●リプレイ本文
●開幕〜女性衣装部門
「さぁーいよいよ始まります、『ミスUPC in 欧阿方面軍決定戦 2011』!」
特設ステージの中央、いきなりどことなく自分の会社の通販番組に自ら出てくる取締役を思わせるテンションで煽り始める司会。衣装は某謎掛け芸人よろしくなスーツだけれども、これでも普段は兵士です。
「集まった参加者たちは、今日この日までただ一人の人間として燻っていた。
けれども今日はそんな自分を脱ぎ捨て、皆の太陽になるべくこのステージに上がります!
皆も応援宜しくお願いしますよー!」
声を上げると同時に拳を振り上げる。ステージ下の広大な観客席に集った人々もまた拳を振り上げ返したり歓声を上げたりしていた。
司会はそれらのレスポンスに満足気に肯くと、ステージの端の方へと移動しながら口を開いた。
「ルールは募集開始した時点で知れ渡ってる筈なので、余計な前説は時間<じすう>の都合もありますし省きましょう!
まずは――女性衣装部門です!」
言葉が終わると同時に歩くのを止め、彼は指し示すように腕をステージの中央へ向ける。
するとステージ後方の幕が開き――直後、その陰から一人の女性が姿を見せた。
傭兵たちの中で最も登場が早かったのはミリハナク(
gc4008)。開始から三番目で出番はやってきた。
颯爽とステージ上に姿を見せた彼女の身体を包むのは、モノキニと呼ばれる、前から見るとワンピース/後ろから見るとビキニに見える水着だ。
桜色の水着にはこれといって装飾はない。逆に言えばそんなものは必要なかったとも言える。スタイルの良さもあり、歩くだけでも彼女の姿はかなり人々の目を引いたからだ。
笑顔を振りまきつつステージ最前方まで来た後、すっと右足だけをやや開きポージング。
特に奇抜なことをするつもりでもなかったけれども、やはり目を引く姿故か、かなり決まっていた。
それから振り返り、前に出てきた時と同じような足取りでステージを去っていく。
間に一人挟み、ほぼミリハナクと入れ替わる形で、葵 コハル(
ga3897)がステージに現れた。此方は薄い水色のビキニを着用している。
コハルはステージ最前方まで出てくると、愛想の良い笑顔を浮かべながらひらひらと手を振った。
「はろハロー♪ あたしの名前は葵コハルって言います。
『特にコレ』とゆー取り柄はありませんけど、元気さに関しては自信があります!
疲れた時はいつでも元気を分けてあげますから〜」
言いながら投げキッス。応じて、オーディエンスから(主に太い)歓声が上がる。
コハルはそんな観客席の方へ耳を澄ます仕草を取った。
「え? 『疲れてる時には鬱陶しい』。そんな事ゆーとハリセンでドツキ倒しマスヨー?
まあとにかくそんな感じなのでヨロシクお願いしま――っくしゅん!!」
盛大にくしゃみ。そりゃまあ水着だし、いくらアフリカの昼が気温上がると言っても寒くないことはない。
改めてもう一度、お願いします、と言ってから、コハルは一瞬思案して
「あと、成長期が遅く来るって事あるんだよ? あたしもココ半年くらいで体積が増えてきたからね」
言葉を続けた。
いきなり何を言い出すのか、と思った観客も多かったが――真意は、その言葉を最後にステージを去ったコハルと入れ替わりに現れた少――女性を見、何となく理解した。
「折角の機会ということで、アフリカにおける希望の星の一つ――ヴァルキリー級参番艦『ジークルーネ』の搭乗員の方にも来て頂きました!
