タイトル:ニェーバの胎動マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/01/18 20:01

●オープニング本文



 今まで低価格〜中堅の機体を中心に開発を手掛けていたプチロフだったが、ついに高級機の開発にも着手することとなった。 これにはメルスメスのコロナ、銀河のタマモ、ドロームのクルーエル、そしてMSIのヴァダーナフと‥‥相次いで各社が高級機の開発を行い始めたことに上層部が危機感を感じたことに起因する。
 今回、そのための第一段階としてラスヴィエート完成後から行われていた基礎フレームの設計がある程度の完成を迎えた。
 設計に携わったのは、上層部から開発を一任されているプチロフカンパネラ支部の支部長。彼が人選した若手2名である。
 1人はいつもツナギを着た青年、イヴァン。部品開発工場やUPCに直接出向き意見を聞いたりする現場重視の人物で、技術者としても若いながらかなり優秀。
 もう1人はいつもスーツを着て仕事をこなす女性、レイラ。典型的な事務方の人間だが、その理論やデータの把握能力は誰もが一目置いている。
 支部長は今、その2人から基礎フレームに関する説明を受けていた。最初に口を開いたのはイヴァンだ。
「基本は、生存性を重視した作りを心がけています。フレームの強度はもちろんのこと、その密度を高くすることで物理的なダメージを大きく和らげることができると考えています」
 資料のページをめくりながらイヴァンは続ける。
「加えて、表面にサヴァーで得られたデータを応用したコーティングを施します。劇的とは言いませんが、フレーム本来の防性と合わせ、既存機と比べるとプロトン砲などの非物理的攻撃にも十分対応が可能です」
 但し、このフレームには欠点があると彼は言う。若干ではあるが関節周りを始め駆動系の柔軟性に欠けているため、全体的に挙動が鈍いということだ。フレームの強度を上げたがゆえに発生した問題らしい。
 しかし、と。入れ替わるように今度はレイラが説明を引き継いだ。
「この欠点をカバーするために、半ば強引ではありますが機体速度そのものを向上させることで対応しようと考えています」
 具体的にはラスヴィエートの時点で2基搭載されていたG光線タービンエンジン。これを倍の4基搭載する。つまりはグローム開発時と同じ手段を用いるわけだ。
 これによってスラスターも出力を上げることが出来る。確保される機動性はプチロフ製最速と言えるほどだ。
「このエンジン4基搭載、というのは機動性確保だけに留まりません。その増大したエンジン出力はSES出力向上、ひいては火力の向上に直結しています」
 要は攻撃力が大幅に上がっているという事だ。
 これに加えIRST等の照準装置も完備しており、命中精度に関しても高レベルを維持している。確かに高級機の名に恥じない出来に仕上がっているようだ。
「だが、これだけではまだ半分。いや、それ以下だぞ?」
 ここまではいい。だが、この時点では骨組みだけだ。最終的にどんな機体になるのかが見えてこない。
 それに、機体の売りとなる特殊機能に関して何も記述が無い。
「それに関してなんですが‥‥案はできています」
「ほぅ。それならそっちも見せてくれないか?」
「‥‥わかりました。ではこれをご覧ください」
 そういうと、2人は同時に‥‥しかし別々の資料を提示してきた。
 なんでもこの先のプランに関して2人の意見が分かれているらしいのだ。
 それでは、と。まず支部長はイヴァンの資料に目を通す。
「俺が推すのは防御と持久力を中心とした機体です」
 まずラスヴィエートでも行われている追加装甲を施す。これにより機動性は落ちることになるが、さらなる防御力の向上を図ることが出来る。
 これに加え固定兵装として機関砲を装備。追加装甲と一体になっているこの兵器はほぼ360度全てをカバーすることが可能だ。
「さらに固定兵装の弾薬カートリッジから制御にかかる練力を確保するようにします。これにより、例えば全方位に対する同時攻撃といった特殊な行動を取る際にも機体自体の練力を消費する必要がありません」
 特殊機能に練力を使わない。それによって練力を簡易ブーストのみに回すことが出来る。つまり持久力を確保する、ということか。
「私は、そういう防御力重視だけっていうのは良くないと思うんですよ」
 熱のこもった口調で話すイヴァンを制するようにそう言うと、レイラは自身の資料を見るよう促す。
「私が推すのは、高機動と短期決戦を主眼に置いた機体です」
 短期決戦に高機動型‥‥今までのプチロフには無いタイプの機体かもしれない。
 まずはブースターとスラスター、加えて練力タンクを増設。これにより機動性と練力を確保する。
 そして、特殊機能としてロジーナに搭載されていた「ストームブリンガー」を軸にしたものや、独自開発中の高性能照準装置を搭載したい、ということだ。
 ストームブリンガーはドローム社の開発した「ドローム空戦スタビライザー」に匹敵する性能を持つ機能。消費練力も相応に高くなっているはずだ。
「宇宙は敵の本拠地に近くなります。その分強敵も多く出てくることになるでしょう。その為の強力な特殊能力! その為の短期決戦型です!」
「おいおい‥‥確かに言ってることはわかるが、宇宙にはキメラだっているんだ。辿り着く前に囲まれたら、防御力の低い機体じゃアウトだぞ?」
 胸を張って熱弁をふるうレイラにイヴァンは呆れた様な、冷めた口調でそう言う。
「あら、何言ってるの? 当たらなければどうということはないわ。そもそも、別に防御性能が低いわけではないし」
 確かに、基本フレームの時点で防御性能はかなりのレベルで確保している。レイラの案でもそこまで防御力が低いという事にはならないだろう。
「第一、イヴァンの言ってる防御だけの機体じゃ囲まれてから攻撃を避けることもできず、いたずらに損害を増やすだけよ」
 今度はレイラがイヴァンの案に文句をつける。それに対し、イヴァンは少しムッとした表情で答える。
「‥‥その為の固定兵装だ。囲まれても機関砲で制圧してやるだけだから楽なもんだ。大体お前の案だって、短期決戦とは言うが、KV単独ではバグアの強敵に対抗するなんてどんな高性能な機体でも難しいだろ? 俺のプランみたいな防御力で戦線を支える役は必須なんだ」
「それを言ったら、ちょっと防御力を上げたぐらいじゃ強敵には通用しないわよ!」
 ‥‥気付いたら2人が口げんかを始めてしまった。なるほど、どちらも自分の案を譲る気はないようだ。
 どうりで案がまとまらないわけだ。支部長としては上手く話し合いで解決してもらいたいところなのだが上手くいかない気がする。
(傭兵でも呼んで、意見を出してもらうか)
 その方が、どっちの案になっても納得いくだろうと。仲裁しつつ、支部長はそう考えるのだった。

