●リプレイ本文
「‥‥あの人たち、本当に軍人?」
それが、二人のやり取りを聞いた後の一ヶ瀬 蒼子(
gc4104)の偽らざる本音だった。
【RAL】に関わるのは、アルジェでのアニヒレーター破壊作戦の時以来。
その時は苦い経験をしている彼女にとって、今回は同じ轍を踏みたくない戦いでもある。雪辱戦のつもりで臨んだのだが、アイシャと慎のやり取りには思わず力が抜けた。緊張が適度に解れた、と考えればある意味良かったのかもしれない。
「中尉、今回は宜しく。KV戦でも名フォロー、期待してるわよ?」
だから掃討作戦開始直前、愛機であるリヴァイアサン『蒼牙・破』のコックピットで、蒼子は主に作戦を共にする慎に向け通信を投げる。
「了解、まぁガンガン攻めてくれよ。そういうののフォローは一番慣れてるから」
慎も慎でそう答えた。一方、
「とんだじゃじゃ馬少尉サンだ。フォローしがいがあるじゃねえの」
伊佐美 希明(
ga0214)はおかしそうに言う。
「じゃじゃ馬?」
「言い得て妙じゃないか」
どうやら自覚がないらしく聞き返したアイシャに対し慎が追撃を入れると、「むう」とアイシャは口を尖らせたようだった。
そんなやり取りを一通り聞いてから、
「――こちらクトネシリカ、バックアップに回る」希明はアイシャに告げた。
「上官との摩擦、というには些か気の抜ける内容ではあるが」
アイシャと中佐の間の経緯を思い出して夜十字・信人(
ga8235)は遠い目をする。
「不倫が原因で左遷人事って、軍ってこう言うトコなのか?」
芹架・セロリ(
ga8801)はそんな信人にぶっきらぼうに問うた。
さぁな、と信人も首を傾げつつ、言葉を続ける。
「あんな理由で左遷とは、他人の人事でも面白くは無いな」
「信人。そっちのケツ、任せるぞ」
希明からの通信に、「あぁ」と信人は肯き――
「さぁ、やろうか」
――仄暗い青の向こう側にいるであろう、もうすぐ見えるはずの敵に目を向けた。
接敵前から戦いは始まっている。蒼子、セロリ、加えてマヘル・ハシバス(
gb3207)がソナーブイを既に投下していた。
――そのソナーブイが示した反応は、十。情報にあったものより、後方に構えているという敵編隊Bが一機少ない。
ただ反応を捉えられないもの以外も大分ぎりぎりの位置反応だったことから、ただ範囲から漏れただけなのだろう。ちなみにその更に奥にいるというBFの反応は、無論まだ捉えられていなかった。
敵の編隊AとBの間には、前後左右共に思っていたより距離があるようだった。
その為、自然と戦闘は分断されることになる。
「っし、始めるぜ!」
高千穂小隊や片柳 晴城 (
gc0475)のアルバトロス改がガトリングやら魚雷やらで張った弾幕に紛れ、ウェイケル・クスペリア(
gb9006)のリヴァイアサン『Vapar』がブーストをかけて編隊Bに急接近を始める。その後ろに蒼子機が続き、敵編隊からも前衛にあたるらしいメガロワームがまとめて接近を始めたようだった。
一方で後衛、水中用ゴーレムから数弾のミサイルが放たれていた。
狙いは――弾幕を作り出している後方部隊。その最前にいるのは、慎のリヴァイアサン。
幾らかは避けたが、残りは被弾する。
「――悪いが、タフなのが取り柄なんでね」
だが衝撃を切り抜けた慎は普段とまるで変わらぬ調子でそう言ってのけ、それと同時に一旦は弱まりつつあった弾幕の勢いもまた強くなった。
その様子に安堵してから、晴城は前方の情況に目を向ける。