ジークルーネの副官にして陸戦隊長を兼ねる、朝澄・アスナ中尉です!」
――という(本人にしてみれば余計な)アナウンスが司会から入ったせいでもあるが。
そのアスナ、着ている水着はパレオ付きのものだ。気乗りしないまま控え室に行ったら準備されていたのだ。誰かが手を回したらしい。
けれども悲しいかな、露出度が低いといってもその胸の膨らみの控えめさは隠しきれるものではなかった。
それでも、せめて態度だけでも希望の星の一員らしくあろうと堂々とステージを歩くアスナ。内心がどうなっているのかは言うまでもないが、彼女にしては珍しいポーカーフェイスで頑張っていた。
ここで少しばかり時間を遡る。
シルバー(
ga0480)は控え室にて、冷や汗をかいていた。
理由は単純、衣装として用意した高校時代のスクール水着が、スタイル的な意味で成熟した今の彼女にはあまりに小さすぎたからだ。
「だがしかし、このような状況を想定していない私では無い」
一人肯く。実際、予備の水着の調達も頼んでいる。
それを依頼した本人を探そうと、シルバーはスクール水着を片手に控え室を出ようとする。
その時ちょうどよく、控え室のドアがノックされた。
「シルバー姉さん!? それは、ちょっと待って!」
入室した立花 零次(
gc6227)は真っ先にシルバーが手に持つスクール水着を目にし思わず叫んでいた。
だがシルバーはそんなこと意にも介さなかった。というか、
「傭兵登録して軽く三年は引きこもっていた私の名を知るとは、何ものだ!」
「えぇ!?」
――自身もコンテストに出場する為特技部門用の衣装に着替えていた零次のことを、誰か判別出来なかったのだ。
慌てて零次が名を名乗るとシルバーは漸く納得し、
「いやー。見ない間に立派になったなぁ。良いぞ、凄く良い。後で写真に撮るからな」
肩をぽんぽんと叩く。
「似合いますか? 照れますねえ。それより‥‥」
零次はシルバーが未だ持っている水着を見下ろす。これで出場しようというのはかなり無理がある。具体的に言うと、最悪はちきれる。
「仕方ないから何故か持ってたコレで」
と、持ってきた『あぶない水着?』を手渡す。元々調達の依頼をしていたのも零次なのだ。
これはこれで露出度は恐ろしく高いのだが、はちきれるよりは遥かにマシな筈なので何ら問題はなかった。
そしてそれを身に纏ったシルバーが、今はステージに上がろうとしている。
――のだが、覚醒中なので寧ろさっきのスクール水着が丁度いいくらいのサイズになっていた。
つまりは危ない水着、別の意味でも危なくなっているというわけで。手で胸の辺りを押さえないと漏れなく大変なことになる。
「私はシルバー、アスナ中尉の‥‥義姉ラヴィ」
ステージ最前方に来たシルバーは言う。『‥‥』の辺りは「未来の」と言ったのだが、小声過ぎて誰の耳にも届かなかった。
まだ何かありげだったが、とりあえず衣装部門として出来ることはここまで。
今にもずり落ちそうな水着を押さえながらステージを去ろうとするシルバー。
と、その時である。急に横から強い風が吹き、留めてあったせいか胸より若干ガードが緩かったビキニの下の紐が緩み――。
風に煽られて、体から離れて飛んでいくビキニ。だが、当のシルバーの目の前には『見せられないよ』との巨大な衝立が出現していた。出現したというよりは、即座に危険を察知したスタッフがそれを持ってステージ袖から現れたのだが。
こうして何とか(蔵倫的な意味で)危機を逃れ、衝立が外れたときにはシルバーはステージ裏に姿を消していた。
気を取り直すように衣装部門は再開され、間もなくフローラ・シュトリエ(
gb6204)が姿を見せた。
(堂々としてないと、ね)
白のホルターネックで身を包み、背筋を伸ばして所謂モデル歩きを華麗に披露する。ステージ最前で右手で髪をかき上げる仕草を取ると、観客席からは見蕩れる声が集ってざわめきが生まれた。
そこから少し間が空き、傭兵の中で次に出番を迎えたのは秋姫・フローズン(
gc5849)。
ところで、彼女にとっては腹違いの姉であるユキメ・フローズン(
gc6915)もまたコンテストに出場している。ユキメの出番は秋姫のすぐ後で、特技部門では逆に秋姫がユキメのすぐ後になる予定だ。
それは――出場者一人一人に割り当てられている控え室も、順番の都合上隣同士になるということも示している。
「ユキメ姉様‥‥負けません‥‥よ‥‥?」
「あら‥‥、私も負けないわよ?」
対抗意識ばりばりの姉妹である。
ちなみにその時ユキメは微笑んでいたが、こういった表情を向ける相手は秋姫一人だった。
さて、衣装部門の話に戻る。
秋姫の衣装はキャミソール風のゆったり目のトップスにロングパレオの水着。
