●リプレイ本文
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能力者たちを狙って放たれたプロトン砲。彼らはそれを回避するとともに各々の行動に移る。
「なるほどねー。氷を使った戦場作成か。論理的には悪くないねー」
「でも、こちらは天2機、グリフォン2機、パピルサグ1機。そう不利な状況とは思えないわね」
「どんな状況であろうと、私は私にできることをします‥‥」
リチャード・ガーランド(
ga1631)、アンジェラ・D.S.(
gb3967)、ミルヒ(
gc7084)の3人は、そのまま前進してタートルワームの方に向かう。
搭乗する機体はグリフォン、パピルサグ、天と、3機ともホバー機能が付いた機体だ。敵が作り上げた戦場をモノともせず軽快に行動へ移る。
「逃げるばっかりかと思えば、迂闊だったか‥‥けどまぁ、奇策を使わないと戦えない状況になってるとバラしてるようなものか」
今回数少ない非ホバー機であるフェンリルに乗る黒木 敬介(
gc5024)は呟きつつも、敵の作戦を冷静に分析していた。
「氷の上、ですか。厄介なところに引っ張られましたね」
『待ち伏せとは小癪な奴らなのじゃ。楽には逝かせはすまいぞ!』
リュドレイク(
ga8720)の言葉に同意するように、美具・ザム・ツバイ(
gc0857)は通信で声を荒げる。最も、彼女は内心ほくそ笑んでいた。追いかけっこにしびれを切らしていたのだ。しかも、リュドレイクはグリフォン、ツバイは天。やはりホバー機である。この状況でも自由に戦える。
『‥‥ホバー機ばっかりか。誘導をAIに任せたのは失敗だったな』
未だ広域通信を切っていなかった敵の声が届いた。だが、そう言いつつもその声色はそこまで落胆したものではなかった。これは自信の表れか、それとも開き直っているのか‥‥ともかく、戦いの火ぶたは切って落とされた。
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前衛に向かった3機。
ミルヒの駆る天「【白】」がマルコキアスで牽制を仕掛ける間に、アンジェラ機、パピルサグ「アンタレス」が機関砲、リチャード機、グリフォン「東海青龍王敖広」がライフルでタートルワームに向かって弾幕を張り接近する。しかし、タートルワームはその攻撃を後退しつつ回避。無論すべての攻撃をかわしきることはできないが、あまりダメージを負った様子もない。
さらに接近しようとするが、それを阻むために小型HWが攻撃を仕掛ける。アンタレスに2機のHWが攻撃。回避しようとするが、敵の機動性は高く回避しきれない。全弾命中、一発一発の威力は高くはないが、これだけの攻撃を受けるとかなりのダメージにつながる。さらにその一発が致命傷だったらしい。
「くっ、動力部が‥‥!」
ホバーによる浮力が失われる。アンタレスは足元の氷を割り、大仰な水しぶきを上げながら沈んでいった。
リチャード機にも同様に2機のHWが攻撃を仕掛ける。
「おっと、そう簡単にあたるわけにはいかないよ」
グリフォンはパピルサグと比べて機動性が高い。最初の一発は回避に成功する‥‥が、それ以外の7発をその身に受ける。無数の弾丸により装甲は溶解。耐久度が一気に半分まで低下する。さらに、HWの攻撃により足元の氷が穴だらけになり、今にも割れそうに。
「やばいな。エアステップ機動!」
しかし、リチャード機はステップ・エアを起動。ホバーで機体を浮かせる。練力が持つ限りはこれで沈む心配はないだろう。
だが、問題なのはその戦力差。敵の小型HW4機に対して、こちらはKV2機。さらにその先には指揮官機。状況は圧倒的に不利だ。
それでも、リチャードは進むしかない。敵指揮官を落とせば、その他の相手は大したことはない‥‥はずだ。後方からはミルヒが。D.Re.Ss Aを使用して軽量化した機体は、グリフォンの移動力にも劣ることはない。
「雪と氷に覆われた白い世界は素敵です‥‥でも、あなたたちは、邪魔です」
マルコキアスによる弾幕をタートルワームに浴びせながら追従するミルヒ。
「こういった戦場だと、天はいいよねー。練力続く限りホバーモードだし‥‥こっちのは練力食いすぎだし、早く仕留めないと!」
ミルヒの方を一瞥したリチャードは前進しつつ射程内に入った時点でクロスボウガンを放つ。ミルヒからの支援を受けた一矢はタートルワームのFFを貫く。タートルワームは中型HWの上で小さくよろめいた。あまり大きくはないが、確かなダメージを与えることができたようだ。
