タイトル:【CO】洋上の黒き影マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/07/31 01:41

●オープニング本文


 バグアの戦力がモザンビークへ集結するに従い、UPC欧州軍もまた、各方面からモザンビークを包囲しつつある。
 だが、軍団長であるウルシ・サンズ中将には一つの懸念があった。
 その懸念は、まるでモザンビークへの侵入を許すまい―ーせめて侵入までの時間を稼ごうと各所で立ち塞がったバグアの存在が、より大きくさせた。
「ここまでやっといて、あの狸オヤジがモザンビークでただ手を拱いて待っているわけがねェ。必ずどっかしらのタイミングで動くはずだ。
 それを止めろ、とまで贅沢は言わねェ。ただその狙いを突き止めろ。
 この先どう転がるにしろ、それが分かっているのと分かっていないのでは大分話が違うんだ」
 だからサンズは、自身もニアサ・リフト・バレーにおいてバグアと対峙しながらも、ごく一部の傭兵と欧州軍の小隊に指示を飛ばしていた。

「‥‥よし、そろそろだ。戦線を抜けるぞ」
 戦端が開かれて暫く後、指示を下された小隊の隊長であるベリエスはそう通信を飛ばした。
 戦闘開始直後ならまだバグアの態勢もそうは崩れていない。そこを潜り抜けてバリウスの狙いを突き止める――というのは不可能に等しい芸当だったろう。
 だが大分入り乱れる格好になった今なら――。少数の部隊なら、そう簡単に離脱に気づかれることもない。
 仮に気づかれたとしても、周辺の部隊がフォローに入る手はずになっていた。
 その思惑通り、傭兵たちとベリエス小隊はバグアの防壁を抜け、モザンビークの空を駆け抜け始める。

 しかし、実際フォローが必要な程度に気づかれたということは、その事実はバグアの耳にも当然飛び込む。
「そりゃそーだよねー。
 ここまで来て何の策もなく取り逃すわけもないもんねー」
 報告を受け、バリウスの補佐である副官・ロアは肩を竦める。
「やはりそう来たか」
 バリウスもバリウスで、サンズのやり方からして想定はしていた。
 現在、二人を乗せたビッグフィッシュはインド洋上の空を駆けている。サンズの予想通り、バグアの防壁はその安全時間を作るための『時間稼ぎ』だった。
 出来ればもう少しだけこの時間は確保しておきたい、のだが。
「‥‥本当にお前が行く気か」
 バリウスはそう、傍らのロアへ視線を投げた。
「今からそんじょそこいらの戦力を寄越したって時間稼ぎにならないよー。
 壁にはなっても、更に戦力を削ってでも突破を図ってくるだけでしょ」
 それまで淡々としていたロアの表情に、急に昏い色が宿った。
「‥‥っていうか、いっそバラしちゃっても問題ないんじゃない、って思ってるよ。
 その代価に生命を貰っちゃえばいいしね。‥‥流石にもー、こっちも我慢の限界だしー」
 その言葉の意味を、バリウスはわざわざ問い質すまでもなく分かっている。
 ゲルト、ラファエル、そして先日のメタ。
 プロトスクエアの死は、『ともだち』という人間的感情に引っ張られたバグアそのものの人格の変容までをも引き起こした。
 生前のバリウスならその感情も理性と天秤にかけられては勝てないだろうが、他の人間なら逆と成りうることが理解出来ないほど機微が分からないわけもない。ニアサ・リフト・バレーでジークルーネとの対峙を任せたヴィクトリアにも同様の感情はあるはずだ、ということも。
「‥‥先んじて知るためには代償を払え、ということか」
「まぁねー」
 暗い光を瞳に湛えたまま、ロアは酷薄な笑みを浮かべた。

 そうして数刻後、ロアは漆黒のティターンを駆ってインド洋上で人類を待ち構えていた。
 引き連れた戦力は、今のロアに打てる手を全て打つ準備まで整えるつもりで用意したものだ。
 ただ、それをどこまで引き出すかは――実のところ、ロア自身も未だ決めかねている。
 否、人類がどう動くか、で決めればいいかと思っていた。

