●オープニング本文
前回のリプレイを見る ラジオから流れる音声を背に、女性は居間を出た。
歩く廊下の壁や床は白一色に塗りつぶされている。柱などによる壁の凹凸と、床に敷かれたカーペットだけがそこが何もない空間ではないことを知らせる証だ。
カーペットの色は、やや黒みがかった紅。周囲の色が色だけに、禍々しいほどに映えている。
それの上を歩くことは、少なくとも女性にとってはとても気持ちが良いことだった。
白という色も好きだが、それ以上に――。
世界という真白なキャンパスの上を赤黒い炎と血で染め上げんとす、己の芸術の完成までの道のりを辿るようで。
かつて彼女の両親が一人娘である彼女のために、と作った彼女専用の別荘。
それ全体が白くなったのは彼女が一度失踪し、再び姿を現した後の話だが――それとは関係なく、家の裕福さを表すが如く屋敷の内部も十分に広かった。
長い直線を五分ほどかけ歩き抜け、女性は庭へと出る。
そこには――二機のKVを慣れた手つきで整備する、ひとつの人影があった。
元は二機とも破壊された状態で、天秤座たる老人から貰ってきたものである――が、片方に関しては、少なくとも見た目は破壊前の姿を取り戻していた。
そうなることを望まない気持ちがないわけでもなかったが、自分と同じ立場にある者が既に数名堕ちた、ということは彼女の耳にも入っている。
用心と、芸術の完成のためにはもう一枚手札が必要だった。だからこうして整備を頼んだのだ。
「‥‥どうですか?」
問うと、人影は女性の存在に気づいて整備の手を一度止める。
女性の姿を認めてからすぐに視線を目の前の内部機関に戻し手を動かし始めた。
「ご覧の通りです。片方は見た目は直ってますけど、中身はまだ不完全ですよ。
今やってるこっちはまだまだかかりそうです」
「‥‥一か月で出せますか?」
「どれだけ人使い荒いんですかあなた方。アジアから仕事終わらせてすぐ飛んできたっていうのに」
女性の言葉に対し整備士は一度毒づいた後、
「――まぁ、自分としては機体を壊してくれるのは大歓迎ですが」
笑みを浮かべる。心底それだけを待ち望んでいるようにも見える笑顔には、しかし邪気はまるでなかった。
「で、出せないこともないですけど、そんな早くに出しても『あなたが』面白くないことになると思いますよ。
色々弄りたいんで、それが終わるまではファームライドで我慢してください」
「‥‥仕方ないですね」
女性は肩をすくめ、それで会話は終わった。
(「‥‥さて」)
女性――イネース・サイフェルは、再度歩き出しながら考える。
部下からの報告によれば、消すべき存在は保護されラスト・ホープにいるという。どのみち訪れる期は今ではないだろう。
ならば。
(「‥‥借りも返さなければなりませんし、ね」)
イネースは窓の向こうの空を見上げる。
見上げた方向には海――そしてイベリア半島があった。
■
「――来たね」
ユネは真剣な面持ちで能力者たちを出迎える。
そのすぐ横では、一人の女性が俯きながらも待っていた。
「もう既に会ったことがある人もいるかもしれないけど、一応紹介しておこうか。
彼女の名前はジネット・ヴィルヌーブ。ゾディアックのイネース・サイフェルの過去を知る――いまや数少ない、一人だ」
妙に含みを持たせたユネの言い回しに、能力者たちはふと疑問を抱く。
「数少ない、って?」
「‥‥そうか、そこから話さなきゃいけないね」
ユネは伊達眼鏡を押し上げ、目を伏せて語る。
「ジネットがUPCからさえも逃れるようにしていたのは――。
ゾディアックとして戻ってきたイネースが、かつての自分に関わりがあった人、加えてその人と親しかった人をも‥‥手にかけたからなんだ」
