●リプレイ本文
「SIVAの部隊か。という事は彼女もこちらかな」
愛機シュテルン「流星皇」から無線を通し、白鐘剣一郎(
ga0184)は僚機に声をかけた。
「彼女」とはSIVA所属の新人能力者、中島・茜のことである。
所属する組織は違えど、先の佐賀上空におけるHW迎撃任務、あるいはそれ以前の依頼で彼女と個人的に関わりを持つ傭兵も、今回は何名か参加していた。
「さて、あのお嬢ちゃんも少しは筋金が鍛えられてきた頃合いかね」
とゲック・W・カーン(
ga0078)。
「敵部隊の目的は気になりますが、今は早急な撃退に専念しましょう。復興途上の大牟田に近付かせるわけにはいきません」
冷静に返信するリヒト・グラオベン(
ga2826)も、内心では茜の身を案じていた。
(「もし現地に茜がいたら‥‥実戦経験が少ない彼女が、タロスを中心とした戦闘部隊に対応出来るか心配です。急がなければ」)
むろん、大牟田市防衛が最優先目的であることは彼らも承知している。
「筑後との二正面か‥‥陽動か‥‥、どっちにしても熊本へ抜けられる分けにはいかないか‥‥」
イビルアイズの機内で、明星 那由他(
ga4081)はバグア軍の真意について思案を巡らせていた。
五十嵐 八九十(
gb7911)にとって福岡は故郷の地だ。それだけに、いつかは福岡解放へとつながるはずのこの戦いにかける意気込みも尋常ではない。
(「行方知れずになった親父と弟を探す為にも――!」)
気合いは充分。正真正銘がっつり本気モードである。
一方、賢木 幸介(
gb5011)にとって今回の依頼は乗り換えたばかりの新鋭KVスピリットゴーストの初陣だった。
「開発の時テストにも立ち会った機体‥‥どのくらい通用すんのか見せてやろうじゃねえか」
(「故郷の為にって戦ってる奴がいる中で不謹慎かもしれないけど、な」)
少しばかり申し訳なく思いつつも、「Axis」と名付けた愛機の計器盤を睨み、飛行中の挙動チェックに余念がない。
「敵の狙いは分からないが、タロス3機も繰り出してくる以上何らかの戦略的意図があってのことだろうな。まあ、ともかく目の前の敵には早々にお引き取り頂くことにしようか」
「全くだ。多くの味方が苦労して取り戻した場所だ。再び連中の好きにさせる訳にはいくまい」
榊兵衛(
ga0388)と剣一郎が通信を交わすうち、やがて大牟田近辺上空で入り乱れて戦う数多くの機影が視界に入った。
大牟田近郊の仮設基地に駐屯していた正規軍の阿修羅改8機、岩龍改1機。そしてSIVA所属のディアブロ改が9機。
対するバグア軍は見慣れた小型HW10機にCW多数。そして――。
「うわ、やっぱりタロス!? 何でここに来てるの?」
ウーフー「ココペリ」に搭乗のM2(
ga8024)が思わず叫んだ。
人類側KVと乱戦を繰り広げる小型HW群のやや後方に飛行形態で悠然と浮かび、時折プロトン砲による支援砲火を浴びせるタロスが3機。
緑色の1機を左右から守るように白い機体がV字編隊で展開する様子からみて、緑タロスが敵指揮官機であろう。
「まあ理由は置いといて、とにかく片付けなくっちゃ」
気を取り直し、ジャミング中和装置の作動を確かめるM2。
「‥‥復興の邪魔はさせない」
ホアキン・デ・ラ・ロサ(
ga2416)が静かに呟く。
彼の雷電改2、機体をスカイブルーに染めた「 Inti (インティ)」を始め、10機のKVは一斉にブーストをかけ戦域に急行した。
