タイトル:ハヤブサ改造プランマスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/04/25 19:21

●オープニング本文


●銀河重工本社ビル〜応接間
「『雷電』試作機の製造が暫く先送りになったそうだね」
「ええ。何しろシミュレータ試験が一通り終わっていよいよ実機製造、という矢先にMSIとメルス・メスから新型機発売ですからねえ‥‥見事に先を越されましたよ」
 蜂ノ瀬教授の言葉に、「雷電」開発プロジェクトのリーダーを務める銀河重工の技術主任は頭を掻いて苦笑した。
「おまけに、先日のバーチャル戦闘でも色々と問題点が指摘されましたからね‥‥上からの指示もあって、改めて設計見直しですよ」
「で? わざわざ仕事のグチをこぼすために、我々をラスト・ホープから呼び寄せたわけでもあるまい」
 愛用の葉巻に火を付けながら、蜂ノ瀬が尋ねる。
 その隣には、例によって助手を務めるナタリア・アルテミエフ(gz0012)も同席していた。
「いやもちろんです。実は『雷電』プロジェクトが延期になった間、UPCさんからこんな依頼を受けましてね」
『既存機体強化計画』――主任が2人に渡した書類の表紙には、UPCのエンブレムと共にそんなタイトルが印刷されていた。

 日ごと激しさを増す対バグア戦争のさなか、メガコーポ各社はUPCからの要請に応じて様々な新型KVを開発、リリースしている。
 だがその中にはリリースを急ぎすぎた余り、実戦配備後に欠陥が指摘されたKVも少なくない。ただしその都度設計段階から見直すには時間的にも予算的にも限界があるため、とりあえずそうした機体の問題箇所のみを改善し、短期間にKV戦力全体のレベルアップを目指そう、というのが計画の趣旨である。

「なるほど。で、銀河さんの場合はそれがG−43‥‥ハヤブサというわけか」
「左様です」
 かつてエミタ対応戦闘機の黎明期、銀河重工が開発し「軽戦闘機の傑作」と謳われたハヤブサという名機があった。
 その後ナイトフォーゲルに代表される変形機構を持つ万能戦闘機が実戦の主流となったが、同様の変形機構を採用し、さらにバグア軍のワームに対抗しうる運動性を有する高性能戦闘機としてリリースされたのがG−43、すなわち2代目ハヤブサである。
 その運動性能は一部のパイロットから強い支持を受けているものの、反面「防御が脆い」「不慣れな搭乗者では真っ直ぐ飛ばすのも難しい」とクレームも多く、同様に運動性を重視した他社のナイチンゲール等に比べてお世辞にも売れているとは言い難い。
 ことに批判を浴びたのは機体特殊能力の「翼面超伝導流体摩擦装置」。
 主翼や機体表面の摩擦係数を電磁的な技術で変化させ、いわば擬似的慣性制御を目指した機構であるが、パイロットの肉体にかかる負荷には相当なものがあり、一般人パイロットに比べれば超人的な体力を有する能力者でさえ50%の確率で制御困難に陥るという厄介な問題があった。
「とはいえ、ようやく生産ラインも整い販売価格も大幅に下げられた事ですし‥‥今回は、まずこの翼面超伝導装置から改善し、もっと実用的なレベルに引上げたいかと」
 ナタリアが書類のページを捲ると、今回の改造にあたっての具体的改善プランが列記されていた。

○翼面超伝導流体摩擦装置(現状)
 主翼や機体表面の摩擦係数を電磁的な技術で変化させる特殊装置。抵抗の増減により、ジェット噴流の噴射や制御翼の機能に加えて、機体に制動をかけることができる。
 1ターンの間、命中と回避に+50の修正を受ける。
 制動はある意味殺人的であり、50%の可能性で制御困難となり、1ターンの間回避不能となる。