 その状況次第で考えうる手立てを全て打った上で敗れるというのなら、それはそれで仕方がない。
 どうせ自分がいなくなってもバリウスの計画には今更大きな支障は生じないだろう。
 それに――。
(ルトもラファもメタも‥‥きっとそうだったんだよね?)
 なれば尚更、高位バグアとしては敗北を認めないことほど無様なこともないだろうし、ロアのプライドはそれを許さないのだから。

――
▼Caution!
この依頼は通常の依頼と比べ極めて難易度が高く設定されており、所持金・機体・機体アイテムの没収や、場合によっては再起不能・死亡判定が下される可能性があります。
再起不能・死亡したキャラクターは継続使用することはできず、ログイン及びコンテンツへのアクセスが制限されます。

●参加者一覧

クラリッサ・メディスン(ga0853
27歳・♀・ER
ロジー・ビィ(ga1031
24歳・♀・AA
アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
錦織・長郎(ga8268
35歳・♂・DF
ルナフィリア・天剣(ga8313
14歳・♀・HD
時枝・悠(ga8810
19歳・♀・AA
神楽 菖蒲(gb8448
26歳・♀・AA
ミリハナク(gc4008
24歳・♀・AA

●リプレイ本文

「‥‥なるほど、そうくるのか」
 見覚えのある漆黒のティターンを目にし、錦織・長郎(ga8268)はペインブラッド改『ヨルムンガンド』のコックピットで呟く。
「それが君の機体かね? ロア」
『見れば分かるでしょ』
 返ってきた言葉に、抑揚は殆どなかった。
「――ていうか、アンタ誰よ?」
 問うたのは 神楽 菖蒲(gb8448)。
 実際のところ、ロアがこうして戦場の表舞台に出た回数はプロトスクエアに比べても少ない。
 人類への認知度、という意味では彼らやバリウスに劣ると言わざるを得ない――のだが。
「あらロアちゃん、今回はアイドルじゃありませんのね」
 竜牙弐型『ぎゃおちゃん』を駆るミリハナク(gc4008)は愉しげに声を上げた。
 ロアが多数の人類の前に姿を見せた、唯一の機会。即ちチュニジア要塞での慰安イベントに、メタやヴィクトリアと共にアイドルユニット『ABA48』として殴りこんできた場に、彼女は居合わせたのだ。
 ミリハナク同様にその場にいた長郎が現在流しているBGMがそのコンサート模様だったりするのだが、先の返答に感情が見えないことからして精神的動揺はあまり誘えていないらしい。
「独りで寂しそうですからお姉さんが遊んであげますわ」
『‥‥もう、遊んでなんかないよ。楽しく過ごせる時間は終わったんだから』
 相も変わらず無機質な声音だが、今度は言葉そのものに感情が乗っていた。
「今。どんな気持ちで戦いに臨んでいるのでしょう‥‥」
「戦争なんだから、負けられない理由があるってことなんだろうさ」
 ロジー・ビィ(ga1031)の呟きに、時枝・悠(ga8810)が言葉を返す。
 その覚悟を以てこうして立ち塞がった相手が弱いわけもない、が。
 だからこそ、「いつも通りの仕事だ」と続けた。
「行こうかデアボリカ。名に違わぬ力を示そう」

●正面突破
 傭兵たちを含む人類に相対するバグアの軍勢は、ティターンを含め計七機。いまのところ、それ以外の敵影はなかった。
 その七機の中ではティターンが最後衛、高空でもやや上に位置し、それを中心に六機の本星型HWが放射状に展開している。人類に近いモノほど高度も低かった。
 対する人類はというと、
「力づくでも突破すれば結局その先にあるものは分かる」
 という理屈から、正面からの突破を狙っていた。

