タイトル:雪原の決着戦マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 難しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/03/13 11:30

●オープニング本文



「辞令、ですか。ロシアでの戦闘も落ち着いたとは言えない状況なのに」
「まぁ確かにそうだ。だが‥‥正直後はバイコヌールと残党狩りを残すのみだ。それよりも、少々宇宙がキナ臭くなっていてな」
 アレクセイ・ウラノフ大尉はヤクーツクで辞令を受けとりながら上官の話に耳を傾ける。
 上官が言うには、アレクセイが艦長を務めている(尤も、地上に降りている間は副官に操艦は任せてあるが)アヴローラが、先月の中ごろ敵と遭遇したそうだ。それらはかなりの戦力で、練度も高い。その後討伐部隊を編成したが、これも数度にわたって撃退されてるらしい。
「それは‥‥穏やかではありませんね」
「そこでだ。また君には宇宙に戻ってもらい、その手腕を振るってもらおうと‥‥どうしたのかね、ウラノフ大尉?」
 ここで、上官はアレクセイが浮かない顔をしているのに気付いた。
「‥‥その命令なのですが、一時保留していただくわけにはいかないでしょうか」
「ふむ。理由はあるのかね?」
「先日の狼たちの件です」
 狼たち、とは先日基地を襲撃してきた人狼型キメラとその取り巻きである狼キメラたちのことだ。傭兵たちの活躍により、アトスと呼ばれた人型キメラは片腕を失っている。
「つまり、戦闘の影響が残っているうちに襲撃して、その戦力を壊滅せしめたいと。そういうことか」
「はい。攻撃されたのはロシア軍基地ですし、落とし前は付けた方がいいでしょう」
 少しの沈黙の後、上官はアレクセイの意見を取り入れることにした。 


 数日後、グリーンランド・タシーラク北に位置するギュンビョルン山。
 山の麓には多数の能力者が集まっていた。
「目的はここか‥‥」
 その様子を、ガウルは偵察に出した狼から聞いた。
「申し訳ありません。私が追跡されたのやも知れません」
「いや‥‥グリーンランドの中でこの山の周囲だけ狼が多い。その異常さに気づくやつもいい加減出てくるだろう。貴様の責任ではない」
 片腕を失った人狼、アトスが謝罪するが、ガウルはそれを気にするそぶりを見せない。
「こうなれば‥‥少数精鋭で敵の本陣を直撃するしかないか」
 敵は数を集めてこちらの本拠地の正確な場所を探り当てるつもりだろう。つまり、その間敵は散り散りになっているはずだ。その間に本陣が襲われれば指揮系統が一気に混乱。あとは散開している敵を各個撃破した後、この山から撤収するだけだ。
「メンバーはアトスと、調整中の2体。それと‥‥私も出よう」
「ガウル様自らですか? そこまでしなくとも‥‥」
「貴様の腕が無くなったのは誰によるものか‥‥侮るわけにはいかん」
「‥‥承知しました」
「よし、それではすぐに準備を始めろ!」
 ガウルの号令一下、狼たちはそれぞれ準備の為に動き出す。
 その様子を見ながら、ガウルは目を瞑り考える。
 そう。いずれはこうなるであろうことは予測できていた。にもかかわらず、このグリーンランドに拘り、居座っていたのはなぜか‥‥
 ふと、ガウルの脳裏に少年の顔が浮かんだ。
「‥‥くだらんな」
 その顔をかき消すかのように、ガウルは軽く頭を振った。


