タイトル:【PN】地震源追跡マスター:対馬正治

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/05/01 00:57

●オープニング本文


「ベオグラードって知ってる? ヨーロッパのセルビアって国の首都なんだけど」
 ラスト・ホープ、UPC本部のミーティングルームに集まった傭兵達に向かい、チェラル・ウィリン(gz0027)が口を開いた。
 ラフな私服姿とやんちゃな笑顔の似合う顔立ちだけ見ると他の傭兵と見分けがつかないが、彼女はその卓抜した戦闘力と数々の功績をUPCに認められ、正規軍から「軍曹権限」を与えられたトップクラスの能力者である。
「で、その街からもっと南、200kmばかり下ると山岳地帯になるんだけどね。その山の中で、最近妙な地震が続けて起こってるんだってサ」
 そういってチェラルが壁に広げたバルカン半島周辺の大地図――ベオグラード南方の山岳地帯には、各所に地震発生地域を示す×印と、その震度が記入されていた。

 地震の規模じたいは大きくない。また人里離れた山奥の事なので、人的被害も殆ど報告されていない。通常であれば、わざわざUPCが乗り出すような事件ではなかったろう。
 しかしその頻度の多さ、そして何より「震源地が特定できない」という不可解な点がUPC情報部の関心を引いた。
 ベオグラードの測候所が記録した不審な群発地震――それはまるで、地中を巨大な「何か」が動き回っているかのようだ。
 現在のところ欧州主要地域は人類側の拠点として一応の平静を保っているが、イタリアやバルカン半島の一部はバグア軍との競合地帯であり、特にマケドニアの南半分は敵側の占領地域だ。

『バグア軍がベオグラード―ソフィア方面への本格攻勢に備え、何らかの新兵器を開発し試験運用を実施している』

 ――これが情報部の見解であった。ただしそれが地底戦車なのか、あるいは地底を移動可能なワームやキメラなのか、それはまだ判らない。
 そこでUPC欧州軍は、敵の詳しい動きを探るため山中の各地に地震探知機を埋設する計画を立案した。バグア軍により軌道上の観測衛星は全て破壊され、測候所の観測だけでは移動する「震源地」の詳細な位置がつかめないからである。

「とにかく、敵が本格的に動き出す前に出来る限り多くの探知機をセットしなくちゃ。ボクも明日から正規軍部隊や研究所の人たちと一緒に出発するんだけど、とても人手が足りない‥‥というワケで、キミたち傭兵にも手伝って欲しいんだ」
 そういいながら、チェラルは傭兵たちに現地の詳細な地図を配った。その中には、探知機を埋設するポイントも記されている。
「探知機のセットは専門の先生たちがやるから、キミたちにお願いしたいのはその護衛。何しろ場所がKVの降ろせない山奥だし、このところけっこうキメラが出没してるみたいだからね」
 一通りの説明を終えると、チェラルはニカっと笑い親指を立てた。
「じゃ、ヨロシクぅ♪」

●参加者一覧

煉条トヲイ(ga0236
21歳・♂・AA
月影・透夜(ga1806
22歳・♂・AA
アイリス(ga3942
18歳・♀・JG
蓮沼千影(ga4090
28歳・♂・FT
リン=アスターナ(ga4615
24歳・♀・PN
勇姫 凛(ga5063
18歳・♂・BM
聖・綾乃(ga7770
16歳・♀・EL
M2(ga8024
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

