タイトル:L・ホープ〜冬の来訪者マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/12/17 22:07

●オープニング本文


「(何度来ても、この場所には馴染めないな‥‥)」
 病棟の廊下に立ちこめる薬臭い空気を嗅ぎつつ、高瀬・誠(たかせ・まこと)は思った。
 ナースステーションで面会を申請し、看護士の案内で奥の廊下へと進む。
「いいですか? くれぐれも、バグアや戦争の話題には触れないでくださいね。病状が悪化しますから」
「‥‥はい」
 看護士の指示に頷き、見舞い先の病室へと入る。
 完全個室の立派な部屋だが、それが却って誠には寒々しい印象を与えた。
 彼女の父親はある大企業の重役だが、仕事が多忙のため殆ど見舞いにも来ていないと聞いている。
「やあ、真弓。調子はどう?」
「‥‥」
 返事はない。
 ベッドに横たわった少女、萩原・真弓(はぎわら・まゆみ)はただ虚ろな瞳で天井を見上げるばかりだった。

 数ヶ月前、中学の社会見学で訪れた海上エネルギープラントがバグア軍の襲撃を受け、同行のクラスメートたちは全員死亡。その中でただ2人救出されたのが誠と真弓である。
 九死に一生を得たとはいえ、その後の2人を待ち受けていたのは、平穏とは言い難い運命だった。
 誠はエミタ移植を受け「能力者」となり、間もなく初期訓練を終えて傭兵となるべく太平洋上のラスト・ホープへと向かう。
 一方の真弓は、事件による精神的ショックのためしばらく入院生活を続けていた。
 元々バグア軍による東京侵攻の際に母親と姉を失った過去を持つ彼女は、再びバグアの脅威に晒されたことでPTSD(外傷後ストレス障害)を発症したのだ。
 それでも一時は快方に向かい、退院して自宅療養できるまでにはなった。しかしそのとき折悪しく、バグア軍による名古屋への大規模攻撃が始まった。
 誠たちの住む街が直接戦場になったわけではないが、自宅上空を通過する夥しい数のワーム群を目にした真弓は悲鳴を上げて昏倒し――それ以来、彼女は自分の心を固く閉ざしてしまった。
 後は、投薬と心理療法による地道な治療しだい。それが、主治医の説明だった。

「実は‥‥しばらくの間、用事で外国に行くことになったんだ」
 少女の枕元で、誠は遠回しに告げた。
「だから、ちょっと早いけど、これ‥‥」
 そういって、持参した紙袋からクリスマスプレゼントとミニツリーを取り出し、ベッド脇のサイドテーブルに置く。
 その姿を見ても、真弓は何の反応も示さず、ただぼんやり天井を見上げていた。
「どれくらいかかるか判らないけど‥‥いつか、必ず帰ってくるからさ。だから真弓も、その時までに元気になってろよな」
 無理に笑顔を浮かべ、抜殻のようになった少女へ話しかける。だが、明るく勝ち気だった以前の真弓を思い出すうち誠自身も辛くなり、固く拳を握りしめて俯いた。
(このままじゃ、ダメなんだ‥‥)
 仮に真弓の容態が奇跡的に回復しても、バグア軍が地球に居座る限り、また何度も同じ事の繰り返しになってしまう。
「約束するよ。その時には、もう悪い夢は全部終わってるから‥‥もう誰も、君を傷つけたり、怖がらせたりしないように‥‥して見せるから」

 ◆◆◆

 それから1週間後――。
「へえ‥‥ここが、ラスト・ホープかあ」
 中学の制服に旅行カバンという場違いな姿で、誠は人工島のロビーに立っていた。
 日本のUPC支部で貰ったガイドブックに従い、まずはULTの斡旋所を訪れ傭兵登録の手続きを済ます。
 これで彼は駆け出しの「傭兵」となったわけだが、どうもまだ実感が湧かない。
 故郷の街とはまるで違う周囲の光景を見回し、
「でも‥‥これから、どうしたらいいんだろう?」