今の狙撃を見、ウェイケル機は狙いをゴーレムに定めたらしい。一方で蒼子はガウスガンなどを用いメガロを相手にし始めたが――数的不利はすぐには動かないだろう。
意を決し、晴城もまた前方に向かう。
狙いは味方の数を増やす以外にももう一つあった。
蒼子とメガロは一対四の様相を呈しつつあったが――それ故に、敵のうち一機は此方側に背を向けようとしていた。
「――させない」
その瞬間を狙い、晴城機は背後に肉薄。人型に変形し、レーザーブレードで切り払った。
「ナイスタイミング!」蒼子が援護に対しそう声を上げ、自らもレーザークローでそのメガロの装甲に大きな傷を与える。
それとほぼ同時、メガロワームの包囲網を抜けたリヴァイアサンの中でウェイケルは怪訝そうな表情を浮かべていた。
「‥‥中型HWがいねぇぞ? どこ行った!」
最後方で遊撃兼管制役を担っているセロリのオロチへ通信を送る。
てっきりソナーブイの範囲外――もっと奥にいると思っていたのだが、眼前に捉えつつあるゴーレムの周囲にすらその気配はまるで見えなかった。もう、後方の海にはうっすらとBFの影すら見え始めたというのに。
その疑問は、一先ず後方へ向けられた脅威を払うべくゴーレムに再接近しハイヴリスによる一閃を放った次の瞬間に、セロリからの全機に対する通信で解けることになった。
「高千穂さんの三時方向、ちょいと上からなんかくるな。多分HWです」
「ソナーブイの範囲にも入らないように回り込んでたってことかよ!」
ウェイケルは思わず唖然とする。それでは姿が見当たらないわけだ。
ともあれ今更ウェイケルが後方に戻っても間に合わないし、それは蒼子も同様だ。晴城でぎりぎりといったところだったが――
「ご心配なく」
それまでは別班の援護としてガトリングを撃っていたサクリファイス(
gc0015)がここに来て高千穂小隊の援護についた。
接近しつつあったHWの動きをガトリングで鈍くすると――その弾が切れる頃には、慎以外の小隊員が左右に散開していた。
「悪いね、飛んで火に入る――っていうのを叩くのが得意なんだ」
その慎の言葉を合図に――各方向からの一斉射撃が始まった。
もう手出しは必要なさそうだ。サクリファイスはすぐに機首を返し、HWが撃沈するまでの間はと、蒼子機や晴城機の援護に回り始めた。
その蒼子機と晴城機は、先程同様前後からの爪と剣の攻撃を立て続けに浴びせ、メガロを一機撃破したところだった。
「後ろから来る!」
「――舐めるんじゃないわよ!」
晴城からの警告に応じるようにして叫び、蒼子機は反転して機体を流し――迫り来ていた弾丸を避けると、今度はガトリングで牽制しながら自分を狙い撃ってきたメガロに対し接近を始めた。
一方で、
「ありゃじゃじゃ馬って言わなきゃ何だってんだ‥‥」
「猪突猛進じゃないのか?」
「油断があるかどうかは別として、とりあえず突っ込めって感じですよね‥‥」
全機がかりで前のめりなアイシャ小隊の戦いは、希明、信人、マヘルにそう評されていた。現在三人は完全に小隊の後方援護に――最初からそのつもりではあったのだが――回っている。
彼らが相手取る敵編隊Aは、B同様メガロは接近戦仕様だった。常に戦場の上方に位置している信人のビーストソウル改『シー・ゴブリン』が最初に放った魚雷ポッドからの攻撃をメガロが避けたところを傭兵三機でそれぞれ足を止め、そこに小隊員が肉薄してからというもの、今に至るまで斬った張ったの戦いが続いている。
「俺が撃ち込んで体勢を崩す、コンビネーションで極めるぞ!」
「任せて!」
