●リプレイ本文
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「豪華な友達に夫婦アグリッパ‥‥なんてリア充なやつらなんだ」
戦場への移動中、芹架・セロリ(
ga8801)はぶつぶつと嫉妬混じりに呟く。
ついでに、ちらりと周囲を一瞥。彼女のウーフー2の前には夜十字・信人(
ga8235)のヴァダーナフ『APPARITION』、横にはアスナのDSの姿があった。
実質的に同じ班となるのだから、まぁその状況に何ら不自然な点はない。但し、二人の関係をよく知っているからこそセロリは呟かずにはいられなかった。
「必然的ーに一機あまーるー」
「え?」
「‥‥なんだ俺は歌ってるだけだぞ」
アスナに首を傾げられ、セロリはコックピットで誰にも見えないのにぶーたれた。
「話をするのはこれが初めてですかね? アスナさん、今回は宜しくお願いします」
それはさておき、と言わんばかりのタイミングでアスナに話しかけたのは、鈴原浩(
ga9169)である。
友人である信人とその恋人・アスナの力になるべく、という彼の心情を察知したのか、「宜しくお願いするわね」とアスナもまた朗らかに返す。
ところで、もう一方の当事者、信人はというと。
「中尉。陣形の右翼へ展開し、アグリッパへの攻撃をお願いします。防衛に回るであろう本星型への牽制になりますので」
公私はきっちり切り分けるタイプだった。
「ロリ、中尉を頼むぞ。俺は前に出てタロスを抑える。この面子が揃ったんだ。足止めさえ出来れば此方に傾く」
「しょーがねーな」
とセロリは口では言いつつも、実際はそれほど不満気でもなさそうだった。
やがて傭兵たちは、アグリッパとそれを護衛するワーム群の姿を捉える。敵もまた、迎撃体制を取り始めた。
「さて、偶の出番だ。征くぞフラメメテオール」
ルナフィリア・天剣(
ga8313)は自らが駆るフィーニクスに語りかける。
偶の出番、とはいうものの、今回は彼女にとって知っている顔が多いのでやりやすさもあった。
気づけばアフリカの戦線も大分南へ来てはいるが――、
「いつもの仕事だ。気張らず行こうか」
時枝・悠(
ga8810)の一言は傭兵たちの成すべきことを端的に物語っている。
その言葉が契機となり、爆発的な速度で戦端が開かれた。
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真っ先に戦域を駆け抜けたのは信人機とルノア・アラバスター(
gb5133)機S−01HSC『Rote Empress』だった。
双方ともにブーストをかけつつ、遊撃たる二機のタロスへそれぞれ一気に肉薄する。当のタロスたちはといえば、KVがセロリ機、アスナ機を除いて横一線に並んでいることもあり、ガトリングで掃射を行っているところだった。接近する二機に気づいていなかったのは、傭兵側からも悠が対抗するかのように射撃を返していた関係もある。
『横から来てるぞ!』指揮官機の強化型タロスからタロスへそんな指示が飛ぶが、遅い。
「そう簡単に邪魔されても困るからな」
信人は言い、フォース・アセンションを発動した状態でゼロ・ディフェンダーの一閃をタロスの横っ腹に叩き込んだ。返す刀で今度はフォース・ビートダウンを発動、若干移動した後にデモンズ・オブ・ラウンドで同じ箇所をなぎ払う。二度目の斬撃に関してはタロスが慌てて盾を構えたので直撃とはいかなかったが、どのみち早い段階で再生能力を使わせるには十分なだけの損傷は与えていた。
一方のルノアも負けてはいない。こちらは当初、小刻みにフェイントをかけつつ突撃をしていたが――タロスが自分を見ていないと分かるとスラスターライフルで牽制しつつ最短距離で接近した。
牽制が逆にルノア機の接近をタロスに認識させる結果とはなった為、此方は防御行動に移るのも早かった。眼前に盾を構えられたルノアは至近距離からのスラスターライフルを敵の足元めがけ撃ち、相手の体勢が若干崩れたところでセトナクトを袈裟懸けに振り下ろす。盾の上からの剣閃は肩の装甲を切り裂いて、タロスの体勢が更に崩れたところをすかさず持ち替えたルーネ・グングニルで追撃する。
そのようにして完全にタロスの足止めを行っている間にも、
