タイトル:【AW】そして潰える残光マスター:植田真

シナリオ形態: ショート
難易度: 普通
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2013/04/22 22:38

●オープニング本文



 2012年3月、宇宙要塞カンパネラ周辺でとある戦闘が発生した。
 ティターンを指揮官機とした、たった3機の敵機。それらがカンパネラに攻撃を仕掛けようとしたのだ。
 尤も、攻撃自体は初動対応を行った傭兵と、それを引き継ぐ形で戦闘になったカンパネラの防衛部隊によって殲滅された。
 被害はおおよその比率にして『敵1』に対し『味方10』。
 その数値はかつてのバグア対人類のキルレシオを彷彿とさせるものであった。しかし、所詮は宇宙での小規模勢力同士の小さな争いにすぎず、上層部も単なる小競り合いとして処理していた。
 この戦闘の際、彼らの指揮官‥‥戦死したと思われているゲイン・クロウという強化人間のことだ。それらが旗艦としていた大型BFの攻撃も同時に行われていたが、撃退するに留まっている。カンパネラ方面の救援へ赴くために追撃を行わなかったためだ。
 この件に関して、アレクセイ・ウラノフ大尉は再度の出撃要請を求めた。
 記録としては小さな戦果ではあるが、はぐれバグアであるBFの乗組員にとっては大きな戦果と言えるかもしれない。これによって彼らが景気付き、今後の宇宙における禍根となる可能性すらあるのだ。
 それを未然に防ぐためにも、戦力を割いて撃沈すべし。アレクセイはそう上官を説得した。
 だが一週間が経ってからアレクセイ宛てに届けられたのは出撃許可ではなく‥‥転属命令だった。


 ――――それから、1年が経過する。



 エクスカリバー級巡洋艦、アヴローラ。
 この1年間、未だ抵抗を続けるバグア勢力との交戦。野良キメラの掃討等々、戦争が終わったのに戦争時よりも忙しく宇宙を駆けずり回っていた。
 外壁は所々傷が残っている。また、数度のプロトン砲の直撃によるものか‥‥エンジン出力も最近は万全とは言い難くなっていた。
 ロシア革命の象徴と言われた艦の名を受け継いだこのアヴローラ‥‥しかし、バグアに対する人類の反抗も終わりを告げ、かつてその名を持った艦と同様、記念艦として保存されることになるだろ。
「つまり、この戦闘がアヴローラの最後に戦いになる‥‥そういうわけですか」
「あぁ、そう言うことになるね」
 艦橋のクルーも退役、転属などで多少様変わりした。
 だが、副官であるボロディンと‥‥その横にある自身の席に腰を落ち着けている艦長、アレクセイ・ウラノフは以前と変わらずその場所にいた。
 アレクセイが再度アヴローラの艦長に就任したのはほんの1か月前のことだ。その際は艦長代理を務めていたボロディン‥‥現在は大尉も驚いた。
「しかし‥‥まさか、大佐の辞令を蹴ってまで前線にお戻りになるとは思っていませんでしたよ」
「‥‥まぁ、やり残したことはしっかり片づけるのが僕の性分だからね」
 やり残したこと‥‥それこそがこの戦闘だ。
 アヴローラのモニターには見覚えのある艦影‥‥かつて山城カケルが、次いでゲイン・クロウが旗艦とした大型BFの姿があった。
 3か月程前のことだ。何もない空間から突如攻撃を受け輸送艦が損傷。それを皮切りに同様の事件が散発的に発生する。
 この事件の調査を担当したのが、今度は諜報部に飛ばされていたアレクセイだった。
 調査を始めると、すぐにこれがバグアの残党‥‥それもかつて撃墜し損ねたゲイン・クロウの部下達によるものであろうことが判明した。
 この功績でアレクセイは大佐への昇進が決まっていたが、それを辞退。その代りに、アヴローラの艦長に戻してくれるように頼み込んだというわけだ。
「‥‥BF前方に敵影を確認!」
「拡大できるか?」
 副長の指示に従い、最大望遠でモニター上に映った敵。そこにはHWを台座としたTWの姿があった。
「これは‥‥カスタム機でしょうか?」
「資料によると‥‥ゲイン・クロウが地上戦で好んで使っていた機体があれらしいね。AIで扱える機体とも思えないし、多分有人機‥‥さしずめゲイン・クロウの亡霊、といったところかな?」
 そう呟くと、アレクセイは味方への通信回線を開く。
「‥‥彼らがなぜ戦うのか、僕には分からない。でも、彼らにとってはきっとまだ、戦う理由があるんだろうね‥‥でも、それをそのまま許していては本当に平和な時代が訪れることは無いんだと思う。だから僕たちは戦い、そして勝利する必要がある」
 軽く息を吐いて、アレクセイは続けた。
「多分これがアヴローラの最後の戦闘になるだろうし、花道を飾ってくれると嬉しい‥‥それでは、攻撃を開始してくれ」
 アレクセイの指示に従うように、今回の作戦に参加した能力者たちが愛機を駆り攻撃を開始した。

