タイトル:【収穫祭】刺のある奴等マスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2008/10/08 22:54

●オープニング本文


 カプロイア本社、会議室。個性豊かな外見の重役達の見守る中、カプロイア伯爵が今年度上期を概括していた。
「名古屋、北米での拮抗した戦況から、欧州ではバグアを撃退までしたのだから‥‥」
 社としては、ファームライドを奪われるなどの汚点もあったとはいえ、今までに限れば、人類にとって今年は良い年だった、と伯爵は言う。それはつまり、同社にとっても良い事だ、と。
「‥‥そうだ。そろそろ収穫祭を祝う季節だね」
 伯爵の何気ない一言に、会議室の一同の目が集まった。
「この素晴らしい年を祝うのに、普段通りのこじんまりとした祝宴では‥‥いささか、寂しい気もするな」
 窓際をゆっくりと2度往復してから、彼はポン、と手を打つ。
「そうだ、今年を勝利の端緒としてくれた傭兵諸君を招かないでどうする。とすると会場はラストホープを抑えねば。食材は無論、各地の最上級の物を揃えてくれたまえ。それから‥‥」
 何かのタガが外れたように、伯爵は矢継ぎ早に指示を出し始めた。会議室の面々は、慣れた様子でそれを受けて行く。
「カプロイアの名にかけて、素晴らしい祝宴としようではないか」
 最後にかけられた伯爵の声に、重役たちは真昼間からグラスを掲げて賛意を示した。

 ■

 ビエモンテ州。
 イタリアでも数少ない内陸のみの州であり、地中海からもやや離れた所にある故にヨーロッパ攻防戦の前後を通じて平穏が続いている地域だ。
 州としての特色は、もう一つ――。
 栗の生産量ではヨーロッパ圏の五十パーセントを占めるイタリアにおいて、特にその生産が盛んと言えることだ。

 そんなところから、一通の書簡がUPC本部へと届けられた。

『間もなく私たちが経営している農園で栗の収穫が行われる予定なのですが、困った事態が起きています。

 栽培している栗と似たような形の化物が、様子を見にくる人間を襲うというのです』

 栗に擬態した化物――言うまでもなくキメラであろうそれは、農園の人間が近付くと全身のイガ(?)を思いきり伸ばして刺そうとするという。一瞬の技だ。
 その刺自体は伸びているのはほんの一瞬で、それからだんだん元の長さに戻っていく。
 だからと言ってその瞬間を狙って一般人が退治しようとすると――殻を割って現れた栗本体に襲われる。
 この本体、小さな体でぴょんぴょんと跳ねまわりつつ様々な角度から人に襲いかかるというのだが――更に面倒なことに、その体には熱を持っているという。

『撃退しようとしても肝心の攻撃が当たらず、逆に怪我を負い、身体のあちこちに火傷を負う者が増えるばかりです。
 どうぞ、傭兵の方々のご助力を頂ければと思います』

 二枚つづりの書簡の一枚目はそんな言葉で締めくくられていた。
 他に誰もいない執務室でそれを読んだ朝澄・アスナは、真っ先に思ったことを呟く。
「熱を持った栗が襲いかかるなんて、どこぞの民話みたいね‥‥」
 はたして蟹に当たるのは何なのだろう――とどうでもいいことを考えながら、アスナはページをめくる。
 二枚目はほとんどが空白だったが、上の方にだけ『P.S.』と銘打った文章が添えられていた。

『収獲する栗の半分ほどは、収獲後ラスト・ホープにいる伯爵のもとに届けられる予定です』

●参加者一覧

リディス(ga0022
28歳・♀・PN
白鐘剣一郎(ga0184
24歳・♂・AA
ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416
20歳・♂・FT
南雲 莞爾(ga4272
18歳・♂・GP
智久 百合歌(ga4980
25歳・♀・PN
文月(gb2039
16歳・♀・DG
夏目 リョウ(gb2267
16歳・♂・HD
斑鳩・南雲(gb2816
17歳・♀・HD

