タイトル:【協奏】夜想曲3.墜マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2012/03/31 11:54

●オープニング本文



 沖縄本島、最南端。
 ここにはバグア軍の前線基地が置かれていた。規模としてもそれなりのもので、前線基地としては申し分ない。
 と言っても、現在沖縄に存在するバグア。ゼオン・ジハイドの11、風祭・鈴音(gz0344)はトリイ基地。その部下である沖縄3姉妹も同様にそれぞれの拠点を所持している。この前線基地はバグアにとって戦略的価値がそれほど高くない基地となっているわけだ。
「‥‥ですが、我々にとっては違います」
 作戦会議でそう言うのはUPC沖縄軍中尉、ソウジ・グンベ(gz0017)だ。
 人類側には沖縄本島においてこの規模の地上拠点は存在していない。今後本島の3姉妹やジハイドと戦っていくために安定した拠点の存在は必要不可欠であった。
「だが、この規模だ。それなりの防御戦力は敵も置いているのでは?」
「その疑問は尤もです。ただ、それに関してはこちらの資料を参照して頂きたく」
 それは、基地に送り込んだ工作員からの報告書。これによると、基地内に存在しているバグアは、強化人間を含めてもそれほど多くないということだ。ならばこの規模の基地をどうやって円滑に機能させているのか疑問が生まれるが、それに関しても報告書に記載されている。
「‥‥なるほど。基地の運用は民間人を使っているわけか」
 バグアは、民間人の親類などを多数人質として、その身の保証と引き換えに労働を強いているという事だ。だが、これはある意味こちらがつけ入れる強みでもある。
「つまり、です。この基地に存在している少数のバグアを排除すれば、基地機能をそのままいただくことも不可能ではないということです」
 今回の作戦では、基地内に数名の能力者を送り込み、基地指揮官始めバグア軍の掃討を行う。この間人質に危害を加えられるとまずいので、別働隊が同時に人質を救助する、と。そういう流れだ。
 侵入には手漕ぎボートを使用。この際水中戦部隊が陽動の為に戦闘を行う手はずになっている。
「そして最終的には空挺部隊を投入し、基地を完全に掌握する、と」
「よし、聞いた通りだ。各自作戦準備にかかれ!」
 作戦の決行は深夜。故に名づけられた作戦名は「ノクターン(夜想曲)」
 オペレーション「ノクターン」はこうして静かに動き出した。


「ミウミから連絡‥‥KVが動いてる」
 沖縄バグア基地。ここには沖縄3姉妹の三女・榊原アサキ(gz0411)と、珍しく地上に降りてきていた次女・山城カケルがいた。目的はアサキ用にチューンしたカスタムティターンのデータ収集である。そんな折、長女・照屋ミウミから前線基地近海での戦闘が始まった旨が報告された。
「やっぱりね。それじゃ、基地の方も襲撃があるでしょう」
「‥‥空の方は部下に準備させてるから、いつでも」
 アサキはこういう日が来ることはすでに予測していた。その為にカケルに依頼してある準備を進めさせていた。
「でも‥‥『あれ』を使った方がもっと簡単じゃないの?」
 カケルが言う『あれ』とはアサキの所有している『超科学爆弾メルティア』のことだ。
 あれを基地の地下に設置しておいて基地に襲撃があったところでドカン、とやればことが収まっただろうに。
「あぁ、あれはダメ。設置に時間がかかるし、解除法も知られてるの」
「そう‥‥だから爆撃なのね」
 例によってカケルの目元は前髪で隠れてしまっている為表情は見えないが、頭が縦に振られたことで納得したとわかった。
 彼女らが立てた作戦。
 それは基地を爆撃するという単純明快な内容だった。
 人類に使わせてやるぐらいなら爆撃して跡形もなく吹っ飛ばして使えなくしようというつもりなのだ。
 もちろん基地には大勢の民間人が存在していることを彼女らは知っている。だが、彼女らにとって民間人の犠牲は意に介する必要のないもの。重要なのはむしろ、敵に与えられる被害だ。
「それじゃ、出撃命令を出してくる」
「ええ、よろしく。あいつらが悔しがる顔が目に浮かぶわ‥‥」
 アサキは戦場の方角を見つめなが楽しそうに。本当に楽しそうに微笑んだ。


