●リプレイ本文
●新たなる飛翔
ドイツのとある森の上空――その西側に、五機のKVの姿があった。
「高機動強襲型KV‥‥か、果たしてどれ程の性能か‥‥」
イレイズ・バークライド(
gc4038)は呟く。正直あまり空戦は得意ではないのだが、件の機体のスキルも気になるところではあったし、もう一つ言えば自身の機体――パビルサグの性能の確認をするのにもこの模擬戦はいい機会だと考えていた。
「KV戦はこれで2回目、空戦は初めてなので、落とすつもりでやる位で丁度いいですかね?」
高機動と聞いて自身のKV戦の練習にもなると考えていた御闇(
gc0840)は誰にともなく問う。
「いいと思うよ」それに応えたのは夢守 ルキア(
gb9436)だった。
「DSの良いトコも悪いトコも見つけ、パイロットが欲しいと思うKVに見せるのが今回の私たちの役目だし、本気出さなきゃ」
言うルキアにも、思うところはある。ある意味自分自身の鍛錬の意味も兼ねるイレイズや御闇とは違い、純粋にDSをロールアウトしたい、という気持ちが。
――ただ、戦場で戦えなければ意味が無いのも確か。だから彼女は、色々な戦法を使うつもりでいた。
「私が管制するよー」
手始めにそう宣言し、チーム全員の生命力と練力を把握する。
そして偵察用のカメラを併用しつつ目視で索敵を行っていると――遠くに機影が見え始めた。
「ほんとうに最近の新型の性能はどんどん進歩していくね」
漸 王零(
ga2930)の言葉に「そうだな」と雄人が肯きを返すのを、ランディ・ランドルフ(
gb2675)は黙って聞いていた。
それから、自身が今搭乗している機体――件の新型『ディアマントシュタオプ』テスト機について得ている情報を口の中で反芻する。
「装備力はシュテルンより低め、錬力はペインブラッドより多いか‥‥」
といっても、情報はそれほど多くない。まだロールアウトされていないのだから当然といえば当然だが――ともあれ今は得ている限りの情報を元にやりくりするしかない。武装は、普段使っているシラヌイのものを装着していた。
自分がこの機体の性能を引き出すことが、正式採用に繋がる――。
そんなことを考えながら、ランディは視線を横に向けた。テスト機に並ぶように、一機のアンジェリカが飛行している。
搭乗者はフローラ・シュトリエ(
gb6204)――ディアマントシュタオプの、提案者だ。
当然、彼女がこのテストにかける意気込みは相当に強いものだった。
だからこそ、やることは一つだけ。
「ここまで来たんだから、後は精一杯頑張るだけね」
そうこうしているうちに――二つのチームは、大分接近しつつあった。
「来たか」ランディは呟き、即座に行動に出た。
「錬力に余力のある機体だ。クルメタルが誇るアハトアハトとの組み合わせ――試してやろう!
EAシステム起動! 火器管制、火力強化確認! 発射!」
EAシステム『アブゾルーテ・ヌル』を起動した状態で、アハトアハトのトリガーを引く。続いてフローラもフィロソフィーでの射撃を放つ。
狙いは両方とも同じ――フローラのアンジェリカが改造済みであることを考慮したうえでの比較が狙いだった。
「あ‥‥」
知覚攻撃力だけでなく命中精度さえも飛躍的に上昇させるかのシステムの効果も相俟って、放たれたレーザーは的確にマリオン・コーダンテ(
ga8411)の機体を捉えた。マリオン機の横でその様を見たドゥ・ヤフーリヴァ(
gc4751)は思わず息を漏らす。
勿論マリオンも自身が狙われ得ることも織り込み済みで、此方も機体スキルを発動し防御を固めてはいたが――それでも防ぎきることは出来ず、幾ばくか損傷を負っている。これで未改造だとは信じられないほどの破壊力だった。
一回見ておきたい――そう考えてここに来たのは間違いではなかった。
これならば、もう一つの目的をも――きっと。
「これでどうだっ!」ドゥはそんなことを考えながらホーミングミサイルの照準をテスト機――ランディ機に定め、発射。次いで加速し、ガトリング砲の砲身もテスト機へ向けた。
「――ん」しかし追撃を放つ前に顔を顰める。
ランディ機は急激に加速してホーミングミサイルを掻い潜ると、狙われずに進むフローラ機と共に、此方側のチームの――管制を担うルキア機の方へ向かっていた。
ランディは自身が狙われたことを察知し、DSのもう一つのスキル――HBフォルムを起動、更に向上した機動性で以ってホーミングミサイルを避けていた。
「基本的な戦術プランは高火力高機動強襲型、シラヌイに近い感じだな。
もっともバランス重視のシラヌイよりは明確に知覚特化狙撃機として使えるか?」
戦闘中も行動を記録し、そんな感想を漏らす。
「機動力の違いでついていくのは大変だけど、頑張りましょうか」
フローラ機も懸命についていく。