●リプレイ本文

●なになに合戦?
 現地へ向かう移動艇の中。
「なるほど収穫の半分を伯爵に‥‥今はラストホープにいるのか」
 白鐘剣一郎(ga0184)は事情を心得たとばかりに一人肯く。
 横では斑鳩・南雲(gb2816)が窓の外の空を見ながら、
(「収穫祭みたいな企画を考えるのも貴族の務めなんだねー」)
 などと妙な感心をしていた。自分の出自と内面の幼さもあり、貴族という言葉が気になるお年頃なのである。
 夏目 リョウ(gb2267)はといえば、何故か某日本民話の絵本を開いて読んでいた。
「今回のキメラの話しを聞いて、無性に読み直したくなって‥‥まぁ、作戦の参考にはならないだろうけど」
「焼き栗は美味しいけれど、それのような攻撃は困るわね」
 絵本を横からちらりと覗きこみながらそう言ってから、智久 百合歌(ga4980)はくすりと微笑を浮かべる。
「‥‥今回のお話は、猿ではなく栗が悪者ね」
 ごもっとも。

 現地である農園に到着し、まずは農園で働く人々に話を聞く。
「今の所は農園の外に出て来ていないという事で間違いないか?」
 剣一郎の問いに、農園の経営者の息子だという若者は肯いた。
「常に熱を持っているなら――キメラ周囲に湯気立ってたり熱で変色して、普通の栗と判別付かないかな?」
 リョウの問いに対しては、若者は申し訳なさそうに首を横に振った。
 そのどちらにしても外殻であるイガを剥がさないことには確かめようがなく、一般人ではそれですら至難の業なのである。

 一通り状況把握を終えた能力者たちは、正方形の農園に対して三つの地点――西北西、東北東、南からそれぞれ出発し、キメラの捜索・討伐を行うことにした。
 三つの班に分かれる際、百合歌はふと呟く。
「さて、猿蟹合戦ならぬ栗傭兵合戦を始めましょうか。‥‥語呂が悪いわね」
 語呂を考えるなら栗兵合戦だろうか、と何人かの能力者が思考を巡らせる。
 それは何か別モノになっている気がしないでもなかった。

●有刺栗線デスマッチ(格闘技的な意味で)
 農園といっても、栗の生育を行うものは林檎の果樹園が如く木々が並んでいる。
 ただし収獲する栗そのものは木にぶら下がっていることもあれば、既に地面に落ちていることもある。

「それにしても、栗のキメラですか‥‥折角の風物詩が台無しですね、全く」
 並ぶ木々を目の前にし、リディス(ga0022)は溜息をつく。
「毬栗が自分から刺してくるなんて笑い話にもなりませんね」
「そうか? 俺はむしろ、こんなものまで造るバグアのキメラ造りのバラエティの豊富さには感服するんだが」
 笑いながら、剣一郎はそんな皮肉全開なことを言ってのける。
 そんな二人の大人びた会話をよそに、
「食欲の秋! 秋の味覚、それは栗! 浪漫だねっ! ――はっ!? ま、マロンだねっ!?」
 南雲はテンション高めに突っ走った上に、飛躍した発想まで披露する。誰がうまいことを以下略な突っ込みが聞こえてきそうである。
 それは兎も角、そろそろ行動開始の時間だ。この三人は西北西にいる。
「さて、不躾なキメラたちには栗のような甘い想いは出来ないと教えてやろうか」
 覚醒後の漆黒の髪を風に靡かせながらそう言って、リディスは農園の外から一歩――否、スキルを用いて一瞬にして数十メートル踏み込まんとする。
 ――しかして、敵の反応速度もなかなかのものがあるようだ。
 幸い掠ることもなかったが、瞬天速による一瞬の移動――その間に背後に猛然とした気配が迫り、
「天都神影流、虚空閃!」
 移動が終わったのとほぼ同時、既にずっと後方にいる剣一郎の叫びがリディスの耳にも届く。
 すかさず背後を振り返ると――剣一郎が振り抜いた剣から放たれた真空の刃が、ちょうど伸び切った後に収縮しようとしていたキメラのイガを捉えたところだった。
 生命力は低い、というのはイガにも言えることであるらしい。刃によってざっくりとトゲトゲを払われた栗など、接近するのに怖くはない。
 それをイガの中にいたキメラも考えたのだろうか。地面に転がっていたイガの中から飛び出してきた茶色の小さな影が一つ。
 ぴょんぴょん動き回るそいつと対峙したのは――剣一郎がソニックブームを放つや否や接近を試みていた、南雲。
「スポーツの秋でもあるんだよ! さぁさぁ、私たちの運動に付き合って貰っちゃうんだからねっ!」
 張り切って叫びながらも、早速左ジャブを繰り出した。
 その拳は空を切り――反撃のためか、上に飛び上がってそれを避けていた栗キメラは回転しながら南雲の目前に落下してくる。
 しかし南雲は焦ることなく、むしろかかったな、とでも言いたげな笑みを浮かべ――右ストレートを放つ!
 カウンターのカウンター。
 本当に脆いキメラらしく簡単に吹っ飛ばされ、地面に落ちて砕けた。
「左ジャブに続いて右ストレート! ワンツーパンチを制するものは世界を制するよっ!」
 どこの世界を制するつもりなのだろう。
 息巻く南雲を見ながら剣一郎とリディスは思ったが、口にはしないでおいた。

