タイトル:新型機開発プロジェクトマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 10 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/01/17 18:18

●オープニング本文


 2008年1月X日、日本――。
 まだ正月気分も抜けきらぬ世間とは裏腹に、銀河重工本社の兵器開発部門は異様なまでの熱気に包まれていた。
「次期主力戦闘機コンペディション」――先の名古屋防衛戦において、バグア軍新型戦闘機「シェイド」の脅威を目の当たりにしたUPCが、各メガコーポレーションに対して、シェイドに対抗しえる次期主力機案を提出するよう要請してきたのだ。
 これに応じて、目下各社では熾烈ともいうべき開発競争が繰り広げられている。
 むろん目的はシェイド対策であるが、そこには現状ドローム社の独り勝ちといってもいい戦闘機市場に殴り込みをかけ、今後の対バグア戦争における自社のイニシアチブを握ろうとする各メガコーポの思惑が錯綜している。
 またライバルは他社だけではない。同じ銀河重工の社内でさえ、現在複数のプロジェクトチームが立ち上げられ、UPCへ提示する新型機の開発プランを激しく競い合っていた。

 ここもまた、そんなチームのひとつ。
 本社ビル内会議室の1室を貸し切り、プロジェクトチームのリーダーがスクリーンに映し出された開発案についてプレゼンテーションを行っていた。
「――以上のとおり、現在この3案が次期戦闘機の開発プランに上がっております」


A案:攻撃力・防御力重視。対シェイド戦で比較的効果を上げた粒子加速砲をさらに改良。破壊力・命中率を高めたうえエネルギーチャージの時間を短縮、速射を可能にする。またメトロニウム合金多用で耐久力も増した重戦闘機。陸戦形態も可能だが、あくまで遠距離からのビーム攻撃を主体とした設計。

B案:電子戦・格闘戦重視。やはり対シェイド戦で効果のあったG型放電管を強化したGX放電管搭載。「強力な電磁パルスを浴びせ、地上に追い落としたところを陸戦で仕留める」というコンセプト。そのため人型形態時の格闘戦性能・武装も大幅にアップさせている。

C案:速度・運動性重視。徹底したCCV設計によりブースト時には飛行型ワームを上回るM9の高速、及び擬似的慣性制御を実現。ただし全てを空戦性能に特化させるため形態変形機能はなし。あくまで空戦でケリをつける「航空決戦機」。


 スクリーンの映像が消え、会議室の照明が再び点灯された。
「この3案をさらに煮詰め、最終的には一本化し次期主力戦闘機候補(XF−08)としてUPCへ提出する予定ですが‥‥」
「ふうむ‥‥どれも一長一短だな」
 恰幅のいい体を高級スーツに包んだ初老の男が、腕組みして感想を述べた。
 未来科学研究所、医療部門主任の蜂ノ瀬教授。今回のプロジェクトに協力すべく、ラスト・ホープから招聘された科学者である。その横には、助手として能力者のサイエンティスト、ナタリア・アルテミエフ(gz0012)も付き添っていた。
「粒子加速砲にせよ放電管にせよ、まだ発展途上の技術だ‥‥一つの武装に特化すれば、それだけ他の性能にしわ寄せがいくのではないかね? それにC案の疑似慣性制御だが、ブースト空戦スタビライザーはドローム社の完全独占技術と聞いているが?」
「ご安心ください。確かにKVじたいはドロームのライセンス生産ですが、今回導入する新技術に関しては全て我が社の独自開発です!」
 まだ30代の若いリーダーは、熱の籠もった視線で答えた。
「今でこそドロームの下請けに甘んじているといえ、我が社とてかつて初のエミタ対応戦闘機『韋駄天』、軽戦闘機として高い評価を得た『ハヤブサ』を世に送り出した実績があります。残念ながら万能戦闘機の導入では遅れを取りましたが‥‥何としても今回の新型機コンペを勝ち取り、いずれはぜひとも純国産機を――かつての飛行機大国、日本の栄光を取り戻して見せます!」