●セルビア共和国・ベオグラード南方〜山岳地帯
「地中の何かか。ドリルモグラでも作ったか?」
 人気のない山道を注意深く進みながら、月影・透夜(ga1806)はうんざりした気分で呟いた。
 マケドニア方面で開始されたバグア軍の積極攻勢。それと時期を合わせるようにして発生した謎の群発地震――。
 UPC情報部は、地震の正体をバグア軍が開発した『地中兵器』と推測している。
 これまでにも地中で行動できるキメラの出現報告がないわけではない。
 しかしその殆どは中小型タイプであり、200km離れた測候所の地震計にまで反応を示すような「巨大兵器」となると、いったいどれほどの存在なのか?
「‥‥得体の知れない、地中に蠢く『何か』‥‥か」
 同行するリン=アスターナ(ga4615)も、ふと疑問を口にする。
 地底戦車か? あるいは新型の地中ワームか? いずれにせよ、これ以上詳しい情報を集めるには測候所の地震計だけでは不充分だ。
 そこでUPCは傭兵達の手も借り、山中の各所に特殊な地震探知機の埋設を計画した。
 これは内部の地震計が探知した地中の移動物体をコンピュータで解析し、その位置や大きさ、形状などをデータとして送信する、いわば陸上版ソノブイといったところだ。
「今日は迷子になったら大変ですから、気をつけるですよ〜」
 2人の背後から、小柄な体に銃を担いだアイリス(ga3942)が、ひょこひょこ小走りでついてくる。
 探知機の埋設作業じたいは未来科学研究所から派遣された地震学者、及び助手2名によって行われる。しかしこの山中では近頃キメラの出現も報告されているため、護衛として参加した傭兵8名のうちまずは透夜ら3名が、先行偵察班として埋設予定地点の安全を確かめにきたのだ。
「何事もなく作業が終わるのが一番だけれど。もし『何か』が出た時は‥‥今後のために、姿だけでも拝んでおきたいものね」
 そういうリンの手には、貸与品の使い捨てカメラが握られている。
 仮にキメラではなく地中ワームかそれに類する新兵器に遭遇したら、まず生身で太刀打ちできる相手ではない。むろん学者達の安全を最優先して撤退するつもりだが、その場合でもせめて証拠写真の一枚くらいは記録しておきたかったのだ。
「実際に地下から来られるとKVでも反撃の手段がない。厄介だな」
 未だ見ぬ「新兵器」が出現したとして、果たして撮影などしていられる余裕があるのか――それは透夜にも判らなかった。
「この辺ね‥‥」
 チェラル・ウィリン(gz0027)から配布された地図を広げ、リンが埋設予定地点への到着を確認する。
 事前の打ち合わせ通り、アイリスが隠密潜行を使って付近の林の中を索敵。
 残り2人も各々の武器を構え、油断なく周囲を警戒した。
「大丈夫、この辺りに敵の姿はないですよ〜」
 やがて戻ってきたアイリスの報告を受け、透夜は「本隊」にあたる学者グループ護衛班にトランシーバーで連絡を送る。
 実は、彼にはもう一つ気がかりなことがあった。
 今回のメンバー中に、恋人の妹である聖・綾乃(ga7770)が新人傭兵として参加しているのだ。むろん任務外のプライベートな事情なのであまり表には出さないが、やはり心配でないといえば嘘になる。
(「何かあったらあいつに顔向けできないな‥‥いや、そんな事には絶対させないが」)


「‥‥了解。俺達も今からそちらに向かう」
 トランシーバーのスイッチを切り、煉条トヲイ(ga0236)は近くで待機していた4人の仲間と3人の学者グループに手で合図を送った。
「地中を動き回る巨大な『何か』‥‥バグアが地中型兵器の実験でもしているのか‥‥?」
 重そうな機材を担ぎ上げる学者達――ただでさえ一般人である彼らが、こんなところをキメラに襲われたらひとたまりもない――を見やりつつ、トヲイもまた偵察班と同様の懸念を覚えていた。
(「‥‥だとしたら。バグアは近々大きな動きを見せるに違い無い。もし、地中型兵器が完成し、バグア側に実戦配備された場合、現時点で地中に対して有効な攻撃手段を持たない人類側は、苦戦を余儀無くされるだろう‥‥」)
 そんな彼の意を汲むように、
「いよいよ、新たな大規模作戦か‥‥少しでも情報を引き出せるよう‥‥気ぃ引き締めて、いかせてもらうぜっ」
 戦友の蓮沼千影(ga4090)が、吸いかけの煙草を携帯灰皿にしまって立ち上がる。
「皆、そして学者さん、よろしく頼むぜ」
 一同を見渡し、にこっと笑った。
「大規模作戦の伏線となるお仕事ですかぁ〜。綾乃、頑張ります♪」
 来るべきヨーロッパ攻防戦を目前にして、傭兵となってまだ日の浅いエクセレンターの少女も張り切って声を上げる。
(「お姉ちゃんの彼氏さんと一緒‥‥絶対に彼氏さんも学者さんも、そして他の仲間のみなさんも傷付けたくない」)
 小さな胸の裡で固く心に誓う。
 その傍らでは、やはり新人エクセレンターであるM2(ga8024)が、緊張を隠せぬ様子でイアリスの柄を握りしめていた。
 一方、同じ護衛班に属する勇姫 凛(ga5063)はご機嫌斜めだった。
 つい先日も花見の宴でキメラ退治の依頼を共にし、近頃ますます気になる相手であるチェラルの誘いでセルビアまで着たものの、いざ任務が始まってみれば、今回は彼女の率いる正規軍部隊は別行動だという。
「ちっ、違う、凛は新兵器が気になっただけだ。‥‥凛、別に残念なんかじゃないんだからなっ」
 といいつつも、やっぱり不機嫌そうである。
「一見シンプルだが‥‥この任務はかなり重要だ。必ず成功させて見せる」
 トヲイの言葉を出発の合図に、一同は偵察班の待つ埋設ポイントに向かって動き出した。


