タイトル:【OF】低軌道上殲滅戦マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2011/10/16 20:41

●オープニング本文



 OF隊による強行偵察は、犠牲を出しながらも十分な成果を上げていた。
 迎撃衛星。その砲台の性能と、自己再性能。衛星を守護すべく存在する多大なワームとキメラからなる戦力。
 人類は、それら全てを打破する矛を必要としていた。その中核となるのが――ブリュンヒルデIIだ。同機体は、暫し改修作業の為に前線から離れていた。
 全ては、ソラへの足掛りを築くために。
 本来なら、宇宙用の戦力がより充実した時期に決行すべき作戦である。
 だが、北米から宇宙にあがったというギガワームの存在が決行を急がせた。看過すれば、軌道衛星迎撃網に加えギガワームが人類の頭上を押さえる事になるからだ。

 そうして今日、この日‥‥宇宙用の改修が施された同機を中心に、今回の作戦は設定された。

 軌道衛星を破壊するに当たり、障害が三つある。
 一つ、人類の動向に対応し高高度領域まで高度を下げてくる戦力。
 二つ、低軌道領域に存在する戦力。
 三つ、同要塞が保持する戦力。
 そのいずれも虎の子であるブリュンヒルデIIを十全に機能させるにあたり大きな障害であった。
 故に人類は、それぞれに対する矛を用意し、本作戦にあたる必要がある。
 どの段階でも、局地的な勝利を十全に約束されている訳ではない。
 危険は大きく、失敗は即ち、死に繋がる。
 それでも、本作戦の通達を受けたマウル・ロベル中佐はその任務を一分の恐れも見せる事無く受け入れた。

 元より、果たさねばならない作戦でもある。
 それに――これまでに流れてきた血と、そこに籠められていた想いを思えば、恐れを抱く道理も、無かった。


 宇宙は今完全な敵地となっている。連中としては、のこのこ宇宙に上がってきた敵機を見逃すはずもない。
 さしあたって問題になってくるのは、この低軌道上に存在するキメラ群だ。プチロフの打ち上げ部隊もまずはこの連中に引っかかって撃墜されている。
「しかし、だ。今回はその時とは違う。俺たちは十分に準備を行い、対策を練ってきている」
 そういうと、士官は集められた能力者達に対し、モニター画面を見るよう促した。モニター上には、6つの光点が中心点を囲むように光っている。
「この図は、打ち上げから低軌道域に入った際の予想配置図だ。光点は現在キメラの集団を確認しているポイントになる。中心部にあるのがブリュンヒルデIIだな。これらを一つ一つ叩いてもいいんだが、敵戦力は決して少ない数ではない。その上、こちらには時間制限がある」
 時間制限‥‥つまりブースト時間のことだ。宇宙では通常KVはブースト、宇宙用KVも簡易ブーストを使用していなと戦闘にならない。
「とはいえ、これらを掃除しておかないと本命‥‥この場合は例の軌道衛星のことだが、そいつを攻撃するのに差し障る。そこでDレーザーの出番、というわけだ」
 作戦はこうだ。
 6つのポイントそれぞれにいるキメラをブリュンヒルデIIの機首前方、Dレーザーの射程まで誘導。敵が集まったらDレーザーで一掃する、と。なるほど話は簡単そうだ。
「プチロフの連中が攻撃を受けて、逃げ切れず殲滅された。ということは、接近すれば攻撃してくるし、追いかけても来るだろう。ただ、最初から最後までこちらを追っかけてくれるか‥‥そこが問題だ」
 Dレーザーの射程まで誘因する。DレーザーはブリュンヒルデII同様機首、つまり前方を向いているわけだから、最低でもブリュンヒルデIIの前方までは連れてこないといけない。ということは。場合によってはブリュンヒルデII付近を飛ぶ必要があり、その時キメラがKVよりブリュンヒルデIIを脅威と感じた場合、そちらを攻撃しにいくかもしれない。
「出来ればブリュンヒルデIIの近くは飛んでほしくはないが‥‥とはいえ、練力に縛りもある以上飛行ルート選択は一任する。ただ、最低でも4集団は誘引してくれないと戦果とはいえんから、そのつもりでな‥‥」
 と、ちょっときつい成功ラインを提示しつつも、士官はすまなそうな顔を見せた。何しろKVを使用した宇宙戦闘はまだあまり例がない。未経験者がほとんどになるだろう。にも関わらずそれなりに厳しいボーダーラインを提示しなければならない。そこを悪く思っているのだろう。
「すまない、よろしく頼む」
 ともあれ、やれと言われればやらなければならないのが傭兵の辛いところである。彼らはそれぞれの思いを抱きつつ、出撃準備を整えるため格納庫に向かった。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
鷹代 朋(ga1602
27歳・♂・GD
櫻小路・なでしこ(ga3607
18歳・♀・SN
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
アルジェ(gb4812
12歳・♀・FC
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文