 ◆◆◆

「それにしても‥‥なぜ医学者である私たちが、このプロジェクトに招聘されたのでしょうね? どう考えても畑違いなのに‥‥」
 会議の休憩時間、フロアの喫煙室でコーヒーを飲みながらナタリアが尋ねた。
「フン。表向きは能力者パイロットへの生理的影響について意見を聞きたいという事だが‥‥おおかた、目当ては私が持つ軍上層部へのコネだろうな」
 ハバナ葉巻をくゆらせつつ、蜂ノ瀬が口の端を上げて笑う。
「――ま、そんな甘いモノではないと思うがね。今回のコンペは」
「それで、教授はどうなさるんですか? やはり同じ日本人として‥‥銀河重工のバックアップを?」
「いや、私としては別にどこのメーカーが勝とうが構わんよ。それで研究所(うち)の予算獲得に繋がるならね」
(「相変わらず狸親父だわ‥‥」)
 半ば呆れるナタリアだが、見方を変えればこれ程のしたたかさがあればこそ、非能力者である蜂ノ瀬が研究所内でそれなりの発言力を有していられるのだろう。
「とりあえず銀河側の熱意は判ったが、技術屋は得てして机上の空論に走りがちだ。やはりここは、現場で操縦にあたるパイロットの意見が必要だな」
 蜂ノ瀬は真顔で呟き、葉巻を灰皿でもみ消した。
「あ、あのぉ‥‥まさか、私にテストパイロットをやれと‥‥?」
 恐る恐る尋ねるナタリアを、教授は不思議そうに見返した。
「何をいっとるのかね君は? これは人類の命運がかかった重大なプロジェクトだ。実戦経験豊富な現役パイロットが適任に決まっておろうが。‥‥そうそう。すまんが今すぐULTに電話して、能力者の傭兵を集めるよう依頼してくれ。できればシェイドやワームと実際にやり合ったベテラン連中をな」
(「それじゃ、この前の模擬空戦の苦労はいったい‥‥?」)
 半ば安堵、半ば割り切れない複雑な心境のまま、ナタリアは席を立ち公衆電話のあるロビーへと向かった。

●参加者一覧

三間坂 京(ga0094
24歳・♂・GP
雪野 氷冥(ga0216
20歳・♀・AA
麓みゆり(ga2049
22歳・♀・FT
リヒト・グラオベン(ga2826
21歳・♂・PN
建宮 風音(ga4149
19歳・♀・ST
時雨・奏(ga4779
25歳・♂・PN
守原クリア(ga4864
20歳・♀・JG
佐伯 純(ga5022
26歳・♀・SN
瓜生 巴(ga5119
20歳・♀・DG
リャーン・アンドレセン(ga5248
22歳・♀・ST

●リプレイ本文

●銀河重工本社〜会議室
 10名の能力者たちが入室して各々の席につくと、プロジェクトチームの技術者たちはやや緊張したように背筋を伸ばした。彼らの中には、データではなく本物の能力者と直に会うのは今回が初めて、という社員さえいたからだ。
「ちょっと厳しいことを言いますけど、覚悟してくださいね。私達も命がかかってくるわけですからね。妥協は出来ませんから」
 最初に発言を求めたのは雪野 氷冥(ga0216)だった。
「まずC案から‥‥『影(シェイド)』の陸戦能力は既に確認済みです。その状況で陸戦能力を排除したこの機体は、はっきり言って不要です。主としている空戦でも、『影』に有効な火力が搭載できるのか疑問と言わざるをえません。私達は『影』とレースをしているわけではないんですから」
 いきなりの厳しい指摘に、技術者たちは当惑の色を隠せない。
 その様子を、オブザーバーとして同席している未来科学研究所スタッフのナタリア・アルテミエフ(gz0012)はハラハラした表情で、上司の蜂ノ瀬教授は逆にニヤニヤ笑いながら両者を見比べている。
「A案・B案については、『機体開発』というより『武装開発』ですよね?」
 そこで彼女の提案は――。

・B案「人型重視の格闘機」をベースに運動性能・反応速度の向上
・飛行形態を移動用と割り切る形で変形機構を簡略化
・簡略化した分を含め、メインフレームを強化、耐久性を上げ重格闘・重火器の使用が可能にする
・低下する機動性能を補うために、C案で構想しているスラスター・ブースト機構をユニット化、それを搭載する事で機動性能を確保
・姿勢制御スラスターの増設と擬似的慣性制御用のスタビライザーの応用で、人型での空中での姿勢制御を行う

「確実にダメージを与えるなら、SES搭載の近接武器を叩き込むというのが一番と立証されていますから。C案で構想されているスラスター及びブースト機構なら、空力抵抗を考えていない人型でも音速を超えられるんじゃないかとも思いますしね」

