●リプレイ本文
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「ついに宇宙に来ちゃった‥‥!」
綾河 零音(
gb9784)はスフィーダ「ベテルギウス・フレイム」のコクピットの中で興奮しつつ、宇宙にやってきたことを肌で実感する。
とはいえ、これから始まるのは戦闘だ。気を引き締めてかからないといけない。
「モニター良し、火器管制も問題なし‥‥」
荒神 桜花(
gb6569)は自身の乗機、ラスヴィエート「暁2号」機器類をチェックし、戦闘開始に備える。
「しかし‥‥指示が特に無しねぇ‥‥」
鳳覚羅(
gb3095)は堕天使を思わせる改造を施したリヴァティー「アズラエル・ツヴァイ」の中で考え込むように溜息を付く。
能力者たちに出された指示は特に無し。とはいえ、その要望は伝えられている。
「出来うる限り艦長の意に沿い『出来る限り損害が無く、かつ速く事を終えること』となるのが適切としてやり遂げますね」
ラスヴィエート「ブラック・ラシアン」に乗る番場論子(
gb4628)の言うように、損害を抑えつつ事を速やかに作戦を遂行する。というのが基本方針となりそうだ。
「となると、艦の損傷ゼロが目標、かな」
かなり難しいだろうけど‥‥と心中で付け足しつつ、鷹代 朋(
ga1602)は天「ドミニア」の中で独り言の様に呟いた。
「まぁ、自由度が高いってのはありがたいがね。その期待に答えるとするさね」
『そうですね。アヴローラの皆さんの為にも、精一杯務めさせて頂きます』
ラスヴィエートに乗るリック・オルコット(
gc4548)に対し、新型機である幻龍「禄存」を駆る月見里 由香里(
gc6651)が通信でそう返してきた。
「さあ、冬宮に革命の砲火を浴びせよう。バグアの支配に終止符を打つんだ」
ラスヴィエート「Молния」に乗るクローカ・ルイシコフ(
gc7747)の言葉が引き金となったわけではないが、それとほぼ同時に放たれたG5弾頭ミサイル。
当然ながら、G5弾頭ミサイルは囮。しかも遠方からの攻撃である。敵小型衛星に、易々と迎撃される。
が、大型G兵器の一つであるG5弾頭ミサイルの特徴はその「加害範囲」にある。
巨大な爆発は周辺の小型キメラを飲み込み、道を切り開く。これが戦闘開始の合図となった。
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能力者たちは2人一組を基本の形として動く。
そして、全体の方針としてはアヴローラに先行することになっていた。
「短期決戦狙いか。まぁこちらとしてもその方が有難いね」
艦長、アレクセイ・ウラノフ中尉は指揮座から能力者たちの動きを見て呟いた。こちらとしても、ダラダラと戦って被弾率を上げるのはよろしくない。方針自体は間違っていないだろう。
だが‥‥短期決戦狙いにしては、若干行動に乱れがあるように思われた。特に、その移動速度。
「‥‥え、もうここまで動いてるのか?」
気付いたのは朋。彼の機体に搭載された強化型帯電粒子加速砲は強力な兵器ではあるが、機体の動きを大きく阻害してしまうものだ。その為、朋は他の味方に比べ若干遅れていたのだが、共に囮用のミサイルを発射してから移動してきていたはずのアヴローラが追いついてきていたのだ。
とはいえ、朋は元々艦後部の守りについても考えていた。両機の由香里も電子戦機であるし、最前線よりはむしろこの辺りが適正だろう。
『目標ナンバリング完了。アヴローラに向かう敵を優先してください』
その僚機、由香里は蓮華の結界輪によりジャミング中和を行いつつ戦域管制を開始。
『こちらで取得した敵情報も共有する。役立ててくれ』
通信はアヴローラから。取得したデータにより、なお
「ちょっ! 機動性が高いからって‥‥」
その一方クローカはすでにはるか後方。戦闘時は常時人型で、と考えていたクローカだが、簡易ブーストを使いながらとはいえ人型では移動速度が他とまったくかみ合っていない。慌てて飛行形態に変形し、前衛に追いつくため飛んだ。
一方、順調に移動している機体は敵前衛のキメラに接触した。
「長引けば損害が広がるからね‥‥早々に方をつけさせてもらうよ?」
接近するキメラに対し、覚羅はK−02小型ミサイルを発射。アグレッシブファングとブレスノウ。2つの能力によってその威力と精度が高められたミサイルはキメラ達に正確に飛び、突き刺さり、そして消し飛ばす。