「よし、夫婦アグリッパを爆発させてやるぞー」
言いつつ強化型ジャミングを発動させたセロリやアスナが向かって右側のアグリッパを狙って射撃を行い、ルナフィリアが左側のアグリッパへフィーニクスレイを浴びせると、すぐに強化型タロスの指示を受けたのか本星型HWがアグリッパへの射線を遮った。
尤も、傭兵たちにとってはそこまで織り込み済みの行動だった。右側の二機はすぐに狙いを本星型二機へ切り替え、
「ディメント‥‥薙ぎ払えっ」
左側の二機に対しては、ルナフィリアがディメントレーザーを叩きこむ。尤も、まだ強化FFが発動出来ている状態ではあったが。
そうこうしているうちに、瞬間、タロスの脚が完全に止まった。
ここからが傭兵たちの作戦の本懐だ。
「テンペスタ行くぞ! 狙える者は集中攻撃!!」
声を上げたのは浩。宣言通り自機A・ソルダード『ロートヴォルフ』のシステムテンペスタを発動する。
その対象は、指揮官機たる強化型タロスだった。六百もの銃弾を指揮官機が一身に浴びている間に、悠機がブーストをかけそれへ肉薄する。横のタロスがそれを阻害せんと射撃を入れようとしたが、ルノア機と信人機、それとアルヴァイム(
ga5051)機ノーヴィ・ロジーナ【字】が更にそれを妨害した。
ところで、バグアの妨害策はその一つだけではなかった。
「――地中に反応有り、です‥‥!」
全機へ向かって通信したのはハミル・ジャウザール(
gb4773)だ。自分がセットした地殻変動計測器に反応があったのだ。
その位置は、指揮官機のやや手前――つまり、悠機の通過したすぐ後ろ。
すぐさま動いたのはアルヴァイム機。次いで、ルナフィリア機のレーザーの冷却が済んだことを見越してドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)機リンクス『エスプローラトーレ・ケットシー』も動き出す。
二機の射線がぴったり重なったその場所に、EQが地中から姿を現した。
そのまま前方の悠機を飲み込もうとするが、勿論そうはいかない。事前に動いた二機が射撃でEQの動きを止めると、ちょうどEQの真後ろにいる格好になったハミル機S−01H『ナイトリィ』が荷電粒子砲でEQの腹を打ち抜いた。
『何からなにまでお見通しってのかよ‥‥!』
「ま、全部とは言わないが」
漸くテンペスタから開放されて毒づいた指揮官に、無事肉薄した悠が言葉を返す。
「それでもお前たちの思い通りにはさせないくらいには、な」
そんな平静な口調ながら、重練機剣「星光」の一閃を叩きこむ――。
実際、全てを読み通せていたわけではない。戦場には不確定要素がつきものだ。
たとえばEQ。出現こそ予測はされていたが、実際計測するまで位置までは掴めなかった。
だから――。
「うえええええ、一気に増えたぁ!?」
ハミル同様地殻変動計測器を仕掛けていたセロリが叫ぶ。
時間が僅かに進み、完全に戦力の分断が行なわれた頃――ほぼ同時のタイミングで、セロリ機とアスナ機の付近に一体、ルナフィリア機とドゥ機の間に一体、そしてタロス二機の付近に一体ずつ――合計四つの地中反応が出現したのだ。
流石にこれではいずれかの攻勢の手を止め、地中から現れたモノの対処に当たらなければならない。
「猫が通る道を掘り起こすようなこと、しないでほしいんだけどな」
自機を猫と例えている――機体がリンクスだし、愛称にも『ケットシー』とあるのだからあながち間違いではない――ドゥが嘆息しつつ踵を返し、ちょうどルナフィリア機の眼前に現れ、そのルナフィリア機のBクレイモアの一撃を受けた直後のEQへ照準を定めてフィロソフィーのトリガーを絞る。
「‥‥これだけ近くでEQ見るのって初めてね」
「アスナさんが意外と冷静だ‥‥」
「え、そ、そうかしら」
などと言いあいながらアスナが高分子レーザーで、セロリが練剣「白雪」で目の前のEQの腹を貫く。意外と冷静なのは艦長の影響かもしれない。
「――何だか逞しくなってるようだが、負けてられんな」
そんなアスナの様子を知り目を細めた信人が、フォース・ビートダウンでタロス、EQ双方から距離を作った後に機剣の一撃でEQの装甲を貫く。
その間にこれまでやられっぱなしだったタロスからの反撃の銃弾連射が行われたが、
「俺のロートヴォルフは接近戦もイケるんだよ!!」
