タイトル:カフェ・ホープ☆開店マスター:Urodora

シナリオ形態: ショート
難易度: 易しい
参加人数: 8 人
サポート人数: 0 人
リプレイ完成日時:
2007/10/30 16:59

●オープニング本文


●らすとほーぷ

 物々しい設備、緊張感あふるる人類最後の砦。
 しかし、そんなシリアスな空気とは裏腹に、生ぬるい雰囲気を発する場所がある。
 その場所・部屋の扉には

『カフェ・ホープ』

 名づけたもののセンスを疑ってしまうような看板が、掲げられている。
 それはともかく、一応能力者であるはずの部屋の主が運営するカフェ・ホープ=自分の部屋には、らすとほーぷの愉快なお友達が集まる。
 などという噂がまことしやかに、流れていた‥‥‥。だが、噂と言うものは、不確定なのであまり信じてはいけないもの。

 そして、今日もまた、彼の部屋に人類を救うお友達がやって来ているようだ。

「マスター、バグアティー。一つ」
 行きつけなのかは知らないが、メニューもないカフェで彼は注文をする。厨房(ただの部屋)に向かい、適当に飲み物を用意する部屋の主、名をマスター。
 ありきたりすぎてついていけない? 世の中たいていそう言うものである。
「バグア一匹倒します。一億クレジット」
 ホープの主、マスターは真顔で言った。お約束なのか? 冗談なのか? 本気なのかはよく分からない。
「釣りはいらないぜ」
 客は、勢いよく一億には程遠い額を差し出した。
「お客さん、このご時世、紅茶は貴重品だぜ。あんたの命より重い。1クレジット、しけてるな」
 ニヒルな態度と空気を漂わせマスターが言った。咥え煙草が似合いそうである。
「俺達は、世界を救うヒーローだ。細かいこと言うなよ」
 世界救うヒーローなわりに、かなりセコイな気もするが、きっと稼ぎが少ないのだろう。
 ゆったりした時をすごしている中、男は急に言った。
「北米区域にバグアとおぼしき軍が襲来した。俺はその撃退の任務を引き受けた」
 黙った男。
 マスターは、何も言わず空になった自分のカップに紅茶を注ぎ、
「戦うことでしか生きる証を示せないのが、俺達さ」
 呟いた。
「ああ、ブレイクタイムもここまで。行ってくるよ」
「生きて‥‥‥戻ってこいよ」
 部屋を去っていく男を見送ると、マスターはカップの中身をゆっくりと飲みほすのだった。 


 カフェ・ホープ 
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●目的

 カフェ・ホープに行ってお茶を飲むだけです。
 貴方が能力者になった生い立ち、なぜラストホープに来たのかなどを
 このさい、熱い想いを込めて語りましょう。 
 お友達同士でも良いです。ただ、空気読まない悪い子には、鉄拳が飛ぶのでお気をつけて‥‥‥。
 マスターは強いのです。

●諸注意

 戦闘はありません。しかし、火事と喧嘩は江戸の華です。
 お酒もありますが、マスターの判断で、未成年とそれに類する人には出しません。

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●参加者一覧

リタゼリーナ・ブルー(ga0003
18歳・♀・ST
リディス(ga0022
28歳・♀・PN
MIDNIGHT(ga0105
20歳・♀・SN
リズナ・エンフィールド(ga0122
21歳・♀・FT
神無月 紫翠(ga0243
25歳・♂・SN
鏑木 硯(ga0280
21歳・♂・PN
霞澄 セラフィエル(ga0495
17歳・♀・JG
篠崎 美影(ga2512
23歳・♀・ER

●リプレイ本文

 ラスト・ホープ。
 この島も人の手によって造られたものには違いない。
 人工物は整然としているが、どこか寒々した匂いも感じさせるものだ。
 技術というのは高度になればなるほど、機械的になってしまうのも、また一つの摂理なのかも知れない。
 そんなラスト・ホープの内部、能力者たちが憩いの時を過ごす居住区部分を歩いている女がいる。
 女は、エプロンは胸元に掛けていた。そのエプロンは白地で真ん中あたりに明るい茶色の文字で可愛く、
「かふぇ☆ほーぷ」
 そう自己主張している。
 頼まれた買い物のメモを見ながら歩く女、名を篠崎 美影(ga2512)と言う。
 一足先に、カフェについた彼女はマスターに、
「始めまして。篠崎美影と申します。これでも人妻ですので、もし、私で何かお手伝いできることがあれば、お手伝いいたします」
 そう挨拶した。
 訪れた客がウエイトレス・ウエイター役をかってでるのは、それほど珍しいことではないのだろう。マスターは、無造作に机から制服らしき物を取り出すと、美影に向かって放り投げる。
「着替えは自分の部屋でやってくれ。バイト代は気持ち、昼食と飲み物はつく」
 そのような経緯の後、美影は歩いていた。
 彼女が頼まれた買い物を終え、カフェホープのドアの前まで来ると、店に新しい客が訪れていた。
「いらっしゃいませ!」
 美影の前にいる女はその声を聞くと驚き振り返った。
 どこかぼんやりとした雰囲気のする女で、白衣を纏っている、彼女の名前は、リタゼリーナ・ブルー(ga0003)現れたウエイトレス風の美影にリタゼリーナは聞いた。
 
