●リプレイ本文
●
正規部隊からの情報にあった最下層。
そこには確かに巨大なキメラプラントと、三機のタロスが立っていた。
「無人機、か‥‥なら色々と相手しやすそうですね〜」
御守 剣清(
gb6210)が言うように、敵は無人機であろうと想定されている。だが、それ以上にあの機体には色々と思うところのある人間が多かった。
「‥‥3姉妹の無粋な置き土産か」
『あるいは、3姉妹の亡霊と言ったところですかね』
『なんのかんので妙な縁が出来ちまってるな‥‥』
榊 兵衛(
ga0388)と新居・やすかず(
ga1891)、そしてゲシュペンスト(
ga5579)はコクピットでそんな会話を交わした。
そう‥‥3機のタロスは、それぞれ3姉妹の乗機と酷似した装備をしていた。それ故に、3姉妹と数度の対戦を交わした彼らは、そう感じたのだろう。
敵からジャミングがされている中、こうして短距離ながら無線が通じている。シーヴ・王(
ga5638)の機体によるジャミング中和が、ある程度効果を上げているという事だろう。
「微々たるモンでも、ねぇよりマシってことです」
そのシーヴもまた、3姉妹とは浅からぬ因縁があった。
「幾ら強化されてやがっても、所詮は無人タロス。負けるワケにもいかねぇです」
『その通りだね〜。バグアの残党など全て破壊しつくさねば〜』
シーヴの言葉に、ドクター・ウェスト(
ga0241)が同意を示した。といっても、シーヴは3姉妹に関わったものとして負けるわけにはいかない。ドクターは憎むべきバグアを全て滅ぼすため、と‥‥それぞれの真意に差はあったが。
「‥‥そろそろお喋りは終わりだ。来るぞ!」
兵衛の言葉通り、3機のタロスが、それぞれ動き出していた。
●
機槍を構え、一気に突撃してくる紫タロス。
赤、青両タロスからの援護射撃を背に突進してくるその圧力はエース機に引けを取らない。
各機は散開し、突撃線上から退避し、各自の対応機へ向かう。
紫タロスに対するのは、ドクターと兵衛。
「おっと、さっそくかね〜」
機槍による突撃を、剣を盾に防御するドクター。しかし、速度が乗った突撃は受け切れるような攻撃ではない。
「これは‥‥! 結構強力じゃないかね〜」
ガードごと、ドクターの機体を後方へと弾き飛ばす。これでは機体へのダメージは‥‥そこまで酷くは無いか。この程度で済んでいるのは、防御していたのに加えて、頑強なドクターの機体であればこそだろうか。
紫タロスは勢いそのまま後方についていた兵衛の機体をも巻き込もうとする。
対して兵衛はブーストをフル稼働させての疑似慣性制御。これにより紙一重で攻撃を回避‥‥するつもりだったが、その突きの鋭さゆえに、穂先が機体を掠める。
「くっ‥‥甘い敵ではないか。だが、ここは俺の間合いでもある!」
掠めながらも、その装甲は揺るがず。兵衛の機体はドクターのそれ以上に頑強な機体だ。兵衛はそのまま機体の姿勢を制御。ファランクスが一斉に弾を吐き出す中、上段に構えた機槍を縦一閃に振りおろす。突撃直後のタロスに避ける術は無い。兵衛の攻撃は槍ごとタロスを床に叩きつけた。
「隙あり〜、切り裂けシンジェ〜ン!」
態勢を崩したタロスを、ドクターの練機剣が襲う。剣から発せられた強い光の刃が、掬い上げるような弧を描き、タロスの表面装甲を軽々と切り裂く。
「さて、さっさと撃破してしまおう〜」
ドクターはさらに二撃、三撃と、連続して攻撃を加える。すぐにそのダメージは自己再生では追いつかないレベルに達する。
『3姉妹の置き土産、きちんと後始末といこう』
さらに兵衛の槍がタロスの頬を掠める。これ以上攻撃は受けられないと、タロスは慣性制御で機体を立て直しつつ機槍を横薙ぎに大きく振るう。接近していた兵衛、ドクター両機を遠ざけるのが目的か。
しかし、この2人が崩れた態勢からの攻撃をそうそう受けるはずもない。両機は回避行動を取りつつ、ガトリング砲、スラスターライフルなどで弾幕を形成。中央にいるタロスに弾丸を集約させ一気に削りにかかる。
機動性の高いタロスでも、これだけの弾幕は容易に避けられるものではない。自己再生を大きく上回るダメージがタロスに刻まれる。
本来であれば、この辺りで青タロスあたりが援護をしたことだろう。だが、3機は完全に分断されている。
ならばとタロスは再び機槍突撃の態勢。多少のダメージを受けても反撃し、この状況を打破しようという事か。
