タイトル:シーサーペント狩りマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/03/24 22:33

●オープニング本文


「ふっふっふ。ついに届いたか‥‥」
 ラスト・ホープの港に停泊する空母「サラスワティ」甲板上。
 クレーンで積み込まれる新型機の機体を眺めつつ、プリネア王女にして艦長のラクスミ・ファラーム(gz0031)は満面の笑みを浮かべた。
 カプロイア社が開発した世界初の水中戦用KV「KF−14」。
 青と白で鮮やかにカラーリングされたスマートな戦闘機形態は、どことなく巨大な水上ジェットスキーをイメージさせる。KVといっても空は飛べないので、いわば水陸両用の「可変潜航艇」と呼ぶべきかもしれない。
 それでも今までのKVには水中の敵を直接攻撃する兵装がなかったことを思えば、射程の短い自艦のアスロック以外に有効な対潜兵器を持たない「サラスワティ」にとっては念願の機体であった。
「先だっての船団護衛任務は苦労させられたからのう。これでもう、水中キメラどもに好き勝手はさせぬ」
「しかし、よく手に入りましたなあ。非量産機、しかも各国海軍から引き合いが殺到して、納期は数ヶ月待ちと聞いておりましたが」
 王女の傍らで、副官のシンハ中佐が髭を撫でつつ感心したように呟く。
「そこはそれ、王室外交というやつでな。兄上はあそこの伯爵家とも懇意じゃし、何とか交渉して3機だけ確保してもらった」
 彼女が「兄上」と呼ぶのはプリネア皇太子で事実上の次期国王、クリシュナである。
 自身が能力者のサイエンティストであり、その天才的な政治手腕と対バグア戦争により高騰した石油資源を武器に、小国プリネアをASEAN連合の主要国にまで押し上げた若き国家指導者。ラクスミにとって頭の上がらぬ数少ない身内だが、ともあれ今回はその兄にねだり、カプロイア社へ直接口を利いてもらったのだ。
「ところでパイロットの方は如何なさいますか?」
「そうじゃなあ‥‥」
 ラクスミはシンハの方をチラっと見やり、
「‥‥そなた、確か能力者のファイターじゃったの?」
「は? ‥‥い、いえ滅相もない! 自分は根っからの船乗りでして、戦闘機の操縦などとても――」
「じゃろうなあ」
 実際にはエミタAIのサポートがあるので、シンハ中佐でもその気になれば短期間の訓練で乗りこなすことはできるだろうが、「サラスワティ」副長であり日常の煩雑な艦内業務を担う中佐に艦を離れられては、何よりラクスミ自身が困る。
「わぁーっ! 新型機アル!」
「KF−14だ! すごい、ほんとに買ったんですね?」
 デッキ上で遊んでいた幼い双子、李・海花(リー・ハイファ)と李・海狼(リー・ハイラン)の2人が歓声を上げて駆け寄ってきた。
「海花たちが乗るアルね? パンダのエンブレム付けてもいいアルか?」
「なら、ぼくはクマさんの絵がいいなっ」
「たわけ! おまえたちには岩龍パイロットの任務があろうがっ」
 ラクスミは飛び上がって喜ぶ双子を一喝した。
 まあ能力者とはいえ、まだ7つの李兄妹を直接危険な戦闘に参加させたくない、という本音もあったが。
「ふむ。誰を乗せるかのう‥‥」
 ラクスミが腕組みして考え込んだとき。
「おーじょっさまーっ!」
 デッキのエレベータからやたら元気な声が響き、タンクトップとホットパンツというラフな服装に身を包んだボーイッシュな少女が手を振りながらやってきた。
 UPC軍曹、チェラル・ウィリン(gz0027)である。
「何じゃ、チェラル軍曹か‥‥また食堂のアイスでも食べに来たのか?」
「今日はお仕事だよ。軍からの依頼でねー、日本近海で暴れるシーサーペントを掃討して欲しいんだってさ」
 UPCからの依頼状をヒラヒラさせながら、チェラルがいう。
 それからデッキ上の新型機に目を留め、
「あれ、KF−14! もう買っちゃったの?」
「ふっ。まあな」
「あ〜あ。別に買うことなかったのに。もう傭兵で持ってる人いるよ?」
「‥‥何じゃと?」
「これね、今ラスト・ホープで開いてるカジノの目玉景品なの。ボクもお仕事でディーラーやってるんだよ? エヘヘ」
「‥‥」
 ラクスミは呆気にとられてチェラルの顔を見つめた。
 最近、島の中に公営カジノが開かれたという噂は聞いていた。
 ――が、まさか戦闘機が景品になっていようとは。
「早まったか‥‥」
「ま、いーじゃない☆ 持ってない人にリースして使えばいいんだから」
 そういってウィンクするチェラル。
「しかし‥‥大丈夫かのう? 自分の機体でもないのに」
「心配ないよ。何でも操縦系統は殆ど同じらしいから、KV搭乗経験のある傭兵ならすぐ乗りこなせるよ、きっと」
 そういいながら甲板上のKF−14に近づき、チェラルはまだ保護用のビニールシートを被せたままの操縦席にちゃっかり乗り込んだ。
「わぁ〜、ボクもこれ、一度乗ってみたかったんだ♪ ‥‥そうだ! せっかくだから、これ使ってシーサーペント退治に行こうよ?」