●参加者一覧

エスター(ga0149
25歳・♀・JG
稲葉 徹二(ga0163
17歳・♂・FT
鷹見 仁(ga0232
17歳・♂・FT
リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
大山田 敬(ga1759
27歳・♂・SN
亜鍬 九朗(ga3324
18歳・♂・FT
美川キリコ(ga4877
23歳・♀・BM
八界・一騎(ga4970
20歳・♂・BM

●リプレイ本文

「先ほど登録された傭兵の方ですか?」
 戸惑いながら周囲を見回す高瀬・誠(たかせ・まこと)に、背後からULT(未知生物対策組織)の職員が声をかけてきた。
「え? そうですけど‥‥」
「ああ、丁度よかった! 実はこれから、新人傭兵を対象に見学会を開くんです。よかったら参加されませんか?」
 このまま突っ立っているよりは‥‥と参加を承諾する誠。
 職員に案内されるままホールの片隅へ行くと、そこに若い男女と高校生くらいの少年、計3名が待っていた。
「ハァイ♪ 同じく新人の美川キリコ(ga4877)だよ。宜しくね」
 ハーフと思しき長身の女性が、真っ先に声をかけてきた。
「あら〜、君〜、新入り〜? かくいうボクもそうなんだ〜。ボクは八界・一騎(ga4970)。よろしくね〜」
 のんびりのほほんと挨拶したのは、赤いシャツにオレンジのツナギを崩して着た、一見ごく普通の青年。
「亜鍬 九朗(ga3324)だ‥‥よろしく」
 最後に、3人の中では一番若い高校生風の少年が、言葉少なに名乗った。
「えーと、美川さんと八界さんはビーストマン。亜鍬さんはファイターですね」
 ULT職員が、捕捉のように説明した。
「あ‥‥僕は高瀬・誠‥‥ファイターです。よろしくお願いします」
 慌てて誠も自己紹介し、ペコリとお辞儀する。
「ラストホープに来たばっかじゃ、どこに何があるとか知らないでしょ〜? 案内がてら観光しようよ〜」
 と一騎がのんびりした口調でいえば、
「まー、カワイー男の子の新人も居るってんでおねーさん来てみたワケで。アタシもここに来てから日が浅いし、お仲間は多い方が楽しいモンさ。ねェ?」
 キリコがぐいっと誠の肩を抱いてくる。
「わわっ!?」
 いきなり年上の女性に抱きつかれ、誠は赤面して慌てふためいた。
「俺は‥‥依頼はもう何度かこなしている。ただ、この島をまだゆっくり回ったことがないんで、今日の機会に参加させてもらった」
 ややぶっきらぼうな口調で、九朗がいった。
「本日は、こちらの傭兵さんがたに島内を案内して頂きますので」
 職員の紹介を受け、先輩らしき2人の傭兵が現れた。
 えらく露出度の高い戦闘服を着た隻眼・巨乳の美女と、まだ10歳くらいの、ちょっと生意気そうなブレザー姿の少年。まるで対照的な2人である。
「スナイパーのエスター(ga0149)ッス。あたしもまだ日が浅いんで一緒に観光ッス〜」
「始めまして、サイエンティストのリチャード・ガーランド(ga1631)っていうんだ」
(「こ、子供‥‥?」)
 エスターの百cm級バストにも驚いたが、まだ小学生のような年齢のリチャードにはもっと驚いた。てっきり、傭兵では自分が最年少かと思っていたのだ。
 ともあれ他の参加者3名と共に、改めて挨拶と自己紹介を済ませる。