●参加者一覧

終夜・無月(ga3084
20歳・♂・AA
守原有希(ga8582
20歳・♂・AA
キリル・シューキン(gb2765
20歳・♂・JG
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
佐賀繁紀(gc0126
39歳・♂・JG
リック・オルコット(gc4548
20歳・♂・HD
美空・火馬莉(gc6653
13歳・♀・ER
フェンダー(gc6778
10歳・♀・ER

●リプレイ本文


「機体開発‥‥こういうのも傭兵の仕事なんじゃな」
 初めての開発依頼なのか、若干興奮気味に、ワクワクして表情をしているのはフェンダー(gc6778)だ。今日彼女たちはある機体の開発に関して意見するためにやって来ていた。
「いよいよか‥‥プチロフ。高級機に手を出す時が来たのだな」
 そう。キリル・シューキン(gb2765)が言ったプチロフ製高級KV。ニェーバに関するものだ。だが、その状況はちょっと面倒なようで。
「双方良いですが‥‥」
「全く違う路線だよね、考え方が現れると思うんだ」
 守原有希(ga8582)と夢守 ルキア(gb9436)が話す通り、今回は2つのプランどちらを選ぶかが主な話し合いの内容となる。ルキアが事前に尋ねてみた提案者2人の為人は、プランAの提案者は現場主義、プランBの提案者は事務方と言ったところ。ただ、どちらも技術者としては若いながらも一流の部類に入るようだ。
 そうこうしてる間に、今回の開発担当者である、さすがにこういう場ではスーツを着たイヴァンと、こちらは普段からスーツの女性レイラが入ってきた。
「佐賀帝國所属佐賀繁紀と言う、我が小隊のプチロフ率は99%を誇り、露西亜正規軍に負けぬ装備率を自負している」
「義勇PT同志技師会・主任、リック・オルコットだ。こちらも愛機はプチロフ製だよ」
 佐賀繁紀(gc0126)に続いてリック・オルコット(gc4548)が挨拶する。2人ともプチロフ製KVの愛用者らしい。
「シスターズとしてもニェーバには期待大なのでありますぅ」
 美空・火馬莉(gc6653)は代理での参加。なんでも本来なら機体にふさわしい名前の姉妹が来るはずだったそうだ。だが、代理とは言っても色々難癖つける気は満々のようである。
 こうして、プチロフ高級機開発に関する会議が始まった。