●参加者一覧

榊 兵衛(ga0388
31歳・♂・PN
瑞浪 時雨(ga5130
21歳・♀・HD
赤崎羽矢子(gb2140
28歳・♀・PN
アンジェラ・D.S.(gb3967
39歳・♀・JG
美具・ザム・ツバイ(gc0857
18歳・♀・GD
ヨハン・クルーゲ(gc3635
22歳・♂・ER
村雨 紫狼(gc7632
27歳・♂・AA
エイルアード・ギーベリ(gc8960
10歳・♂・FT

●リプレイ本文


「この期に及んで乱を起こすか‥‥よかろう、悉く叩き潰してくれようぞ!」
 今は覚醒の影響で少女人格であるリンスガルトとなっているエイルアード・ギーベリ(gc8960)はロイヤルマントを翻しながら、輝く斧槍を掲げる。戦意は非常に高い。
「もう一年も経つのにまだ戦闘‥‥」
 それとはどこか対称的なのは瑞浪 時雨(ga5130)。戦争も終わり、やっと歌に専念することが出来る‥‥しかし、実際は残機掃討の日々。そんな今に辟易するのも致し方ないことかもしれない。
 一方、目の前の敵に並々ならぬ思いを持つ者たちもいた。
「‥‥あの戦いの結末は俺にとっても不本意極まりないモノだった」
 1年前の戦闘を思い出し、榊 兵衛(ga0388)は歯噛みする。そして目の前にいるのは‥‥あの時の残党だ。これが恐らく、彼にとって最後となる名誉挽回の機会。
「まさか、あいつか‥‥?」
 同様に1年前のことを思い出す美具・ザム・ツバイ(gc0857)。一年前の戦闘で、アーチャーだけは何とか仕留めることが出来たことを慰めとしていたのだが、今回の事件がその残党によるものだと知り敗北感に打ちのめされ‥‥
「1年前の礼じゃ。奴らを打ちのめし、選挙前の一戦を飾ってくれる!」
 いや、そんなことで打ちのめされるほど、美具は柔ではなかった。今も言葉の端々からやる気の炎が垣間見える。
「確かに、あの依頼じゃ俺も大怪我したがな‥‥」
 村雨 紫狼(gc7632)もそのことを思い出す。
「それでもありゃ俺自身の責任だし、敵を攻めるのは筋違いだ」
 だが、通さなければいけない筋もある。それは、先に地獄に逝った敵の親玉、ゲインへの筋。その為の、リベンジの機会だ。無論、死ぬつもりだってさらさらない。紫狼には自分の会社をちょっと知られた中小企業にするという夢があるからだ。
「だからすまねぇな‥‥ここで死んでやるわけにはいかねぇんだ‥‥」
「1年前は力及ばず防衛隊に多大な被害を出してしまいました‥‥」
 ヨハン・クルーゲ(gc3635)はそう述懐する。
「だから、私は一年前のケリをつけるのみです。彼らの理由に興味はありません」
 そして、せめてアヴローラの最後を花道で飾りたいものだと、そう考えていた。
「さぁ、お喋りはここまで、来るよ!」
 赤崎羽矢子(gb2140)が気を引き締めると、皆はアンジェラ・D.S.(gb3967)の言葉に、全員が再び正面の敵に意識を向けた。
「コールサイン『Dame Angel』。この期に及んで古き残滓足るワーム群を直ちに捉えて撃滅し‥‥憂いを無くす様に図るわよ」
 こうして、戦闘が開始された。