「新型機開発プロジェクトをお手伝いする機会をとても嬉しく思っています」
 麓みゆり(ga2049)が立ち上がり、ペコリと頭を下げた。
「名古屋防衛戦にはR−01で、白兵部隊として参加しました。陸戦場はワームとKVの機動差が縮まるので、格闘戦に持ち込みイニシアティブをとって戦うことが出来ます」
 そう述べた上で、
「私はB案に興味を惹かれました。白兵戦機は敵に肉薄してイニシアティブをとる戦術を必然的にとる為、被撃墜リスクも高くなります。格闘戦性能と武装アップに加えて、機体の基礎能力も底上げすると一層戦い易くなりそうです」
 彼女の私案としては、
「銀河重工さまの技術力を強いインパクトで示す為にも、コストや量産性よりも個々の機体能力を重視して、人型形態のシェイドを仕留められる格闘戦性能を有した高性能機を開発されては如何でしょうか? 格闘戦機にとって最重要課題は、戦場のイニシアティブを握る事と考えています。GX放電管ではなく、近接戦時に敵よりも早く行動する機構『近接格闘アクチュエータ』を提案します」
「これは可能なのかね?」
「そうですね。固定武装をオプション化して、設計を一部見直せば‥‥」
 蜂ノ瀬の質問に、プロジェクトリーダーが答えた。

「新たな兵器開発プランですか‥‥それが、命を預けるのに値するか見定めさせて頂く事にしましょう」
 リヒト・グラオベン(ga2826)は初対面の蜂ノ瀬とナタリアに軽く挨拶してから、銀河の技術者たちに向き直った。
 攻撃力・防御力重視のA案に対しては総重量増加に伴う鈍重化と積載量の縮小を、C案に対しては現在の技術的潮流である空陸万能機の放棄に懸念を抱くリヒトは、私案としてB案の修正を提言した。
「エネルギー兵器使用を前提として、トルク(攻撃)を犠牲にしてジェネレーターの(知覚)改良を重視します。これにより、例を挙げるなら遠で搭載したGX放電、中でレーザー砲、近でビームアクスというように『非物理攻撃』を専門とした機体となり次期主力兵器の性能を十二分に発揮出来るのではないでしょうか?」

 建宮 風音(ga4149)が推したのは空戦専用機のC案だった。
 地球上がまだ主戦場である以上「空域を制するものが戦場を制する」という思想に変わりない、という理由からである。
「前回の名古屋では、数の力とちょっとした工夫でなんとかなったけど、敵さんも必ず、手を打ってくるはず。だから、その為にも空で互角に渡り合える機体が必要なの。A・B案共に魅力的では在るけど‥‥でも機体の基本的能力がしっかりしていれば、その機体は長く愛用されると思うし。そこから改良や発展が利くしね。武装は次々と新しい兵器が開発されていくから、換装できるシステムを搭載してればね」
 また整備士技師の立場から、
「変形機構の導入が現場泣かせかな? ただでさえ飛行機は各部の疲労が激しいのに、それに加えて変形の繰り返し、さらに瞬間加重の激しい格闘を続けば機体の耐用年数は短くなるよ。だから変形を外して、その分を推力上昇や急旋回に耐え得るフレームや主機を持った機体が待ち遠しいかな」
 さらに補足の提案として、
「分離合体の出来る機体って作れないかな? 所謂、分離する前は重戦闘機で分離後は支援戦闘機と陸戦格闘機という風な感じにね。機体は仕様から複座型になるけど‥‥変形機構を双方共に外した機構だから、役割をはっきり分けた特化型の機体が運用できると思う‥‥小型にする必要があるけど」
「合体ロボですか‥‥個人的には実に魅力的ですが、現在の技術ではまだちょっと難しいですねえ」
 技術者の一人が、ひどく口惜しそうにいった。

