●リプレイ本文
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時間は少しさかのぼる。
「くっそ、ヘボ操縦士! ちゃんと軍隊にゃ通ったのかよ!」
秋月 九蔵(
gb1711)は文句を言いつつパラシュートを身につける。とはいえ、別段操縦士にミスがあったわけではなく、キメラに捕捉されたのは運が悪かった部分が大きい。それは少し酷というものかもしれない。
「とにかく、このままだと危ない」
トゥリム(
gc6022)は武器の確認を行いながら淡々と告げる。
すでにパラシュートを付け終わった大神 直人(
gb1865)は眼下に広がる空を見てふと
「それにしても俺、結構高い所苦手なはずなんだけどあんま怖くないなぁ」
と呟いた。あるいはこれも覚醒による影響かもしれないな。そんな事を思いつつ、空に飛び出した。
「‥‥こんなこと初めてだよね。大丈夫?」
(大丈夫よ。誰かさんと一緒の依頼の方がもっと色々大変だったし)
八葉 白雪(
gb2228)は自分の中にいるもう一人の存在、真白と会話しながらその誰かさん、シン・ブラウ・シュッツ(
gb2155)の方を見て軽く笑った。
「えっと…ここから飛び下りるんですか?…あの、だ…だいじょうぶです」
一方、八葉 白珠(
gc0899)は足がすくみ、不安がっている様子。
「2人用のパラシュートでもあればよかったんですがね‥‥」
八葉 白夜(
gc3296)は白珠を慰めつつそう呟いた。スカイダイビングをするのが前提であればそういうものも有っただろうが、何分ただの輸送機である。
「‥‥ほら、私につかまりなさい。せめてここから飛び降りる時は一緒に行きましょう」
パラシュートは一定高度で自動で開くらしい。パラシュートが開けずに落ちてしまう‥‥ということは無いだろう。
まだ白珠は不安を拭いきれないようだが、それでも小さく頷き、白夜にしがみついた。
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時間は戻って輸送機の爆発から少しして。
キメラがこちらに向かってくるのは容易に想像できることだった。
「まずボク達を狙ってきてくれているのは不幸中の幸いと言ってよいでしょうね」
「あぁ。地面に着く前に片づけよう!」
シンの言葉に対し、その大親友足るディッツァー・ライ(
gb2224)が答える。
「皆さん。円陣を組んで敵を迎えます。どうかご協力を‥‥」
白夜の指示に従い、能力者たちはフォーメーションスカイダイビングの要領で陣形を取って対応する。
「来た! 迎撃しますよ!」
「クソ‥‥元はと言えば軍の不手際だ。弾代は払ってもらうぞ!」
シンは自身の外套をムササビの様に広げることで上手く風を受け、その位置を調整。カウンター気味に制圧射撃を使用。同様に九蔵も風を体で受ける感じで速度を調整。強弾撃を併用したブリッツストームを仕掛ける。
2層の弾幕がキメラを襲う。しかし、キメラはそれを圧倒的機動性を持って回避。鳥型だけに、空中戦はお手の物といったところだろうか。圧倒的速度でそれらの攻撃をことごとく回避していく。
そのままキメラは陣形の中でも外周にいた白雪、ディッツァー、直人に攻撃を仕掛ける。
「悪いけど、襲ってきた貴方達が悪いんだからね?」
白雪、いや彼女は真白だろうか。彼女は銃で眉間を狙い射撃。しかしその攻撃をキメラは、所謂バレルロールを行い紙一重で回避。そのまま突撃してくる。元の位置では直撃だっただろうが、先程の銃撃による反動で位置がずれた。おかげで攻撃を回避することができた。
こちらはディッツァー。ソニックブームで牽制を入れるが、この衝撃波の反動により態勢を崩してしまう。
「地に足がついてないと踏ん張りが利かないな‥‥」
そこに突撃してくるキメラ。崩れた態勢とこの状況下。回避は無理か。
ならば、防御を優先に。
「だが、足りない分は気合でカバーだ!」
持っている刀を盾に、あわよくば後の先を取ろうと狙う。
キメラとディッツァーが交錯する。
‥‥結果、両者ともに無傷。
機動性が高いキメラだ。ディッツァーは反撃する隙を得られず直撃を食らった。
しかし、キメラの攻撃力は低かったようで、防御を優先したディッツァーが傷を負う事はなかった。
「落下しながら戦闘なんて、ゲームみたいだな」
そう呟きながらも直人は小銃で迎撃。その銃撃の反動を利用して位置を微調整。キメラの突撃に備える。しかし、若干反動の力不足だろうか。真白の銃撃と比べると動きが少ない。正面までキメラが近づいてくる、このままじゃ直撃‥‥
「油断禁物‥‥だね」
同時に直上から弾丸が降り注ぐ。トゥリムだ。彼女は盾をサーフボードに見立て移動しようとしていたが、推進能力が無い為高速移動とはいかなかった。しかし、盾で風を受けることで、他の能力者より落下速度が低下、結果集団の上に位置することに成功していた。
(チャンスだ‥‥!)
