タイトル:My Funny Valentineマスター:Urodora

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2009/03/11 01:17

●オープニング本文


 肌寒さを忘れるために指先をちょっとだけ噛んでみる。
 痛みよりも心地よさと温もりを感じるのに、なぜかさみしい。
 今日は買い物にいかないとだめな日だ。
 頼まれたものを忘れないように、メモがあったのを思い出しリビングへ向かう、 扉を開くと広い部屋は──いつも無言で答える。
 テーブルの上、手探りでメモを取った。丸まってくしゃくしゃの紙を戻してみると乱雑な文字が現れるけれど、よく分からない。
 父さんはやっぱり、字が汚い。
 出かける準備を終えて、靴紐を結んだ。
「いってきます」 
 返事はない。それでもそうしないとだめな気がしたから、そうした。
 外は晴れ。
 でもやっぱり、寒い。

 St.Valentine Day

 通りの片隅にそんな文字を見て。
 僕の生まれた国では、その日。
 チョコレートを贈るのを思いだしていた。
 
「おい、優、聞いたか?」
 帰ると父さんが戻っていて、学校が爆破されたと言った。
 不機嫌なのはいつものことなのだけど、今日はその倍くらい酷い。
 でも爆破? 勉強どころではないはずなのに授業は地味に続いていたから、夜の重い気持ちを忘れる事ができるのは確かにうれしい。
 けれど、この家にずっと一人いるのもいやだった。
 そんな気分の時に友達のアルタがやって来た。
「やあ、優、知ってる?」
 アルタは妙に興奮していて早口でまくし立てる。ここから少し行った場所にある街にある廃ビルにキメラが出るらしい。
「なんで? あそこは何もないよ」
「さあ? 暇なんじゃない、元々クレイジーなやつらでしょ」
 あのビルがある街周辺は、真空地帯だったはずだったのに。
 どっちにしろ、そろそろバグアの名前も聞きあきた。
「それで相談だけど」
 アルタは僕を見て言う、先は読めた。
「ビルにいくんだね」
「話す前にいうなよ」
 アルタはそういう奴だ。好奇心のためならどこまでもいく。
 けれど前はそうではなかった気もする、いつから変わったのだろう。
「知りたい事は知っておいたほうがいいさ、何も知らないよりもな」
「そういうものなの?」
「そうだろ、それに暇。学校も壊れたし」
「一人でいけば」
 なぜかそんな言葉が口からでた。
「冷たいな、生死を共にした仲でしょ、俺たち」 
 アルタが僕を見た。顔は笑っているけれど、きっと中身は笑っていない。
 だから、あの時のことをふと思い出しそうになったけれど、やめた。
 思い出したくない。
「分かったいくよ──友達だから」
「よし!」
 友達だから、それが理由ではない気がする。
 けれど落ち合う場所は決めた。

 ──。

 斜めから降る赤が頬を照らしている。
 わざわざ夕方に出発する必要もないと感じたけれど。
「朝につくためさ」
 アルタがそう言うので、黙った。
「いこうぜ」
 陽を背に行くアルタの姿を追う。
 僕は、ずっと前から気になっていたことをアルタに聞こうと考えた。
 いつからか忘れたけれど、煤けたヘッドホンを首にかけていて目立つ。
 自己主張なのだろうか? 音楽を聞いているわけでもない。
「前から気になっていたんだけど」
 動きが止まる。視線を僕とヘッドホンを交互に向ける。
「これか、兄貴のなんだ。その、魔除け」
 低い声が全て物語っている。だから、知らないふりをした。
「いちいち暗くなるな! しかたねーよ。俺たちにはどうすることもできない」
「だよね」
「考えてもムダなことは考えないほうがいいって」
 それしかないから、歩き出す。
 街の明かりが離れて行く。
 傾いた陽は寒さを連れて来る。
 吐く息の白さに震えた。
 凍える手を差し伸べた。
 なのに、つかめない。
 その時だった。
 眠る空に光が迅った。
「KV‥‥‥だ」
 アルタの声は沈む。
 壊れる音が耳を襲う。点滅が闇を切る。破る宙を走り抜ける衝撃よりも、空に瞬く光点よりも、僕達を襲う記憶は速い。
「叫べよ」
 分かっている。 
 叫んだところでどうにもならない。
 それでも、飛び去る光を追って──僕は駆け出した。

