タイトル:Moon Child  「月夜」マスター:Urodora

シナリオ形態: ショート
難易度: やや難
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/16 17:35

●オープニング本文


●情報屋

「滅亡? 滅んでしまってかまわないでしょ、どーせ生きてるだけ無意味なんだし。言ってしまえば、これも神の選択ってやつじゃない、滅ぶのが当然なら滅ぶわけよ。分かる?」

 今では寂れた酒場。
 皮肉めいた口調で、これみよがしに逆立てた髪をいじり、バーボン呷って男は思う。
 窮地に立たされた人類の反抗、くだらない。
 世界を救う? また甘いことを、今まで自分達がやってきたことに対する罰だろう。
 真面目腐った人間ほど、思考の泥沼に嵌るもんだ。どうせ短い命。死ぬまで好きに生きるのがパンク。
 彼の戯言は、もう誰も聞かない。
 それでも独り言をこぼし続ける男、名をラピッドQ、自称情報屋。

 バグアの侵攻によって、東海岸の片田舎にあるこの町も、それなりに危険な区域ではある。といっても、たいした重要拠点もない寂れた街に目をつけるはずは無い‥‥‥。
 そのはずだった。
 しかし、どの世界にも変わりものはいるもので、この街を実質支配しているのは、どうやらバグアの息の根がかかった者らしい。 

 街を支配するその人物はバロンと呼ばれているが、実態は不明。
 バロンは、無慈悲で残酷な人物。
 今宵は月夜、開くサバトは盛大に催されるだろう。
 犠牲の子羊の泣き声とともに‥‥‥。

 ラピッドQは、愛用の懐中時計を取り出し時刻を確認すると呟く。

「そろそろ、パーティーの開始だね」
 

●ギデオンの羊

 その羊は、か弱い。

 だが、泣きもせぬ。

「ギデオン」

 刻まれた徴はその名を示す。

 来たりし──。

 夢の国に住む少女。


●支配と抑制

 街の中心にある洋館に、バロンは住んでいる。
 築かれてから数世紀が経たそれは、物々しく災い、禍々しさを撒く。
 バロンは、人ではない。人であることを拒否した、いや、人であることを自ら捨てた。それでこそ、得られるものもある。

「Humpty Dumpty sat on a wall。壊れたものは戻らない。壊してしまえば戻らない。それでは、ゲームの開始としよう」

 言葉は夜の移ろいに溶きゆき、軋む扉は閉まりて眠る。

 そして、月は昇るだろう。


●ラストホープ

 モニターには、短くこう映し出されている。

「拉致された民間人、子供も含む、それらの救出を請う。バグアが関係している可能性あり」


 と。

●参加者一覧

エクセレント秋那(ga0027
23歳・♀・GP
真田 一(ga0039
20歳・♂・FT
水上・未早(ga0049
20歳・♀・JG
ジーラ(ga0077
16歳・♀・JG
間 空海(ga0178
17歳・♀・SN
ギーゼラ・エアハルト(ga0336
20歳・♀・GP
ラン 桐生(ga0382
25歳・♀・SN
キーラン・ジェラルディ(ga0477
26歳・♂・SN

●リプレイ本文

●承前


 歓迎の意を記したはずの看板は錆びている。
 かつて、街の名を笑顔で教えていたと思われる黒熊のキャラクターが、歪んだ笑みで迎えた。
 赤茶けた看板に描かれた文字は、元の字を塗りつぶした後、無造作に書き代えられているようで、元々何が書いてあったのかはわからない。
 水上・未早(ga0049)は、ずり下がってきた眼鏡を指で軽く直したあと、その文字を注視して言った。
「あーかむ? ですか」
 彼女の記憶に、その単語を連想させる情報はない。
 実際、街の名がなんであるかなど、たいして関係のないことだ。
 誘拐された人質の解放、その目的を達するが彼女達の役目なのだから。
 未早は、その足で一度街の中心を回ることにした。彼女が手に入れた情報は、いずれ仲間に渡るだろう。