やや恥ずかしそうな感じで出てきたのが男性受けを誘ったらしく、はにかみながらポーズを取ると観客席の一部からは野太いエールが響いた。
一方、ユキメの方はさらしの上に、赤い椿の柄が入った祭り用の法被を模した半透明の上着を着ていた(袖はないので水着とみなされた)。下はロングパレオで、此方は袴を意識させるようなものになっている。
それらを身につけた上で、彼女はステージ上でクールにターンした。
傭兵の中で続いて姿を見せたのはニーマント・ヘル(
gc6494)。
彼女が出てきた瞬間、観客席は騒然となった。というのも、男と見紛うようなおっさん顔に筋肉質な身体付きとくれば「出る部門間違ってないか?」という疑問がわくのも人間心理的に何らおかしくない話だからである。
けれども彼女はちゃんと女性なのである。その証拠に、紅をベースに黒い筋が入ったマイクロビキニを身につけているし、その下には――大胸筋も発達している為分かりにくいといえば分かりにくいが――ちゃんと胸の膨らみも存在する。今回はあまり関係ないが、女性なりに恋だってしているのだ。
「あたしはニーマント・ヘルといいます。よろしく」
未だ騒然とする場に対し、ニーマントはあくまで毅然と挨拶をするのだった。
女性衣装部門も中盤から終盤に差し掛かりつつあった。
それまで広場の中を見て回っていた椿姫(
gc7013)は、スタッフの呼びかけに応じステージ裏へと向かい始める。
その表情からはちょっとした緊張と、「どうしてこうなった」的な戸惑いが見て取れる。
というのも――彼女は自分で参加登録をした覚えがないからだ。
それは衣装部門が始まった頃のことである。
観客席にいた椿姫は、不意にスタッフの腕章を巻いた士官に声をかけられた。
「出番前に時間に余裕を持って着替えておいて頂きたいので、控え室の方へ向かってください」
「へ? え、私応援にきただけだよ?」
いきなり指示され、戸惑いながら答える椿姫。
士官も一瞬「あれ?」というような表情を浮かべたが、すぐに我に返った。
「ですが、貴女の名前で参加申請が出ていますよ。ほら」
スタッフが参加者一覧の書類を椿姫に見せる。
確かにそこには彼女の名前が載っていた。彼女が知らない間に参加登録していたのが金城 エンタ(
ga4154)だということを知るのは、もう少しだけ先の話だ。
「あれ、ほんとだ‥‥」
「ということで行きましょうか。場所が分からないならご案内します」
「ちょ、まっ待ってぇぇ!!」
拒否権などないとばかりに椿姫の手を引いて歩き出すスタッフ。
そのままずるずると控え室に連れ込まれ、現在に至る。彼女の参加登録をした本人(つまりエンタ)の策略か、控え室にはご丁寧に水着まで既に用意されていた。
場の雰囲気的に、まさかこれからやだと言うわけにもいかないのだろう。
それに、元から人前に出ることはそれなりに慣れている。
だから椿姫は諦めて出場することにしたのだが――不意打ちなものだから緊張と恥ずかしさを隠せずにいたのだった。
やがて終盤、残り数組となったところで彼女の出番はやってきた。
ステージ裏に移動した彼女は今、上は薄手のパーカーを羽織り、下は黒リムのパレオを着用している。
腹を冷やしたくなかったのでそのまま出ていこうともしたが、
「ちゃんと水着で行ってください」
とスタッフに注意されたので仕方なくパーカーを脱ぐ。その下には、黒地にリムが赤、左の胸元にワンポイントで椿の柄が入ったホルターネックの水着を着ていた。
出ることになった以上はやるだけのことはやらねばなるまい。
椿姫は見よう見まねでモデルっぽく歩いてみるのだった。
鹿島 綾(
gb4549)には、一つの憂慮があった。
(ファッションに何の興味も抱いていないんだよな‥‥)
誰が、といえば、イルファ(
gc1067)のことである。
綾としてはおしゃれも少しは覚えてほしいところであり、今回のイベントをちょっとした荒療治に使うことにした。
「潜入依頼と、聞いて来たのですが‥‥。
本当に、こんな所に親バグア派なんて居るんでしょうか‥‥」
控え室にて、イルファは事情を聞きながらも尚も戸惑いを隠せずにいた。それもそうだろう、そんな依頼なぞ出ちゃいない。
更には綾曰く「現場に溶け込む為」ということで衣装部門にも出ることになっていた。
「上手くやれば、舞台の上から周囲を見渡す事ができるしな」
「‥‥はぁ、まぁ‥‥一理、有りますが‥‥」
力説する綾に対しそう肯きつつも、イルファは凄く自信なさげに綾の顔を見つめた。
「ですが――私、そんなの出た事ないですよ?」
「ああ、俺も一緒に参加するぞ?」
だから安心しろ、とばかりに力強く肯き返す綾。