 宇宙キメラ。
 火力の高い大型、この依頼では砲撃型と呼称されるものと、機動力に優れた小型の2種類。そのどちらもがグロテスクな外見をしたキメラを、UPC本部は「あれこそがキメラの原種なのだろう」と形容した。
 そのキメラ群と戦うために能力者たちはそれぞれの機体でブリュンヒルデIIから飛び出していく。
「リヴァティーに乗っての実戦もこれで二回目か‥‥」
 榊 兵衛(ga0388)は乗機であるリヴァティー「翔龍」の中でそう呟いた。前回は宇宙戦の勝手もわからない状態での戦いだったが、今回は違う。経験を積み、機体も調整してある。あとはただ、新兵になったつもりで全力を尽くすのみ。
「S−02のお披露目以来の宇宙戦です、障害排除に尽力します」
 と言うのは櫻小路・なでしこ(ga3607)だ。彼女も兵衛同様リヴァティーに搭乗する。
「あわただしい‥‥けど、宙間戦闘の経験データ収集には丁度いいか‥‥本来ならもっと訓練しないと何だけど‥‥」
『何にだって最初はあるのじゃ。初めてだから、準備が出来ていないからというてやらない理由などどこにもありはしないのじゃよ』
 アルジェ(gb4812)の言葉に対して美具・ザム・ツバイ(gc0857)は言う。言外に傭兵こそが人類初の宇宙戦闘に乗り出すメンバーとして適していると、そして眼下を睥睨してきた神の如き不遜者を討ち払うプロメテウスとして先駆者となる、といった意思を込めて。
「宇宙、か。地に足の着いてない感覚は慣れるのにしばらくかかりそうだ」
 機体の動作を確認しつつ鷹代 朋(ga1602)はそんな感想を抱いた。宇宙に来る機会なんてそうあるものではないのだから、そういう感想を持つのも当然だろう。他にも宇宙について思いを馳せるものがいる。
「蒼い‥‥こんな空初めてだ。ここが宇宙の渚‥‥」
 クローカ・ルイシコフ(gc7747)そう呟いた。その心中には彼が今見ているこのソラに散って行った同志たちの遺志を背負って。
 同様に宇宙を見つめるのはハンフリー(gc3092)だ。
(宇宙か‥‥)
 バグアが攻めてこなければ、能力者にならなければ、一生縁は無い世界だ。しかし‥‥
「居るのはキメラばかり。折角の景観が台無しだな」
『まったくだね』
 そう通信で返してきたのは赤崎羽矢子(gb2140)だ。機体は天。ただし、朋をはじめとする他の天乗りと違う点は出撃段階ですでに装甲を一段階パージしている点だ。その羽矢子が言う。
「でも、ようやくここまで来た‥‥あの赤い星までの道、塞がれてようがこじ開けるよ!」
 その言葉に同意するように、各自がそれぞれの空域に飛び立っていった。