動きの鈍ったキメラに直人が銃撃を集中。しかし、それらの攻撃をキメラはなお回避。一発がかすっただけに留まった。
そのままキメラたちは高速で能力者たちの陣形に割って入り、駆け抜けて行く。
「くっ‥‥遠間から眺めていたって、俺たちは倒せんぞ!さっさと近づいて来いッ!」
ディッツァーが叫ぶが、キメラにはそんな話を聞く必要も、知能も無いだろう。
やはりこの状況が戦いを難しくしている。
とにかく、この速さをどうにかしないことには、攻撃の手立てがみつからない。
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キメラたちが旋回して戻って来る。
このままヒット&アウェイを繰り返されると非常に厳しい状況に立たされる。
だが、同じ手が通じるほどこの能力者たちは甘くは無かった。
「こちらに来なさい。さもなくば命を失うのは貴方達ですからね」
白夜が仁王咆哮を使い、キメラたちをおびき寄せることを試みた。
強烈な殺気が、キメラたちに叩きつけられる。これを挑戦と受け取ったのか、あるいは恐怖故の行動かは分からない。しかし、ともかくこの行動は成功、キメラたちは一斉に白夜の方に向かってくる。
仁王咆哮による効果は、ただ敵を引き付けるだけに留まらない。
これは能力者たちの陣形に起因することだ。というのも、白夜は白珠を守るために陣形の内側にいた。そして、キメラたちはその白夜を狙って飛び込んできた。
この状態はいわば、陣形の外周と内の両側から即席の挟撃体制を取れたことに他ならない。
チャンスである。能力者たちは一斉に攻撃態勢を整える。
「白珠!呪歌を唄いなさい!!」
白夜は、小太刀を構えながら白珠に指示を出す。白珠は恐さ故に薄眼を開けるのが精々であったが、兄の声に「はい!白夜兄さま!」と返事をし、懸命に呪歌を唄う。
呪歌は射程の短いスキルではあるが、敵が白夜に突っ込んで来ていた事もあり、上手く効果範囲に敵が入った。
「よし‥‥真白、後は手はず通りに!」
白夜はそのまま、向かってきた別の一体に対し投擲用小太刀による四肢挫きを試みる。翼に小太刀が命中し、その動きが数瞬止まる。
「‥‥ご随意に。八葉流参の型改‥‥跳蔓草乱」
「俺もいくぞ!―――抜き胴一閃ッ!!」
そこに合わせて白雪、ディッツァーの剣劇が飛ぶ。甲高いSES排気音とともに、白雪の周囲に花が舞う。同時に放たれた無数の剣閃はキメラに同じ数だけの無数の傷を負わせる。
態勢を崩したキメラに追い打ちをかけるように、ディッツァーの刀から衝撃波が飛んだ。剣の紋章がその攻撃の威力を象徴するかのように輝く。このディッツァーの一閃が、キメラを両断した。
残った敵は二匹。
うち一匹は白珠の呪歌によってその動きが大いに鈍っている。
(怖くない‥‥怖くない‥‥)
落下する恐怖心と戦いながら、白珠は必死に唄を唄い続ける。
その甲斐あって呪歌の効果はキメラを捉えている。
痺れた体で思うように動けないキメラ。しかし、呪歌はそもそも射程の短いスキルだ。必然、白珠の位置はキメラが攻撃可能な範囲。苦し紛れに突っ込むキメラが白珠に迫る。
「‥‥やってはいけないことをやってしまったようですね」
その行動を遮ったのは、横合いから撃たれたシンの二連射。2丁のエネルギーガン「Seele」「Licht」から放たれた一撃、いや二撃がキメラを狙う。呪歌で動きの鈍ったキメラは回避することも出来ない。怒りを込めた射撃が敵に命中し、一瞬にして焼き尽くした。
