タイトル:【RAL】輸送護衛任務Aマスター:津山 佑弥

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/03/24 21:12

●オープニング本文


 マウル・ロベル少佐が艦長を務めるブリュンヒルデ、南米を翔ぶヴァルトラウテ。
 ――それらに次ぐ第三のヴァルキリー級艦の建造は、実のところヴァルトラウテ就航後間もなくから開始されていた。
 建造に主に携わったのは、カプロイア社。
 無論、単なる対抗意識によるものではない。
「いずれ必要になるものを今のうちから作っておくのに理由など必要ないよ」
 というのが建造開始決定直後のカプロイア伯爵の言である。
 実際に建造後、『ジークルーネ』と名付けられたヴァルキリー級参番艦はアフリカ攻略の拠点の一つ、アドラールに送られることになった。
 ――それでも伯爵をよく知る者の中には、
「こんなこともあろうかと」
 と言いたげなノリで建造を決めたに違いないという思いを抱く者もいたが。伯爵なら言いかねない。

 それはさて置き、外観の建造が完了した為アドラールへの移送は完了したものの、一つだけ済んでいない工程があった。
 慣性制御装置の搭載である。
 まだ装置はカプロイア社のあるイタリアにあった為、それを輸送する必要があったが――。
 バグアにとって元々自分たちの技術であるそれは、それほど欲しいものではない。
 ただし、人類に使われたくもないだろう。それは過去の彼らの行動の根底にあるメンタリティからも推察出来る。
 故に――上層部は移送に際し、一つの決定を下した。
 本物の慣性制御装置を送る輸送部隊とは別に、それと見せかけた偽の輸送部隊を同時に派遣する――。

 ■

「――あー‥‥どうしてこうなったのかしら」
 朝澄・アスナはコックピットの中でため息を吐き出す。
 急な転属だった為にL・Hに残してきた仕事を片付け、再びアフリカに戻ってきたのが先月の頭。
『ジークルーネ』の話も、その時初めて耳にした。
 その時は、また新しい艦が出来るのねー、と他人事のように考えていた。
 いくら同じ戦域と言っても、自分が乗ることはきっとないだろうと思っていたのだ。
 ところが、だ。
 欧州軍の兵士の中に、能力者――即ち、KVの性能を引き出せる者はあまり多くない。
 いるにはいるのだが当然矢面に立つ都合上、数は絶対的に不足していた。ジークルーネの直衛にあたる部隊を組織するとなると尚更だ。
 既に軍内部の部隊などに所属している者を引き抜くのも、数が多ければ練度や士気にも関わる。
 結局、兵士だけで組織することが可能な状態にあったのは空戦部隊だけ。陸戦部隊の方はまるっきり人がいない状況だった。
 そこにやってきた能力者の士官、しかも本来の役職はどうあれ立場は中尉である。
 更に言えば、これまでの経験で傭兵との接点もそれなりに多い。
 ということで――アスナには二つの役割が与えられることになった。
 一つはジークルーネの副官、もう一つは――陸戦部隊の隊長である。
 務まるとは思えない。遠回しな表現で断りは伝えてみたものの、それもどうやら無駄に終わったらしい。
 
 陸戦部隊といっても、前述の通り人員不足の為恒常的に所属しているのはアスナ一人である。
 いざ陸戦が必要となれば、隊長権限で傭兵を招集することが出来るらしい。
 そして傭兵といえば戦闘経験ではアスナの遙か上を行く者の方がそうでない者よりも多い。まさに名ばかりの隊長だ。
 適材適所という言葉は知っているし、元からそれほどプライドが高いわけでもない。だから名ばかりであることが悔しいとは思わない。
 どちらかといえば頼りにしたいくらいだったが、それを表立って表現するのも軍としてどうか、という複雑な心境にあるのだった。