 道。
 目の前を浮かれた調子、陽気な男が酒瓶を片手に歩いてくる。
 やって来た男は、見慣れない人物がいることに興味を覚えたようで声をかけてきた。
「いったい、こんなところに何の用で来たの?」
「あんたは、誰だ?」 
「これはこれは、綺麗な顔。好みだ」
 吊るした懐中時計を触りながら男は言った。
「男に言い寄られる筋合いはない」
 不快な態度を隠さずに、真田 一(ga0039)は返す。
「抱いてしまえばどっちでも同じさ。まあいい、俺の名前はラピッドQ、情報屋だ。ようこそ黄昏の街へ。雁首揃えて、また、たくさん来たものだな。何のようで来たのかは知らないが、お兄さんが、早速この街の掟を教えてあげるよ」
 男は笑った、不敵に。
 瞬時、風を切る輝きが真田の横を通り抜けた、飛んだ刃は彼の頬をかすめ飛ぶ、音が過ぎ去ったあと、後ろにいたギーゼラ・エアハルト(ga0336)へと向かうそれは、凶刃だ。
 だが、ギーゼラは驚きもせず、少しにやけ、
「おいたもほどほどにせんと、痛い目にあうで」
 よく分からないが、ギーゼラはハリセンを持っている。きっとそう言う方面の人なのだろう。
 なぜかギーゼラ独特の構えを取ると、勢い良く飛んできたナイフをハリセンで叩き落し、晴れ晴れとした表情でラピッドQに宣言した。
「うちのつっこみは、いつでも完璧や!」
「ヒュー、東洋の奇跡ってやつだね。感心、感心」
 どこが東洋の奇跡なのかは分からないが、ラピッドQは肩をすくめ感心した。
 ハリセンでナイフが落とせるわけない? この手のシーンでそう言う突っ込みは野暮だ。
「はい、その後ろに隠しているナイフもこっちによこして。じゃないと、本当に痛い目に会うかもよ」
 ラン 桐生(ga0382)は、陽気だ。常時ポジティブと言う素晴らしい性癖をもつらしい。さらに女好き? 今回はきっと女のほうが多いので満足だろう。ちなみに、女好きだがおねーさん。
 ‥‥‥変わった人である。
 そのランの後ろには、巨漢の女がいて、指を無意味に鳴らしている。
 エクセレント秋那(ga0027)と言う女だ。女と言うか‥‥‥いや、女と言うことしておこう。色々含むところあるのは、その肢体を見れば明らかである。
「ねえ、クーカイ」
 ジーラ(ga0077)世慣れた感じもするが、どこか達観した感じのする少女は、隣で一緒にその様子を見ていた間 空海(ga0178)に声をかけた
「だから、私はそ・ら・みです。何度言ったらわかるのでしょうか」
「名前なんて記号なんだから、どっちでもいいとボクは思う」
 ジーラは気にしていない。どうやら先ほどから間違って呼んでいたようだ。
「ジーラさんが思っても、私は困ります」
「それにしても、いつまでこうしてるつもりかな」
「ですね、そろそろ先に進んだほうが良い気はします」
 空海の言うとおりである。
「遊びは、ほどほどにして行きましょう。時間は残り少ないのですから」
 キーラン・ジェラルディ(ga0477)の鋭い視線が浴びせられた。きっと本人は睨んだつもりはないのだろうが、怖い。
「とんでもないやつらと関わってしまった‥‥‥」
 ラピッドQの呟きは、運良く誰にも聞こえずに消えた。 
   