 左翼後方に向かうのは朋の搭乗する「ドミニア」だ。
 宇宙機の利点である簡易ブーストを使い、予定されている宙域に接近していく。
「‥‥あれか」
 進行方向にキメラ群を捉える。数は30を超えるぐらいか。
 朋はその多量なキメラにも焦らず、スラスターで機体位置を補正しつつ。先頭のキメラに照準を合わせ、タイミングを計る。
 仕掛けるのはミサイルポッドやG放電の射程に入る瞬間‥‥入った!
「ドミニア、目標を狙い撃つ!」
 あえて初撃はライフル。高速で放たれた弾丸が距離を物ともせず直撃する。
「‥‥悪い、お前の決め台詞借りた」
 自身の、狙撃を得意とするであろう妹のことを思い出しつつ朋はそのまま連続攻撃。ライフル射撃に重ねるように打ち出したミサイルポッド、そしてG放電装置がキメラに炸裂する。恐らく7〜8割程度はダメージを与えられただろう。
 さすがにこうまでされてはキメラも黙ってはいない。比較的近い場所にいた砲撃型キメラが撃ち返してくる。これはおそらくフェザー砲だろうか。
 それが数発、ドミニアに直撃する。尤も、この程度の弾幕では装甲を重視したカスタマイズのされたドミニアには無駄球だったが。
「‥‥と言っても、このままじゃ小型に取りつかれるな。作戦通りいこう」
 いい具合に敵は寄ってきていた。この時は‥‥

 右翼後方。こちらには羽矢子が向かっている。
「水中での操縦に似てるけど、抵抗がない分加速がスムーズだね」
 まぁ、その分減速には推力をかける必要があるか、などと考えながら機体をロールさせたり、小刻みに機体を動かしながら進む。
 何しろ初めての宇宙戦だ。機体の感覚を確かめる必要があった。
 そうこうしているうちに視界にキメラ群が映る。数は30届かないぐらいか。
「さぁ、まずは一発目‥‥!」
 朋とは打って変わって、機動力重視の機体だ。一気に射程まで踏み込むと物理、非物理2種類のミサイルポッドでキメラを攻撃。
 大量のミサイルがキメラに突き刺さる。大凡半壊程度のダメージか。
 ここで羽矢子は攻撃を切って、簡易ブーストの助けも借りてすぐさま反転。
「お前達の標的はここだよ。ついて来なさい!」
 挑発の言葉を投げつつ、次の目標地点に移動を始める。
 キメラから反撃を許さないうちに後退していく羽矢子。キメラたちがその挑発を理解したのかは分からないが、とにかく追いかけてきた。


 後方に向かった2人が敵の誘導を始めたころ、ブリュンヒルデII両翼に待機した能力者たちも行動を始めていた。
「そろそろ頃合いだな。俺達も向かうとしよう」
「了解。状況を開始します」
 兵衛はクローカと共に右翼を担当。羽矢子が戻ってくる時に挟撃されることを防ぐため、右翼のキメラ群と羽矢子が接触する前のタイミングに合わせる。
「あれだね。気持ち悪い見た目しちゃって‥‥」
「まったくだ‥‥タイミング良いな? 仕掛けるぞ!」
 羽矢子の機影が確認された時点で2人は仕掛ける。
 兵衛はまずホーミングミサイルを撃ち込む。高い誘導性を持つミサイルだ。避ける間もなく直撃する。
「マスターアーム、スイッチオン。クローカ、エンゲージ」
 それに合わせるように放たれたのはクローカのフェザーミサイル、弾数200発。加えて兵衛もミサイルポッドを放つ。
 総数230発。そのすべてが1つの目標に向かって飛ぶ光景は敵に恐怖を与えることだろう。
 音はしない。だが、爆発の光が直撃を告げる。
 狙ったキメラは致命傷だ。もう一息押せば倒せそうだが‥‥まだ敵の数は多い。
「よし、このまま赤崎と合流しつつ誘導を行おう」
 そのまま2人は移動を始めた。羽矢子は万全を取ってブリュンヒルデIIからしっかりとした迂回ルートを通っている。その為ブリュンヒルデIIに向かってくる敵も右翼にはいない。となると‥‥
「‥‥暇じゃの」
 右翼護衛についていた美具。敵が向かってくるようであれば、機体に搭載した無数のミサイルで熱烈歓迎をするところだ。が、作戦がうまくいっている為あえて手出しするようなことはしない。
 とはいえ、このままここで待機していても仕事は回ってこなさそうだ。
 美具は機体を艦首に向け移動させ始めた。
 彼女の出番は、まだ少し先だ。