 ――と、その時。

「いがーっ!? 間違えた! 痛ーっ!?」
 息巻くあまりにワンツーのシャドーを繰り広げていた南雲は唐突に別のキメラの射程に入ってしまったらしく、木陰から刺が伸びた。油断大敵――といっても、そんな時までノリで叫ぶ元気があるなら無問題だろうが。
 ともあれ、第二戦開幕。
「棘を伸ばせば動けず、動き回れば棘を伸ばせない。甘く見るな」
 再び剣一郎がソニックブームを放ち刺をざっくりと払うと、今度は腕や足のあちこちを刺されて――それほど深い傷ではないがすぐには動けなかった南雲の代わりに、再び瞬天速を用いてリディスが肉薄する。
「美味しい栗になりたい気持ちも分からないでもないが、貴様たちは邪魔な存在でしかない。秋の味覚のためにも消えてもらおう!」
 なりたいという気持ちがキメラにあるのかがそもそも分からないが。
 飛びだした本体は攻撃を行う暇もなく、リディスの脚に装着された刹那の爪によって吹っ飛ばされたのであった。

●桃色栗(Not食用)
 南からは南雲 莞爾(ga4272)と文月(gb2039)が農園に進入していた。
「栗同然、か――。見分けが難しいだけに油断ならんな」
「そうですね‥‥。でも栗って小さいですし、逆に言えばこっちからその小ささが見える距離に近づいても何も起こらなければ大丈夫、ってことでしょうし――なんとかなるんじゃないですか」
 まあそうだな、と莞爾は小さく肯き、
「行くぞ」
 短く告げてゆっくりと歩き出す。文月もその後に続いた。

 十数歩歩いたところで、突如背中が粟立った。

「――!」
 ほぼ反射的に、瞬天速を用いて横へと逃れる莞爾。
 ――予感的中。一瞬前まで彼がいた場所、つまり文月の目の前に刺が伸びてきた。
 文月はそれが伸び切り、収縮し始めるのと同時に
「いきますよっ!」
 竜の翼を用いようとして――まだ元に戻りきっていないイガが障害物になる、と考えスキルを用いない疾走に切り換える。
 月詠でイガをばっさりと斬り払っていると、不意に少し奥の方で塗料がまき散らされた。
 ――本体の位置を捉えた莞爾が、小銃を用いてペイント弾を放ったのだ。
 そのことに気づいた文月は思考を更に切り替え、本体に迫る。
 塗料によって桃色に染め上げられたキメラはぴょんぴょんととび跳ねながらそんな文月に迫ろうとするが――いかんせん、塗料が目立つ。
 動きが読みやすい。
「ちょこまかと鬱陶しいッ!」
 狙いすましたポイントを通過するように、月詠の軌跡を走らせる――。
 寸分違わぬタイミングで軌跡とキメラが衝突し、キメラはあっけなく砕けた。

●まるでお灸のようなんです
 こちら東北東。
「‥‥ひょっとして、外はとげとげ、中はほっこり‥‥?」
 ホアキン・デ・ラ・ロサ(ga2416)はそんなことを考えて首を捻る。まあ考えずとも、これから分かることではあるのだが。