●参加者一覧

花=シルエイト(ga0053
17歳・♀・PN
ジーラ(ga0077
16歳・♀・JG
フェブ・ル・アール(ga0655
26歳・♀・FT
シア・エルミナール(ga2453
19歳・♀・SN
辰巳 空(ga4698
20歳・♂・PN
秋月 九蔵(gb1711
19歳・♂・JG
アーサー・L・ミスリル(gb4072
25歳・♂・FT
アリエーニ(gb4654
18歳・♀・HD

●リプレイ本文

 宙にそっと手を伸ばせば届くような気がした。
「きれい」
 走る風にあらがうジーラ(ga0077)は空を見ていた。
「つかまって、いくわよ」
 ヘルメットの向こう側、籠った声の主アリエーニ(gb4654)は一気にフルスロットもって行く、駆け抜ける視界裂いた暗闇に続く鼓動の高まり、アリエーニの背にしがみついた どれだけ駆け抜けたか、数えてはいない。
 静寂が戻る。
 ヘルメットを脱ぎ、息を吐いたアリエーニは乱れた髪を直すと、同じく頭を振っているジーラを見て微笑んだ。
「一番? やっぱり待ったほうがいいよね」
「そうだね」
「大丈夫? ちょっと飛ばしすぎた
「ううん、ボク。メカも嫌いじゃないから」
 モノトーン。
 落ち着いた色合いの機械の馬をジーラは撫でて微笑んだ。


 闇に響く音は一つではない。
 所々舗装が剥げ落ちた悪路、脱輪するほどの物ではないが、揺れる。
 ハンドルを握る青年、辰巳 空(ga4698)座りの悪い車内で、溜息をつくか迷った後。
「よく考えると、何人か乗せてくる手もありましたね」
 頷いた。 
 映るミラー後部座席には途中で拾った少女が寝息を立てている。
 彼女は確かシアという名前だったのを辰巳は思い出した。
 シア・エルミナール(ga2453)は目覚める事もなく眠りについている。
 うつつと夢の境に住む
 揺れる車内。きっと疲れていたのだろう、シアは目覚める様子はない。
「眠っていれば誰でも可愛いものですね」
 ずれた眼鏡が先ほどまで彼女との会話との落差を彼に感じさせた。
 愛嬌という点では、シア・エルミナールは普通の少女よりも欠損している部分が多いようだ。
 シアから視線を外した辰巳は何か音が欲しくなり迷った。
 無音の状態に多少飽いている。
 静寂に通るシアの声を聞いていると眠りの国に自分も連れて行かれそうだ。
 迷った末、彼は子守歌を聞くことを選ぶ。
 目的地まではまだ遠い。


「到着! 来たからには頑張らないとね」
 アーサー・L・ミスリル(gb4072
 今回のメンバーの中で二十五歳ギリギリ組みという、不名誉ではなく大人の称号を得た一人であるアーサー。ラージ? セカンドネームが謎ミスリル。
 アーサーは欠伸を一つした。
 彼の体には疲労が残っている。
 全力疾走したのがきつかった。
 歩くと間に合わないとアーサーは思った。
 そのあたりも含めて元気だ。  
 もう一人、ギリギリというより二十五歳を超えている彼女。そろそろお肌が曲がり角に差し掛かりつつある女。
「にゃんにゃーんっと。さて、お仕事」
 フェブ・ル・アール(ga0655)二十六歳。
 態度は猫でも最年長、立派なおば、ではなくお姉さんのお年頃である。
 早速なぜか分らないがフェブは運動を始めた。
 きっと体を温めるという意味だろう。
「戦闘の基本は準備体操です。はい皆さん猫伸び開始」
 真面目な口調でフェブ言うが、同意するもの少ない。しかし彼女は背伸びと屈伸を始めた。
「ちょうどよいから俺もやるかな」
 運動するフェブの姿を見てアーサーはピンと来た。
 このふくらはぎの疲労感をなんとかするためには動くのがきっと最善。
 か、どうか分らないがとりあえず一緒にやってみようと。
「この感覚。僕も負けるわけにはいかない、勝負!」
 ここぞとばかりに秋月 九蔵(gb1711)準備体操に挑んだ。
 彼がなぜそんなことをするの?
 とりあえず面白そうだからに尽きる。
 準備体操に意味があるの? 
 そんなものに意味を求めてはいけないこれは一つの儀式なのだ。
 秋月は挑戦的な体操を始めた。それを見、フェブは秋月をライバルと認識した。
「やるね、坊や」
「ふ、負けないよ。さあ、他に僕と勝負する人はいない」
 妙な緊迫感があたりを包む。
「このあたりが、凝ってるらしいな」
 その間アーサーは脚のマッサージをしている心地よい。
 さて体操勝負だ! 横道だが気にするな。  
「参戦‥‥しようかな」
 此処へ来て月森 花(ga0053)が現れた。彼女はみんなで遊んでいるのを見ると寄って来る性分がある気がする。
 花はその小柄さを生かした体操を開始。
 大人の女になるために、恋と体操が欲しい。
 ここで体操をしておくと彼のハートもラヴラヴげちゅーみたいな効果もあるかもしれない。