 ところで彼女が今いるのは陸ではなく空である。
 アドラールへの慣性制御装置の、欺瞞を交えた輸送。実際ジークルーネに搭乗することもあり、アスナはその護衛も言い渡されたのだった。
 ちょうど着任の際に整備費として受け取った資金で新しい機体の貸与権も購入していたから、それの慣らし運転も兼ねろということらしい。
 輸送ルートは二つあり、アスナがいるのはそのうちの一つ、イタリアから直線距離でアドラールに向かうほうだ。
 人類の手が既に多く入ったアルジェリアは通信環境も比較的よく、よほどのことがない限り奇襲などは起こりえないという。
 安心と言えば安心なのだが――。

 何事もないといいなぁ――という希望は、この場合ある種のフラグでもあって。
 それから間もなくして、敵襲が告げられた。
 ‥‥その敵の正体を知り、
「えぇ‥‥?」
 アスナは露骨に眉を顰めた。

 ここはエジプトじゃないのに。

●参加者一覧

伊佐美 希明(ga0214
21歳・♀・JG
セシリア・D・篠畑(ga0475
20歳・♀・ER
ケイ・リヒャルト(ga0598
20歳・♀・JG
抹竹(gb1405
20歳・♂・AA
嵐 一人(gb1968
18歳・♂・HD
フローラ・シュトリエ(gb6204
18歳・♀・PN
ムーグ・リード(gc0402
21歳・♂・AA
立花 零次(gc6227
20歳・♂・AA

●リプレイ本文

「――これはまた、大きいのと妙なのが出て来ましたね‥‥」
 キメラの軍勢を捉えた後、最初に溜息を吐き出したのは立花 零次(gc6227)だ。
「‥‥エジプト、ニハ、マダ、遠い、ハズ、デス、ガ‥‥」
「いやはや‥‥エジプトからわざわざお越しになったのやら。ご苦労なことですよ」
 ムーグ・リード(gc0402)が苦笑交じりに漏らした言葉に、抹竹(gb1405)もまったくだとばかりに肯く。
「あれらは彼等の目にどう映ったのやら」
「何にせよシュールよねー。対応自体は真面目にしないとだけど」
 フローラ・シュトリエ(gb6204)がそう感想を漏らした。眼前の敵勢についての感想が『シュール』なのは満場一致である。
「何をしてくるか分からない敵。出来れば早目に潰しておきたいところです、ね」
「ガキの遠足じゃないんでね、ティシュトリヤは迎撃に出るぜ」
 零次の言葉に続いてそう言った後、伊佐美 希明(ga0214)は眉を顰めた。
 彼女の視線はスフィンクスを通り越し、空に浮かぶ巨大なピラミッドを捉えている。
「しかし、あのデケェのは一体なんだ?
 ‥‥母艦か支援機か、妨害装置かリフレクターか‥‥或いは広範囲攻撃機かもしらんねぇ。
 ま、なんにしろ、いやらしいモンにゃ違ェねぇ」
「警戒はしつつ、だけど慎重になりすぎないように、かしら」
 後ろのこともあるしね、とアスナは気持ち視線を後方のガリーニンに向けながら言った。
「そうね――だからこそ、この茶番劇‥‥すぐに終わらせてあげる」
 ケイ・リヒャルト(ga0598)が宣言し、
「行くわよ、トロイメライ‥‥!」
 ――戦闘が、始まる。