●館

「そうか、君たちバロンのパーティーにやって来たのかい?」
 キーランの問いかけを聞き、ラピッドQは驚いた。
「あれがパーティーですか、また悪趣味ですね」
 キーランは嫌悪感を隠さない。
「その手の感覚は人によって違うものさ。しかし、あの館に行くのなら気をつけなよ。床、腐ってるから。バグアも怖いが、俺は普通のバグがもっと怖いなあ。地下室に落ちたりしたらと思うと、ぞっとする」
 ラピッドQは、そう言うなり黙った。

 その後、未早と合流したパーティーは、彼女の報告を聞いた。

「バロンはどうやら、この街の支配者なのは確かのようです。詳しいことを聞くと、皆黙ってしまって分からなかったけれど、バグアの力を借りている気もします。今回のことは、定期的に行われているらしいのですが、何が目的なのかまでは分かりませんでした。館については昔、サタニストが住んでいたと言う噂があるだけで、特には。街の施設は使えないようです」

 かくして、メンバーは潜入の準備に取り掛かるのだった。

 昇った月を眺め男はふと郷愁を覚えた。
「月夜‥‥‥ね」
 無意識のうちに手を腰の刀へと向かっている。今、彼の思いは此処にはない。
「真田さんの黄昏ている姿、絵になりますね」
「あんた‥‥‥か」
 かけられた声に振り向くと、そこに立っていたのは状況を伝えにきた空海だった。
「周囲に敵はいないようですので、前衛の方たちが、強行突破することになりそうです」「分かった。行こう」
 真田の姿を見送ったあと、空海は呟いた。
「神の意思に抗うのも、きっと人の生き方です。運命を必然で決められるだけはつまらない」

 突入前のこと。
「可愛い女の子がたくさんで幸せ、幸せ」
 ランが、にこにこしている。
「それは、あたしも入ってるのかい」
 聞きつけた秋那が言った、
「うーん、判定難しいね。でも、女の子には変わりない、変わりない」
「緊張感の欠片もないね、あんた、あたしは乙女だよ」
「乙女‥‥‥自分で言うかな」
「乙女ったら、乙女さ、じゃ行くとしますか」
 ランと秋那も向かった。

 月が翳った。
 閉ざされる視界、包まれた夜の中で浮遊感にも似た感覚に戸惑う。遠く街明かりは届きもせず、丘の上に立つ館は暗闇にいる。
 歩む足音は耳に囁く、この先にあるの予兆、感じる胸騒ぎ。
 息を吐いたあとジーラは館を見つていたた。
 ふと、自らの記憶が蘇った。だが頭を振るとその思いを振り払う。
(「今は、戦うことを考えないと」)
 ジーラは銃を構えなおした。
 進む前衛に従い包む囲みを少しずつ狭める。
 館に灯火はない、あるのはただ冷たい沈黙と、どこか淀んだ空気だけだ。
 所定の位置に配置された狙撃手たちは、自らの獲物を手にとる。
 各自状況に応じて、闇に溶けるか考えたが視界に敵のいない今、そうをする必要もないと、ほとんどの狙撃手は判断した。
 月が現れた。
 黒々とした館の影が伸びる。
 歩んでいた、前衛の前に扉が現れた。
 合図もなく、一様にみな頷くと、秋那がドアを勢いよく蹴り破った。
 鈍い音と共に、腐った扉は弾けて飛ぶ。
 扉の奥にさらに深い闇が広がっているようだ。振り返ったギーゼラは、突撃の合図を全ての仲間に送った。

 一歩、二歩。
 内部に入った前衛は、奥に明かりのようなものをみたような気がした。
 空気は重い。
 後ろからは狙撃手たちの足音が聞こえる。
 その時、真田が何かの気配を感じる。
 扉の向こうにあったのは吹き抜けの広間、二階への階段が見える。気配は前ではない。「上だ」
 声に天井を見上げる 
 少し暗闇になれた目に映ったのは、今では用をなさないシャンデリアに張り付いて蠢く何かだった。
 すぐさま、真田は刀を抜くと、自らの力を顕現させる。彼の真紅の瞳、そこに映るのは形なき敵。
 前方で混乱がおきたことを知った後衛が急ぎ、走りよっていった時、二階の窓が砕け何者が現れる、それは羽をもった悪魔のような生物だった。
 狙撃手たちは銃を向けた、すばやく空を飛ぶ相手に照準を合わせるのは難しい。素で無理ならば力を使うしかない。
 未早は眼鏡のつるに手をやると、ゆっくりと外す。
 彼女も、また覚醒するだろう。
 