二機は共に、ドゥの予測どおりルキア機を標的にせんと飛行していたところ――当然、妨害が入る。十式高性能長距離バルカンとガトリング砲――それらが生み出した弾幕が、二機の進路を塞いだ。
「手加減すると検証にならないしな‥‥。全力で直撃しても悪く思うなよ」
とは言ったものの、イレイズがバルカンを使用したのは牽制が目的だ。本命は、まだ後。
弾幕はぎりぎりのところで避けられた。ただ減速している間に距離を詰め、尚もマリオン機がガトリング砲を放っている間隙を縫ってホーミングミサイルDM−10を放つ。
まだHBフォルムの効果が活きている上に、これは冷静に判断されたか。ランディ機はこれを避けることに成功していた。一方のフローラ機の方はガトリング砲の弾幕で少々損壊を受けているだけに、その回避力は際立つ。
だがまだイレイズの攻撃は止まない。更に距離を詰め、今度はFI−04を放とうとして――
「そうはさせまいよ」
「――ッ」
刹那、王零機が間に割り込んできた。続いてティルコット(
gc3105)機が、此方はマリオン機の弾幕を妨げるべくフォローに入る。
自由になったランディ機とフローラ機は尚もルキア機を追撃する。
(やっぱり狙ってくるよね)
ルキアは胸中で呟く。
想定していた事態でもあって、寧ろ囮になるつもりですらあった。
その狙いの一つは、次の瞬間にも再び発生しようとしていた。
「さてまぁ、未熟な腕で申し訳ないですが‥‥」
ルキア機を追う二機の背後に、虎視眈々と機を窺っていた御闇機が迫っていた。
「行きます!!」
ブーストに更にスキルを併用し、一気に距離をつめにかかる。
「ドッグファイト性能もみておくか」それに気づいたランディは再びHBフォルムを展開する。
更に此方もブーストをかけ、ワイバーンとのスピード勝負――流石にこれにはフローラ機はついていけず、御闇機の追撃をかわしている間にランディ機との距離は離れていく。
次いで御闇機がフローラ機を追い抜いていくが――ランディ機と御闇機の距離は開いたままだ。流石に機動性に特化したワイバーンには及ばず、多少は詰められているが、それでも高機動を名乗るには十分すぎるほどの機動性は持っていた。考えつつ、フローラも自機にブーストをかける。
御闇は尚もランディ機への追撃を行っていた。流石に距離を狭まれ、後背をとられている以上はHBフォルムで回避性能を向上させているとは言え全ては避けきれない。
「防御力が若干問題かな? だが、ペインブラッドとかの紙装甲よりはましだな」
被弾時の衝撃を身を以って味わいながら、ランディは呟く。
後方を詰められてはいるが、ずっと追っていたルキア機も大分接近し始めていた。ここは一つ、と心の中で合図を出し、プラズマリボルバーの照準をルキア機へ定めた。
――と、ルキア機もここで空中で反転し砲身をランディ機へ向けた。
拙い。ランディは瞬間的にそう判断する。
完全に挟まれた――。
が、
「――うわっぷ! ‥‥いだだだだ‥‥でこ打った」
次に通信越しに聞こえたのは御闇のそんな声だった。
御闇機の後方へ回っていたフローラ機が御闇機に砲撃を仕掛けていたのだ。命中し、動きが止まった間に再びフローラ機はランディ機に追いつこうとする。気を取り直した御闇がそれを阻止せんとするが、今度はこれを雄人が遮った。
それらの様子を察したか、ルキア機は一度砲撃を放ったのみで再び囮になる格好を取った。攻撃をかわしたランディ機は再度、それを追い始める――。
■
イレイズを相手取っていた王零には一つの狙いがあった。
煙幕装置を起動し、己が機体の存在を隠す。そしてエアロダンサーを起動、人型形態になったところで滑空の勢いで煙幕を突き破り――ジャイレントフィアーの一撃を煙幕越しのイレイズ機に叩き込む。
否、一撃だけではない――アグレッシブトルネードを併用したことで、三度の大きな衝撃がイレイズ機を直撃した。
「くっ‥‥」イレイズ機の被害は大きい。イレイズの口から思わず苦渋の声が漏れた。
一方、手ごたえを得た王零は唇の端を歪めて笑む。
「なるほど――これが噂の空中格闘か‥‥。確かに――面白い」
それ以上は続かせまいと、マリオン機、ドゥ機がフォローに入ったことに気づく。スキルの特性上飛行形態に戻らざるを得ないが、それを行ってからでは挟撃は避けられない。
被弾を覚悟した王零だったが、そうはならなかった。マリオン機との間にはティルコット機が入り、それから雄人機が此方はドゥ機に対する牽制を放ったのだ。
再び三対三の様相を呈した――が、その均衡が崩れるまでそれほど時間はかからなかった。
先ほどのイレイズ機の損傷が何より大きい。結局空中格闘に持ち込めたのは一度きりだったが、それでも絶大な効果があり――それから多少攻防を繰り返したところで、イレイズ機の生命が撤退ラインを割り、その場を離脱する。
これで三対二。続いて、ほぼ互角に打ち合っていたティルコット機とマリオン機が立て続けに脱落する。マリオン機にいたっては、最初にランディ機から浴びた一撃の影響も多少あった。