「‥‥場違いさんには、早々に退場頂きましょう」
 開戦の狼煙を上げたのは、セシリア・D・篠畑(ga0475)とケイが放った計五〇〇発のミサイルだった。
 特記するほど機敏でもないらしく、僅か四機に対し容赦なく降り注いだそれは悉く命中したが――
「‥‥タフね」
「‥‥元が石だから、ということでしょうか」
 晴れかかった爆発の煙の向こうに手応えのなさを実感して、二人は表情を険しくした。確かにかなりの数のミサイルがヒットはした筈だが、今のところ目に見えたダメージはない。
 ただしそれでも敵の足並みは乱すことは出来たらしい。スフィンクスのうち二匹はすぐにそれぞれ青と黒のレーザーで反撃に転じたものの、もう一匹は動けずにいた。
 一方、ミサイルが空に咲き乱れている間に、他の傭兵たちも動いている。だからこそ二つのレーザーは彼らを先に標的とした。
「うお、いきなりそれかよ!」
 嵐 一人(gb1968)は驚きに声を上げつつ、愛機を操り青のレーザーを避ける。
 最初現れたときは一回しか見せなかったのでわからなかったが、傭兵たちに向かってきた青のレーザーはスフィンクスを中心に三方向へ掃射するものだったのだ。残りの二本の青はムーグ機と零次機に向かい、それぞれ驚きつつも避けた。
 一方、黒のレーザーはというと。
「危ないわねー‥‥!」どうやらそれなりに照準性能が高い上に、連射式らしい。フローラ機を執拗に追い回していた。
 避けようと思えばいくらでも避け方はあるが、それを原因にして孤立するのは避けたいのが本音だった。幸い避ける方向を考え直す前に一旦攻撃は止んだ。
 そのころにはもう一匹のスフィンクスも行動を開始しそうだったが、
「あんまり暴れられても面倒ですし」
 先手を打ったのは、ガリーニン直衛であるケイとセシリア、アスナ以外ではもっとも後方にいた抹竹だった。前に出た仲間がピラミッドを一斉攻撃で狙う時間を稼ぐ為、本日三度目のK−02が放たれる。
 再びミサイルが空を埋め尽くす間に、他のKVは更に加速し――他方、
「わざわざ墓を持参するたぁ、随分用意がいいじゃねぇか」
 言いながら希明はスナイパーライフルのトリガーを絞る。
 ミサイルを撃ちこまれながらも尚、ピラミッドへ向かうKVを迎撃しようとするスフィンクスの気をそちらからそらすのが狙いだ。同様の狙いを以て、フローラもフィロソフィーのレーザーをスフィンクスに放っていく。
 そして残る一人機、ムーグ機、零次機はそれぞれの狙い通りの射程へ到達。
「何が出るやら‥‥」
「構うか、いくぜ!」
 零次と一人はそれぞれドゥオーモとロケットランチャーを放つ準備に入る。
「‥‥?」
 放つ寸前、零次はピラミッドの姿に違和感を抱いた。
 微妙にだが、ピラミッドの下部が開いているようにも見える――。
 それが意味するところを察し、零次はすぐさま狙いをそこに切り替えてドゥオーモを放った。
 PRMシステムにより威力を増したそれは狙い通りの場所に命中し、爆発が起こる。続いて一人機のロケットランチャーもそこに命中し、爆発は激しさを増す。
 更にやや高度を上げていたムーグ機が降下しつつスキルを発動させようとしていたが――その前に爆発の陰からうっすらと、明らかにピラミッドではない敵影が見えた。
「やはり‥‥!」
 何人かは予想していたことだったが、ピラミッドの中からスフィンクスの援軍が現れたのだ。
 構うことなく、ムーグはブラックハーツを起動させた上でフォトニック・クラスターを放つ。高熱はピラミッドと出てきたばかりのスフィンクス、それから他のスフィンクスのうち二匹も巻き添えにしたが、K−02同様目に見えた損傷は窺えない。
 更に零次がやはりピラミッドの開閉部目がけてドリルミサイルを打ち込んだ。
 開閉部には当たらなかったが、抉れるようにピラミッドの壁――装甲とも呼ぶべきかもしれないものに減り込んだ後、爆発。立て続けに一人機のロケットランチャーがそこに撃ちこまれると初めて明らかな損壊箇所を生み出したが、その代償かもう一匹スフィンクスが這い出てきた。
 ここまで来ると判断が出来る。今はピラミッドに攻撃すべきタイミングではない。一斉攻撃を仕掛けた三機も一旦スフィンクスへ攻撃対象を切り替えた。

