●リプレイ本文
●九州・大牟田付近上空
「これが噂の2足歩行恐竜型KV『竜牙』の試作機か〜。俺は空戦担当だから戦闘機形態のデータしか取れないケド、何かワクワクするぜ!」
正規軍シラヌイ小隊を露払いに飛行する「竜牙」先行量産機の1機を操りながら、ノビル・ラグ(
ga3704)は意気揚々としていった。
「先行量産」とはいっても現在完成した機体は今回実戦テストを行う8機のみ。
ノビルを含め8名が、傭兵としては初めて竜牙の試作機で戦場に赴くのだ。
「とはいえ、テストでも実戦である事には変んない訳だから、堅実にデータ収集していかなくちゃな。試作機だから、どんな不具合が起きるか解んないし」
「‥‥恐竜型ロボットっていうと某怪獣映画のメカ怪獣を思い出すじゃないですか」
ノビルとロッテを組む須磨井 礼二(
gb2034)が、何やら昔観た映画を引き合いに出して呟く。
「これが‥‥竜牙ですか‥‥日本の誇る怪獣王のような物を思い浮かべていたのですが‥‥」
同様の印象を感じていたのか、セリアフィーナ(
gc3083)が小首を傾げる。
現在は既存のKVと変わらぬ飛行形態で飛ぶ竜牙だが、その陸戦形態はKVとしては異色の2足歩行恐竜形を採用している。
ただし傭兵達が事前の資料として見せられたCG画像は、昔の特撮映画に登場するティラノサウルス型の着ぐるみ怪獣に比べてもっと敏捷そうな、小型肉食恐竜を思わせるフォルムであったが。
「制式採用のための実戦テストパイロットですか‥‥責任重大ですねぇ」
飛行形態時は可変後退翼で高速巡航する竜牙の操縦桿を握り、水門 亜夢(
gb3758)はちょっと誇らしげにいった。
新型中堅機として開発された竜牙は、単機の性能こそ近頃メガコーポ各社が競って発売した300万C超の高級機体に一歩譲るものの、現用KVとしては最高レベルの高火力とシラヌイ同様の汎用性及び高速を誇り、バグア側量産ワームを戦場から一掃する「駆逐戦KV」の役割を担うという。
そこでふと思い出したように、空戦でペアを組むレベッカ・マーエン(
gb4204)に通信を送る。
「よろしくねーレベッカちゃん! ‥‥さん?」
外見は自分より幼く見えるパートナーに対してどう呼びかけるか、一瞬戸惑う。
そのレベッカは、自らも開発に関わってきた新型KVの実機を駆りつつ、やや複雑な心境だった。
「防御も回避も切り捨てたか。よほど攻撃力の高さと超伝導DCに自信があるのかそれとも考え無しなのか。20世紀のゼロ戦‥‥だったか、それに近い気もするな」
銀河側との意見交換の席上、一貫して回避優先を主張してきたレベッカだが、機体スキルの試作型超伝導DCが物理・知覚攻撃両方に対応する「人類版FF」に変更されたため、結果的には回避よりも命中重視の性能バランスとなった。
「動きが重い、ロジーナよりはマシ程度で装甲が薄いのは怖いな」
そして肝心の超伝導DCはレベッカも推した「瞬発型」が採用されたので、あとはこのスキルがどこまで実戦に耐えうるかの問題となる。
「へー、これが試作機か。途中あんまり関われなかったけど、良い感じになったねぇ‥‥」
計器盤で機体コンディションをチェックしつつ、M2(
ga8024)がほのぼのと感想を述べる。
一方、今回が傭兵として初依頼となる天王寺・桐(
gc3625)は緊張気味だった。
「噂の新型に乗れるなんて光栄です。まだ新人ですが、全力を尽くします」
とはいえ彼女はKV操縦に特化したストライクフェアリーである。初期訓練を終えた段階で、既に他のクラスでいえば中堅レベルの操縦能力を備えているのだ。