「これでいいの?」
 AU−KVについてジーラに説明していたアリエーニは後からやって来た今回の仲間らしき人物達が目の前で繰り広げる異様な光景を見、素直な感想をもらした。
「多分、ボクも体操しようかな」
 ジーラは素直に順応した。
 強張った筋肉の感覚を取り戻そうと思ったからだ。
「よしやる! アイドルの本気をみせてやる」
 彼女はアイドル。
 素人の体操にアイドルが屈するわけにはいかない。
 今、アイドル伝説ジーラの名をかけ、て色々挑戦しなくてもいい気もするがアイドルの力をみせつける時だ。
「──やっぱここはあたしもいかなきゃ駄目よね」
 アリエーニはどうするか迷った。
 こういう場面で乗らない場合、後でちょっと残念な気分になる自分もいるかもしれない。こうなったらやるしか──。
 辰巳の運転する車がやって来るのは、その少し後のことである。

 


●廃ビル


「離してくれ!」 
 ビルの前で少年を発見した辰巳は事情を説明して帰るように説得した。
 だが対象の一人であるヘッドホンをかけた少年は、彼らが能力者であることを知ると頑強に抵抗した。
 辰巳が保護をすべく前に出た時  
「近づくな!」
 そう叫ぶと彼はビルへと逃げる。
 突然の状況に残された少年は、
「ごめんなさい。皆さんが悪いわけではありません」
 自分達の家族がバグアとの戦闘でKVによる攻撃の巻き込まれた。
 そのことだけを告げる。
 沈黙。
 だが傭兵は任務を遂行しなければならない。
 彼らはビルへと足を踏み入れた。


 暗闇の店内はいくつかのブロックに分かれている。
 彼らはチームを組んだ。
 辰巳は暗視スコープをいくつか借り受けている。
 総数よりも少ないが所持していた者もいたため、チームの一人に割り当てられた。


【月森&アーサー組】

 一階のホールには人影らしきものは見えない。 
 二人は地下室にへと向かった。
「地下に誰か向かった形跡はなし‥‥」
 花が閉じた扉を確認すると言った。
 アーサーは怪訝そうに扉の様子を調べている。
 その態度に花は聞いた。
「何かあるの‥‥?」
 アーサーは扉を先ほどから見つめている
「いや、気になるだけさ。ずっと放置されていたなら普通もう少し汚くてもいいんじゃないかな」
 確かに長い間放置されていた割に扉は綺麗だ。  
「‥‥誰か来たのかな」
「かもね」
 疑問が湧いたがこのまま此処にいても仕方ない、ひとまず保安室に行くことにした。


 【ジーラ&アリエーニ組】

 左右、囲まれている。
 「いきなり」
 ジーラはアルファルを構えた。
 彼女が気づいた時にすでに一体キメラが接近している。さすがに弓で殴るわけにもいかない。武装を変えるかどうか迷った時。
 敵割り込むかのように鎧の騎士が立った。
「任せなさい」
 キメラの触覚より放たれる電流を受けながらもアリエーニの振るう刃の輝きは暗闇の中でより光を増し、斬撃で絶つ。
 同時、警告音を発しようとしていたもう一体に気づいたジーラはすぐさま【鋭覚狙撃】を発動。
 中心部分の目玉に向って放った。
 突き刺さる矢。
 どうやらその部分がこのキメラの弱点らしく、思ったよりも簡単に絶命。
 仲間を呼ばれる前に倒したようだ。
 その後、
「かっこいい」
 アリエーニの姿を見てちょっと羨ましくなったジーラだった。 