二対一。
戦況の有利を感じた王零は、ルキア機を追っていった二機の追走にかかった。
「まだ行かせないっ!」
ドゥは叫びつつその機体の背に向け追撃。全力で負けて辛酸を味わう覚悟は依頼を受けたときから出来ていた。
だが王零機はそれを寸でのところでかわす。追走を図ったドゥ機を、刹那、衝撃が襲う。
「まぁ‥‥あっちはあっち、こっちはこっち、ってな」
砲身をドゥ機に向け、雄人はそう言い放った。
■
尚も囮として逃げ回っていたルキアだったが、時折飛び込む味方からの通信で状況が苦しくなっているのは察していた。
途中で御闇機には王零機の対処を任せたが、自分の状態には変わりはない――。勿論振り切るべく反撃は試みているものの、DSは防御の薄さを機動性の高さがカバーしていた。
「――」全力を出すために。ルキアは当初から考えていたある策を実行に移すことにした。
唐突に、急激に――高度を落とす。当然ランディ機とフローラ機はこれを追ってきた。
それを確認し、反転、急上昇。
二機が揃って速度を緩めたところで、ピアッシングキャノンをランディ機に向け放つ。
奇襲の一撃――。
だがランディ機は急旋回し、これをぎりぎりのところでかわした。
「旋回力かぁ、いいね」
悔しくはなかった。寧ろ性能が示せて嬉しいくらいだ。
といっても、そろそろルキアも余裕はない。ちょうどマリオン機脱落の通信が入ったので、最後の策に出ることにする。
再び低空へ旋回し、今度はそのまま森に着陸した。深い森は、人型形態になった自機の姿を隠す。
追ってきた二機は低空で留まり、ルキア機を探しているようだ。
それを嘲笑うかのように、森の中からロングレンジで狙う――。
「――そこかッ!」
姿が見えないゆえ反応が遅れたこともあり、今度は掠めた。だがその代償は、ルキア機の場所を教えること――。
EAシステムを起動しつつランディ機が放った砲撃で、ルキア機の生命も三割を切る。
これを機に、戦況は完全に決したと判断され――戦闘は、終了した。
●全てはその時の為に
KVから降りた後、能力者たちは森から程近いところにあるクルメタル社の施設の一室を訪れた。
実際に搭乗したランディや、戦ってみてのほかの能力者の感想を研究者側に伝える為だ。
「練力に余力があるとはいえ、それなりの改造やタンク増設も必要か?
この機体特性から言えば」
搭乗したランディの感想に続いて、「練力は確かに結構使うが」イレイズは口を開く。
「EAシステムがアサルトフォーミュラBより効力が高いのは良いかな、個人的には」
「もっと高威力化はできないか?」王零はその場に居たクルメタルの社員に尋ねた。
「今のままだとドロームのエンハンサーと比較すると弱い気がするからね」
そうは言ったものの、元の性能との兼ね合いもあり難しいだろう、というのが返答だった。
感想も出尽くしたところで、
「最高レベルの知覚攻撃性能と運動性を有しつつも、その他も大半が悪くないので非物理と回避を両立させたい人に、って所かしら? 物理攻撃性能は犠牲にしてるけど」
フローラは、売り文句として使えそうな文言を社員に伝える。
他でもない提案者の言だ。それを採用する方向で、と社員も肯いたのだった。
「そういえば」
社員が去った後、御闇は雄人に尋ねた。
「ちょっと気になってたんですけど、上級職にならないんです?」
「あー」雄人は頭を軽く掻いた。
「気が向いたらするかもしれないけどな‥‥今はいい」
愛着があるのだろう。なるほど、と御闇は肯いて、もう一つ尋ねる。
「暇があったら今度、対人戦教えてくれません?」
何分経験不足なもので、と付け加えると、「まぁ俺でいいなら」と雄人は首肯を返した。
「ところで、失礼を承知で聞くが‥‥」それまで会話を聞いていたイレイズはそう前置きし、雄人に尋ねる。
「友人から兵舎前のベンチに本当に住んでるのか聞いてくれと言われたのだが――そんな事は無いよな?」
「‥‥つーか誰だ、んなこと言ったの」
雄人は顔をしかめてこめかみを押さえた。
そんな様子をよそに、ドゥは整備ドッグのある方向を見つめる。
(流石だなあ‥‥。スカイセイバーかこの機体か将来の目標として悩んじゃうけど‥‥)
でも、と一度小声で呟いて。
(いつかはこれを手に戦場を翔びたいと思う事は確か。
今の僕は情けないくらい弱いけどいつか――)
一方、フローラとルキアはテスト機が格納されている整備ドッグへ向かっていた。
整備班の方にも、提案者がこの依頼に参加していることは通達されていたのだろう。落ち着いて見たい、と告げると、触れることも出来るようなほど近くへ連れていってくれた。
二人は機体をそっと撫でる。
「後は結果を待つのみ、か。ロールアウトされると良いわね」
「そうだね」フローラの呟きにルキアは肯いて、付け加えた。
「素敵なパイロットに、見つかるように」