 カケルの拠点である大型ビッグフィッシュ内では、出撃命令に伴い急ピッチで準備が行われていた。
 指揮に当たるのは留守中のビッグフィッシュを任されたゲイン・クロウだ。
「準備できたキメラは順次放出、目的地に向かわせろ」
 今回の作戦では鳥型キメラに1つずつ爆弾を持たせている。
 単純な物量作戦で押していこうという事だ。
 もちろん通常のHWも準備。多少の攻撃を受けても問題ないよう防御寄りにカスタムを行い、爆弾だけでなく機銃なども装備。キメラの援護を行わせるためだ。
「でも、煙幕弾は何に使うんですか? 夜間戦闘ではあまり効果があるようには思いませんが‥‥」
 セッティングを終えた整備士が不思議そうにそうゲインに質問する。
「夜間戦闘だからこそ、さ。まぁ絶対に必要になるとは限らないがな」
 だが、その質問にゲインは明確な答えは出さない。何らかの意図はあるようではあるが‥‥
 加えてゲインはランサーの準備も指示。
 高空からの爆撃が妨害されることを想定して、低空からの爆撃も混ぜる作戦だ。
 問題は戦域への侵入のタイミングと方向だろう。
「今回もランサーには自爆用の大型爆弾を?」
 整備士の質問にゲインは首を横に振る。
「いや、同じ手を使うのも面白くないしな。それにHWをそう何機も捨てるわけにもいかんだろう‥‥俺もランサーで出る。準備急いでくれ」
 そう言ってゲインはランサーに装甲の追加を指示しながら、自身も出撃の準備を始めた。

●参加者一覧

アルヴァイム(ga5051
28歳・♂・ER
美空(gb1906
13歳・♀・HD
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
レイミア(gb4209
20歳・♀・ER
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751
18歳・♂・DF
リズィー・ヴェクサー(gc6599
14歳・♀・ER

●リプレイ本文


「目標の接近を確認。例の爆撃部隊です」
『こちらでも確認できました。キメラが中心のようですが‥‥確かに数は多いようです』
 レイミア(gb4209)に続いて、アルヴァイム(ga5051)からの通信。
 2機の電子戦機は他機に先駆け目標を捕捉。
 情報によると敵はキメラが中心の構成。通信がクリアなことからCWなどは存在していないようだ。
 これらの情報はすぐさま各機に伝達される。
「数が多いね。でも、駆逐型‥‥『D』の称号は伊達じゃないよ」
『‥‥此処だけは、通すわけにはいかないね』
 ソーニャ(gb5824)、リズィー・ヴェクサー(gc6599)は共にその様子を見てそのように述べた。
 囚われた多くの人の幸せの為。
 人を一人でも多く護る為。
 2人の言葉は別々の、しかしどちらも自分以外の誰かの為に。そんな意志を宿していた。
『今回はすまんな。よろしく頼むぞ』
「了解。美具の頼みとあれば一肌脱ぐしかないのであります」
 美具・ザム・ツバイ(gc0857)からの通信に美空(gb1906)はそう答えた。
 美空は美具から急遽増援として呼び寄せられた形でこの作戦に参加していた。
 2人は姉妹であるが、普段は戦域が違うためこうして共に飛ぶということはあまりない。にも関わらず急な呼び出しにすぐさま応じるあたり、姉妹仲は良好ということなのだろう。
「コールサイン『Dame Angel』、作戦を開始するわよ」
 アンジェラ・D.S.(gb3967)の声に合わせるように各機がそれぞれ空域に展開していく。
「駄目じゃないか‥‥僕の友の国を滅茶苦茶にしちゃあ‥‥」
 ドゥ・ヤフーリヴァ(gc4751)もといヴァガーレ・ゴーストも彼らに倣うように飛ぶ。
(呪ってやる‥‥僕の友が恋した狂える六華で)
 亡霊の視線。その先には夜の闇で確認できないが、間違いなく敵群が存在していた。