「今回はよろしくお願いします」
同じ陸戦担当となる僚機に挨拶の通信を送った。
「ここでいいところ見せられれば‥‥発売まで後一歩‥‥なのかな?」
陸戦班の一人、明星 那由他(
ga4081)はサイエンティストとして、初めて搭乗する新型機に興味津々だった。
「なんにしても‥‥がっかりさせるような結果だけにはしないように、頑張るぞ」
そのため事前の準備として、同じ恐竜型ワームであるREX−CANONの戦闘記録を取り寄せ、陸戦時の参考に分析しているほどだ。
北熊本の基地から出撃後、間もなく肉眼でも北方から大牟田市街へ向かうバグア軍部隊を確認できた。
主力は小型HWとゴーレムが各4機ずつ空陸に展開し、さらに十数匹の大型飛行キメラも伴っている。
「キメラの方はボクらに任せて! 君たちはHWとゴーレムをよろしく♪」
回線を通し、正規軍シラヌイ部隊を指揮するチェラル・ウィリン(gz0027)軍曹の朗らかな声が響いた。
今回、チェラル達の任務は竜牙実験部隊のエスコートと共に、その実戦テストを見届ける事だ。
正規軍の1機、斉天大聖がやや後方からジャミング中和と同時に、高性能カメラによる撮影を開始した。
「各班、ノルマは最大2機ってトコだな。んじゃ、はりきって行こうぜ‥‥!」
ノビルのかけ声と共に傭兵達の竜牙部隊は二手に分かれ、那由他、M2、セリアフィーナ、桐の4機が敵のプロトン砲射程外の距離から高度を落として着陸、陸戦形態へと変形。
ここに「鋼鉄の恐竜」は初めて両脚で大地を踏みしめた。
「重厚で威圧感の有る日本版と言うより、軽装甲でスマートな、どちらかと言うとUSA版‥‥?」
実機の陸戦形態をモニターで確かめ、セリアフィーナがもう一度小首を傾げる。
「事前に聞いたスペック通りなら‥‥、これで‥‥通常より軽快に動ける‥‥よね?」
那由他は念のため、あえて軽量の兵装を装備していた。
元の攻撃力が高いのなら、たとえ軽い武器でも総出力はそこそこの威力を確保できると考えたからだ。
移動力に関しては、量産型ゴーレムに比べ竜牙の方が速かった。
地上班は機動の優位を活かし4機のゴーレムを包囲する態勢を取り、人型ワームをなるべく一箇所に釘付けにすることを念頭に動く。
僚機と連携を取りつつ、M2は有効射程に入ったゴーレムに対し強化型ホールディングミサイルを発射。
その鈍重そうなフォルムにも拘わらず高い回避力を誇るゴーレムだが、竜牙の背中から発射されたミサイルは正確に目標を捉えた。
FFを貫いて爆発したミサイルがゴーレムの外装甲をえぐり取り、反撃で放たれたプロトン光線が逆に竜牙の機体を揺さぶる。双方が受けたダメージは、M2の感覚ではほぼ互角の印象だった。
「こちらの装甲はあまり厚くないみたいだから‥‥やられる前に、やる!」
予め開発者の明石・小源太(gz0281)から説明された機体コンセプトから、竜牙の身上は迅速な近接戦にあると踏んだ桐は、M2と撃ち合うゴーレムへと一気に間合いを詰め、超伝導DCを起動させた。
恐竜型KVの全身に青白い放電光が走り、ゴーレムが慌てて振り回したディフェンダーによるダメージを緩和する。
「OA起動。貫け! やあああっ!!」
桐はもう1つの機体スキル、オフェンス・アクセラレーターを発動するや、お返しとばかり敵ワームにSAMURAIランスの刺突を加えた。
その穂先に練力を集中させた機槍がゴーレムのボディを穿ち、相当のダメージを与える。
ランスを引き抜き桐が後退するや、陸上班4機は中破したゴーレムに攻撃を集中、まず1機を撃破した。