 【フェブ&秋月組】

「こちら『このロリコンめっ! 捜索隊フェブ班』応答せよ皆の衆。ぴぴぴ」

 非常階段より二階に上がったフェブは定時連絡をした。ちょうど偵察から戻ってきた秋月はそれを聞いて疑問に思った。
「マイパートナー、なんですかロリコンって?」
「今回はそういう設定なんだにゃ」
「設定って、どういう意味ですか」
「のーぷろぶれむ、お約束、お約束」
 フェブの瞳が鋭く光る。秋月は何かを理解した。
「フ、ショタコンなら、僕で許容範囲ギリギリでしょうけどね」
 そういう問題ではないと思うが、この二人は何か楽しげだ。
「ともかく、目的の少年もだけど黒くて丸い物を捜すのもミッション」
「しかしどちらもこの先にはいないようですよ」 
 秋月の発言にフェブの瞳がまた鋭く光る。
「ここに一枚のCDというものを発見。そしてあそこにはプレイヤーがあるとしよう」
「その先は言わなくても分りますよマイパートナー、大音量でかける。ですね」
「本来は奥の手だけれど、このさい仕方ない。逃げた少年に行かせるよりはマシ」
 妙に息が合っている二人、キメラをおびき寄せるつもりなのだろうか?
「さあ、来るがいい。ロリコンめ!」
「ともかく面白くなりそうです」
 秋月は片目を瞑った。
  
 
【辰巳&シア】

 比較的、真面目な感じのこの二人は、やはり真面目に捜索していた。
 そんな中で、突然音が鳴り響いた。
「これはいったい?」
 暗闇に響くアップテンポの曲に辰巳は動揺を隠せない。
「私の記憶が正しければ、大分前に全世界的にヒットした曲です。なぜこんなところで」
 シアの頭脳が高速回転で導き出した。
「ゾディアックの罠? 行ってみるべきでしょうか」
「そうですね」
 辰巳とシアの疑問の解はフェブがかけたCDという結末なのだが、この二人がそれを知る由もない。

 そしてこの二人を含めて、全員がショップに進むことになった。




 撃たれたキメラは耳障りな声のようなものをあげて仲間を呼ぶ。
 バリケードを盾に秋月は弾丸を放ち続ける。
 銃声の中を駆けて刃を振り下ろす女、幾多の瞳から来襲する熱線を浴びつつフェブは斬って舞い戻る。
「こんなに来るなんて聞いていませんよ、ダンスも踊れやしない」
 撃ち切り、マガジンを交換しつつ秋月は瞳の群れに悪態をついた、本心なら突撃したいところ、さすがに分が悪い。
 構えた銃口は一つ。このまま撃ち続けてもキリがないのも分っている。
「さすがロリコン見つめすぎにゃ。応援は頼んでおいた。助けはきっと来る」
 握った剣を見つめフェブは言った。
 轟音が響く。
 熱線でバリケードの一部が溶けた。
 狭まる包囲網。
 その一画を崩したのは襲来した一本の鏃だった。
「雑魚、頭数だけはいる‥‥」
 到着した月森とアーサーがキメラの攻撃を始めたらしい。
「月森さん、ずいぶん雰囲気変わったね」
 花の様子に変貌に驚くアーサーを、彼女の金の瞳が見つめる
「行って、その剣は飾り‥‥あの中に何かいる」
「了解、さ・て・と。やれるだけの事をしますかっ」
 アーサーは腕を二度、三度回すと駆け出した。
 彼を視認したキメラが熱線を放つ、アーサーは左に飛ぶ。 
 キメラに花の矢が刺さる。
 叫ぶキメラは熱線を四方に放つ、飛んだ左から走りこみ、刃を抜きアーサーは斬りかかる。
 アーサー回り込み再度右から新しいキメラに向けてバリケードから放たれる秋月の弾丸の雨。 
 足止めされたキメラに向かって走るフェブは【流し斬り】発動し切り伏せた。
 

