タイトル:【MS】純情兵器オトメ砲マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/08/29 02:58

●オープニング本文


 UPC主導による大規模な映画撮影に乗じる形で、次々と能力者や戦場を描いた映像作品が作られ始めた。
 その中には本格的な戦闘を描いたものももちろん多い。
 が、少しでも戦場の事情を知っている者なら馬鹿馬鹿しいと思うようなものもあったりするわけで――。

 秋元シュウジといえば、まったく知名度がない状態のデビューから一年足らずでアニメ雑誌で『新進気鋭』とまで評されるようになったアニメ監督である。
 得意分野はラブコメ。よく深夜枠アニメのスタッフ一覧で見る名前になっている。
 彼も現在の流行に応じて初めて戦場を描いた劇場版映像作品を作るという話題は、アニメ雑誌で大きく取り上げられた。

「で、何で私のところに来るわけ?」
「どうせやるなら実際の能力者や軍人にやってもらいたいんだけど、他にツテないし」
 シュウジが訪れたのは、ラスト・ホープにある朝澄アスナの執務室だった。
 実はこの二人、小学生時代からの幼馴染だったりする。といっても互いにただの腐れ縁と思っている節が強く、映像作品のためのツテに使われたアスナはいい迷惑だ。
 ただ最近の世間のことを考えると、特別断る理由もないのも事実。
 アスナは盛大に溜息を吐きだした。
「まあ、いいけどね」
「そう言ってくれると助かる」
 これで駄目だと言われたら途方に暮れていたのかもしれない。シュウジは心底安堵したような表情を浮かべた。
「それで、どんなのを作るの?
 この間家に帰った時に、次は実写で何かするらしいって聞いたんだけど」
「これがその企画書。っていうかセットはもう作り始めてる」
 シュウジはそう言って、テーブルの上に企画書と呼んだ文書の束を投げだした。
 アスナはそれを手に取る。

 企画書の表紙には『純情は世界を救う(仮)』と書かれていた。

「‥‥戦場を描くんじゃなかったっけ?」
 タイトルだけでそんな感想が漏れた。
「読めば分かるさ」
 シュウジの答えももっともだ。アスナは胡散臭いと言いたげな表情を浮かべながらも文書を一枚めくる。
 世界観自体は現代と同じ――人類とバグアの戦争の時代。
 ただ、ある単語が設定一覧を見ていたアスナの目に留まった。

『HW(エッチワーム)』
 バグア軍側の主力兵器にして最多の数を誇る兵器。
 その外殻はただ強固なだけでなく、うっすらと張られているピンク色(イケナイ色)のオーラで護られている。
 そのためSES搭載でない兵器では破壊不可能。HW一機を撃墜するのにKVも三十機は必要である。

「――これ、何かの間違いじゃないの?」
 指差してシュウジに指摘してはみたものの、
「んなことない。それはそれでいいんだ」
 そんな答えが返ってきた。
「何でそうなっているかも全部読めば分かる」
「はあ‥‥」
 なんか頭が痛くなりそうな予感がした。


 痛くなった。


 KVなど実際の兵器も使う、というのはまあいいとしよう。ちなみにKVの読みはナイトフォーゲルのままだ。
 ただ問題は、UPC軍側の秘密兵器とされた架空の兵器の名前と設定である。

『オトメ砲』
 現在試作中の対HW用の秘密兵器。
 装置からはケーブルが計八本伸びており、それぞれ先端はヘルメットに繋がっている。
 ヘルメットを装着した者の、思わず顔を赤らめてしまいそうなほどの妄想がパワーの源。
 それが純であればあるほどゲージは上がりやすくなり、逆に不純だと下がったりもする。
 ゲージ装填時間は三十秒。それだけ経つとゲージの溜まり具合に関わらずレーザーが発射される。
 ただし試作品が故に三発しか放てない。
 またゲージが最大であれば一度に三十機ものHWの撃墜が見込めるが、それを放った時点で調整が必要になるため使えなくなる。
 ヘルメットから伝わる妄想以外に、十台の自転車による人力装填機能もある。
 ただし十台がかりで全力で頑張っても、パワーはヘルメット一台分程度。