 左翼に向かっているのは、なでしことハンフリーの2人だ。
「よし、こちらも仕掛けるとしよう」
 ミサイルの射程内に入ったハンフリーはK−02ミサイルを使用する。同時に5機までマルチロックオン可能なこのミサイル。戦場が宇宙に移っても威力は健在だ。
 総数500発のミサイルが敵集団に喰らい付く。
「このまま攻撃を重ねて、敵を誘導しましょう」
 ハンフリーの攻撃に続いてなでしこもミサイルを使用する。右翼以上の爆発が巻き起こる。まさにミサイルのバーゲンセールと言ったところか。
 敵集団を見ると、小型キメラが1、2匹減っているようだ。だが、砲撃型は未だ健在だ。
「‥‥ん?」
 しかし、ここで奇妙な現象が確認される。攻撃の当たったキメラ、砲撃型キメラだが、その体が微かに光っているように見える。
 すると、外部装甲などがみるみる修復されていく。
「自己修復機能‥‥タロスなどと似たような能力があるのでしょうか」
 宇宙キメラに関しての情報はまだ出揃っていなかったが、これは厄介な能力だ。
 さすがに無限に回復するという事はないだろうが‥‥早期に、かつ確実に撃破するなら、修復不可能なダメージを一気に与えるのが効果的に思えた。
「正面切って相手にしてもしょうがないな、誘導を始めよう」
「了解です」
 右翼の誘導がこうして始まったころ、その後方では少し面倒なことが起きていた。
「‥‥まずい、何匹かブリュンヒルデに向かってる‥‥!」
 後でわかったことだが、左翼後方にいた敵の数は周囲の集団中最も数が多かった。加えて朋のルート取りははっきりと迂回ルートを通った右翼の羽矢子と比べて、多少甘かった。
 妨害を‥‥と考えるも、手持ち武器では射程的に厳しい。また攻撃の為に止まったら敵集団に取り囲まれる可能性もある。
「護衛に任せるしかないか‥‥」
 そう判断した朋はそのまま進む。
「護るのは本領‥‥近づけさせない」
 その左翼を守るのは、アルジェと彼女の乗る天「Cosmo Kitty」だ。
 彼女はあえてブリュンヒルデIIから離れると、接近してくる敵に向かう。そして、射程内に入った時点でK−02ミサイルを使用した。
「目標ロックオン‥‥攻撃開始」
 小型ミサイルの一斉射。爆発が発生する。
 アルジェの機体は美具に負けず劣らずのミサイルキャリアーだ。さすがにこれだけ撃たれたらキメラも足を止めざるを得ない。
 アルジェはそのまま朋同様、前方に向かう。撃破するには火力がやや足りないようだが、少数であったこともあるし、その多量のミサイルが目を引いたのだろう。キメラはアルジェを追いかけ始めていた。


 左翼前方、右翼前方。
 そこに至るまで合計4つのグループを引きずり出すことに成功している。が、攻撃を仕掛け、逃げ、そこからついて来させるのが中心だった今までに対し、前方の敵にはどちらかと言えばこちらから向かっていかなければならない。
 右翼、小型キメラはそれほど射程のある攻撃方法をもっていないのだろう。こちらに近づいてくる気配は見せるもののこれと言って何かするわけではない。しかし、砲撃型はそうはいかない。
 能力者たちが前方集団を巻き込むように通る際、フェザー砲を連射してくる。
「そんな攻撃‥‥そうそう当たってはやらないよ!」
 しかし、羽矢子への攻撃は当たらない。その高い機動力を生かしてことごとく回避していく。
「ここを抜ければ後はDレーザーの射程に連れて行くだけだ‥‥ここは何とか突破する!」
 兵衛はミサイルポッドを惜しげなく使い弾幕を張る。側面からの攻撃が運悪く駆動系に直撃して損傷を受たものの、正面の敵に対しては攻撃のすきを与えていない。
 対しクローカは、切り札であるリニア砲以外にはガトリング砲しか残った装備がない。牽制をかけることはできるが全ての敵からの攻撃を押しとどめることはできない。頼みの綱である受防最適化機能も、そもそも飛行形態では使うことが出来ない。
 無数のフェザー砲が機体装甲を焼き、そのダメージは内部まで浸透していく。
「くそ、こんなところでやられるわけには‥‥」
 周囲はキメラがまだ多い。クローカはスッとコンソールの前に手を伸ばし、振り上げる。
「宇宙と地上とは勝手が違うようじゃな。だが、負けん」
 しかし、その手が振り下ろされることはなかった。
 美具が長射程を活かし、ミサイルで牽制を行ってくれたのだ。尤も、2発目は距離の問題もあり明後日の方向に飛んで行ったが。とにかく、これによって突破する隙ができた。
「よし、このままいくよ、Молния!」
 信頼する愛機の名を呼び、クローカは突き進む。
 