●参加者一覧

緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
鷹見 仁(ga0232
17歳・♂・FT
緋霧 絢(ga3668
19歳・♀・SN
アイリス(ga3942
18歳・♀・JG
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
ミハイル・チーグルスキ(ga4629
44歳・♂・BM
時雨・奏(ga4779
25歳・♂・PN
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM

●リプレイ本文

「王女〜もうちょい待てば、ショップにも汎用水中用KV並ぶやろうし、こんなオーダーメイド機、艦載機には向かんのとちゃうか〜?」
 甲板上に並ぶ3機のKF−14を眺め、時雨・奏(ga4779)が歯に衣着せぬ口調でいった。
「下手に壊れたら、替えの部品揃わないのと違う? 海のど真ん中で」
 彼の言葉にも一理ある。実は「サラスワティ」がKF−14を配備して間もなく、ULTより量産型水中用KV・W−01の近日配備が公表されたのだ。
「つい焦って買った。水中機なら何でもよかった。今は‥‥少し後悔しておる」
 ガラガラ声で答えるラクスミ・ファラーム(gz0031)の顔は、鼻から下が大きな白マスクですっぽり覆われていた。
 もう春も近いというのに風邪をひいてしまったのだ。
 さらにW−01配備の一件が追い打ちをかけ、本日の王女殿下は体調も機嫌も最悪であった。
「アイリスは、水中機がショップに並ぶまで我慢するですよ〜」
 無邪気に笑うアイリス(ga3942)の声に、王女の肩がグラリと傾く。
「あ、よろしければ、これどうぞ‥‥艦の皆さんにも」
 緋霧 絢(ga3668)は自身が所属する傭兵アイドルグループのCDとプロモーションDVDを、手土産としてクルーへの分もまとめて王女へ渡した。
「ほう‥‥最近の傭兵は色々と手広くやっておるのう。今回は他にも現役アイドルの傭兵が来ていると聞いたが‥‥ゴホゴホッ!」
「あ、殿下! お気を確かに!」
 高熱で意識が遠のき、フラっと倒れそうになるラクスミを、背後に控えた副長のシンハ中佐が慌てて支えた。
「‥‥やはり、わらわは無理じゃ‥‥後のことは、チェラル軍曹に任せる‥‥」
 掠れた声で呟くと、中佐の肩を借り、そのまま艦橋内の私室へと引上げていく。
 途中、誰かを捜すように艦上を見回す鷹見 仁(ga0232)とすれ違ったが、お互いに全く気がつかなかった。

