タイトル:ミーティナのクリスマスマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: やや易
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/10 21:45

●オープニング本文


 一人の男が、ラスト・ホープの空港ロビーに降り立った。
 歳はまだ20歳そこそこと若いが、身の丈190cmを優に超す筋骨隆々とした体格はプロレスラーもかくやと思われる。
 いや実際、故郷のメトロポリタンXがバグア軍に占領されるまで、彼はそこでプロレスラーとしてリングに上がっていたのだが。
 彼の名はレドリック・ゴーディッシュ。レスラー時代は「黙示録の野獣」の異名を取るヒール(悪役)として、リング上で大暴れしていた男である。
 そして、今は能力者のグラップラーとして、キメラやワーム相手に相変わらず暴れ回っている。

「よう、レッド! まだ生きてやがったかよ」
 顔見知りの傭兵が声をかけ、二人は笑いながらパン! と手を打ち合わせた。
「へっ。そう簡単にくたばるかよ」
「こないだのナゴヤ防衛戦じゃだいぶ暴れたそうだな。キメラを20匹仕留めたんだって?」
「ああ。あのケルベロスって野郎はさすがにしぶとかったが‥‥」
 メタルナックルをはめた岩のような拳を突き出し、ニヤリと笑う。
「最後は、こいつであの犬頭を3つとも叩き潰してやったぜ。ガハハ!」
 グラップラーの武器としては一番攻撃力の低いメタルナックルであるが、彼の場合信条として銃や刃物を一切使わず、ナックルだけで本当に大型キメラを殴り殺してしまうのだから、その強さは殆ど怪物といっていい。
 またKVによる機体戦でもあくまでナックル・フットコート一筋。それで陸戦型ワームを3機撃破している。
「‥‥しかし、えらい大荷物だな。ひょっとして、妹さんへの土産かい?」
 レドリックは着替えや装備を詰め込んだナップザックを無造作に担いでいたが、それとは別に、ラッピングされたプレゼントの箱を山ほど積み上げ、カートに載せて運んでいた。
「へへっ、まあな。‥‥残敵掃討戦が長引いてクリスマスには間に合わなかったが、何とか年内に戻れてよかったぜ」
 ごつい巨体に似合わぬ照れ笑いを浮かべ、レドリックは頭を掻いた。
「ま、あいつにゃいつも寂しい思いをさせてるし‥‥これくらいはしてやんねえとなぁ」
「おまえさんの妹思いも相変わらずだねえ。まあ、たった一人の家族だから判らんでもないけど」
「そうそう、俺が留守中、何か変わった事はなかったろうな?」
「ミーティナちゃんかい? 安心しな、元気でやってるぜ。何でも、最近はボーイフレンドもできてよろしくやってるとか――」
 そういいかけた傭兵の言葉が、途中で途絶えた。
 それまで上機嫌だったレドリックの表情が鬼瓦のごとく変貌し、全身から怒りのオーラがユラァ〜と立ち上っている。
「‥‥おーっと、わりい。ちょっと急用が‥‥」
 にわかに身の危険を感じ、回れ右してその場を立ち去ろうとするが――。
 グローブのような掌で、肩をグッと鷲づかみにされた。
 ミシッ――。万力のごとき握力で、肩の骨が軋みを上げる。
「おい。その話、もっと詳しく聞かせな」