 その麓では、アレクセイが敵捜索の指揮を執っていた。
 能力者兵で構成された数名ずつのチームが、現在山狩りを行い敵の本拠地を探っている。だが‥‥
「全体の数を考えると‥‥恐らくこちらが多いだろう。となれば、敵は状況を打破するために、本陣であるここを狙ってくる。それは間違いない」
 その本陣で、アレクセイは一人呟く。その時はすぐ迫っているだろう。
 味方は分散している。この場にいるのはアレクセイただ一人。あえて一人になった。敵が攻撃してきやすいように。出てくればあとは‥‥あそこにいる能力者たちが気づかれなければ準備万端だ。
 そう思い、アレクセイが陣地後方に置いてある車両に目を向ける。
「!?」
 瞬間、その真横を極太の閃光が奔った。その光は車両を直撃。エンジンがやられたか、すぐさま車両は爆発、炎上した。
「今のは‥‥プロトン砲か!? まったく厄介な能力を持つ‥‥」
 射線を辿った先。そこには今のプロトン砲を放ったであろう大型の狼の姿。
「あえて一人になって、私たちをおびき出す囮になったか。だが、甘いな、人間!」
「くっ‥‥角の生えた、喋る大型狼‥‥君がガウル、か‥‥」
 さらに、それを守るように3体の人狼。一体は見覚えがある。アトスだ。
「さぁ、後は貴様を殺し、この戦闘を終わりにしよう‥‥」
 すでに勝ったようなセリフを吐くガウルに対し、アレクセイは‥‥笑った。
「いや、まだこれからさ!」
 気付くと、アレクセイの手には無線機が握られている。
 同時に、陣地があった場所。その地面、各所が盛り上がり‥‥そこから、手が生えてきた。
 いや、手だけではない。すぐにその下から体、足と続く。
 唖然とするガウル。
 そう、出てきたのは‥‥宇宙服を着た能力者たちだった。
「‥‥なるほど、車両は私の目を。雪の下にわざわざ潜ったのは鼻を欺く罠、か」
 ガウルが、初めて憎々しげに口を開く。だが、次の瞬間には憤怒の視線をアレクセイ、そして能力者たちに向ける。
「だが、それがどうした! 殺すべき能力者が増えただけだ!」
 同時に、飛びかかってくる人狼。
「ここで敵指揮官を倒せば、戦闘は終わりだ! みんな頼むよ!」
 アレクセイの号令。それに反応するように能力者たちも飛び出す。
 ここに、グリーンランドを騒がす狼たち。その首魁との決戦の火ぶたが切って落とされたのだ。

●参加者一覧

ドクター・ウェスト(ga0241
40歳・♂・ER
愛輝(ga3159
23歳・♂・PN
鐘依 透(ga6282
22歳・♂・PN
ジョー・マロウ(ga8570
30歳・♂・EP
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
クレミア・ストレイカー(gb7450
27歳・♀・JG
エドワード・マイヤーズ(gc5162
28歳・♂・GD
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA

●リプレイ本文


「‥‥またやられに来ましたか。折角なのでそっちの腕も貰いましょうかね」
 宇宙服のヘルムを脱いだ鐘依 透(ga6282)はそう言うと鼻で笑い、剣の切っ先を片腕の人狼、アトスへ向ける。
「貴様‥‥か‥‥安い‥‥挑発だが‥‥確か‥‥に、腕の‥‥借りがある‥‥」
 そう言って、ニタリと笑ったアトスは大剣を振りかざし透へ向かって走る。
「さぁ、君たちの相手はこっちだ!」
 その間、残り2匹の人狼に対してエドワード・マイヤーズ(gc5162)が仁王咆哮による引き離しを試みる。
 効果は‥‥あった。釣られるように人狼がエドワードに向かってくる。
「ちっ‥‥易々と挑発に乗りおって‥‥」
 咆哮により指揮を回復しようとしたガウルを止めたのは、瞬速縮地を使用した赤崎羽矢子(gb2140)。急速にガウルへと迫りそのまま獣突を使用。不意を突かれたガウルは、その攻撃をもろに受け、軽く吹き飛ばされる。
「残念だけど、そう簡単に殺されるわけにはいかないよ!」
「‥‥そうか、まずは貴様らが相手をするということか」
 ガウルと人狼その間に立ち塞がるように、4人が立っていた。
「その通り。そして我が名は‥‥太陽騎士セイクリッドゼオン・・・人間での名は村雨 紫狼!」
 そう名乗りを上げたのは村雨 紫狼(gc7632)。
 悠長に名乗りを上げたのは、別に相手を馬鹿にしているわけではない。紫狼なりの、戦士としての敬意を示すためだ。
「俺は、戦士として貴方たちに敬意を示す! 殺すとしても、殺されるとしてもだ!」
「そうか、良い覚悟だ‥‥ならば死ね!」
 言葉と共に、目の前から掻き消えたガウルは‥‥紫狼の後ろ!
「危ない!」
「やっぱり、待ってくれるほど悠長でもないか」
 クレミア・ストレイカー(gb7450)が叫ぶ。同時に、こういった行動を取ってくるだろうと予測していたジョー・マロウ(ga8570)と合わせて銃撃で援護。その射撃で若干態勢が崩れたか、振り下ろされようとした爪がわずかに鈍る。
 瞬時に紫狼は二本の刀を抜き放ち、受けの態勢。交差した刀ごと、吹き飛ぶ紫狼。
「‥‥言葉は無用ってか。ならば‥‥推して参るッ!」