「そう自由に動かれるわけにはいかんな‥‥喰らえ!」
しかし、ブーストを活かして兵衛が間合いに飛び込む。そのまま機槍でタロスの槍を跳ね上げ‥‥
「せりゃ!」
槍を上段で切り替えし。タロスの槍を横から叩き、腕ごと弾き‥‥
「まだまだぁっ!」
さらに返した機槍の石突でタロスの胴体部を突く。タロスの胴体がくの字に折れ曲がる。
「もらったね〜!」
兵衛の攻撃で頭を差し出すことになったタロス。その首を狩り取るように、一際輝くドクターの練機剣が振り下ろされた。
●
「練翼を使われるとまずい‥‥とはいえ、ある程度は近づかないと話になりませんね」
『その通りだな。こっちが先に突っ込む!』
突撃してきた紫タロスと違い、赤タロスは後方に控えている。
まずは接近しなければ話にならないとゲシュペンストは二挺拳銃で牽制しつつ向かう。その間、やすかずはゲシュペンストとは別角度からの接近を試みる。タロスがやすかずを狙えば、ゲシュペンスト側からには多少の隙を晒すことになる。やすかずが好んで使う戦法だ。加えて、敵タロス3機が3機とも分散させられている為、射線がキメラプラントに通っている。
(この状況なら、予定通りいけそうですね)
プラントを直接狙う素振りを見せることで敵の行動範囲を制限する策。各自の戦闘状況を収集するに、青タロスによるジャミングは非物理性能低下を伴うものではないらしい。多少の移動でレーザー砲の射程に入れられる。
だが、この動きがまずかった。
「‥‥なっ!?」
やすかずの機体が大きく揺れる。赤タロスからの狙撃、直撃だ。
ピュアホワイトは最早定番の電子戦機。しかもプラントを狙おうとしている。さらに言えば、位置取り的に十分狙うことが可能な位置。攻撃されるのは至極当然の話だ。
電子戦機である宿命か、機体性能自体は敵の方が上。数発の撃ち合いでやすかずの機体は5割近いダメージを受ける。
「くっ‥‥このままではまずいですね‥‥」
だが、やすかずに攻撃が集中しているという事は‥‥パートナーはフリーになっているに等しい。
「喰らい付いたぞ、この距離なら外しようもあるまい!」
至近距離まで近づいたゲシュペンストが渾身の一撃、3連パイルバンカーを叩き込もうとする。しかし、さすがはタロス。機動性を活かして機体を逸らし、致命傷は避けようとする。
射出された3本の杭はライフルを持ったタロスの腕を貫くとともに、引きちぎる。相当な威力、これなら反動もかなりのものだろうがそこは慣れたもの。スラスターを操作してその勢いを殺す。空中制動に定評のあるスレイヤーならではと言ったところか。
だが、その間にもう一つの武器、ショットガンが目の前に突き付けられる。
一度に大量の弾を吐き出すショットガン。至近距離での威力は尋常なものではない。パンッという破裂音にも似た発射音がゲシュペンストの機体を打つ。
「結構な威力だな‥‥だが、それぐらいじゃこいつの装甲は貫けないぞ!」
だが、多少装甲が抉られている程度。堅い。非常に堅い。それでも、2発、3発と連射されれば、多少以上のダメージを受ける。
態勢を崩しかけるゲシュペンストを援護するように、やすかずがライフルを連射する。
「助かった! このまま押し切るぞ!」
二挺拳銃を連射するゲシュペンスト。たまらずタロスは煙幕弾を使用。煙に紛れ態勢を立て直すか、あるいは腕ごと吹き飛んだライフルを拾って再び遠距離戦に持ち込むのか。
「どちらでも、関係ありませんけどね」
しかし、重力波探知が可能なピュアホワイトを駆るやすかずにとってそんなものは子供だましに過ぎない。
「大した性能でした‥‥でも、あれはやはり、カケルじゃありません」
そう言ってやすかずは、荷電粒子砲を発射。強いエネルギーの奔流が、煙ごとタロスを撃ちぬく。
「これで終わりだ! 究極ゥゥゥゥゥッ‥‥」
腹部に大穴の空いたタロス。ゲシュペンストはブーストを利用して跳び上がり、天井を足場にタロスへ向かい飛びかかる。
「ゲェェシュペンストォォォォォッッ! キィィィィィィィッック!!!!」
咄嗟に、上方へショットガンを向けるタロス。しかしゲシュペンストの一撃は、ショットガンごとタロスの腕を抉り穿った。
●
「上手く分散できたみてぇですね。では、このままシーヴ達は青いタロスを‥‥」
『鬱陶しいモンは、速攻でツブしてやりましょ』
紫タロスの突撃を回避したシーヴと剣清は、そのまま対応予定の青タロスへ向かう。