「‥‥」
「あ、ちなみに妄想するとパワーゲージが上がるってのはホントだから。
 詳しく説明すると面倒になるから省くけど、脳細胞がどうとかこうとか」
 もちろん作品で出すような兵器としての殺傷能力はない。ただゲージが上がるだけだ。
 ただしゲージの上がり具合は実際の演出・展開にも反映されるというから、演技といえどそれなりに真面目に(?)妄想しなければいけないようだ。
「――そこまで本格的だと、清々しいくらいに馬鹿ね」
 アスナは先ほどよりもずっと深い溜息を吐きだした。

「何ならアスナも出る? ある意味うってつけだと思うんだけど」
「‥‥人手次第でね。一応、請け負った責任あるし」

●参加者一覧

的場・彩音(ga1084
23歳・♀・SN
水理 和奏(ga1500
13歳・♀・AA
篠原 悠(ga1826
20歳・♀・EP
緋霧 絢(ga3668
19歳・♀・SN
阿野次 のもじ(ga5480
16歳・♀・PN
芹架・セロリ(ga8801
15歳・♀・AA
飛田 久美(ga9679
17歳・♀・GP
美空(gb1906
13歳・♀・HD

●リプレイ本文

●羞恥心を捨て去って!
『純情は世界を救う(仮)』の目玉チャプターである『オトメ砲発射』のシーン、撮影当日――。

「UPCの映画撮影で女優デビューも果たしたし、演じ切って見せましょうっ!
 ‥‥え? 妄想? 演技じゃなくて?」
 篠原 悠(ga1826)の疑問ももっともである。妄想をそのまま使った映像作品など前代未聞だろう。
 ――というかむしろ、妄想の内容にもよるだろうが普通は恥ずかしい。
「それにしたって、何なのこの内容は‥‥!」
 だから的場・彩音(ga1084)は戦慄せずにはいられなかった。
 彼女たちを含む八人の能力者たちはスタジオに既に入っており、その眼前では現在進行形で『オトメ砲』と名付けられた砲身の長い大砲のセットがセッティングされている。
 それを眺め、思ったことを口にする。
「エッチワームをオトメ砲で退治なんて、オタク向けじゃない!」
 彩音は叫んだ後――少しだけ頬を赤らめ、呟く。
「でも、引き受けた以上はやらないといけないわね‥‥」
「純情兵器オトメ砲、かぁ‥‥フジュンなのはダメなんだよね」
 フジュンってどういうことだろう、と首を傾げる水理 和奏(ga1500)はまだ十三歳前後。
 不純なんて言葉の意味は知らなくてもいいお年頃である。もしこの様子が映画の映像に使われていたら「そのままの君でいて」と思う男性も、多分いるだろう。
「美空は兄上が大好きなのであります」
 妄想する前から思いきり宣言しちゃってるのは美空(gb1906)。
「あわわ、エッチな関係ではなくてでありますね、あのう、そのう、家族として、兄として慕っているのでありますよ」
 誰にもつっこまれてないのにあわあわと弁解する辺りがまた。素の状態でこれなら『兄上』のことについて妄想を始めたらもはや止められる者はいないかもしれない。
「‥‥ボクの心の中は――いつもお野菜でいっぱいです。野菜畑です」
 こちらもいけしゃあしゃあと言ってのける自称菜食主義者、芹架・セロリ(ga8801)。
 その言葉の真偽は『自称』な辺りから察そう。

 そんなこんなで、撮影が始まった。
 シーンの頭はとある基地へのHWの襲来。ヘルメットワームではなくエッチワームであることを間違ってはならない、という空気が何故かスタジオ内には流れていた。フォースフィールドの代わりとも呼べそうなピンク色のオーラに関しては後で合成編集するらしく、今はただのヘルメットワームによく似た巨大模型がスタジオに構えられている。その数、五十。
 そして別のスタジオでは、八人の能力者が基地の一フロア――オトメ砲の原動力となるヘルメットやら自転車やらがあるフロアに駆け込んでいく。自転車を漕ぐエキストラの中には朝澄・アスナ(gz0064)の姿もあった。シュウジに協力して能力者たちをこんなところに連れてきてしまった手前、自分も何かしらはしないとと思ったようだ。
 それぞれの座席に着いた能力者たちは、次々とヘルメットを被った――。