 エドワードには一つの計算違いがあった。2体の人狼が持つ武器はガトリング砲であり、それはエドワードの持つ小銃よりも射程が長い。
 人狼からの猛射は自身障壁を使用するエドワードの体力を容易に削り取る。
「これはまずそうだねぇ〜」
 アレクセイのサポートに入っていたドクター・ウェスト(ga0241)は状況を見てすぐさま前に。練成治療でエドワードの治療を行う。
「大丈夫かね〜」
「‥‥何とかといったところだね。助かったよドクター」
 凄まじいのは練成治療か、はたまた短時間に数度の練成治療が行えるドクターの方なのか。倒れる間近だったエドワードの傷がすぐに治っていく。
 治療はなんとかなる。だが、問題は攻撃だ。ドクターの武器はエドワードのものより射程が短い。
 攻撃を継続されるのは厄介なので、ドクターは治療を行いながらも前に出て牽制を行う。だが、人狼は高速移動能力で射程を広げる。
 エドワードも小銃でキメラの四肢を狙うも、やはり間合いが遠い。
 先見の目による効果か、敵の動きを読み取り機先を制することはできる‥‥が、瞬間的な機動力はやはり人狼に分があるか。追いつくにはやはり‥‥
「瞬天速が手っ取り早い!」
 先見の目は周囲の味方にも効果を及ぼす。敵の位置を把握したうえで、瞬天速による高速移動を行った愛輝(ga3159)は、人狼の真横に。至近距離から急所付きを併用した射撃は、人狼の利き腕に命中。手に持つガトリング砲の射線が揺らぐ。
 その攻撃に起こったのか、人狼は雄叫びを上げながらガトリング砲で直接愛輝を殴りつける。
 銃を盾に防御するも、弾き飛ばされる愛輝。すぐさま態勢を立て直して反撃の射撃。しかし、キメラは移動スキルを使用して間合いを広げる。
「これで大体分散できたようだね」
「ふむ、では我輩たちはこのまま残りをやるとしよう〜」
 人狼2体を3人が相手する中、透はアトスと一騎打ちの形になっていた。
「ガウルも馬鹿ですね」
「何‥‥?」
「アレもさっさと尻尾巻いて逃げれば良かったものを‥‥右腕である貴方みたいにね‥‥と右腕はもうありませんでしたか、ははは!」
「‥‥貴様ァッ!!」
 数度の剣戟に混ぜられた挑発。それを聞いたアトスは逆上したかのように大剣を振りかざす。
 間合いからギリギリ外れるように戦っていた透に追い縋るべき高速移動し、大きく剣を突きだすアトス。
「迂闊な‥‥腕貰う!」
 透は言いながら‥‥不意に姿勢を低くするとともに迅雷で右側、腕の無い方へ回り込む。そのまま低い姿勢からの切りあげ。前回の戦闘と同じ流れだ。だが‥‥
「‥‥どちらが‥‥迂闊だ?」
 アトスの視線は、その動きを完全に捉えていた。突くと見せかけた大剣を、その腕力で持って強引に斬りおろしに変える。低い体勢を取っていた透を迎撃する形。振り下ろされる大剣。
 ――刹那、透の体が消えた。
「っ! 今度は‥‥間違いなく‥‥グァッ!!」
 アトスが叫ぶのと、左手が斬り落とされたのは同時。
 透はこの時空を切った剣を軸にした回転舞で、アトスの頭上を越えた。そして、攻撃後の左腕側の死角を突き、腕を斬り落としたのだ。
 2重のフェイク。その動きを、アトスは捉えることが出来なかった。
 すぐさま距離を取る、もはや両腕の無くなったアトス。その敗北は決定的だ。
「‥‥すいませんでした」
「何故‥‥謝る?」
「勝つためとは言え‥‥侮辱するようなことを言いました」
 本心では、透はその強さに憧れの様な感情を抱いていた。だがそれ故にこの敵は脅威であり、絶対に負けられなかった。
「‥‥それを謝る理由は‥‥分からない。やはり‥‥人の言葉は‥‥難しい。ただ‥‥」
 瞬間、アトスが突進。残された武器、口中の牙をむく。透はその動きを冷静に捉え、置くように剣を水平に。
「‥‥ただ‥‥貴様との戦いは‥‥楽しい」
 そのまま、振り抜かれた剣は、戦いの終わりを告げるかのように‥‥アトスの首を刎ね飛ばした。