 真田が不定形の生物と戦っている間、一階の広間には新たな生物が現れた。
「今度は狼男、うち幽霊屋敷に来たわけじゃない」
「同感、といってもまだ関節があるだけましさ」
 ギーゼラと秋那は顔を見合わせると、現れたキメラへ向かった。
 キーランとジーラは館に入りかけていたが、割れる窓の音を聞いて外に出た。
 未早と空海の放つ銃声が響く中、キーランとジーラは死角から包囲する手段を選んだ。 的の数は三匹、数で押せば問題はないだろう。
 それを見届けたランはあえて館の内部に入り、前衛を援護することにした。
 現状では、これ以上外のバックアップは必要ない。そう、彼女は判断したようだ。
 前方のキメラと戦う、前衛の姿を視認した時。
 二階に何かの姿をランは見た。一瞬ランは迷った、行くべきか、行かぬべきか。
 結論は、単独行動を彼女は避け、目の前で戦う仲間を援護をはじめた。

 暫時。

 倒れこんだ敵にマウントポジションを取り、関節を決めに入った秋那の姿を見た、ギーゼラは言った。
「ちゅーか、そんな面倒なことせんと、普通にたおしたらええんちゃう」
 ギーゼラの前には倒したキメラに関節技をかけている秋那の姿がある。
「分かってないねえ、ロマンだよ。ロマン」
 ある意味のほほんとした会話を繰り広げている時。
「外、全部終わったよ」
 ジーラがやって来た。
「やっぱり若い子は‥‥‥イイ」
 やって来たジーラを見つめランは言った。
 すでに真田も刀をおさめている。しばらくして、後から来た残りの仲間合流した。
 腐った床を抜けないように歩いていたメンバーは二階に向かった。
 二階の部屋は二つだが、一つは扉がすでにないので、何もないようだ。
 残った扉には鍵が掛かっている。
「招待状は持参していませんが、無理に招待してもらいましょう」
 秋那が蹴り破ろうか提案したが、キーランが手先の器用さを利用して開いた。
 開いた扉の向こうはむっとするような血の匂いと甘ったるい、吐き気を催すような匂いが充満していた。部屋中にかつては人だった物の姿がある。
 しかし‥‥‥生きているものはいない。
「遅かったのでしょうか」
 未早が顔を背けて言った。
「ただ、これは今すぐってわけではないと思う。もしかして、人質はここじゃないのかも 死体の様子を調べていた、ジーラが言った。
「地下だ、情報屋が言っていた。地下室があると」
 キーランの言うとおり、地下室はあった。

 彼らはそこで、見た。
 今まさに、贄にされかかった人々を、すぐさま怒号と混乱が場を支配する。
 戦いは始まり、あっけなく終わった。
 しかし、ここにバロンはいない。彼はすでに去った後だ。
「ちぇ、ひげはいなかったかあ」
 この発言は、言わずと知れたランである。

●ギデオンの羊

 歳にして十に届くか届かないか、透けるような白い肌、頬がピンクに染まっている。透明な瞳は深い青をたたえている。ときおり金色の髪がふわりと揺れる小柄な少女。
 少女は、閉じていた瞼を開くと微笑む。
「ずっとこわい夢をみていたの」
 救出された民間人の中で、子供は彼女一人のようだ。
「もう、大丈夫です。お名前は何と言うのですか」
 空海の問いに秋那に抱かれた少女は、
「アリス」
 そう答えた。


 了