「ハッ! ツラァ削れているほうが、スフィンクスらしいぜ!」
 希明は至近距離でバルカンをスフィンクスの顔面に放ち、即上方へ方向転換する。
 直後、目指す高さから別のスフィンクスが放ったと思しき赤いレーザーを捉え、かわしきれず被弾する。その前にも一発まともに食らったのだが、赤いレーザーはどうやら他の色のレーザーに比べ威力が高いらしい。
 追撃があるかと思ったが、その前にフローラ機が対処に回っていた。プラズマライフルを連続してスフィンクスに浴びせ、石――にしては高すぎる硬度を持つ物質の顔面を削り取っていく。それを見、希明は咲きほどバルカンを浴びせた方のスフィンクスがいる方向に再度方向転換したが――そこに敵の姿はない。
 そのスフィンクスは態勢を立て直すとすぐに、ガリーニン――より正確に言えば、その直衛にあたっていた三機に照準を定めていた。青のレーザーから立て続けに黒、赤と放っていく。
 それまで援護はしつつも戦況を比較的冷静に観察出来た為、青レーザーはそれぞれに避けた。が、黒レーザーは簡単にはいかないことを既に三人とも知っている。後ろにはガリーニンがある分、避け方にも気を使う必要がある。
 更に、最初多くのKVがピラミッドに向かった為スフィンクスにあたる戦力がやや不足した。早期のピラミッド攻略を諦めた面々がスフィンクスに攻撃を仕掛ける前に、スフィンクスがもう一匹ガリーニンに接近を始める。
「いかせませんよ」
 死角から抹竹が機関砲を浴びせたが、スフィンクスは抹竹機に気を留めずに黄色のレーザーと青のレーザーを放つ。
 自分が狙われていないことに気づいた抹竹はそれからブーストをかけスフィンクスに接近、ソードウィングでスフィンクスの眼を切り裂く。
 一方そのスフィンクスが放ったレーザーは、距離が近いだけに対象選択の幅も広かった。
 掃射された青のうち一本は、ガリーニンに向かっている。
「‥‥仕方ありません」
 代わりにセシリア機が対象から外れたのが、ある意味では幸いだったと言える。自分が狙われていないことを察したセシリアは即座に方向転換し、迫る青とガリーニンの間に機体を滑り込ませた。
 衝撃。それに怯むことなく、セシリアはバルカンの砲口を今しがた攻撃を放ってきたスフィンクスへ向けた。
 一方、黄レーザーは恐ろしく高い命中率を誇っていた。人類側の兵装で例えるならG放電装置のようなものらしい。そのことは情報としてケイやアスナの頭にもインプットされていたが、実際避ける側となると厄介この植えない。幸い、威力もやはりG放電同様他のレーザーに比べれば低いのも分かっている。狙われたケイは、あえてこれを受けた。
 スナイパーライフルで反撃しても、接近してくるスフィンクス。ケイは武装を高分子レーザー砲に切り替え、トリガーを改めて絞る。狙うのは、スナイパーライフルで最初から狙っていたのと同じ箇所だ。
 実弾に対してもレーザーに対してもやたら防御が硬かったスフィンクスだが、何度も何度も同じ箇所を撃ちぬかれ――初めてそこでほころびが生じた。狙われ続けていた右目の辺りにヒビが入り、次の瞬間砕け散る。まだ生きてはいるようだったが、視覚を奪われたからか一時的に明後日の方向に飛び始める。
「――皆、ひたすら同じ箇所を狙い続けて!」
 スフィンクスの行動が意味するところを察したケイは、そう全体に指示を出した。その時には希明機から逃れたスフィンクスが更に三機とガリーニンに接近しようとしていたが――
「チッ、丁寧に沈めていきてぇところだが‥‥。まったく、メンドクセェ」
 高空から回りこんで戻ってきた希明が高度を保ったままスナイパーライフルで足止めすると、
「ガリーニンに近付けさせる訳にはいかないわね」
 同じく戻ってきたフローラがプラズマライフルで、ケイの指示通り顔面を狙い撃つ。此方もまた度重なる同じ箇所への攻撃で、左目が砕けた。
 片目が砕けたスフィンクスたちは我に返った後、それまでは青→黒→赤→黄のローテーションで放っていたと思われるレーザーのうち、青だけを使うようになった。希明とフローラが戻ってきた分射程範囲にいるKVも増えたが、ガリーニンに被弾する可能性は増したということだ。
 途中から出てきたスフィンクスを相手取っていた一人、ムーグ、零次もガリーニンの近くまで戻り、必然的にセシリアは先ほどのようにガリーニンの盾に回ることになった。
 しかしそれでもガリーニンを護る壁が足りない。片目を砕かれてからのスフィンクスは防御などまるで考えなくなり、被弾しようと構わずクロスカウンター気味にレーザーを放ってくるようになっていた。
 今はまだそれほど数多く狙われてはいないが、ガリーニンを護る格好を認識されたら危ない――。
 そんな焦りが生まれ始めた頃、ちょうどセシリアが回れない方角からレーザーがガリーニンに迫っていた。
「やらせるか!」
 ここに滑り込んだのは、一人。脆いと自覚している機体にはかなりのダメージがいったが、代わりに予め起動しておいた圧練装甲により練力を貯めこむことが出来た。
 これ以上撃ちこまれると自分にも余裕がない。反撃するなら今すぐしかない。そう考えた一人は、ちょうどスフィンクスがガリーニンに接近しつつあったのを見――ツインブーストBを起動する。
 一気に肉薄したところで、スラスターライフルを構えた。
「取って置きだ! 遠慮なく喰らえ!!」
 残弾全てをスフィンクスの胴体に叩き込み、旋回してその場を離脱する。
 スフィンクスの傷は深かったが、まだ砕けるところには至っていなかった。だから尚もレーザーを放ちつつガリーニンに接近しようとする。しかし、
「外敵なんてない。戦う相手は常に、自分自身のイメージ‥‥」
 一人が攻撃を仕掛けている間にブーストをかけ死角に回り込んでいた希明が、呟きつつD−02のトリガーを絞った。
「この、山猫の眼から逃れられるものか! ――決めるッ!!」
 裂帛の気合とともに放たれた弾丸はスフィンクスの胴体を貫き、砕く。身体を真っ二つに折られたスフィンクスは遂にその動きを止めた。