 目的のポイントに到着後、学者グループは早速スコップ等の機材を取り出し、探知機の埋設作業に入っていた。
 護衛班5名は作業現場を囲むように歩哨に立ち、偵察班3名はやや離れた場所から周辺を警戒する体制を取る。ただでさえ見通しの悪い山中において、木立や岩陰に隠れた敵の接近を許すのは命取りとなりかねないからだ。
「落ち着いていこうな」
「ハイっ!」
 透夜は綾乃の頭をクシャっと撫でると、少女の元気な返事にふっと微笑み己の持ち場に着いた。
「大丈夫、みんなは凛達が絶対守りきるから」
 3mの長槍・エクスプロードを構えた凜が作業中の学者達に声を掛ける。
 ――が、やっぱりその顔はどこかふくれっ面。
(「チェラル達の部隊も同じ山の中にいるのか‥‥無事だといいけど」)
「ちょっと、手伝いましょうか?」
 護衛班の千影が上着を脱ぎ、予備のスコップを取り上げた。
「あ、どうもすみませんね」
 研究者といってもフィールドワークの経験が多いためか、日焼けした顔の汗をタオルで拭いつつ、地震学者が歯を見せて笑った。
 穴掘りにかけては彼らもプロであるが、能力者、しかも腕力に秀でたファイターが加われば、やはり効率が違う。
 通常なら2時間近くかかる深さまで、わずか30分ほどで掘り進んだ。
 もっとも、そこから先の作業はやはり「専門家」の領分だ。精密機器である探知機を地面に対して正確な角度で据え付け、装置の作動確認などは長年の経験を積んだ彼ら研究者達にしかできないからである。
 こうして無事に埋設作業を終え、次のポイントへと移動。
 これを繰り返し、その日最後の探知機を設置しているさなか――。
 作業場の脇に広がる林の中で警戒にあたっていたリンが、気配を殺して忍び寄る影に気づいた。
 二本足で歩く姿こそ人に似ているものの、その全身は茶褐色の獣毛に覆われた人狼、ワーウルフである。
 リンは躊躇なく覚醒。全身を銀色のオーラに包み、自ら人狼を狩る銀の弾丸となってワーウルフに向けて疾走した。
 振り下ろされた人狼のかぎ爪を刹那の爪が受け止め、フォースフィールドの赤い光とSESの火花が甲高い音を立てて弾け飛ぶ。
 やはり林の見張りについていたアイリスも駆け寄り、後方からシエルクラインによる援護射撃を行った。

「‥‥来た、ワーウルフだ。迎撃にでる」
 透夜が2人の応援に向か一方、トヲイは他の護衛班に持ち場を離れないよう命じた。
 既存の狼に似て、ワーウルフには集団で行動する傾向がある。あるいは1匹だけで現れた奴は囮かも知れない。
「あの影‥‥何か動いた」
 ピクッと顔を上げ、凜が呟いた。ビーストマンの直感か、別の方向から接近する「獣」の気配を感じ取ったのだ。
 果たして林の向かい側にある岩場の陰から、さらに2匹のワーウルフが姿を現わした。
 千影は学者達に穴の底に隠れているよう叫ぶと、自らはバックラーを構えて彼らの盾となる。
「綾乃ちゃん、M2、援護射撃頼んだぜっ!」
 射撃の腕は専門のスナイパーに及ばないものの、エクセレンター2人はそれぞれ飛び道具を用意してあった。
 髪を蒼く染め、瞳を金色に輝かせた綾乃が、覚醒前とは別人のような毅然とした顔つきとなってフォルトゥナ・マヨールーの引き金を引く。
 M2もまた洋弓ルーネを構え、2匹の人狼に向けて矢を放った。
 しかしワーウルフの素早さも尋常ではない。2人の銃弾と矢を巧みにかわし、たちまち距離を詰めてきた。
「何てすばしっこい奴らだ‥‥倒す、というより防御に徹した方が良さそうだな、今のレベルじゃ」
 M2が舌打ちしつつ、二の矢を番える。
 学者達の直衛を千影に任せ、トヲイと凜が前に出た。
「一般人を長時間危険に晒す訳にはいかん‥‥一気にキメるぞ!」
 トヲイがスキル「ソニックブーム」を発動、シュナイザーの爪から放射された衝撃波が突進してくるキメラをカウンターでなぎ倒す。
「お前達が寄ってくるから‥‥凛、今機嫌が悪いんだからなっ!」
 リーチの長いエクスプロードが風を切って振われ、凜の獣突がもう1匹のキメラを弾き飛ばした。
 倒れた所に瞬速縮地で肉迫し、さらに刺突の一撃。
 悲鳴を上げ地面をのたうち回るワーウルフ2匹に、綾乃とM2の矢弾が追い打ちをかけた。