「タイミング合わせ、良いな‥‥いくぞ!」
 接近してくるHW。対し兵衛はK−02ミサイルを連射。それに合わせる形でアンジェラ、美具、ヨハンはミサイルを立て続けに発射。ミサイルによる飽和攻撃だ。ガーダー2のジャミングで精度が落ちているとはいえ、これだけの数なら問題は無いだろう。
 だが、それは向こうも同じ考えか、アーチャー2機から多数のミサイルが発射されてくる。攻撃を行う機体は味方の方が多いが、敵はミサイル運用特化機。火力は同等か、それ以上かもしれない。
 しかし、傭兵たちには防御手段があった。
 美具は煙幕と共に防御兵装『乱波』を展開。同様にヨハンも乱波を使用。重力波の乱れを利用し敵の攻撃精度を低下させる。さらに‥‥
「やっぱり向こうも同じ手か‥‥頼むよ!」
『おう、俺達に任しとけ!』
 羽矢子に応えるのはニェーバのパイロット。4機のうち2機が急速前進。機体の砲門を開く。内蔵機関砲がミサイルを迎撃する。
 両者のミサイルが、一部デブリにぶち当たりながらも、それぞれの陣営に突き刺さる。後にアレクセイが「花道の入り口にしても派手すぎる」と評するほどの派手な爆発が両陣営を揺らす。
 爆発の余波が収まった時、前衛として突撃してきていたランサー。目に見えてその挙動は怪しく、多大なダメージを与えたと思われる。
 対し味方の損害は思いのほか軽微。ミサイル迎撃の効果が出たか。
 散開しようとする敵。しかし、それを逃がすまいと追撃、タイミングをずらして発射された時雨のミサイルだ。回避行動を予測したうえで放たれた攻撃は吸い込まれるように命中。
 さらに、タイミングをうかがっていたリンス。遠隔攻撃機を使い、態勢の崩れたHWを攻撃。死角から撃たれたレーザーが確実にランサーを撃ちぬく。
 この初手の攻防で前衛に出ていたランサーは全てが撃墜される。
「まずはこちらが優勢、かな。このまま‥‥何!?」
 艦橋から満足げに戦闘を見るアレクセイの体が衝撃に揺れる。アヴローラへの攻撃だ。しかし、敵の接近は未だ許してはいない。
 同様に、味方が死角からの攻撃を受ける。
「‥‥なるほど、多分遠隔攻撃端末だな。行けっミーア、アイリス! 防衛隊も迎撃頼むぜ!!」
 敵の攻撃方法を察知した紫狼は自身も遠隔攻撃機を使用、迎撃に当たる。
 この間にも、ランサーの後方に位置していたハンター、アーチャーは艦に向かって接近。能力者たちはそれぞれ自身の目標に向かい移動を始めた。 


