タイトル:薄氷を踏むマスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/21 20:50

●オープニング本文



 グリーンランド某所。人類の攻勢を逃れその身を隠したバグアの一団が隠れ住んでいた。
 しかし、ほぼ人類圏となりかかっているグリーンランド。補給もままならず、ここでもっとも階級の高い強化人間は、撤退の具申を行っていた。しかし‥‥
「攻撃しろって言ってもなぁ‥‥」
 そう言って、強化人間は座椅子の背もたれに寄りかかり、命令書を睨みつけた。
 撤退具申の結果帰ってきたのがこの攻撃命令書だ。
 それに添えられていた通信を要約すると「逃げかえってくるならそれなりの戦果を上げてからだ」ということらしい。 
(ここで死ね、ということか)
 部下の手前口には出さなかったが、この命令はつまりそういうことなのだろう。戦力的に攻勢に出るのは難しい。だからと言って命令を無視して後方に下がれば当然処罰される。
「それなりの戦果か‥‥」
 それでも強化人間は生存への道筋を考えた。
 後退するには最低でも、勝利か、それに近いものが必要だろう。
 強化人間は近場に置いてあった編成リストを確認。動かせるのは小型HWが10機に中型HWが2機。
 そして、強化人間の相棒たるカスタム・タートルワームのみ。
 これでどう勝利をつかむことが出来るのか。かなりの危険を犯さなければいけないだろう。
 それこそ薄氷を踏むような‥‥
「‥‥薄氷を踏む、か‥‥やってみる価値あるかもしれんな」
 強化人間は、意を決したように立ちあがり、出撃準備を指示した。
 それと同時に、手持ちの機体を利用した撤退準備も。
 勝てば後退が許可されるから、それはそれで良い。
 負けた場合、この場所に居座っていても攻勢に出ることも出来ず、いずれ人類側に見つかる。ただ見つかって、玉砕することになるぐらいなら後退させた方が戦力の無駄が無い。
 と、理屈を付けてやれば上も納得するだろう。
(そうすれば、多少連中も長生きできるだろう)
 それが残り数少ない部下を抱えた強化人間の覚悟だった。


 グリーンランド南部。
 グリーンランド鉄道計画等が進んでいるこの土地だが、それとは関係ない小競り合いが発生することも少なくない。
 今日も競合地帯周辺の前線基地にて戦闘が勃発。
 しかし、基地の防衛部隊が迎撃にでると、すぐさま引き上げようとした。
 ただの嫌がらせか、と思いこちらが後退すると、すぐさま敵は反転。攻撃を仕掛けてきた。
 遠距離からの攻撃の為、そのほとんどは明後日の方向に飛んでいったが、攻撃してきた以上応戦しないわけにはいかない。
 応戦する、敵が逃げる、こちらが引こうとする、反転攻勢を仕掛ける。
 と、この繰り返しが延々と続いた。大したダメージには至らないが、こう出撃が続くとパイロットの方が先に参ってしまう。
 そこで基地司令は予備戦力として待機していたラストホープの傭兵に敵戦力の壊滅を要請。それに従って傭兵のKVは出撃した。
 傭兵は指示に従い、例によって後退していく敵部隊、小型HW群を追撃。
 後退、追撃、後退、追撃‥‥
 数キロほど進んだ位だろうか、広い氷原でHWは動きを停止した。周囲には隠れられるところも無い。
 諦めて戦う気になったのだろうと考えた傭兵たちは武器を構えた。
 
 ‥‥と、同時に、足元から強烈な光が放たれた。

 傭兵たちは慌てて飛びのく。
 下方からの攻撃。そう、ここはグリーンランド。
 例えば日本辺りでは残暑であえぐ時期だろうが、ここではこの時期も氷に包まれている。
 当然湖だって氷が張っていることだろう。
 そう、ここは地図には無いが湖のようになっていた。恐らく、バグアの手による人造湖だろう。そして、その足元の氷は決して厚くはないようだ。
『いやぁ、上手く罠にはまってくれたな』
 広域通信。
 見ると、光の発生した場所。前方の割れた氷の下から、ゆっくりと浮かび上がって来る物体が。
 タートルワームだ。中型HWに乗ったタートルワームが浮上してきた。
 見ると後方には、同様の方法で氷を割って出てきた小型HWが。囲まれてしまったようだ。
『悪いな、多少卑怯かもしれないが、俺も必死でね』
 仮に氷が割れて、水中戦の準備をしていないKVが水に落ちたらどうなるか‥‥
 正面のタートルワームは既に主砲、プロトン砲のチャージを始めている。
 状況は、傭兵たちにとって非常に悪い方へ傾いていた。