「今回の作戦はKF−14の評価試験を兼ね、シーサーペントの殲滅作戦だ。KF−14がシーサーペントと戦う間、他の者は同じく試作魚雷を使っての牽制、支援、来るかもしれない飛行型キメラの迎撃を担当。これで間違いないですね?」
 後を引き継ぐ形になったUPC軍曹チェラル・ウィリン(gz0027)、そして同行の傭兵達に向かい、緑川 安則(ga0157)が改めて確認する。
「そーだよ。依頼内容は海蛇キメラの退治だけどね」
 立ち去った王女とは対照的に、あっけらかんとした口調で答えるチェラル。
「水中用KVの実戦記録ってまだ殆どないし、この機会にUPCもデータが欲しいんだってさ」
 実はKF−14を含め、水中戦用KVの運用には重大な問題点があった。
 搭載する水中用兵器が、まだないのである。
 UPC側の発表によれば、既存のSES兵器を水深5m以下の水中で使用した場合、その射程と威力はおよそ10%に減衰してしまう。これはSESが必要とする水素を供給するためのエアインテークが水中では正常作動しないという理由によるものである。
 ちなみに「サラスワティ」搭載のアスロックは弾体に水素ボンベを内蔵することでこの問題をクリアしているが、これは大型の艦載兵器だから可能な事で、現在KVにも搭載できるコンパクトな水中用SES兵器を各社が競って開発中である。
 一応既存のKV兵器も搭載可能とはいえ、水中用KVであるKF−14に肝心の水中用兵器が積めなければ話にならない。
 というわけで、今回はカプロイア社から提供された試作魚雷を使用する事となっていた。これはKF−14はもちろん既存KVに搭載して航空魚雷としても使用できる優れものだが、製造コストが高くつくためUPCの正式採用は微妙、とのことだった。
「基本は同じらしいけど、水中なんて初めてだから‥‥やってやりすぎることはないよね」
 戦闘海域へ向かう間の時間を利用して、明星 那由他(ga4081)は操縦系統のチェックを入念に行った。
「そういえば‥‥これって、発着艦はどうするんだろ‥‥?」
「艦尾部のウェル・ドックから発進させます。本来は、揚陸用のホバークラフトなんかを出入りさせる場所なんですけどね」
 那由他の疑問に、整備を手伝うデッキクルーの1人が答える。
 整備点検を終えた3機のKF−14は、奏と絢が所有する2機と共にエレベータで艦尾方向の格納庫へと降ろされていった。なお今回は初の実戦テストという事もあり、自機持ち込みの2名に対しては王女から特別手当が出る事になっていた。

「空母とは豪勢だね。さすがに乗ったことはないので、脚本の参考にでもさせてもらうよ」
 今回が「サラスワティ」初搭乗となるミハイル・チーグルスキ(ga4629)が、チェラルに話しかけた。
「‥‥ときに軍曹、マリアという傭兵の少女を知っているかね?」
「ああ、あのカメルで保護されたっていう女の子‥‥」
「実は彼女、経済的に何かと困っているようでね‥‥よければ、君から口を利いて貰えないかな? 王女の護衛役か何かという事で」
 そういうミハイルの胸ポケットを、出発前にマリアがバイトしている花屋で買ってきた一輪の薔薇が飾っている。かつてカメルで刃を交えた彼が客として訪れた時、元DF隊員の少女はひどく驚いたものだ。
「う〜ん、どうかなぁ? この艦の人事はプリネア海軍の管轄だし、ボクが口出しできる問題じゃ‥‥」
「さて、この写真は誰が撮ったものだろうね?」
 ポーカーの駆け引きのごとく不敵な笑いを浮かべ、一枚の写真を懐から出すミハイル。
 それを見たチェラルの顔から血の気が引いた。
「何だよ、それ‥‥!?」
「お姫様宛とかに送っても構わないのだけれどね」
「ワーッ、ちょっと待って! 判ったよ、マリア君の事は、王女様に話しておくから!」
「ふっ‥‥契約成立、かな」
 その瞬間、ミハイルの手元にあった写真が魔法のごとく消え失せた。
「!?」
「というワケで、この写真は没収ぅー!」
 瞬時に覚醒し、瞬天速で奪い取った写真をヒラヒラさせつつ、ペロっと舌を出すチェラル。
「約束は守るよ? でもこんな悪い使い方をするキミに、ボクの写真はあーげないっと」
 呆気にとられるミハイルの目の前で、チェラルは己の恥ずかしい昼寝姿を隠し撮りした写真を細かく破り捨てた。