そう言われては「見渡す」目の為にも後には退けなかった。
「いいか、イルファ。コンテストに出るからには、相応の仕草も行わないと駄目だ。棒立ちなんてもっての外――怪しまれるからな」
「怪しまれるのは困りますし‥‥分りました、教えて下さいますか?」
またしても力説する綾と、素直に肯くイルファ。
ちなみに本来はチャイナドレスで、と思っていたところだが、それだと女性衣装部門のルール違反になってしまう。その為二人が現在身につけているのは「極めてそれっぽい」形状の、しかしあくまで水着である。柄なんかは発注通りにしてもらっているし、チャイナドレスのキモ(だと報告官は思っている)スリットもロングパレオに切り込みを入れて再現していた。
元から恥の概念が薄い上に仕事だと完全に割り切っている様子のイルファに、綾は『手を腰に当てて身を軽くくねらせる』『髪を両手で掻き揚げて、脇と横乳をアピール』『スリットに指を軽く這わせて、太ももをチラ見させる』などといった仕草を吹き込む。
「‥‥こう、ですか?」
戸惑いながらも言われたとおりにやってみるイルファ。
綾は満足そうな笑みを浮かべて肯いた。
「ん、中々に可愛――もとい、上手だ。それなら大丈夫だな」
本音が漏れかけて慌てて言い直す。
まさかそのポーズすら自分が見て楽しむ為などとは言えなかった。
そして本番。
藤色のチャイn――水着を身につけたイルファと、形状は同じ、かつ黒地に金の刺繍の入った水着に身を包んだ綾が並んで出てきた。それまでにも二人ないし三人組で出てきた参加者がいたにはいたが、この二人の時の盛り上がりはそれらとは一線を画した。
その要因が本人たちの容姿に加え、結構な際どさを見せたポーズにあったことは言うまでもない。
●男性衣装部門〜男性特技部門
女性の衣装部門が終わり、少しの間を置いて男子の部門が始まった。
まずは衣装部門、傭兵たちの中で真っ先に出てきたのはエルト・エレン(
gc6496)。
執事服に身を包み、長い後ろ髪は首の後ろ辺りで縛ってステージ上を往く。
服装によっては男の娘とか呼ばれることもあるエルトだったが、今日はばっちり(?)若干庇護欲を誘う感じの男の子になっていた。観客席から「かわいい〜」などという女性の声も飛んだとか飛んでいないとか。
続いて、イオグ=ソトト(
gc4997)。
彼には今回の出場に当たり、一つの狙いがあった。
(筋肉十字軍の名を再び世に知らしめるチャンスかもしれん)
彼の言う筋肉十字軍とは、かつて人類同士の戦争が起こっていた頃欧州全域に名を轟かせていた秘密組織である。
戦争は力強さ、筋肉質な肉体を求めるとし、戦時中はポスターのモデルなども勤めたこともあった。だが戦争が終わり価値観の多様性からあっという間に欧州から消え去ったのだった。
今ではごく小規模になった組織の現トップであるイオグにとって、その目的が叶うことはある意味悲願でもあった。
学ランにライダーゴーグル、ライダーグローブに桜のイヤリングにフロストフラワーという出で立ちでステージ上に登場した彼は、最前方に来ると学ランを脱ぎ捨てた。
厚い胸板、割れた腹筋、引き締まった太股が露になり、ビシッと決まった褌姿となる。
力強さを最大限引き出したポーシングを行うと、「いいぞー!」という野太い声が観客席から届いた。
衣装部門の終盤で登場したのは零次。先ほどシルバーと会っていたときは特技部門用だったが、今は着替えている。
舞台には何度も立っているものの、コンテストは初めてだった。
なので優勝には特に拘ってはいないが、お客様に楽しんでいただければ良い、とは思っている。無論、自分が楽しいと思えることも忘れずに。
着物に羽織、袴、舞扇――加えて言えば所作まで能を意識した、とことん和の雰囲気にこだわった彼の登場に、観客席からは再度見蕩れるようなどよめきが沸く。
現地の人々にとっては見慣れぬ文化を見た驚き、移民にとっては所謂欧州にとっての日本のイメージをここに表現したことによる感嘆が生んだものだった。
衣装部門が終わり、今度はそのまま男性の特技部門。
イオグと零次は此方にも出るが、その前に出てきたのはソウマ(
gc0505)だった。
出てきた彼の衣装はピエロセット。変装セットも駆使したことにより、トランプのジョーカーをイメージした、緑と黄色が主体の派手な衣装と白塗りに愛嬌のあるメイクに仕上がっていた。
「審査員の点数なんて関係ありませんよ」
特技部門は、披露の前に司会との軽いやり取りがある。緊張していますか、との問いに対しソウマはそう答えた。
「今日、何人笑顔にさせる事にできたかどうか。
笑顔にさせたら僕の勝ち!
皆笑顔にさせたなら僕の優勝!!