「まずはあの邪魔なガーダーを‥‥」
 BF正面、TWの前に位置するガーダー2。ジャミングの主であるこの機体を落とさないと、味方が存分に力を振るうことが出来ない。
 そう考え移動する兵衛。その速度に追従するために空戦スタビライザーを起動してアンジェラ、少し遅れて美具が飛ぶ。前進してくる4機のHWは彼らを無視して艦へと向かっていく。
「そんな単調な動きでは、撃ってくださいと言っているようなものじゃ‥‥喰らえぇっ!」
 デブリを縫って前進してくる敵。狭いとまではいかないものの、攻撃を掻い潜りながらでは必然その侵攻ルートも限られてくる。それ故生まれた4機の軌跡が重なる瞬間、それを逃さず放たれた‥‥リンスのプロトディメントレーザー。長大なエネルギー光がHW達を撃ちぬく。HW達は態勢を崩されたかのように進行を緩める‥‥が、損傷自体は軽微。すぐさま移動を再開。リンスは冷却の隙を見せないためにも一時後退。遠隔攻撃機での援護に切り替える。
「援護お願い!」
 その動きをカバーするように前衛に立つ羽矢子。ディメンジョンコーティングで防御を固めながら突っ込んでいく。動きを抑えようとアーチャーがミサイルを撃ち込んでくるが、デブリを利用して極力直撃を減らし、そのまま前衛に位置していたハンターに接近。ライフルを連射する。
「くっ‥‥やはり威力はいかんともしがたいですね」
 攻撃を集中するように、後方からレーザーライフルを3連射するヨハン。その精度は抜群であり、確実に命中させる。しかし、その効果のほどは怪しい。ジャミングによるものだけではない。アリスシステムによる影響もありその知覚能力は大きく低下していた。
「‥‥思ってたより‥‥効果が薄い、か」
 それは時雨も同様。ダメージは通っているようだが、威力を十分に発揮できていない。リンスの攻撃がそれほどダメージを与えられなかったのも同様の理由だろう。
 ならばと時雨は武装をミネルヴァに切り替え、発射する。大口径のエネルギー砲、加えてSESエンハンサーを使用した攻撃だ。弱体化させられても十分な威力で羽矢子の攻撃していたハンターに直撃、撃墜する。
 これでアヴローラに向かってくるHWは3機。だが、敵もやられっぱなしではない。もう一機のハンターが反撃にライフルを連射。避けることもできずに直撃を受ける時雨機。時雨の機体は火力に偏重しており、装甲は脆い。この攻撃だけでも敵に与えたダメージと同等のダメージを受ける。
 このまま集中攻撃を受ければ時雨の撃墜もあり得た。が、それを食い止めたのはそこに2機‥‥いや、4機の遠隔攻撃機。リンスと、アヴローラに纏わりついていた遠隔攻撃機を排除した紫狼。
 さらにその後ろからはゆっくりと近づいてくるアヴローラの姿。
 アーチャーはミサイルを、今度は艦に向かって発射する。だが、アヴローラの防衛についているのはニェーバだ。ミサイルはことごとく迎撃される。
 ミサイルの爆発を掻い潜りながら、羽矢子がハンターを斬る。装甲が裂けた箇所を狙うように、ヨハンがライフルを再度連射。傷跡を抉るように撃たれたレーザーが内部を撃ちぬき、撃墜する。
「舞うは黒き蝶‥‥刃は母をも殺す短剣‥‥」
 ハンターとの戦闘に気を取られている間に、時雨は側面から迂回。その手には練剣が持たれていた。
「ここで散って‥‥!」
 形成された刀身は短いが、その威力は折り紙つき。ミサイルを撃った直後のアーチャーは油断していたか、回避することもできず、剣はその装甲を突き破り、機能を停止させる。
 前に出てきたHWは残りアーチャー1機。勝負は見えていた。
 一方、ガーダー2の方では、兵衛が近距離で攻撃をしかけつつ、アンジェラがそれを支援するという形に。
 知覚主体のクルーエルを駆るアンジェラにとってもジャミングの影響は強い。だが、アンジェラには時雨同様、SESエンハンサーがある。
「さすがにしぶといわね‥‥攻撃を集中させて落とすわよ!」
 そう言いつつエネルギーガンを連射。さらに、その攻撃に重ねるように兵衛がミサイルを連続で撃ちこむ。物理攻撃主体の兵衛はガーダー2との相性はいい。このまま攻撃を続けていけば撃破は容易だろうが‥‥それをさせまいとガーダー2の後方に位置していたTWが前進しつつ、プロトン砲を放つ。
 兵衛は回避。さすがの機動性である。しかし、アンジェラは回避しきれず、機体の側面を掠め、装甲が融解する。
「なかなかよく狙っておる‥‥あるいはあの時のアーチャーにでも乗っておったか?」
 この間、美具は迂回しつつTWへ。高命中のミサイルを撃ち込みながら、TWを牽制しつつ、あえてその下方から近づく。
 美具は知っている。このTWが乗っているHW、その下部に備え付けられた拡散プロトン砲の存在を。
「‥‥狙い通りじゃ!」
 砲口を視認。光の発生が見えた瞬間、美具は反射的にトリガーを引く。
 美具の機体がプロトン砲に焼かれるのと、発射した2条の閃光がHWを撃ちぬくのは、ほぼ同時だった。
「ぐっ‥‥仕留めそこなったか‥‥!」
 損傷は8割程か。機体に伝わる衝撃を制御しながら美具はコクピット内で呻く。その間に、TWはHWを蹴り、その反動でBFの方へ後退して艦首部にたどり着く。HWは‥‥もう動く気配が無い。機能が停止したようだ。
『後は、BFね‥‥』
 不意の通信。アンジェラからだ。見ると、兵衛が歩行形態に変形、機槍でガーダー2を貫いていたところだった。
 後方からは、HWを掃討した各機と、アヴローラの艦影。決着の時は近づいていた。
 