●参加者一覧

リチャード・ガーランド(ga1631
10歳・♂・ER
UNKNOWN(ga4276
35歳・♂・ER
リュドレイク(ga8720
29歳・♂・GP
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
賢木 幸介(gb5011
12歳・♂・EL
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
黒木 敬介(gc5024
20歳・♂・PN
ミルヒ(gc7084
17歳・♀・HD

●リプレイ本文


 能力者たちを狙って放たれたプロトン砲。彼らはそれを回避するとともに各々の行動に移る。
「なるほどねー。氷を使った戦場作成か。論理的には悪くないねー」
「でも、こちらは天2機、グリフォン2機、パピルサグ1機。そう不利な状況とは思えないわね」
「どんな状況であろうと、私は私にできることをします‥‥」
 リチャード・ガーランド(ga1631)、アンジェラ・D.S.(gb3967)、ミルヒ(gc7084)の3人は、そのまま前進してタートルワームの方に向かう。
 搭乗する機体はグリフォン、パピルサグ、天と、3機ともホバー機能が付いた機体だ。敵が作り上げた戦場をモノともせず軽快に行動へ移る。
「逃げるばっかりかと思えば、迂闊だったか‥‥けどまぁ、奇策を使わないと戦えない状況になってるとバラしてるようなものか」
 今回数少ない非ホバー機であるフェンリルに乗る黒木 敬介(gc5024)は呟きつつも、敵の作戦を冷静に分析していた。 
「氷の上、ですか。厄介なところに引っ張られましたね」
『待ち伏せとは小癪な奴らなのじゃ。楽には逝かせはすまいぞ!』
 リュドレイク(ga8720)の言葉に同意するように、美具・ザム・ツバイ(gc0857)は通信で声を荒げる。最も、彼女は内心ほくそ笑んでいた。追いかけっこにしびれを切らしていたのだ。しかも、リュドレイクはグリフォン、ツバイは天。やはりホバー機である。この状況でも自由に戦える。
『‥‥ホバー機ばっかりか。誘導をAIに任せたのは失敗だったな』
 未だ広域通信を切っていなかった敵の声が届いた。だが、そう言いつつもその声色はそこまで落胆したものではなかった。これは自信の表れか、それとも開き直っているのか‥‥ともかく、戦いの火ぶたは切って落とされた。


 前衛に向かった3機。
 ミルヒの駆る天「【白】」がマルコキアスで牽制を仕掛ける間に、アンジェラ機、パピルサグ「アンタレス」が機関砲、リチャード機、グリフォン「東海青龍王敖広」がライフルでタートルワームに向かって弾幕を張り接近する。しかし、タートルワームはその攻撃を後退しつつ回避。無論すべての攻撃をかわしきることはできないが、あまりダメージを負った様子もない。
 さらに接近しようとするが、それを阻むために小型HWが攻撃を仕掛ける。アンタレスに2機のHWが攻撃。回避しようとするが、敵の機動性は高く回避しきれない。全弾命中、一発一発の威力は高くはないが、これだけの攻撃を受けるとかなりのダメージにつながる。さらにその一発が致命傷だったらしい。
「くっ、動力部が‥‥!」
 ホバーによる浮力が失われる。アンタレスは足元の氷を割り、大仰な水しぶきを上げながら沈んでいった。
 リチャード機にも同様に2機のHWが攻撃を仕掛ける。
「おっと、そう簡単にあたるわけにはいかないよ」
 グリフォンはパピルサグと比べて機動性が高い。最初の一発は回避に成功する‥‥が、それ以外の7発をその身に受ける。無数の弾丸により装甲は溶解。耐久度が一気に半分まで低下する。さらに、HWの攻撃により足元の氷が穴だらけになり、今にも割れそうに。
「やばいな。エアステップ機動!」
 しかし、リチャード機はステップ・エアを起動。ホバーで機体を浮かせる。練力が持つ限りはこれで沈む心配はないだろう。
 だが、問題なのはその戦力差。敵の小型HW4機に対して、こちらはKV2機。さらにその先には指揮官機。状況は圧倒的に不利だ。
 それでも、リチャードは進むしかない。敵指揮官を落とせば、その他の相手は大したことはない‥‥はずだ。後方からはミルヒが。D.Re.Ss Aを使用して軽量化した機体は、グリフォンの移動力にも劣ることはない。
「雪と氷に覆われた白い世界は素敵です‥‥でも、あなたたちは、邪魔です」
 マルコキアスによる弾幕をタートルワームに浴びせながら追従するミルヒ。
「こういった戦場だと、天はいいよねー。練力続く限りホバーモードだし‥‥こっちのは練力食いすぎだし、早く仕留めないと!」
 ミルヒの方を一瞥したリチャードは前進しつつ射程内に入った時点でクロスボウガンを放つ。ミルヒからの支援を受けた一矢はタートルワームのFFを貫く。タートルワームは中型HWの上で小さくよろめいた。あまり大きくはないが、確かなダメージを与えることができたようだ。
「今度は沈む恐怖を味わってもらうよ!」
 リチャードはこの勢いに乗ってディフェンダーを振りかぶる。
 ‥‥しかし、振りかぶっただけだった。
 次の瞬間には小型HW4機からの集中攻撃を受けて、グリフォンは爆散した。
「‥‥くっ」
 残されたのはミルヒただ一人。
 周囲を囲むHWはまだ一つの傷もつけられてはいなかった。