 4機のHWとともに広く展開したキメラ群は、能力者たちの手薄な方向から接近してくる。
 能力者たちは基地上空に部隊を配しこれを内円とし、その外縁を4方のうち3方にさらにKVを配置。これによって開いた一方向に敵を誘導したというわけだ。
 夜戦ゆえに、その正確な位置等はつかめない。だがこちらには心強い電子戦機がついている。
 レイミアの主任務はどちらかといえば管制にあると言える。
 基地を中心に飛行し、ピュアホワイトの能力である複合ESMを活用。同時に、逆探知機能を持つ幻龍を駆るアルヴァイム。そちらから情報の供与を受け、統合。
 これにより、視界の悪いこの状況下でも、可能な限り正確な敵位置を味方に伝達していく。
 その中でも重要視されたのは、敵HWの位置情報だろうか。
 伝達情報に基づき外縁担当のアルヴァイム、アンジェラ、美具が迎撃の為に飛ぶ。
(今回の作戦‥‥指揮を執っているのは恐らくゲイン・クロウ。これ以上貴様の思い通りにはさせんぞ!)
 美具は機関砲で弾幕を張り、キメラを掃討しつつHWをミサイル射程内に捉える。
 同時に美具は全ミサイルを開放。
 夜間故に視界は悪いが、ピュアホワイトの能力によりレーダー機能は常以上に働いている。
 無数のマイクロミサイルが補足した4機のHWに過たず襲い掛かる。
 HWは機銃で弾幕を張り、ミサイルを迎撃しつつ回避していくものの、多数のマルチロックミサイルに紛れて、飛来した高速ミサイルを躱すことが出来ず直撃を受ける。
 さらに、ミサイル弾幕で態勢を崩したところをアルヴァイムが、アンジェラが畳み掛ける。
 両者はともにライフル射撃。基地に近い目標を優先して、火線を集中。
 夜戦ゆえにその照準は普段より難しい。だが、敵の侵入方向が一定だったのが幸いしたか、火線の集中は容易。十字砲火にて攻撃を継続する。
 しかし、外縁で対応している味方部隊の数に対し、キメラの数は圧倒的だ。
 当然何匹かは抜けてくる。いや、元の数が多い分何匹ではすまない。尤も、それをカバーするために内円の部隊が存在しているわけだが。
 リズィ―は空戦スタビライザーとSESエンハンサーを起動。
「最大で‥‥」
 同時に、全てのミサイルポッドの照準を固定‥‥開放!
「‥‥ぶっ放すよぉっ!」
 美具に劣らない、大量のプラズマミサイルがキメラたちに襲い掛かる。
 本来は美具に合わせて仕掛ける予定だったが、射程と位置の都合で我慢したのが功を奏した。
 爆発とともにあふれるエネルギーの奔流がキメラ、そしてそれらの持つ爆弾を破壊していく。
「皆の力が一つに結集しようとしているのであります。ここで負けたら仲間達に顔向けできないであります!」
 美空は気合十分にガトリング砲を掃射。キメラを掃討していく。
 また、美空はロングボウの高い照準能力を活かして索敵のフォローも同時にこなす。
 その効果は決して大きいものではない。
 だが、敵の数が膨大な分レイミアの処理能力にも負担がかかる。その負担を軽減するのに無意味な行動ではなかった。
 同じく内円。ソーニャはアリスシステムを起動。
 集中攻撃を受けないように高速移動。これにより敵の狙いをそらすのが目的だ。だが、キメラは爆弾を抱えている為攻撃を仕掛けてくることは無い。攻撃手段がないのか、あるいは‥‥
(あくまで爆撃優先、ってことか‥‥)
 尤も、攻撃してこないなら回避に気を使う必要もない。射程内に入ってきたキメラに対しソーニャはバルカンを掃射。確実に撃墜していく。
 ヴァガーレは接近するキメラに対しレーザーガンを連射。
 しかし夜の闇にまぎれたキメラには命中を取れない。
 ならばとドゥはアサルトフォーミュラーを起動。命中力を引き上げながらマシンガンで追撃。
 撃破後は急速離脱。所謂一撃離脱戦法で確実に撃破する。
 ここまでは能力者たちの思惑通り作戦は進行したといっていい。
 だが、各機のレーダーには無数の反応が浮かんでいる。
 ミサイルの爆発、それに伴う熱反応やら、爆発に反応して発生したFF反応。
 すでにレーダーは飽和状態だ。敵もまた、この状況を狙っていた。