●第一射――恋愛だけがオトメ妄想の形じゃないんです――
 そこは悲鳴と銃声、破壊音が空気をかき鳴らし、濛々と上がる土煙と崩れ落ちた建物、大地にこびりついた血痕と倒れ伏す生命の残骸が空の下に広がる――つまりは、戦場だった。

 崩落した建物の陰に出来た敵の死角。
 防空壕にも似たその場所には、逃げ惑った末になんとかこの場に辿りついた僅かな人々と美空、そして彼女が『兄上』と慕う少年の姿があった。
 ただし少年は負傷していて、戦える状態にはない。低い背丈の割に鍛え上げられた身体――その背中にはざっくりと裂傷が走っている。
 美空はそんな兄上を心底心配そうな表情で介抱していたが――やがて、迫りくる敵の存在に気がついた。いよいよこの場所も安全ではなくなったらしい。
 何重にも群がって襲い来る敵――キメラに対し、単身立ち向かう美空。

 楽と言えるはずがない戦いではあったが、何とか悪意を振り払うことに成功する――(妄想だから何だって出来るのだ)。
 その頃には戦場となった街全体が、穏やかな空気と音を取り戻していた。
 そのことに気づいて緊張の糸が切れた美空は、戦闘態勢を解いてへたり込む。
「疲れたろ。‥‥よく頑張ったな」
 そんな彼女の背中に声がかけられる。振り向くと、治療してもらったおかげか立ち上がれる程度には回復していた少年の姿があった。
 少年は穏やかな表情で、美空の頭に手を伸ばす。

 ――たとえ妄想の中でも、この子供扱いだけはどうしても抜け出せない。
 だが、それがいい。
 これを心地よい感触だと感じるのが何よりの証拠だと思う美空であった。

 ■

 ぐ、いぃぃぃ‥‥ん。
『オトメ砲』のパワーゲージが二割から三割の間くらいのところまで上昇した。

 ■

「みどり〜、ご飯だよ。肉だよ〜お食べ〜♪」
 黒い髪と目の少年がそう言ってセロリに差し出した皿の上には、てんこ盛りの肉が載っていた。
 ちなみにみどり――碧というのはセロリの本名だそうだ。その名を告げる少年――セロリの生き別れの兄の背後には何故か紫のバラが無数に咲き誇っており、更にそれを飾り立てるように大量の食物が並んでいる。主に肉。それと食物の端の方では何故かんもー、と数頭の牛が鳴いていた。肉が牛肉だからだろうか。
 しかしまあ、セロリはそんなことはお構いなし。
 兄が目の前にいて、肉がそこにある――頭の中をその二つだけが駆け巡る。

 むしろそれ以外のことを全く考えていない辺りがある意味純粋すぎた。

 ■

 ぐいんっ。
 ゲージが半分くらいまで上昇する。

 ■

「私、阿野次のもじ16歳。ごくごく平凡な(以下略」
 阿野次 のもじ(ga5480)の妄想は無意味な決めポーズから始まる。
 略された前振りの後に『妄想ぜくじ武闘伝★スゴイよ阿野次さん』というテロップが出、シーン再開。
「ボクは誰かを守れるような王子様になる。あ、悪者に苛められている三つ編み少女がいるぞ」
 平凡な少女は王子様とか言わない。
 そんなことはさておき、彼女の言うとおりなんか黒いのに囲まれる少女の姿があった。
 仮に――というかのもじが勝手にアンナと名付けたその少女を救出し、
「アンナ」
「のもじお姉様」
 ――王子様ごっこは卒業したものの、なんか本来目指したものとは別の方向性の友情が育まれることになった。

 以下いろいろ略、して、のもじの妄想は一気にシーンが変わる。
「乙女のフィーリングは無限大。明日への期待が未来を照らす」
 そんなことを真顔でのたまうのもじは何故か巨大なKVの中におり、そのKVはといえば遥かなる宇宙の中にいた。
 手にした銃器の砲身を、やっぱり黒かった巨大な敵に向ける。
「気持ち膨らむが胸は膨らまない相反する二重螺旋」
 シーン的には格好いいが胸がない人にまことに失礼な発言である。まあ妄想だし。
 ――そして引き金を、引く。