時を同じくして、空戦班4機も小型HWとのドッグファイトを繰り広げていた。
ノビルと礼二、レベッカと亜夢が各々ロッテ編隊を組みHW群に接近。
まずはノビル機が先手必勝とばかり4機のHWをレーダーに捉えた。
「K−02ターゲットロック! ‥‥えーっと『オフェンス・アクセラレータ』‥‥で良いんだよな? ――発動!」
OAにより威力を高めた小型ミサイルの奔流が、マルチロックオンしたHW各機へと突き刺さる。
性能的には量産ゴーレムにも劣る従来型HWは、この先制攻撃でたちまち全機が損傷を負った。
下側に回り込んだレベッカは、地上のゴーレム援護のため降下するHWを狙いUK−10AAM、及びAEMを続けざまに発射。
これは物理・知覚攻撃両方によるダメージ効果を測る意味合いもある。
やはり竜牙の高火力がものをいったか、AAMの命中で大破したHWは続くAEMでとどめを刺され、九州の空に爆散した。
ノビルと入れ替わるように加速した礼二は超伝導DCを展開。放電光をまとった竜牙はHWが放つプロトン光線をものともせず突進、ギリギリまで肉迫した所でOA併用の高分子レーザーを照射する。
既にK−02の洗礼を受けていたHWが黒煙を噴き出し、その動きも目に見えて鈍った。再びOAを起動させた礼二がUK10−AAMを撃ち込むと力尽きたように墜落、地上で爆発した。
「ノーマルな小型HWなら単機でも充分いけそうですね‥‥もっとも相手がエース機や中型以上となるとどうか判りませんが」
「後方からの砲撃支援が俺のスタイルだけど、タマにゃ前に出るぜ‥‥!」
礼二機に代って前衛に出たノビルはやはり超伝導DCを起動、一気に距離を詰めるやOA併用の高分子レーザー照射。大破に追い込んだHWにガトリング砲「嵐」でとどめを刺した。
「‥‥よっしゃ! ノルマ達成っと。‥‥まだ試して無い事ってあったっけ?」
残り2機となったHWと戦う僚機を援護すべく、礼二と共に機首を翻す。
「駆逐戦KVというだけあって足は早いですが‥‥さて、やってみましょう!」
3基装備した補助スラスターにより大幅に運動性を上げた亜夢の竜牙はHWのプロトン光線を軽やかにかわしつつ接近、あえて超伝導DCを使わないことで機体練力をOA併用のAAM攻撃に回し、ドッグファイトの末1機を撃墜。
最後の1機となったHWが一際強い赤光を放った。
FFを強化することで体当たり攻撃を仕掛けるつもりだろう。
レベッカは却ってこれを好機と見た。
「さあ、楽しい実験の時間なのダー。超伝導DC発動」
青白い放電光に包まれた竜牙の機体と赤く輝くHWが真っ向から激突する。
パイロットシートのレベッカは強い衝撃を感じたが、機体への損傷は軽微だ。
「竜牙、オマエの力を見せてみろ。オフェンス・アクセラレータ発動!」
慣性制御で180度ターン、再びFFアタックをかけようと迫り来るHWをOA併用のクロムライフルで迎撃。FFの赤光が消え、もがくように迷走するHWは亜夢の放ったAAMで爆散した。
ハンドマシンガンで牽制しつつゴーレムまで接近した那由他は、そのまま挌闘戦へと持ち込んだ。
「やられる前にやる‥‥、そういう機体‥‥でいいんだよね」
竜牙の手足に装備したナックル・フットコート、レッグドリルといった近接兵装により、パンチや蹴りを主体の攻撃がゴーレムを的確に捕らえ、OAの効果も相まって確実にダメージを与えていく。反撃のディフェンダーで那由他機も若干の損傷を被るが、先に動きが鈍って来たのはゴーレムの方だった。
勝機と見た那由他は敵ワームに向け開閉式の顎をくわっと開く。