『‥‥高度約60m、新たな敵機が確認されました!』
『かなりの移動速度ですね‥‥敵はおそらくランサーと呼ばれる個体と思われます、注意を』
 レイミア、ついでアルヴァイムからの通信が各機に届く。
 その侵入位置はキメラ群が向かってきた方向と同様。但し、その高度は違う。数は4機、縦一列に並んで飛行している。
 2人がこれに気づけたのはひとえに電子戦機故。他機であれば無数の反応で見逃していただろう。
 そして、この敵機の狙いは十中八九基地爆撃だ。
『やはりこの数は目くらまし‥‥あれが本命じゃ!』
「了解! 基地に接近させるわけにはいかないのであります!」
 最後の高速ミサイル。その直撃によってHWを撃破しつつ‥‥これが本命だと、そう確信を持った美具だが、今ここを抜けると今度は高空からHWが基地上空に接近、爆撃を行う。だからこそ、通信を開いた。
 そして、その通信を聞いた美空はすぐさまブーストを使用して急降下。
 敵集団前方、やや上方からマルチロックミサイルを連射。
 全能力を使用して放たれたミサイルは凄まじい威力と命中力を持つ。
 だが、敵も何の対策をしていなかったわけではなかった。
 先頭を飛ぶランサーから、プロトン砲が発射。射線上にあるミサイルが全弾とはいかないまでも迎撃される。
 そのまま敵集団と美空は空中で交差。敵はその美空を無視して加速していく。
「接近させるわけにはいかないと言っているであります!!」
 美空は疑似慣性制御により即座に反転。長射程の巡航ミサイルを連射してその後背を突く。
 これは予想していなかったと見えるランサー。その最後尾のランサーに全弾が直撃。
 アルヴァイム、アンジェラも同様。ブーストをかけて低空まで一気に降下。ランサーの動きを押し留めるために攻撃。特にアンジェラは、リンクス・スナイプを使用。固定兵装であるライフルを連射し、その最後尾のランサーを撃墜する。
 その間アルヴァイムは最前のランサーに攻撃。他のランサーが持っていない兵器、プロトン砲の存在によってそれが指揮官機であると判断したためだ。
 だが、ここで一つ問題が発生していた。アルヴァイム、アンジェラが低空へ向かったため高空の外縁部隊の手が薄くなったのだ。
 一気になだれ込んでくるキメラ。内円部隊は正念場だ。
「できれば一度休憩したいんだけど‥‥ダメよね‥‥」
 管制を行いながら、レイミアも必死でバルカンを掃射。キメラを迎撃していく。
「いけー、エルシアン! キメラを消しまくるよ!」
 ソーニャはGP−7ミサイルポッドを放出。マルチロックオンミサイルにより、接近するキメラを同時に迎撃していく。
 内円のヴァガーレは、キメラをマシンガンで迎撃しつつ、アルヴァイムらによってダメージを与えられたランサーを逃さず視界にとらえる。
 撃墜には、まだ少し足りないか。仲間も追ってきてはいるが、速度差が違い距離が少しできている‥‥このまま通せば確実に爆撃される。
「踊り咲こうか僕の友が恋した華よ‥‥!」
 ヴァガーレはブーストを使用しながら一気に低空へ。加えてアサルトフォーミュラーとアグレッシブトルネードを起動。
「狂い廻りて、襲い、呪えぇ!」
 ツインブレイドによる乱舞、蘭六花双柳の間合いまで飛び込む。
 ‥‥しかし、これは悪手。
 ツインブレイドによる1撃を入れると同時に、ヴァガーレのスカイセイバーが大きく弾き飛ばされる。
 そう、相手はランサー。その能力は高速移動と、速度を活かしたFFを纏う体当たり。ヴァガーレはそれを計算に入れていなかった。
 すぐさま機体の態勢を立て直すが、その間にランサーは基地上空に侵入。それぞれ3つ、計9つの爆弾を投下してそのまま駆け抜けていく。
『着弾前に、破壊するであります!』
 美空がそう声を荒げるまでもなく、低空にいた各機は弾幕を張って爆弾の破壊を試みる。
 だが、着弾までの高さが低すぎる。
 9発中2発の破壊にとどまり、残りは基地に着弾を許してしまう。
 尤も、不幸中の幸いというべきか高速移動しながらの爆撃は精密を欠き、主要施設への爆撃は皆無だった。これには能力者たちが事前に重要施設の位置情報を共有しており、そこに向かわないように誘導した結果でもあったが。
 だが、ピンチは続く。
 この時点で高空の敵は未だキメラが10数匹、HWが2機。増援も確認されている。
 特に高空の状況は芳しくない。
 美具はHW1機の突破を許しており、それがすでに爆撃態勢に入っている。
「此処だけは通さないって‥‥言ったよね」
 リズィはレーザーを乱射しながらも、その攻撃がHWの撃破に届かないことを悟っていた。
 だから、機体からの緊急脱出を準備した。
(一人でも多くを‥‥!)
 護る。その為の犠牲に自身もカウントしていたのだ。
 HWから爆弾が投下される。そして‥‥同時に強い光が基地から発せられた。


