タイトル:【OF】夜明けの前触れマスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/09/25 22:08

●オープニング本文



「リヴァティー?」
「えぇ、それがドローム社が開発している宇宙用KVの名前だそうです」
 プチロフカンパネラ支部。そこで宇宙用KVについての会話が為されていた。
 プチロフでは、先日の打ち上げ作戦以後情報開示等に努めてきた。だが、無論それだけをしていたわけではない。残骸から得られた情報を自社でも解析。急ピッチで原因の解明を行いつつ、試作機へのフィードバックを行ってきた。
 だが、ドローム社の新型機「S-02 リヴァティー」の登場、そしてその公開試験の報が社内を慌ただしくさせた。
「‥‥思い切った手を打ってきたな。この間の打ち上げの件でプチロフに対する風当たりは強い。ここで宇宙用KVを大々的に公開することでアドバンテージを取り戻そうということか」
 事実がその通りかはわからないが、少なくとも支部長はその考えに至り、資料を見比べる。
 片方はもちろん、公開試験を行うリヴァティーの現在わかる範囲でのデータ表。そしてもう一方には「PT-100ラスヴィエート」と記されている。
 先日グリーンランドで確保された残骸はカンパネラ支部に送られ、そこで多数の情報が判明。その情報には、ラスヴィエートがブーストの使用によって敵と渡り合うことができたという事実も含まれていた。
 これはイコール、ラスヴィエートの性能そのものには問題がなく、要はブースト周りさえどうにかなれば宇宙にも十分対応できる。そうプチロフ上層部は考えた。
 とはいえ、プチロフの技術力ではその最も重要なブースト周りをどうにかするということが難しい。
 と、そうは言うものの、上層部にはなにか当てがあるらしい。これに関してはこちらで何とかするから気にする必要はない、と指示が出ている。
「データはどうなってるんだ?」
「こちらにあります」
 渡された別の資料。そこにはラスヴィエートの2つの特殊能力について記載されている。
 支部長が任されているのは、別のアプローチだ。すなわち‥‥
(ブースト機能を圧迫しない消費の少ない特殊能力の考案か)
 ブーストは練力消費が大きい。ブーストだけに練力消費を割いたとして、現状ラスヴィエートでは20〜30秒程度しかブーストを持続できない。下手な特殊能力を積んでも、使うことすらままならない。
 その問題点を解決するための一つの手段として、消費の少ない特殊能力が必要となったのだ。
 そして、すでにその特殊能力の開発も済んでいる。後はテストだけだが‥‥
「‥‥よし、やるか。ラスヴィエートの実働試験だ」
 このまま自社内だけで調整を進めていっても見方は変わらないだろう。傭兵あたりにテストパイロットをやってもらうことで、プチロフが情報を外に公開していっているというイメージをつけようという算段だ。
 支部長はそう考え、依頼を出すことにしたのだ。

●参加者一覧

九十九 嵐導(ga0051
26歳・♂・SN
緑川 安則(ga0157
20歳・♂・JG
番場論子(gb4628
28歳・♀・HD
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
ヘイル(gc4085
24歳・♂・HD
リック・オルコット(gc4548
20歳・♂・HD
アザグ=トース(gc4976
10歳・♂・SF
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文


 プチロフカンパネラ支部、模擬戦闘場。
 今ここでは、プチロフの新型機「PT−100 ラスヴィエート」が8機稼働している。
 これから行われる実働試験を兼ねた模擬戦の参加者各位がそれぞれに機体の挙動を確かめているところだ。
「ドロームを意識しての事でしょうが、情報公開してるのであれば良い傾向ですね」
 プチロフが秘密裏に行った打ち上げ実験。それと比べればかなりましだ、と。そう考えるのは番場論子(gb4628)だ。
「先駆けとなった宇宙用機体、か。こいつが無ければ今の状況もなかったのかな‥‥?」
「さぁな‥‥とにかく、現状のプチロフの立場を考えると責任重大、だな。気合い入れて頑張らせてもらうか」
 九十九 嵐導(ga0051)、ヘイル(gc4085)はそれぞれ機体を動かしながら、試験前に機体の癖を確認する。
 その間にリック・オルコット(gc4548)、緑川 安則(ga0157)、夢守 ルキア(gb9436)らは試験の内容等の打ち合わせを行う。
「よう、また来たよ。義勇PT同志技師会主任、リック・オルコットだ。グロームと比べてどんな感じか、確かめさせてもらうぜ」
 リックはそう言うと担当者と握手を交わしつつデータを確認する。
「ふむ、なるほど、宇宙空間での戦闘は水中戦闘と同じ論理だからな。格闘戦でのシールド防御や命中率上げる方法は悪くないか。プチロフらしい出来だな」
 同様に、機体のカタログスペックを確認した安則は素直にそう評価する。
「今回はグロームのエンジンを使うらしいけど、実際の機体は違うのかな?」
「そうですね‥‥実は私も詳細を確認しているわけではないのですが、なんでも宇宙用の新型エンジンを本国で開発しているとのことで、実際はそれを搭載することになるかと思います」
 「なるほどねぇ‥‥」と、ルキアは頷きつつ試験の打ち合わせを進めていった。