「今度は沈む恐怖を味わってもらうよ!」
リチャードはこの勢いに乗ってディフェンダーを振りかぶる。
‥‥しかし、振りかぶっただけだった。
次の瞬間には小型HW4機からの集中攻撃を受けて、グリフォンは爆散した。
「‥‥くっ」
残されたのはミルヒただ一人。
周囲を囲むHWはまだ一つの傷もつけられてはいなかった。
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敵後衛に向かうのはUNKNOWN(
ga4276)、リュドレイク、ツバイの3機。
「こいつは、まずいな」
と、危機感を感じているようなセリフを呟くUNKNOWNだが、その余裕な態度は一切崩れない。すぐさまブーストを起動。ブースト起動時の衝撃で足元の氷が割れたが、要は降りなければいいのだ。そのまま滑るように加速しつつ後方の小型HWを狙う。この時、敬介と敵の間に入りカバーすることを忘れない。
敬介は敵後衛に味方が向かっている間に、ブースト。一気に氷上を抜け陸地に上がる算段だ。UNKNOWNがカバーしてくれているおかげか、敵HWも追撃してこない。追ってこないという点が、敬介に罠の可能性を考えさせる。陸地の、視界の悪い場所に注意を払いつつも、最速で陸に上がる敬介。だが、陸にはこれと言って障害物はない。問題無く陸地にたどり着き‥‥
『黒木! 後ろだ!』
UNKNOWNからの警告とほぼ同時に放たれたプロトン砲がフェンリルに直撃、吹き飛ばされる。
氷の上から陸地に上がろうとすることは予測されていたのだろう。そこをピンポイントで狙われたのだ。
さすがに2射目を受けるわけにはいかない。吹き飛ばされながらもブーストで方向を変えたフェンリルは、さらにアリスシステム、マイクロブースト起動。
‥‥だが、敵は撃ってこない。見ると、UNKNOWN機がすでに1機の小型HWをその巨大すぎる拳で圧壊させ、エニセイでタートルワームに対して牽制射撃をしてくれているようだ。
この間に機体の状態をチェックしながら、敬介は考える。
(やはり戦力には乏しいということか)
外側には罠がなかった。左右へ抜けようとした相手へのカバーは自身で行っていた。余剰戦力は無いのだろう。
あるいは、全機で左右へ抜けて仕切りなおそうとすれば一機ではカバーしきれずにこちらの思惑通りに事を運べたかもしれない。そう考えつつも、各機は近接戦を行うためにHWに向かっている。であれば、自身も援護をしにいかなければならないだろ。
敬介は味方を援護すべく、機体の姿勢を低くしながら、再び氷上に歩を進めた。
この間、リュドレイク、ツバイ両機は小型HWに近接戦闘を仕掛ける。
ツバイの天「スカラムーシュ・オメガ」はさすがのホバー機。移動しながらの射撃も安定性を失わない。しかし、敵の機動性もかなりのものだ。有効弾は一発のみ。
しかし、これはあくまで牽制。本命は機剣での接近戦。機盾で防御しながら距離を詰める。敵は当然回避しようとするが、ここで敬介が間に合った。損傷率が高いため、積極的に前には出れないが、それでも何とかプラズマライフルによる支援。回避ルートを限定されたHWに、必殺の斬撃。ブースターで加速された刃がHWの装甲に大きな傷をつける。
リュドレイクも同様。マシンガンによる牽制。回避したところをアハト・アハトで狙撃し、接近の隙を作る。この際流れ弾で進行ルート上の氷にひびが入ったがステップ・エアを起動。行動に支障はない。
『リュドレイク、前方の敵に、だ』
「UNKNOWNさん! 助かります!」
近接武器の射程内に入ったころにはUNKNOWNがフォローに入っていた。
この時点でUNKNOWNはタートルワームが小型HWに対する援護砲撃を行っていたにも関わらず、その全ての攻撃を回避し続け、すでに二機目の小型HWも粉砕していた。圧倒的、まさに圧倒的性能と技量である。今では諦めたのかタートルワームから砲撃も来ない。
リュドレイクは機槍で突撃。HWに突き刺さる槍を抜くことなく、そのまま至近距離からアハトアハトを撃ち放つ。装甲を焼かれたHWは確かにダメージを受ける。そう長くは持たないだろう。
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「これで止めじゃ、貴様らの不運を嘆いて逝け!」