改善案A:効果アップ
 命中・回避に+80の修正を可能とする。ただし確率50%で回避不能となるのは同じ。

改善案B:成功率アップ
 回避不能なしで成功する確率を70%まで上げ安全性を高める。ただし命中・回避は+50%修正のまま。

「あら? 翼面超伝導装置の欠陥は、『雷電』で改善されたんではないですの?」
「いえ、あれは『雷電』の大容量キャパシティがあるから可能になった事でして‥‥」
 現在のハヤブサに「雷電」と同じ超伝導装置を搭載すると、機体重量がかさんで最大のメリットである運動性能がガタ落ちになる――というのが技術主任の弁明だった。
「要するに、ハヤブサの軽量や運動性を維持したまま特殊能力を改善しようとすると、現在の技術レベルではこれが限界ということか‥‥で、銀河さんとしてはどちらの案でいくつもりかね?」
「ええ。ですから、先生方のお口添えで前回のように能力者のパイロットさんを紹介して頂いて‥‥改善案AとB、両タイプの試作機で模擬空戦を行って頂き、意見を伺った上で決めようかと」
「‥‥まあいいだろう。シェイドやステアー、それに今後さらに強化されたワームが出現する可能性を思えば、高運動性を持った機体は必要だからな。‥‥ナタリア君、すまんが早速ULTに連絡を取ってくれたまえ」

●参加者一覧

ゲック・W・カーン(ga0078
30歳・♂・GP
桜崎・正人(ga0100
28歳・♂・JG
緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
八重樫 かなめ(ga3045
16歳・♀・GP
明星 那由他(ga4081
11歳・♂・ER
鷹崎 空音(ga7068
17歳・♀・GP
榊 刑部(ga7524
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

「‥‥さて、と。あまりにもジャジャ馬過ぎて、カタログデータ見ただけて速攻パスした機体がどれだけ改良されたか‥‥まぁ、楽しみではあるわな」
 実機としては初乗りとなるG−43ハヤブサ(改良試作機)の操縦桿を握り、ゲック・W・カーン(ga0078)は不敵な笑いを浮かべた。
「不慣れな搭乗者では真っ直ぐ飛ばす事すら難しい」とさえいわれるハヤブサだが、ゲックも含め今回の評価試験に参加する傭兵8名は予めバーチャルシステムにより1週間に及ぶシミュレータ訓練を積んでいるので、さすがに普通に飛行しているだけでコントロールを失う危険は皆無である。
 とはいえ、能力者がエミタAIのサポートを借りて通常のナイトフォーゲルを乗りこなす難易度が一般的に「自転車を走らせながら片手で携帯電話を操作する」程度に喩えられる事を思えば、このハヤブサがいかにクセの強い機体か想像がつこうというものだ。
『高性能ゆえにエース専用機と見られたハヤブサ。だが搭載力がない、装甲が薄い等と批判されたため、人気は低め。そこで今回、2つの試験改修型をテストし、機体性能と人気の底上げを図るようですね』
 今回の依頼内容を再確認するように、緑川 安則(ga0157)が僚機に通信を送った。
 彼がいうとおり防御と兵装搭載力を犠牲にしてまで機体の軽量化と運動性を追求し、対ワーム用の高性能戦闘機としてリリースされたハヤブサではあったが、やはりその実戦配備は時期尚早であった。
 防御や兵装が貧弱なのはまだしも、最大の問題点は能力者でさえ扱いかねる機体特殊性能「翼面超伝導流体摩擦装置」にあった。
 主翼や機体表面の摩擦係数を電磁的な技術で変化させ、一時的に回避力と命中率をアップさせる事が可能だが、その代償として約50%の確率でその直後一定時間回避不能になるという、誠に厄介な装置である。
 今回、UPC側の要請により銀河重工が取り組んだ改善案として、

 A案:(回避不能を起こさない)成功率50%のまま命中・回避力をアップ
 B案:命中・回避のアップは既存のままで成功率を70%まで引上げる

 上記2案が提示されたわけだが、どちらを採用するか決めるため、傭兵達を招いて双方の改良試作機による模擬空戦が実施されたというわけだ。

「開発案の是非については早めに結論が出た感もあるが‥‥ともあれ実地でその効果とリスクを改めて確認だな」
 やはり今回の評価試験に参加した1人である白鐘剣一郎(ga0184)は、
『銀河関連の開発依頼は初めてだな。改めて宜しく頼む』
 地上の管制塔から銀河重工関係者らと模擬戦の様子をモニターするナタリア・アルテミエフ(gz0012)に無線で声をかけた。