「それでは、始めてください!」
 担当者の合図とともに、模擬戦がはじめられた。
 Aチーム、まずは論子、ヘイルが飛び出す。嵐導、安則はそれを狙撃で支援する。
 対するBチームはリック、ルキア、クローカ・ルイシコフ(gc7747)、そしてアザグ=トース(gc4976)の4人だ。
 アザグが突撃。それをリックが中距離から支援。さらにその後方からクローカとルキアが狙撃態勢に入る。
 盾を構えて突っ込んでくるアザグに対し、後方から安則がスナイパーライフルで狙撃。
「状況開始、敵影確認、照準最適化機能作動開始。狙撃砲発射!」
 対しアザグは機体の重心をずらしながら、装輪走行を使用。
「試作機だからこそ、模擬戦闘で手荒く扱っていかないとな!」
 その場で急旋回、さらに逆回転とまるでダンスを踊るかのような機動をとり、安則の狙撃をかわそうとする。が、思い通りにはいかない。機体特殊能力により正確な位置を特定、それに基づき放たれた安則機のライフル弾がアザグ機の胴体部に直撃する。
「ふむ、調整機能はこんなところ、か‥‥」
「やはり回避性能となると劣るか‥‥だが、ダメージはあまりなさそうだな」
 意外とあっさりと当ててくる安則機。アザグ機の動きそのものは悪くなかったがラスヴィエートはあまり小回りの利く機体ではない。回避しようにも機体特殊能力を使用した攻撃はかわしきれなかった。だが、その代りダメージもほとんど入っていない。
「‥‥あまり攻撃受けた影響トカは無さそうだね」
 プチロフの機体は伝統的に回避は低くて防御が高い傾向にある。この機体もそうなのだろう、とルキアは分析した。分析したといいつつも、これは模擬戦闘だ。ルキアもただ立っているだけではない。巡航状態から一気にブースト、加速する。
「データしっかり取っておいてね!」
 ルキアは打ち合わせ段階において巡航速度からブーストに至るまでの時間、停止にかかる力など、様々なデータを計測するように頼んでおいたのだ。
 ルキアは移動しつつ照準最適化機能を作動。狙うは、論子とともに突撃してくるヘイル機。コクピット部を狙って放たれた弾丸は、しかし盾によって防がれた。
「ふむ、素の状態でも受けは十分行えるな」
 盾を構えて前衛に接近していたヘイルは、そのままアザグにディフェンダーで斬りかかる。アザグは盾で防御。ヘイルは構わず打ち込む。
「‥‥ちっ、ガトリング砲じゃどうにもならないな」
 中衛からガトリング砲でアザグを援護していたリックだったが、どうにも火力不足らしい。後衛のルキア、クローカに火力の集中を要請しつつ、自身も前に。
 しかし、それに合わせるように嵐導が狙撃。前に出る動きを捉えられたことに加え、照準最適化機能も使っていた。足元に攻撃が命中し、一瞬機体の足が止まる。
 それに合わせるように、論子がブーストで突っ込み、リックの懐に入り込む。
「さぁ、これならどうですか?」
 至近距離から、ディフェンダーで機体関節部を狙って斬りかかる。不意を突かれたリック、能力を使用する間もなくその攻撃を受ける。
「‥‥この程度のダメージ?」
 防御を行動を行えなかったにも関わらず、そのダメージは軽微。よく見ると、関節部にもそれをフォローするように装甲が張られている。この辺りは宇宙で撃墜された経験を生かしたものなのだろうか。防御に隙が少ない。
「関節周りは硬い‥‥それなら!」
 反撃のリック。頭部を狙ってディフェンダーを突き出す。しかし、論子は反撃を予想し、受防補助機能を発動。同時に機体各所のスラスターが稼働、機体位置を微調整する。それにより、何とか盾で防御しようとする。
「甘いね。これならどうだ!」
 しかし、その行動はクローカに狙われていた。クローカは照準最適化機能を利用して狙撃。盾を持った腕部を撃たれた論子は機体のバランスを崩してしまう。そのままリックがディフェンダーを叩きこんだ。
 他方、ディフェンダーでの打ち合いを続けるヘイル、アザグ両名。
 後方からの狙撃支援もあり、そこそこのダメージを蓄積していく。
「やはり同型機、ただなぐり合っていてはジリ貧か‥‥ならば!」
 ヘイルは盾でアザグを突き飛ばし距離を取ろうとする。しかし、これはアザグも同じ考えだった。盾と盾がぶつかり合い、両者が互いに吹き飛ばされる。
「手荒くいくぞ、喰らえ!」
「やるな‥‥こちらもいくぞ!」
 アザグは機体をブーストで立て直しつつ蹴りを放つ。対してヘイルは盾を構え、ブーストを使って突っ込む。ぶつかり合う両者‥‥弾き飛ばされたのは、アザグ機だ。どちらもブースト使用中で速度は互角だったが、アザグ機は片足立ち状態だったため、安定性に欠けたのだ。そのまま仰向けに倒されたところにヘイルが追い打ちをかけようとする。
 しかし、これはルキア、クローカの狙撃支援によって妨害。ヘイルは受防最適化機能でガッシリと防御。この間に後方の嵐導、安則が狙撃でアザグ機を集中攻撃。アザグも受防最適化機能を使うも、倒れた状態では満足に機能せず連続して被弾。これによってアザグ機は撃墜判定を被った。
 この時点でAチームは4機残存。ただし、論子機は頭部を破壊された判定を受けている。とはいえまだまだ行動可能だ。対してBチームはアザグ機の撃墜判定により残り3機。
「数的優位は確保した。吶喊するぞ!」
 ここで、安則は近接戦闘に移行。受防最適化機能を利用して前衛に上がってくる。
 こうなってくると同型機ばかりが集まっているのだ、戦況の打開は難しい。
 クローカ、ルキアがスナイパーライフルでリックの援護を行っていたが、リロード中に3機から集中攻撃を受けてしまう。受防最適化機能を利用して防御していたが、練力がぎりぎりになるとその能力も使えず、最終的にダメージが超過。撃破判定を受ける。
 これで4対2。さすがに勝ち目はないだろう。残ったBチームの2人はこの時点でギブアップした。