 ガーダー2の撃破に伴い、知覚重視の機体を使用する面々は、その枷を外されたかのごとく攻撃を行う。
「残りの敵は少数です。しかし、油断せずにいきましょう」
 艦橋狙いの攻撃はTWに妨害される。そう判断したヨハンは迂回しつつミサイルを使い砲台を優先して攻撃。
「私達も早く平和に暮らしたいの。だから‥‥ここで終わらせる‥‥!」
 逆側面からはやはり迂回していた時雨。再使用可能となったエネルギー砲を発射し、BFの装甲を穿つ。
『こっちで援護するわ。行ってちょうだい』
「助かるぜ! 砲撃に特化してるなら‥‥」
 その間、アンジェラのG放電装置による援護を受けながら紫狼は全能力を使用。死角を突くように、直上からTWに仕掛ける。
「格闘戦は苦手だろ!」
 砲撃をその身に受けながらも、機刀を振りおろし、砲塔を叩き斬る。そのまま連撃を加えようとするが、TWは体当たり。紫狼を弾き飛ばし距離を開けさせる。
「甘いぞ、TWのパイロット!」
 しかし、その間に美具が連装電磁加速砲を撃ちこむ。砲弾はTWが背負ったもう一つの砲塔ごと機体に穿たれる。
 持った武器のすべてが破壊された以上、これ以上TWにできることは無い。精々肉薄してきた敵に体当たりをくらわせてやる程度だろう。
 為す術の無くなったTWを見つめる羽矢子。彼女は強化人間の名前を聞くつもりだった。自分の想いを貫いた敵たち、それを忘れないために。しかし、それを思いとどまる。思いのほかBFの抵抗が激しく、自身も悠長に話している余裕が無かったというのもある。
(‥‥それに、恐らくは答えられない‥‥あの時のパイロットなら)
 強化人間はメンテナンスを受けなければその生命活動を維持できない。TWのパイロットも。ならばせめて‥‥全力を以って倒しにかかるのが礼儀というものだろう。
「‥‥コロナ本来の機動を見せてあげるよ!」
 羽矢子は自身のエンブレムと同じ、ハチドリの如き鋭角的な機動でBFからの砲撃を躱しながらTWに肉薄。機剣での斬撃から、光輪による連撃を加える。
「汝らの勇戦を称えようぞ‥‥これで沈むのじゃ!」
 離脱する羽矢子と入れ替わるように、リンスがPDレーザー発射。TWと、その後ろに位置していた艦橋ごとBFを撃ちぬく。
『全員、射線から離れろ!』
 手持ちのミサイルを全部放出し、離脱する兵衛。その言葉に従い、各機もBFから離れる。
「よし、主砲‥‥斉射!」
 防衛火器を艦橋を、そして守りについた機体の全てを潰されたBFは裸同然、射程まで接近したアヴローラを迎撃する手段も無く、砲撃をまともに受ける。
 砲撃はBFを貫通。各部がスパークを起こすとともに‥‥一際大きな爆発。やがてBFはばらばらと崩れるように崩壊していった。


「終わった、みたいですね‥‥」
 どこか安心したように、ヨハンがぽつりと呟く。
 戦闘が終わり、静けさを取り戻した空間。そこには合計12機のKVと、アヴローラが残されるのみだった。
「ふぅ‥‥これで汚名は返上できたか」
「筋は通したぜ、ゲイン」
「‥‥貴方達は強かった。力も‥‥心も‥‥」
 1年前、ゲイン一派に苦杯をなめさせられた面々も、思い思いに言葉を発する。
 ともあれ、これでこの地域における安全は確保されたと考えていいだろう。
「作戦成功ね。皆、帰還しましょう」
 アンジェラの言葉に従うように皆、カンパネラ方面に進路を取る。
「ふふ、ロシア貴族の末裔たる妾が、アヴローラの花道を飾るとはのぅ」
 どこか誇らしげにリンスが呟く。その視界に映るのは、幾度となく損傷を繰り返しながらここまで戦い抜いた、アヴローラの姿があった。

 時雨が言っていたように戦争が終結して1年が経過しても、まだ各地で小競り合いは続いている。
 全ての戦闘が‥‥能力者たちの戦闘が真に終わる。その時がいつになるのかは分からない。
 ただ、アヴローラが初めての戦闘を行ってから2年と3か月の今日。この時をもってアヴローラの戦争は、一足早く終わりを告げることになった。
 その最後の戦いを勝利で飾ることが出来たのは、言うまでもなくこの場に集まった能力者たちの尽力によるものだった。