●学生寮〜テミストの部屋
「えへへー、見て見て。やっと傭兵になれたのよ♪」
 ヒマリアはニンマリ笑い、初期訓練の修了を証明する書類を自慢げに弟に披露した。
「エクセレンター? これって、いったいどんなクラスなの?」
 書類を読みながら、不思議そうにテミストが尋ねる。
「えーと、確かKVの万能論を能力者にも応用したっていう‥‥あたしも詳しくは知らないけど、近接戦から後方支援まで色々出来る、何てゆーか便利屋さんみたいなクラスだそーよ」
「あれ? 姉さん、前は『ファイターかグラップラーになりたい』っていってなかったっけ?」
「んー、あたしもできれば、前衛でガンガン戦いたかったんだけどねー。まあ仕方ないわよ。事前の適性検査やら何やらで、エミタ移植の時にもう決まってたそーだから」
「ふうん」
 テミストも別に能力者の専門家というわけではないので、クラス分けのことなどあまりよく判らない。
 そのとき、デスク脇に設置した電話が鳴った。
「はい? テミストですけど‥‥ああ、ミーティナ?」
 少年の顔が、パッと輝いた。
 ミーティナはテミストと同じ学園の初等部に通う下級生の少女。ふとした事からテミストに一目惚れし、先日の初デート以降休日など度々二人で遊びに行っている。
 といっても、まだ13歳と10歳の幼いつきあいである。少なくともテミストの方は、恋人同士というより「仲の良い年下の友達」という感覚のようであるが。
「うん。うん‥‥ああ、今度の日曜だね? 大丈夫、空いてるよ」
 10分ほどの会話の後、テミストは電話を切った。
「また、あの子とどこか行くの?」
「ううん、それがね‥‥今、ちょうど彼女のお兄さんがL・ホープへ戻ってて、ちょっと遅れたけどクリスマス・パーティーをやるから僕にも来て欲しいんだってさ」
「ええーー!?」
 ヒマリアが目を丸くして驚きの声を上げた。
「ちょっとあんた、それは一大事よ! どーゆーことか判ってんの?」
「え? え?」
「鈍いわね! 彼女は、あんたに『彼氏としてお兄さんに紹介したい』っていってんのよ!」
「‥‥」
 一瞬、きょとんとして姉の顔を見つめていたテミストだが、やがて「えーっ!?」と叫び、露骨に狼狽して後ずさった。
「そ、そんな大袈裟な‥‥!」
「落ち着きなさい、テミスト。これは正念場よ。男なら、遅かれ早かれこーゆー日が来るの。彼女の家へ行って『娘さんをください!』って頭を下げる時が‥‥この場合は妹さんだけど」
「ちょちょっ、待ってったら! 僕とミーティナは、別にまだそんな――」
「見苦しいわよ! 男なら腹を括んなさい。‥‥ああっこうしちゃいられないわ。当日のサポート要員を募集しなくっちゃ!」
「また‥‥依頼に出すの?」
 既に諦めきった表情で、テミストはガックリ肩を落とした。

●学生寮〜ミーティナの部屋
 受話器を置いた後、ミーティナは赤ペンを取っていそいそと壁際のカレンダーに駆け寄り、次の日曜日を大きく花マルで囲んだ。
 ぽっと頬を赤らめ、
「お兄ちゃん‥‥気に入ってくれるかな? テミスト先輩のこと‥‥」

●傭兵訓練所
「‥‥妹をたらしこむナンパ野郎‥‥絶対に許さねえ」
 薄暗いジムの一角で、サンドバッグにひたすら拳と蹴りを叩き込む、人並外れた巨漢の姿があった。
 やがて渾身のパンチが決まると、サンドバッグのど真ん中が破れ、中の砂がザラザラとこぼれ落ちる。
「野郎、今度の日曜に来るとかいってたな‥‥待ってろよ。その日を貴様の命日にしてやるぜっ! HAHAHA!!」
 レドリックはビシっと中指を立て、かつての悪役レスラーに戻ったかのように高笑いした。

●参加者一覧

姫藤・蒲公英(ga0300
11歳・♀・ST
姫藤・椿(ga0372
14歳・♀・FT
御坂 美緒(ga0466
17歳・♀・ER
棗・健太郎(ga1086
15歳・♂・FT
蒼羅 玲(ga1092
18歳・♀・FT
エマ・フリーデン(ga3078
23歳・♀・ER
寿 源次(ga3427
30歳・♂・ST
内藤新(ga3460
20歳・♂・ST