 敵後衛に向かうのはUNKNOWN(ga4276)、リュドレイク、ツバイの3機。
「こいつは、まずいな」
 と、危機感を感じているようなセリフを呟くUNKNOWNだが、その余裕な態度は一切崩れない。すぐさまブーストを起動。ブースト起動時の衝撃で足元の氷が割れたが、要は降りなければいいのだ。そのまま滑るように加速しつつ後方の小型HWを狙う。この時、敬介と敵の間に入りカバーすることを忘れない。
 敬介は敵後衛に味方が向かっている間に、ブースト。一気に氷上を抜け陸地に上がる算段だ。UNKNOWNがカバーしてくれているおかげか、敵HWも追撃してこない。追ってこないという点が、敬介に罠の可能性を考えさせる。陸地の、視界の悪い場所に注意を払いつつも、最速で陸に上がる敬介。だが、陸にはこれと言って障害物はない。問題無く陸地にたどり着き‥‥
『黒木! 後ろだ!』
 UNKNOWNからの警告とほぼ同時に放たれたプロトン砲がフェンリルに直撃、吹き飛ばされる。
 氷の上から陸地に上がろうとすることは予測されていたのだろう。そこをピンポイントで狙われたのだ。
 さすがに2射目を受けるわけにはいかない。吹き飛ばされながらもブーストで方向を変えたフェンリルは、さらにアリスシステム、マイクロブースト起動。
 ‥‥だが、敵は撃ってこない。見ると、UNKNOWN機がすでに1機の小型HWをその巨大すぎる拳で圧壊させ、エニセイでタートルワームに対して牽制射撃をしてくれているようだ。
 この間に機体の状態をチェックしながら、敬介は考える。
(やはり戦力には乏しいということか)
 外側には罠がなかった。左右へ抜けようとした相手へのカバーは自身で行っていた。余剰戦力は無いのだろう。
 あるいは、全機で左右へ抜けて仕切りなおそうとすれば一機ではカバーしきれずにこちらの思惑通りに事を運べたかもしれない。そう考えつつも、各機は近接戦を行うためにHWに向かっている。であれば、自身も援護をしにいかなければならないだろ。
 敬介は味方を援護すべく、機体の姿勢を低くしながら、再び氷上に歩を進めた。
 この間、リュドレイク、ツバイ両機は小型HWに近接戦闘を仕掛ける。
 ツバイの天「スカラムーシュ・オメガ」はさすがのホバー機。移動しながらの射撃も安定性を失わない。しかし、敵の機動性もかなりのものだ。有効弾は一発のみ。
 しかし、これはあくまで牽制。本命は機剣での接近戦。機盾で防御しながら距離を詰める。敵は当然回避しようとするが、ここで敬介が間に合った。損傷率が高いため、積極的に前には出れないが、それでも何とかプラズマライフルによる支援。回避ルートを限定されたHWに、必殺の斬撃。ブースターで加速された刃がHWの装甲に大きな傷をつける。
 リュドレイクも同様。マシンガンによる牽制。回避したところをアハト・アハトで狙撃し、接近の隙を作る。この際流れ弾で進行ルート上の氷にひびが入ったがステップ・エアを起動。行動に支障はない。
『リュドレイク、前方の敵に、だ』
「UNKNOWNさん! 助かります!」
 近接武器の射程内に入ったころにはUNKNOWNがフォローに入っていた。
 この時点でUNKNOWNはタートルワームが小型HWに対する援護砲撃を行っていたにも関わらず、その全ての攻撃を回避し続け、すでに二機目の小型HWも粉砕していた。圧倒的、まさに圧倒的性能と技量である。今では諦めたのかタートルワームから砲撃も来ない。
 リュドレイクは機槍で突撃。HWに突き刺さる槍を抜くことなく、そのまま至近距離からアハトアハトを撃ち放つ。装甲を焼かれたHWは確かにダメージを受ける。そう長くは持たないだろう。


