●リプレイ本文
●九州〜銀河重工熊本支社
目下開発中の銀河製KV・XF−09B「竜牙」。試作機製造直前にあたり、同社開発主任・明石・小源太(gz0281)の依頼に応じて集まった傭兵たちの間で、まず議題となったのは同機に搭載が予定される新たな機体スキル「超伝導ディフェンス・コーティング(DC)」の性能についてであった。
銀河が得意とする超伝導技術の応用により一時的に防御・抵抗を上げる、いわば「人類版FF」。だが問題は、練力消費を最小限に抑えることで戦闘中繰り返し使える「持続型」にするか、使用回数が限られても最大限の能力上昇を目指す「瞬発型」を取るか。
これについては、出席者の傭兵達の意見も真っ二つに割れた。
「都合合わない知り合いに代理頼まれたのよねえ、勿論その知り合いの言い分に賛成でなきゃ引き受けないんだけどね」
普段のお気楽な調子とは打って変わり、レイル・セレイン(
ga9348)が真面目モードでいった。彼女が選んだのは「持続型」である。
「オフェンス同様に使い易さを考えると燃費良好版が推しかしら。サイファー、ディスタン改、ビーストソウル改、皆燃費悪いから逆の方向を売りにするのよ。強化での成長率にも因るけど、現時点では予測不可でしょ?」
「ええ。スキル強化サービスは今の所未来研にお任せしていますからね。成長率に関しても、我々が決められるものじゃないです」
小源太が頷く。
「ドラグーンの神宮寺 真理亜(
gb1962)だ。今回は宜しく頼む」
真理亜もまた、持続型を推す一人だった。
「私が使っている翔幻改では力不足を感じてきたのでな。このまま強化して他の新しい機体に伍するか、新しい機体に乗り換えるか、そろそろ見極めようと思っている。持続型に賛成する理由は後で述べよう。私なりに考える竜牙の運用構想に深く関わる問題だ」
「オフェンス・アクセラレータが主な機体スキルですから、『瞬発型』の消費練力はブーストも考えると激しすぎると思います。『命中>回避』で行くならロビンと比べて回避が劣ります。そこを超伝導DCで補うなら、使用頻度は決して低くはないはずですよ」
須磨井 礼二(
gb2034)は一通り意見を述べたあと、小源太に尋ねた。
「既に決定しているというオフェンス・アクセラレータ(OA)ですが‥‥これの効果を『持続型』から『瞬発型』へ変更することは可能ですか? 消費練力は同程度か少し絞り、瞬間的な攻撃・知覚上昇度を高める方向で‥‥」
「実はそれについて、開発スタッフの間からも同じ意見が上がってるんですよ」
手元の手帳をパラパラめくりつつ、小源太が答えた。
「現状では一定時間(1ターン)の間攻撃・知覚を上昇させる、ディアブロ改のPフォースに近いスキル案ですけどね。一撃離脱という状況も考えると、むしろ練力の収束率を高め、1回の攻撃時に最大限の効果を上げるべきじゃないかとね」
「竜牙は通常時の攻撃がピカイチですし知覚も高めです。対タロス戦もより大きなダメージを与えて再生能力を一気に鈍化させられれば、あとはなんとかなるような気もします。ロビンと比べると命中を上げるスキルが無いので博打的要素になりますが、如何でしょう?」
「仰るとおり、対タロス戦を想定すれば長期持久戦よりも短期決戦による飽和攻撃が高い効果を上げているようです。ですから、この点についてはまだ検討の余地が残っているということですね」
「使いやすいのは持続型、いざというとき頼りになるのが瞬発型だよね。‥‥難しいとこだけどあたしは持続型かな」
小首を傾げながら、山下・美千子(
gb7775)がいう。
「やっぱりOAを多く使えるようにしたいし。それと瞬発型にすると使い所が難しくなるからそこもちょっと心配かな。緊急用にするっていうのも有りだとは思うけど、それなら1回しか使えない代わりに練力消費を抑えるとかして欲しいな」
ここまで「持続型」を支持する4名までが意見を述べ終えた。
「完成すれば、面白そうな機体になると思いますわ。ですので、思う処を忌憚なく述べさせて頂きますわね」
クラリッサ・メディスン(
ga0853)はそう前置きしたうえで「瞬発型」を支持する旨を表明する。
「持続型も悪くはないと思いますわ。でも、上げ幅が小さい以上、受けた攻撃のうち装甲で耐えきれなかった分のダメージは徐々に蓄積されることになりますわね。1回分は小さくともそれが積み重なれば、それは結構な痛手となりますわ」
「そういうことになりますね」
「ならば、いざという時には敵の攻撃を完全とはいかないまでもかなりまで無効化できるだけの護りがあった方が駆逐戦型KVとして敵陣に飛び込んで戦うには適していると思うのですが、如何でしょうか? 元々雷電のように前線を張り続ける機体でなく、移動力を活用して一撃離脱戦法で運用するのに適している機体である以上、そちらが適していると思うのですけれど」