●リプレイ本文

●帰ってきた兄貴
「テミスト君とミーティナさんがクリスマス! これは素敵な予感ですね!」
 胸をドキドキさせながら御坂 美緒(ga0466)がいった。
「いつかは来る問題だなぁ。男として、テミスト君を応援するぞ」
 腕組みしてうんうん頷く寿 源次(ga3427)。
 今回集まった傭兵達の目的は「ミーティナの兄、レドリックにテミストとの交際を認めてもらい、クリスマス・パーティーを無事成功させる」こと。
 問題は、肝心のレドリックの人となりを誰も知らない事だった。
 現時点で判明しているのは、「能力者のグラップラー」「傭兵になる前の職業はプロレスラーだった」というくらい。
 全てテミストがミーティナから聞いた話である。
 彼女の話によれば「優しいお兄ちゃん」とのことだが、肉親の印象と当人の実態には往々にしてギャップがあるもの。まして2人きりの兄妹ともなればミーティナに対しては父親に近い保護者意識を抱いているだろうし、不用意に「妹の彼氏」と会わせたりしたら思わぬトラブルが起きないとも限らない。
「お兄さんがどんな人か判れば、テミスト君も挨拶し易いと思うのですよ♪」
 と美緒。
 そこでまずミーティナに話を聞くことに決め、学校が冬休みなのでテミストに頼んで広場近くのファミレスに呼び出して貰うことにした。
 またこれも万一のトラブル回避のため、一通りの調査が済むまでヒマリアには兵舎の自室で待機して貰うことに。

「わざわざすみません‥‥また姉さんのワガママにつきあわせちゃって」
 待ち合わせの当日、ミーティナを連れて店に現れたテミストは、傭兵たちの顔を見るなりすまなそうに頭を下げた。
 今回のメンバーのうち、美緒と源次、姫藤・椿(ga0372)、姫藤・蒲公英(ga0300)の姉妹、それに棗・健太郎(ga1086)は既にテミストと面識がある。
 少年の背後から恐る恐るといった調子でついてきたミーティナは、やはり顔見知りの美緒や姫藤姉妹、健太郎らの顔を見て、少しホッとしたようにテミストの隣に座る。
 まだ10歳だから当然だが、暗紫のストレートヘアを長く伸ばしたその姿は、まるでお人形のようだ。
「こ、こんにちは‥‥」
(「‥‥めんこい。おらにもこういう純真な妹がいたらええべなぁ」)
 つい思ってしまう内藤新(ga3460)だが、テミストの手前口には出さない。
「ミーティナちゃんお久しぶりっ。覚えてる〜?」
 彼女の緊張をほぐすべく、最初に椿が明るく声をかけた。
 今日はグレーのロングニットと黒のミニスカート、グレーのレギンスという服装である。
「は、はい‥‥あのときは、クッキーごちそうさまでした」
「‥‥あれから‥‥は‥‥どうです‥‥か‥‥?」
 例によって姉・椿の背後にひっつくように行動する(今は隣に座っているが)蒲公英が、おずおず聞いてみた。
「えと、テミスト先輩とは何度か映画やお買い物に‥‥」
「あ! でも恋人とか、そんなんじゃないですよ? その、単に仲のいい友達ってだけで――」
 赤面したテミストが慌てて口を挟むと、ミーティナはちょっと膨れっ面で黙り込んだ。
 どうも彼女としてははっきり恋人宣言して欲しいらしい。
 意外とませた10歳である。
「‥‥にーさま‥‥って‥‥どんな‥‥方‥‥ですか‥‥?」
 蒲公英が尋ねると、ミーティナはバッグの中から1冊の雑誌を取り出した。
 それは幼い少女が読むにはほど遠い、少し古びたプロレス専門誌だった。
「これ‥‥お兄ちゃん」
 テーブルの上に広げられた雑誌を見て、一同の顔がこわばった。