 その後、2回戦目はメンバーをシャッフルして行われたが、こちらも滞りなく進み、模擬戦は終了することとなった。


 模擬戦の後、休憩を挟んだのち意見交換会が行われた。
 機体性能についてはすでに事前説明もされていたため、主な内容はこの機体に合う装備に関する話となった。
 まず武器について。
「宙域での牽制用として、命中・弾数を重視した銃器が欲しいな」
「私としても、例えば30mm重機関砲のようなトータルバランスに優れた銃が欲しいところだ」
「そうだな‥‥俺はアサルトライフルかな。使いやすいのがいい」
 まずは嵐導、安則、そしてリックの提案。やはり最初に出てくるのは銃器。プチロフは特に対空砲等で優れた実績を上げている、といっても過言ではない。
「機体のイメージは重装歩兵。盾を構え槍で突く。物理版ヨロウェルといった感じだね。現代の槍とは即ち火砲。ということで、大火力の長射程物理砲を提案させてもらうよ」
 クローカの提案したこの物理砲は面白そうだ。プチロフでは電磁加速砲などの高火力兵装も少なくはない。宇宙での強敵に備えて高火力兵器を一つ開発するのも悪くはないだろう。
「長期戦に向いてる子だから、防御も考えた武器がいいなぁ」
 そう言ってルキアが提案したのはシールドガン等、盾と銃器がついた武器。同系統の武器はクローカも提案していた。
「確かに、盾は必要だろうね。回避性能はあまり高くないようだし、大型で回避に制限が掛かる代わりに防御、抵抗を徹底的に上げるシールドとか」
「そうだな‥‥考えの浅いものではあるがロケット推進機能のある携帯無反動砲と、それをマウントする専用縦長式シールドとかも面白いと思う」
 安則の後に続いてアザグが発言する。無反動砲は宇宙だと有効であるかもしれない。
 加えて、リックが射程の長いミサイルランチャーの提案も行った。
 こういった銃器、盾以外にも近接武器に関する話がでてきた。
「様々な用途での使用を念頭に置いた、ディフェンダーのような性能の槍が欲しいな」
 そういうのは嵐導だ。ただ、それなら槍でなくともディフェンダーで良いのではないかとも思われた。
 興味を引いたのはルキアや論子の意見だ。
「KVスタッフ、などはいかがでしょう。ドローム社のKVワンドを模した練力備蓄用に」
「そうダネ。盾と一緒に燃料タンクに接続できる武器でもいーな」
 燃料タンクを直接搭載する以外に、燃料タンクの搭載された武器で練力を確保する、ということだろう。ブーストが必要な宇宙戦闘においては有効だろう。
 話はここから武器ではなくアクセサリの話に移った。
「どのアプローチにせよ、増槽はあったほうが無難だろうね」
「脱着式プロペラントタンク等もいいと思う」
 クローカ、アザグが意見を述べる。やはり練力タンクは必要そうだ。
 嵐導も同意見。加えてスコープ系のアクセサリも提案する。
 少し別の案を提示したのはヘイルだ。
「砲戦型、防御型、突撃型等の各種フレームを準備して、この1機種でバリエーションを増やしたらどうだろう」