その最初の被害に遭ったのが、サイフェル家の別荘があった――以前、メデューサキメラを討伐しに赴いた街だ。
実のところ、キメラが訪れる直前にイネースが訪れていたという。そして人を殺め、去って行った。
ジネットが生き残っていたのは、運が良かったとしか言いようがない。彼女はイネースが現れた時、所用で街を離れていたのだ。
戻ってきた彼女は事件を知り――そして直後にキメラに襲われた街から逃れ、UPCへ、やがてユネの元に届く手紙を送る。
自分といれば、自分と親しくなれば――。
だから彼女は逃げていたのだ、とユネは言う。
「だけど、この間助け出された時、ついでにその後にもいろいろあったんだよ」
必ず護ると言われたこと。
それが心に響いてラスト・ホープに来たものの、今度は――傷つけるのではなく――純粋に誰かの負担になるのかと思って最初は誰とも関わろうとはしなかった。
が、
「逃げてばかりじゃ、決して誰も救えない‥‥」
不意に、ジネットが俯いていた顔を上げた。
「そう、ステラさんに言われたんです」
ステラというのは、ジネットが逃れに逃れていきついた村がキメラの大群に襲われた際、彼女と一緒に保護された女性である。
「だから」
ジネットの声は震えている。まだ、イネースへ抱く恐怖は残っているのだろう。
それでも、瞳に浮かべた色だけは――以前と、少しだけ違っていた。
「だから――私が知っている限りの彼女のことは、全てお教えします。
もしかしたら――逃げていた私と違って戦っていた貴方たちなら、それがあの人を止めるきっかけに、出来るかもしれないから」
●リプレイ本文
尋問当日。
ゼラス(
ga2924)はユネに場所を尋ねておいた、ジネットとステラのLHにおける家を訪れていた。
扉を開けたステラが自分を見て一瞬驚いたのを見た後、ゼラスは告げる。
「あ〜〜‥‥何時ぞや。ん〜〜‥‥今の暮しには慣れたか?
‥‥あぁったく、駄目だ駄目だ。今のナシ」
仕切直し、と手を軽く扇いでから再度口を開く。
「‥‥こっち来てくれて感謝してる。
で、だ。
ジネットの事なんだが‥‥今日の事はあんたも知ってるだろ?」
ステラが肯いたのを確認し、続ける。
「それで、出来ればあんたにも同席して欲しい。
俺たちじゃ気付けない部分の支え‥‥フォロー的なのを頼めないか?
あまり愉快なお茶会にゃならねぇ事は保証出来ちまうが‥‥頼めるか?」
もちろん、とステラは肯いた。
ゼラスがステラを連れて尋問の会場である会議室の前に来たところで、通路の反対側から来たユネとジネットに出くわした。
四人揃って中に入ると、既に他の九人の能力者たちは各々の思う位置取りで待ちかまえていた。
ジネットは会議であれば議長席となる場所を勧められ、そこに腰かける。その両脇にはステラと、クラウディア・マリウス(
ga6559)が座る。
全員が腰を落ち着けたところで、自己紹介を兼ねた挨拶が始まった。
順に名を告げながら、
「尋問とは言っても形式上の建前だろう。軍などにしても彼女の情報は喉から手が出るほど欲しい事だろうしな。
貴女が協力的であるのならば是非もない事だ。気軽に進めようじゃないか」
御影・朔夜(
ga0240)がそう、ジネットの気を紛らわせることを言い、
「貴女も何か質問があればどうぞ。答えられる範囲でなら何でも。その方がフェアでしょうし」
エリアノーラ・カーゾン(
ga9802)がそう告げる。
全員の自己紹介が終ったところで、ユネが、
「さて――それじゃ、そろそろ始めようか」
と言うと同時に――アグレアーブル(
ga0095)が、貸し出された録音機の録音ボタンを押下した。
●始まりの終り
「LHの生活は慣れましたか?」
質問会は、そんなクラウディアの質問から始まった。