「シラヌイとの連携を視野に入れた駆逐戦車的位置付けのKVか、なかなか面白い機体に仕上がりそうだな。キメラや小型HWの掃討に加えて対ゴーレム・タロスに高い効果が上がるなら文字通り駆逐戦KVなんだが‥‥」
レベッカ・マーエン(
gb4204)は完成後の竜牙に思いを馳せるかのように呟く。
「電磁装甲の応用によるシステムか。放電式リアクティブアーマーは人類版FFとは言い難い‥‥とすればAECのフィールドと機体表面の高圧電流で生まれるジュール熱を利用する方式か?」
「当たらずとも遠からずという所ですが‥‥ま、超伝導技術は銀河(うち)のお家芸。最重要の社内機密ということで、詳しい説明はご勘弁ください。ははは」
「ふむ、まあよい。ともあれ、あたしは瞬発型を推すのダー。基礎値が低い以上、緊急防御用システムとして上昇が大きい方が安心できると思うぞ」
「なるほど」
「OAの錬力消費との兼ね合いもあるからな。中途半端だったり使い辛いスキルになる位なら超伝導AECに戻すという案もあると思うのダー」
「練力が心配ならタンク積めばいいんだよ」
整備士風のツナギを着込んだ夢守 ルキア(
gb9436)は、ボーイッシュな口調で瞬発型に賛成した。
「300越える防御は魅力だから少しの改造で幅広い戦況に対応出来ると思うんだ。エースに挑むか、タロス・HWに挑むかなんて私達の自由だし。どんな状況でも使える能力が欲しいよね」
仮に1度の出撃に1回の制限があっても、生存率を思えばそちらの方が良い。
「焼け石に水ってやっても結局大したことないし。キリ札って、イザと言う時に切るからキリ札でしょ? 戦うなら先手を打って、先手打つなら素早く。で、危険な時だって自分にはキリ札あるって思ったら戦場でも怖くないよね。頼れるモノがあるから」
「私はどちらかといえば瞬発型ですね〜。」
と、のんびりマイペースな口調で八尾師 命(
gb9785)がいう。
「元々の回避はそれなりにあるので〜、攻撃を回避することが困難なクラスの敵と交戦する場合、中途半端に上げる位なら一気に高めてしまったほうがいいと思うの〜」
「ふむふむ」
「それに試作型超伝導DC自体の持続時間が短いから〜、連続使用をして錬力を消費し続けるよりは相手の攻撃を事前に予想して、緊急防御手段としての運用が想定されるんじゃないかな〜?」
「これで4対4ですか‥‥完全に票が割れましたねぇ」
思案顔で腕組みする小源太。
「もちろん、単純な多数決で決められる問題じゃありませんが。とにかく皆さんのご意見を参考に、社内のスタッフとももう一度検討してみましょう」
「ささ、お饅頭とお茶ですよ〜☆ 小倉に漉し餡、うぐいす餡。開発部の皆さんも糖分補給に召し上がれ」
いったん小休止となり、礼二が持ち前のスマイルを振りまきながら、会議室のテーブルにお茶と茶菓子を配った。
休憩を挟み、次は基本性能値である命中と回避のトレードオフについての議論へと移った。
前回の意見交換では「回避>命中」を支持する者が多数派を占めたが、機体スキルの超伝導DCが物理攻撃にも対応できる電磁装甲と変わったため、銀河の開発陣から改めて見直しの声が上がっている。
しかし、真理亜は引き続き回避優先を支持する。これは彼女自身の竜牙運用構想に基づく意見だった。
「竜牙について私の見解を述べさせてももらおう。この機体の特徴とするべき能力は、OAだと認識している。そして超伝導DCはそれを使う状況へ持っていく為の能力。そう捉えている」
具体的にいえば、戦場においての重要な局面で強力な一撃を放つための機体。
「機体のステータスに関して此方の方で意見が分かれる所だが、私は回避に重きを置くことに異論は無い。大体に於いて重要な局面という物は、戦いの中盤以降に存在する。その重要な局面を動かす重要な一撃を加える為には、乱戦や混戦を可能な限り損傷を受けずに生き残る必要があるからだ」
序盤に於いては回避を優先し、中盤以降で防御しつつ敵の妨害を潜り抜け、ここぞというポイントで強力な兵器にOAを付与した一撃を加える。
それが真理亜の思い描く竜牙の運用法だった。
「よってこの様な戦術思想で用いるならば、超伝導DCの錬力消費は多くない事が望ましいと考える。それに強力な知覚兵器と言う物は、それなりに機体を消耗させるからな」
彼女は出席者一同を見回し、
「以上が私の竜牙に関する意見だ」
そういって着席した。
「前回のものから回避>命中への変更で機動性寄りに振ったか、悪くは無いな。改造以外にもサブアイ等のセンサー系アクセや装備する武器自体の精度があれば命中の方は補えなくは無いだろう」
前回から引き続き参加のレベッカも、同じく回避優先の支持者だ。
「だが欲を言えばもう一声、他の数値は現状を維持しつつ回避=命中か回避>命中>抵抗に出来ないか?」
