●リプレイ本文
●
「今回もお招きありがとうなのじゃ」
そう言って今回の主催者であるプチロフ社技術者、レイラとイヴァンに挨拶をしてきたのは前回も意見聴取に参加してくれたフェンダー(
gc6778)だ。
「前回も色々為になったし、今回も勉強がてら参加するのじゃ。皆のアイディアで素敵なKVができるといいのう」
差し入れとして羊羹とチョコレートを差し出しつつそんなことを言った。
一緒に挨拶に来ていたのは夢守 ルキア(
gb9436)だ。ルキアもまた前回の意見聴取に参加しており、またレイラ、イヴァンの2人に少しばかり考え方を改めるヒントをくれた存在でもある。
ルキアは自身の愛機イクシオンの名前を出しつつ‥‥
「私だったら、こんなKVと組みたいよって提案してみるつもりだから、今回もよろしくね」
そう2人に告げた。
「‥‥それにしても、メンツがそう変わらんな」
「言われてみれば、見た顔ばかりだな」
その様子を見つつ苦笑しながら呟いたのはリック・オルコット(
gc4548)と佐賀繁紀(
gc0126)だ。
これに加え終夜・無月(
ga3084)。彼らも同様、前回の意見聴取にも参加していた。
「さて、俺も挨拶に‥‥あのメンツには酒はNGだな」
リックはそういうとウォッカを懐にしまうと、もう一つの手土産であるピロシキだけ手に持ち談笑するルキア達の方に向かった。
それから少しして、会議が始められることとなった。
●
まずは基礎性能についてだ。
「‥‥といっても、大本は決まっています。今回お聞きしたいのはその戦闘速度に関してですね」
現状、ニェーバの戦闘速度はラスヴィエートに若干劣る程度。ラスヴィエートに追いつかせることも可能なのだが、その為には若干命中精度と装甲を犠牲にする必要がある。
この辺りを許容できるかどうかが、最初の議題として挙がった。
「命中精度や防御力は、多少の低下なら強化や装備で補えますが‥‥移動性能はかなりの資金を投入して強化を施すしかありませんからね。高い方がいいかと思います」
「そうだね。搭乗権を買っても移動性能は弄りにくいし‥‥そして、隊を組んだり、味方同士で連携するトキに合わせ難い」
無月の言葉に賛同するように続けたルキア。さらに繁紀が続く。
「艦の直衛、拠点防衛なら現状でも問題は無いが、編隊を組むとなると味方機との足並みを揃える意味合いからもう少しは必要となるだろう。よって、防御・命中の微低下に関しては別にどうと言う事は無いと認識する次第だな」
「折角強くてもたどり着いたころには戦闘が終わっていたとかじゃと悲しいからのう‥‥周りと足並みを揃えられるぐらいの移動力は必要じゃろう」
フェンダーも移動力増加には同意のようだ。
続いてリックが意見を述べる。彼も移動性能は高い方がいいとしつつ、その性能落とさないために案を提示する。
「低下する防御性能と照準性能だが、追加装甲自体に推進器とセンサーを増設するわけにはいかないか?」
これは難しいだろう。命中精度ないし機動性能の代償に装甲強度を落とす結果になりかねない。現状でもかなりギリギリの線を探った結果なのだ。
「妥協はノーサンキューである」
このような移動性能強化の流れに待ったをかけたのは、美紅・ラング(
gb9880)。前回意見聴取に参加した少女の姉妹だそうだ。
美紅は何かの為に何かを犠牲にするというやり方は、理屈は分かっていてもいやなものであるとしたうえで‥‥
「プチロフ最高を歌う能力値でも、少し下げてしまえば、全KVの中では拮抗する性能から突出したものは無くなってしまうので、そこは譲りたくないである」
なるほど、確かに考え方としては説得力がある気がする。他に合わせるよりも独自路線を、といった意味合いも含んでいるのだろう。
だが、その後の言葉にレイラ、イヴァンは引っ掛かりを覚えた。
「ぶっちゃけ、小隊防衛機という役どころのKVであれば、一番遅いKVに合わせなければならず、必ずしも早い必要は無い。移動もこの程度あればヨロウェルよりは早いから問題なしと判断するのである」
「それは‥‥ちょっと前提条件がおかしくはないでしょうか」
ヨロウェルの移動力とニェーバの移動速度は、確かにスペック上同程度である。もっと言うと、地上での移動力はヨロウェルよりニェーバの方が高い。