『悪逆非道!! 黙示録の野獣アレスタ・グローリ!!』

 おどろおどろしいロゴの大見出し。
 見開き写真いっぱいに、顔を不気味にペイントした筋骨隆々の大男が、リング上で凶器のフォークを振い相手レスラーを血まみれにしている。
 ちなみに「アレスタ・グローリ」は現役時代のリングネームだとか。
(「‥‥ゴツイ。まるでヒグマだなや。この人がミーティナちゃんのお兄さんってのは、えらいギャップを感じるなや」)
 新はストレートに思ったが、やはりミーティナの手前口には出さなかった。
「でも、これはお仕事で‥‥お兄ちゃん、ほんとはとっても優しいんです!」
 その真剣な口ぶりから、「妹に優しい」というのは確かだろう。
「ところで、お兄さんってテミスト君のことどう思ってるのかなぁ‥‥?」
 椿がミーティナに尋ねた。
「あの、気に入ってもらえると思います‥‥きっと」
「もし‥‥私の可愛い妹に知らない男の子が近づいてきたらいい気分はしないかなっ」
 ちょっと思わせぶりに椿がいうと、ミーティナも急に不安な表情になった。
「でも、仲良くしてほしいです‥‥お兄ちゃんとテミスト先輩には」
「ミーティナちゃんはもし、お兄さんと話す機会があったらテミスト君のいいところ教えてあげてねっ」
「は、はい‥‥」
「大丈夫っ。応援するし、いざとなったら私も蒲公英もみんな助けてあげるからっ」
「お願い、します‥‥」
 テミストの腕にしがみついたまま、ペコリと頭を下げるミーティナ。
「とりあえず、兵舎でレドリックさんについて調べた方がよさそうですね‥‥」
 蒼羅 玲(ga1092)が隣の朧 幸乃(ga3078)に小声で囁く。
 一方、美緒はこっそりミーティナを呼び寄せ、彼女からアクセサリーの好みなどを聞き出していた。

 兵舎で聞き込んでみると、レドリックの名前は意外と知られていた。
「ナックルでキメラを殴り殺す凄腕のグラップラー」
「若いが実戦経験豊富で、チームを組めば頼りになる男」
「子供好きで、依頼先に戦災孤児の施設があれば必ず慰問に行く」
 ――等々。評判は決して悪くない。
 が。なぜかどの傭兵も、「確かにいいヤツなんだがなぁ‥‥」と必ず最後に言葉を濁す。
 その「‥‥」の部分が気になった源次らがさらに突っ込んで聞いてみると、ある傭兵が渋々打ち明けた。
「実は、あいつの妹思いは少々度を越しててな‥‥あ、この話、俺がバラしたっていうなよ?」
 今から数ヶ月前のこと、兵舎で傭兵同士のちょっとした飲み会があった。
 その際、悪酔いした一人の傭兵がミーティナをネタに卑猥なジョークを口走った瞬間、烈火のごとく怒り狂ったレドリックはその傭兵を叩きのめしたのだという。
 幸いその場にいたサイエンティストが練成治療を施したので大事に至らなかったものの、この1件で彼はULTから暫く謹慎処分を受けた。
「相手も元海兵隊員で大男のファイターだったんだが、手も足も出なかったって話だ」