 まず機体の基本フレームに関する説明が行われた。
「攻撃力と命中力、かなり高いんだね」
「はい、既存のプチロフ機。特にグローム、ラスヴィエートを参考に、それらよりも高い性能を目指した結果です」
 ルキアの言った通り「命中精度」「物理攻撃力」に優れたフレームは、この時点でプチロフ製既存機の中でもトップクラスの性能を保持していた。勿論「生存性」にも優れており、フレームは高級機として恥じない性能を持っていると思われた。
「やはり高級機ですから‥‥価格の方は一旦度外視し納得の行く能力を持たせれば多少高騰を見ても欲しい傭兵は必ず購入すると思いますし、性能の方は可能な限り上げたいところですね‥‥」
 終夜・無月(ga3084)はそう意見した。
「それにしても、物理一辺倒か‥‥ロマンじゃのう」
 KVは見た目より中身、と考えるフェンダーはそのスペックを確認し、頷きながら感心していた。
 さて、ここからが本題。提示された2つのプラン。どちらを支持するか、だ。
「とりあえず、両プランについて説明させていただきます」
 そう言って資料を見るように促すイヴァン。
 イヴァンの推すプランAは防御特化型。ラスヴィエートでも使われている増加装甲に加え、固定兵装として機関砲群を搭載。これによる周辺への制圧射撃、あるいは支援能力が特徴である。
「全方位の範囲攻撃はとても魅力的だと思います‥‥」
「固定兵装の機関砲による範囲攻防能力も敵のバグア式K−02の運用等も鑑みると心強いと思いますね」
 無月と有希はそう言ってプランAを評価する
 実際のところ有希の言うK−02、いわゆるマルチロックオンミサイルのバグア版は沖縄を始めとして各地で運用された例はある。それに対し全ての機体がファランクスを持っていくという事は出来ないわけであり、支援能力としては有用であるとの評価なのだろう。
「その機関砲、ファランクスみたいなものじゃろか。それのリロード等はどうなってるのじゃろうか」
 フェンダーの質問に対し、イヴァンは「出来ない」と答える。これは、特殊能力に必要な練力を使わない代償。システムを組み込んだ特殊弾倉カートリッジをいくつも携帯できないというところからきている。
「現在、宇宙での戦闘で重要なのは継戦能力をどうするかという事である。そういう意味でも練力を消費しないというのは良いと思う」
 繁紀はそう評価した。
「移動力とかはどうなってるのかな」
 リックの質問は移動。この場合は戦闘速度に関するものだろう。
「そうですね。やはり機体の装甲を増している分戦闘速度という点ではどうしても遅くなってしまいます」
 具体的には、ラスヴィエートに一歩劣るぐらいだという。

「続いて、プランBに関してです」
 こちらはレイラの提示している案。
 プランAに対し、プランBは万能型。スラスターなどを増加することで、戦闘速度や回避性能を底上げしたプランであり、それらは既存のプチロフ機でも最速。といっても、防御性能が低いというわけではない。
 特殊能力にはいわゆるストームブリンガーを始めとした高性能の物が採用されている。しかし、このストームブリンガーが問題だったようだ。
「一つお聞きしますが‥‥こちらのプランでは瞬間的な行動性能はどの程度まで引き上げられますか?」
「え‥‥通常のKVなどと同程度までは確保できる予定ですが‥‥」
 それでは駄目だ、と有希は言う。理由はやはりクルーエルの存在。
「ストームブリンガーは確かに性能は悪くないのでしょうけど、やはり戦争初期の産物なのであります」
 その意見を補完するように発言する火馬莉。ドロームでは空戦スタビライザーの研究が長く続けられており、クルーエルに搭載されると言われる空戦スタビライザーの発展系は既存の物と比べ倍の効果が得られるらしい。
「むぅ‥‥それは確かに、そうですが‥‥」
 対して、レイラが引っ張り出してきたストームブリンガー。その発展系はドロームの物とは違い、練力をつぎ込みエンジン出力を強引に引き上げる。それによって強引に同程度の効果を引き出すというもの。
 行動性能の向上という点では、到底並び立てるものではない。
 ストームブリンガーに関しては、他にもこんな意見が。
「それにしても、この効果は惜しいな‥‥ちょっとこんな感じに変更できないか」
 そういってキリルが提示したのは「攻撃+、攻撃+、攻撃+」
「まぁ正直冗談でもない。物理攻撃に重点を置いているとどうしても決定打が無くなってな」
 物理兵装には、例えば練剣雪村のように強力な一発を持った武器がほとんどないことをその理由に挙げたキリル。
 最初はさすがに目を点にしたレイラだったが、理由を聞いて納得した。
 とはいえ、物理兵装にもグングニル、ロンゴミニアト、タルタロス等、バカみたいな火力を持った兵装もあるにはあるのだが。
「そういえば、ストームブリンガーの開発陣ってシベリアで木を数える仕事に就いたんじゃなかったのか?」
 ふとリックが問い質した。が、ハハハという苦笑いと共に「企業秘密です」との返答しか返ってこなかった。