数の上では有利といえ、広域に展開したCW群、そして従来型HWを凌ぐ性能を誇るタロス3機を相手に回し、やはり人類側KV部隊は押され気味だった。
事前にULTオペレーターから受けた情報に従い、傭兵達のKVは各々の役割に応じ4つの編隊に分かれた。
A班:対緑タロス
剣一郎(シュテルン)
ホアキン(雷電改2)
B班:対白タロス
里見・さやか(
ga0153)(ウーフー)
兵衛(雷電改2)
那由他(イビルアイズ)
八九十(S−01H)
C班:対HW
リヒト(ディアブロ改)
ゲック(イビルアイズ)
D班:対CW
M2(ウーフー)
幸介(スピリットゴースト)
「ペガサスより各機、全力を以って最善の結果を掴み取ろう。行くぞ!」
剣一郎の通信を合図に、A〜D各班はそれぞれ担当の目標へと機首を向けた。
正規軍の岩龍改に傭兵側ウーフーのジャミング中和が重複し、通信状態がやや回復する。
同時にゲック、那由他はBRキャンセラーによる重力波ジャミングを開始。それまで人類側KVを圧倒していたHW群が、唐突なセンサーの不調に動揺するかの如く動きを乱した。
リヒトはこの時間を利用し、UPC、SIVA両部隊の指揮官へと通信。ULT傭兵として援軍に来たこと、そして自分達の作戦計画を説明した。
両指揮官機同士で二言三言の短い交信。間もなくUPC側指揮官が代表する形で、傭兵側の作戦に協力する旨の返信が来た。
パイロットの技量はともかく、機体性能に関していえばやはり大幅にカスタマイズされた傭兵KV部隊がこの場での主導権を握ることになる。
リヒト機の後方に位置するゲック機のスナイパーライフルがHWに向けて炎を吐いた。
「こうCWがバラけてるんじゃジャミングの影響もそう簡単に消えそうにねえな。Hミサイルは命中を狙うより牽制に使ったそうがよさそうだ」
ゲックはさやか、M2らの各電子戦機と連絡を取り合って戦域の状況を分析、そのデータはUPC・SIVAの友軍全機にも転送された。
「バグアであるあなた方が大牟田に入るためにはSIVA、UPC、そして傭兵の許可が必要です。でも、あなたたちには絶対に許可をあげませんから!」
さやかもまた、ジャミング中和の有効範囲が戦域全体を覆うよう、ウーフーの位置取りを友軍電子戦機に合わせ適時調整する。
「阿修羅は俺達と一緒にCWを墜としてくれ。岩龍は後方に下がって電子支援に専念してくれよ!」
D班のM2は正規軍部隊に要請すると、ペアを組む幸介機や阿修羅隊と各々2機ずつのロッテ編隊を組み、広域展開するCWを左右両翼から墜としにかかった。
知覚攻撃を減衰させるCWに対し、バルカンとSライフルD−02で攻撃開始。妨害してくるHWにはすかさずスラスターライフルで応戦する。
「『反撃は苛烈に容赦無く』が俺の信条だからね」
「CW相手にキャノン砲は勿体ないな」
友軍機からの情報、レーダー、目視等を駆使して手近の目標を定めた幸介が、SライフルRとツングースカを使い分けCWを狩って行く。
続いてSIVAのディアブロ隊と合流したC班2機がHW編隊へ反撃を開始する。
「また始末書書かせるぞ!」
やや突出気味の茜機を見つけたゲックは、無線機に向かって怒鳴りつけた。
「あれ? その声‥‥ゲックのおっちゃん! ありがてー、助けにきてくれたのか?」
「誰がおっちゃんだ。俺はまだ30だ!」