「宇宙空間ってのは慣れないもんだね、まったく‥‥」
そう言いつつリックはミサイルを連射。その後すぐさま変形し、反撃に備える。飛行形態で進軍し、敵との距離が詰まったら陸戦形態で。こういった戦い方は宇宙戦ならではと言える。なんだかんだでしっかり宇宙戦に適応しているのは、プロ意識とやらの表れか。
「さて、宇宙キメラとの戦闘やな‥‥落ちてもらうで」
桜花もリック同様、ミサイルを連射。ただしこちらは照準最適化機能を使用。かなりの精度で敵キメラに直撃する。
論子の撃つミサイルは、2人のそれとは性質が違う。集団の連携を阻害し、回避行動を制限する。
「よし、メテオブーストオン!」
論子の後方から急加速して突撃する機影。ワインレッドの機体、零音だ。
ミサイル弾幕の中を突っ切るように飛ぶ零音はその飛行軌道上に存在するキメラを一太刀ならぬ一翼の下叩き斬る。
そのまま敵陣で変形。拳による鉄拳制裁を交えつつ攪乱し始めた零音を援護する論子。敵の移動方向を予測し、ミサイルを駆使して誘導。逃げようとしたキメラの向かう先には零音の翼がある。
有効な連携と言っていいだろう。
「間に合った、まだ敵いるね。さぁ、攻撃だ!」
若干他に遅れながら、前線にクローカが到着した。
ミサイルとガトリング砲を乱射するクローカの攻撃で、キメラは蜂の巣にされ、さらに爆発で吹き飛ばされた。
こうして敵キメラを撃破した傭兵たち。だったが‥‥
「倒しても倒してもすぐに増援が来るか‥‥さすがに性質が悪いね」
キメラの砲撃を躱しつつ呟く覚羅。その視線の先には新たな敵影が確認できた。由香里からの情報で、それが衛星から湧いて出てきたものだとわかった。
その衛星から、アヴローラに向かって大型プロトン砲が放たれた。
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「この距離ならまだ当たらないさ。回避運動は任せる」
そういったアレクセイの言葉通り、プロトン砲は艦をかすめることなく後方に抜けていく。
「よし、前進しつつもう一度ミサイルを。前衛の傭兵を援護しよう」
アヴローラからミサイルによる援護射撃が飛ぶ。
その間も衛星から新たなキメラが出現。由香里が忙しなくナンバリングを施しつつ情報管制に専念する。
そこに飛び込んでくるキメラ。やはり衛星に近づくにつれ敵の数、攻撃頻度も上がってくる。
「禄存の初陣やからね。無様な真似を晒すわけにはいきませんわ」
由香里は自身に向けられた砲撃に対し白金蜃気楼を展開。回避しつつもアヴローラに近づこうとする敵を優先的に割り出し、伝播していく。
そしたら後は、朋の出番だ。
「損傷を受けさせるわけにはいかないしな‥‥艦には近づけさせない!」
ガトリングとG放電装置で牽制し、敵の接近を阻止する。
動きの止まった敵を由香里が仕留める。簡易ブーストを利用した疑似慣性制御により死角に回り込んでの攻撃は敵も回避しづらい。
『そっちに追い込む、後は頼んだ!』
さらに、直衛のラスヴィエートから連絡。その言葉通り、複数のキメラが攻撃から逃げようと一か所にまとまっていた。
「了解‥‥じゃ、遠慮なくっ!」
朋機から放たれた強化型帯電粒子加速砲の光が一瞬に駆け抜け、キメラの集団を飲み込み、そして蒸発させた。
この間に、アヴローラは主砲射程まであと一歩というところまで迫っていた。
当然ながらキメラ等の攻撃も激しくなる。だが‥‥
「残念ながら、そう簡単にやらせるわけにはいかないね」
「中々にしぶといねぇ。早く諦めてや」
2機から放たれるアサルトライフルの火線が交差し、その中心点にいたキメラが撃破される。
艦の直衛に、覚羅と桜花がついてくれたのだ。これでキメラへの備えは何とかなるだろう。
「主砲、照準任せる。確定後傭兵に照準座標を送ってくれ」
アレクセイの指示が飛ぶ。この座標に関することは事前に零音から提案されていたことだ。指示に従い、その情報が管制機の由香里機、次いで各機に伝播される。
一方、近づけさせまいとする衛星からは再びプロトン砲が放たれる。回避行動をとるアヴローラだが、さすがにこの距離だと完全回避とはいかない。
強烈な光条がアヴローラの側面装甲を削り取る。
だが、すでに艦は主砲射程に入った。
「よし、主砲‥‥何!?」