「ホントにもうっ、誰がバラまいたんだよ? あんな写真‥‥」
 腕組みしてぼやくチェラルに、勇姫 凛(ga5063)がおずおず近づいた。
「チェラル、今回もよろしく‥‥」
「あ、今回も一緒だね凜君。こっちこそヨロシクっ!」
「えーとこれ、この前のチョコのお礼‥‥Wデー過ぎちゃったけど」
 そういいながら、コーヒーと紅茶味の手作りクッキーを可愛いラッピングに入れて差し出す。実は絆創膏だらけの手を、彼女に見られないよう慌てて引っ込めた。
「うわ〜、ありがと! 気が利くね、キミ♪」
「‥‥その、この仕事終わったら、今日暇?」
「? 暇っていえば、暇だけど‥‥」
「凛、この後オフだから、約束してた美味しい鰻屋さん案内できるんだけど‥‥あっ、でも別に、変な意味じゃないんだからなっ」
「鰻!? わぁ、行く行くっ!」
 金色の丸い瞳を輝かせ、チェラルは子供のように喜んだ。
「そういえば、シーサーペントって鰻に似てるよねえ。‥‥やっぱり、蒲焼きにしたら旨いのかな?」

 やがて現場海域に到着した「サラスワティ」は、自艦のレーダー、ソナーで周辺を警戒しつつ傭兵達のKVを発進させた。
 安則、アイリスは自機、ミハイルは空母から借りた岩龍に搭乗。各々兵装の空きスロットルに魚雷を装備し飛行甲板より発艦、雷撃戦のテストと共に空からの敵襲に備える。
 またKF−14に搭乗するのは仁、絢、那由他、奏、凛の5名。水中班は3機ずつのローテーションを組む形で、艦尾ウェル・ドックに開かれたハッチから滑り落ちる様にして次々と海上に降下して行った。
 第1ローテは仁、絢、那由他。海面下30mほどに潜ったKF−14は、空母を中心にトライアングル状に展開した。
 各機のコンピュータには、以前の船団護衛任務の際に録音されたシーサーペントの鳴き声が登録されている。
『相手も水中で襲われた時の対処なんてほとんどプログラムされてへんやろ。戸惑ってるうちに、みんなで囲んだり砂にしたり〜』
 母艦で待機する奏よりアドバイスの通信が入る。
 索敵を開始し30分もしないうち、KVのソナーが深海から浮上してくる怪しい影を捉えた。大きさは5m前後、そしてその音声は登録されたキメラの鳴き声と一致。
 大型船のスクリュー音を聞きつけたシーサーペントが、攻撃のため浮上してきたのだ。
 さして知能の高くない彼らに輸送船と軍艦の区別などつかない。ただ人類側の船と見れば、浮上して見境なく体当たりしてくるだけだ。
 空母とのデータリンクを介して上空班にも敵襲を伝えた3機のKF−14はすぐには攻撃せず、まず囮となってキメラを海面近くまでおびき寄せた。いざとなったら上空班と協同で叩くためである。
 充分引きつけてから、まず仁・那由他の両機が魚雷を発射。白い泡の航跡を引いて走った2発のホーミング魚雷はほぼ正確に命中、これで敵キメラにかなりのダメージを与えた。
 次いで絢機が前面に出る。
 通常のKV用兵器は水中では90%威力を失うのだが、彼女はあえて自機に装備したソードウィングによる近接攻撃を試みた。
「計算上、魚雷とは見劣りしない程度のダメージは期待できるはずですが‥‥」
 機体改造により大幅に攻撃力を向上させた彼女のソードウィングならば、水中での威力減衰を考慮してもほぼ魚雷と同等の攻撃力となる。
 速度を上げてすれ違いざまの一撃。それなりのダメージは与えたものの、カウンターで冷気ブレスの反撃を受けてしまった。幸い機体の損傷は軽微であったが。
 息絶え絶えとなった海蛇キメラに対し、結局仁と那由他が再度魚雷攻撃を浴びせてとどめを刺す。バラバラになったキメラの死骸はそのまま海底深くへ沈んでいった。

 続く第2ローテは絢、那由他、奏。この1時間は特にキメラの姿は見えず、彼らはテストがてら付近の海上や海中を遊弋した。
「あともう少ししたら、もっと荒く派手にやるんや、ちょっと練習させい」
 水中に慣れるため、上昇下降とアクロバティックに動かしてみる奏。
「なんかこう、スピードというか爽快感が無いのう〜」