至近距離からフェザー砲を撃ちこまれながらもツバイは小型HWに最後の一撃を加える。小型HWの装甲はその攻撃に耐えきれず、その身を一刀両断された。
ほぼ同時にリュドレイクも小型HWを機槍で貫き、撃破。後方にいたHWはこれで全て撃破されたことになる。
「よし、このまま回り込んで前方のHWを‥‥」
そうリュドレイクが周囲に声をかけた時だった。
前方から二条の閃光が走り、リュドレイクのグリフォンとツバイのスカラムーシュ・オメガを飲み込んだ。小型HWとの接近戦によりかなりの被害を受けていた両機はその攻撃、タートルワームからのプロトン砲に耐えきれない。機体各部が小爆発を起こし、機能停止。ホバー機能を失った両機はそのまま氷を割り、水に沈んでいく。
残された敬介、UNKNOWNが前衛を見ると、そこにはHWによって蜂の巣にされたミルヒの【白】と、プロトン砲を再充填するタートルワームの姿が目に入った。狙いは‥‥敬介のフェンリル。
UNKNOWNがカバーに入ろうとするが、すでに遅い。タートルワームからプロトン砲が‥‥
『私のことを忘れていてもらっては困るわね!』
しかし、その砲撃はタートルワームの足元から突如現れたアンジェラ機、アンタレスによって妨げられた。
アンタレスは撃墜されていなかった。水しぶきに紛れ有腕潜水艇モードに移行。気づかれないようにタートルワームの足元に移動していたのだ。尤も、移動力の問題で先の2発は防げなかったのだが。
しかし、とにかく3射目は防いだ。アサルトフォーミュラーで強化されたブラストシザースにより、タートルワーム、というよりタートルワームの乗った中型HWの態勢が大きく揺らぐ。
だが、水上に上がったアンタレス。戦闘機形態のままでは動きのとりようがない。慣性制御を利用し、真下に照準を向けたタートルワーム。放たれた拡散プロトン砲をアンタレスは無防備に受けることになった。
大きな爆発が起こる。
爆発が収まった時、そこにはアンタレスの機影は無く、中型HWに乗ったタートルワームだけが残っていた。
この時点で、能力者側は7機中5機撃墜。2機のうち1機は半壊。
対してバグア側は10機中4機撃墜。残存6機のうち中型HWが中破し、飛んでいるのがやっとという状態に。タートルワームも損害を受けているが損害は軽微だ。
状況は能力者に不利である。だが‥‥
『まぁ、こんなところで痛み分けにするか』
広域通信。敵の指揮官からだ。
能力者側から見ればありがたい話だろう。撃墜されたパイロットの救助もしなければいけない。数的にも不利だ。むしろ、なぜバグア側がこんなことを言い出したのかが不明だ。
能力者たちは知る由もなかったが、この時指揮官は2つのことを考えていた。今自分たちは勝っているのか。そして、このまま戦ったらどうなるのか。
数的優位は未だ維持している。だが、戦い続けたら負けるのは自分たちかもしれない。UNKNOWN機の戦いを見て指揮官はそう考えていた。ここで止めておくのが、最も戦果を上げた状態だろう。
タートルワームは、下方に拡散プロトン砲を放つ。氷が吹き飛び、水しぶきが上がる。
それらが収まった時にはすでに目の前に敵はいない。
「鮮やか‥‥だな」
そう、思わず敬介は唸っていた。
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UNKNOWNと敬介は水中に沈んだ機体の回収作業を陸地から眺めていた。
パイロットたちは自力で脱出したり、彼らが救助したりしたが、軒並み重体のようだ。
消えた敵たちに関してだが、人造湖にはプロトン砲を放って開けたであろう横穴があった。おそらくそこからいずこかに逃げ去ったのだろう。
「勝ちを拾わせてもらった、かな」
被害は甚大。敵は余剰戦力を残して撤退。反省点は多い。特筆すべきは連携や作戦の甘さだろうか。
全員で前衛か後衛に突っ込んでいれば局所的ではあるが数的優位は保てたかもしれない。あるいは、敬介が取ったように左右に離脱して仕切りなおそうとすれば‥‥やはりプロトン砲による狙撃は受けていただろうが、被害はそれだけで済み、後はこちらが敵を包囲する形にできたかもしれない。
(あの司令官‥‥そこそこ有能だったようだな)
逃がした以上、また目の前に敵として現れるかもしれない。その可能性を考え、敬介は仕留めきれなかったことを少し後悔した。
だが、済んだことは仕方ない。とにかく敵は撃退することができたのだ。今はそれで良しとすべきだろう。
以後この基地に対し敵が攻撃を仕掛けてくることはなくなった。