 ■

「兄は‥‥兄のことは――実は全然覚えてない。 ちょいさーっ!!」
「乙女の私たちの純情は銀河を超越〜。
 全ての揺れる心を込めて! 今純情のフォーリング・ラブ・ハート・イリュージョン!!!」
 妄想にかまけるセロリとのもじは、実際にそんなことを叫んでいることにはまったく気がついていない。
 ――ゲージ的には七割弱。後々の編集ではこの第一射で十五匹のエッチワームが葬られることになった。

●第二射――憧れのあの人と――
 飛田 久美(ga9679)は、普段はサッカー部のマネージャー。
 だからつい考えてしまうのも、そのサッカー部にいる片思いの相手なのだ、が――。

「ちょっとちょっと、それって、考え事しながら戦えってことでしょ! 無理ありすぎ!」
 これがオトメ砲に関する彼女の印象。まあ、至極ごもっともな話である。
 とはいえその考え事をしなければゲージは増えない。なんか矛盾を感じつつ、久美は妄想の世界に入り込んだ。

 思い描いたのは、やはり片思いの相手。
 夕暮れのグラウンド。試合前日の練習を終えて部室に戻ろうとする彼の前に立った久美は、
「練習お疲れさん。明日の試合、頑張ってね!」
 そう言ってタオルとスポーツドリンクを差し出す――その手が、不意に受け取る彼の手と触れあう。
 ――気がつけば二人はその手を取り合っており、落ちる夕陽をバックに見つめ合っていた。

 ■

 この後一体自分はどうするんだろう。
 さっきの突っ込みはどこへやら、そんな想像にふける久美によって、一射目発射後ゼロになったゲージが再びじわじわと上がっていく。

 ■

 目の前には某メガコーポレーションの若き社長の姿がある。
 頑張ると褒めたり額に口づけをしてくれる彼女を「お姉様」と慕う和奏は思う。
(「外国ではちゅー当たり前だっていうけれど――僕は恥ずかしくてっ‥‥」)
 それに、今度胸が大きくなる方法も教えてくれるという。
 いろいろ優しくしてくれるのがうれしい。
 でも――。
(「いつか僕もお返しにちゅーしないと、かな‥‥?」)
 想像してみた。
 ――妄想の行く先は、結構アレな方向だった。

 ■

 妄想にふけっている彼女は気づいていないが、こっそりゲージが下がっていたりする。
 つまりはそういう妄想だったのだ。

 ■

 自らちょっとアレだと思い思考を振り払う。
 今度は男性を思い浮かべた。UPC軍の重鎮とも呼ぶべき髭面の男性である。
 和奏は以前、将来軍人になって彼の部下になるという約束を交わしていた。
 そんなシーンを思い描く。
 シェイドを駆るゴスロリ少女ほか、彼の命を狙う者は結構たくさんいる――和奏はたとえ庇ってでも、彼を護りたいと思う。
 それに――。

 部下になれれば、本来なら滅多に会う機会がない彼ともずっと一緒にいられる。

 考えただけでもそれは凄く幸せなことで――。

 ■

 一度下がったゲージが、先ほどの値を超えて急上昇――。
「最大出力、わかな中佐砲発射っ!」
 妄想の世界から帰った和奏は、突発的に考えた砲撃の名前を叫んだ。

●最終射――今傍にいる人と――
 彩音にとって現実で一番近しい関係にいる男性は、相棒である。
 ではもしそれが違うものだったとしたら――?

 始まりは一瞬、しかも同時の一目惚れ。
 それだけ強く惹かれあったからにはとんとん拍子で二人の距離感は縮まっていく。
 頻繁に連絡を取って会うようになり、彼の家に行ったり、彼のために料理を作ってあげたり――。
 二人でショッピングに出かけた後は雰囲気のある洒落たレストランで食事。
 その帰り道には誰もいない公園で、街灯の光に照らされながら口づけを――。

 ■

 想像するだけで叫びたくなる――。
 第三射は一気に四割近くゲージが上昇した。

 ■

「おはよう、良く眠れたかな?」
 悠の朝は、大好きな人にかけられたそんな言葉とともに始まる。
「うん」
 小さく肯いてから取る行動は決まっている。
 抱きついて、そのまま二人でベッドに倒れこむ。そして朝の穏やかな光が部屋の下、またまどろんでみたり――。

