タイトル:殺戮を招く救世主マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 12 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/06 00:19

●オープニング本文


 かつて大事にしたものだからこそ、今はただ壊したい。
 ある意味壊れてしまった自分のように、あの場所もそうなってしまえばいいのだ。

 自分に二度目の時間をくれた、あの方がそれで満たされてくれるのなら――。

 ■

「――なによ、これ‥‥」
 依頼文書として自分の元に届けられた封書の中身を、朝澄・アスナは愕然とした眼で見下ろす。

 封書の中に入っていたのは、何かに蹂躙され破壊し尽くされたと思しき村の絵と。
 ――キメラを用いてそれを実行しようかという、依頼文書よりむしろ挑戦状と言った方が正しい手紙だった。

 そもそもその封書がアスナの担当になったのは、彼女が以前、今回狙われた村を舞台にした依頼を能力者たちに斡旋したからというのもある。
 だから、署名を見て愕然とする。
 ――その時の能力者たちの報告に聞いた『英雄』の名前と、同じだったからである。
 だけど、依頼を受けた時の情報が正しければその『英雄』は確か――。

 今はあくまで推論に過ぎないが。
 頭の中で一つの結論を導き出したアスナは今までよりも殊更に険しい表情で、本部に詳細の連絡を入れるべくコンソールを叩き始めた。

 ■

「速やかに作戦を練って、行ってもらいたい場所があるの」
 やがて集った能力者たちに向け、アスナは端から厳しい表情で告げる。
「これから――キメラの大群に狙われる村があるわ。
 今回の任務は村の被害を最小限にとどめた状態で、軍勢を村から撤退させること」
「これから?」
「予告してきたのよ、あちら側の人間からね」
 先ほど目にした文書を能力者たちの前にひらつかせる。
「今から相談せずに直行したら軍勢が来る前に間に合うかもしれないけど、どのみち被害を全く出さないというのは無理。
 だから向こうについてから慌てることがないよう、相談して」
 そう言うアスナは苦渋の表情。
 ――間に合えば確かにそれがベスト。ただ、無計画にひた走って途中で躓かれては困るのだ。

 そうしてアスナは状況の説明を始める。
 まず村は森の中に囲まれており、さほど広くはない。二時間あれば徒歩で外周を一周できる程度だ。
 東西南北に入口が一か所ずつ存在するが――予告では北半分を、入口も関係なしに一気にキメラで埋め尽くすつもりのようだ。必然的に能力者たちは南側から突入することになるだろう。
 やるべきことは、村を蹂躙するキメラを片っ端から倒すこと。そのために破壊された物品の存在などは今回ばかりは仕方ない。

「――それと」
 状況説明を終えたアスナは目を伏せる。
「今回予告してきた人間も、恐らく村に行っているはずよ。
 名前はレイチェル・トールガー。その村では『英雄』と呼ばれた能力者よ。――生前はね」
 生前?
 その言葉に能力者たちはまず首を傾げ、それからそのうちの数人が気づいたようだった。
「ヨリシロになった?」
 アスナは小さく肯く。
「それしか考えられないわ。彼女が『死んだ』状態を目にした人もいるもの」
「‥‥‥‥」
「もうここまで来ると余裕を見せているとしか思えないんだけど、『率いてきただけで暇だから、挑んできたら適当に付き合ってあげる』とまで言ってきてる。
 ――逆に言えば、今の貴方たちの力を思い知れば判断を見誤ったと思って撤退を考えるかもしれないわ。それを狙うのも、ひとつの手」
 ただ、一人が相手とは言え相当に難しいものになるだろう。
 先ほども説明したように、レイチェルは生前能力者だった。UPCのデータにはファイターだったと記録されている。
 ヨリシロになった今もそのスキルは使え、かつ能力は飛躍的に跳ね上がっているはずだ。
「こんなことを言うのも何だけど、あくまで『傷を負わせる』ことを目的にして。
 倒そうとして踏み込みすぎれば――相手はバグアだということを考えると、生命の保障は出来ないわ」