「えーと、ここカフェ・ホープですよね?」
「はい、そうですよ〜」
「場所は知っていたのに、少し迷っちゃいました」
 照れた様子で、ずりおちる眼鏡をあげる動作も、彼女の垢抜けさを助長しているようにも見える。
「とにかく、中へどうぞ」
 美影の手によってホープの扉が開き、二人は騒がしい店内へと進んでいった。


「今日は‥‥‥女が多いな」
 マスターは、手狭な店内を見回すと、そう呟いた。
 見た目、確かに女性が多い。あえて見た目と言うのにはいくつか訳がある。

 一人、鏑木 硯(ga0280)という男?がいる。
 見かけは可愛い大和撫子、格好は大和・和装・なんだかロマン。けれど、中身は男の熱い魂をもつ。
 それなら、最初から男の格好をなぜしない? そんな突っ込み今は無用。

「質問がある。君は性別不明かね」
「いえ、男です」
「そうか、それで手伝ってくれる場合、君はウエイターとウエイトレスどっちを選ぶ」
「男の給仕さんに、決まっています」
 硯は、きっぱり言い切った。

 一人、神無月 紫翠(ga0243)という男もいる。彼もまた女に見えるタイプの男だ。
「君も、その手系列男かね」
 神無月を見て、マスターは聞いた。
「いや、特に自分、そういう趣味は」
「俺もそういう趣味はないですよ、ノーマルですから」
 硯が言うが、マスターと神無月の疑惑の視線を浴びる。仕方ないと言えば仕方ないだろう、すでにそういう格好をしているのだから。

「人生は長い。二人とも歳をとってから後悔しないよう。ちなみに男用の制服は普通の黒服だ。神無月君は、純粋にお客としてきたようだから席にどうぞ。鏑木君は、忙しくなったらそのままの姿で手伝ってもらおう」

 ──かくして、忙しい今となる。

「ご注文は、何にいたしましょうか?」
 硯が新しくやって来た客に注文を取りに行く、その客は、かなり大柄の女のようだ。声を掛けるが、反応はない。
 何度か聞いた後、急に女は言った。
「季節の一品:大天狗茸と謎の深海魚パスタ一つ、あとトレント茶」
 謎の深海魚? どのような魚を想定しているのか気になるが、とりあえず謎だ。
「‥‥‥そんなメニューありません」
「ないなら‥‥‥作る」
「無理を言わないでください」
「‥‥‥とにかく‥‥持ってくる」
 MIDNIGHT(ga0105)の注文をマスターに届けた後、硯はお茶とお菓子のついた休憩に入った。

 
 カフェ内で繰り広げられる、賑やかな光景をどこか物憂げな表情で見ている女がいる。
 頬づえをつき、どこか気だるげな様子の彼女はマスターの前、直近のカウンターに座ると語り始めた。
「繁盛していますね。殺伐とした日常に安らぎと一服の清涼剤というところでしょうか」
「リディス(ga0022)、君だっけ? 昼間から酒で大丈夫なのかい」
「今日はオフです」
「なら、問題ない。注文はグレンリヴェットね。ストレート?」
「ワンロックで」
「了解、このご時世だ、質のよいスコッチもそれほど無くなった。今日は記念だ、特別に秘蔵の一本を空けよう」
 マスターは部屋の奥、倉庫代わりにしている空間から酒瓶を取り出す。
 そして、リディスの前にグラスを差出すと、琥珀色の液体を納めた瓶を傾ける。注がれ張られた膜、そこにゆっくりと大きな氷を落とすと波紋がグラス全体に広がる。
「見知らぬ君と、過去に乾杯」
「ちょっと臭いですね」
「気障な台詞は、大人の特権。未来のために命をかけるのもな」
「そうですね、けれど今は子供も戦う時代‥‥‥」
 リディスはグラスに視線をやると、自らの思いに落ちていった。