「これで止めじゃ、貴様らの不運を嘆いて逝け!」
 至近距離からフェザー砲を撃ちこまれながらもツバイは小型HWに最後の一撃を加える。小型HWの装甲はその攻撃に耐えきれず、その身を一刀両断された。
 ほぼ同時にリュドレイクも小型HWを機槍で貫き、撃破。後方にいたHWはこれで全て撃破されたことになる。
「よし、このまま回り込んで前方のHWを‥‥」
 そうリュドレイクが周囲に声をかけた時だった。
 前方から二条の閃光が走り、リュドレイクのグリフォンとツバイのスカラムーシュ・オメガを飲み込んだ。小型HWとの接近戦によりかなりの被害を受けていた両機はその攻撃、タートルワームからのプロトン砲に耐えきれない。機体各部が小爆発を起こし、機能停止。ホバー機能を失った両機はそのまま氷を割り、水に沈んでいく。
 残された敬介、UNKNOWNが前衛を見ると、そこにはHWによって蜂の巣にされたミルヒの【白】と、プロトン砲を再充填するタートルワームの姿が目に入った。狙いは‥‥敬介のフェンリル。
 UNKNOWNがカバーに入ろうとするが、すでに遅い。タートルワームからプロトン砲が‥‥
『私のことを忘れていてもらっては困るわね!』
 しかし、その砲撃はタートルワームの足元から突如現れたアンジェラ機、アンタレスによって妨げられた。
 アンタレスは撃墜されていなかった。水しぶきに紛れ有腕潜水艇モードに移行。気づかれないようにタートルワームの足元に移動していたのだ。尤も、移動力の問題で先の2発は防げなかったのだが。
 しかし、とにかく3射目は防いだ。アサルトフォーミュラーで強化されたブラストシザースにより、タートルワーム、というよりタートルワームの乗った中型HWの態勢が大きく揺らぐ。
 だが、水上に上がったアンタレス。戦闘機形態のままでは動きのとりようがない。慣性制御を利用し、真下に照準を向けたタートルワーム。放たれた拡散プロトン砲をアンタレスは無防備に受けることになった。
 大きな爆発が起こる。
 爆発が収まった時、そこにはアンタレスの機影は無く、中型HWに乗ったタートルワームだけが残っていた。 
 この時点で、能力者側は7機中5機撃墜。2機のうち1機は半壊。
 対してバグア側は10機中4機撃墜。残存6機のうち中型HWが中破し、飛んでいるのがやっとという状態に。タートルワームも損害を受けているが損害は軽微だ。
 状況は能力者に不利である。だが‥‥
『まぁ、こんなところで痛み分けにするか』
 広域通信。敵の指揮官からだ。
 能力者側から見ればありがたい話だろう。撃墜されたパイロットの救助もしなければいけない。数的にも不利だ。むしろ、なぜバグア側がこんなことを言い出したのかが不明だ。
 能力者たちは知る由もなかったが、この時指揮官は2つのことを考えていた。今自分たちは勝っているのか。そして、このまま戦ったらどうなるのか。
 数的優位は未だ維持している。だが、戦い続けたら負けるのは自分たちかもしれない。UNKNOWN機の戦いを見て指揮官はそう考えていた。ここで止めておくのが、最も戦果を上げた状態だろう。
 タートルワームは、下方に拡散プロトン砲を放つ。氷が吹き飛び、水しぶきが上がる。
 それらが収まった時にはすでに目の前に敵はいない。
「鮮やか‥‥だな」
 そう、思わず敬介は唸っていた。


 UNKNOWNと敬介は水中に沈んだ機体の回収作業を陸地から眺めていた。
 パイロットたちは自力で脱出したり、彼らが救助したりしたが、軒並み重体のようだ。
 消えた敵たちに関してだが、人造湖にはプロトン砲を放って開けたであろう横穴があった。おそらくそこからいずこかに逃げ去ったのだろう。
「勝ちを拾わせてもらった、かな」
 被害は甚大。敵は余剰戦力を残して撤退。反省点は多い。特筆すべきは連携や作戦の甘さだろうか。
 全員で前衛か後衛に突っ込んでいれば局所的ではあるが数的優位は保てたかもしれない。あるいは、敬介が取ったように左右に離脱して仕切りなおそうとすれば‥‥やはりプロトン砲による狙撃は受けていただろうが、被害はそれだけで済み、後はこちらが敵を包囲する形にできたかもしれない。
(あの司令官‥‥そこそこ有能だったようだな)
 逃がした以上、また目の前に敵として現れるかもしれない。その可能性を考え、敬介は仕留めきれなかったことを少し後悔した。
 だが、済んだことは仕方ない。とにかく敵は撃退することができたのだ。今はそれで良しとすべきだろう。
 以後この基地に対し敵が攻撃を仕掛けてくることはなくなった。