タイトル:デブリに潜む残光マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 6 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/02/14 10:47

●オープニング本文



「それじゃ、こういうのもおかしな話だが‥‥元気でな」
「ゲインさんも‥‥お達者で‥‥」
 デブリに身を隠す大型BF。そこから一隻の輸送艦‥‥デブリに遺棄されていた艦を簡易的に修理したもの。それが発進した。目的地は崑崙。そこに乗せられていたのは多数のバグア側兵士。今はその前に「元」という一字が当てられる。
 バグア側兵士といっても、その大部分は強化人間となっていない整備兵や、大した戦果を挙げていない強化人間等。つまり、まだ人の側に戻れる兵士たちだ。
「さて‥‥これからどうするか‥‥」
 今BFに残っているのは、グリーンランドからゲインの下についていた者、沖縄戦線に初期から参加し、山城カケルの旗下についていた者。こういった、すでに人の道に戻ることを断たれた者たちのみ。
「俺達がこれから取り得る道は3つ。バグアの下に向かいその庇護を求めるか、このままのたれ死ぬか、あるいは‥‥」
 戦う。
 無意味な戦闘でその命を散らす。
 それぐらいしかなかった。
「本星のバグアに庇護を求めるものがいたら、HWを出すからそれに乗って行け。強化人間って奴にはあまり時間がないからな。決断は早くしろよ」
「‥‥ゲインさんはどうするんですか?」
「俺か? 俺は‥‥」
 言われて、ゲインは考え込む。
 正直、この期に及んではやることなんて特にない。部下位は生き残らせてやろうとあの手この手を尽くしてきたが、今この場にいるのは、言ってしまえば死期がすでに確定している連中だ。もはや部下に対する責任うんぬんは考えなくてもいいだろう。
 だから自分自身は、のたれ死ぬのもまぁ人生の締めくくりとしては悪くないと思っている。
 思えば色々とひどいことをしてきたものだ。生き延びるためとはいえ多数の人間を殺めてきた。グリーンランドしかり、沖縄しかり、四国しかり‥‥
 ‥‥ふと、頭によぎった人物がいた。何時もツナギを着て、勝手に人の乗機を改造してばかりいたあの人物。
「‥‥弔い合戦‥‥」
 ぽつりとつぶやいた言葉に、その場にいた誰もが顔を上げた。
「すでに死んだカケル様の弔いにひと暴れして、それで終わりにするか‥‥」
 誰にともなく言ったつもりだったが、それによってBF内が俄かに活気づいた。
「それじゃ、ティターンも出番ありますね。早速、整備を始めます」
「弾薬の補給等をどうするか考えないといけませんね。デブリ内なら使えるものもあると思います」
「‥‥やれやれ、ここにいるのは馬鹿ばっかりか」
 急にやる気を出し始めたクルーを見て、ゲインは苦笑した。
「やるなら、しっかり準備を整えてから行きたいものだな。各自作業を始めてくれ」
 このデブリ帯ならしばらくは時間が稼げるだろう。
 攻撃目標の選定やら、作戦の立案など、やるにしても多少の時間は必要なのだ。そして、やるならば納得いく戦いを。
 それはきっと、全員の願いだっただろう。


 エクスカリバー級巡洋艦「アヴローラ」
 最終決戦をしぶとく生き残ったこの艦は今、デブリ掃除の最中だった。
 Gブラスター砲はシステム的な封印を施されて使用不能。G5弾頭どころか、ただのミサイル一発も装備していない。戦闘になった場合は未だ残されたレーザー砲で対処することしかできない。
「戦争が終わったからと言って、巡洋艦の装備としてはさびしいものだ」
 現在地上に降りている艦長の仕事を代行しているボロディン少尉は小さく呟いた。しかし、時代の流れには逆らえない。いずれ主砲であるGブラスター砲も完全に撤去されることになるのだろう。軍人としてはどこか寂しい気持ちが拭えなかった。
「‥‥艦長代行、ちょっとこの反応を見てください」
「ん、どうした?」
 ボロディン少尉は、オペレーターに促されレーダーを確認する。そこには一つの重力波反応が見られた。
「この方面に‥‥『敵』がいるという報告は受けていないが‥‥」
 敵、と‥‥ボロディン少尉はあえてそう呼称し、目標の映像を出させる。
 そこに映っていたのは、大型のBF。目的は分からないが、デブリに潜伏していたのだろうか。
 そこから、数機のHWが出てきているのが確認できた。
「データ照合‥‥四国戦線で確認された改造HWです!」
「どうしますか、艦長代理?」
「どうするって‥‥逃げるに決まってるだろ!」
 大型BFにHW。あの規模の戦力相手に現状の装備では太刀打ちできない。それは明白だ。
「急速回頭、全速で戦闘宙域を離脱する! 艦長がいない間にアヴローラを落とさせるわけにはいかないぞ、分かってるな!」
 BFの方は動いてこない。恐らくは敵も戦闘準備が万全ではないのだろう。デブリから抜け出せばわざわざ追ってくることもないはずだ。
(デブリを抜けるまで最速でも3分はかかるか‥‥それまで何とか持ちこたえなくては)
 頼みの綱は、作業に従事していた傭兵だ。
 デブリの掃除という任務上その装備は最低限のものだけだったが、それでも自衛位は出来るようになっている。防御に専念すればどうにかなると、ボロディンはそう考えていた。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
ソーニャ(gb5824
13歳・♀・HD
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER

●リプレイ本文


「まだ残っているのかね、全て滅んでしまえばいいのにね〜」
 ドクター・ウェスト(ga0241)は迫るHWに目線を向け呟いた。そして、その更に後方、小隕石群の陰から見え隠れしているのは大型のBF。
「相手はランサーですか‥‥そして、あれだけの武装をしているBFはあの時の船に違いないですね」
『ああ‥‥まさかこんなところで遭遇するとはな』
 ヨハン・クルーゲ(gc3635)、榊 兵衛(ga0388)は通信で言葉を交わす。彼らはその艦影に見覚えがあった。
 あれは間違いなく、山城カケルが沖縄、四国での戦闘において旗艦としていたBFだろう。
『そうなるとあれに乗っているのはカケルの部下‥‥か。名前は‥‥』
「こんな‥‥こんな空域に隠れておったか! ゲイン・クロウ!」
 赤崎羽矢子(gb2140)の想起したものと、美具・ザム・ツバイ(gc0857)が叫んだ名前は同一だった。
「ゲイン‥‥? ああ、最近仲間を投降させたり逃がしてるって‥‥」
 ソーニャ(gb5824)はコクピット内で呟く。
「それが、こんな無意味な戦いを仕掛けてくるなんて‥‥」
 言いながら、ソーニャはなんとなく知覚していた。
 あるいは、デブリという藪に隠れていたところをつついてしまったのはこちらなのかもしれないが‥‥
(死に場所を求めるってのも、それほど無意味なことだとは思ってないんだ)
 きっと、そういうことなのだろう。
 だからこそ、死兵となった敵は‥‥強い。
 傭兵たちは少ない装備を手に、各個に迎撃を開始した。


 アヴローラに向かって突撃してくるHW。対し、アヴローラも軌道変更を完了。全速で戦域を走る。しかし、障害宙域にいる間は全速と言いながらもそれほどの速度を出すことはできない。
(頼むぞ傭兵‥‥)
 艦長代理を務めるボロディン少尉は、艦の指揮をとりながら口中で呟いた。
 現状の武装では改造HWの相手は厳しい。出来うる限り早く離脱したい。それはアヴローラのクルーのみならず、傭兵たちの共通認識であった。
 特に美具はその意識が顕著か。何しろ彼女の武装は煙幕5発のみ。宿敵と目する相手がいるであろうBFを見つけたにも関わらずこれではどうにもならない、と。嬉しさと悲しみの混在した慟哭をコクピット内で彼女がした‥‥か、どうかは分からないが。とにかく美具はアヴローラ側に持ち替える予定だったデブリの投棄を行うように伝達した。但し、半分だけ。美具には策があった。
「こちらは前に出て敵の接近を食い止める。艦の防御は任せるぞ!」
 その間に、言うが早いか、歩行形態で飛び出していくのは兵衛。
 ブーストを使用して速度を増すとともに、デブリを利用して敵の射線を避けるように接近していく。
 同様に前に出ていくのはソーニャ。
 高速で飛びまわることで攪乱するのが目的。加えてデブリの陰に潜む敵を見つけるつもりだった。
 だが、敵の第1陣、10機のランサーは‥‥なんら隠れることをしない。10機である程度固まり、最短ルートを突っ込んでくる。
「‥‥あくまで狙いは艦の方ってこと?」
 戦域を広域でカバーしようとしたソーニャ。伏兵への対応を企図したものだっただろうが、そのことが裏目に出る形になった。
「くっ、こちらは無視か‥‥!」
 兵衛はデブリの影を利用してライフルを連射。その動きを掣肘しようとしる。だが、狙った一機は数発の被弾を受けながらもそのダメージを無視するかのように駆け抜ける。
 ならばと兵衛は突っ込んでくるランサーのルートに割り込むように、正面からライフルを連射。
 ランサーは自分から弾幕に突っ込む形になって多数の被弾を浴びる。その、ランサーの周囲に強い光。FFを纏った体当たり。目の前に障害があると判断したのか。
 だが、兵衛はその突撃をブーストを利用した軌道によりギリギリで躱し‥‥刹那のうちに側面からライフルを撃ちこむ。その様子はさながらスペインの闘牛士と言ったところか。
 突っ込むだけのランサーはその直撃により機能を停止する。
「まず1機‥‥他は‥‥?」
 だが、その間に残った機体はアブローラへ一直線に向かっていった。