 ――その全面対決の火蓋は、
「敵の意図はどうであれ、降り懸かる火の粉は払わなくてはなりませんものね。
 敵は全力で排除させて頂きます」
 そう言うクラリッサ・メディスン(ga0853)機シュテルンG『アズリエル』が放ったK−02のミサイル群により切って落とされた。
 菖蒲機サイファーE『レイナ・デ・ラ・グルージャ』も続いて同じくK−02を射出し、
「出し惜しみは無し‥‥可能な限り手早く始末しないと」
 ルナフィリア・天剣(ga8313)機パピルサグ『フィンスタニス』はECミサイルを三連射する。
 千発を優に超えるミサイルはしかし、本星型に効果的なダメージを与える一打とはならなかった。本星型HW各機ともに、自動迎撃ガトリングでミサイルの被害を低減したのである。
 そしてその間に、狙われなかった本星型一機は人類へ向かって接近を開始し、ティターンは、
『そう来るだろうとは思ってたし』
 意趣返し、とばかりに無数のミサイルを射出した。
 狙われたのは既にティターンへ向かい左右に展開しつつ接近していた悠機アンジェリカ改『デアボリカ』とアルヴァイム(ga5051)機ノーヴィ・ロジーナ【字】。他の傭兵のKVにも幾ばくか損傷を与えた。
 更にティターンは自身の放ったミサイルが空で暴れている間に多少前進し、ミサイルで撃ち漏らした菖蒲機に向けプロトン砲を撃ち下ろした。
「あっぶな‥‥何よあれ。私聞いてないわよあんなの」
 フィールド・コーティングを使用し損傷を低減することに成功しつつ、菖蒲は毒づく。呼ばれたから来たものの、あんなティターンが相手にいるようでは――呼んだ張本人である黒子ことアルヴァイムを後で殴ろうと心に誓った。
 が、その前に言っておかねばなるまい。
「あのヤバそうなのはアンタがやりなさいよ。知らないわよ私は」
「‥‥まぁ、呼んだ以上は責任は持ちます」
 強固な装甲を以てティターンの攻勢をやり過ごしたアルヴァイムはそう返した。

 ティターンが元の位置に戻った頃には、ミサイルの雨を受けた本星型も態勢を整えつつあった。
 が、完全に元通りになるまで待ってやるつもりもない。
 最も低空に近いところにいた本星型二機を、ベリエス小隊のうちの四機が両側面から挟み込んだ。
 そして両脇からレーザーやガトリングを放ち、強化FFを発生させる。反撃に転じるべく本星型の一機が機首を傾けようとしたところを、残っていたベリエス機が側面からライフルの銃弾を浴びせた。
 ベリエス機はそのまま攻撃した本星型の真上を通過し、その奥にいた本星型へ接近、先ほど同様にライフルを放つ。正面から迫ったために当然これは強化FFによって防がれたが――
「脇が留守になっているね」
 側面に回り込んでいた長郎機がツングースカの弾幕を叩き込む。本星型は反撃とばかりにガトリングを掃射するが、ベリエスも長郎も高度を変えることでこれを凌いだ。
 一方で、ベリエスの援護を受けなかった方の小隊員機の後背には、別の本星型が迫りつつあった。
「狙わせませんわよ」
 そう言うミリハナク機は間に割り込むと、正面から十式高性能長距離バルカンを浴びせ、そうして強化FFを発生させたところに、更に本星型の横に出た菖蒲機がエニセイの砲弾を叩き込んだ。
 菖蒲機の砲撃に本星型が気を取られている間にミリハナク機が位置を変え、菖蒲機と二機がかりで挟み込む格好になる。
 ただそれは本来、まだ迫っていない本星型に後背を晒すことにもなるのだが――現実はそうはならなかった。
 実際後ろから襲おうとはしていたのだが、突如として、それこそ強化FFを張る警戒をする間もなくあらぬところから射撃を受けたのだ。
 放ったのは、一番外側に回り込んでいたルナフィリア機。
「流石と言うべき高性能。態々追加エンジン載せて来た甲斐はあったかな」
 本来は宇宙用兵装であるプレスリーも、宇宙用フレームさえ積んでいれば大気圏内でも使用出来る。そうするだけの価値を持った武器の威力は、確実に本星型を困惑させていた。
 ――のだが。
『うざったいなあ‥‥ッ!』
 苛立ちが表に出た声と共に、再度ティターンからミサイルが降り注ぐ。今度はかなり多くの機体に損傷を及ぼし、また本星型の反撃の隙を作った。