 こちらの班が取った作戦は、西北西の班とほぼ同じ。
 違うのは――南班が用いたペイント弾による識別も、同時に行っているということだ。
 まずは百合歌が足に込めたエネルギーを爆発させ、一瞬にして数十メートル先へ。
 その間に刺を伸ばしたキメラは――三体。よほど密集した地点だったらしい。
 一体目は、ホアキンが刺を長剣で薙ぎ払いながら接近する。
「収穫祭の邪魔はさせない! 栗は俺も好物なんだっ!」
 移動を終えた百合歌が本体がいると思しきあたりにペイント弾を放っていたために、イガの向こうで飛び出した小さな姿も見わけがつけやすい。
 ホアキンがすかさず一突きを繰り出す――最初の一撃こそ空を切ったが、そこから薙ぎ払った二撃目でキメラの軟い生命を捉えた。
 二匹目はと言うと、相手をしているのはリョウ。
「ここの栗を待っている人達がいるんだ、悪いが真っ二つにさせて貰うぜ!」
 インサージェントでイガを薙ぎ払いつつ――その斧刃の矛先は、武器そのものの長さもあって徐々に迫っていた。
 こちらの本体にも百合歌が放ったペイント弾が命中し、インサージェントに脅威を覚えた本体が姿を現す。
 反応が一瞬遅れ、そこをキメラは容赦なく突いて来た。
「あっつ!?」
 肩に痛みと――それを忘れさせるくらいの熱さが伝わる。AU−KVの装甲をもってしても伝わるから恐ろしい。
 ともあれ、それはキメラが今どこにいるかということも示している。
 ヒット&アウェイ気取りか、一度距離を置こうとしていたキメラをリョウは猛然と睨み、一閃。
 巨大な斧刃の質量をぶつけられた小さなキメラは木っ端微塵に砕け散る。
 三体目は百合歌がだいぶ近い距離にいたこともあり、すぐに姿を現していた。
「そう言えば、盾って使うの初めてだわ。こういう敵には向いてるのね」
 飛び跳ね、かつ熱量をもった敵の突撃を盾で打ち返す。
 ダメージはないらしく何度も何度もぶつかってくるものの、こちらも打ち返すことを繰り返せばいいだけの話である。
 もちろん防御するだけではなくて、
「美味しい栗を来年も実らせて貰わなくちゃ、だものね」
 農園の木々に当たらないよう気をつけながら、鬼蛍を振るう。
 さっくりと斬り裂かれたキメラの茶色い胴体が地面に転がり――これで三体とも、討伐完了。

「数と小さいのが少し厄介‥‥かしら」
「でも、攻撃を当てる隙さえ作らせてしまえばどうにでもなりそうだな」
 そんなやり取りの通り、その後も三つの班は農園の中心を目指しながらキメラを討伐していった。

●秋の味覚がまた一つ――
 あちこち刺に刺されたり、変な場所にお灸をすえられたりしながらも無事に討伐終了。
 これでようやっと収獲出来る。
 伯爵のために贈ることもあるし、遅れた分を取り戻さなければ――。
 農園で働く人々はやや急いでいたからか、自分たちも栗収穫をやりたい、と名乗り出た百合歌やリョウの申し出をむしろ歓迎したようだった。

 それから日が暮れるまで収獲は続き。
 作業が終わると、せめてものお礼だと言って先ほどの若者が収穫したうちのいくらかを能力者たちに手渡した。
「‥‥マロングラッセでも作ってみようかな」
 ホアキンが呟く。ちなみにビエモンテの栗は、販売されているマロングラッセに用いるものとしては最高級品だったりする。彼の横では百合歌が、帰ったら焼き栗や栗きんとんを作ろうかと想いを馳せていた。
「しかしあれですね、これだけ栗を見ると食べたくなるのが人情というものでしょうか‥‥」
「栗ご飯が食べたくなりますね」
 リディスが零した言葉に、文月が肯く。
 すると食べたい、という意見は他からも出てきた。
「俺、名物栗料理がいいな」とリョウが言えば
「私は甘露煮かモンブランか栗ご飯でっ!」南雲もそう続く。

 ――遂には、若者の家でその日の夕食として栗を堪能することになった。
 もっとも栗ご飯や甘露煮辺りは日本にさして興味のないイタリア人が作り方を知っているわけもなく、結局言い出した本人が作ったのだが。

 これから梱包され伯爵の元に送られるであろう栗の仮包みを見て、ホアキンは呟いた。
「伯爵がこの栗で何を作るか、今から楽しみだ‥‥!」