タイトル:【RR】絞り出す戦意マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/01/09 19:44

●オープニング本文



 ロシア某所、バイコヌールへのルート上にその基地はあった。
 山岳部に備えられたそれは採掘と防衛、2つの役割を兼ねている。大量の物資に支えながら人類の攻略を阻んできた。
 UPCはこの基地攻略指揮官に小林竜冶大佐を任命した。
 その旗下に配属されるのは複数軍からなる混成部隊だ。
 小林大佐は早速基地攻略を開始。
 手始めに基地への空爆を行いその防衛施設を壊滅しようと試みる。が、空爆は所定の効果を発揮することが出来なかった。
「対空能力が侮れませんね。アグリッパなども存在していると考えるべきでしょう」
「それだけではない。基地の大半が地下に埋まっているのが原因だろう」
 UPCロシア軍のアレクセイ・ウラノフ、特殊作戦軍の一之瀬・遥、両大尉は失敗に関してそう分析する。
「まぁ理由はともあれ最初の作戦は失敗だねぇ。まいったまいった‥‥」
 にも関わらず、小林大佐は眠たげに、のんびりとした口調を崩さない。
「中佐、君は今後どうすべきだと思う?」
 そう発言を促されたのは欧州軍オレーグ・シードル中佐。階級からも、実質今作戦における副指揮官である。
「単純に考えれば、空が駄目なら地上からということになるでしょう」
「その意見には賛成です」
 そう同意しながらグリゴリー・アバルキン大尉は続ける。
「こちらにも戦力が揃っていることだし、敵基地を四方から取り囲んで一気に殲滅を‥‥」
「いや、それはダメだ。今のまま三方からの攻撃で行く」
 小林は有無を言わせぬ口調でそれを遮る。
「何故です。それでは敵に逃げる余地を与えることになります」
「いいのさ、逃がして。目的は基地に存在する敵の全滅じゃないだろ?」
 確かに、命令は基地の攻略だ。逃げる余地を残すことで敵に撤退という選択肢を与えてやろうという事だろう。
「‥‥四方を取り囲むことで降伏に至らしめるという手もあると思いますが‥‥」
「そうなりゃ敵さん、自棄になって無茶するだけさ。二千年も前からの定石だよ」
 アレクセイはそう提案するが、小林大佐はそれも却下する。その理由として、地下の基地がどの程度の規模かは不明である点を挙げた。
「その基地が自爆すれば取り囲んでいる部隊が足元から纏めて吹き飛ばされることもあり得る、と‥‥」
 小林大佐の言葉を反芻するように呟くシードル中佐。そうなれば、現状で取れる手は他に無いか。
「そういうことだね。それでは予定通り、北をシードル中佐、北西をウラノフ大尉、西を俺と一之瀬大尉で攻める。アバルキン大尉は‥‥」
「‥‥今作戦に於いて我々の出番はなさそうなので失礼する」
 小林大佐が何かを言う前に立ち上がるアバルキン大尉。
 何事か独りごちると、その場を後にした。やれやれと肩を竦めながらも小林大佐はそれを咎めなかった。
 結局、全員が全員納得したわけではなかったが、作戦自体は決せられた。


 北西での戦闘は、アレクセイの指揮の下比較的有利に進んでいると言えた。
 持久戦という都合上被害は確かに広がっている。
「でも、それも許容範囲か。あとはいつ勝ちが決まるか‥‥」
 3方から足並みを合わせた攻撃で戦線はじりじりと上がっている。
 だが、その状況を味方から崩されるとは思わなかった。
「少数部隊での施設への無力化作戦ですか。なるほど‥‥」
『彼らの施設無力化に呼応する形で北の部隊が侵攻を開始する手はずになっている。なので、君の隊もそれに合わせて動いてもらうよ』
「了解しました」
 濃いジャミングの中、ワイズマンを通じて入ったのは小林大佐からの通信だった。
 作戦の成功そのものには若干の疑問が‥‥無いとは言えない。が、外から崩せないなら中からというのもまた道理。
「持久戦の方が無難な作戦ではあるとは思うけど‥‥」
