首を翻し雷電へと向かった。

「バグアにも‥‥カプロイア職人みたいな人たち、いるのかな‥‥?」
 BRキャンセラーを全開にしてタロス04から吐き出される多目標ミサイルをかわしながら、那由他はつい場違いな疑問を口に出していた。
 重力波ジャミングで命中率を下げれば多目標兵器を出し惜しみするかとの期待も虚しく、敵はそんなことお構いなく超小型ミサイルの嵐を浴びせてくる。
 それでもジャミングは効いているのか、今の所被害は小破程度に留まっているが。
「へぇ〜‥‥傭兵にもいるんだ。あたいくらいの子が」
 通信機を通して初めて聞く、マティアの声。
(「女の子? 僕と‥‥同い年くらいの?」)
「ま、どーでもいーけどぉ」
 ミサイルを撃ち尽くしたタロス04は攻撃をプロトン光線に切替えてきた。
「ここからは通行止めだぞNDF。通行料はその首級だ」
 香澄のロビン「Silver Lancer」がアリスシステム起動、マイクロブーストも適宜使用し、那由他機と連携しつつまとわりつく様にしてレーザーガトリングを浴びせる。
「‥‥ウザい」
 慣性制御独特の小刻みな動きで2機を相手にプロトン砲、重機関砲で応戦するマティアだが、その幼い声に明らかな苛立ちが滲む。
 香澄機に気を取られたタロス04にすかさず接近した那由他はツングースカを撃ち込み、一撃離脱を繰り返す。
 焦れたようにその場を離れ、再び海狼機を追おうとした時は127mmロケット弾を発射し注意を引きつけた。
 AAEMで牽制を続けていた香澄は、好機と見るやDR−2荷電粒子砲を続けざまに放つ。タロスの破損箇所が再生するが、その速度は戦闘開始時に比べ明らかに鈍かった。

「初期ナンバーと侮ってくれれば隙を付けるが、そもそも判らんか」
 機体こそ旧式だが、カスタマイズにより新鋭機並みの性能を秘めたR−01改を駆りつつ、絃也は礼二と共にタロス05と相対していた。
「‥‥」
 無言のままヨハネが放ってきた多目標ミサイルの被弾にもめげず、接敵するなりAファング併用でスラスターライフルの弾雨を叩き込む。
 礼二のシュテルンはPRMシステム起動にインスターションバルカン、更にラージフレア展開で敵のミサイル群を回避。
「こちらより射程が長いのは先刻承知〜☆」
 何発かは被弾するも、すかさず旋回し返礼のK−02ミサイルを浴びせた。
 慣性制御で傭兵側のミサイル群をかわしたタロスに、先回りした絃也が再びスラスターRの攻撃。
「当ればそれなりに効果はあるはずだが」
 Aファングの練力を込めた8式螺旋弾を全弾発射。
 ドリル状の弾頭が青いタロスの機体に食い込み穴を穿つが、いったん開いた破損口はまるでビデオの巻き戻しのように塞がっていった。
「再生能力か‥‥厄介な」
 それでも同じ空域にいる那由他のBRキャンセラー、斉天大聖や空母からの電子支援もあり、礼二と連携しつつヨハネを追い詰めていく。
「元は人間癖の一つや二つはあるはず」
 空戦のさなかにもタロス05の動きを注視する。よくよく見れば、有人機のためか慣性制御で機首を回転させる際、一瞬タイミングが遅れる瞬間があるようだ。
 コンマ何秒かのその隙を狙いスラスターライフルを撃ち続ける絃也。
 ただし己の動きがパターン化しないよう注意する必要もあったが。

 初めのうちは圧倒的な空戦機動で傭兵達を翻弄していたマグダレーナだが、傷つきながらも波状攻撃を続けるKV4機を相手に、徐々に疲れを見せ始めていた。
「悪いが、何時までもお前に構っている暇は無い‥‥!」
 急接近したトヲイは超伝導アクチュエータを起動しリニア砲発射、更にすれ違い様の剣翼攻撃。
「鬱陶しい‥‥それはこっちの台詞よ!」
 ふいに慣性制御で急加速したタロス13が、α班の包囲を突破してサラスワティの方へと突進する。
 その前に立ちはだかる新たな機影があった。
 マリアのアンジェリカである。
「空母には‥‥近づけさせない」
 DR−2粒子砲の光条を辛うじて避けたタロス13の動きが、急に鈍った。
「な‥‥誰だ? おまえ‥‥」
「‥‥動きを止めましたね?」
 後方から追撃をかけた叢雲が同じくDR−2を発射。
 一撃目を囮に回避させ、バランスを崩した所に本命の二撃目を叩き込む。
 ビームに貫かれたタロスの傷口はもはや再生しなかった。


「ちっ! 練力が‥‥」
「もういい。退け、マグダレーナ」
 アジフからの通信が入った。
「マティアもヨハネも、もう練力が残り少ない。HWも半分がた墜とされた」
「‥‥こいつら、ほっといてもいいのかよ?」
「なに、我々の責任ではない。戦力を出し惜しみしたギルマンが悪い」
 掠れた老人の笑い声。
「今日の所はおまえ達の実戦データが採れただけでも、私は満足だよ」


 機首を回頭させた3機のタロスが、半ばヤケ気味にプロトン砲を乱射しながらカメル方向へと飛び去っていく。
「ちゃんと司令官に伝えとけよ? 傭兵にあっさり追い返されちゃいました、ってな」
 香澄が投げつけた通信が、彼らの耳に届いたかどうかは定かでない。

 ボロボロの機体で辛うじて着艦した海狼は半ば意識のない状態で救出されたが、幸い命に別状はなかった。
 その様子を心配そうに見つめるマリアを、イレーネが再び抱き締める。
「1人で抱えるなよ、何かあれば私が居るから」
「ありがとう、お姉さん‥‥」
 瞳に涙を浮かべ、マリアはイレーネの胸に顔を埋めた。
「でも、大丈夫‥‥私、もう迷わないから」
「聖女の名を持つ怪物‥‥か」
 トヲイはマグダレーナ達の去った方角の海原を見つめた。
 NDFの襲撃を退けたUPC艦隊は、いよいよ敵守備隊の待つ島へと向かう。
「インド神話に登場する、最強の神鳥『ガルーダ』と同じ名を持つ作戦。‥‥先に制圧されたフロレス島は、必ず奪還してみせる」

<了>