「そうそう――貴方たちと前後して村に突入する能力者が他にいるらしいわ。別の依頼でもあったんでしょうね。
 ――依頼をまたぐからそうそう連携は取れないと思う。けど、他にも味方がいるということだけは頭に入れておいて」

●参加者一覧

白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
鳴神 伊織(ga0421
22歳・♀・AA
西島 百白(ga2123
18歳・♂・PN
ファルティス(ga3559
30歳・♂・ER
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
鈴葉・シロウ(ga4772
27歳・♂・BM
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
八神零(ga7992
22歳・♂・FT
夜十字・信人(ga8235
25歳・♂・GD
ヒューイ・焔(ga8434
28歳・♂・AA
優(ga8480
23歳・♀・DF
神無月 るな(ga9580
16歳・♀・SN

●リプレイ本文

●Destructive Artifact
 緊迫した空気を漂わせながら、十二人の能力者たちは村へと急ぐ。
「込み入った事情もあるようだが――今は置いておこう」
 白鐘剣一郎(ga0184)は駆けながら、呟く。今自分が考えなければいけないことは、それではない。
「ふむ。予告状とは、まるで怪盗ですね明智くん?」
 鈴葉・シロウ(ga4772)は緊迫した空気を和ませようと戯言を言い放つ。彼なりに今置かれている状況というものを理解してのことだった。
 多勢に無勢。その状況だけを見れば不安しか募るものはないが、
「――別働隊で俺の知り合いが行動しているらしい」
「‥‥向こうの方は心配ねえな。なんせあいつが護衛してるんだからな」
 ファルロス(ga3559)とヒューイ・焔(ga8434)はそう、安心材料ともいえる共通の知人のことを考える。
 全面的に信頼を置いている彼が既に村にいるなら――この状況ですら、どうにかなるはずだ。
 夜十字・信人(ga8235)はといえば、走りながらも――ラスト・ホープを経つ前のことを思い出していた。
 自らが斡旋した依頼だからこそ、危険であることは理解している――だからか心配そうな表情で能力者たちを見送る彼女に、
「‥‥行って参ります。少尉殿」
 少しだけ微笑みを浮かべながら、そう敬礼した自分を。驚いた後で、礼を返した彼女のことを。
 ――その場面を思い浮かべ、またあの場所に帰るのだと強く思った。

 彼らが村に到着した時――。
 既に村の北方のいたるところから火の手が上がっており、幸い逃げられる状況にあった者は逃げたのか、少なくとも南側の入口付近には人気はなかった。
 ある家の陰には場に似つかわしいとは言えない車が停まっている――もう一方の依頼を受けた能力者たちは、既に先に進んでいるということである。

「行きましょう」
「皆、出来たらまた後――北で!」
 全員でその意思を肯き合い、能力者たちは三方に散って行動を開始した。

 ■

(「レイチェルさんの『お墓』は確かに見届けた」)
 村の西側へ駆けながら、智久 百合歌(ga4980)は思う。
 以前この村に訪れた時――依頼主であった女性に連れられ、村外れにそれがあったのを確かに見たのだ。
(「あのまま安らかに眠っていてくれれば――それなのにバグアって奴は‥‥」)
 気付けば、自ずと唇を噛んでいた。
 ヨリシロは生前の記憶を持っている――。
 それはつまり、レイチェルが村の『英雄』と呼ばれていたことを覚えている――或いは、知っているということである。
 けれど――それは本当に『レイチェル』なのだろうか。
 過去という名のデータから生まれる感情は彼女の『想い』なのだろうか。
 ――分からない。否、考えるまでもない。
 惑わされるな。
 小さく頭を振り、百合歌はすぐに前を見据える。その後ろには信人、焔、神無月 るな(ga9580)がついてきている。
 やがて正面から――おそらく逃げ遅れたのであろう村人が、恐怖に顔を歪ませながら駆けてくるのが見えた。
 その背後に迫るは、羽を生やした女性型キメラ――ハーピー。
 しかしちょうどその時、焦っていた村人は自らの足を絡ませ転倒した。捕まえたことを確信したのか、ハーピーは奇声とも嬌声ともつかぬ声を上げうつぶせになった村人に迫る。
 能力者たちと村人、ハーピー。彼我の距離はまだやや空いている。
 ――刹那、他の三人の目の前から百合歌の姿が消えた。
 更に次の瞬間、彼女は地上に舞い降りたハーピーに肉薄、
「させないっ!」
 裂帛の気合いを込め、鬼蛍を横薙ぎに振るう。
 翼を持ち俊敏さを武器とするハーピーも、咄嗟の判断に迷い――後方に跳躍したものの完全に避けることはかなわず、露わになっている上半身の肉が皮一枚二枚裂けて血が噴き出した。
 百合歌の背後に迫る敵の存在に気づいたか、ハーピーが反転して飛び去ろうとする。しかし、
「逃がすもんですかっ!」
 百合歌の攻撃の直後に立ち止まり弓の弦を絞っていたるなが、溜めていた力を解き放つ――!