 玲と源次は、レドリックがいつも通っているという訓練所のジムを訪れた。
 ジムの一角で、身の丈2m近い巨漢の若者が、黙々と腕立て伏せをしている。
 ――いや、よく見れば左右の親指だけを使った「指立て伏せ」だ。
「ん? 何だいあんたたち?」
 2人の姿に気づいた若者が立ち上がり、汗を拭きながら尋ねた。
 ペイントのない素顔は、意外にもさっぱりしていて、確かにミーティナの肉親という面影はある。まあヒグマ並の体格であることに変わりないが。
「始めまして、私は蒼羅 玲と申します」
 まずは玲が礼儀正しく頭を下げ、次いで源次が自己紹介する。
「ああ? そりゃどうも‥‥よろしくな」
 レドリックも挨拶を返すが、2人が何の用で来たのか判らず訝しんでいるようだ。
「一切刃物や銃器を使わない傭兵さんがいると聞いて、どんな人か見てみたくて来ました」
「何だ、そんな事か」
 若い傭兵は苦笑しつつ、手近に置いたペットボトルの水で喉を潤した。
「まあ、俺は元レスラーだからな。本当は素手でやりてえ所だが、キメラにゃフォースフィールドがあるし、仕方ねえからメタルナックルだけ使ってるのさ」
「まあ、ずいぶん自信がおありなんですね。そんなレドリックさんと、ひとつお手合わせ願いたいのですけど」
「覚醒して模擬戦でもやろうって事かい?」
「いいえ。このままで結構です‥‥軽く力比べということで」
「おいおい、冗談だろ?」
「人は見かけによらないと言いますよ?」
 にっこり微笑む玲。
「年格好で判断はしないだろうが‥‥彼女強いぞ?」
 源次の言葉を聞き、ようやく玲が本気だと悟ったのか。
「ま、そこまでいうなら‥‥」
 と、無造作に片手を突き出してきた。
(「やっぱり子供扱いされてますね‥‥」)
 見かけこそ子供のように小柄な玲だが、実はこう見えても腕力には自信がある。
 過去、非覚醒状態で重い冷蔵庫を一人で持ち上げて運んだ事があるほどだ。
 グローブのような若者の掌に玲の小さな両手が組み合わされ、2人はその場で押し合いの力比べを始めた。
「‥‥?」
 最初は余裕の表情だったレドリックだが、やがて想像以上の玲の怪力に気づいたらしく太い眉をひそめる。だが、間もなくニヤリと笑うと、
「――え?」
 次の瞬間、玲の体は手を組んだままヒョイと宙につり上げられていた。
 いかに力が強くとも、支点となる床がなければ相手を押しようがなく、玲は虚しく両足をパタパタさせる格好になった。
「いやあ、悪い悪い。あんたが意外に強かったから、ついズルしちまったぜ」
 玲の体をゆっくり降ろし、レドリックは豪快に笑った。

●兵舎でのクリスマス
 とにもかくにも、パーティー当日。
「は、恥ずかしいよ! こんな‥‥」
「なにいってんの! 一世一代の晴れ舞台でしょ♪」
 ブレザー姿に花束まで持たされ、顔を真っ赤にして恥ずかしがる弟に、すまし顔でヒマリアがいった。そういう彼女は、白いブラウスにプリーツミニ、上着代わりに赤いケープを羽織ったいつもの服装だが。
 間もなくサポート役の傭兵たちが兵舎内のヒマリアの部屋に集まってきた。
 椿はパーティーに相応しく、黒のワンピとミント色のストール、足には銀色のパンプスを履いている。
 その背後にひっついた蒲公英は、なぜか某社傷薬のマスコットキャラを思わせる、メイド服調ナース服という格好。本格的に救急箱まで抱えたその姿は、さながら戦場に赴く白衣の天使を思わせる。
 ――確かに、一歩間違えば流血のXmasとなる怖れもあるわけだが。
「メリークリスマス! おらは北欧からの使者、ヤング・サンタクロース!」
 サンタ衣装に身を固めた新が陽気に飛び込んでくる。訛りが出ている時点でうそバレバレだが、まあそこはご愛敬。
 健太郎も同様のサンタルックなので、新と並ぶとまさに謎のサンタブラザーズである。
 その他の面子も集まった所で、一行はプレゼントやパーティ用品の買い出しのため街へと繰り出した。
「交換用のは誰でも貰えるような物にすると良いですよ。それとミーティナさん、海がお好きだそうですよ♪」
 ちょっとおめかしした美緒が、テミストにアドバイスする。
 傭兵たちは買い物を済ませ、改めて会場となる兵舎内の小会議室へと向かった。