そのままゲックのイビルアイズが茜機のサポートにつき、引き続きHWへBRキャンセラーを起動させる。
これはリヒトの発案でもあった。
(「CWの相手が妥当ですが、過保護は彼女のためにもなりません。ここは俺達について来てもらった方が良いでしょう」)
そう思いつつ、リヒトは愛機「グリトニル」のPフォースを発動、HWの一機に狙いを定めてスラスターRで蜂の巣に変えた。
別のHWが機体を赤光に輝かせFFアタックをかけてくる。
「生半可な武器では通じないでしょうが‥‥これならどうです!」
カウンターで発射されたブリューナクが、FFもろともHWを弾き返した。
「うわっ。すげー‥‥」
感嘆したように呟く茜機の傍らを、
「茜さん、まだ生きてますかー? 助けに来ましたよ!!」
追い抜き様、八九十のS−01H「バッカナーレ」が挨拶代りに一言通信を送る。
八九十を含むA・B班計6機は混乱するHW群を正面から突破、後方に控える敵の中核、3機のタロスへと向かった。
エース機を含むタロス編隊3機をマルチロックオン、兵衛とホアキンの雷電からK−02ミサイルが斉射された。
タロス側も自動バルカンで迎撃。超小型ミサイルの奔流は、その半分近くが虚しく空中で爆発する。
「最近は迎撃バルカンを装備してるのが増えてきて‥‥面倒だな‥‥」
行く手を遮るHWをSライフルRで排除しながらぼやく那由他。
だがこれは傭兵側にとって織り込み済みだった。真の狙いは小型ミサイル群の爆発煙に紛れて一気に接近、敵エース機と護衛の無人タロス2機を分断することにあったからだ。
「敵機真っ直ぐ近付く! 榊さん、警戒を!」
「判っている!」
後方に付いたさやかの警告に短く答え、兵衛は朱漆色の雷電「忠勝」の超伝導アクチュエータを起動させた。
飛行形態でも人型を保つ白タロスが手にしたハルバードを警戒し、ある程度の間合いを取りつつ長距離バルカン、強化型シャルダーキャノンと距離に応じて射程の長い武器を使い分ける。
忠勝の弾を避けきれず、専ら自動バルカンと再生能力で防戦に徹していた白タロスが、砲撃戦では不利とみたか慣性制御で突進してきた。
「‥‥?」
敵の乱射する重機関砲を回避しつつ、兵衛は内心で訝しんだ。
(「なぜこの間合いで、奴はあの槍斧を使わない?」)
あるいはFRやステアーと違い、空中変形攻撃を行うには何らかの制約があるのかもしれない。
とはいえ油断は禁物だ。ファランクス・アテナイの自動攻撃に敵が怯んだところで再び間合いを取り、スラスターRの弾雨を見舞う。
動きの鈍った白タロスを、今度はさやか機がアハト・アハトの光条で射抜いた。そのまますれ違い様にバルカン砲を浴びせる。さやかのウーフーは反転・急上昇するや、敵の頭上から緩降下しつつAAEMを撃ち込んだ。
同じ頃、那由他機と八九十機はもう1機の白タロスと交戦に入っていた。
敵機を射程に収めた那由他が、再びBRキャンセラーを仕掛ける。
「お前ら‥‥人の地元で好き勝手やってくれた礼はさせてもらうぞッ!」
R−P1マシンガンでタロスの動きを牽制。さらにホールディングミサイル、長距離砲「三昧眞火」と、敵に再生の暇を与えぬ怒濤の弾雨を浴びせる。
突然慣性制御で接近してきたタロスが、バッカナーレの進路上でぴたりと静止。八九十機を待ち受けるかの様にハルバードを振りかざした。
「なっ‥‥!?」
避けきれない!