 疲労がたまればミスが出る。そうなれば不要な被害が出る。一気に形勢を決めるこの作戦自体は悪くないだろう。
「できれば、あの会議の段階でこの案を提示してほしかったな」
 そう言いながら、アレクセイは方針を一時的に攻撃から戦線の維持に変更する。
 これから発生しうる攻勢に備えて補給と整備を行わせるためだ。
 その間の戦線維持は傭兵部隊に一任した。
 傭兵部隊は未だ余力が残っているというのが最大の理由だが、傭兵たちであれば少数でも問題なく作戦行動を行えると考えたためだ。
 だが、状況は再び‥‥今度は間違いなく悪い方向に変化を迎える。
「北の部隊が突撃を開始したって? 予定よりずいぶん早いみたいだけど‥‥」
「ワイズマンに通信が入ってきました。間違いありません」
「早まった真似を‥‥」
 北の部隊を指揮してたのはシードル中佐だったはずだ。
(それほど状況を見れない人ではなかったはずだけど‥‥何かあったのか)
 だが、理由を考えている時間は無い。こうなると、北から押された敵が隣接する北西の戦場に流れ込んでくる恐れがある。そして、流れ込んできた敵が補給も満足に終わっていない状態の味方を、負傷者と陣地ごとまとめて食い荒らしていくと。
「まったく‥‥楽しい未来予想図だね‥‥」
「冗談を言ってる場合ではありません、一体どうするんですか!?」
 パッと思いつくのは、補給を打ち切って全機を前線に投入すること。
 だが、残念ながら補給と修復を行っている正規部隊。彼らは練度はともかく機体性能の面で傭兵部隊と大きな隔たりがある。
 それを整備途中、補給も不完全な機体が流れ込んでくる敵を押し留められるのか。いや、難しいだろう。
「‥‥補給急いで。但し、予定通りの量まできっちりと」
 少し考えてからそう言うと、アレクセイはワイズマンの下へ走り出す。そして、その特殊能力であるハイコミュニケーターを使用。前線の傭兵に連絡を入れる。
「君達には戦線の維持をお願いしたはずだけど、状況が変わった。北の部隊が予定より早く侵攻を開始した為、こちらも全面攻勢に出てもらうよ」
 他の部隊が攻勢に出ているのにこの方面では攻勢に出ない。それはこの方面に戦力がないからだ。
「そう思われてしまってからでは遅い。敵の大群が押し寄せてくるだろう。それを食い止めるためにも、ここで動かなわけにはいかない」
 アレクセイは続ける。
「余力が無いのは承知してるつもりだ。こちらでも補給を急がせてる。けど、部隊がそちらに辿り着く前に戦線が崩れたのではしょうがないんだ」
 敵が流れ込んで来たら、その全てを押し留めるのは傭兵たちでも難しい。彼らもそれは分かっているだろう。
「だからこそ、北の部隊と呼応して戦線を上げることで、これが予定通りの行動だと思わせるんだ」
 そうすることで敵にこちらを突破しようという気を起こさせない。それがアレクセイの狙いだった。
「難しい作戦だとは思う。だが、可能な限り被害を抑えるには結局君たちにお願いするしかないんだ。頼んだよ」
 こうして、傭兵たちは乏しい余力の中、迫りくる敵に対し攻勢に転じることを余儀なくされた。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
禍神 滅(gb9271
17歳・♂・GD
夢守 ルキア(gb9436
15歳・♀・SF
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
レインウォーカー(gc2524
24歳・♂・PN
ハンフリー(gc3092
23歳・♂・ER
巳沢 涼(gc3648
23歳・♂・HD
クローカ・ルイシコフ(gc7747
16歳・♂・ER

●リプレイ本文


「この状況で攻勢に出ろだぁ!? ったく、とんでもねぇ貧乏くじ引いちまったぜ」
 コクピットの中でそう呻くのは巳沢 涼(gc3648)だ。彼の機体は銃器しか搭載していない。その弾数も約半数程度まで落ち込んでおり、ここからさらに攻勢にでるには厳しい状態だった。