「一発こっきりの、後は運頼みっと」
 プロトン砲を放とうとして口を空けた瞬間だった。ジョーが瞬即撃を使用して口中に閃光手榴弾を捻じ込む。
 だが、閃光手榴弾はピンを抜いてから爆発までの時間的猶予が非常に大きい。それをジョーは考慮していなかった。
 プロトン砲を中断し、ガウルは目の前のジョーを前足で横殴りにする。吹き飛ばされたジョーを尻目に、ガウルは高速移動を使い距離を取った。
 強い閃光。それを軽く目を瞑り躱したアトス。その次に見たのは、部下であるアトスの首がゆっくりと地面に落ちるさまだった。
「アトス‥‥やはり敵の戦力を弱く見すぎていたのやも知れんな‥‥」
 呟くと、ガウルはさらに高速移動で距離を大きく開ける。
「またプロトン砲か!?」
 銃口を向けるクレミア。しかし射程外だ。だが、この距離ならプロトン砲を回避するのもそう難しくは無い。
 しかしガウルが行ったのは‥‥大きな遠吠え。
 それを聞いた人狼は、ごとりとその場に武器を落とす。
「む? いったい何をしようというのだね〜?」
 ガウルは遠吠えを利用して人狼や狼キメラに指示を出せる。人狼たちの動きを見逃さないように注意するドクター。
 次の瞬間、人狼二体は高速移動を使い‥‥どんどん離れていく。
「今のは撤退命令だ。この山にいるキメラは皆いずこかに散ることになる」
 その真意は、ガウル自身から語られた。
「アトス以上の戦力を持っているのは私だけだ。そして、そのアトスを‥‥単独で倒す者がいる以上、戦っても負けるだけだからな」
「‥‥どうして、停戦を受け入れないのさ?」
 羽矢子が、ぽつりと呟く。
「ここであたし達を倒しても、いつかは部下と殲滅されるのが目に見えてたじゃない! 現に今、こうして逃げるしか選択肢が無くなってる!」
「停戦しろと言われて、はい分かりましたと言えるほど‥‥私と私の部下は物わかりが良くないのだ。それに‥‥私は変人でな」
 ここで、皆は気付いた。ガウルの体がボゥッと光出しているのを。
「キメラは停戦したら処分する必要があるだろう。だが、私もあれらを作った責任というものがある」
 限界突破。バグアが取る、最後の切り札。
 それを使わざるを得ない相手だと、ガウルが認識したという事だ。
「追わせるわけにはいかない‥‥将としての最期の役目、果たさせてもらおう!」
「‥‥わかった。なら、その『いつか』は今だ。自分で幕を引けないならあたしが下ろす!」
 羽矢子は、そう言って剣の柄を握りなおした。
 

「好き勝手に動かせはしない!」
 目を狙ってペイント弾を撃ちこむクレミア。しかし、その攻撃は限界突破したガウルには容易に見切られ、角で弾かれる。
「そんな小細工‥‥通用するものか!」
 高速移動で飛び込んできたガウル。その爪はクレミアを襲う。とっさに身をかわすものの、爪は右肩を浅く抉る。
「くっ‥‥注意はしてても、早々対応できないわね‥‥」
 言いながら左手で銃を握り、援護射撃は怠らない。
「弾幕を張って牽制します!」
「了解。こちらも合わせていくよ」
 SMGに持ち替えた透に合わせ、エドワードも弾幕を張って動きをけん制する。
 高速移動するガウルからの攻撃はまさに目にも止まらぬ速さだ。だが、敵は1体。こちらはアレクセイも含めると9人。
 数の上では圧倒的有利だ。
 加えて、ドクターのお陰で
「多少の無茶は覚悟の上です‥‥これで!」
 ドクターから先見の目によるサポートを受けながら、瞬天速でその速さに追い縋る愛輝。さらに疾風脚により足の筋力を強化。踏み込みながら爪で仕掛ける。
 爪撃は浅くではあるが、ガウルの皮膚に傷を与える。
「ちっ‥‥だがこの程度‥‥」
「おぉぉぉぉっ!!」
 回避行動の為に移動するガウル。しかし、その移動先に待ち構えていたのは、やはり先見の目による補助を受け先んじた紫狼。
(勝利に貪欲でなければ‥‥飢えなきゃ勝てない、気高く飢えなければ!)
 殺すとしても殺されるとしても‥‥否、戦うなら勝つ。その為に多少の傷は覚悟の上。
 二刀を構えた紫狼が吠える。
「オーバードライヴ‥‥だぁっ!!」
 SESの甲高い排気音と共に浮き上がる残像。剣劇による連続攻撃がガウルに立て続けに傷を与える。
「‥‥その程度で!」
 攻撃に耐えながら、ガウルは体当たり。攻撃を優先した紫狼は回避することもできず弾き飛ばされる。
 倒れこむ紫狼。その視線の先には、大口をあけプロトン砲を放とうとするガウルの姿。
「やらせない! 絶対に!!」
 しかし、そのプロトン砲が放たれることは無かった。行動に余裕を残していた羽矢子が、プロトン砲の発射を予測して俊足縮地で飛び込み、獣突で態勢を崩したのだ。
 そこを逃さず、能力者たちは一斉射撃。ガウルは無数の銃弾を叩き込まれ、よろめく。
「ぐっ‥‥貴様ら‥‥何っ!?」
 牙をむくガウル。その瞬間、戦場に再度の閃光がほとばしる。
「もうない‥‥ってわけじゃないんだな、これが」
 ジョーの持っていた隠し玉。もう一つの閃光手榴弾だ。
 先の攻撃で数瞬、冷静さを失ったガウルには目の前に飛び込んできていた閃光手榴弾に気付くことが出来なかった。
 視界を塞がれたガウル。苦し紛れか、それとも見えなければ周辺すべてを薙ぎ払えばいいということか。再びプロトン砲を放とうとする。
「今度のは‥‥ペイント弾じゃないわよ」
 その言葉とともに、ガウルの口中に吸い込まれるのはクレミアが撃った貫通弾。
 プロトン砲を放とうとしていたガウルの口へ、ピンポイントに撃ち込まれた銃弾。それは、FFを突き破り‥‥そのままガウルの口から後頭部を貫通した。