アイシャと部下の二機がかりで当たっている為に一番損壊が酷いメガロに止めを刺すべく、アイシャとの通信の後信人がガウスガンをメガロの側面に上から打ち込む。メガロの頭が揺らいだところを、アイシャと部下がレーザークローで装甲を真っ二つに切り裂いた。
「まず一機ィッ!」
高らかに叫ぶアイシャ。「‥‥もうじゃじゃ馬でいいか」信人はそのテンションに対し思わず呟いていた。
ところで、敵編隊AがBと異なる点は二つ。一つは中型HWのように変則的な動きを見せてくる機体がいないこと、もう一つは――。
「あ、また!」
マヘルはあることに気付いて声を上げる。後方に控えていたゴーレム二機が、アイシャ機に向けライフルの砲口を向けていた。
だがその射線が確定する前に、希明の対潜ミサイルとマヘルのホールディングミサイルがそれぞれ別のゴーレムを狙い撃った。
「あっぶなー」高いテンションのまま別の部下の援護に行こうとしていたアイシャは後方の爆発を見て呟く。
「へっ」それを聞いて、希明は笑った。
「あんたらの無事も、報酬に響くんでね。
そう簡単にやらせるわけにゃー、いかねぇのよ。
――次、来るぞ。ケツの穴ァ、しっかり閉めな!」
「オーケー! ‥‥ってそうだったそうだった」
アイシャは応えてから、再び部下の援護に向かい始める。
声が若干慌てていたのは、その部下がメガロ相手に後れを取っていたからだろう。海底近くでの戦いは砂が舞いやすく、それに視界を奪われている間に次々に攻撃を受けていたのだ。今も、防戦一方になっている。
「消耗の激しい機体は下がって援護をお願いします」
メガロと部下機との間にアイシャ機が滑り込むのと、部下機の後ろから接近していたマヘルが部下にそう声をかけたのは同時だった。
「あたしの部下に何してんのよ!」
アイシャが叫びながらレーザークローをメガロに叩きつけている間に部下機とマヘル機はバトンタッチし、マヘルはそのままメガロの側面に回りこんだ。
と、
「マヘル機、後ろに避けろ!」
希明からの通信が入り、反射的に後退すると一瞬前までいた場所をミサイルが通過していった。おそらくはゴーレムの仕業だろう。
その直後に少し離れた場所で爆発が起きた。同時に敵編隊の反応が一つ消失する。もう一人の部下が、メガロ二機目を破壊したのだ。
すると、それまで後衛に徹していたゴーレム二機が前に出てきた。
後方からの牽制は主に敵前衛に向けられていた為、味方が危険な時以外ゴーレムに及ぶことはあまりなかったが――もはやメガロに牽制を向ける意味も薄い。
「外敵なんて無い、戦う相手は常に、自分自身のイメージ‥‥」
集中すべくそう呟いて、希明は前に出てきたゴーレムの出足を挫くべくD−06スナイパーライフルを構え、トリガーを引いた。
ゴーレムのうちの一機に命中。一瞬遅れて信人の牽制が別のゴーレムの足を止めている間に、手の空いた部下二機でゴーレム一機を集中攻撃し始めた。
戦闘が始まり、やがて少しずつ敵機が姿を消し始めるにつれ――敵編隊間の距離はますます開きつつあった。
二つの戦闘は共に、前衛と後衛を綺麗に分けたのが功を奏したのか、損傷こそ負っているものの人類側が優位に立っていた。
「‥‥そろそろいいでしょうかね」
それまでニ戦闘の間を行き来しながら遊撃に徹していたサクリファイスは呟くと、それらの間――ぽっかりと出来たスペースを突いて、ブーストをかける。
目指すは最後方に待ち構えているBFだ。今はその側面めがけて急接近している。
だがそれを嘲笑うかのように、BFの艦体が開き――メガロワームが次々と姿を見せ始めた。
が、その増援は途中でふさがれることになる。