 数秒後――背中を貫かれた矢で以って地面に磔にもされ、ハーピーは絶命する。
 それまで地面に伏せていた村人がおそるおそる立ちあがると、
「逃げるなら南に」
「あっちはまだ安全なはずだからな」
 信人と焔の言葉に肯き、村人は全力で駆けて行った。

●Lack luck
 一方東側には、ファルロスとシロウ、西島 百白(ga2123)、八神零(ga7992)が向かっていた。
 足を動かしている最中、キメラの死骸が積み重なっている箇所があった。
 目を凝らすまでもなく容易に発見できる空の薬莢の量からして、先に来ている能力者たちがここで一戦交えたのだろう。
 左側に視線を向けると、広場。
 以前村に来たことがある百合歌の情報と、申請した地図は――ともに広場は村の中央にあると告げている。
 ここが戦場か。
 そう四人は判断し、それぞれの行動を開始した。

「最近は少し暴れたりなくてな――折角の機会、有効に利用させて貰おう‥‥」
 大勢の敵を目前にして零は低い声で言い放ち、月詠を構える。少し離れた場所では百白も似たようなシチュエーションで同じように戦闘態勢をとっていた。
 二人それぞれの戦闘が開始される中、シロウはというと二人と違って人命救助に重点を置いていた。だからといって助けようとしている人間に襲いかかるキメラに対しての容赦はないが。
 そしてファルロスはそんな三人を後方から援護する役割を担っていた――

 ――が、そもそも今回襲いかかってきたのは『軍勢』と呼ばしめたほどの数である。
 たとえ一体一体が一人でなぎ倒せないこともない程度の強さでも、まとめてかかれば――。

「ぐ‥‥」
 背中から鋭い爪による一撃を受け、百白は呻く。
 戦闘が続くにつれ、呼吸の乱れとともに展開は様変わりし始めていた。
 最初は零や百白が一方的にキメラを蹂躙していたが、状況を不利だと本能的に察知したのか、途中から目に見えて二人に襲いかかるキメラの数は増えている。
 シロウはといえば思っていた以上に逃げ遅れが多くその対処に追われ――ばらばらに動き回る三人を全て援護し切れるほど、ファルロスにも余裕はなくなっていた。

 そして百白と零――二人の状態の差を分けたのは、防御。
 キメラの数が増えるにつれ攻撃される機会も増えたが、零は月詠を受けにも使い直撃をなるべく防いでいた。
 一方百白はひたすらに攻撃を繰り返して――。

「‥‥く、そっ」
 先ほどの爪によろめいた百白に、更に攻撃が加えられる。
 攻撃の手が止んでしまった彼に襲いかかるキメラの勢いは、鬱憤を晴らすがごとく激しく――ついに百白は、その場に倒れ伏してしまった。
「まずいっ」
 今は息はあるかもしれない。が、このままでは――。
 咄嗟の判断でシロウは倒れている百白にスキルを用いて近づき、キメラが自分に襲いかかる前に百白を背負ってまたスキルを使用、距離を置いた。
 防御にも気を向けている零も、状況は芳しくなかったが――不意に零に襲いかかっていた集団の一角が崩れる。
 それを別の依頼に行っている仲間の援護だと知るまでに、さほど時間は要さなかった。