「けっひゃっひゃっ、さぁ来たまえ〜」
 向かってくるランサー。それに対しドクターは高出力の練機剣を構える。
 デブリ掃除には大凡不向きであろう武器ではあったが、ドクターはわざわざこれを利用して器用に作業をこなしていた。
 それが味方に対する‥‥一種の不信感からくるものだったのかはドクターしか知る由はないが、とにかく持ってきて正解だったと言わざるを得ない。
「敵は直進か‥‥厄介ですね」
 ヨハンは周辺のデブリ、隕石を敵のルート上に向かって蹴り飛ばす。
 進路を妨害するつもりだ。だが、次にはそれがあまり効果を為していないことを知る。
「‥‥そうか、邪魔な障害はFFでぶち抜いてくるというわけですか」
 敵進路上に立ちはだかったドクターも、同様に障害物認定したのか。FFを纏って突撃してくるランサー。それに対しドクターは、装甲が飛び散らないように注意しながら天の特殊能力であるD.Re.Ssを起動。それを囮にする腹だ。
「コレはまた、大きなデブリだね〜」
 パージした装甲。それをランサーは易々と弾き飛ばしていく。だが、その装甲の先に置くように構えていた、練機剣はそうはいかない。高速で突撃してくるランサーはその鋭い刃に自らを捧げるように進み、後には横一文字に両断された機体のみが残った。
「さぁ、次だね〜!」
 ドクターはそのまま次の目標へ剣を振りかざす。
 だが、その間にも敵はアヴローラへ。敵の絶対数の方が多い。
「くっ‥‥そう簡単にやらせるわけには‥‥」
 ドレイクの機動性を活かし、その後方から追撃するヨハン。敵の速度の方がわずかに速いか。しかし、ヨハンの武器は長射程のレーザーライフル。直線的な動きの敵を狙撃するのはそう難しくない。
 3連射でランサーに3つの風穴を開け、撃墜。
「しかし、敵も動きが速いですね‥‥敵に抜かれました、迎撃お願いします!」
 そう無線に告げるヨハンは、そのままライフルをリロード。その横を艦から離れ遊撃に出ていた仲間が駆け抜けた。
 