「では、プランA、B。どちらを推すか意見をいただきたいと思います」
「そうですね‥‥折角ですから何処でもやってない事をする事が其の機体の輝きになるかと‥‥」
 但し、プランAの欠点である機動性の弱さをその特殊能力と防御性は落とさず向上させるようにしたいと、無月は付け加える。
「利点を出しつつ欠点を無くす‥‥理想論かもですが理想は実現させようとしない限り理想の侭です‥‥」
 その意見は確かに正論である。だが‥‥
「努力はします。ですが、二兎を追う者はということわざもありますからね。理想論だけで語れないのがKV開発です」
 と、イヴァンは返した。
「プチロフらしさならプランAだな。高機動型は他企業でもすでにあるし」
 回避型は既に他にもある為、差別化が図れないという理由から、リックは無月同様にプランAを推した。
「プランBは、この手の短期決戦型は既出のKVの主流であるため、後発のプチロフとしては発売にこぎつけたとしても他社既存機群に埋没してしまう恐れが高いと思われるのであります」
 と、火馬莉もプランAを支持。それに続いて発言したのは、やはりプランAを推す繁紀。
「強力な機体スキルを使用して練力がドカ減りする、ブーストで減っていくという事で戦線が張りにくいという現状もある。なにせ迎撃戦特化型KVが多いからな」
 これからは迎撃戦闘以外の戦闘もこなす事の出来るKV。練力消費少ない機体スキル、頑健・頑強で長期戦闘が出来る宇宙用KVこそ必要だと思うと。
「このニェーバは、その先駆けになるだろうと確信する」
 そこで一呼吸おいてから、繁紀は続けた。
「現在の宇宙用のKVの開発はドローム社のリヴァティーを参考しているのが現状だ。言うなれば世界初の宇宙用KVはリヴァティーであると。Bプランの推進はプチロフ社はドローム社のリヴァティーを参考にしたと言う事になる」
 実は、これは間違っている。そもそも、ラスヴィエート・リバティーとも未来科学研究所で研究が行われていた「宇宙戦闘機理論」を基本フォーマットとした機体である。そして、それ以降の機体にもそのフォーマットは受け継がれている。別段、宇宙用KVはリヴァティーを参考にしているということはない。
 だが、プランBは確かに。その万能性ゆえにドローム社の系譜につながる部分は大きいかもしれない。
「それは哀しい事だ、故に世界がドロームに追随している中でプチロフ色全開なKVをお披露目し世界に問うのだ。練力消費の無い機体スキルを持ち、頑健・頑強な継戦能力のある宇宙用KVはどうですか、と」
 そこで、繁紀は言葉を切った。
「他企業の依頼や報告書なども見て考えると、プランA母体を支持です」
 やはり、有希もプランA支持。
 どこも能力に練力を使う機体が多い。そんな中無消費で、頑丈で、スタミナの有る機体は商材としても、戦場での役割分担でも独創的で非常に有用だと有希は述べた。
「やはり必要なのは防御力だ」
 明言はしなかったが、キリルもどちらかというとプランA寄りか。
「他の戦闘機然として高速で戦場を駆け抜ける他社機と違い、我々は全身の火砲で制圧しつつあらゆる障害を踏みつぶしながら進み続け時に味方の盾となりうる戦車然とした機体であることが望ましい」
 キリルとしては、この機体が戦線に穴をあけ、そこから無数の安価機が押し広げる縦深攻撃をイメージしているようだ。
「オウガや破曉並みの行動性能、クルーエルの能力と同レベルの能力。そこまでできるならプランBもありだと思うのじゃが‥‥」
 そう言ったフェンダーであったが、やはりそこまでは無理。であれば、継戦能力を上げるならプランAじゃなと納得した。
 最後に発言したルキア。彼女もまたプランAを支持。
「安定性をウリにしてるんだし、宇宙戦でも長くとどまれるようにした方がいいんじゃないかな」