「実際シェイドと当たった際の私見だが、ベースとして考えるならB案だな」
 名古屋防衛戦の経験者、三間坂京(ga0094)がいう。
「撃墜出来なかった場合を想定・重視した追撃戦に強い機体との連携が取れるのは、操る側にとっては心強いんだが。空戦スタイルは撹乱や援護等の補佐的役割に留め、本領を発揮する主戦場は陸上というコンセプトで。実戦では各社機体が混在する訳だしな‥‥器用に隙間を埋められるタイプというのも国産機らしいな、と」
 わずかに考え込み、
「表現し辛いが‥‥出撃の段階から行動を共に出来る陸戦機‥‥? 現行のKVに比べ若干小型な機体にする事で、複雑な陸上地形に適応可能な機動性を持たせ。白兵重視を前提とした小型機の欠点になりうる防御性能は、装甲を厚くする事で機動性と両立。同時に、索敵やKVに搭乗したままでの準備・復旧作業等への対応能力も拡張する事が出来るんじゃないか?」
 GX放電管等、単体での開発状況も影響する特殊機能は前提装備として盛り込まず。以降のオプション兵装としてバリエーションを増やし、使用者・作戦単位での拡張性――いわばユーザーニーズに応えられるだけの幅を特色のひとつにできないか? というのが坂京の意見だった。
「‥‥まあ、紙一重で汎用機化しそうだが‥‥有る意味万能機とも解釈出来ない事もない。初期購入費用が安く抑えられる分、装備に自由度が出るというか‥‥」

「わしはA案とB案を推して非物理系の兵器を用いた機体開発を推す」
 独自の折衷案を提言したのは時雨・奏(ga4779)だった。
「せっかくの新兵器でも、シェイドの機動性に対抗できんと話にならん。そこで装備力、命中を高めた機体が欲しい‥‥つまり砲撃支援KVの開発てとこや」
 ここで彼が出したのは驚くべき提案だった。
「KVの変形も人型やなくて獣型4足で機体を支えるようにし、機動力と装備力の向上、巨大な砲門を安定して使えるようにしたい」
 技術者のある者は呆気にとられ、またある者は慌てて熱心にメモを取り始める。
「既存の兵器が一部、持てなくなるやろうけど砲撃戦が主体やし、獣ならではの格闘戦つー方向で改良余地はあると思う。それに他社と同じ物作ってもしょうがないやろ? 機体の特殊能力はより新型兵器を有効に使えるよう命中率上昇、威力向上のために知覚上昇がええ」
 なおシェイドに関しては、
「粒子加速砲やらG型放電管のみ効果あったつーことは、対物理に特化して作られたのとちゃうか?」
 実際、非物理攻撃兵器が出回ってきたのは最近である。シェイドが初めて現れた東京防衛戦の当時は、殆どが物理的な攻撃兵器で占められていた。
「変形能力とか見ても、こちらの戦力や兵器を意識しとる可能性は充分あるで。シェイドは『対地球人』に特化して作られたんとちゃうか?」
「確かにな。あの科学者の演説とは裏腹に、バグアは我々を研究し、模倣しつつある‥‥」
 蜂ノ瀬が独り言のように呟いた。
「知覚関係の武器やパーツやけど市場では他社もまだ開拓途中や。格闘兵器ではビームコーティングアクスが最近出たくらいやで? 非物理系の格闘兵器やKVの知覚を増すパーツは全く売ってへん。他社に先んじてイニシアチブを握れるチャンスはあるんちゃうかな」
 そういって、奏は持論を締めくくった。

「新型機かあ‥‥強い機体、凄い機体、てのも嬉しいけど、実際使う身としては思うとおりに動いて壊れにくい、信頼性の高さを、忘れないでほしいな」
 クリア・サーレク(ga4864)が推したのはB案だった。
「今までの機体はみんな、『飛行機が人型も取れる』程度で、人型格闘戦に主眼を置いたのは無かったと思うし。ファイターとかグラップラーとか、格闘を得意とする能力者は多いのにね。スナイパーのボクも、もっと人型が柔軟に動いて狙撃態勢や障害物遮蔽を取れると嬉しいしね。あ、ナタリアさん?」
「はい?」
 急に指名されたナタリアが、驚いて顔を上げる。
「お医者さんなら、人の体に詳しいよね。骨格とか関節とか、そういう構造ってナイトフォーゲルに流用できないのかな?」
「それはまあ‥‥ロボットの原点は人体の模倣ですから」
「せっかく人型が取れるのに、武器を構えて車輪で突撃をかけるだけ、てのももったいないと思うし、もっと人間の体のように動かせれれば良いのに。どうせなら、ジャパンのアニメみたいにカッコイイ人型ロボットに乗って見たいと思うしね」
 またGX放電管に対する代案として、クリアは電撃を格闘武器から放電し、ワームを内部から破壊する新兵器を提唱した。