「マスター、ブレンド一つ」
 お客というより、すでにウエイトレスの美影が注文を取ってきたようだ。
「これは、あの窓際に座っている綺麗なハーフのお嬢さんのかい?」
「はい、静かな所がいいらしくて、あの場所に案内しました」
「そうか、出来たよ」
 霞澄 セラフィエル(ga0495)は、カップを口元まで運び、芳しい匂いを一通り堪能した後、そっと口付ける。流れ込んだ液体は、ほどよい苦味と酸味がふんわりと広がり、柔らかな感触が喉を通り過ぎた。
 一度カップを戻したセラフィエルは、備え付けのクリームポーションを開けて落とし、ゆっくりとかき混ぜはじめた。

 お昼も過ぎ、夕方になる手前。マスターが店内のお客に向かって話し始めた。
「今ここにいる客で、店を」
 そこまで言葉を続けた時、扉が開いた。
「まだ、開いてますか?」
 マスターは訪れた客に向かって言った。
「開いている、ちょうどいい名前は」
「リズナ・エンフィールド(ga0122)です」
 リズナは、サングラスをはずすし、そう答えた。
「では、リズナ君。君が今日最後の客だ。それではささやかだが、記念のイベントを始めよう」
 
 こうして、ささやかなパーティーが始まる。
 それはまた、この場に集う者の過去を語る場でもあった。

「というより、さっきからひたすら、パスタを食べ続けている彼女はいったいなんですか?」

 鏑木君の疑問に答えよう。
 彼女は、

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【MIDNIGHT】

 属性バンド。バンド名「AYASIRO」担当ベースとヴォーカル。
 プレイはヘビー、曲目エンカ、好むサウンド重低音。 
 能力者になった理由は、なんとなく、成り行き。
 特徴は、ひじょーーーーーーーーーーーに大食漢、ようは燃費悪し。

 合言葉は。

「マスター・・・・・・お代わり・・・大盛りで」
「マスター・・・・・・お代わり・・・大盛りで」
「マスター・・・・・・お代わり・・・大盛りで」

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「どうだね、鏑木君。我ながら、なかなか、よく出来たプロフィールだぞ」
「いや、俺はそういう意味で聞いたわけじゃありません。そろそろ普通モードに戻ったほうが良いと思います」
「そうだな、とりあえず仕切りなおそう」


 ★★★


 ささやかなパーティーが始まる。
 それはまた、この場に集う者の過去を語る場でもあった。


「人にはそれぞれ戦う理由があるもの。そしてそれなりの過去も」
 マスターは、目の前のリタゼリーナにグラス渡した。リタゼリーナはグラスを受け取ると話を始める。
「あたし、昔のことは特に語れるような過去も無いのです」
 そのリタゼリーナの呟きを聞いたセラフィエルは、
「過去ですか‥‥‥私が今ここにいるのは、大切な人達を守る為です。この力で出来る事をしていこうと思ったから。でも、自分が選ばれた事をまだ信じられないですけれど。それよりも選ばれたとき、困惑しました。私が”わたし”でなくなった気がしたから、けれど救われた言葉があって、今、頑張っています」
「言葉ですか?」
 リタゼリーナが問いかけに、セラフィエルは思う。少し前までの彼女。それはハーフではあっても、ごく普通の女子高生だった。
 だが、今は違う。
 能力者に選ばれるということ、それは日常から逸脱すること。その不安を打ち消してくれたのは、あの言葉だった。
「貴女は貴女なんだから何も変わらないよ‥‥‥って」
 自らの過去、起きた出来事を思い出し、セラフィエルは微笑んだ。 
「何かいいなあ、あたしの場合は、兄が能力者だったので、検査したらあたしもそうだったって言う単純な話なんです。その兄が先の戦いで大けがをしちゃって‥‥‥‥今は病院で療養中です。だから兄の病気を治す事。そして、苦しんでいる方々を直してさしあげるのがあたしのこの力だと思っています」
「立派ですね」
「そのためには、今のこの能力をしっかりと使いこなせて行かなくては!」
 リタゼリーナは拳を強く握り、セラフィエルも頷いた。