「ええ」
「こっちは治安がいいから、怯えることもないですし」
短く肯いたジネットの言葉を代弁するように、ステラがそう苦笑した。
「怯える――そういえば、ジネットさんって、イネースが何歳の頃から仕えてたんっすか?」
魔宗・琢磨(
ga8475)が訊ねると、ジネットは指折り数え始めた。
「――あの人が、お嬢様が十二歳の頃から‥‥八年。去年の夏まで、ですね」
「給仕をしていた頃、イネースの事が好きでした? 嫌いでした?」
レイヴァー(
gb0805)の質問には、ジネットは苦笑めいた笑みを浮かべて答える。
「自分で言うのも何ですが‥‥給仕の中でも私は比較的年齢が近い方でしたから。お嬢様がおかしくなり始める前までは、姉のように慕ってもらっていました」
彼女の生活ぶりは、周知の通り優雅なものだったという。
何不自由ない生活。
その中でも一度大きな変革があったようだが――核心をつく気配がしたため、能力者たちは意図的にそれについての質問は後回しにすることにした。
「イネースに何か、苦手なものはありましたか?」
クラウディアが訊ねる。
「運動はあまり得意ではないようでしたが、今はもうあまり関係ないでしょうね‥‥。
後は、夜を嫌っておられました。
黒という色が好きではなかったのだと思います。‥‥白を愛していた方ですから」
返ってきた答えは、そんなものだった。
■
軽めの質問をぶつけ続けているうちに、昼になった。
会議室から少し離れた場所には厨房があり――質問が一旦落ちついた頃合いになって、玖堂 暁恒(
ga6985)とトリストラム(
gb0815)がそこから自作の料理を運んできた。
「本日はご用意しましたのは『シラスのスパゲティ、青大豆と青じそ入りのオリーブオイル風味』で御座います。
前菜にはサラダかミネストローネ、食後は手作りアイスにコーヒー、紅茶をご用意致しております――」
どこのシェフかと言われんばかりの流れるような説明をするトリストラム。
「シチリア産の塩や、アルトメーナなど味付けのスパイスにも拘り〜」
「トリス‥‥わかった、わかったから。さっさと食おう。時間も限られてるんだから。どうしても続けたいなら宿で聞いてやるから‥‥」
蘊蓄を語ろうとし始めた彼に対し、レイヴァーが呆れたようにストップを入れた。
一方暁恒は親子丼とお汁粉を作ってきていた。欧州育ちのジネットとステラにとっては、なかなか新鮮な味だったようだ。
●兆候
昼の休憩が終り――。
能力者たちは、午前よりも重い質問をすることにした。
「イネースが明確に変ったっていう切っ掛けって、何かあったっすか?」
真っ先に切り出した琢磨のその言葉に――ジネットは答える。
「それは――お嬢様が、エミタの適性を持っていることが関係していると思います」
その告白には、ユネも含め全員が各々に驚きの反応を見せた。
「え、確かイネースはバグアに攫われる前は一般人だと‥‥」
「その情報は間違ってはいません。
ですが、適性を持っている人間全てが能力者になる、というわけではないでしょう?」
「‥‥確かに」
「人のために何か出来はしないか――成長するにつれそういった考えを持つようになったことも、いつだったか話してくださいました。
能力者となる、ということもそのひとつの手段――そう考えて、適性検査を受けられたようなのです」
「――だが、奴は実際に能力者にはなっちゃいねぇ。つまり‥‥」
暁恒が言いかけたことを察し、ジネットは肯く。
「ええ、ご主人様や奥様は反対なさいました。
それはお嬢様への愛情もあったとは思いますが――いずれは他の家から婿を取り、跡を継がせるという未来から逸れさせることを許せなかったのだと思います」