 第1チーム:安則、剣一郎、鷹崎 空音(ga7068)、明星 那由他(ga4081
 第2チーム:ゲック、桜崎・正人(ga0100)、八重樫 かなめ(ga3045)、榊 刑部(ga7524

 模擬空戦の段取りとしては、まず第1チーム4名がA案試作機に、第2チーム4名がB案試作機に搭乗しダミー兵器による戦闘。どちらかのチーム2機が撃墜された段階で1回戦の終了とし、次いで同じチームが試作機だけ乗り換え2回戦目を行うという予定になっていた。
 パイロットの技量や武装の差で、テスト結果が偏らない用心である。
「実戦機としては、回避不能に陥る可能性があるという大問題を抱えるハヤブサ。その問題点が解消されるのなら、多くの傭兵が使う事になり、戦局を左右する事にもなるかもしれません‥‥それ故、この模擬空戦は大きな意味を持ちますね」
 パイロットとしての実戦経験はまだ浅いものの、大規模作戦間近の空気をひしひしと肌で感じる形部は、実戦さながらの緊張をもってハヤブサを駆った。

 UPC空軍基地から離陸し、審判役を担当する正規軍の「岩龍」と共に演習空域まで到達したとき、
「‥‥そんじゃま‥‥シミュレーションテストいってみるかね‥‥」
 正人がボソっと呟き、各々のチームは一端反対方向に分かれ距離を取ってから旋回、改めて交戦体勢に入った。
「地上用の機体とはやっぱり違うねー?」
 少し気を抜くとあっという間に制御を失いそうなほどデリケートな操縦感覚に、かなめが首を傾げる。彼女は模擬戦に先立ち銀河側の技術者に機体設計図の開示を求めたが、「それは最高機密ですから」と断られてしまった。
 ならばせめて「被弾しても支障が少ない部分」を尋ねてみたのだが、技術者は上司に聞かれないよう声を落とし、「被弾しないのが一番ですよ‥‥そもそも紙装甲ですから」と身も蓋もない。
 なお特殊性能の翼面超伝導については、多少翼面が損傷してもスペック通りに機能するだろう、との返答だった。
 かように実戦兵器としては何やら問題の多いハヤブサではあるが、試乗も兼ねた模擬戦とあれば、却ってそのクセの強さにそそられるKV乗りも少なくない。
 鷹崎 空音(ga7068)もそんな1人だった。
(「ハヤブサ自体にはまだ一度も乗ったこと無いけど‥‥どんな乗り心地の機体なのか実はちょっと楽しみだったんだ。まぁ、なんとなく振り回されそうな気もひしひしとするケド」)