浩がそこへ割って入った。叫ぶことで気を引き、銃弾を盾で防ぎながら牽制射撃を返す。そして肉薄すると、唸りを上げるチェーンソーを振り上げた。
「この『金曜日の悪夢』で文字通り悪夢を見せてやるぜ!!」
『なんかどっかで聴いたことのある状況!?』
「よく知ってるな!」
じゃあ遠慮無く、とばかりにチェーンソーの刃がタロスの装甲へ刻み込まれた。
「むー‥‥」
一方のルノアはといえば、ある意味困っていた。
別に、戦況に窮して困っているわけではない。その逆だ。
EQが出現した時点でタロスは再生能力が使用できない上にボロボロになっており、EQ出現のタイミングで援護にかけつけたハミル機のディフェンダーの一閃がついにタロスを爆散させたのだ。
そこまではいい。ただ出現したEQの方も、今はアルヴァイム機が相手取っている。というか、EQが現れた直後に腹の装甲に射撃を浴びせ、EQが態勢を立て直すべく地中に潜り、でも上がってきたタイミングでまた狙撃――ということの繰り返しになっているのだ。
普通ならば援護を考えるところだが、ここは邪魔になる気がする。
寧ろこの戦場で本当になすべきことをするために動いた方がいいのだろう。
という結論にいたり、ルノアはブーストをかけ、一路本星型HWの元へ向かった。
若干損傷はあったものの、数以外は予想の範囲内だった。その数に一瞬戸惑いこそあったものの、それも本当に一瞬のこと。
「せっかくの隠し玉のつもりだったかもしれないが、どうも期待はずれの結果だったようだな」
『やる気なくすレベルのな‥‥。いや、まぁやめるわけにもいかないんだが』
そして悠機と強化型タロス。此方も既に後者の損壊が激しい状態だった。最初のテンペスタがよほど効いたらしい。
そんな状況ながら嘆息する元気だけはあったらしい指揮官に、悠は苦笑する。
「そこでやる気を失くす指揮官がいる時点で、勝ち目などなかったんじゃないか?」
『かもしんねーな。どうせ俺たちは捨て駒だから援軍なんかもなかったんだろうし』
「‥‥捨て駒?」
それはつまり、ここだけでなく――この防衛機構が護っているサイボーグの生産プラントすらも‥‥?
片膝をついたまま動けぬ強化型タロスの首元にビームコーティングアクスを突きつけたまま悠が問う。
『全部がそうかはわかんねーよ。ただうちの大将にとっては、この大陸にあるもの全てが『駒』に過ぎないことは確かだ』
とりあえず自分たちはそこまで大事にされているわけではない、ということなのだろう。
その意味を少し考えながらも、悠は最後の一閃を振るった。
指揮官機とタロスの一機を失った戦況を覆すだけの戦力や戦略を、最早バグアは持っていない。
他のKVがタロス等と戦闘を繰り広げている間にも、ルナフィリアとアスナ、セロリは本星型の強化FFを削り取っていた。
だからそれが破られ、アグリッパとまとめて叩かれるのも時間の問題で――。
結果的にはほぼ思惑通りといった形で、傭兵たちは作戦を終えた。
戦闘終了後――。
ジークルーネまで戻ってきた傭兵たちはそれぞれコックピットを降りる。
すると、不意にアルヴァイムがルナフィリアの身体を抱っこし、
「てんてーん☆ミ」
普段の彼からは想像もつかぬテンションの台詞を言い放った。
アスナを含め、他の傭兵たちが呆気に取られること数秒。ルナフィリアを下ろした彼は、平然といつものテンションで言うのだった。
「時雨に会ってないんで、たまには父親っぽいことを」
そう、娘の名を呼びつつ。
それから各自艦内に戻っていこうとしたわけだが‥‥。
信人の足取りがふらついていることに、アスナは気づいた。
「‥‥? どうしたの? 信人さん」
「ああ、いや‥‥」
信人は壁にもたれかかりつつ、弱々しい口調で言う。
「‥‥久しぶりの重力下のKV戦、しかも格闘戦」
そこまで呟いた直後に彼が「うぷ」と口元を抑えたので、それでアスナは全てを察した。
酔ったのだ。KV酔い。
「――今バケツと水持ってくるから、それまでちょっとだけ辛抱しててっ!!」
コレは拙い。アスナは全速力で艦内を駆けた。
余談だが数十分後、整備ルームにはぐったりしている信人をアスナが膝枕しているという構図があり。
それをクルーに見られていないわけもなく、その後若干彼女が弄られる種になったとかならないとか。