ところが、ここで両親にとっても――ジネットたちにとっても誤算が生じる。
それまで親の意思には抗ってこなかったイネースが――真っ向から怒り、抵抗したのだ。
「お嬢様が何故そうしたのかは私にも分りません。
ともかく、このままでは家から逃げ出してでも己の意思のままに動きかねない――。
そう考えたご主人様は、お嬢様を幽閉するという強硬手段を取られました」
そこでジネットはユネを一瞥し、また前を――能力者たちの方を向く。
「その時に使われたのが一番最初にお教えした、キメラに襲われた街の屋敷です」
「――!」
その場所を知る一部の能力者たちの脳裏に、ある光景が蘇る。
荒れきった部屋、そして水彩画――。
そのイメージを見透かしたかのように、ジネットは告げた。
「‥‥思えば、あの時からお嬢様は少しずつ変っていったように感じます」
●終りの始まり
「‥‥彼女は絵を描いている時、どんな様子でしたか?」
黙々と記録を取り続けていたアグレアーブルの質問に対し、ジネットは少し言葉を選ぶように視線を彷徨わせてから、口を開く。
「――姿勢などは幽閉される前と後ではあまり違いはなかったと思います。
ただ幽閉された後は、風景画のモデルなどを探しに外へ出ることが許されなくなったものですから‥‥徐々に、お部屋に籠りきりになる時間は長くなっていっていました」
「絵のモチーフや色彩は?」
「風景画は特に多かったように思います。山の緑だとか、空の蒼だとか――そういった広く、鮮やかなものを中心にした画が多かったです。
けれど‥‥」
ジネットはそこで目を伏せ――心持ちそれまでより静かに、言う。
「‥‥幽閉されてから時間が経ち始めて、段々と描くものは暗くなっていっていました」
「暗く?」
瞳を開いたジネットは、訊き返したアグレアーブルを見て首肯する。
「干からびきった荒野などの、それ自体が鮮やかというには程遠いものです。
それで‥‥更にそれだけでは足りなくなったらしく、人を描くようになりました」
「あの部屋に残っていた水彩画のような?」
「ええ。‥‥最初は生きている人間を一人二人、でしたが。
そのうち絵の中の人が倒れているようになり――最終的には、あの絵のように」
「そう、ですか」
その言葉を最後に、アグレアーブルは再び手元のノートに視線を落し、筆を走らせ始めた。
「幽閉されてから――他に何か変ったことはない?
こんなことをしていたとか、言っていたとか」
隣に座るクラウディアにそう訊ねられ、ジネットは再度、目を伏せる。
「‥‥お嬢様が攫われた部屋のこと、覚えてますか?」
「うん」
「――あの部屋が壊されているのは、もちろんバグアがお嬢様を攫いに来た時の影響も大きいのですが。
それ以前にすでに、お嬢様自身の手によってそうなったのもあるんです」
幽閉生活が始まって、二か月ほど経った時――ジネットたち屋敷の給仕は、イネースの部屋で何かが壊れる音を耳にした。
部屋に慌てて飛び込んだジネットたちが目にしたのは――何かを投げつけて窓ガラスを内側から割った姿勢のまま佇む、イネースの姿。
そして、その表情は――。
「お嬢様は、決して感情がない方ではありません。ですが――声を上げて嗤っているのは、どこかずれてしまったような笑顔を見たのは‥‥その時、初めて見ました。
――その直後からですね。絵の中で人が死んでいるようになったのは‥‥」
それから、毎日のようにその奇行は行われるようになった。
破壊は日に日にエスカレートし、修繕手配が追い付かなくなるまでそう時間はかからなかった。
やめてください、と彼女に懇願したこともある。
けれど彼女から返ってきた答えは、
『‥‥どうせいずれ何もかも、壊れ、朽ち果てるんです。
それが今ではいけない理由がどこにありますか?