『では始めよう。フォローを頼む』
 1回戦目ではB案試作機を担当する第1チームでリーダーを務める剣一郎の通信を皮切りに、模擬戦が開始された。
 基本フォーメーションは4機1組のいわゆるシュバルム戦法。具体的には剣一郎&空音、安則&那由他のペアがロッテ編隊(1機が攻撃中、1機が上空援護)を組み連携を取る形になる。
 対する第2チームはゲック&かなめ、正人&形部がやはりロッテ編隊を組み攻撃体勢を取る。ゲックが援護する形で機体重量をギリギリまで墜としたかなめ機が相手チームを攪乱、正人&形部はその後方から支援という作戦である。
 仲間チームと無線で連絡を取りつつ、かなめは相手チーム中トップクラスのパイロットである剣一郎機を迷わず狙っていった。
「腕の良い人から狙うのは定石だねっ!」
 唯一の武装であるガトリング砲を乱射しつつ突撃、剣一郎機のスキル使用を誘う。
 狙われた剣一郎も、すかさず特殊性能を発動させた。実戦ならいざ知らず、今回は評価試験なので最初から積極的に使っていくつもりだったのだ。
 ヴィーーーンーー‥‥
 微かな響きと共にハヤブサの翼面を超伝導の電流が走り、急制動をかけられた機体が慣性制御にも似た動きで横滑りして弾幕をかわす。
 返す刀でかなめ機に肉迫し、ソードウィングの斬撃で一瞬にして損傷率75%のダメージ判定を与え脱落させた。
(「なるほど、確かに身軽さは優秀だな」)
 そう思った直後――。
「うわっ!?」
 突如として肉体に急激な負荷が襲いかかり、一時的に失速寸前の状態に陥る。50%の確率で回避不能の外れクジを引いてしまったのだ。
「くっ、持ち直せるか‥‥間に合え!」
 能力者の超人的な体力と精神力で辛うじて体勢を立て直すも、回避不能となった剣一郎機に第2チーム残り3機の攻撃が殺到。僚機の援護も虚しく、審判役の岩龍から撃墜判定が伝えられる。
 このときゲック、正人、形部は全員Bタイプの改良スキルを使用していたが、3人とも回避不能を起こすことなく無事に離脱した。
 第1チームのリーダーを引き継ぐことになった安則が、残りのメンバーを率いて反撃に転じる。
「私は重武装重装甲の『雷電』の方が好みですが、ハヤブサ改修計画のために開発が遅れているみたいですからね。一生懸命頑張らせてもらいましょう」
 スキルは回避専用に温存することとし、まずはG−01ミサイルの遠距離攻撃でゲック機を狙う。
 再び翼面超伝導を起動させ、回避行動に入るゲック。だがその直後、先の剣一郎と同じく回避不能に陥った。
 成功確率70%といっても、逆に考えれば失敗確率30%。およそ3回に1度は失敗するリスクは決して小さなものではない。
「翼面超伝導流体摩擦装置発動。駆け巡れ、ハヤブサ」
 チャンスと見た安則、那由他、空音が相次いでスキル併用の攻撃を放ちゲック機を大破に追い込む。今度は運良く全員が無事にスキル使用に成功していた。
 この時点でルール的には第1チームの勝利となったわけだが、今回の参加メンバー中最も操縦レベルの高い剣一郎が墜とされたショックは大きかった。


 一端基地に帰投し練力補給を済ませた後、両チームは互いに機体を乗り換えて第2回戦を開始。
「ボクの技量そのものはあまり高くないから‥‥」
 空音は専らUK−10AAMによる後方支援を担当した。相手チームで回避不能に陥る機体があれば、すかさず狙い撃とうという作戦である。
 今度はスキル成功確率の低いBタイプ試作機を担当した正人が、先刻と同様に剣一郎機から狙っていく。
「先手必勝、ってな。これでも喰らいやがれぇ!」
 命中率の高い試作型G放電に加えて翼面超伝導を起動、幸い回避不能は起こさず剣一郎の機体に30%超の損傷を与えた。とにかくお互い装甲が薄いので、当たりさえすればかなりのダメージを期待できるのだ。
 とどめとばかり接近していくゲック&かなめ機の前に、先刻の失敗は繰り返すまいと安則&那由他のペアが立ちふさがる。
 かなめは1回戦同様突っ込むと見せかけ、ハヤブサの運動性をフルに活かした曲芸飛行のようなループを描き、巧みに安則機のバックを取った。
 背後から浴びせられるガトリング砲の弾幕を翼面超伝導でかわす安則だが、あいにくここで回避不能が発生した。
「ええい。制御不能だと? やはり不安定な機体は使いにくいぞ」
 ゲックのレーザー砲、ブーストで一気に距離を詰めたかなめと正人のガトリング砲を一身に浴び、あえなく脱落する安則機。
 僚機を墜とされた那由他がHミサイルを連射して反撃する。
 スキルで回避したゲック、かなめの両機がその直後相次いで回避不能に陥り、機会をうかがっていた剣一郎と空音が放つAAMの餌食となった。