噛み付き攻撃――ではなく、口腔内に装備したマシンガンの零距離射撃によりゴーレムの息の根を止めた。
「試作型掌銃の『虎咆』や『龍破』みたいなのを口の中に装備して噛み付きから撃つのも浪漫かも‥‥マンガ読みすぎかな?」
包囲網突破を図るゴーレムをレーザーとマシンガンで足止めしたM2は、そのまま肉迫し機爪プレスティシモの斬撃をお見舞いした。
まさに恐竜を思わせる鋭い鋼の爪が、ゴーレムの外装甲を深々と切り裂く。
ゴーレム側もディフェンダーと重機関砲で応戦して来た。
機爪による攻撃をメインに、尻尾をバランサー代わりに機体を前倒しや横倒しにして回避を図るも、無改造機体で完全に避けきるのはやはり難しい。
「陸戦用アンカーテイル欲しいなぁ」
ぼやきつつも尻尾による足払いで敵を怯ませたM2は、超伝導DCを展開し一気に反撃のラッシュに移った。
その隣では、腕にガトリングナックルとファングシールド、背にショルダーキャノンと重装備に身を固めたセリアフィーナの竜牙がゴーレム相手に奮戦していた。
「この子に向いた戦い方を見つけてやりたいですね」
ショルダーキャノンで牽制しつつ接近、間合いに飛び込み鉄拳と爪盾による白兵戦を繰り広げる。
ゴーレムの抵抗にやや手を焼くが、これは爪盾による受けと超伝導DCで何とか凌ぐ。
充分間合いを詰めた所でOA起動、必殺放射能火炎――もとい口腔内にセットした小型帯電粒子砲を発射した。
「怪獣はやはり口から火を吐くものです。お約束と言う名の様式美は、やはりロマンですね♪」
至近距離からの知覚攻撃で胸板を穿たれたゴーレム目がけ、さらにガトリングナックルの鉄拳を叩き込む。
「いけぇっ、ドラゴンナックル!!」
ガシィ! 鈍い打撃音と共に人型ワームの巨体が揺らいだ。
この時点で敵の残存戦力はゴーレム2体。だが先に小型HWを全滅させた空戦班が地上に降下してきたことで勝負はついたも同然である。
傷だらけのゴーレム達は、竜牙8機の集中攻撃により間もなく自爆へ追いやられた。
「みんな、お疲れさまーっ♪ 戦闘データはたっぷり採れたし、これで明石君も喜ぶよ」
既に飛行キメラ群を殲滅し、周辺警戒にあたっていたチェラルがシラヌイSから通信で傭兵達を労う。
8機の竜牙に中破以上の損害を受けた機体はないが、総じて地上班の損傷率が高かったのは小型HWとゴーレムの戦力差によるものだろう。
だが、その損傷も機体を持ち帰れば今後の貴重なデータとなる。
「制式採用された暁には、今度こそ恐竜形態の『竜牙』で思う存分闘いたいぜ。恐竜(怪獣)は男のロマンだからな!」
停止した機体から降りたノビルが、興奮の醒めやらぬ口調でいう。
「高攻撃機でも命中重視の武装を積めば総合では汎用的になるし、汎用機でも攻撃力の高い武装を積めば総合では攻撃的になる‥‥」
那由他は早くも竜牙推奨兵装に思いを馳せていた。
「でも高攻撃と高攻撃の組み合わせは一部の機体しか行えない‥‥、命中や回避なんかがマイナスにならない範囲で攻撃力を突き詰めた武装とか面白いかな‥‥?」
「瞬発型でもDC効果時間は充分。数が揃えばさらに強力そう!」
機体スキルについて感想をもらす礼二。
「流石に火力が高いですね。シラヌイが戦線を支えて竜牙が仕留める‥‥と、上手くはまれば頼もしそう‥‥ですか」
と亜夢。
「無茶な機動をする機体じゃないでしょうけど、それでもハヤブサより乗り心地がいいのは高評価ですね」
とクスクス笑う。
「お疲れ様。早く制式化されるといいね‥‥」
桐は初陣を飾った竜牙を見上げて呟くのだった。
<了>