「ですが、これらは全て『大気圏内』の話です」
ヨロウェルは地球内での戦闘を想定したKVであるのに対し、ニェーバは宇宙用のKVである。ヨロウェルを宇宙戦で使用するならばブーストが前提になり、その移動性能はニェーバの倍まで上る。尤も、その活動時間は無改造状態であれば30秒持たないだろうが。
「ちなみに、宇宙用KVにおける戦闘速度の最低基準ってどの程度なのかな?」
「それは‥‥やはりリヴァティーやラスヴィエートなどが移動性能では最低レベルになりますね」
つまり、現状だとニェーバが一番遅いKVになってしまうわけだ。小隊としての連携行動を考える上では、やはりこのぐらいの移動性のは必要だろうという考えで、最終的にはまとまることになった。
「‥‥ところで、いっそのことエンジンを6基にすることはできないのか?」
推力も確保できて、装甲も削らずに済むだろ、というリック。だが、これは無理だ。
「開発期間や開発費のことも念頭に置いていただけてるとは思うんですが‥‥それ以前に複数のエンジンを積むと、上手くバランスを取って出力を同調させたりしなければいけないし、結構手間がかかるんですよ」
そうなると、機体自体の設計を見直す必要が出てくる。恐らくは年単位での作業が必要になってしまうだろうとのことだった。
●
続いて特殊能力。これは前回意見を聞いた際に挙がっていたものに加えて、新たに2つ調整したものが案として挙がっていた。
Aは自身が目標とした敵に対し弾幕を張ることで攻撃の補助をする機能。
Bはミサイルに対して弾幕を張る、ファランクスのような扱い。但しこちらは迎撃率が若干低い代わりにある程度継続してミサイルを迎撃出来るという利点がある、
Cは接近する敵に対する迎撃機能。B同様、防衛する味方を設定後、それに近づく敵に対し弾幕を張ることで近接攻撃を妨害するものだ。
DはAのマイナーチェンジ版。瞬間弾数を節約して、Aと同弾数で効果時間を長くした感じだ。
「自らの能力を増加する能力よりは特殊な能力を採用したほうが良いと思います‥‥」
そう言った無月はミチェーリを最優先としつつ、支援機能C、次いでBの採用を支持。
「俺はBとDだね」
リックが支持したのはその2つ。理由を聞くと‥‥
「別段深く考えたわけじゃない。個人的な好みさね」
とのこと。これに賛同したのはルキア。
「私、当たんなきゃOKだし、近接戦に持ち込まれないように動くんだよね」
だから、Cには魅力を感じないとのこと。
「それに、牽制ダケだったらニェーバじゃなくてもいい。だって、弾幕系の武器なら持ってるし、狙いを何処に定めるかでパイロットの腕だと思う」
だが、知能の無い敵。この場合ミサイルのことを指しているのだろうが、それには戦術的な駆け引きが出来ない。だから、Bは必要だろうということだ。
また、DとAを比較した際、Dの方が利点が分かりやすいという事だった。
「ところで、この能力って味方機の支援に使えるかな?」
使えたら宇宙が不慣れな人でも当てやすいかなーということだが、答えは残念ながらNO。
「支援機能AないしDに関しては、あくまで自機が目標とした敵機への攻撃補助になります」
イヴァンが説明することによると、味方への支援を考慮すると自機がロックしている目標以外に対象とする味方機、その味方機がロックしている敵機」を捕捉したうえで、さらに味方機の攻撃タイミングを計ったうえで味方に当たらないように援護する必要がある。
「自動支援機能の要であるオーブラカは弾幕を張るという性質上、残念ながらそこまで正確な照準を行えるようにはできていないんですよ」
ということだった。
「Bについては敵主武装がプロトン砲などの知覚兵器で占められておりミサイル攻撃を受けたという話が少ないので不要と判断するのである」
そういう美紅はミチェーリは有効であるとし、次いでDとCを支持。但しCに関しては条件付きだ。
「Cに関しては弾丸を防御兵装系の重力弾に変えて、全周に散布する形にして、知覚バリアのごとき状態を作り出せるのであれば採用したいと考えるのである」
重力弾‥‥所謂ラージフレア等のことを指しているのだろう。
確かに、そういう弾頭を用いること周囲に対する防御能力としてはかなり高い効果が見込めるだろう。