「ご意見ありがとうございました。その他何か意見やご提案があればお願いいたします」
 それに対しまず挙手したのはルキア。
 彼女はこの機体を安定性を主にした、移動要塞のようにしてほしいと言った。
「私たちは死ぬタメに宇宙へ行くんじゃないからね」
 殿を務めて、そして帰ってくる。味方にこの機体があれば大丈夫、と。そう感じてほしい。そう言外に込めて。
「防御能力の高い持久兵器ではなく、小隊防御兵器としてこの機を位置づけてもらいたいであります」
 続けて意見を出したのは火馬莉。
 今後の激化が予想される宇宙戦では、個々のKVの性能を高水準に維持するのは至難。そのため、継続戦闘能力支援機である「西王母」のような小隊単位での運用を想定し、補給面ではなく防御方面に貢献できるようなKVを希望するとのことだ。
 この辺りはプランAの特殊能力を鑑みるに不可能なことではなさそうだ。
「ところで、この感じだとプランAをメインに開発が進むんだろうけど‥‥移動力、どうにかならないのかね」
 リックは、戦闘速度に関して最低でもラスヴィエートと同程度は必要だと述べる。
「これに関してはレイラさんの機動性兼備の基礎骨子を取り入れていけば何とかなるかと思いますが、どうでしょう?」
 それに続き有希が意見を出した。人類側宇宙艦艇の武装が貧弱故、機動防御可能な足も有ると防空能力を補えるとのことだ。
「なるほど‥‥ちょっと検討してみます」
 その言葉を聞いてメモ帳にペンを走らせながらレイラは答えた。
 この他にも機体の兵装に関して。
 繁紀からは直径5cm以下のデブリを捉える事ができ、最適化機能と連動した索敵装備の改良型と可動盾「ジェレゾ」と同等の性能を有する専用盾。リックからは大口径ライフルなどが提案された。
「意見は伺っておきますが、こういった推奨兵装などに関してはまた後日機会を設けますので、その時にもよろしくお願いします」
 と、こんなところで会議は終了となった。


 会議が終わった後、参加者たちは有希が準備した差し入れ、というレベルを超えているような気がする料理に舌鼓を打つ。
 フェンダーが紅茶とコーヒーを淹れ、会議室はもはや食事の場と化していた。
 そんな中、隅の方でレイラとイヴァンは今日の会議での結果をまとめていた。
「俺のプランで行くとしても、戦闘速度か‥‥今のままではどうにも」
「ん〜、そうね‥‥少しブースターの出力を上げてみたら?」
 少し悔しそうな様子のレイラ。会議の結果を見るに、プランA。イヴァンの案で進むのは確定だ。だが、そう言いつつも先程出た意見、そこから得られた改善点を洗い出す作業に淀みはない。
 仮にプランBが選ばれていた時、イヴァンもレイラ同様に悔しがりつつもすでに次のステップの為の作業に入っていたことだろう。
 これには終わってすぐのルキアの言葉が影響してたかもしれない。
「ね、きみ達にとって、パイロットってどんなソンザイ?」
 この質問を聞いて、二人はハッとした。自分たちは今まで、機体のことしか見ていなかったのではないかと。
「私にとっての開発者は、相棒を生み出した生みの親かな」
 そう言って有希の屋台に戻っていったルキア。
 自分たちにとって、機体とは‥‥子供のようなものになるのだろう。
(機体はパイロットを守る相棒として‥‥)
(そして開発者はその相棒の親として‥‥)
 ルキアはじめ、この機体に乗ることになるかもしれないパイロットすべての期待に応えたい。そう2人は考えた。