●Reckless and hopeless――but
 剣一郎と鳴神 伊織(ga0421)、南雲 莞爾(ga4272)、優(ga8480)の四人は、真っ直ぐに北上する。
 集った能力者たちの中ではもっとも経験を積んでいる部類に入る四人であるだけに、一匹のキメラを屠る時間も非常に短い。
 それは同時に、逃げ遅れた人々の救助に当たる時間を多く取れるということ。
「ひとまず南へ逃げてください。あちらにキメラを行かせるつもりはありません」
 家屋の陰で怯えていた中年女性に、優がそう告げる。女性は何度も首を縦に振って慌てながらも逃げだした。
 その横では新たに現れたキメラに対し、
「天都神影流、斬鋼閃っ!」
 剣一郎が死角を突いた鋭い一閃を繰り出し、距離を置いていた莞爾が瞬時にして接近、ブラッディローズの引き金を引く――。
「これで‥‥!」
 伊織が普段よりさらに能力を伝播させた月詠を振るい、敵を沈黙させる。
 キメラの数は相当に多いが、こちらの班は『臨機応変に二人一組で行動する』という剣一郎が提案した案が功を奏し――効率よく敵を殲滅しつつ進んでいく。

 そんな四人の目の前にやがて北の入口が見え始め――

 そいつが、いた。

「あら――来たわね」
 軽くウェーブのかかった金髪をなびかせ、ヨリシロと化した元『英雄』、レイチェル・トールガーは余裕を含んだ笑みを見せる。
 ここに来るまでに既にかなりの数のキメラを倒しているし、東西に向かった仲間もそれは同じはず。
 そんな状況でなお、この余裕――。
「――どういうつもりですか」
 優の問いには、レイチェルがヨリシロとしてここに来た目的に加えてその余裕の真意も含んでいる。
「決まってるじゃない」
 レイチェルは腰の鞘に収めていた長剣を抜き、力を抜いた構えを見せる。
「ここまで来れたってことは、いくらここに連れてきたキメラをぶつけたって貴方たちはいずれ切り抜ける。
 ――それじゃ、」
 困るのよ、という続きの言葉を、剣一郎は金属同士が衝突し反響する耳障りな音とともにすぐ近くで聴くことになった。
 速い。一瞬姿が消えたことから反射的に月詠を構えていなければ、今頃は自らの血を浴びながら聞いていたかもしれない。
 レイチェルの剣はすぐに離れ――彼我の距離は、最初の半分ほどになる。
「困る、というよりは面白くないから、ね」
「面白いだと?」
 莞爾が問う。
 レイチェルは艶やかな――本来は死者であることを感じさせない笑みを見せた。
「一度死んで、それでも変わらない――変わるわけがない世界を再び感じて、『護るなんて無意味だ』って思ったのよ。
 そう考えたら、死ぬ前に護ってきたものが全部馬鹿みたいに思えてきて――ね。
 だったらどうせなら私に『護られてきた』人間をいたぶった方が楽しいに決まっているじゃない」
「これがヨリシロ‥‥死者を冒涜するにも程がある」
 元の――『英雄』として村に在ったレイチェルがこんな人間であるわけがない。剣一郎はそんな思いとともに吐き捨てた。
 彼の言葉を無視し、レイチェルは溜息をついた。
「それに、まあ――あの人にとってはそれこそ、中途半端に生き残った場所など美しくも何ともないでしょうし」
「あの人?」
 伊織が訊き返すと、レイチェルは彼女を一瞥した。
「わざわざ言わなくても、心当たりがある人がいそうだけど。
 ――ジネット、って言ったかな」
 聴き覚えがある単語に、伊織ははっとする。
「始末するか死体を見てくるように、とも言われているのよね。ついでに、私の偽者も」
「貴女は‥‥」
「お喋りはもうおしまい」
 伊織の言葉を遮り、レイチェルは再び――今度は隙の見えない構えを見せる。
 余裕はまだ見せているが、表情は先ほどよりも厳しい。
「とりあえず貴方たちを全員殺して、それからキメラに村を自由気ままに蹂躙させる。