 元米軍パイロットの佐伯 純(ga5022)はC案を主張した。
「更に超高速で機動する為に有視界戦闘の意義が薄れていく。故にコックピットの風防自体を装甲し、視野は全天候型スクリーン、もしくはヘッドディスプレイ化し、機外の視界はレーダーと光学センサーで補う。また、機体の飛行・武器管制の複雑化、敵機の常軌を逸した戦闘機動の察知の必要性を鑑み、複座化する。戦闘中のスクリーンの故障のような緊急時は装甲化した風防を爆砕し、視界を確保することはできないかしら?」
「あ、それ素敵ですわね‥‥」
 飛行機恐怖症のナタリアが瞳を輝かせて呟くが、「公私混同はいかんよ、君」と上司に窘められる。
「また、電子兵器の強化に伴い、機体のガワの大型化、電子機器を壁面から距離を置くと同時にモジュール化し、防御力を強化する。更に全翼化で超高速巡航時の機体の安定化を図る。シェイドに対抗する電子兵器、粒子加速機は、それら装備の後付けを前提として設計すべきではないかと思う。特定の機体でしか運用出来ない兵装じゃ、作る意味がないわ」
 シェイドに限定し、新たな脅威が現れて、その度に一から機体を開発し直すのは開発する側にも運用する側にも負担が大き過ぎる――というのが彼女の懸念だった。
「それに、私達消費者はお金持ちじゃないし。変形機構は機体の拡張性を潰してしまう。
それならいっそ、戦闘機に戻るべきなんじゃないかな?」

「先の戦闘で効果があったといって新兵器固定が採用されるほど、本部も性急ではないでしょう」
 瓜生 巴(ga5119)はA・B両案の目玉であった新兵器搭載について批判を述べた。
「放電管はシェイドに効果があったようですが、次は対策されます。相手にはあんなにシェイドを自慢していたブライトン博士がいるんですから、お大事のシェイドに傷付けた武器をほっておくもんですか?」
 その上で彼女が提案したのは、奏と同じく4足歩行タイプの機体だった。
「人型は体躯に見合った威力が出せないので、四足型にしては? 体当りに近い攻撃になり、躯体の柔性・剛性を高める必要がありますが、その技術は将来的にも活用できます。四足技術は戦争前から培われています。基本的に歩行器官というより格闘時のジャッキみたいなものですし。武装は機体に半固定する形で、持替えの必要はありません」

「名古屋防衛戦以降、個人的に着想していた新型KV案が少しはお役に立つかな? まぁ、単なる趣味として考えていただけなのだが‥‥」
 最後にリャーン・アンドレセン(ga5248)が席を立って発言した。
「私はB案を推させて貰おうか。理由の一つは、空戦においてはバグア軍に一日の長がある事。二つ目は、現状のKV用武器で最もシェイドに対しての威力が期待出来るのが『試作剣雪村』である事。以上の理由から、先ずは空戦でシェイドを叩き落してから、地上での格闘戦に持ち込むのが妥当と思われる。もっとも『雪村』以上の武器が開発されるのなら、また話は違ってくるが‥‥」
 GX放電管については、G型の強化版とはいえやはり威力に不安が残る。
 彼女としてはむしろ「雪村」完成版に期待を寄せていた。
「『試作剣』と言うからには、そろそろ完成版を拝みたい所ではある」
 そういって、自ら作成した詳細なプランを別途提出した。

 一通り能力者側の意見が出そろった所で、今度は銀河の技術陣も交えて再度の意見交換。
 風音や純のように空戦専用機を推す声もあったが、やはり大方の意見としてはB案の挌闘戦重視機に対する支持する声が多く、また搭載武装に関しては外付けのオプションとすることで、より機体性能のベースアップを追求する方針で固まった。
 また陸戦形態については、一部の技術者たちが奏と巴の提案した4足歩行タイプに注目し、人型形態とは別に改めて2本建てのプランとして試作機を設計、UPCに提案――という形でまとまった。
 試作機の愛称についても能力者側から様々な案が寄せられたが、その結果人型にはXF−08A「ミカガミ」、4足形にはX−08B「阿修羅」の名が与えられた。

「やはり彼らを呼んで正解だったろう? さて、どんな機体がお目見えするか‥‥実に楽しみだよ」
 会議の終了後、議事録を読み返しながら嬉々としていう蜂ノ瀬教授の表情は、さながらラジコン飛行機をいじる少年のようでもある。
 ナタリアは普段無理難題ばかり押しつけてくる傲岸な上司の、意外な一面を見るような思いだった。

<了>