――勝手に決めた事ですが本気ですよ」
不敵かつ自信満々といった笑みを浮かべる。
何というマイルール。だがそのある意味での潔さが受けを誘ったらしく、観客席から拍手が巻き起こった。
そして、いざ特技披露――。
道化師として彼が最初に見せた芸は、パントマイム。石に躓いてみたり、犬の尻尾を踏んで追いかけられたり――全体的にコメディ色の強い無音芸を披露する。
続いてジャグリング。最初は二個だけだったボールがすぐに三個、四個――数が増えていき、終いには一体何個が彼の目の前で躍っているのか分からなくなるほどの数になった。
それでもソウマは素早い手の動きでそれらを捌いていたのだが――ひとたび崩れてしまうと、あとは一気だった。一個が頭の上に落下すると、それと同じ軌道を辿っていた後続のボールも次々と頭に落下する。
あぁっ、と観客席から悲鳴が起こった。だが当のソウマにしてみればそれは寧ろ狙っていたオチであり、頭に落下する度衝撃に逆らわず首を引っ込めるなどしてコメディ性をアピールしてみせた。
最後にはバルーンで可愛らしい動物を次々と作り出し、出来上がる度に観客席に放り投げて場を沸かせて見せた。
ちなみに出番が終わった後も、ソウマはステージではなく炊き出しの近くなどで同じように芸を披露していた。
傭兵の中で次に特技披露を迎えたのは、イオグ。
二度目の登場となったわけだが、衣装部門の時に学ランを脱いだ状態のままの格好――つまり褌一丁である――で彼が出てくると、ステージ袖から中央にスタッフ数人がかりで鉄骨、鉄管、鉄板が運び出されてきた。これらは要塞内の余った資材で、イオグが事前に許可を得て持ち出してきたものだ。
意気込みなんぞを語り終えた(当然内容は筋肉十字軍に関するものだった)イオグは覚醒すると、徐に一本の鉄骨を両手に取り――豪力発現を使用し、それを腕の力だけで捻じ曲げてみせた。おぉ、と観客席からどよめきが生まれる中、イオグは曲げた鉄骨を放り捨て――もとい、ステージを破壊するのもいけないので適当な場所に置き、続いて鉄管を手に取った。
一般人男性の胴回りほどの太さがある鉄管を、両腕を使って抱き込み――締めるように力を込めた。真っ直ぐに伸びていた鉄管はいとも簡単に歪み、くの字になる。
それもまた鉄骨同様に処理したところで、イオグの目の前に用意されたのは数枚積み重ねられた鉄板だった。
イオグは姿勢をやや低くし、左手で鉄板を押さえた。右腕は照準を合わせるように、鉄板の真上を何度か上下し――
「セイヤァァァァッ!!」
最後には裂帛の気合と共に、右腕をそれまでの数倍早く振り下ろす!
瓦割りの要領で衝撃を受けた鉄板は、材質が材質なので割れるところまではいかなかったものの――その全てが、中心一点にぶつけられた衝撃に負けて凹んだのだった。
そして、零次。
衣装部門のときは『男性』の和の装いで出てきた彼だったが、今度は一転して『女性』の和の装いで登場する。
するとステージ上には、笛と琴をベースとした音楽が流れ始めた。
零次はその音色に乗り、手にした扇子と和傘を巧みに操りながら――衣装も相俟って春を思わせる優雅な舞を披露する。
音楽が生み出す荘厳さと、彼自身の舞が魅せる華麗さに――会場中が感嘆に包まれた。
五分ほどの舞が終わっても音楽は止まず、一旦袖に引っ込んだ零次もまたすぐにステージに現れた。
ただし今度は、男物の着物だ。恐るべき速さでの着替えも芸のうちである。
そうして今度は扇子を用い、再度踊りを披露。
先ほどは優雅・華麗――或いは可憐といった言葉が似合うものだったが、今度はそれとは異質の――凛とした雰囲気を醸し出すものだ。その見事な踊り分けに、会場が再度驚きの渦に包まれた。
「ありがとうございました」
――やがて踊りが終わり、観客や審査員に対し一礼をした彼に対し、拍手喝采が巻き起こったのはいうまでもない。
●その最中に
こうして男性部門の一切が終わったわけだが、傭兵たちが出張っているのはコンテスト出場者としてだけではないということも触れておこう。
「まぁ、飛び入りハプニングは、アリ‥‥でしょう?」
舞台に上げたら盛り上がりそうな人を出させてみよう――そんな理由で椿姫をコンテストに出場させたエンタだが、コンテストの為に行っていたことは勿論それだけではない。
特に女性に言える話だが、特技部門で料理をしようとする者が多かった。彼は事前に、その為の食材を欧州から大量に仕入れておくよう手配しておいたのだ。