「ちょっと難しいですねぇ。このうえ回避・命中を両方上げたところで、どのみちシラヌイには及ばない。機体価格に見合わない、中途半端な性能になっちまいますから」
「ならばやむを得ないな‥‥」
レベッカは僅かに思案し、現状以上にピーキーな性能調整には賛成できない、との意見を付け加えた。
「ま、現在のものも考えた上でのスペックなのだろう? 大きくバランスを崩して竜牙を『走る棺桶』2号にするのもどうかとおもうのダー」
とはいえ今回、「回避>命中」案の支持者はむしろ少数派だった。
「シラヌイに匹敵する移動力を以て敵陣に飛び込んで敵陣を食い破るのが『竜牙』のコンセプトである以上、当たらない攻撃に意味はありませんわ」
クラリッサがいう。
「その為にも回避は削ってでも高水準の命中を実現させて頂きたいですわね」
「回避と命中どっちかといえば命中ねぇ、でも今回回避はばっさり一番下まで切るべき」
レイルの意見はさらに大胆だった。
「特殊能力とかみ合ってない能力値を伸ばしても中途半端な機体に仕上がるだけよ、高級機なら兎も角中堅機なんでしょ? 中堅機に回避と防御全部求めちゃ駄目、劣化サイファーになるだけ。防御、抵抗を高くして特殊能力の効果を活かす方向で行くべきよ」
「防御と抵抗に関しては、現存する中堅KVと比べても遜色はないはずです」
「高い攻撃・知覚も当たらなければ宝の持ち腐れです。同ジャンル機のロビンと同程度は欲しいですね。補助アクセサリも、命中については回避より選択肢が少ないですし」
礼二は知覚特化の中堅KV(ただし現在は値下げにより200万Cを切っているが)の代表格であるロビンと比較しつつ意見を述べた。
「対タロス用に『竜牙』の早期普及を願っています。エース機も含めて何度か交戦しましたがあの再生能力は厄介でして‥‥。空と陸を行き来させずに叩きたいのですが、大規模作戦ならともかく依頼規模の機体数だと難しい場面も多いんですよ」
低コストで量産され、しかも搭乗者によってはベテラン傭兵でさえ苦戦するタロスは、目下能力者達にとって頭の痛い存在だ。それだけに中堅価格帯の高火力KVに対する期待も高いのだろう。
「あたしも命中>回避がいいと思う。回避は一番優先順位下だと思ってるし、もっと低くていいと思う。その分命中をもっと上げて欲しいな」
と美千子。
「それでも防御関連の能力値が全部平均以上あるから火力特化機としては十分じゃないかな? 攻撃は最大の防御っていうし竜牙には命中のほうが重要だと思う。それに空の突撃砲を謳った機体の命中が戦闘に主眼を置いてない偵察機と同じっていうのはどうかなって思うんだけど」
最低でもディアブロ並み、出来ればミカガミ並みに。
それが彼女の希望だった。
「攻撃高くても、当たらないなら意味が無い。攻撃低くても当たるKVの方がずっとマシ」
ルキアもあっけらかんと言い切る。
「突出する魅力がないと私は買わない。見た感じ、非物理・物理両者攻撃が高いのが魅力、戦況に合わせ防御・抵抗の弱い方を突けるから。だから、回避より命中の方が欲しい。長所を生かして上げるため」
「折角の火力もまずは当てられないと〜」
命は相変わらずマイペースで発言。
「敵の攻撃を回避し続けるよりは、確実に攻撃を当て、状況を見て試作型超伝導DCで攻撃を防ぐことにより、致命傷を負う前に敵の撃破を目指す方がよいですよね〜」
「まあ、回避特化はミカガミやシラヌイの売り物ですしね」
「オフェンス・アクセラレーターを利用して得た高い火力を有効利用する場合、敵に命中させることができなければ折角の火力も意味がないですよ〜」
結局、基本性能については6:2で命中優先派が多数を占めた。
「さて、概ねご意見は賜りましたが‥‥何か他にご希望はありますか?」
本日の主要議題が終り、残りの時間は傭兵側からの自由提案とされた。
「可能でしたら、練力をもっと重視した方が機体特殊能力も生きてより使い易くなると思いますわ」
早速クラリッサが注文する。
「あくまでわたくし個人の所感ですので、機体能力に過度のしわ寄せが生じるようならば諦めますけれど」
「う〜ん。回避能力を犠牲にしてその分を錬力に回せませんかね〜?」
命も練力上昇について同意を示した。
「ふむ。練力の上昇については、弊社でも再度検討してみましょう」
「今あるナックル・フットコート使って尻尾攻撃出来ると嬉しいんだけど、尻尾もコーティングできるのを新しく作らなきゃ無理?」
最後に質問したのは美千子だった。
「いえ。尻尾にもハードポイントを設け、兵装装備可能にする予定です」
「あと気になったんだけど、竜牙の開発ってあとどれくらいかかりそうなの?」
「これで実機が完成すれば、なるべく早く‥‥といいたい所ですが。何せ、弊社製品も含めて発売待ちのKVは沢山ありますから」
苦笑いしながらいうと、小源太は席を立ち傭兵達に一礼した。
<了>