もう一匹は呪歌も四肢挫きも受けず、その機動力を保ったまま白夜に突撃。弾き飛ばしつつ駆け抜けようとする。
「そう簡単には逃がさないぞ」
しかし、その進行方向には直人が構える。回避しようとするキメラだが、トゥリムが上方から再び援護射撃。スキル影撃ちも併用しての援護は的確にキメラの回避ルートを制限し、直人の方に追い込む。カウンター気味にしかけた二連撃がキメラを斬り裂きダメージを与えた。
たまらず逃げ出したキメラ。だが、そう簡単に逃がすわけがない。
「ちょっと盾借りるぜ?」
そう言うと、九蔵はあえてその銃をトゥリムの方に向け、撃つ。
これは無論トゥリムに攻撃を仕掛けようとしたものではない。その盾を壁に見立てて弾を当て、跳弾によってキメラを狙ったのだ。
弾丸は、九蔵とキメラの間に位置していた直人を飛び越え着弾。
ここまでの段階でかなりのダメージを追っていたキメラはその攻撃によって息絶え、そのまま地面に力なく落下していった。
こうして向かってきたキメラは全滅した。
「す、すげぇ‥‥あいつら本当に落ちながらキメラを殲滅しちまった‥‥」
やや離れたところで同様に落下している操縦士はそう呟いた。
戦闘時間は秒数にしておよそ20秒弱。
完勝と言っていい出来だった。
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数十秒後、自動でパラシュートが開く。
能力者たちは、もはや自分たちのことをさえぎるもののない空をゆっくりと降りて行く。
やがて地面が近くなってくると、少し開けたところがあったのでそこを目標に降りることに。
先行して降りた白夜はすぐにパラシュートを外すと、降りてくる白珠の方に駆け寄る。案の定白珠は目を瞑ってしまっている。十分失速してはいるがこのままだと危ないかもしれない。白夜は白珠の落下位置を予測。優しく白珠を受け止めた。
「‥‥あ、白夜兄さま‥‥ありがとう」
「どういたしまして」
白夜に受け止めてもらい地面に到着した白珠は今までの反動か、しばし白夜にくっつき甘えていた。
「よっと」
白雪、いや真白は着地の瞬間、刀でパラシュートの紐を斬り、すとんと着地した。
(え?今なんで斬ったの?)
「この方が楽じゃない。もう地面も近かったし、速度も遅かったから」
白雪の当然ともいえる疑問に対し、真白は飄々と答えた。
こうして各自が上手く着陸地点に到達しているが、ダイビングで狙った場所に上手く降りるのは難しいもので‥‥
「‥‥ちょっと調子に乗りすぎたかなぁ」
盾を上手く使っていたトゥリムだったが、パラシュートが開いたあとの着地まではあまり考えていなかったようだ。
落下地点がずれ、パラシュートが木に引っかかって宙ぶらりんになっていた。
「大丈夫か、今降ろしてやる」
こちらは上手く降りられた九蔵がトゥリムを降ろしに行った。
「うぉぉっ!以外に地面が近‥‥ぐぇっ!」
最後に降りてきたディッツァーは見事に着地‥‥を失敗して盛大に転がってしまった。
「丈夫ですかディッツ?」
先に降りていたシンが、やや呆れ気味に手を差し出した。
「あぁ‥‥やれやれ、やっぱり人間地面に根を張って生きるのが一番だな」
「まったく、その通りです」
ディッツァーの言葉に、やや離れた位置で軽く腰を抜かし座り込んでいた直人が同意した。
ともあれ、こうして操縦士含む全員が、無事地面に辿りつくことが出来たのだった。