当日は黒子装束に身を包み、コンテストそのものの手伝いをしていた。特技部門におけるイオグの鉄骨などを運んだメンバーの中にはエンタも含まれている。
ところで、裏方に徹しようと考えていた彼が『裏方』感を出す為に取った方策は黒子装束だけではない。
目の下にはクマが出来ているようなシャドウ、加えてそばかすがあると見せるように点のメイクを入れる。
それもこれも――「自分は絶対にコンテストに出ない」という意思を主張するものだった。なんだか、過去に色々あったらしい。
猫屋敷 猫(
gb4526)はといえば、炊き出しの手伝いに参加していた。
巫女服+エプロン+ネコミミという(ある意味狙った)出で立ちでマグロや卵などといった定番のネタの寿司を握る彼女は、茶葉を厳選して持ってきた日本茶の提供も並行して行っている。後者に関しては「日本茶の素晴らしさを知ってほしい」という彼女なりの目的の一つを達成する為でもあった。
寿司は親戚の友人が経営する寿司屋で数回握ったことがある程度で、本物の寿司職人に比べればまだまだであることは自覚している。
だが、自分の料理を食べて一人でも多くの人に笑顔になってもらえればいい――そう思って出した甲斐はあった。日本が世界に誇る食文化の一つでもある寿司は実際、特に移民の目をかなり引いた。
ちなみに、寿司とお茶だけではない。カレー、うどん、手製の和菓子――前日までに作っておいたそれらのものも、炊き出しの場には出されていた。和菓子に関してはさりげなく、コンテストの審査員にも振舞ったりした。
「忙しい忙しい〜♪ でも楽しい〜♪」
今にもくるくる踊りだしそうなノリでそんなことを言いながら、彼女もまた笑顔で寿司を握り続けるのだった。
「初仕事がイベントの手伝いと言うのも、気が抜けそうだが。仕事だ」
セルゲイ・カミンスキー(
gc7237)は気を引き締めようと数度頭を振る。
彼がいるのはステージ裏と袖を結ぶ通路。時には横を出場者が通過し、またもう一方の横にステージですぐに使うものが用意されたりする。男性部門が一通り終わったところで休憩に入った為、エンタ同様コンテスト中のさまざまな準備に当たっている彼の仕事も一休みといったところだった。
もうすぐその休み時間も終わるのか、特技部門に出場する女性陣が少しずつ横の通路に集い始めていた。
特技部門の序盤は傭兵ではない――つまり軍所属か、要塞の――人々が続いている。場慣れしていないのか、最悪ただ歩いてアピールすればいい衣装部門とは違って緊張の色を隠せない女性も中にはいるようだった。
「少し、深呼吸をすると良い。落ち着くぞ」
こんな強面がスタッフであることに怯えられないだろうか――などと考えないこともなかったが、それでもセルゲイは緊張している女性たちに声をかけた。
「私も、応援させてもらうよ。頑張りたまえ」
女性たちは少しばかり吃驚したようだったが、やがてそれぞれに肯いてきた。
「間もなく特技部門が始まります」
スタッフの一人が通路全体にそう知らせたので、セルゲイは通路の先頭――つまり特技部門の最初の出場者のところまで行った。
「次は君だ。なにか、用意する物は?」
「ええと――」
女性の返答に一つ肯いた後、
「精一杯、頑張ってくるとよい」
そう最後に行って、セルゲイは準備を始めるのだった。
●女性特技部門
男性も基本的にそうだったが、女性の方も登場順は衣装と特技で逆となっている。
片方の部門にしか出ていない者もいるので、たとえば衣装部門にしか出ていない者の特技部門における順番のところには、特技部門にしか出ていない者が入るといった配慮がされていたが。
というわけで、傭兵陣の中で最初に出てきたのは椿姫だった。
衣装を思いつかなかったという建前――実際は参加するつもりがなかったのでそこまで考えていなかったのだが――で水着のままで出てきた彼女は、用意された椅子の背もたれに両手をつき――そのままそこを支点にし、倒立。
勿論、それだけでは終わらない。
足を前後左右に百八十度開脚してみたり、わざと身体を揺らしてそれでも尚うまい具合にバランスを取ってみたりする。更には支点を片手だけにしたり、椅子を斜めにしたりした上で同じように椅子上の演技を見せると、おぉ、という驚きの声が観客席から生じた。
伸ばしていた腕を曲げ、伸縮運動の反動で椅子から離れジャンプして着地。大きな拍手の間に、今度は五脚が大量に用意された。
不規則に積み上げられた五脚の山。今にも崩れそうなきわどいバランスで生じたその山に向かい、椿姫は助走をつけて跳躍する。