 その様子を見届けると、マスターは話す相手を変えた。
「君達二人は、重い過去を持っていそうだな」
 リズナと神無月の二人の前にやって来たマスターは言った。
 始めに口を開いたのは、神無月だった。
「過去ですか? 確か、あれは月が美しい夜のことでした‥‥‥自分は弟の気まぐれに付き合い散歩に出た。そしてあの忌まわしい事件に出会い両親を失って、今ここにいる。きっとそれだけです」
 そこまで言うと彼は沈黙し、なぜか耳元のピアスに手をやると、しきりに触れ始めた。「同じね、私は子供のころにバグアによって両親を奪われた‥‥‥らしいわ。でも、記憶は完全にはない。不思議な気分よ、過去がないのだから、けれど今は‥‥‥」
 リズナもどこか寂しげに微笑んだ。彼女の記憶、両親を殺された光景は、おぼろげながら戻りつつある。
 リズナの話を聞いた神無月は、自分を説得するかのように語った。
「この力は──きっと。仇を討つために手に入れたもの。そう思っています」
 彼の脳裏に映る風景は、今は失ってしまった時の残滓、血塗られ届かぬ平和の残骸、あの戻ることのない世界を取り戻すとため。いや、自らの穴を埋めるためにも、復讐を遂げるしかない。
「私は、復讐よりも守るためかもしれない。生まれ育った地、この先を担う子供達のため。そのために力を得たのなら、使うだけよ。でも、まだまだ弱いから‥‥‥いつかきっと強くなってバグアを必ず。柄にも無く熱くなっちゃったわね、忘れて頂戴」
 彼女は自らの生まれ育った孤児院の姿を思い浮かべた、そこに集まった子供達の顔を、何よりもその笑顔を守らなければ、リズナは拳を握り締めつつ、軽くウインクした。

 
「みんな凄いです。俺はそんなに重い理由はないです」
 可愛い男、鏑木がやって来てマスター話しかけた。
「君のことだ。きっと泣き虫でいじめられっこ、自分が好きになれなくて、強くなりたいから、云々だろう」
「な、なんで先に言うのですか。似たような理由です。自分が好きになりたいから努力した結果、こういう格好をしているのかもしれません」
「矛盾だな」
「でも、男の子は好きですよね、可愛い女の子。だから好きなものと同じになりたくてやってみたら、意外とハマッテしまって」
「変態と罵倒してほしいのなら、する」
「マスターさん、性格悪いのですか?」
「女装している男に言われたくはない」
「俺嗜好はノーマルです。今日は女の人ばかりだから、楽しいのです」
「とりあえず、給仕を引き続き頼む」
「分かりました」


「マスター‥‥‥お代わり‥‥大盛りで」
「MIDNIGHT君、君の存在感はその台詞に全て集約されてしまうが、それで良いのかな」
「とにかく、マスター‥‥‥お代わり‥‥大盛りで、あたしはMIDNIGHT、夜に溶け込む女。マスター‥‥‥お代わり‥‥大盛り」
「今作るよ」


 パーティーは進み。そろそろ解散の時間となった。
 集ったメンバーも皆それぞれ自らの思いを抱き、一時の日常を終えて戻って行く。
「お疲れ様。そういえば美影君は、なぜ能力者になったのだい?」
 ウエイトレスから普通の姿に戻った美影がマスターは聞いた。
「理由はないです。適性があったから、あとは夫のためですか。聞いてください、彼ったら‥‥‥‥‥‥‥」
 数分経過。
「なんですよ、もう、困るなあ」
(「惚気られても困るのはこっちだ、とっとと帰っていちゃついてくれ」)
「それでは、今日はありがとうございました」
 美影も手を振り戻って行った。


「さて、残るは君だけだ。起きなさいリディス君」
「だめ」
 テーブルに伏して眠っていたリディスを揺り動かす、どうやら寝ぼけているようだ。
「駄目なのは、こっちだ。ほら、待っている人がいるのだろう」
「? そうでした。帰らないと」
「失った物を追うよりも、守るべきものを守る。今はそのために力を振るう、帰る場所があるから幸せだ。自分でそう言っていただろうに。早く、帰って安らぎの一時を過ごしなさい」
 マスターの小言を聞いて、リディスは苦笑した。
「まるで‥‥‥父親のようですね」
「マスターだからな。店には機会があったらまた来るといい。あのボトルはキープしておこう、ただ、いつ開店するかは私にも分からないがね」
「ありがとう、また息抜きにきます」

 最後の客も去り、カフェホープの明かりは消えた。
 非日常、能力者という死と隣合わせの生活中で、一時の安らぎを与える場所。
 いつかの日か、その扉に開店の看板が掛かることを祈ろう。


【カフェ☆ホープ】

 営業時間不定・開店日はその日気分。

 本日の営業は終了しました。

 またのご来店、心よりお待ちしております。


 閉店