「‥‥最初の機体選択の際にも言ったが、戦場じゃ常に死への危険に晒されているんだ。そんなトコに運に左右される様な機体を使わされるのは、正直御免被りたい」
 模擬戦終了後、基地内の会議室で行われた評価会で、模擬戦とはいえ2回連続で大破・撃墜の憂き目を見たゲックは歯に衣着せぬ口調で論評した。
「ぶっちゃけた話、俺はB案の70%ですらほんとは安心できないんだ。無理を言ってるのは重々承知だが、可能な限り安全性の向上を求める」
「はっきり言えば戦場で求められるのは性能もそうだが、確実性が一番。命をチップにギャンブルなんぞしては被害が大きすぎる。ゆえにB案を推奨するよ」
 安則も感想を述べた。
 実の所、模擬戦前のミーティングの段階で殆どの傭兵達は、より安全性の高いB案を支持していたのだ。もっともB案の70%でさえ、ゲックの言葉通り失敗するときはしてしまうのだが。
「えと、この装置が必要になるのは主に緊急時だよね? 急いで回避したいとか、そういう焦っている時。そこで運に任せたシステムは残酷じゃないかな?」
 ゲック同様2連続で墜とされたかなめが、やや不機嫌そうに主張する。これがバグア機相手の実戦であれば、「運が悪かった」で済まされる問題ではないのだ。
「スペックの更に上を目指すのも良いけど、安全ラインの底上げも『性能』だと思うんだね?」
「やっぱりB案の方がずっと使いやすい気はするよ。変な例えだけど‥‥優秀な分失敗すると立ち直りにくい子って感じだよね、ハヤブサって」
 と、空音。
 今回の参加メンバー中では形部と共にKV戦の経験が浅いにも拘わらず、彼女たちは墜とされなかった。要するに、パイロットの技量や経験以前の問題として、2回戦とも翼面超伝導装置起動の失敗により勝敗が決してしまったということだ。
「だから、少しでも失敗の可能性を減らしたり、失敗後にどう挽回するか‥‥っていう所を伸ばしたほうが、やっぱりいいと思うんだ。その上で長所の身軽さを伸ばしてあげられれば‥‥きっと凄くいい機体になると思うよ」
「効果が高くとも、一つのミスが死に繋がりかねない戦場に於いて、丁半博打のような不確定要素は看過出来ません。改造案Bでもまだ信用性に欠けます。せめて8割まで成功率を上げて欲しいですね」
 歳に似ぬ大人びた口調で、形部が現状の問題点を指摘する。
「搭載力の低さから強力な武器が積めないのは汎用的な戦力として問題があります。依って逆に近接戦闘にもっと特化すべきであり、そのためにもベースとなる機体そのものの命中・回避を更に上げるべきでしょう」
「命を掛けた戦闘中に、更に5割の賭けを強いる‥‥起動失敗により搭乗者の命が失われる可能性をもっと考慮すべきと考えます」
 そう意見を述べたあと、剣一郎はさらに特殊性能以外への希望として

・副武装スロットを減らし(3→2)回避もしくは装備を強化
・知覚向上を図る(光学武装強化)

 の2点を挙げた。
「僕はB案を推します」
 那由他もまた、他のメンバーと同意見だった。
「A案の効果の魅力も50%っていう安定性にかける数値が前提だと‥‥あまり手は伸びないです‥‥。今の路線で行くなら‥‥今回は確率を高めて後継機や次の改修のときにB案かそれ以上の確率を維持しつつの効果アップというのがよいと思います‥‥」
 独自の提案としては、
「あと超伝導装置のミサイルへの転用を提案します。僕はシェイドがさらなる強化を遂げた場合、今のミサイルでは全く追いつけなくなる可能性があると考えてます。超伝導装置の搭載で速力・命中率ともに引き上げることができないでしょうか?」
 一通り意見が出尽くしたあとで、
「それとだ。既に販売済みの機体にもこの改良型に改修するのですか? 買い換えてくださいでは恨まれますよ」
 と釘を刺す安則の言葉に、銀河側の技術者達は「それはUPCの方で決める問題ですから‥‥」と何やら歯切れが悪い。

 研究所に報告するため、傭兵達からのリサーチ結果をノートPCに記録してまとめるナタリアに、剣一郎が自販機から買った紙コップの珈琲を差し入れた。
「‥‥あ、どうもありがとうございます」
「お疲れ様。今回はこれ位だが‥‥もし良かったら、今度休みを取れる時にでも食事に行かないか?」
「まあ‥‥本当ですか? それはぜひ、ご一緒したいですわね」
 一見まだ女子大生のようなサイエンティストは、両手でコップを受け取りながら嬉しげに微笑むのだった。

<了>