 基本形のラスヴィエートに各種フレームを搭載することで、1機種で多様な状況に対応できるようにする、ということなのだろう。ヘイルはこれをアクセサリというよりバージョンアップでの対応も考えてほしいと続ける。しかし、この辺りはわざわざフレームを搭載しなくとも装備の変更で事足りる部分が大きいだろう。
「そういうことですから、フレーム自体は制作する可能性はありますが、バージョンアップでの対応はまた別途になるかと思います」
 そんなところで大体推奨装備に関して意見が出揃ったようだ。
「最後に、何か質問等あれば受け付けますが?」
 担当者がそういうと、リックが一つ意見を出した。
「ラスヴィエート本体に関してだが‥‥流用可能なものはグロームの物を使用しても良いのではないか? コンソールや操縦桿とかな」
「ふむ‥‥可能な範囲ではそうしたいですが、宇宙用KVとなると既存KVとはかなり設計が変わってきますので、なかなか難しい部分もあります」
 特に、コクピット周りは奉天から技術供与を受けたCOREシステムを使用している。その周辺に手を付けるのは難しいだろう。
「それなら、コンソール周りの配線は緩めに設計して貰いたいな。工具を使わなくても済むくらいにね」
 メンテナンスのしやすさを向上させるためでもある、と言うのはクローカだ。が‥‥
「‥‥え〜、ラスヴィエートが宇宙用KVだということはご理解いただけているのでしょうか? 配線一本が抜けただけで致命傷になりかねません。そのご要望にはお答えいたしかねます」
 宇宙用KVであるラスヴィエートは模擬戦で実証されたように、手荒い扱いにも耐えられるプチロフらしいタフな機体だ。だが同時に、今までにない宇宙用KVとしての繊細な部分も併せ持つ機体だ。そういう部分で手抜きをすることはできない。
「そういう考えを持って設計していただけてるなら、むしろ安心して乗れそうです。何れ新たな『夜明けの前触れも』期待できますね」
「なるほど、そういえばこの機体は和訳すると「夜明け」だったか」
 論子の言葉を聞いた嵐導は、こいつの飛ぶ頃の夜明けはどんな感じだろうか、と。ふとそんなことを考えた。


 数日後、プチロフ社内機体格納庫。
 そこには予定されていた新型エンジンを搭載した、完成版ラスヴィエートが並んでいる。
 能力者たちにテストしてもらった特殊能力も、クローカ曰く「本当に気休め程度なんだね」との評価ではあるが、滞りなく機能した。
 もうすぐ、これらの機体がショップに並ぶことになるだろう。
 そう考えながらカンパネラ支部長はその機体のうち1機のコクピット内に入り込む。
「‥‥プチロフの新たな夜明けはお前たちに懸ってる‥‥しっかり頼むぞ!」
 コクピット周りの微調整を行った後、激励の意味を込めてコンソールのあたりをポンと叩く。
 ウィィィン―――
 同時になる機械音。なぜか、機体電源が再起動した。
「‥‥良くも悪くもプチロフ製、か」
 支部長は苦笑しつつ機体の電源を落としたのだった。