 爪と爪で切り結ぶこと数分。リンの衣服の各所は裂け血が流れ出しているが、キメラの側にも相当の深手を負わせていた。
「――それでも狼の端くれ? 笑わせるわね‥‥!」
 頬から流れる血を拭おうともせず、片手爪を構えた美女の口許に悽愴な笑みが浮かぶ。
 背後から駆け寄る透夜の気配に気づくと、瞬天速で素早く後退。
 距離を取ってから空いた手でスコーピオンを抜き、アイリスと共に銃撃を浴びせる。
 代わって前に出た透夜が、手負いの人狼目がけてカデンサを一閃させた。

 ズシャーッッ!!
 トヲイの紅蓮衝撃が炎のごとき赤き尾を引き、残り1匹となったワーウルフをFフィールドもろとも切り裂いた。
「ふう‥‥こいつは威力も高いが、練力の消耗も馬鹿にならんな」
 キメラの絶命を確かめ、大きくため息をつく。
 その頃になると、林の中で最初のワーウルフを仕留めたリン、透夜、アイリスも引き返して再び合流。改めて周囲を索敵し、伏兵のキメラが残っていないかを確認した。
 その日最後の1台となる探知機の埋設を済ませ、日が落ちる前に撤収しようと荷物をまとめ始めたとき――。

 ゴゴゴゴゴォォ‥‥

 地鳴りと共に、小規模な地震が大地を揺さぶった。
 夕暮れ近い山中から、けたたましく鳴き声を上げ鳥の群が一斉に飛び立つ。
「これ、は‥‥!?」
「みんな気をつけろ! 何か来る!」
 リンが驚きの声をもらし、トヲイは仲間達を学者グループの周囲に呼び集めた。
 万一の事態に備え、M2がスキルGooDLuckを発動させる。
『新兵器』と遭遇した際は無理な交戦は避け、体力のあるファイターが学者達を背負って撤退――と事前に打ち合わせておいたのだが、肝心の「敵」がどの方角から迫って来るのか見当も付かないのだ。
 地震は相変わらず続いている。
 否、それはむしろ、地底深くを何か巨大な物体が這いずっているかのような――。
 やがて地震も地鳴りも収まり、山中は何事もなかったかのような静けさを取り戻した。
 我に返った地震学者が慌てて持参のノートPCを起動させ、地震計の記録したデータを受信し分析にかかる。
「これが‥‥地震の元‥‥?」
「これじゃ何だかわからないですよ〜」
 千影やアイリスが背後から画面を覗き込むが、何種類かの地震波が表示されているだけで、素人目にはさっぱり判断がつかない。
「ちょっと待ってください。いま、画像処理してみます」
 学者が素早くキーボードを叩いて地震波を視覚化したとき、一同の間から驚きの声が上がった。
 そこに映し出されていたのは、たったいま彼らの足下を通過していった存在――蛇ともミミズともつかぬ、長細く巨大な未知の物体の影。
「全長20m以上‥‥時速50km!? ば、バカな‥‥最新型のトンネル掘削機だって、せいぜい時速3、4kmだっていうのに‥‥」
 専門家である地震学者でさえ、あまりの不可解さに脂汗を流す。
「写真は撮りそこねたけど‥‥却ってラッキーだったかもしれないわね。『こいつ』に出くわさずに済んで‥‥」
 手元のカメラを見つめ、リンがポツリと呟いた。

<了>