「おや? あんたらは‥‥」
 会議室のドアをノックすると、ヌッと顔を出したレドリックが、まず先日会ったばかりの玲と源次の顔に目を留めた。
「奇遇ですね、私は知り合いに誘われてきました」
「自分もだ。何か手伝えることがあればと思ってな」
「そうか? そりゃ助かるな」
「御坂美緒です、よろしくお願いしますね♪」
 他の面々も、それぞれレドリックに挨拶していく。
「‥‥で、テミストって奴ぁ誰だ? 貴様か?」
 源次以外の男達を、レドリックが鋭く睨みつけた。
「お、おらは違うだよ?」
「じゃあ貴様か?」
 中性的な容姿の幸乃の肩をぐっとつかむが、すぐ彼女が女性と気づき、慌てて手を放す。
「す、すまねえ」
「構いませんよ。別に減るものではありませんし‥‥」
「違うよ、お兄ちゃん‥‥このひと」
 巨大な兄の隣にちょこんと立ったミーティナが、恥ずかしそうに俯いてテミストを指さした。
「へ? ‥‥子供?」
 カチコチに緊張したブレザー姿の少年を見下ろし、レドリックは気が抜けた様に呟いた。
 どうやら仲間の傭兵や妹からテミストの名前だけ聞き、もっと年上のナンパ男を想像していたらしい。
「あの、始めまして‥‥テミストです」
「あ、ああ‥‥よく来たな」
 振り上げた拳のやり場を失った様な顔つきで答えるレドリック。
 その脇をすり抜け、傭兵達はどやどや会議室に入り込むと、早速Xmasの飾り付けを開始した。

 電灯の落とされた会場に源次の持参したランタンが灯され、ツリーのイルミネーションランプがチカチカ点灯する。
 ケーキやローストチキン、その他オードブルやドリンクの並べられたテーブルを囲み、とりあえず全員がシャンパンやジュースで乾杯。
 次いで蒲公英がキーボードで弾くXmasメドレーに合わせ、互いの持ち寄ったプレゼントをグルグル回して交換会。
 その後健太郎は交換用とは別に準備しておいたヌイグルミを、蒲公英に贈った。
「あぅぅ…」
 真っ赤になって小さくなる蒲公英。
 その傍らで、テミストが美緒の助言を参考に選んだ貝殻のネックレスを、ミーティナに渡していた。
「あ、ありがとうございます‥‥宝物にします!」
 その様子を少し離れた席から複雑な表情で眺めるレドリックの隣に座り、
「ささ、グーッと飲んで、飲んで。おにーさん♪」
 ヒマリアが上機嫌でグラスにシャンパンを注ぐ。彼女の脳内では既に「お義兄さん」のつもりかもしれない。
「久しぶりだな‥‥妹の、あんな嬉しそうな顔を見るのは」
 ボソっと呟く傭兵の若者に、幸乃が穏やかに語りかけた。
「貴方の帰りを待つ妹さん‥‥独りは寂しいです‥‥お兄ちゃんはちゃんと帰ってきてくれるかな、怪我してないかな‥‥不安でしょう‥‥」
「‥‥」
「彼がいることで、彼女は独りのときも笑顔でいられる‥‥それはいいことでは‥‥?」
「ミーティアちゃんとテミスト君の様子をみて‥‥わかってくれますよね。彼女の気持ちを大事にして欲しいのですけどっ」
 椿も横から口を挟む。
「ミーティナとテミスト兄ちゃんは良い友達つきあいしている。やましいことなんて有りはしない。それに独りぼっちで寂しかった彼女に笑顔が戻った。それで良いと思うんだけど?」
 蒲公英と共に側に来た健太郎が、重ねていった。
「友達か‥‥。普段一緒に暮らせない分、兄貴として、できるだけの事はしてやってたつもりだったんだがなぁ‥‥」
 妙にしんみりした面持ちで、グイっとシャンパンを飲むレドリック。
「たった一人の家族を想う気持ち、きみには分かるはずだ。その度量で包み込んでやれ」
 年長の源次が、人生の先輩として静かに諭した。

「はいはい、せっかくだからみんな笑ってー?」
 最後は椿が持ち込んだカメラにタイマーをセットし、全員で記念撮影。
 無事パーティーはお開きになったのだが――。


「しまった!『妹さんください!』っていわせるの忘れてたーっ!」
 ゴーディッシュ兄妹に別れを告げて自室に帰ってきたヒマリアが、悔しげに叫ぶ。
「だから、それはまだ早いって‥‥」
 半ば呆れ、半ばホッとしたような顔で呟くテミストであった。

<了>