 攻略法さえ分かってしまえば、後はスフィンクスのタフさとの勝負であった。
 迫っていたもう一匹は集中砲火で速攻砕き、最初のK−02を食らっていないだけ損傷箇所の少ない途中出現の二匹は、ガリーニン直護衛以外の六機で分担する。それまでも執拗に赤や青のレーザーでKVを狙ってきただけあり六機もそれなりに消耗はしていたが――かわせる攻撃さえかわしてしまえば、後はひたすら同じ箇所を狙うだけだった。

 残ったピラミッドはといえば、単なる母艦としての機能以外は備えていないようだった。或いはCWのような能力を備えているのかも、と警戒する傭兵もいたが、杞憂に終わったらしい。
 途中で一旦攻撃を止めたのは正解だった。全員で対処にかかり始めてから最初のうちは、なおもスフィンクスが開閉口から出てきたからだ。
 その開閉口は特に頑丈に作られていたらしく、集中攻撃しても三匹のスフィンクスを出現させたほどだったが――自発的な防衛手段を持たない以上、限界はある。開閉口を破壊されると、単なる四角錐のデカブツと化した。
 攻撃手段を持たないことを傭兵たちも気づいていたため、その後は吐き出された三匹を同じように処理し――最後になって堕とされた。

 ――こうしてガリーニンは護られたまま、無事にアドラールに到着。
 本物の慣性制御装置が輸送されていたのはもう一方の輸送ルートだった。
 だが此方も確実に輸送を行うためには必要なルートではあったし、何より装置以前にガリーニンに搭乗していた兵士は傭兵たちにより護られた。それはそれで、意義のあるものだったといえるだろう。
 アドラールで無事任を終え、大地に降り立ったムーグはやや遠くに視線を投げる。
 傭兵たちがKVを着陸させた場所からだと、滑走路の奥側に――新たに建造された翼があった。
 もうすぐ訪れるであろう慣性制御という名の力が備わる時を、静かに待っている。
 その様を見、ムーグは思い、信じた。
 一歩一歩、着実に――。
 傭兵である自分に出来ないことも、彼らはきっとやってくれるのだと。