 ロアの苛立ちには理由がある。
 本星型にしてもそうだったが、此方はより完全な二対一が確立していたからである。
 その二機――アルヴァイム機と悠機は単に挟撃するだけでなく、常に動き回っていた。たとえばアルヴァイム機がプロトン砲の砲身を向けられれば、悠機はそれを見越して上方側面に回りこんでマジックヒューズを放って牽制する。撃ち気を削がれたロアが振り向きざまに悠機に向かってプロトン砲を放った頃には、今度はアルヴァイム機がティターンの後方に回りこんでギアツィントを放つ――といった具合だ。
 勿論ティターン自身もそれを嫌って包囲の突破を図ろうとはしているのだが、二機の追随はそれを許さない。それがロアにストレスを溜めさせた結果がミサイルというわけだ。
 だがロアは、ここで一つのミスを犯した。
 ストレスを発散したことによって起こった、わずかな虚脱の瞬間。その背中を、ミサイルをやり過ごした悠機のサンフレーアが狙っていた。

「あの苛立ちようでは、援軍もきそうにはありませんわね‥‥」
 乱戦模様と化していた空域から比較的離れた場所にいた為、ミサイル以外の被害は殆ど受けていないクラリッサが言う。
 少しでも早く敵の戦力を削いでおきたいのだから、援軍が来ないに越したことはない。反撃の狼煙を上げつつあった本星型のうちの一機を、そうはさせまいと放ったスナイパーライフルの銃弾を撃ちぬく。強化FFは、乱戦の中で練力を使い果たして使えなくなっているようだった。
 更にその本星型を、全く別の角度から狙っていた者がいる。
 それまでは高分子レーザー砲で強化FF削りに徹していたロジーだったが、ティターンがミサイルを放つ直前に、自分が狙っていた本星型の練力が切れたことに気づき、一人離脱を開始していた。皮肉にもミサイルが後背を狙う形になったため被弾はやや多いが、煙にまくことにもなったためそこを更に狙われることもなかった。
 ロジー機が移動してきたのは、自機が戦場のどこから見ても太陽を背にしているように見える位置。
 かつ、現在で言うとロアのティターン並の高度のところにまでやってきて――彼女はそこから、K−02を撃ち下ろした。

 乱戦の中で練力を切らす、或いは切らしかけていた本星型はその二機だけでなかった。むしろ、最初にミサイルの被弾を受けなかったモノ以外は全てが該当する。
 だからロジー機のK−02は、戦場に大きな変化をもたらした。即ち、初めて本星型が露骨に、しかも大きなダメージを悉く負ったことである。
「さっさと沈みなさいよね」
 中でも、ミサイルの前にクラリッサの銃撃を受けていた本星型の損傷は激しかった。菖蒲はそれを見逃さず、十六式螺旋弾頭ミサイルを叩きこむ。
 序盤のテーバイよろしくな自動防衛システムの存在があったため、自然、それまでは人類はミサイルの使用は避ける傾向にあった。
 だが、先のロジー機からのミサイルに対する反応を見、菖蒲には「もうそれはない」という確信があった。
 その確信を以て放たれた一撃を――本星型は回避も出来なければ、防衛システムを発動させることもなく被弾し、爆散する。