山の頂上に着地すると、そこでも倒立し――先ほどと同様に、曲芸を披露して見せた。
先ほどよりも一際大きな歓声が生じたのは言うまでもない。
続いてはニーマント。
今度は彼女にとっての正装――メイド服に身を包んで登場した彼女は、LHで予め調達していた食材をスピーディーかつ丁寧に――その体格に見合わない手際を見せ付けるように切り刻んでいく。
切り刻んだそれらを鍋に入れ――如何にも美味しそうなちゃんこ鍋を作ってみせる。
ちゃんこ鍋というものを初めて見る審査員も多かったが、試食した彼らの反応は見た目に違わぬものだった。
傭兵の中での三番手は、ユキメ。
先ほど同様に水着で出てきた彼女は、しかし今は長刀を携えていた。
その長刀を用いた演舞――。
最初はゆっくりステージ上を舞い始めた身体と刀だったが、徐々にそのスピード感を増していく。刀が風を切る音もまた、演舞の優雅さを演出する一つの音色となり、観客の目を釘付けにしていった。
そのスピード感が最高潮に達したとき――ユキメは覚醒し迅雷を使用しながら、踏み込みを利用して高く飛び上がった。
刀をステージに放り投げ、それが垂直に突き立ったのを見――ユキメ自身はその柄の上に着地した。
大きな拍手が巻き起こったそのタイミングで、ステージ袖から出てくるものがあった。
和太鼓。
「さぁ――ご照覧あれ!」
ユキメは柄の上から軽く跳躍し、ステージに着地する前に上着を脱ぎ捨て上半身はさらしだけになる。
着地したのは、和太鼓の前だった。タイミングよく放られた撥を二本ともキャッチし――目の前の太鼓に思い切り打ち付ける。
その様は演奏というよりも、第二の演舞といった方が正しいかもしれない。
演出もあり派手に格好よく魅せることに成功した証拠は、演奏が終わった後の拍手喝采に現れていた。
続いて登場したのは――ユキメの妹、秋姫。
要塞にある簡易の調理台の上で、テンポのいい手際で五目稲荷と卵焼きを作ってみせる。
「美味しく‥‥できました‥‥」
ふう、と一先ず安堵の息をつく秋姫。
出来たものはすぐに、審査員に振舞われた。自信を持って作れたつもりだが、
「味は‥‥いかがでしょうか‥‥?」
尋ね方がおずおずとしたものになってしまうのはやむをえないだろう。尤も、返ってきた反応は彼女の自信どおりのものだったが。
ついで、ステージ上にかなり激しい――ラテン調の音楽が流れ始めた。
そして秋姫はそれに合わせ、フラメンコを踊り始める。身体とパレオが激しく舞うその踊りに、それまでに彼女に対し「大人しい」という印象を抱きつつあった観客も審査員も面食らった。
妖艶かつ情熱的な印象を抱かせる踊りを終え――。
「はぁ‥‥はぁ‥‥ありがとう‥‥ございました‥‥」
秋姫は肩で息をしながら一礼するのだった。
特技部門も中盤。
ヌンチャクを片手にステージに現れたフローラは、それを用いて演舞を披露する。
しっかりと誰かから教わったわけではない。色々な映像などを見て自分なりに研究して形にしたものだったが、不思議と様になっていた。格好いい、という主に女性と子供の声が観客席のあちこちで起こる。
続いて、料理。彼女は食材の殆どを自らドイツに行って仕入れていた。
「特技と言うには未熟かもしれないけどね」
人前には普通に出せるものの、特別おいしいと呼べるレベルには達していないことは自覚している。
それでも前菜のロートコール、コンソメスープときて主菜のルラーデン、そしてパン――前日から仕込んでいたこともありそれらの(簡易的ながら)コースが出揃うと、一人でそれを仕上げたことに観客席からは感嘆の声が漏れた。
六番手はシルバー。
衣装は先ほどのままだ。ちなみに衣装部門の時に『見せられないよ』衝立を出さざるを得なかった事件については既に解決している。その上で、衣装はそのままだ。つまり最初のまま。
覚醒も――厳密に言えば衣装部門での出番が終わった後一旦解いたのだが――そのままで出てきたから、相変わらずサイズはぶかぶかだ。
ところが、だ。
「えーと、あんまり動きたくないラヴィ」
先ほどの事件もあり(?)そう前置きしたシルバーは――
「特技、特技は――」
そこで、覚醒を解いた。現れたのは銀髪ナイスバディの大人の女性。
「一粒で二度美味しい体での誘惑だ。どちらがお好みで?」
後ろ髪をかき上げながら、観客席に向かってウインクする。
観客席から今日何度目かの野太い歓声が響く中、シルバーは舞台を去る。
出番を終えた側のステージ裏には、アスナがいた。実は彼女、自分の衣装部門での出番が終わった後からずっとここにいたのだ。その本音は、「今日要塞を出歩きたくない」だが、それを知っている人間は一人としていないだろう。