 数分後、後から訪れたジーラとアリエーニの前にキメラの残骸が残るだけであった。
 その時、地下室とおぼしき場所で警報音がなった。音を聞いた全員に緊張が走る。
 


●地下室
 

「卑怯者」
 辰巳は覚醒し二本の牙。手には燃える刀身があるが振るうことはできない。
「貴方はゾディアック?」
 シアが問う。
 彼女の手には二挺の拳銃が構えてある。ここに来るさい出会ったキメラを屠ったものだ。彼女は照明銃を撃つか迷う。
 なぜならば──。
「ゾディアック? 悪を気取る三流役者風情と同じにして欲しくはない。彼らに何の美学がある。私の名はサー・バロン、この名を憶えておくが良い。さあ諸君、夢をみようじゃないか、永遠に続く孤独、そこで見る君だけの夢を」
 男の傍には逃げた少年がいる。拘束されてはいない自由意志だろう。
 訪れた先、地下には一つの機体と男が待っていた。

「話は聞いた。この少年の言葉を私が代弁しよう。人殺し、お前達は化け物だ」
 広い地下にその声は通る。
 すでにキメラを退治して後からやって来た者たちも、その時、声を聞いた。
「違う」
 辰巳は否定した。
 だが、男は続ける。
「私は一つの問いを投げかけている。偽りの正義・偽りの愛・偽りの友情、全て偽りの中で自分を気取り、白昼夢に喘ぐ君達に」
「難しいことを言うね」
 フェブは自らの内部にある矛盾を知っているのかもしれない。
 彼女はきっと矛盾した存在だ。
「当然でしょう。それが以外に道がないのだから」
 シアは理解している。だが理性だけで下した判断だ。
「もう一度言おう、血塗られた怪物。お前達の逝く場所はどこだ? 楽園か? 違うだろう、地獄か? 違うだろう。どちらも人に許された居場所だ。自らの姿を鏡に映してみろイレギュラー、お前達の逝く場所はいったいどこにある?」
 能力者は自らの姿を返り見る。
 そこにいるのは人か? いや人ではない。
 では、いったい何者だ。
 許された力、それは一つの規格を超える事。
 超えた枠の先にあるものは、質は違えど侵略者と同じ力にしかすぎない。
 その力を正義だと言う、善だと言う、自らが人ではない何かと変わり、人を救い守るため。 
 ならば、彼にも権利を与えよう。
 空は全ての者に等しくある。
 例え、その色は違うとしても。
「来るが良い、少年。君に夢を与えよう」
 バロンはナイトフォーゲルだったはずの機体を指し拱いた。
 佇む機体。かつて理に包まれていたはずの機体は、今はもうなんであるのかさえ分らない。ジーラが弓で威嚇する。
 紺色の機体に歩んでいく少年を盾にするようにバロンは居る。
「いっちゃだめ さぁ、ボク達と帰ろう」
 覚醒を解いていた花が叫ぶ。
 だが、誰も止められない。
 暗闇に浮かぶ機体。
 暗き翼を地下の灯りは照らしている。
 それは覚醒したアリエーニの白い翼と対照的だった。
 彼女は、なぜか自分の翼を見て、いいしれぬものを感じた。
 最後に辿りついたアーサーは機体へ歩む彼の姿を見届けた。

 そしてバロンは言った。
「他人を救う前に自分自身を救ったらどうだね、イレギュラー」

 羽ばたく翼は瓦礫と振動を纏う。
 逃げろ。
 叫んだ誰かの声で地下の崩壊が始まった事を理解する。
 失せていく機体。
 夜空の輝きに消えていく影は星のようだ。
 復讐者は漆黒に沈む翼を暗より浚った。
 轟音の中、崩れていくビル。
 しばらく後。
 埃にむせながら無言のままで能力者たちは空を見ていた。
 残されたもう一人の少年はそんな彼らになぜかチョコを配った。
 渡されたチョコを口に含むと甘さがやって来てほろ苦さだけが残る。
 ジーラがなぜチョコレート少年に問う、
「僕、女だから。今日はバレンタインだよね」
 最後に彼女はそう言って、俯いた。
 
 今日は 君と僕の My Funny Valentine

 了