弾頭変更自体も、コスト等を別とするならそれほどそれほど難しくは無いようにも思える‥‥だが、それをすると武装の弾数が大幅に低下する恐れがある。
「それに、美紅さんはミチェーリは有効である、としましたが‥‥こういった弾頭に変更するとミチェーリは使用できないでしょう。オーブラカを利用した広域殲滅攻撃。それが
ミチェーリですから」
「あ、そのミチェーリなんじゃがの‥‥折角の飽和攻撃なのだし、相手が回避しづらくできると使いやすそうなのじゃが」
説明を行ったイヴァンの横から意見を出したのはフェンダー。言われてみれば確かに、弾幕を張るという性質上標的の回避阻害は不可能ではないだろう。
「良い案をいただきました、検討してみます」
そう言うと、レイラはさっとメモを取った。
「へ、良い案じゃったか? それは良かったのじゃ。それと、自動支援機能はBがいいのう。味方を守るというところが素敵なのじゃ」
次いで、自動支援機能CをBとコンパチで使用できないかという意見が、フェンダーから出される。
が、これは難しい。照準が多岐に渡ってしまうため処理しきれない可能性がある。
繁紀は自動支援機能Dを推すとしたうえで意見を述べる。
「これは個人的な事だが照準最適化機能をシステムに入れれば命中の微低下は無くなるのではないかと思うが、どうだろうか」
「そうですね‥‥ちょっと難しいかもしれません。照準システムとしてはラスヴィエートで得られたものも踏襲したうえでの限界値ですし‥‥特殊能力として組み込むとしたらコンセプトから外れてしまいます」
元々練力消費の少ない能力であった照準最適化機能。だが、ラスヴィエートと比較してもスラスター数の少ないニェーバにこれを能力として組み込むには、恐らく消費練力が若干増加することになるだろう。それは、特殊能力に練力を一切使わないというコンセプトから外れてしまう。恐らくは難しいだろう。
「はっきり言うが特殊能力に関しては、別段思うことは何も無い。搭載された物を使うだけだからな」
そんな中、最後に繁紀が言ったこの言葉。ある意味真理の様な気がしないでもない。こうして意見をしたとしても、最終的に全てが容れられるわけではない。結局、パイロットはあるものを使うしかないのだ。
(だからこそ、私たちは今できる最高の物を作る必要があるのよね‥‥)
レイラ、そして恐らくはイヴァンもそう考えていた。
●
ある程度話がまとまったところで質疑応答。その中でこんな質問が繁紀から出た。
「ところで「G光線タービン」の「G光線」って何だ。よく分からんのだが、分かる様に説明してくれんか?」
「G光線ですか? ‥‥あれ難しい理論だから上手く説明できるか‥‥」
そう言って説明を行うのはレイラ。
「簡単に言うと、ウィリー・フォイゲ博士‥‥昨年亡くなった、G5弾頭を開発したウィリー博士のお父様ですが、彼が考案したG光線理論。それに基づいて利用されるエネルギーのことになります」
ちなみに、G光線タービン自体はスッチーによるG光線理論の基礎研究進展により開発されたエンジンで、既存のターボジェットエンジンを踏襲したものとなっている。
「なるほど‥‥わかったようなわからんような‥‥それと、ストームブリンガーの開発人たちは今、極東露西亜で地下資源採掘に従事しているという噂があるのだが、本当か?」
「あぁ、そういえば俺も似た様なのを前回聞き損ねたんだった」
繁紀の次の質問に乗っかる形でリックも質問を投げる。ちなみにリックの聞いた噂は「シベリアで木を数える仕事に就いている」といった内容だった。
「それは‥‥実のところ良く知らないんだ」
困った顔をしたイヴァン。実際当時の技術者が今どういう扱いを受けているかは知らないらしい。これはレイラもそうだ。何しろ‥‥
「ストームブリンガーを搭載したロジーナはロシアの方で作られた機体ですから」
そう言うと2人は少し納得した表情を浮かべた。何しろニェーバの開発はカンパネラ支部が主導。レイラ、イヴァンもカンパネラ支部に所属している技術者だ。わからないのも無理はないだろう。あるいは支部長クラスならわかるかもしれないが‥‥
「多分聞いても企業秘密ってことになりそうだな」
苦笑するリック。その質問を最後に発言が途切れ、ここで会議は終了となった。