 第3ローテで絢に代わり凜が入った直後、再びKF−14のソナーが敵影を捉えた。
 今度は2匹。
 シーサーペントの直進速度はともかく左右への回避力は極端に低い事、さらに大幅に改造した絢のソードウィングでさえ水中での効果は試作魚雷と殆ど変わらなかった事を考えれば、もはや危険を冒して近接戦闘を挑む必要もない。
「この後チェラルとディナーの約束なんだ、お前なんかにやられるわけにはいかないんだからなっ!」
 凜を始め傭兵達は容赦なく魚雷を撃ち込み、まず1匹を撃破。
 残る1匹は「上空班にも華を持たしたるか」という奏の提案により、下方に回り込み魚雷掃射により海上へと追い上げた。

『招かねざる客が来たようだね。すまないが回ってくれないか?』
 岩龍に搭乗したミハイルが、ECCMを行いつつ安則、アイリスの両機へ連絡する。
 偵察機のレーダーにより海上のキメラ、そして仲間のKF−14の動きを見つつチェスのごとく指示を下した。
『敵シーサーペント確認、制空権を確保し、支援雷撃を行う。KF−14隊は連携し、敵シーサーペントを撃破されたし』
 安則も水中班に通信を送る。
 上空に飛行キメラやヘルメットワームの姿がない事を確認後、安則機、アイリス機、そしてミハイルの岩龍が続く形でギリギリまで速度と高度を落とす。
「魚雷がシーサーペントを飛び越えて、味方のKVに当たったりしたら大変ですからね〜」
 3機のKVが続けざまに魚雷投下。全弾命中するも、大海蛇は意外にしぶとく、浅い海中で苦しげにのたうち回っている。
 水中班が第2波の雷撃を浴びせ、ようやく息の根を止めた。
 その後の2時間ほどでさらに2匹のシーサーペントを撃破し、傭兵達は無事キメラ掃討の任務を完了した。

 戦闘自体はほぼ一方的な勝利である。
 しかし将来さらに強力な水中キメラ、あるいは水中戦型ワームが出現する可能性を思えば、多くの課題を残す実戦テストではあった。
「現状ではやはり魚雷が必要ですね。開発を進めるよう姫様から外交ルートを通じて後押しをお願いできませんか? 武器が1つ増えることにより戦術の幅が広がりますから」
「この魚雷が例外的な武装だとしても、空対潜武器は有った方が良いと思うですよ。皆が水中用機体を持っている訳じゃないですし、水中の敵に対して現状無力すぎるです」
 安則とアイリスが王女代理のチェラルに訴える一方で、絢は早くもL・H帰還後ULTに提出する報告書の内容をまとめていた。

 同じ頃、那由他は空いた3機のKF−14を借り、自分が同行して今回は出番のなかった李・海狼と李・海花の双子と共に水中操縦の訓練を行っていた。
「いざというとき艦に常駐している2人も動かせた方が‥‥」というのが表向きの理由だが、本音をいえば幼い兄姉に海中の光景を見せてやりたかったのだ。
(「サラスワティは娯楽施設が揃ってるけど‥‥それでも‥‥小さな二人にはずっと中じゃ気が詰まるだろうから‥‥」)

「ふぅ。何だか相手が弱くて、物足りない戦闘だったな‥‥」
 艦内の自販機で買った缶コーヒーを飲みつつ仁が一息入れていると、廊下の向こうからパジャマにガウンを羽織った、見覚えのある少女がフラフラ歩いてきた。
「喉が渇いた‥‥うぅ、なぜこんな時に限って側付きの者がおらぬのじゃ‥‥」
 何やらブツブツいいながら、仁の前にある自販機でジュースを買う。
「よっ、元気だったか?」
 同じ空母の中で何度か会った「彼女」に、仁はちょっと照れたように笑って声をかけた。
「うー? ああ、そなたか‥‥」
 少女は熱に潤んだ瞳で、仁の方へ振り向いた。
「見ての通りじゃ‥‥あ、近寄らぬ方がよいぞ。風邪がうつる」
「そりゃ大変だなあ。そういや王女様も風邪とか聞いたけど‥‥流行ってるのか?」
「まあな‥‥そなたも、気をつけるがよい」
「今回も会えなかったよ。あいかわらず王女様はどこにいるんだろうな」
「‥‥そのうち会えるじゃろ‥‥いや、案外、もう会ってるかもしれんぞ?」
 悪戯めいた微笑を浮かべていうと、少女は缶ジュースを手にしたまま、ふらつく足取りで再び廊下の奥へと去っていった。

<了>
※本リプレイは3/24変更以前の旧水中戦ルールに基づき執筆されたものです。ご了承ください。