「まず、今いるホールは通称『本部』もしくは『斡旋所』。依頼を受けたり、報告書を読んだりする場所ッス」
 いわれてみれば、広いホールの壁一面にモニターが並び、傭兵と思しき何人かの男女が立ち止まって見上げている。
「本部じゃあ、みんなに依頼を持ってきてくれるし報告書も読める。ほら。これ、誠兄ちゃんのだろ?」
 モニター群の手前に設置された端末機をリチャードが操作すると、端末の画面に過去、誠が関わった2件の依頼の報告書が表示された。誠自身はそのうち1件では単に巻き込まれた被害者、別の1件では少し戦闘に加わっただけだが。
「先ずは顔を合せたら挨拶。依頼に限らず全ての基本なのでしっかりやるッスよ〜。依頼の時は自分のクラスや、場合によっては搭乗機も一緒に言っておくと解りやすくて良いッス」
「は、はいっ」
「先ずは観光ッス。ランニングしたい人はランニングで、それ以外は公的交通手段で行くッス」
 チラッと自分の旅行鞄を見やる誠。この大荷物を抱えてランニングは、少々きつい。
「交通手段って‥‥バスでもあるんですか?」
「外に出れば判るッス」
 本部の外に出るなり、誠は目を見張った。
 林立する超高層ビルの合間を縫って透明の巨大なパイプが伸び、その中を円筒状の列車が弾丸のごとく駆け巡っている。
「L・ホープの人口は約25万人。限られた面積を有効利用するために超高層ビルと地下街が発達して、主な交通機関があのチューブトレインさ」
 リチャードが得意げに説明する。
 6人はチューブトレインの駅を目指して移動した。

 駅を降りて最初に目に映ったのは、中央に噴水がある、のどかな公園の風景だった。
「ここが『広場』。掲示板にデカイイベントの情報提示される事が有るッスから、偶に寄ってみると良いッス」
 いま掲示板に表示されているのは、つい最近日本で起きた大規模戦闘に関する戦果報告だった。
「‥‥」
 誠はやや表情を硬くして、掲示板から目を逸らした。
「友達を‥‥バグアに殺されたそうだな」
 ふと、隣にいた九朗が話しかけてきた。
「悪いけど、誠が関わった事件の報告書を読ませてもらった。俺も似たようなものだ‥‥もっとも俺の場合は家族と幼なじみだったが」
「そう‥‥なんですか」
「俺はバグアに対する恨みの為‥‥復讐の為に傭兵になった。だが君は大切な者を守る為に傭兵になったんだな。その気持ちを忘れずにな‥‥」
「‥‥はい」
「報告書は見たよ。真弓姉ちゃんだっけ? 誠兄ちゃんの想い人。その人を護るためにも戦う方法を学ばないとね」
 リチャードの言葉を聞いた途端、誠は耳まで赤くなった。
「そそ、そんな大袈裟な‥‥か、彼女はただクラスメートってだけで‥‥」
 それからハッと気づき、九朗の顔を気まずそうに見やる。
(「そうか‥‥真弓はまだ生きてるけど、亜鍬さんの家族や幼なじみはもう‥‥」)
「情報収集なら『図書館』ッスね。でも昼寝してると妙なオーラで睨まれるッス」
 誠たちの重たい空気を知ってか知らずか、相変わらずお気楽な口調でエスターがいう。
 あるいは、これが彼女なりの気遣いなのかもしれないが。
「‥‥でも今は改修中だからパス。次はショップに行くッス〜」

 リチャードによれば「評判の可愛い看板娘」がいるというショップだが、その日はあいにく不在とのことで、代理のULT職員が店番を務めていた。
「武器防具その他はココで揃える奴が大半ッスよ。特別アイテム買う為に食費削った奴とかも居るらしいッスけどそういうのは程々にしとくッス」
「誠も遠慮してないでわかんない事はバンバン聞いた方がイイよ。エロ本は何処で売ってるんですか、とか」
「いえ、そういう本はちょっと‥‥ここは依頼に必要なアイテム専門ですから」
 キリコの言葉に、代理店員が口許をヒクヒクさせつつも、営業スマイルは崩さずに答える。
「そういや誠兄ちゃん、装備は持ってるの?」
「いちおう日本のUPC支部から支給されてるけど‥‥」
 現在、誠が装備しているのは刀とナイフ。防具はフライトジャケットにジャングルブーツといったところ。
「ちょっと防具が貧弱かな〜? ボクらビーストマンは『獣の皮膚』があるから、自分の体が防具みたいなモノだけど」
「これからKV搭乗の依頼もどんどん増えるから、機体アイテムも揃えといた方がいいッスよ〜」
 エスターからそういわれて、誠はKV用武器のカタログを覗いてみた。
「た、高いですね‥‥」
 自分のカード残高と見比べて、がっくり肩を落とす誠。
 どうやら、しばらくは生身の依頼で地道に稼いでいく他なさそうだ。