 傍にいるだけでも幸せ。
 だけどぎゅっとしてみたり、キスをするともっとずっと心の奥底が暖かくなるのを悠は自分で分かっていた。

 大好きな人はいつも資料室に籠っているから、たまには外に連れ出して。
 仮にその脳裏に資料室のデータや数値が残っていたとしたら、人目を憚らず抱きついたり、口付けをしたりして思いきり甘えてそんなことを考えさせなくしよう。
 そうしたら、いつも言ってくれる
「悠はかわいいな」
 という言葉に特別な意味が含まれていたり――。

 帰り路の薄闇の下、いきなり
「大好きだよ」
 なんて優しい表情で抱き締められたり、そしてそのまま――。

 頭が沸騰しそうだ。
 でも、それでも――そんなことを考えてしまうのは、それだけ好きだから。
 だから決して拒んだりしないし、むしろ自分からも返したりして――。

「大好き」
 結局のところ悠に、大切な人を想う言葉はそれ以上いらなかった。
 飾りなどなくとも、それが彼女にとって最上級の愛情を示す言葉なのだから。

 ■

 現実に放つ言葉もなくヘルメットを被ったまま延々と妄想を重ねる。
 その間もぐんぐんとゲージは上昇を続け――。

 ■

 現実にも恋人が出来たばかりの緋霧 絢(ga3668)の妄想は、その恋人との初めてのデートから始まる。
 お互いに少し照れながら手を繋ぎ、それだけでは足りなくて指を絡めてみたりして。
 ――次のシーンでは胸の高鳴りを抑えるようにその胸の前で手を組んで、
「あ‥‥あの、キス、してください」
 つま先立ちをする。
 少しの間を置いて唇に柔らかく温かい感触が走り、次の瞬間にはさらに心地よいぬくもりが全身を駆け抜ける――。

 危うく変な方向に妄想が走りかけたのでその思考を打ち消す。
 そんなことが出来るのも、彼女がこと恋愛に関しては初心だから。

 次のシーンは教会の鐘の音から始まった。
 今日という日を迎えるため歩んできた――そしてこれからもずっとともに歩んでいく人が純白を身に纏う絢の右手を取り、その指に誓いの指輪を嵌める。
 絢も同様に、彼の手に指輪を嵌め――。
「それでは、誓いのキスを」
 神父のその言葉で、彼が絢の顔を覆うベールを捲り上げる。

 直後に唇に感じた温もりは、初めてのデートの時と同じ。
 けれどその中に秘められた想いは、あのときよりもさらに深く絢の中に染み込んでいく――。

 温もりが駆け巡ってから少し後。
 彼と教会を出た絢は澄み渡る青空の下、彼にお姫様抱っこをされながらライスシャワーの祝福を浴びた。

 更に場面は移り変わる。
 舞台は赤い屋根の家。小さいけれど、大切な場所。
 夜――愛する人と絢との間にはベビーベッドがあり、その上では二人の愛の結晶がすやすやと寝息を立てている。
 二人はそちらに向けていた穏やかな表情を今度は互いに向け、抱きしめ合い口づけを交わす――。

 ■

「――――っ」
 ぼふん。音にするとそんなところだろうか。
 ヘルメットの下の絢の顔は真っ赤になっており、心臓のポンプは全速稼働。
 だからゲージなんて気にする余裕もなくなっていた。

 気がつけば――ゲージは満タン。
「オトメ砲発射! エッチワームを撃退せよ!」
 逸早く妄想から立ち直った彩音が叫ぶ。
 今彼女の中にもはや羞恥心などなく――。

 純白のレーザービームが、残っていたエッチワームを粉々に粉砕した。

●そして我に返る時。
「はいカーット、OKでーす!」
 その言葉で能力者たちは我に返り、ちょっとばかり長い間接続していた妄想回路を切断する。
 長かったのは、妄想の勢いが大事なシーンなので一発撮りを敢行したからである。

 その後、何人かの意向で主題歌も彼女たちが歌うことになったり。
 完成後は試写会に招待されたりもしたのだが――言うまでもなく、ほとんどが撮影時の自分が見るに耐えなくて行かなかった。

 それでも作品自体はかなりウケたそうだ。
 どの層にウケたのか――それも、言うまでもない。