 それは、弾数のマネジメントを行っていた美具・ザム・ツバイ(gc0857)も同じだ。
「楽な作戦で終わるかと期待しておったが、やはりこうなったか」
 美具の言う通り、戦線維持だけであればそう難しい作戦ではなかっただろう。
 だがそれでも、命令は命令だ。
「‥‥銃器の残弾も残り少なくなり、機槍の切っ先も鈍ってきたこの機に及んで攻勢に出ろとは‥‥」
 無茶を言ってくれるものだ、と。榊 兵衛(ga0388)はその言葉は心にしまう。無茶なのは誰もが承知していることだろう。
「まさに命懸け‥‥道化にふさわしい舞台だねぇ」
 兵衛とペアを組むレインウォーカー(gc2524)。
「だったら、全力で踊るだけさぁ」
 そう言って、練機刀を振りかざす。ジャミング下故に、その言葉は雑音交じり。だが意図は十分に伝わっただろう。兵衛も同様に槍を構える。
 その通り。こうなった以上は戦うしかないのだ。
「うーん 戦線の押し上げは必要だと思うけど‥‥」
 禍神 滅(gb9271)は残弾のチェックをしながら、これからの厳しい戦闘を思いながら横の機体へと目を向ける。
 そこにいるのはヴァダーナフ、ハンフリー(gc3092)の機体だ。
「とにかく、単独行動は厳禁だ」
 ジャミング下では無線による会話も途切れ途切れだ。精度の高い連携は難しいかもしれない。とにかく、一人で行動していては敵に群がられる。
「来た‥‥!」
 夢守 ルキア(gb9436)が逆探知機能により敵の前進を感知する。ジャミング下ゆえに正確さにはやや欠けるが、それらは多数のキメラ。そして、何機かのHWも含まれているだろうと予測された。
「そのまま敵の出所の探知、頼むよ! 空さえ飛んでればそんなのすぐに見つけられてたんだけどな‥‥」
 クローカ・ルイシコフ(gc7747)は舌打ち交じりにそう言った。
 とにもかくにも、こうして8人は2人1組のペアを構築しながら前進を開始した。


「まずは、敵を散らすとするかの」
『了解、こちらも対空榴弾で続く!』
 美具・涼組が、まずは前衛の道を切り開く。
 広範囲を攻撃可能な2種の榴弾が山沿いに飛び、キメラの集団がいる地点へ着弾。多数のキメラが焼き払われていく。
 それを見た兵衛・レインウォーカー組。
 この組は、どちらも前衛思考。
 機体の装甲を活かして前に出る兵衛。キメラの群れに対して機関砲による弾幕で薙ぎ払う。
 それに追従して並ぶように前に出ていくレインウォーカー。
「さて、どっちの方が効果があるねぇ?」
 レーザー砲、ハンドガンを交互に撃ちこむ。威力は‥‥レーザー砲の方が出ているか。ジャミングはきついが、キューブワームの様に非物理兵装の出力が低下するという事は無さそうだ。
「寄らば斬る!」
 その弾幕から抜けてきたキメラを、兵衛は機槍で一閃。キメラは瞬時に薙ぎ払われるが、その合間を縫って、突撃してきたのは陸戦型HW。
 コクピット内で舌打ちしながら、返す穂先で逆に斬り払う。
 横に大きく振られたHWは、それを待ち構えたレインウォーカーの練機刀で斬り伏せられる。
「やっぱり、出力が落ちてきてるみたいだねぇ‥‥」
 ブラックハーツを起動したうえでの一撃は陸戦型HWの装甲を斬り裂く。その一撃でHWは機能を停止したようだったが、彼が想定した程のダメージは与えられていないようだった。
『それは、こっちも同じだがな』
 至近距離からの無線で兵衛の声がかすれて伝わる。見ると、機槍の穂先はキメラの血糊にまみれ、その刃も幾分か欠けているように見えた。
「うーん、弾数が気になって仕方がないよ」
 滅・ハンフリー組。滅は長距離機銃でキメラを順当に掃討していく。山岳部だからこそ、その移動可能範囲はそこまで大きいものではない。距離があるうちに潰していくのが妥当だ。
 その間ハンフリーは近距離に入ってくるキメラを迎撃する。加えて周辺の索敵。
 すべてのキメラ排出口が見える位置にあるとは限らない。その考えはまさしくその通り。キメラがこちらに向かってくるルートはまちまちであり、大小複数の排出口が存在しているであろうことは明白だった。