 更なる数的優位が生じ、傭兵たちが取ることが出来る選択肢も増える。
 即ち――
「そちらにばかり気を取られてはいけませんわよ、ロアちゃん」
 ティターンの背後を強化型G放電装置で狙い撃って、ミリハナクが言う。
 作戦と、それを裏打ちする実力を以て、アルヴァイムと悠はティターンを確かに苦しめていた。損耗を受けてはいるが、相手には同等以上の疲弊と苛立ちを誘っている。
 その上いまやティターンの相手は、アルヴァイム機と悠機だけでない、ということだ。
『ボクは‥‥』
 ミリハナクの狙撃を受け、ティターンが振り返ろうとする。その両側面、しかもそれぞれ高さが違う場所から、今度はアルヴァイム機のギアツィントと悠機のマジックヒューズが襲いかかる。
 もはやティターンの自己修復も、追いつかなくなりつつあった。練力をそちらに回しているためか、プロトン砲を使用する頻度も大きく減っている。
『‥‥ボクは』
 言葉とともにティターンが一瞬空中で静止し――次の瞬間から、これまでにない速度と精度を以て行動を起こした。
 旋回しながらレーザーのトリガーに指を当て、悠機を真正面に捉えた瞬間に絞る。ろくに照準も合わせていないのに、意表をついたそれは悠機の装甲を貫く。
 ‥‥ということを人類が認識しようとした瞬間には、同様のことをアルヴァイム機に対しても行なっていた。実質、二機に対して同時に狙撃を行ったようにも見えなくはない。
『――遊びだって、計略だって。いつも全力のつもりだった、のに』
 レーザーの照準をミリハナク機に向けつつ、言う。当のミリハナク機はまだ近くの本星型の対処に当たっていて、狙撃にすぐに気付けない。
「機動予測、誤差修正‥‥今だっ」
 代わりに行動を起こしたのはルナフィリア。プレスリーでティターンの手元を貫き、ちょうどその瞬間に放たれたレーザーは狙いがずれて彼方へと飛んでいく。
 ちょうどその頃に本星型はといえば、ブラックハーツを起動した長郎機の『ロキ・クリーク』――バレルロールを伴うソードウィングによるアタックで、数機がまとめて破壊され。
 次の瞬間、ティターンの側面と後背から襲いかかった射撃が、ティターンの頭部と腹部を貫く。
 ――幾度か爆発が起き、ティターンが推進力を失って落下を始めた。

●何もない世界
「‥‥」
 墜落していくティターンのコックピットの中、ロアは霞がかった思考を巡らせる。
(ボクたちが負けるはずはなかったのに、どこから道を踏み間違えたんだろう‥‥)
 今や既に、半身を失っている。最後の一撃はコックピットももっていっていた。
 負けるはずがない、というのは昔からバグアが持っていた優性論的な根拠で言っているわけでもなかった。
 油断したつもりは、なかった。とすれば敗因は、人類の成長がもはや自分たちの予測の追いつく範囲ではなかったということなのか。
(‥‥悔しいな)
 初めて素直にそう思った。司令の補佐とあるべき副官としては一番やってはいけない過ちだ。
 ただいずれにしろ、もうその補佐としてすべきこともほとんどないだろう。何故なら今頃バリウスは――。
『元気かね?』
 バリウスの今の状況を瞼の裏に思い描こうとしたところで、思わぬ横槍が入った。追いかけてきた長郎機だった。
「‥‥そんなわけないじゃない。ていうか、何しにきたの?」
『まあ、何かしらメッセージを発したい様に感じ取れたのでね』
 そう言う長郎がコックピットの中で肩をすくめているであろうということは容易に予測出来る。
「‥‥君たち風に言うなら、『仇討ち』だったんだよ」
『ほう、命と引き換えにかね』
 すると長郎は、ロアが予想だにしなかった提案をした。
『換わりにこれを鹵獲してみるのはどうだろうか?
 ある意味『命』に値するのでね、くっくっくっ‥‥』
「――要らない」
 けれども、ロアは考えるまでもなくそう答えた。

 欲しかったのはそんなものじゃない。

 それだけ最後に呟いて。
 ロアは自ら、ティターンの自爆スイッチを押した。

 ■

 長郎以外の傭兵たちとベリエス小隊は戦域を抜け、尚もインド洋上の空を駆けていた。
 目指す方角の先には、マダガスカルがある――のだが。
「‥‥何よアレ。何でここにいんの」
 最初にその異様な姿に気づいたのは菖蒲だった。
『それ』が浮かんでいたのは、マダガスカルよりは北方の空。
 方角さえ気付いてしまえば、後は誰しもがそこに在ったモノの名に疑いを持つことはなかった。

 ――ギガワーム。

 傭兵たちの眼下に迫りつつあったマダガスカルの地は、まるでそこにあった何かがごっそり抜け落ちたような空虚感を漂わせていた。