「『研究所』‥‥希望と絶望の同居する場所ッス。アイテム強化でお世話になる事多数。強化したアイテムが鉄屑になったりして涙を流す事多数ッス」
「アイテム強化にもお金がかかるんですね‥‥」
 いま装備している刀を強化しようかどうか迷う誠だったが、別の武器を買う可能性も考え、とりあえず後回しにすることに。
「さて、ここで質問です。誠兄ちゃんはファイターだよね? 他には俊敏なグラップラー、科学命のサイエンティスト、狙撃のスナイパー、獣の力のビーストマンとかいるけど、どのクラスを一番大事にしなければならないかな?」
 唐突にリチャードが訊いてくる。
「えーと‥‥ファ、ファイターかな?」
「ブーッ。あえて戦術的に言うとサイエンティスト。練成治療使って負傷者治せるから、何度死に掛けても治せるってこと。まあ、他の皆との連携が重要なんだけどね」
 ちなみに近接戦闘から後方支援まで万能にこなせる「エクセレンター」なる能力者もいるらしいが、このクラスはまだ数が少ないのでリチャードも詳しいことは知らない、との事だった。

 次にエスターたちが案内してくれたのは『兵舎』だった。
「あたしらラストホープ駐留組の根城ッス。自販機や浴場やBARや喫茶店まで色々有るッス。未成年者は飲酒喫煙不可ッスけど、その他の設備は気軽に利用していいッスよ」
「兵舎は俺たちの家だね。誰でも借りること出来るよ。まあ、チャンスがあればラブコメみたいに素敵なお姉さんと同棲とかも出来るけど」
「僕も、これからここで暮らすんですね‥‥」
 やや感慨深げに兵舎内を見渡す誠。てっきり昔見た戦争映画に出てくるような、薄暗く汚れた室内に所狭しとハンモックが並ぶ光景を想像していたのだが、思った以上に清潔で住み心地もよさそうなので、内心ほっとした。

 さらに移動し傭兵の訓練所まできたとき、エスターがいった。
「ここから先は別の仲間が案内するッス。先ずはなりたい自分を思い描き、その姿に向かって不断の努力するのが一番ッス」
「じゃあ、がんばってねー!」
 エスターとリチャードは兵舎に引き返し、訓練所の前には3人の傭兵が待っていた。
「稲葉 徹二(ga0163)であります。宜しく、親愛なる傭兵のタマゴ殿」
 誠と殆ど歳の変わらない少年兵が、姿勢を正し軍人らしく敬礼する。
「スナイパーの大山田 敬(ga1759)‥‥よろしく」
 ギターを背負いマントを羽織った青年が、鍔広帽を深く被り直し、一礼。
「あれ? あなたは‥‥」
 黒い戦闘服に身を包んだ鷹見 仁(ga0232)の顔を見て、誠は思わず声を上げていた。
「高瀬・誠‥‥だったか」
「はい。あ、あの時は‥‥どうも」
 誠が日本で訓練中、地元の街にキメラが侵入した事件で、彼は仁と出会っている。誠にとっては能力者として初めて体験した「実戦」でもあるが、あいにくその時は敵の最初の攻撃で気絶してしまい、仁とも殆ど話す機会がなかった。
「お前もいよいよ傭兵か‥‥ま、頑張れよ」
 仁たち3人も報告書を読み、誠が能力者になった経緯を知っているので内心やや複雑な心境だったが、それをいったら現在戦っている大半の能力者たちは、皆それぞれ何らかの深刻な事情を背負っている。
 故に今日はあえてその話題に触れず、あくまで一介の新兵として扱おうと決めていた。