「‥‥これは、投光器?」
 結果から言うと、リズィは愛機を投げ捨てることにはならなかった。
 基地から発した複数の光が夜空を強く照らし、敵の位置をすべてあらわにする。
 同時に対空砲が起動。すんでのところで爆弾を迎撃する。
『基地の掌握が完了したみたいね‥‥』
 アンジェラがホッと胸をなで下ろしたような声色で通信を送ってくる。
 その通りだった。基地からはすでにバグア勢力が一掃され、いるのは味方のみとなっていた。
 慌てたのはバグア側だろう。光に晒されたHWは次の爆弾を投下する間もなく、撃墜。
 美具が相手にしていたHWは急速後退しつつ煙幕を展開する。
 この煙幕、本来は能力者たちが光源を確保するために打ち上げるなどする照明弾の光を遮る目的で搭載していたものだったのだが、今となっては逃げるために‥‥いや、光に晒された現状では煙の範囲がHWのいる場所を教えている。
 煙に対し十字砲火が放たれ、ばらばらとなった残骸が煙の中から落ちていく。
 残されたキメラは最早これまでとばかりに、散り散りに撤退していった。



「‥‥予想外だな。こうも早く基地内部を掌握されるとは‥‥」
 地上からの投光器。および対空砲類の稼働を確認したゲインはコクピット内で小さく舌打ちをする。
 低空からの奇襲には成功しており、あと3、4発。それだけ落とせれば基地を完全破壊とまでは行かなくとも修復までにかなりの時間を要する段階までは持って行けたはずだったのだが‥‥
「完敗、とまでは行かないが‥‥」
 今回は負けだな、と。その言葉を飲み込み、ゲインは彼方へと飛び去って行った。


 爆煙と、キメラと、HW。それらが去った基地に朝日が射し始める。
「‥‥ねぇ、順平‥‥僕は後‥‥どれだけ惑ろうだろう‥‥?」
 ヴァガーレは仲間たちとともに降り立った基地からそれを見つつ呟いた。それを聞くものは誰もいない。
 今回の戦闘で、機体に損傷を負ったもの。多少のけがを負ったもの等が多数出た。
 だが、それらの治療に関して苦慮する必要はなかった。なぜならば、足元の基地はもはや人類側の物となったからだ。
 傷はそこでゆっくり治せばいい。
 ここに、沖縄軍におけるオペレーション「ノクターン」は幕を閉じた。
 人類側の勝利を以て。