 そして、同様迎撃装置も‥‥
「‥‥なっ!」
 周囲に目を凝らしていたからこそ、一瞬早く気づけた。それまで何もなかったであろう岩塊から不意にレーザー砲がせり出し、遠距離へ攻撃を行う滅を狙っていた。
 ハンフリーはすぐさまそれを機槍で破壊する。そこまで耐久性は無いのか。
 だが、迎撃装置はそれだけではない。すぐさま別の位置で、今度はロケット砲か。それがせり出してくる。
 射程はやや遠い。すぐに迎撃とはいかない。
「まいったのぅ‥‥」
 美具はせり出してきたガトリング砲を防御しながら、呟く。
 敵の迎撃装置は多数。しかもその射程はかなり長いようだ。
「このジャミングがどうにかならないとしょうがねぇなぁ!」
 涼はマルコキアスでその迎撃装置を破壊する。
 隠されていたとしても、レーダーで位置を特定できないものではないのだがこのジャミングがそれを阻む。
『逆探知でどうにかならないの?』
「ちょっとジャミングが強すぎるかな‥‥」
 クローカの問いに、足元のキメラを撃ちながら答えるルキア。HWは他が押さえている。キメラ相手なら苦戦はしない。だが、このどこにあるかも分からない迎撃装置は傭兵たちの足を止める原因となっている。
『‥‥ハンフリーさん!』
「しまっ‥‥!」
 先程同様、滅を狙った迎撃装置を破壊したハンフリー。だが、その背後から新たな迎撃装置‥‥ロケット砲が、今度はハンフリーを狙っていた。
 ハンフリーは簡易ブーストを起動して対応。振り向くとすぐさま機槍を盾にし、その攻撃に備える。
「‥‥?」
 だが、何も起こらなかった。
『大丈夫!?』
「あ、あぁ‥‥しかしどうなっているんだ、それに‥‥」
 滅が言った大丈夫という言葉は、無線を通じて、はっきりと聞こえた。先ほどまでのジャミングがまるで嘘のようだった。
「これは‥‥」
『うん、多分別働隊の破壊工作が上手くいったってことだネ』 
 ルキアの予想通り。
 この時、多少の犠牲があったものの基地への破壊工作は成功を収めていた。
 これにより、ジャミングが消失、迎撃装置もその機能を失っていた。


 レーダー上には無数と言ってもいい程の反応が生まれていた。
「この、反応が固まっているところはキメラの排出口だね」
『了解。そのまま情報支援、頼んだよぉ。クローカもルキアの護衛しっかり頼むよぉ』
「分かってるさ!」
 ルキアから敵キメラの排出口に関するデータが転送される。それを見てレインウォーカーはルキア、そして彼にとっての弟分であるクローカにそう告げた。
 もはや敵となるのはキメラと、少しのHWのみだった。そのキメラを掃討しながら、傭兵たちの進軍速度は上がっていく。
 それにしても‥‥
「こうして、実際にレーダーで確認すると、すごい数だ‥‥」
 クローカが思わずそう呟く。アグリッパにこれらが統制されているとすれば、空を飛んだ場合どうなるか‥‥今は起動していないのが救いと言えば救いだろうか。
「‥‥よし、あの位置だねぇ」
 ルキアからデータを受け取ったレインウォーカー。最も信頼できる相棒からのデータに狂いはない。
「まとめて薙ぎ払う。巻き込まれるような間抜けなことはするなよぉ」
『了解している、安心してやってくれ』
 レインウォーカーはそう兵衛に警告しつつ、キメラ排出口を向く。
「嗤え」
 言葉と共に放出される強力な電撃、そして光波。必殺の真雷光破が発射される。強力な非物理範囲攻撃に晒され、キメラはゲートごと一挙に消滅する。いや、その中から1機、HWが飛び出してきた。尤もそれも虫の息ではあるが。
「状況は良くなったが‥‥無駄弾は撃てんからな」
 そのHWに対し、兵衛が飛び出し、機槍を突き刺す。槍はHWを貫き、そのまま爆散せしめた。
「向こうは派手にやっとるようじゃな」
『あぁ、こちらも負けてられねぇな!』
 見ると、敵基地のゲートが視界に、やや霞みながらも入っている。そして、その方面から新たに数機のHWが降りてきていた。