 訓練所に入ると、とりあえず仁が誠を、徹二と敬が九朗と一騎、そしてキリコの相手をする形で、各自覚醒しての訓練を行うことになった。
「うーん‥‥ボク生身の戦闘は〜、嫌い」
 と渋る一騎だったが、狸獣人として覚醒した途端、
「おっしゃ!! かかってこいよ!!」
 熱血漢に豹変し、ファイト満々で徹二に向かっていく。
 誠自身は覚醒すると外見的な変化はあるものの、性格じたいは通常時とそんなに変わらない。どうやら、このあたりはそれぞれ個人差があるらしい。
 仁は誠に木刀を持たせ、自らは素手でひたすら攻撃させる訓練を行った。
 誠も日本で受けた初期訓練で、一通り剣術や体術、射撃などの基礎は学んでいる。
 加えて覚醒により一般人よりも増幅した運動能力で思いきり打ち込むのだが――全て動きを見きられ、軽くかわされてしまう。
 誠の攻撃にわずかでも躊躇いがあると、仁は手刀で木刀を払い落とし、
「本気でやってくれ。それじゃ遊びにもならない」
 ムキになってさらに打ちかかる誠だったが、最後には軽く受け流されたうえ、顔面にカウンターの正拳突きを貰う。ただしその拳は鼻先1センチで寸止めされたが。
 ここで選手交代となり、仁は狼獣人に覚醒したキリコと、誠は徹二を相手にすることになった。
 次の相手、年齢も身長もほぼ同じ徹二を相手に徒手格闘の模擬戦を行うが、やはり手も足も出ない。
「『危機』に対応する術を学ぶのが最優先だ!」
 覚醒変化でやや言葉遣いが荒っぽくなった徹二は、容赦なく誠を投げ飛ばし、関節を極める。いい加減誠の息が切れかけたところで手を休め、
「‥‥待っている人がいるんだろう? 生き残るのが先ず最初だ」
 ファイターであっても副武装で射撃武器は装備しておくべきであること、かつて船上で飛行型キメラと戦った経験談などアドバイスしてくれた。
「この後、KVのシミュレータ訓練も予定してたんだが‥‥ちょいと無理そうだなぁ」
 2時間ほどの模擬戦ですっかりへばった誠を見て、敬が苦笑した。
 覚醒を解くともう起き上がる気力もない誠を、仁が手を貸して助け起こす。
「こんな状況だ、誰にだって多かれ少なかれ事情はあるさ。だから‥‥もし誰かの助けが欲しいなら、遠慮なんかしないで言えよ。俺の力で良ければいくらでも貸してやる。‥‥なに、心配するな。俺もお前の力が必要になったら遠慮無く借りるからな」
 そういって、ニッと笑った。

 訓練の打ち上げは、敬の奢りで小高い丘の上にある――屋台のラーメン屋だった。
「ええ〜、ラーメン?」
 と不満顔のキリコだったが、ちょうど丘から見渡せるL・ホープ全体の夜景に歓声を上げる。
「なあ、お前友達はいるか? 心の中にとかそいういうのじゃなくて一緒にいてくれる友達だ」
 丼のラーメンを啜りつつ、敬が誠に語りかけた。
「いなかったら作れ。一人で何もかにも抱え込んでると保たないぜ。俺もそうだったが相棒がいたから今までなんとかなったってもんだ。だから作れよ友達を」
 それからニヤっと笑い、
「安心しな。女友達作ったって、真弓ちゃんを裏切ることになんてならねえってば」
 思わずラーメンの汁がむせて咳き込む誠。
「皆が教えてくれた通り、エミタは確かに力をくれる。でもアンタが戦う理由、守りたいもの、ソレをちゃんと忘れないでいればもっと強くなれる筈サ。頑張んなよ」
 ビールを傾けつつ、ほろ酔い加減でキリコがいった。
「今度はどこかの依頼で仲間として出会う事になるだろう。その時は宜しくな」
「今度会うときにはすっごく強くなっててね〜」
 九朗と一騎が、手を振りながら一足早く兵舎へと戻っていく。
(「友達‥‥仲間か。でも、そのためにも僕自身が強くならなくちゃいけないんだ」)
 人工島の高層ビル街に瞬く街の灯を見つめながら、誠は思った。
(「今までみたいに助けられるだけじゃなく‥‥僕が仲間を助けられるように」)

<了>