 口中を激痛が走る。同時に、自身の意識が急速に遠のいていくのを感じた。
(‥‥そうか、私は死ぬのか)
 ガウルは、その事実を冷静に受け止めた。
 これまでがすでに長すぎるほどの時を生きてきたのだ。ここで死ぬことが、むしろ正しいことなのだろう。
(むしろ、この地で死ねることを感謝すべきなのかもしれんな)
 そう思った時、ガウルに一つの疑問が沸いた。
 何故『感謝すべき』と思ったのだろうか、と。

 その答えは、バグアではなく、ガウル‥‥この体に残る記憶にあった。
(‥‥そうか、あの少年と同じ土地で死ねるのだな)
 それは、宇宙の片隅で孤独に死ぬよりは、ずっといいことだ。


「ロ‥‥ウ‥‥」
 それが、最期の言葉だった。
 その名前が、ヨリシロとされる前の‥‥ガウルと行動を共にしていたハーモニウムだと気づいたものは、何人もいない。
 その場に横たわったガウルがそれ以上何か発することは無く、その体は限界突破による影響から溶けていく。
「勝った‥‥か?」
「‥‥どうやら、そうみたいね」
 呟く紫狼に同意するようにクレミアが言った。
 激しい戦いだった。無傷の者は一人もおらず‥‥尤も、その傷はドクターの練成治療でどんどん治療されているが。
「とはいえ、我輩の練力もそろそろ限界だね〜。後は自分たちで何とかしてくれたまえ〜」
 練力の限界まで治療を行ったドクターはそう言うとともに座り込んだ。
「助かりました、ドクター‥‥どうやら、全員無事で切り抜けられましたね」
 愛輝の言葉通り、死者を出さずバグアとの戦闘を切り抜けた。これは確かな勝利と言っていい。
「でも、キメラは逃がしちゃったね」
 もはやどこに行ったのかも分からないキメラたちの走って行った方向。そちらを見ながら呟く羽矢子。
「あのキメラたちは、まだ戦いを続けるのかな?」
「‥‥多分、そうなんじゃないかな」
 その疑問に答えるジョー。
 多少知力あろうと、所詮はキメラだ。指揮官から離れれば、また無差別に人を襲うのだろう。キメラの本能として。
「だが、大元は倒せた。これ以上組織的な攻撃を行うことはできないだろうね」
 エドワードはそう言いながら、自分で納得するように頷く。
 その言葉通り、バグアとその片腕たるキメラを倒したのだ。戦果としても申し分ない。
「‥‥これできっと、この地も平和になりますね」
 既に雪に溶けて消えたガウル、そしてアトスの亡骸。
 それらがあった場所を見つめて、透がぽつりとつぶやいた。
 その言葉には平和を願う想いと共に‥‥どこか憧れた存在。その喪失を悼む感情が込められていたかもしれない。