「む、敵が来たか‥‥準備は良いか!」
『こちらは大丈夫だ』
 敵にダメージを与える兵装を準備していない美具。だが、この状況では何かしないわけにはいかない。
 美具はアヴローラ側からの返答を聞いてから、HWの接近を待ち煙幕を展開。
「よし、今じゃ!」
 次いで、アヴローラ側から残っていたデブリを全て投棄させる。
 これが美具の策。
 デブリにより敵の進行を妨害することに加え有人機であれば衝突によって怯ませることを狙ったものだ。
 確かに、有人機であったら効果は見込めただろ。だが、策にもひるまず突進してくる敵。あの迷いの無さはおそらく無人機だろう。
「来たね‥‥ターゲッティングはあたしがやるからそれに合わせて。敵が艦に近づく前に撃ち落とすよ!」
 羽矢子はそう言いながらも、電子の性能を活かした情報処理補助から自身の武装を活かした迎撃まで。多数の仕事を同時にこなしていく。
「少しでも、時間を稼がねば‥‥」
 美具が煙幕を撒きながら敵の行動を阻害しようとする。これは煙幕からの二次攻撃を行うブラフでもあったのだが、やはり無人機にはあまり効果は為さないか。
 むしろ、煙幕に敵が飛び込むと視界がふさがれてしまう分味方の攻撃にも影響が出て島ている点は失策だったかもしれない。
「煙幕から出てくるよ! 砲台よろしく!」
『了解!』
 羽矢子の言葉通り、飛び出してきたランサーはレーザー砲台の集中攻撃を受けて撃墜される。
「よし、次左方!」
 撃墜を確認しながらも、羽矢子は次々に指示を出す。
 だが、敵は多数。さばききれるものではない。
「ぐっ‥‥!」
 艦橋のボロディン少尉が衝撃に顔を顰める。
 一機のランサーが艦後部のブースターに体当たりをしてきたのだ。
 艦の直衛が少なかったのか。さらに2度、3度と艦に直撃を受ける。
「くそ‥‥このままじゃ‥‥」
 唇を噛みながらも、羽矢子は目前の敵に対する。
 羽矢子の行動はアヴローラの被弾軽減に間違いなく貢献していた。
 だがあるいは‥‥艦の前方に残存しているデブリなどを排除し、アヴローラの航行ルートを確保するなどしていればもう少し状況もましになっていたか‥‥それとも直衛の機体を重視すべきだったか‥‥
 そんなことがふと頭によぎる間にも別方からの敵が‥‥
「やっと追いついた‥‥ここまでだよ」
 しかし、その攻撃を妨害するように撃たれたのは、ソーニャからのレーザー。艦から離れていた4機の中で、最も遠かったソーニャが最も速くランサーに追いつけたのは、一重の彼女の乗機、エルシアンの速度故か。
 そのままソーニャはレーザー砲を連射。アヴローラからの援護にも助けられランサーは撃墜される。
「これ以上はやらせませんよ!」
 さらに、ヨハンによる狙撃。それによって敵の態勢が崩れたところに、追い縋ってきた兵衛がランサー後方にライフルを連射。敵の狙いが艦なら、その攻撃も予測は可能。そして、その機動も。
「これで止めだ〜!」
 最後に追いついたドクターによる強力無比な斬撃が、ランサーを斬り捨てる。


 こうして、傭兵たちが集結したことで戦力バランスは大きく傭兵側に傾く。それとほぼ同時に、アヴローラは障害宙域を抜けた。
「よし、SES最大出力! 一気に崑崙方面へ離脱する!」 
 同時に、傭兵たちに一斉離脱の命令が下る。
『了解したのじゃ‥‥ドクター!』
「時間かね〜。了解了解」
 未だ残るランサーに刃を向けていたドクターはそう言うと全アーマーをパージ。装甲を犠牲にしながらではあるものの、その機動性は極限まで上昇する。
「次はコウは行かないぞ〜!」
 ドクターはそのまま急速後退。「けっひゃっひゃっひゃっ〜!」と笑い声を残しながら美具の放った煙幕弾の中へと飛び去る。
「殿は私が務めます。皆さん離脱を」
『分かった‥‥敵指揮官! 次の機会があれば今日の雪辱戦を挑ませてもらうぞ。カケルの敵を討ちたいなら、この俺を墜とすことだ』
 ヨハンの言葉に返事を返しながら、兵衛はオープン回線でそう通信を行う。
 返事は‥‥無い。無論、兵衛も返事を期待していたわけではないだろうが。
 こうして、傭兵たちは撤退していく。残されたランサーと、その母艦であるBFは‥‥それ以上の追撃を行わなかった。


 この戦闘でアヴローラは損傷率40%を超えた。それでも、何とか航行できる状態を維持しているだけでも良かった、と‥‥そう思う程度には困難な状況であった。
「‥‥カケルは最後まで戦った‥‥あなた達もそれに殉じるつもり?」
 そのアヴローラを臨みながら、羽矢子は口中でそう呟いた。
「もし、そうなら‥‥」
 カケルと最後に戦ったものとして全力で応える。
 これはソーニャ等も同様の思いだったかもしれない。
 そう、彼らの想いが、命が‥‥他に行き場がないのなら。
「‥‥幕は、あたしが引く」
 そう決意していたのは、あるいは彼女だけではなかったかもしれないが。