 左翼。こちらでの戦闘はより激しいものになった。
「さっきみたいにならないように注意しないとな」
 朋は前方集団とブリュンヒルデの間に壁を作るようにミサイルポッドとG放電装置を駆使する。
 これによって彼自身への被弾は大幅に増加したものの、その堅牢な装甲により攻撃をはじいていく。
「これくらいの攻撃なら、問題ない‥‥」
 対してアルジェは、追従してくる敵キメラに注意しつつ、前方からの攻撃を高い機動性により回避していく。
「機動性が高い機体です。一撃離脱で‥‥」
 なでしこはいわゆるヒット・アンド・アウェイを徹底。簡易ブーストの利用により、接近、攻撃、離脱を繰り返すことで敵集団の攻撃を上手く避けていく。しかし、この戦法により一つの誤算が生じた。
「くっ‥‥被弾率が高くなってきている‥‥このままでは‥‥」
 直進するハンフリーに敵の攻撃が集中し始めたのだ。
 ライフルの装備による機動性の低下が地味に響き、攻撃も完全には回避しきれない。そして、リヴァティーは同じ宇宙用KVであるラスヴィエートと比べ防御力、耐久性に劣る。
 ダメージ率が80%を超えた時点で、ハンフリーは撤退する予定であったが、撤退しようにもブリュンヒルデIIまでには障害、つまり敵が多すぎる。脱出すら至難の技だ。
「落とされる前に、せめて正面の敵は‥‥!」
 彼がミサイルポッドを全弾開放するのと、フェザー砲の直撃を受けるのはほぼ同時だった。
 機体の各部が爆発を起こし地球の引力に引かれていく。しかし、その最後の攻撃により敵が怯んだ隙に味方は突破していった。
「私の役目は終わりか‥‥最後の勝敗を決するのは‥‥」
 そこで、ハンフリーの意識は途切れた。


 能力者は最終的に、目標とされていた6集団すべてを射程上まで誘引する。
「カウントダウン‥‥マーク!」
「マウル中佐、Dレーザーの準備はいい? 宇宙への扉、盛大にノックするよ!」
 クローカや羽矢子が言うのとほぼ同時に放たれる閃光。
 ブリュンヒルデIIのDレーザーだ。
 ギリギリのタイミングで各個に離脱する能力者たち。
 激しい光が掻き消えた後、射線上には何も残っていなかった。敵の兵器として相対したときは恐怖の対象だったが、味方となるとこれほど心強い武器もそうないだろう。
「残った敵、決して多くない! このまま殲滅じゃ!」
 もちろん、この一射で全滅とはいかない。射線からギリギリ逃れることが出来たキメラも数匹見られた。だが、それらも攻撃の余波で虫の息だ。
 ここまで戦う機会の少なかった美具は余力十分。手持ちのK−02をどんどん放出する。
 アルジェも合わせて残ったK−02を使用。残った敵は必死に回避している、いや、させられている。
 K−02のミサイル弾幕で追い込まれたキメラたちは、美具の切り札である超大型対艦誘導弾の威力をその身で知ることになる。
 炸裂した弾頭から放出された無数の金属弾が周囲のキメラたちのFFを貫き、その身を引き裂いた。
「これこそまさに、人類の反撃の狼煙じゃ!」
 こうして、ブリュンヒルデIIの周囲に存在していたキメラは掃討された‥‥が、これで終わったわけではない。ブリュンヒルデIIはこのまま本命である機動衛星に向かう。
 しかし、能力者たちの活躍により、200近いキメラに囲まれた状態においてもブリュンヒルデIIは無傷。これは極めて大きな功績だったといえるだろう。