だがハルバードがバッカナーレの機体に食い込む寸前、タロスの機体に4つの大穴が開き、大きく弾き飛ばされた。
「届けてやったぜ。どでかいのをな!」
HWと戦っていた幸介のAxisが、静止したタロスを見逃さず200mm4連キャノン砲を撃ち込んだのだ。
「助かりました!」
なぜタロスが空戦中に自ら動きを止めたのか不可解だが、今それを考えている余裕はない。
「明星さん、一気に畳み掛けます! タイミングを!!」
八九十は那由他機に合図を送り、態勢を立て直そうと空中でもがくタロスに照準を合わせる。
「ブレス・ノウVer2起動! コイツで‥‥沈めええぇぇぇッッ!!」
バッカナーレの短距離リニア砲とイビルアイズのヘビーガトリングがほぼ同時にタロスを直撃。もはや自己再生も叶わぬ致命的な一撃を与えた。
剣一郎とホアキンは互いに死角を補い合う形で、緑のエース機タロスへ絶え間なく攻撃を浴びせていた。
「さすがタロス、乗り手がエースというのも伊達ではないか」
無名のエースとはいえ、確かに緑タロスの動きは白タロスに比べ格段に早かった。相手が並の正規軍KVなら1個小隊でも蹴散らしていたことだろう。
だが、今ここに居るのは傭兵中でも最強レベルのエースが2機。
「天馬の翼、容易く落とせると思わないで貰おう」
一気に肉迫した流星皇のソードウィングが重機関砲の弾幕をかいくぐり、タロスの脇腹を切り裂いた。
破損箇所の再生を急ぐタロスが、 Intiから放たれたブリューナクの一撃を食らい大きくのけぞる。指揮官機を守るべく立ちはだかったHWは、SライフルD−02の一発で呆気なく排除された。
「邪魔をするな」
度重なる改造により大幅に強化されたIntiは、まさに雷電開発に携わる銀河の技術者達が夢見た「空の不沈戦艦」といって過言でない。
既に機体生命の過半を失い、それでも重機関砲を乱射しながら再生を図るタロスに対し、剣一郎らの攻撃もラッシュに入った。
「勝負だ。参る!」
ブーストオン。PRMシステム起動。
旋回反転した流星皇の翼刃が、タロスの片腕を槍斧もろとも斬り飛ばす。
「行くぞ、インティ! ‥‥この大空に散れ!」
スカイブルーの機体から放たれるブリューナク、そしてM−12強化型粒子砲。
物理・知覚双方の大火力攻撃を受けたタロスは空中で5体バラバラとなり、各々のパーツが自爆して文字通り大牟田の空に散った。
「これで一応一段落着いたか‥‥お疲れ様だな。皆、問題はないか?」
「お疲れ様でした皆さん。お怪我はございませんか?」
指揮官機を含むタロス3機を喪失、残り僅かとなったワーム群が春日方面へ撤退していくのを見届け、剣一郎やさやかが友軍機に通信を送る。
傭兵KV10機は健在。正規軍とSIVAには撃墜された機体もあったが、辛うじてパイロットは無事救出された。
「はぁ、ごめん‥‥オレ、今回もあんまし役に立てなかった‥‥」
基地への帰還後。覚醒を解いた反動もあってか、機体から降りた茜はしょげかえった様に俯いた。
そんな彼女に、
「茜も頑張っている様で何よりだ」
と剣一郎が微笑みかける。
「この前、なぜ俺があそこまで叱ったか判るか?」
ゲックが歩み寄り、茜の肩を軽く叩いた。
「自分では少々の無茶のつもりでも、それを繰り返して行く内に無理を通り越して無謀になっていくもんだ。戦闘に慣れない頃は目の前の事しか見えないからな、周囲の状況判断ができない者は早晩早死にするのがオチだ」
そして、茜がよく知る高瀬・誠(gz0021)も、かつて初陣の際自分が怒鳴りつけたことも。
「へぇー、誠のヤツも?」
「へこんだまま終るか、そこから伸びるか、それを決めるのは自分自身。俺はまだ引き返せる内にその選択を出しただけだ‥‥もっとも、将来有望な奴にしかやらんがね」
「そっか‥‥じゃあ、オレも負けてられねーな」
再び元気を取り戻した少女が、ぐっと拳を握る。
その一方で、
(「いつか見つけ出さないと、いけないからな‥‥」)
八九十は故郷・福岡の方角を見上げ、行方不明の家族へと思いを馳せるのだった。
<了>