シルバーは「お疲れ様」と声をかけてきた(未来の)義妹に対し、
「こういうの、凄く恥ずかしいな」
などと言うのだった。
コンテストもいよいよ終盤。アフリカの陽も、大地を橙に照らすほどに傾いていた。
「『特技』なんて程じゃないけど、歌うのは好きなんで、一曲だけ披露させて貰います」
ステージ用の衣装に着替えてきたコハルは言う。
IMPに所属している彼女としてはそれを売りにする手段もなくはなかったが、今回は単に『葵コハル』として見てほしいという想いが強く、現役アイドルとしての自分は今回封印するつもりでいた。
そんな彼女が自前のキーボードを弾きながらこのタイミングで披露した曲は、現在の時間帯に――否、アフリカの大地そのものにとてもよく似合うものだった。
最初はただ聞き入っていた観客席も、徐々にそのグルーヴに応じて身体を動かし始める。特に現地の人々にとっては慣れ親しんだリズムに近かったらしく、歌が最高潮に達した頃には観客席全体に盛り上がりの渦が生まれていた。
そんな様子を見て笑みながら、コハルは最後まで手を止めることなく歌いきる。
キーボードの最後の一音が響き終えた瞬間、大きな歓声が巻き起こった。
そして――最後、ミリハナク。
衣装部門で出てきたときのインパクトが観客にとっては強かったらしく、彼女が自前のワインレッドのドレス姿で現れるとそれだけでどよめきが生まれた。
鉄扇を拡げ、以前日本で教わったという扇舞を披露する。
その優雅な舞は、暮れ始めた日の光の加減もあり、見る人々の目に所作一つ一つの残像を残していた。
そのうちに、ステージ袖から盾が一つ運び出され、ステージ上に立てかけられる。此方も自前のティアドロップシールドだ。
舞を舞いながら其方へと接近したミリハナクは――スキルを駆使し、舞からの扇の一撃を盾にぶつける。
盾は粉々に砕け、人々から感嘆の声が漏れる。
それでも尚も舞い続け――やがて足を止めた彼女は、人々に向かって言葉を投げかける。
「私は世界を守る為にこの力を振るいますわ。皆様は安心して生活してくださいね」
日常という平穏を愛しているからこそ、イベントを盛り上げて皆が楽しめるようにする――。
彼女のその思いが結実した証拠に、観客席から今日一番の拍手と歓声が起こった。
●結果発表
出場者の一通りのアピールが終わり、結果発表がなされる。
ミス部門の優勝は、ミリハナク。演舞もさることながら、衣装部門で登場したときのインパクトが誰よりも大きかったのも優勝の大きな要因だろう。女性の審査員の心さえも(お姉様的な意味で)がっちりと掴んでいた。男性の評価だけで見れば、コハルやユキメもかなり高い部類にいたようだ。
一方、ミスター部門では零次が優勝を勝ち取った。全体的に和の、落ち着いた雰囲気を漂わせた立ち居振る舞いは、女性陣の評価がミスター部門の中ではダントツだった。洋風の対抗馬もいないことはなかったのだが、後は特技で差をつけたのだった。
「うう‥‥残念。けどま、楽しかったからオッケーおっけー」
そう言ってにひひと笑うのは、コハル。
確かに彼女の言うとおり、今回のイベントは参加者にとっても観客にとっても楽しめたものと言えた。
コンテストが終わって間もなく、綾とイルファは未だ続いている炊き出しを食べに行っていた。
(結局親バグアらしき人、は‥‥居ませんでしたが‥‥)
まぁ、いないに越したことはない。やったこと自体は無駄ではないのだとイルファは思った。
と――不意に、綾が彼女の頬にキスをした。
「今日はお疲れ様。‥‥可愛かったよ?」
その口付けに若干擽ったさを感じながらも、「はい、お疲れ様でした」労いの言葉を返し――それから暫し沈思した。
「? どうかした?」
首を傾げた綾に対し、ややあって何やら得心いったらしくイルファは肯いた。
「‥‥あぁ、そうですね。確かに煌びやか‥‥というか、そんな感じでした」
それが先ほど自分が口にした「可愛い」という言葉に対してのコメントであり、かつその内容の他人事っぷり――実際イルファは他人事のつもりでいったのだが――を理解し、綾は思わず脱力しかけた。
イルファがファッションに目覚める日は、来るとしてもまだ遠そうである。
――こうして、『ミスUPC in 欧阿方面軍決定戦 2011』は無事に幕を下した――かに見えた。
その合間に不穏な気配が要塞へ近づいていることにUPCが気付くのは、結果発表直後のことだった。