「そう簡単に仲間を増やさせはしねぇぜ!」
いち早くBFに接近したウェイケル機がハイヴリスで、丁度メガロを射出させていた射出口を叩き、変形させ――メガロの登場が滞るようになったのだ。
サクリファイスもガトリングで牽制しながら、今度こそ肉薄する。
「早めに、BFを片付けてしまいたいと思いましたので。内部の宝物は一緒に沈んで頂けたら嬉しいと思います」
言って、ベヒモスをBFの側面の装甲にたたきつけた。
直後、二つの戦闘で立て続けに爆発が生じた。どちらも後に残った結果は、敵反応の消失だ。編隊Aの方は最後のメガロとゴーレム一機、編隊Bの方はゴーレム。また、その段階で編隊B側のメガロも残り一機まで数を減らしていた。
新たに射出されたメガロはそれぞれ二つの戦闘に向かったが――
「ここは俺たちでやっとくから」
「さっさとそのデカブツ潰しちゃってよ!」
二つの小隊の長がそう言ったので、戦線に留まっていた傭兵たち全機BFの元へ向かい始めた。
まず上方から接近した信人機がBFに魚雷ポッドを落とし、迎撃機能を自分に引き寄せた。
するとその間に他の傭兵機も次々とBFの周囲に集結し始めた。
マヘル機がインベイジョンBでいち早く変形した後レーザークローを叩き込み。
背面に回りこんだ晴城機がレーザーブレードで装甲を斬り払う。
サクリファイス機とは真逆の側面に回った蒼子機とウェイケル機がそれぞれレーザークローとハイヴリスでBFの装甲を叩いた。ウェイケル機の方はインベイジョンAを発動している為、より装甲の損傷具合が激しくなった。
更に――信人同様に若干高いところまで動いていた希明は、インベイジョンAを発動させると――
「クジラにゃ、銛を撃ち込まねぇーと、なぁ!!」
アンカーテイルをBFの船体に食い込ませ、機体を固定した。
「イヤッハー!! 大漁だぜェ!!」
言ってから更にスナイパーライフルで狙い打った後――
「高千穂中尉とアイシャ少尉の漫才コンビに負けてはいられんぞ。俺たちの最悪の相性、此処で見せる!」
「漫才!?」
「魚のフライになりやがれ!」
間に入ったアイシャのツッコミをスルーし、信人とセロリが最後の攻撃を仕掛ける。
セロリ機のオロチが少し前から発動させていた演算システムを利用し――信人機自身もスキルを発動させた後533mmSC魚雷「セドナ」を全弾、BFに叩き込む。
――直後、中に未だ残っていた数機のメガロを巻き込みつつ、BFは爆散。
そこまでくると、残っていたメガロを叩くだけ。
未だ一機も墜ちていない人類側にとっては、それは容易いことだった。
「ふぅー、終わった終わった」
「いつもどおり賑やかな戦場だったな。‥‥いや、ある意味いつも以上だったけど」
戦闘を終え、ナドルに帰投。
それぞれ愛機のコックピットから出てきたアイシャと慎はそんなことを口々に言っていた。
「とりあえず、これで左遷されることは――ぷ」
「だからそれをここで言うなと」
アイシャの言葉は最後まで紡がれることなく慎に口を塞がれた。
塞いだ手はすぐに放され、なによぉ、とアイシャが口を尖らせていると、その前に希明が立った。
「出撃前、この戦いを『前座』って言ったな。
だが、テメェのタマ張る以上、戦いに上等もクソもねぇ」
「‥‥むう、それもそうね」
アイシャは思わず唸る。
隣の慎はこの後に続く希明の言葉も予想できているらしく、静かに目を伏せていた。
「覚えておきな、少尉サン。
熱くなるのはいいけどよ。それだけじゃアンタか相棒、どっちか死ぬぜ?」
「‥‥」
言われ、アイシャは慎に目を向け――それから「ん」、小さく肯いた。