「よし、虎の子の徹甲弾だ、遠慮せずにとっとけ!」
 発射された対FF徹甲弾を、HWは回避。さすがに間合いが遠いか。反撃のプロトン砲が発射される。機動性の点では難があるゼカリアだ。この攻撃は直撃コース‥‥だった。
 しかし、それは正面に立った美具が、盾を使って受け止める。
「たまには姉妹のいう事もきいてみるものじゃな」
 姉妹からの推薦で固めてkたい防備がここで役に立つ。
『助かった! ‥‥今度は外さねぇ!』
 必中の気合と共に再度発射された徹甲弾は、今度こそHWに直撃。そのまま機能停止へと追い込んだ。
 その間も、各所からキメラは傭兵たちに向かってくる。それを押し留めるのは滅の放つアサルトライフルによる弾幕だ。機体能力である自動支援機能は十全に効果を発揮し、数字以上の効果を上げていく。しかし‥‥
「‥‥弾が切れたか。後は近距離用の機銃だけになるよ」
『了解した。私はキメラ排出口を狙う。その間援護を頼む』
 そう言うと、ハンフリーは元を断つためにキャノン砲を構える。
「喰らえっ!」
 3連射された対空砲弾は、本来命中精度自体は高くない。だが、それでも動かない目標を狙うには十分。3発ともが命中し、排出口が破壊される。
「よし、次だな」
 こうして、数分をかけて周辺の排出口と、もはや動かなくなった迎撃装置を破壊する。
 そして‥‥
「‥‥来た! みんな、援軍だよ!」
 ルキアの言葉通り、下方には山を登ってくる一団が見えた。
 4機のニェーバを先頭にした正規軍の部隊だ。
「やれやれ‥‥待たされた分報酬上乗せしてもらうからね?」
『すまなかった! 後は俺達に任せておいてくれ!』
 クローカの言葉にそう答えた正規軍部隊は、そのまま基地ゲートへ向かい侵攻。
 傭兵たちはそれと入れ替わる形で下山、陣地へと戻ることになった。


 しばらくして、アレクセイに報告が入った。
 敵基地ゲートを制圧。周辺のキメラ排出口及び迎撃装置の破壊を確認。
 そして‥‥傭兵部隊の全機生存。
「これで戦線は上がり、この戦域の状態も安定、と‥‥まぁ、当然の結果かな」
「‥‥つまり、この結果は予想していたと、そういうことですか」
 アレクセイの呟きに本陣のオペレーターが反応した。
「予想できるほど楽観視できる状況じゃなかったよ。ただ、彼らなら‥‥そう思ってただけさ」
「その割には、傭兵の作戦にずいぶん苦言を呈していたようですが?」
「‥‥あぁ、飛行形態での作戦行動のことか。むざむざ貴重な戦力を減らすわけにもいかないだろ?」
 作戦開始前、アレクセイはクローカ、ルキアの2人からある提案を受けていた。それは、自分たちが戦域に飛行形態でそのまま入り、航空支援を行うというものだった。
 だが、アレクセイはそれを即却下。地上から行くか、あるいは出撃を認めないかのどちらかだ、とまで言い放った。
「何故爆撃が成果を上げられなかったのか。何故わざわざ地上からの包囲作戦を展開することになったのか。そこを考えれば当然のことなんだけどね」
 アグリッパの影響がある戦域での飛行がいかに危険か。それが、あるいは彼らには分かってなかったのかもしれない。
 防衛装置の数などを考えると最初から飛んでいれば作戦領域に入った時点で集中砲火を受けるだろう。匍匐飛行を行うなら、バランスを崩して岩肌に激突、高度を取ればそのまま砲火が集中。どちらにせよ即撃墜。今頃この本陣の医療ベッドで仲間たちの帰りを待つはめになっていただろう。
「飛行するメリット自体は分かるけど、やるなら破壊工作が成功した後だったろうね」
 ただ、それを置いてもアレクセイは傭兵たちの能力を、元から高く評価していた。
 そして、厳しい命令を下したにも関わらず、それを十全にこなした傭兵たちは、彼の期待に十分こたえたといえるだろう。
 こうして、北西の戦闘は人類側が十分な成果を上げることに成功した。
 だが全体の成功については、他の戦域からの報告を待つことになる。