――醜く朽ち果てるのを待つよりは、健在である今だからこそ終らせた方が‥‥一瞬だけ強烈に光る星のように、美しいとは思いませんか?』
というものだったという。
それを聞いたジネットたちはパリにいるイネースの両親に泣きついた。
これも幽閉生活のせいではないか、と。
両親は驚いたようだったが、数日経ってから
『能力者にならないと誓うのなら、パリに戻ってきてもいい』
という返答を出した。
しかし――。
「‥‥バグアがやってきたのは、その返答を頂いた矢先のことでした」
「その辺りのこと、当日のことも含め訊いてもいいかしら」
エリアノーラが口を開く。
「彼女はバグアに攫われた。これに間違い無いわよね?」
ジネットが首肯したのを確認し、次の質問をぶつける。
「その行動以外に、生活パターンが変った、とかいうことはある?」
「――その頃はもう、食事の時間以外はいつも部屋に籠っておられました。
鍵もかけられていたので、ずっと絵を描いていたのかは分りませんが‥‥」
「‥‥誰かからの紹介とかで、素性のはっきりしねえ来客とかはなかったか?」
暁恒の問いには、「いえ」ジネットは首を横に振った。
「――そうですか。それでは、彼女が攫われた当日のことをお訊ねしたいのですが‥‥」
問いを投げかけたのは、トリストラム。
ジネットは思い出す仕草を見せてから、言葉を紡ぎ出す。
「その日は――夜が明ける前から、お嬢様は何かを壊していらっしゃいました。
一日に何度も、ということは珍しくなくなっていたのですが、あの日は特に多かったです。
それで‥‥正午頃だったと思います。
バグアが来た、という騒ぎが街で起っているのを耳にした直後、それまでよりもずっと恐ろしい音がしたのは‥‥」
「‥‥それが、バグアがイネースを攫いに来た瞬間、ということですね?」
ジネットは、その言葉に肯く。
イネースがバグアに攫われたことを知った当主は、屋敷を封鎖してパリに戻ってくるようジネットたちに命じる。
暗鬱たる思いを抱えながら給仕たちが準備をしていた時、新たな事件が起こった。
街へ戻ってきたイネースの凶行である。
「――彼女が、自分と関わりある人間を手にかけたのは何故だと思う?
貴女自身の推測を交えてでもいいから聞かせてくれ」
朔夜に訊ねられ、ジネットは暫し考えてから――口を開く。
「‥‥恨まれているんでしょうね、皆。自由意思に無理やり蓋をしたのですから。
能力者になりたい、という気持ちが強くありすぎて、でもそれが叶うことはなくて――。
お嬢様なりに苦しんだ結果が、変な方向に向いてしまったようにも思えます」
だからバグアとして力と、それを振るえる自由を得たイネースは――まずその自由を奪っていた者たちに対しての報復を思い立ったのではないか。
ジネットの推測はそのようなものだった。
洗脳された後に思い立ったことなら、肯ける話である。
■
その後も質問は続き――気付けば窓の外の太陽は傾きかけていたので、そろそろ場を締めよう、ということになった。
「じゃあ、私から最後にひとついいかな?」
クラウディアは訊ねる。
「イネースが行きそうな場所、って心当り‥‥ある?」
「いえ‥‥もう、関係者は私以外は残っていないはずですから‥‥あ」
何かに気づいたように、ジネットは目を見開く。
「でも今、確かスペインで戦争が起っているんですよね?」
「イネースが動く?」
問われ、ジネットは自信なさげながら肯いた。
「可能性は、まったくないことはないと思います‥‥」
「――今のイネースについて、貴女はどう思ってるの? 可能性がないわけじゃない、って理由も含めて訊きたいんだけど」
エリアノーラの言葉に、ジネットは――やや間をおいてから、口を開いた。
「芸術に関して凄く‥‥純粋、という言い方もおかしいんですが、そういうこだわりを持っている点は昔と変っていないと思います。
自分の絵を描けるキャンパスがあれば、どこでも絵を描く人でしたから」
最後に、喋るのは苦手と称して尋問は全て仲間に任せ、尋問の間中窓際に待機して警戒を続けていた西島 百白(
ga2123)が『紅い人型キメラ』のことや『それを中心に生産しているキメラ生産工場』のことを尋ねたが、ジネットはどちらも心当りはないということだった。
アグレアーブルが録音機と自らの手記をユネに提出する横で、
「貴女の覚悟は、確かに受け取りました。この情報を元に、何処まで迫れるかは分りません。それでも、貴女の覚悟を無駄にしないように、最善は尽くしますので」
「辛い事を色々背負って――ここまできてくれてありがとう、ジネットさん‥‥。
俺達も、頑張るよ。頑張って、イネースを止めてみせる‥‥!」
レイヴァーの言葉に続き、琢磨も力強く誓う。
横ではゼラスも、ステラに声をかけていた。
「ステラも今日は助かった。困ったら呼びな、なれる助けにはなってやる」
その時はよろしくお願いしますね、とステラも彼に笑いかける。
そうして穏やかなまま一日が終り。
『乙女座がスペイン戦線に出没した』という知らせをユネが受けたのは、その翌日のことだった。