ここで初めてアレクセイが声を荒げた。射線上には零音のスフィーダがいたのだ。
繰り返しになるが、大型G兵器はその加害範囲が特徴である。アヴローラだけでなく、エクスカリバー級に搭載されたG光線プラズマ砲は、言うなればブリュンヒルデIIに搭載されたD砲と同じく、射線上の敵すべてを薙ぎ払うことが出来る。
射線を確保しようとした零音の考えは間違いではないが、近接武器のみでそれをやるとなると、どうしても射線に入ることになる。このまま撃てば間違いなくスフィーダは吹っ飛ぶ。
数瞬の逡巡。
その隙に衛星から再度撃たれたプロトン砲の衝撃に、艦全体が揺れる。
直撃だ。
「まずいな‥‥砲手、10秒待機! 前方のスフィーダに‥‥」
射線に入るなと伝えてくれ、と。アレクセイがそう指示を飛ばす前に機体は射線から離れていく。
『射線上に味方機は無し。撃ってください!』
通信、論子の機体からだ。僚機の論子が援護しつつ退避を促したようだ。
だが、衛星はまたもプロトン砲を準備している。先の攻撃では問題なかったようだが、これが主砲にあたったりしたら致命傷になりかねない‥‥
『前進し、圧倒せよ! 退却は一切許されない! Урааааааа!!』
『やれやれ、死角には気をつけろよ、クローカ』
だが、その窮地を2人が救った。
クローカとそれを援護するリック、2機のラスヴィエートがプロトン砲に向けてミサイルを叩き込んだのだ。
無論、それで壊されるほど甘い敵ではない。自己修復もすぐに始まる。だが、今この瞬間、プロトン砲を止めたことに意味がある。
「射線クリア!」「ターゲット、照準内です!」
各所から準備完了の報告が入る。それを聞いたアレクセイは半ばほっとしながら静かに手を上げ‥‥
「主砲、斉射!」
振り下ろした。
同時に、アヴローラの主砲から数本の光条が放たれバグア衛星を貫く。
直撃を受けた衛星は数度の小爆発を起こす。そして、その機能を完全に停止した。
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「ご苦労様でした。カンパネラに帰還するまでゆっくり休んでください」
アヴローラに戻った能力者たちにそう言ってアレクセイは労った。
「水中戦闘が経験になるかも、と思ったんやけど‥‥やっぱり勝手が違うな」
桜花の言うように、水中戦闘と宇宙戦闘。イメージは近いものかもしれない。が、やはり戦闘速度なども違ってくる。全く同じというわけにはいかないのだろう。
「やっぱり、損害0とはいかなかったか‥‥」
朋と論子、由香里は反省会といったところか。まぁ損害0は
リックはアレクセイ達に向けて懐から取り出したスキットルを見せる。
「飲んでもいいかい? 地球を見ながら飲むのも悪くなさそうなんでね」
副長がさすがに渋い顔をしたが、アレクセイは許可した。
「まぁ後はカンパネラに戻るだけですし、構いませんよ」
但し未成年には飲ませないように、と。零音とクローカの方をちらっと見て、それだけ注意してからアレクセイと副官はその場を辞した。
「‥‥そういえば、宇宙なんだよね。地球ってやっぱり青いんだ‥‥」
零音がぽつりと呟いた。エクスカリバー級は巡洋艦という性質上居住区は艦の中心に近い部分に作られている。が、モニター等で外の状況は確認できる。
そこには、確かに青い地球の映像が映っていた。
各部の点検や応急修理の指示を出した後、指揮座に戻ったアレクセイは軽くため息をついた。その様子を見て、副長が声をかける。
「‥‥何か不満そうですね。多少危ない場面もありましたが、最終的にはそこまで気にするほどの被害は出てないと思いますが」
顔に出てたかな、と。軽く苦笑いしつつ、アレクセイは答えた。
「それはもちろん。ただ、そう‥‥僕の予定だともう少し被害が抑えられるはずだったんだけどね」
今回の戦闘で発生した損傷は30%強。衛星と直接撃ちあった結果であるから、十分許容範囲ではある。だが、その結果はアレクセイにとっては十分とは言い難いものだった。
「衛星からの砲撃かな。あれがもっと早い段階で‥‥射程に入った段階で押さえてあれば‥‥」
出足のズレ、衛星に対する攻撃の甘さ、他にも細かい部分が気にかかったようだ。
「‥‥今後は、こちらでしっかり作戦指示を出してあげた方がいいかな?」
それ以後、カンパネラに到着するまで。アレクセイはモニター上に浮かぶ虚空の闇を見つめ、終始考え込んだ様子のままだった。