ツインブーストを使用した剣清は、弾幕を張りながら一気に距離を詰めていく。一歩遅れてそれを追うシーヴ。タロスは接近する剣清を攻撃しようとマシンガンを盾を縫って出す。そこを狙撃することで妨害。結果、タロスが盾で防御することを強いる。
この間に剣清が近接射程まで近づく。
「喰らえ!」
弾幕を張って近づいていた剣清は、直前でガトリング砲をしまい、機刀に手をかける。そして、もう片方の手に持っていたハンドガン。その銃身下部に取り付けられた剣での攻撃する。これをタロスは盾で防御。剣清はそれを弾くか、せめてつばぜり合いの状況に持って行こうとする。
しかし、目論みは外れ、逆に剣清の方が弾き返されてしまう。あるいは、持ち手のしっかりした刀であれば押し切れたかもしれないが、この攻撃でボディががら空きになる。
タロスはそこを狙い、盾に備え付けられた剣を突き刺そうとする。
「こっちにもいるってのを忘れねぇで欲しいですね」
猛烈な弾幕。シーヴからのスラスターライフルがタロスに撃ち込まれ、その攻撃を妨げる。
「助かりました! よし、防御が堅いっていうなら‥‥」
シーヴからの弾幕で防御を固めている腕を狙って、剣清はスパークワイヤーを投げる。これを腕に絡ませ、引っ張ることで防御を困難にさせるのが狙い‥‥とはいえ、スパークワイヤーには何かに巻き付けるような柔軟性は無く、引っかける程度になったが。しかし、触れていれば電流は通る。それを嫌ってか、タロスはワイヤーを振りほどいた。それが隙になる。
「逃がしゃしねぇよ!」
隙を逃さず機刀による一閃。それは人の手による抜刀術に似た、鋭い一撃。
この攻撃で態勢を崩すタロス。そこに、ブーストを使用したシーヴが機槍を構えて突っ込む。
タロスは慣性制御を利用し、なんとか盾で受ける。だが先程と違い、のけぞることになったのはタロスの方だ。
蓄積したダメージが大きいのか、はたまたブーストによる加速力によるものか。いや、それ以前に岩龍でこれほどの攻撃力を出していることにまずは驚愕せざるを得ない。
「なんにせよ、チャンスに変わりは無い!」
態勢を立て直すためか、急速に距離を取ろうとするタロス。
それをさせまいと、剣清は回り込みながら敵の背を斬りつける。
足を止めたタロスに、シーヴが再度機槍による突撃を敢行。近づけさせまいとマシンガンで弾幕を張るタロスだが、シーヴはそれによるダメージにも構わず突進。咄嗟にタロスは盾を構える。
「邪魔な盾ですね。ですが‥‥」
盾と、槍が再度の接触。そして‥‥亀裂の入ったのは、盾。
「盾が邪魔なら、壊せば良し、です」
数度の剣戟に耐えかねた盾が崩壊。そのままシーヴの機槍は腕ごと胴体を刺し貫いた。
残された腕のマシンガン。それを至近からシーヴに向ける。が、これは発射されなかった。
「これ以上攻撃はさせねぇよ!」
その前に、剣清の機刀によって、腕ごと刎ね飛ばされる。もはや攻撃の手段がなくなったタロスだが、それでも撃墜されまいと再度距離を取ろうとする。
生き残ってさえいれば、ジャミングが残り、他機の援護が出来る。そうAIが判断したゆえだろうか。
「往生際が悪ぃですね‥‥そろそろ倒れやがるが、良し」
本気で距離を取ろうとするタロスには、ブーストを使用した岩龍では追いつけない。が、その射程からは逃れることは出来ない。
スラスターライフルの連射を直に浴びたタロスは、すぐに活動を停止した。
●
3機のタロスが撃破されたのは、ほぼ同時だった。
各機損傷はあったが、軽微と言ってよいレベルだ。
「さて、残りはあれだけだな。さっさと片付けよう」
残されたキメラプラントに、全機が攻撃を仕掛ける。なすすべもなく、破壊されていくキメラプラント。
「それでは、これで終わりにしようかね〜‥‥バ〜ニシング、ナッコォ〜!」
最後に撃ち込まれたドクターの必殺バニシングナックル。
これによりキメラプラントは、どこから見ても再生不可能なほどに破壊しつくされた。
「‥‥残ってる所には残ってるもんだな‥‥」
『まったく‥‥バグアの奴らは、置き土産っつーか、忘れ物が多すぎるでありやがるですよ』
ゲシュペンストの呟きに、シーヴが答えた。
この戦場では、能力者たちが圧倒的な実力差を以て勝利を収めた。作戦は大成功といって間違いない。
だが、こういった、バグアの置き土産はまだまだ残されていることだろう。まだまだ、能力者たちの出番が無くなるという事は無さそうだ。