 一通り片付いて瓦礫と死体と血痕だらけになったところを、炎で焼き尽くす――その為にも」
 今度は接近してきてからの言葉を聞く余裕はなかった。あるいは、何も言っていなかったのかもしれない。
 最前衛にいた剣一郎は再度狙われ、また剣で受けて直撃は防いだものの――今度は勢いを相殺しきれず、数メートル後方にまで吹っ飛ばされる。
 更にそこに、
「まず一人目!」
 再度レイチェルの刃が振り抜かれ、その軌跡から解き放たれた真空の刃が剣一郎に襲いかかる――!
「ぐあっ‥‥」
 今度は直撃を受け、吹っ飛ばされて墜落した先で痛みに震える。
 本物の刃ではなかったためか戦えなくなるほどではないが――それにしても重いダメージは一時的に握力を奪い、月詠が手から滑り落ちた。
「運のいい――なら」
 剣一郎がまだ起きていることが気にくわないのか、レイチェルは更に剣一郎を見据えて刃を振るう。
 しかし、その軌道は彼女の思う通りには描かれなかった。
 鈍い金属音が耳朶に響き、腕に走る軽い衝撃が軌道を歪ませた。
「相手は一人ではないことをお忘れなく」
 こちらも力で圧され、数歩後ずさったが――それでもレイチェルの剣を止めることに成功した優は、静かに言う。
 その瞬間には既に、レイチェルの背後には莞爾が回り込んでいる――!
「――っ!」
 ヨリシロの能力をもってしても、コンマ一秒もない間で身体全体を反転させることは不可能であるらしい。こちらを見ずに力任せに振り回されたレイチェルの刃を莞爾は屈んでかわす。
 低い体勢から高速の一撃を叩きこみ、即距離を置く。
 不安定な体勢になった状態で攻撃を受けたこともあり、レイチェルの身体がふらついた。
 だが――それも、ほんの一瞬のこと。
 すぐに態勢を立て直した彼女に、ダメージらしいダメージはないらしい。表情は険しいが、悠然と立ちつくすその様はまだ本気ではないことを窺わせる。
 一撃では足りない。もっと、手数を――。
 そう能力者たちが考えた刹那、あらぬ方向から銃声が発せられ――レイチェルの背後を銃弾が掠め、更に直後には矢が彼女の前方の空気を切り裂いた。
「来たか」
 立ち直った剣一郎が、その弾丸と矢を放った主の――信人とるなを見つけた。もちろんそこには、百合歌と焔の姿もある。
 迂回ルートを辿っただけあり、消耗は当然ながら最初から北を目指してきた四人よりも激しい。
 けれど、戦う力は十分に残っている。
「――あっちは片付いてしまったようね」
 西から来た四人を見つけ、レイチェルはつまらなさそうに溜息をつく。
 厳密に言えば遭遇し損ねたなどの理由で完全に掃討しきったわけではないだろうが、ここに来ることができるくらいならばかなりの数のキメラを倒してきたに違いない。奇しくもその考えは、剣一郎達とレイチェルとで共通していた。
「――興ざめするわ‥‥」
 レイチェルが苦い表情で歯ぎしりする。
 彼女としては今ここにいる八人を一人で倒す自信も、もちろんある。
 ただしそれには自分も多少の消耗を要するだろう。
 ――ずるずると面倒な手順でそれを叶えるよりは、機を改めてスマートにやった方がいい。ジネットとステラがどうなったか知ることが出来なくなるのは残念だが、あの人はそれで怒るような人ではないから残念以上の何物でもない、というのもある。
 そう結論づけて、レイチェルは――嘆息する。
「‥‥いいわ、今回はこれで終わりにしてあげる」
 懐から取り出した笛を吹くと、それを機に村に残っていたキメラたちが一斉に北へと帰り始める。能力者たちを見かけたキメラは襲いかかってきたが、レイチェルの『命令』には忠実らしく深追いはしてこなかった。
「またいずれ、機会があれば会いましょう」
 そう言ってレイチェル自身も、キメラの群れに混ざって去っていく。
 深追いしないと決めていた能力者たちは――群れの姿がなくなった後、救助活動を再開した。